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 ドラゴンロード・パラダルクがその異変に気づいた時は、何もかもが手遅れだった。

 あと一息で碎輝(さいき)の支配が完了するその時、碎輝の肉体から一筋の電流が迸った。
 パラダルクは慌てず、電流に『享楽』の力を浴びせることで電流を魅了し、回避しようとした。
 しかし、その電流は一瞬怯んだものの、次の瞬間にはより輝きと大きさを増し、幾筋もの稲光に分裂して、激しくパラダルクを打ち据えたのだ。
 慎重なるパラダルクは、その電流を見た瞬間に、長きに渡り検証を続けてきた「自らの魅了能力が破られる可能性」から、たったひとつの有り得ざるべき驚愕の答えを導き出した。

 電流が、成長している――――?!

 パラダルクは素早く上空に避難し、眼下で斃れている碎輝を呆然と見下ろした。
 『享楽』の力は、何者も抗うことはできない無敵の支配能力。
 打ち破る可能性があるとすれば、超スピードで全て回避するか、魅了されたという歴史を書き換えるか、あるいは、魅了を上回るスピードで、己が成長を遂げるか……。
 ―――そのような「成長」が有り得るだろうか? いや、現に眼前の現象は、他に説明が付かぬ。
 ならば、碎輝の力はそうであると考えて、慎重に対応を練り直さなければなるまい。

 パラダルクは、そう素早く思慮を巡らせた。だがその慎重さこそが、決定的な失敗だったのだ。
 地の底から、魂の迸るか如き叫びが響き渡る。
 ドラゴンロード・碎輝の声だ。

 昨日より今日! 今日より明日!
 俺は、どこまでも強くなる……!

 同時に、碎輝の全身から電流が迸る。それは複雑に分裂し、巨大化し……『成長』を繰り返す。
 パラダルクが逡巡した僅かな間に、電流は巨大な竜の形状を成し、碎輝の肉体を包み込み、天空高く持ち上げる。
 見れば、死に瀕していた碎輝の肉体も既に完治し、そればかりではなく、パラダルクが戦いを仕掛けた時には想像も付かなかった程の、圧倒的な力に満ち溢れている。

 死の淵から蘇り、圧倒的な『成長』を遂げた碎輝が、パラダルクを見据えた。
 パラダルクは矢継ぎ早に『享楽』のブレスを放っていたが、『成長』した碎輝には最早通じない。
 碎輝はパラダルク目掛け、裂帛の咆哮と共に雷電の巨竜を解き放つ!

 そして。
 一撃、ただの一撃で、パラダルクは肉片一つすらも残さず消滅したのであった。