Searching Till When?


<オープニング>


「まずは大いなる災いとの戦いお疲れ様でした」
 教室に現れた茨木・レオン(高校生運命予報士・bn0119)は深く一礼した。
「しかし、大いなる災いの周囲に集まっていた妖獣の残党は伊豆山中に残り、中でも強力な『妖獣イツマデ』に率いられた規模の大きな妖獣の群れがいくつか確認されています」
 そう言ってレオンが取り出したのは伊豆山中の詳細な地図。先の戦いで飽きるほど見た者も少なくないその地図の一点を指した。
「皆さんに向かって頂くのはこの渓谷です。イツマデに率いられた妖獣の群れが、何かを探すようにゆっくりとこの渓谷を移動しています」
 群れは痛みを抑えるための獲物を探す徘徊とはやや毛色が違う動きを見せている。だが、移動をしている以上、いつ人里へ移動しないとも限らない。放置しておくわけにはいかないのだ。
「群れはイツマデを中心として、15体のサソリバイソンで構成されています」
 イツマデは人の頭と龍の体、鳥の翼を持つ奇怪な妖獣。広い範囲に影響する呪詛の叫びや、直線に伸びる強力な炎を吐いてくる油断の出来ない難敵だ。
「サソリバイソンはその名の通り、背中に巨大なサソリの爪が生えた野牛の妖獣です。力任せの突撃を繰り返す単純な相手ですが、数の多さはそのまま脅威です」
 しかし、その単純さがつけ入る隙にもなる。
「先にも言いましたが、妖獣の群れは何かを捜索するようにゆっくり移動しています。上手く待ち伏せるなり、奇襲を仕掛けることが出来ればサソリバイソンはその巨体と単純さが仇となって混乱する可能性があります」
 群れの外周の数匹は突撃してくるだろうが、2桁が一度に来るよりは対処のしようがあるはずだ。
 ただし、見た目通り多少の飛行能力のあるイツマデは空中で混乱を逃れ、攻撃を加えてくるので注意は必要だ。
「戦場となる渓谷はそれほど深いものではなく、とても緩いV字型の地形が続いていると思ってください。中央には川がありますがせせらぎと言えるほどのささやかなものです」
 身を隠せる茂みや低い木などは豊富にあるが、サソリバイソンの突撃やイツマデの攻撃を阻めるほどのものではない。
「有利な状況を作れなければ、一方的に押される展開にもなりえます。……危険な依頼ですが、吉報を待っています」
 そう締めくくり、レオンは再び深く一礼したのだった。

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参加者
碓氷・圭(火の国の宝剣・b07151)
関・銀麗(従属種ヴァンパイア・b08780)
月代・瑞樹(凪いだ月の瞳・b17328)
五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)
渕埼・寅靖(縛鎖のキマイラ・b20320)
犬童・一視(邪魔する奴は神様でもぶん殴る・b33199)
閂・枢(番狗・b34061)
土岐・緋雨(中学生鋏角衆・b47789)



<リプレイ>


 伊豆山中。時刻は4時05分。山の裾に広がる渓谷。
 気温は少し肌寒い程度。日の当たる場所ならばそれなりに暖かく春の気配を感じる事もできる。
 しかし、そんな目立つ場所には行けない原因が、渓谷の中央をゆっくりと移動していた。
「かなりの規模ですね……」
 双眼鏡でその原因、妖獣イツマデ率いるサソリバイソンの群れを観察しながら土岐・緋雨(中学生鋏角衆・b47789)がいくらか怯えを滲ませて呟く。
 群れはイツマデを中心として、15匹のサソリバイソンが楕円に近い形でその周囲を固めている。イツマデが蛇身をくねらせる下で、合計60の蹄が渓谷を踏み締めて進んでくる様は確かに迫力がある。
「あの日の後始末、か」
 そう呟く五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)が顔を顰めているのは、先だっての大いなる災いとの戦いの最中、妖獣達に負わされた傷が疼いたからか、あるいは心配する仲間の表情を思い出したからか。
「進行ルートは情報通りだ」
 緋雨と同じく双眼鏡で群れを観察していた碓氷・圭(火の国の宝剣・b07151)が双眼鏡を目から外して顔を上げる。
 その格好は周囲に合わせ、枯草色の迷彩の外套に現地調達の枯草を刺したものを纏ったもので、不格好なミノムシにも見える。
 外套は渕埼・寅靖(縛鎖のキマイラ・b20320)が調達してきたものだ。この場にいる全員が似たり寄ったりの恰好になっている。近寄ってみれば不格好な代物ではあるが。
「なら、このまま待ち伏せね」
 そう言った関・銀麗(従属種ヴァンパイア・b08780)が視線を向けた、渓谷の中央ささやかな流れ。その流れから10mほど間を置いて5人の仲間が身を潜めているのだが、同様の迷彩を纏うその姿はそこに居ると知らない限りは見つけるのが困難なほど。
 周囲に溶け込み、身を隠すという目的にはこれで十分だった。
(「それにこれ以上移動すると日が落ちてきそうだし……」)
 内心の焦りは口に出さず、銀麗は空を見上げ、次いで周囲を見回した。
 渓谷の周囲に隠れる場所は豊富だったが、援護に呼んだ仲間も含めて11人が陣形を組んで隠れ、さらに足場の良い場所となると中々適当な場所が見当たらなかった。
 加えて犬童・一視(邪魔する奴は神様でもぶん殴る・b33199)が言った一言。
「風下に隠れないか?」
 これが隠れ場所の選択する時間を増やす。今隠れている場所も、結局幾らかの妥協をして見つけた場所だった。
 多少なりとも距離がある後衛の6人とは違い、群れに近い5人は言葉を交わす事もなく、ほとんど身動きもせずに身を隠している。
 加えて圧力すらある群れがゆっくりと近寄って来るという状況は相当なプレッシャーだ。
 元々無口な性質の閂・枢(番狗・b34061)でも、思わず漏れそうになる声を唇を噛んで堪えるほど。
 そしてひどく長く感じる数分が過ぎて、群れが前衛の能力者達からおよそ10mまで来た。攻撃の合図が出される、それよりも一瞬早く。
 群れの外周にいたサソリバイソンの数匹が、能力者達の方向を向いた。
「……っ!」
 漏れそうになった声を、寅靖は噛み殺す。
 しかし、群れの中央にいたイツマデも、その頭を能力者達へと向ける。
(「近かったか!?」)
 成りは異形であっても妖獣にも獣の性質はある程度残っている。迷彩を纏い、身動きをしない事で視覚聴覚を騙せても一視が懸念していたもう一つの要素、嗅覚を誤魔化すのは難しい。
 まして周囲を探索しながら動いていた群れの近くに、隠れているとはいえ5人は多すぎたのか。
 最早疑いようもなく、群れ全体の注意が能力者達に向いた。


「……っ!」
 真っ先に動いた、動けたのは月代・瑞樹(凪いだ月の瞳・b17328)。
 蜘蛛の糸が群れ全体を包むように広がり、サソリバイソン達に絡みついていく。その内何割かは周囲の茂みなどに絡まり目標に当たらなかったが、それでも半分近い6体がマヒして動きを止める。
 返礼は視界を染める灼熱。
「……く」
 蜘蛛糸の難を逃れたイツマデの吐いた炎が、アビリティの反動で消耗した瑞樹を包む。ただの布でしかない迷彩は瞬く間に焼け落ち、それでもなお炎は消えない。
 この段に及んで、後衛に位置していた能力者達も異変を察した。
「っ! なんで合図の前にっ!」
「いや、察知されたようだな」
 笛を握り、合図を出す機を窺っていた銀麗が思わず立ち上がり、その横で圭は冷静に状況を見ていた。
 イツマデの炎に導かれる様にサソリバイソン達は突進を開始する。その動きは蜘蛛糸を浴びせられたにも関わらず明確な方向性を持ったものだ。
 マヒから脱したものも含め総勢12体。整然としたものではない、本能だけの突進だが一斉に来れば一個の生き物にも見える。
「陣形を崩すな! 持ちこたえるぜ!」
 一視が叫び、その右拳を突き出し構える。この後に及んで小細工の入る余地はない。
「この命、簡単にはくれてやらんぞ……!」
 迷彩を投げ捨て、立ち上がった寅靖も鈍色の鉤爪を構えて迎え撃つ姿勢。
 蹄が地面を抉る音が近付き。怒涛が押し寄せる。
 立て続けの鈍い音。硬いものがぶつかりあった音。あるいは意思を支える咆哮。
 果たして能力者達は、サソリバイソン達の突撃を凌ぎきった。
 イツマデの炎に苦しむ瑞樹や、枢が持ちこたえられたのは寅靖と一視がその大声と動作を持ってかなりの数を引き受けたため。
 代償はいくつかの浅くない傷だ。
「一視?」
 一視は珍しく気忙しい表情を見せた枢に笑みを返そうとして、それがまだ早かった事を思い知る。
「ぐ、お」
 寅靖が苦悶と共に膝を付く。同時にその場にいた能力者達全員が身を引き裂かれるような苦痛を受けた。
(「……イツマデの、呪詛。やっぱり……」)
 消えぬ魔の炎と合わせ、体力を根こそぎ奪われ霞んでいく瑞樹の視界で、周囲を囲んだサソリバイソン達が背に生えたサソリの鋏を大きく掲げる。
 蜘蛛糸の網がサソリバイソン達を一斉に拘束したのは、まさにその瞬間だった。


「前線を支えるわ!」
 銀麗はそう叫ぶと、すでに用を成さなくなった笛を放り捨て、倒れかけている瑞樹へ向けて祖霊の力を送り込み。
「イツマデを惹きつけます!」
「つき合うよ」
 緋雨と尚人は群れの後方で猛威を振るうイツマデを攻撃の射程に収めるべく、前方へと歩を進め、援護に呼ばれた能力者達もそれぞれ守護の力を秘めた領域を広げ、あるいはサソリバイソンを呼び出した茨で足止めする。
(「ツクヨミ、頼む」)
 口には出さず念じるだけの命令にも付き合いの長い使役ゴーストは即座に応じる。祈りの力で土蜘蛛の檻を使った消耗から脱した圭は、再度糸を作りサソリバイソンの群れに投じる。
(「1、2匹でも足止め出来れば」)
 どちらかと言えば不得手、加えて不測の要素で効果を及ぼさない事も多い土蜘蛛の檻だが奥義の精度があれば1、2匹と言わず5、6匹は一度にマヒを与える事も出来る。
 糸の効果は打撃を与えず、マヒの効果も長続きはしない。しかし、このマヒが作り出す時間は、前線の能力者達に息を付く間を与えてくれる。
 周囲に溢れた自然の力を胸一杯に吸い込み、体力を回復させた一視にサソリバイソン達が襲いかかるが、その回数は目に見えて減っている。
「このっ! やってくれるじゃないか」
 幾らか余裕を持って攻撃を捌き、紅蓮の炎を宿した拳を目の前のサソリバイソンの横っ面に叩きこむ。
 もんどり打って倒れ、炎に包まれたサソリバイソンが灰と化して消える。
「むんっ!」
 寅靖が振るったのはこちらも紅蓮の一撃。体重を乗せた重さと、紅蓮の爆発力は盾として翳されたサソリの鋏を粉砕し、それでもなお収まらない勢いでサソリバイソンを火葬に伏してのけた。
 だが、ほぼ同時に2人が使った紅蓮とは異質な炎の束が、能力者達の陣形を薙ぎ払う。
「イツマデから狙い撃ちか、だが……」
 炎の熱さに眉を顰めながら寅靖は後退を選ばない。肩を寄せ合う前衛の能力者達の周囲は大半がマヒを受けて一見大人しくなってはいるが、いつ回復して襲いかかってくるともしれない10体以上のサソリバイソンだ。
 当初の予定とは若干形は違うが、後衛からの援護は厚みを増し、群れの要となるイツマデにも赤い光弾と青白い魔弾が突き刺さる。
 苦悶の叫びを上げ、その眼が憤怒の赤に染まり、蛇身の注意が後方、緋雨と尚人の方へと向く。
 それは、待ち望んでいた機会だった。
「消えてください」
 枢の白燐蟲と援護の能力者から黒燐蟲の力を受け、一気に体力を取り戻した瑞樹の一刀が、何の抵抗も受けずにサソリバイソンの額を立ち割り、塵へと返す。
 多くの能力者にとって回復はそのまま力を増す手段。一度危機に陥り、立て直した前衛の能力者達の詠唱兵器はすでにサソリバイソンを一撃で倒しうる力を秘めていた。
 未だ12を数えるサソリバイソンはほぼ無傷で健在。しかし、その数もそれを自らの役割と任じひたすらに土蜘蛛の檻を綾取る圭によって少なくない数が無力化される。
 残るサソリバイソンの殲滅まで1分足らず。
 惜しみなく繰り出された奥義にイツマデがその蛇身を燃え上がらせて地に落ちるまでに必要な時間は、その半分にも満たなかったのだった。


 イツマデの姿が炎の中、灰となって消えていく。
 その様子を確かめて銀麗がようやくといった様子で掠れた重い溜息を吐き、それが戦いの締めとなった。
「お疲れ様でした……」
 イツマデを引き付け、幾らか危ない場面がありながらも役割を全うした緋雨の姿はボロボロではあった。
 互いの無事を確かめあう一視と枢、それに寅靖や瑞樹も様相は大差ない。
 周囲の様相も、戦いの跡が生々しく残り、訪れた時の静かな冬の山の印象はない。だが、それほどの苦戦であっても何より誇れる事があった。
「怪我がなくて、なによりだな」
 と尚人が大きな喜びとほんの少しの苦さを込めた笑みを浮かべ、能力者達はしばらくそんな笑みを交わし合ったのだった。


マスター:石蝉 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/03/01
得票数:カッコいい18  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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