空のしずく 〜冬物語2009・Snow Green〜


     



<オープニング>


 その山は決して標高は高くはなかったが、美しいカルデラ湖を有していることで知られていた。世界でも珍しい2重のカルデラの湖にはいく筋かの川の流入に加え豊かな湧き水があり、満々とたたえられた水は空を映しこんで常に青々としている。空へ伸びあがる周囲の山々は季節ごとに装いをあらため、豊かな恵みをもって生きもの達の営みを見守っている。そしてもちろんそのほとりに住む人々の生活も、そこを訪れる人々をも優しく包んでくれるのだ。湖には当然正式な名前があるけれども、この地上の空とも呼びたい湖を土地の人々は時にこう呼んでいた。
 ――空のしずく、と。
 人々がこの名を呼ぶとき、水の青はいっそう冴え渡るような気がして。

「夜の雪はスノーランプの小道から……よね?」
 昼間の目のくらむような雪の白はいうまでもなく美しい。だがそれにもまして今岡・治子(高校生運命予報士・bn0054)は暖かい明かりと人の笑い声に彩られた雪景色が好きだった。雪は何も語らないように見えて、時に無慈悲なくらい恐ろしいはずなのに、淡い明かりに照らし出された薄青は時に胸に染みいるような気がしてくる。
「大小様々なスノーランプ、雪灯籠……。それと雪壁のランプだな」
 片岡・友明(中学生青龍拳士・bn0125)が取り出した写真には高くそびえる雪の壁。小さく穿たれた窓の1つ1つには小さな雪のランプ。それはさながら光の壁のようにも見えるのだという。その小道の先には夜に眠る空のしずく。
「湖畔の散歩道は明るすぎず暗すぎす、いい感じで配置されてましたしね」
 雛森・イスカ(高校生魔剣士・bn0012)もふわりと微笑んで。雪を愛で、春を望むこの祭りの間だけ湖は静かな眠りからそっと覚める。湖畔のブロンズ像も淡い光に浮かび上がってとても幻想的な風情を見せることだろう。
「片岡君、誰かエスコートして歩いてみてはいかがです?」
「可愛らしい絵になりますよね」
 うるさいわと噛みつく少年に2人の少女達はくすくす笑う。だが、ねーちゃん達こそ俺で遊んでるばーいかよっとは少年は口にしない。やぶへびとか災いの元とか後悔先に立たずとか学んだ諺は数知れずなのだから。
「……でもって後は花火な」
 雪に映える炎の芸術というのもやはりこの地ならではのものだろう凛とした空気に咲く空の花はこの祭りのクライマックスでもある。湖畔から眺めるのもよし、たくさん作られたカマクラの中からジュースで献杯というのもよし。
「あと、足湯もあるそうですよ」
 渓流の方に湧く温泉の湯を運んできて作られた即席温泉ではあるのだが、足元を温めながら眺める花火というのも一風変わっていておもしろいかもしれない。

「では皆さんをお誘いに行きましょうか」
 治子はお気に入りのティ・オレ・ボウルを片付けつつ、イスカ達に笑いかける。おっしゃ任しとけっと教室を少年はすぐさま飛び出していき……。
「いい学園生活でしたよね」
「まだ終わっていませんよ」
 思い出はまだまだ沢山出来るはず……2人の少女達はそっと窓の外を見る。いつの間にか外は小雪の散る夕暮れだった。今頃は空に近いあの湖にも雪がふっているのだろうか――。

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参加者
NPC:雛森・イスカ(高校生魔剣士・bn0012)




<リプレイ>

●雪と火影と
 湖の青が眠りにつけば、穏やかな火焔が地上に灯る。雪はごく薄い青や緑の影を落として夜に紛れこむ旅人を迎えてくれる。そしてスノーランプの灯は亜衣の心をもくすぐって踊る。雪の美と暖かい幸せとを同時に噛締めていた琴吹・湊を小さな雪玉が急襲した。
「食べ物に雪入るー」
 思わず亜衣の後ろに隠れてはみたけれど、舜のささやかな攻撃は止まず。
「しんみり眺めるのもいいけど、遊ぼうぜ」
 いきなりなんてずるいの、と彼女もさらりと雪を掬い投げ……。3人の髪に雪の花が咲いた。
「雪って不思議よね……」
 英二は和沙の耳元で囁いた。こんなにも冷たいのに、光り合う灯に浮かぶ白はこの上なく優しい。抱き寄せられたまま和沙は思う。人もまた大切な人と共にあればこそ優しくなれるのだろうと。
 昼間作ったランプを夜に探すのもここならではの楽しみ。揺れる明かりにファルチェの顔もほんのりと染まる。渓は自分のマフラーをそっと彼女にかけた。寒さの中にいさせたくはないのだけれど、今はまだ彼女も灯も見つめていたい……。一緒にと願う気持ちは、恋人達なら皆当然の事。『離さない』とカインは椿妃の指を強く握る。小道を歩く速度は次第にゆっくりとしたものになる。この道の終わりは世界の果てにあって欲しかった。
 手袋を外した片手を天領・晶はそっと湊の指の温もりに滑り込ませた。
「ちゃんと、僕の手は湊先輩を温めている?」
 時折不安になるとすれば想いをきちんと返せているのかどうか。それは杞憂だとどうやって伝えればいいのか湊は未だに迷ってしまうのだが、多分それも幸せの内。
「暖かい光だな」
 寒い筈なのにと瑞鳳が小さく零すと繋いだ兇の指がきゅっと締まった。お前がいるからかなと呟いた時には彼の腕は瑞鳳を包み込んでいて。
「好きな人が一緒にいてくれるとなるんじゃないかな」
 だから離れないでいてくれと囁かれて瑞鳳の耳は更に熱くなる。

 遊覧船に並んで腰をおろして嘉月と裕也は空と灯の揺れる水面を見つめていた。小道から繋いだままの手も頬も未だ熱は引かず。
「また、ここに来たいな」
 抱き寄せれば柔らかな体はすっぽりと腕の中。うん……と小さな声が裕也の胸で響いた。
「何でもっと一緒にいられなかったんだろ」
 絞り出す様に話すリュウタの頭に妃菜はそっと手を乗せた。ちゃんと笑って見送ったのは偉かったねと静かな声が冬の空気に溶けていく。来年私が卒業する時にもこの義弟は泣くのかな……妃菜は再び義弟の髪をなでた。別れではなくとも恋する乙女に不安は多い。
「寮長さんは頑張ってますよ。想いの伝え方だってそれぞれだと……」
 靜の言葉に御守はゆっくり頷いた。感謝の言葉は靜の耳に複雑に響く。肩を並べて歩いてもこの人の心は自分には向かない。それでも幸せに笑っていてほしいと思うのは彼自身にも止められない想いなのだ。
 恋する乙女がいる一方で、友明少年と陽気の組合わせは愛とも恋とも全く無縁の子犬達。
「ジュースあげるから、案内してね」
「何で俺がー」
 と言いつつもジュースに釣られるのは目に見えていて。もう少し優しくしてあげられないのかしらと治子は笑うが、それは無理だろうと戒は苦笑する。
「幽世への道にも見えるな」
 炎に縁取られた小道は確かに空へも続く様。空から降りてくるものもあるのかもしれませんねと治子も頷いた。しんと静まりかえった時の中でオレンジ色の灯だけが揺れていた。
「始まりますよ」
 雛森・イスカ(高校生魔剣士・bn0012)が船の所で手招きをする。暗い湖を背に、柔らかな灯を頭上に竜也は静かに舞い始める。雪を言祝ぐ祭りへの感謝、常に新しい景色を映し出す水の青。この世にいるのかもしれない神に捧げる舞に、小雪も喜ぶ様に散る。

●天の花
 闇が深くなっていけば人々の関心は湖から空へと変わる。地上の灯は星空を隠してしまうが、今日の主役は星ではなくて空の花。寒いからカイロをと翼に手渡され、イスカは早速掌に。雪に触れて冷たくなった手に感覚が戻ってくると夜咫・晶が待っていた。一緒に見ませんかと誘えば、イスカも勿論否やはない。
「わ……悪い、すまなかった」
 待ちわびた辰美の声に真里亜の瞳から雫が落ちる。来てくれたのは嬉しいけれど、出てくるのは涙と……
「辰美さんのばかー」
 抱きしめられても涙はすぐには止まらない。そんな彼らの上にこの宵最初の花が開いた。
「ほわぁ〜、きれいだネー」
 最初の花火は彼らの真上。昼間に作った雪像と共にと時を待っていた甲斐があったというものだ。粋なものだなと禊は凛が取り落としそうになった菓子を受け止めてやる。
「反省だのお詫びだの……接待みたい」
 氷魚の声だと思った瞬間、ケインの肩がびくりと震えた。来てくれないのではないかと本気で思っていた彼である。謝意の言葉の代わりにケインは彼女が座るや抱き寄せる。今はただ大切な物を抱きしめていたかった。
「冬の花火ってこんなに綺麗なんだっ!」
 猟架の声は美奈子のすぐ隣から。子供の様な声に彼女は思わず笑みを誘われて。
「寒くない?」
 ふと見つめられ頬が火照った事は宵闇が隠してくれた。寧ろ猟架くんとこうしていると暖かい……寄添う2人の間には冬という季節はないような気がしてくる。冬がないというならば桜鈴と流火も事情は同じ。熱々のクレープを手にした桜鈴を流火は自分のコートに招き入れる。そっと唇を合わせた幸せに空の光が降り注ぐ。
 雪の小道の外れの外れ尉桜はこっそり作ったカマクラに儚と共に入り込み。すぐ前には空のしずく、カステラの甘味が口の中に残る中、目は花火の色に釘付けで。空も水も夜がこんなに美しかったことを2人は知らない。2人きりの時を囲んでしまいたい気持ちはみやびにもよく判る。恋人になって初めての遠出。アルブレヒトの横顔がこんなに近くにあった事はない。
「みやびと……一緒に来られて……よ、良かったよ」
 空と水とそして彼女の瞳に冬の花が映ったその刹那、唇が触れあう幸せを彼女は初めて知った。

「大学行ったからって、綺麗な女の人とかに引っ掛けられちゃやだよ?」
 袖を引く雪那の手を終凪は少しだけ強引に引寄せる。髪の香りが胸の中に収まったのを確かめて彼はゆっくりと唇を重ねた。世界で1番可愛いのは今の恋人だから……囁く声にはキザと小さな声が返ってくる。そんな甘い囁きが鷸瑠に聞こえた筈もないけれど、何故か彼女は動揺し。
「大丈夫?」
 抱きとめてくれたハイネを見上げれば心臓は益々速く脈を打つ。エスコートといえば実に紳士的に聞こえるけれど、これはちょっといい雰囲気に見えなくもない。
「……ワ、ワシは別に構わんけど」
 そんな言葉はハイネの耳に届いたのかどうなのか……。最初の花火が暗い湖面に花を振らせ、一瞬寄添う雪那達の姿を華凛の前に曝け出す。
「……そんな格好じゃ風邪をひく」
 蒼衣のコートの温もりはありがたい。だが、彼女の心は今だ想い出だけを追ったまま。この雪でさえ春が来ればとけるのに、なぜ私の時間は止まったままなのだろう。数歩遅れてついてきた紅羽は肩を震わせる彼女の為に祈る。いずれ本当の花の季節が来たら、もっとあちこちに連れ出そう、と
 一瞬で消えて実る事のない火の花は破れた恋に似ている――それをどんな花の名で呼んだら綺麗に散ってくれるだろうか。冬に咲く花か……誰に聞かせるでもなくスバルも呟く。確かにこれは一瞬の花。だけど、
「思い出っていう種を残していくのかもしれないね」
 ああ、と陸は思う。瞑った目から涙が一粒零れ落ちたけれど、それ以上は流れない。この人が傍にいてくれて良かった――心から思う。ここでなら涙もいつか花を育てる力に変わる。

●水に咲く花
 凛と引締まった空気をこの湯は一瞬で解いてしまうかの様だった。あがる火の花を眺めつつ眞風は呟く――花火って先輩みたいだね、と。
「パッと散るって意味なのか?!」
 壱球が捕まえた手は氷の様に冷たくて。速攻あったかいもん食いに行くぞと彼を引張り上げる。刹那、頭上では再び大輪の花火が開き、耳元では眞風の笑い声が弾けた。
「ずっと咲き続ける花火」
 返す言葉に詰まった理由は追及するのが野暮というものである。
「beautiful!」
 リュートの流れる様な称賛に応える様な振りをして沙希はそっとその肩に頭を預けた。どうしたのと聞いてくる彼の声もまた息がかかる程近い。甘えたいからだなんて言えないけれど、沙希は湯の中に揺れる足をそっとリュートのそれに絡めた。今ならば朱が昇る頬も全部足湯と花火のせいにしてしまえるから。
「林檎ジュースも美味しいね♪」
 リオートの囁きにりぃんもこくんと頷いて。見つめる彼の視線が少しばかり熱くて、戸惑ってしまう彼女。あと半歩の距離をどうやって縮めたらいいだろう……お互いにそう思っていることを知るのは後少しだけ未来かもしれない。

「贅沢すぎだろ」
 温泉に花火、おまけに皐来が山程のおやつを仕入れてきている。唯がそう零すのも当然だ。
「たーまやー♪」
 冬の夜空は直人の声を吸込んで、金色の火花は円や聖雪の横顔を照らす。綺羅の火花は一瞬だけれどこの仲間達との思い出は永遠だ。反省しきりだった事も全力で嬉しかった事も……直人が呟けば、馬鹿騒ぎや黙示録もなと皐来も笑う。唯と寅靖は顔を見合せて笑みを零し合う。やはり【暇潰し】はサイコーだ、と。
「足湯?」
 雪ん子がとけたりしません、と紗更は穂乃美を見つめた。何でも彼女の地元には人に悪戯をした雪ん子が炬燵でとけてしまったという伝承があるそうで。もしとけそうになったら私が捕まえますからと穂乃美は笑って請け負った。そんな脇でユーグニアと漣は恐る恐る湯加減を。2人とも温泉自体が初めてだとか。航汰持参の昆布茶を手に話すのはランプの小道や雪壁の事。
「いつか、温泉もいいよね」
 青司が呟けば航汰も紗更もふわりと頷く。熱い湯も何気ない会話もどうしてこんなに心を温めてくれるのだろう。たこ焼きに綿菓子に林檎飴……摘まむ物も数知れず。初めて尽くしのユーグニアは聖子の飴細工の花にも目を丸くしている。でももっと驚くのはやはり空を飾る大輪の花だろう。火花の輝きが照らす仲間の横顔を聖子は幸せな思いで見つめた。
「真横も真上も真下も光だらけじゃねェか」
 航汰の呟きにニルもくすりと笑う。思い出を数えれば雪壁の灯の数でも足りない。この冬も名残惜しいもんだよな。呟きは花火の音に紛れてしまったが。ニルは皆を眺める。皆さんと一緒なら次はもっと素敵な季節になる。そんな確信を祝うように彼女の頭上にも夜の花は咲く。
 暖かい湯に親しい友。どちらも身も心も温めてくれる大切な物。2人の上に再び空の花が咲いた時、真魔は傍らの零斗を振り返る。
「Grazie mille……レト。また色々遊びに行こう」
 世界の輝きも煌めきも一緒に。零斗は溢れるばかりの思いはただ5文字に封じ込め。
「ありがとう」
 頭上でまた1つ金色の花が開いた。
「ウィル、卒業おめでとうね」
 花火に横顔を輝かせテルは笑う。でも淋しくなっちゃうよねと続く言葉をウィルはぽんと頭を叩いて終わらせる。会いたくなれば会いに行けばいいだけなのだから。空に咲く花はきらきらと火花を散らして湖に消える。流れ星みたいだねと笑うテルはこの夜どんな願いをかけたのだろう。

●冬物語
 屋台の食べ物で手を温めながら悠夜は棗に歩調を合わせた。探しておいた穴場には人影すらない。香草茶の爽やかな香りが2人の間に立上れば、空にも冬の花が開く。
 【タケミカヅチ】の席は湖畔に設えられていた。暖かな紅茶の湯気を顎に当てている宗吾にお帰りなさいの声が降る。団長代理はもうこりごりと笑う菜月に彼はニヤリと笑みを返す。空に咲く花はその度毎に彼らの上に鮮やかな火花ふらし、湖面を彩る。そんな光景に霧人が見惚れていると、宗吾は僅かに刀を抜いた。火花はここにも暖かに光を添える。
「うちの結社ならご飯ですからね」
 ユリアがクレープを披露すれば、蒼玄は暖かなスープを出してくる。
「今回はスープなのじゃ!」
 亜璃砂の嬉しそうな声に、空の花と皆の笑い声が重なった。
「無事で何よりだ。上げた腕そのうち試させて貰おう」
 玉葱のコンソメスープは寒い夜には何よりだ。男性同士の友情はいいものですね、とユリアもふっと笑みを零した。

「……どうしたの?」
 こまちが隣を見れば、雪花の視線が一瞬泳ぐ。
「……こまちを見ていたかった」
 恥ずかしさ大爆発の言葉は彼女にだけ囁かれた言葉。慌ててこまちは誕生日の贈り物など取出してみたけれど、どうやらそれは照れ隠し以上にはなりそうもない。
 はぐれるからと言い訳して手を繋いだものの今日介はレイの顔をまともに見られない。何とか席に来た時には彼の心臓は早鐘の如く。
「綺麗……」
 艶やかに開く花に目を奪われた一瞬、レイの掌には小さな箱。卒業おめでとうの今日介の声に地上にも一輪花が開いた。
 遊覧船から見る花火は一際大きく湖の中に散ってゆく。
「ずっと前から、好きだった」
 シンヤの声は普通なら麗の耳朶を打ち心に迄響く筈だった。花火の上がるその瞬間でさえなければ。きょとんと首を傾げる麗に今度は低く耳元で。心まで通じた事は一目瞭然。花火のせいだと麗は言うがその後に続くのが『私だって……』ならば、そんな言い訳が通じる訳もない。再び上がった花火の下で2つの手は固く握りしめられる事になる。
 恋人達の影には気づきもせずにイスカは手摺に命と露を座らせた。焼きそばを抱えた露とは初めましてのご挨拶。湖面に咲く花は少女の髪にも輝きを添えてくれる。
「もう空のしずくには来ないのかぇ?」
 命の小さな心配にイスカは首を横に振る。彼女にとってもここは初めての遠出の地。思い出はここから始まっていたのだから。
「お前さん、受験は……」
 足湯からあがって来たばかりらしい円は呟きかけて口ごもる。2浪にリーチがかかりそうなのは彼の方、寧ろイスカは平然として。林檎ジュースを2人にも振舞っていると紗々もデッキへと上がって来た。
「あの、花火をバックに1枚……」
 半ばパニックの少女をイスカは笑って迎え入れ。撮りましょうかと夏輝が申し出れば紗々はおずおずとカメラを渡した。空の花もそれを愛でる人の笑顔も彼は丁寧に写し取り、自らの目にも焼き付けていった。
 2人で出かけるのは初めてだから、綺麗な物を見つめていたい。夜空の花は漣一つ立たない湖面にも開き、その度に愛美は歓声をあげる。
「また一緒に見に来れるといいな」
 瞬双の囁きにも勿論瞳を輝かせ。

 ――来年の冬も。それは皆が願うことだろう。能力者の生活は明日を保障されるものではない。だがまた来たいという願いがあれば、それは多分今日の困難を切り抜ける力に変わる。火の花は天上を飾り、ランプの灯は地上を照らす。冬だけに紡がれる物語が、今静かに幕を下ろそうとしていた。


マスター:矢野梓 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:114人
作成日:2009/03/06
得票数:ハートフル25  ロマンティック16  せつない4 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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