見つからないチョコレート


<オープニング>


 人がいなくなって間もないデパートの中に、一つの影がうろついていた。
 五階建てのデパートをさ迷うように歩く影は、鎖を引きずらせながら浮かぶ男だった。
 男は、うめき声を出しながら鉄パイプを握っている。
「チョコ……チョコは、どこだ……」
 そう、つぶやきながら男は、一晩中動き回っていた。


「集まったようですね」
 桂・樹月(高校生運命予報士・bn0130)は、扇越しから集まった能力者達を出迎えた。
「ある街で、昨年の夏に閉店したデパートに地縛霊が現れました。今はまだ被害は出ていませんが、このまま放っておくことはできません。皆さんには、被害者が出てしまう前に地縛霊を倒してほしいのです」
 樹月は、開いていた扇を閉じた。

「地縛霊が現れるデパートは、中心街から少し離れたビルの一角にあります。このデパートは、昨年の秋に全ての物を撤去していますので、中には何も置かれていないのですが、地縛霊は夜な夜なうめき声をだしながら、テリトリーであるデパート内を徘徊しています。
 地縛霊が五階建てのデパートのどこに現れるかわかりませんが、うめき声を出していますので、耳を澄ませば見つけることができるでしょう。
 また、地縛霊は二十代後半の男性で、大変チョコレートに執着しているようです。そのため、チョコレートを持つ人、特に男性がチョコレートを持っていると、まっさきに攻撃してくるでしょう。攻撃には、手に持っている鉄パイプを使ってきますので、気をつけてください。
 最後に、一般人についてですが、デパートはすでに空き店舗となっており、通りも深夜になれば誰も人が来ることはありません。深夜であれば、気兼ねなく戦えるでしょう」
 樹月は、扇を開いた。

「何故、地縛霊があそこに現れたのかはわかりませんが、皆さん、怪我などをせず、無事に帰ってくるのですよ」

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参加者
時任・薫(黒霆・b00272)
波多野・のぞみ(深緋の闇桜姫・b16535)
比良坂・燐音(ぱっつんお胸高笑い主駆除・b18167)
御使・驟雨(高校生黒燐蟲使い・b20603)
ルアン・ニーチェ(光のノクターン・b21130)
奇亜求・智明(怨・b46037)
葛木・鉄斗螺(紅蓮刃鬼・b52968)
美作・聖(紫水晶・b55291)



<リプレイ>


 地縛霊が現れるという閉店したデパートの前は、ひっそりとして暗かった。
 夜も深まっているにも関わらず、人の足が途絶えることのない近くの中心街とは正反対だ。
 八人の能力者たちは、それぞれが持つ明かりをつけて、デパートの中に忍び込んだ。
 全ての物が撤去されたフロアは、八人が光らせる明かりを吸い込む闇の空間だった。
 八人は、物音を立てないように、ゆっくりとした足で奥へと進む。
 この階に地縛霊はいないらしい。
 ルアン・ニーチェ(光のノクターン・b21130)と波多野・のぞみ(深緋の闇桜姫・b16535)が、耳を澄まして首を振ると、八つの明かりは散らばるように広がった。
 ヘッドライトや懐中電灯、ランタンの明かりが、上に登る階段を探し始める。
「こっちです」
 時任・薫(黒霆・b00272)は抑えた声で仲間に呼びかけながら、ランプを点滅させた。腰にさがるランプがチカチカと薫の居場所を知らせる。
 七つの光が壁際に集まると、コンクリートの無機質な壁を這うように螺旋を描く階段があった。
 比良坂・燐音(ぱっつんお胸高笑い主駆除・b18167)が手すりに触れようと顔を向けると、ヘッドライトが黒ずんだサビを浮かばせた。
 思わず小さな悲鳴を上げた燐音の手が引っ込む。
「しーっ」
 人差し指を口に当てるルアンの顔を見て、燐音は顔をこわばらせながら、分かっていると何度もうなずく。
 ルアンは、腰にさげている懐中電灯が手すりとぶつからないように、壁側へくくり直すと、八人は二階へと上がった。
 二階も一階と同じく何もない。
 物音もうめき声も聞こえなかったので、ここに地縛霊がいないことはわかった。
 次の階だと八人が上を目指すと、金属音がぶつかる音が上の方から聞こえてきた。
 よく聞けば、何かの金属を引きずりながら階段を下りているようだ。
 足を止めた八人は、固唾をのんで明かりを上に向けた。
 葛木・鉄斗螺(紅蓮刃鬼・b52968)や御使・驟雨(高校生黒燐蟲使い・b20603)、奇亜求・智明(怨・b46037)は、覗き込むように上を向く。
 金属音に混じってうめき声も聞こえると、顔をけわしくした美作・聖(紫水晶・b55291)が階段を駆け上がった。
 呼び止める間もなく、聖は上へ行ってしまう。
 七人も後を追うと、金属音とうめき声が近づいてきた。
 三階をも通り過ぎる聖に、薫は大声をあげた。
「それ以上、登ってはいけません」
 聖は、振り返った。
「階段で遭遇したら、こちらが危険です。どうせなら、隊列を整えて出迎えてあげましょう」
 どこか、ちゃめっ気を含ませた声の主が、三階のフロアへと手招きする。
 すでに、地縛霊は能力者たちの存在に気づいている。
「チョコ……チョコは……」
 地縛霊のうめき声が、はっきりとしてきた。
 こだまする金属音が、耳を殴りつけるように響いてくる。
「早く早く」
 ルアンも、聖に呼びかける。
 聖が階段を下りようと、身を翻したとき、
「チョコは、どこだ」
 低い声が耳元でささやいた。


 聖が振り返れば、ニタリと笑った男の顔がある。
「ひっ!」
 聖が手すりに強く背中をぶつけると、男――地縛霊は持っていた鉄パイプを振り上げた。
 殺される――!
「待ちなさい!」
 聖が強く目をつむると、イグニッションをした燐音が、光の槍で地縛霊と聖の間を裂いた。
「チョコに固執するさまよえる亡者よ、見なさい、これを!」
 燐音が地縛霊に向けたのは、大きなチョコレートだった。
 地縛霊の目がチョコレートに向くと、燐音は何か企むように口を笑ませる。すると、燐音は隣にいた驟雨にとびきりの笑顔を向けて、チョコレートを手渡した。
「はい、驟雨様。大きな義理チョコですが、差し上げますわ」
「サンキュー」
 驟雨は、語尾にたくさんのハートマークをつける燐音から、チョコレートを受け取ると、地縛霊に見せびらかすように振って見せた。
「うらやましいか? なぁなぁ、うらやましいか? コ、レ」
「チョコを……チョコをよこせぇぇぇぇ!!」
 地縛霊は階段から飛び降りながら、驟雨に目がけて鉄パイプを振り下ろした。
 驟雨がフロアへ逃げ込むと、下ろされた鉄パイプが驟雨の立っていたコンクリートをえぐる。
「チョコをよこせぇぇ!!」
 標的を定めた地縛霊は、能力者たちが待ち受けるフロアの中へ飛び込んだ。


「待っていたわよ」
「ゴースト、覚悟はいいですか」
 のぞみと智明は、驟雨を追ってくる地縛霊に向けて笑みを向けた。
 驟雨がのぞみと智明の間を通り過ぎると、のぞみはショッキングビートをかきならし、智明は呪髪を振り回して地縛霊を出迎える。
 だが、地縛霊の勢いは止まらない。
 二人の間をすり抜けようとする地縛霊に、ルアンは奥義茨の領域を放った。
 爆発した噴煙から、八方に伸びる茨が辺りを覆う。ドームを描いた茨が消えると、地縛霊の体には締めつけられた茨が残っていた。
「よし!」
 驟雨は、懐にチョコレートをしまうと、地縛霊の背後へ回った。
 正面から長剣で奥義フェニックスブロウを斬り込む薫と対になるようにする。
 魔炎の火柱を上げる地縛霊に、聖が奥義魔蝕の霧をかけると、のぞみと智明が地縛霊の両端を固めて、四方から囲み取った。
 茨に締めつけられている地縛霊に、驟雨は奥義紅蓮撃を向けて走り出した。
「チョコを見せびらかされた上に、八人からボコボコに殴られる……ホンッッットに、踏んだり蹴ったりだな、お前!」
「ぎゃあぁぁ!!」
 続いて、燐音とルアンの奥義光の槍が地縛霊の体を貫いた。
 地縛霊は天井を見上げて、「チョコ」と何度も口にすると、体を震わせた。
「チョコ……チョコだあぁぁ!」
 地縛霊を縛りつけていた茨が引きちぎれた。
 解放された地縛霊は、すぐさま定めた標的へと向かい、鉄パイプを横になぎ払った。
 魔蝕の霧の効果は効いていなかったらしく、驟雨の体が横に倒れると、背を向けた地縛霊に薫は奥義黒影剣を突きつけた。
「この時期にチョコレートへご執心するとは、なんともそれらしいゴーストですねぇ」
 薫が長剣を構え直すと、驟雨を抱き起こした聖が白燐奏甲をかけた。
 だが、地縛霊はそれを許さないかのように大声をあげて驟雨に襲いかかる。
「チョコへの執着はすごいのね。でもそういうのって嫌われるわよ」
 聖が地縛霊をにらみあげると、智明は呪髪で、のぞみは奥義スラッシュロンドで地縛霊の勢いを削ぐ。
 鉄斗螺が紅蓮撃を払うと、驟雨は独鈷杵で殴りにかかった。
「チョコをよこせぇぇ!!」
 地縛霊の一撃が、驟雨を床にたたきつけた。
 その衝撃はあまりにも強く、驟雨は意識を手放しそうになる。しかし、驟雨は武器を握り込んで、立ち上がった。
 口の端をぬぐうと、武器を構える。
 あと一撃でもくらえば、命はないだろう。
 封術により自ら癒すことの出来ない驟雨に、燐音は宙に大きなハートマークを描いた。
「はーい、燐音印の投げキッス! お受け取りあそばせ!」
「キスじゃないけれど、ボクも」
 燐音とルアンはヤドリギの祝福で、驟雨の傷を癒し始めた。
 二人の祝福は、驟雨に大きな体力を取り戻させる。
 聖も続いて白燐奏甲をかけると、薫は地縛霊に呼びかけた。
「チョコレートを持つ人は、彼だけではないのですよ」
 にっ、と口を笑ませると、チョコレートを口にくわえて黒影剣を斬りつける。
 チョコレートを見て硬直した地縛霊の顔が、薫の口を凝視する。
 のぞみがスラッシュロンドを舞い、封術にかかっている鉄斗螺が紅蓮撃で斬りつけると、智明は地縛霊の視線に気づいた。
 驟雨を回復のために、四方を固めている自分が離れてしまえば、地縛霊の突破口を作ってしまう。
 小さく口をかみしめると、呪髪をふりまわして、四方の固めを維持させた。
 地縛霊は、再び驟雨を見た。
 燐音とルアンのヤドリギの祝福を受けながら、黒燐奏甲をかける驟雨に再び鉄パイプが下りる。
「私の霧に包まれなさい」
 聖は、もう一度魔蝕の霧を地縛霊に向けた。
 地縛霊の攻撃を見なければ、魔蝕の霧が効いているかわからない。
 薫と智明、のぞみ、鉄斗螺の攻撃にあう地縛霊に、ルアンと燐音の光の槍が輝く。
 うなり声をあげる地縛霊が、新たな標的である薫に鉄パイプを振り落とすと、魔蝕の霧が効いていることがわかった。
 感じない痛みに、薫が黒影剣を間近から地縛霊に向ける。
「ふふ、冥土のみやげに、私の華麗な舞を披露してあげるわよ」
 のぞみが最後のスラッシュロンドを舞うと、地縛霊は智明の呪髪を背中にあびて、鉄斗螺の紅蓮撃を体に受ける。
「チョコをよこせぇぇ!!」
 地縛霊は、欲する物の名をつぶやきながら、鉄パイプを振り下ろした。


 地縛霊が消えると、不気味なほど辺りは静かになった。
 地縛霊の執念か、能力者の耳には、「チョコ」と叫ぶ声が残っている。
「こんな場所でチョコレートにお目にかかれる機会があるかなんて、見ればわかると思うのですがねぇ。だいいち、三倍返しという法則をしらないのですか」
 薫は傷ついた床が怪しまれないように、ところどころに傷をつけながら短いため息をもらした。
 三倍返しは、決して楽なものではない。
 同じ男だが、まだその事に気づいていないルアンは、チョコレートを小さな手に持ちながら、薫の横に立った
「供養にチョコレートを置いていきたいんだけれど、大丈夫かな」
「忍び込んだ時の落とし物に思われるかもしれませんが、やめておいた方がいいでしょうね」
 優しく答える薫に、ルアンは素直にうなずくと、祈りだけを捧げてチョコレートはポケットにしまう。
 二人の会話を聞いていたのぞみと聖は、持っていたチョコレートを見下ろすと、そのまましまい込み、鉄斗螺もチョコレートを出さずに手だけを合わせた。
「結局、なんだったんでしょうね、今回のゴーストは……」
 バレンタインの時期にチョコレートを求めているため、どうしてもバレンタインがらみにしか思えないが、真相はわからない。
 そのことをわかっている智明は、手を合わせて顔を伏せる。
「来世でもらえるよう努力してください、今はそれしかいえません」
「または、あの世ってのがあったら、そこでチョコもらえるといいな」
 驟雨がつぶやくと、のぞみは笑顔を向けた。
「そうしたら、閻魔様に自慢できるかもしれないわね」
 地縛霊が欲したチョコレートは、偶然か八人の能力者全てが持っていた。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/02/21
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