酒場『Eulenspiegel』に並べられたのは、山盛りの釘と板、そして大工道具の数々である。 「先日壊れた床をこのままにしておくのもなんだから、そろそろ修理始めっぞ〜!」 鮮烈! ビューティフォー! オカッパ頭の青い髪! 素敵な店長ネロが宣言する。 「店員ズは普段仕事がない分キリキリ働け! 客人達は、手伝ってくれたら後で酒を奢ってやってもいいぞ! もちろん状況を悪化させたピジョンは例外だが!」 ひどいや、とピジョンが抗議の声を上げた。 「ヒトノソと女の子は、腐った床を壊してでも助けろって言うじゃないか〜」 「ぬう……腐った女子が育つと貴腐人になるとか、そんな話を我輩に振られても困ってしまうわ」 「そんな話してないヨ!」 などと素敵な争いを繰り広げる二人の横で、チェルノが小さくなっている。 「わたくしめのせいで申し訳御座いませんなぁ〜ん……」 パルが優しく言葉をかけた。 「気にしなくて良いですよ。いつかは修繕しなくてはならない場所でしたし」 そうそう、とアジュガも溌剌と言った。 「ここに居るもの何かの縁だ、楽しくやろうぜ!」 そんな皆の気遣いに笑顔を取り戻し、チェルノもさっそくハンマーを手にしたのだが、 「―――ッな゛ぁ〜ん!!?」 いきなりガツンと指を打ってしまった。パルが急いで治癒してくれる。 「チェルノは掃除の方がいいんじゃねぇ? 男連中に任せろよ」 チノは彼女からハンマーを譲り受けた。 作業は進む、トカトントン。 「あんま一箇所にいないから、こういうのも久しぶりなぁ〜んな」 クルックは作業が楽しくて仕方ないらしく、声が弾んでいた。 ディオも作業に参加しているのだが、やることが随分アバウトだ。勢い余った一撃で、ズボッと貫通させている。 「っと、すまんな。穴を広げてしまった」 などと言いつつ、けろりとしているあたり大物の風格である。 「いいなそれ、斬新に半壊のワイルドな酒場ってことで」 チノは苦笑していた。 「コラーッ! そういうワイルドさはいらんっ! ってピジョンも何しとるか!」 「芸術だよ芸術、新しい床板にネロ君の顔を彫りほりしてるだけ」 「ワイルドさを増すために、首から下はまっちょぼでーにしてみましょうか」 パルも協力して、床にイヤンな芸術作品を作り上げていた。 「そういうのは自分ちでやれ、自分ちでッ!」 「おーい、ネロ、それは違うぞ」 と答えたのはアジュガだった。 「この店が、俺たちみんなの家みてぇなもんだろ?」 「ぬ、うまいこと言いおる……」 「うまいといやぁ、ひさびさにここのうまいビールが欲しくなったな。ひとつ頼むわ!」 「うぃ! ビールだな! 少し待ってくれ!」 樽の所に向かいながら、綺麗にノせられていることに気づかないネロなのであった。 これを契機に修繕作業は、いつの間にやら床穴を肴にした宴会へと変わる。 果たしてこの穴埋まるのやら? されどそれもまた、『Eulenspiegel』らしい光景ではあった。
【マスター候補生:桂木京介】
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