梅見頃花見頃


<オープニング>


●春風は吹く
 凍える冷気にも枯れず、蕾が徐々に花開いていた。
 積雪の重みに耐えた枝は細く鋭く。雪解けを待ち侘び、足元から覗く緑はまだ微かに寒さに震え。不意に見える雲の切れ間からの陽光を浴びようと大きく葉を伸ばした。
 やがて来る春の息吹――大地に、生命が広がっていく。

●梅見頃咲き見頃
「お花見に行かない?」
 ぼんやり気味の彼にしては珍しく、幼さすら零れる笑顔で創良壬・天命(高校生運命予報士・bn0072)は切り出した。花見に適した地に心当たりがあるらしい。
 梅を背に抱えたその丘は冬の間は雪に閉ざされ、モノクロームの世界で終わる。しかしひと度春風が吹けば、失った色彩を取り戻す。その先駆けとなる梅は満開を迎え、つられるようにして他の植物達も開花の時期を迎えていると言う。
「普段見向きもされない雑草って言われてる花だって花は花でしょ?」
 お花見といっても的を一つに絞るのではなく、山茱萸や、姫踊子草、オオイヌノフグリといった視界に映る小さな野花をも括った上での「お花見」なのだ。
「何処にでもある花こそ綺麗なんだって気付けると素敵だよね」
 花見に決まった事柄はなく、使役ゴーストと連れ立って歩いても、目の前の丘で持ち寄った遊戯で遊んでも良い。そこに芽吹く命を感じる為にオリジナルの遊びを考えても楽しいだろう。
「俺は和菓子を持っていくよ。梅、桃、桜を象ったちょっとした名物菓子なんだって」
 お茶は何が良いだろうと呟いて少年は再び誘いの言葉を投げていく。

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参加者
NPC:創良壬・天命(高校生運命予報士・bn0072)




<リプレイ>


 遙か先に佇むだけだったはずの空も随分と近くに感じられるようになっていた。
 穏やかな日差しの中を仄かな風が吹き抜けていく――甘さを伴う、馥郁たる梅の香り。
 禿げ掛けた地面を包み込むように新たな緑が土を覆い、生えたばかりの若葉の上にばさり、とシートが広げられた。
「他の花も咲いて……。時の過ぎるのは早いですわね」
 お茶を手にすみれは呟く。咲き変わる野花が時の流れを教えてくれる。
 丘をごろごろと転がったテルはうんと伸びをして。真似したゾロを膝に乗せたウィルが毛並みを撫でてやるが、花粉で涙が止まらない。祖父に教わったことを思い出しながら、あれこれ尋ねてくるテルにウィルは答えていく。寒さにも負けない野花の逞しさを見習いたいものだ。
 息で暖を取る紅吏の手を深龍が自分の頬に当てた。以前の事を思い出して真っ赤になる紅吏に深龍は微笑んで囁く。初なところがまた可愛い。挑むような視線で問いかけられて、紅吏はパニックに。
 少しの緊張すら嬉しさに変えて柳はティアリスと連れだって歩く。春をイメージしてめかし込んできたティアリスは野花に勇気を貰い、彼にそっと口付けた。突然の事に固まる柳が無意識に動かした手はティアリスに触れてしまい、引っ込めそうになるのをぐっと堪える。彼女の手を握れば、驚きながらも握り返してくれた。染まった頬が気恥ずかしくて、それでも互いに手を離そうとはしなかった。
「梅の香りが心地よいですね〜」
「はい♪ とっても心地良いですね」
 あちこち連れ回しながらも繭の本音は葬と同じだった。組んだ腕の温もりが何よりも心地良い。
 繋いだ手は温もりと、優しさと、――頼もしさを運んでくる。
 デジカメに景色とリゼットを収めたエリオットは通りがかった水城にシャッターを切って貰うよう頼む。写真の飾り方を考えるリゼットはとても明るく、異国から出てきた不安も繋がった手の先から逃げていく。
 僅かに悩んだ末に出された英二の答えに、和沙は自分のことだろうかと期待してしまう。繋いだ手が自然に離れ緑が比較的多い場所に落ち着こうとすれば、英二は当然のことのようにハンカチを敷いてくれる。
「英二くんのこういう紳士なところやっぱり大好き」
 梅林は静かで、時折風に吹かれて梅の花弁が舞った。鳥の囀る声がする。
「きれいですね、ネコさん」
 口で答えてくれる代わりに、ネコさんの尻尾がふ、と振られる。興味はなくても付き合ってくれるのがレナのパートナーだ。赤い瞳がいつも見守ってくれる。
 スカルロードのダーリンはかたかたと音を立て、睡花は足元の花を指さして裕斗に聞いて回った。落ち着いた笑みで答える裕斗の側には刻が連れ添っている。丘でお茶を飲もうと提案した睡花はふとお茶が飲めるだろうかと刻を見た。
 季節の変わり目を迎えた空は濃度を増していく。水に溶けるような色だった空が深みを増して、透明感をそのままに青を拡げていく。
「いろんな所を見て歩くな。その方が楽しいもの」
 歩く時どこを見て歩くかと尋ねた弥琴は創良壬・天命(高校生運命予報士・bn0072)から同じ答えが飛び出して目を見開く。上を見れば空が。下を見れば植物が。色んな顔で、色んな言葉で語りかけてくれる。それを拾い上げていくのが弥琴は好きなのだ。
 日課の空の写真を撮り終えれば近くからもシャッターを切る音がする。
 枝に花を咲かせる山茱萸や、空き地ではどこでも見かけることが出来る姫踊子草を収めていく景綱。雪花はオートフォーカスに頼らず、今を生きる光景そのものを捉えていく。
 梅林に鶯の鳴き声が響き渡った。
 誰もが驚いて耳を澄ませる。鶯を探し求めていた水城が振り返れば、「やりすぎちゃったかな?」と鶯笛を持つ昂志郎達がいた。梅と鶯は揃わないからと諦めていた夢緒が嬉しそうに吹いている。
「おまえもやるか?」
 護に気安く誘われ、少女の顔が綻んだ。

 それぞれが作ってきたお弁当を摘みながら楓とフェシアはお花見をする。花を見ているはずの楓から視線を感じてそれが気のせいではないと知ると、フェシアは花ばかり見つめてしまった。
 荷物運びをしてきたグラウはチョコを配る。頑張ったと言う漣花が作ってきたお弁当は三段重箱。早速中身を拝見すれば、おにぎりに蕗の煮物、筍の天ぷら、魚の煮付け、春キャベツのサラダと魔法瓶には蛤のお汁、食後に梅の上生菓子まで。全て手作りであることに敬意を表しながら儚が出したお重は一段目は卵焼き。……二段目も卵焼き。
「ゴメン。詰め間違えちゃった」
 ……せめてデザートには入れないで欲しかった、とあとで語ることになる漣花のお弁当には一部辛い物が混ざっている。
 梅を眺めていた湊から「……食う?」と差し出された烏賊形最中に手を伸ばしかけた舜の動きがぴたりと止まった。
 湊の後ろにハバネロと書かれた缶が転がっている。
 綺麗な花に美味しい食べ物、人が集まればお花見の賑やかさは続く。
 寒いのが苦手な晴臣の為に李鳥は梅の近く、日の当たる場所にシートを敷いた。何故か栗花落にハリセンでどつかれた遥日は頭をさすりながらも胃薬の確認をする。これから恐怖のゲームが始まると思えば保険も用意したくなるものだ。
 皆が持ち寄ったおかずは数も多く、バリエーションに富んだ。お弁当の定番ともいえるたこさんウィンナーと林檎の兎を作るだけで弓矢の手は絆創膏だらけになり、笑弥に悲鳴を上げさせるというハプニングもあったが、料理はどれも美味しく食べることが出来た。唯一、李鳥のおかずにだけは誰も手を付けなかったがそうもいかない。
「さあさあ、サクッと取ってくといいよ〜」
 どれに何の具が詰められているか知っている李鳥は無難に南瓜を選ぶ。生まれ備わった直感でアタリを避ける鈴芽。晴臣は日向に居ながら尚カイロを装備し、温かいお茶を飲んでいた。

 ご馳走様と言いながら氷雨が倒れた。

「氷雨さん?! 何で倒れてんの! どうしたのねぇ大丈夫かっ?!」
 栗花落はそっと倒れた少年の傍らに桃カステラを置いておく。
 幸せそうに料理を頬張っていた紅音は少年と周りの状況を見比べ。氷雨の周りにロープを張り巡らせると、
「これは……毒殺?」と物々しく呟いた。
「おっ花見♪ おっ花見♪」
 作る側に回ると惨事を招くことを自覚している命は次々と出てくるおかずに花以上に視線が釘付けになっている。腕によりをかけた柚流や、イグニッションカードに封じてきた右京が大量にお弁当を出せば、慧託からは蓬御飯や芹のサラダなど野草を使ったおかずが提供される。母を真似て作ったという慧託の料理からは素朴な暖かみがした。料理の苦手な輝もソルと一緒に握ったおにぎりを出し、お茶を注ぐ葵が用意していたのは和菓子屋さんに習ったという繭玉や桜餅だった。
 輝は卒業を迎えた柚流と、今月誕生日の二人の為に舞う。――新しい門出が花のように鮮やかであるように。
 れいあが皆にとシュークリームを振る舞った。生クリームと梅のジャムはつまみ食いして回っていた聖樹にも好評だったようで、どんどん減っていく。天命も和菓子を並べ、新学期への期待や修学旅行の話に花を咲かせていると、龍麻が一句詠み上げた。
 花冠を作っていた綺羅良を誘い、散策から戻ってきたレナにも声を掛ける。

 一緒に、春を探しに行こう。


 風の冷たさにナイアは首を窄めた。天気が良いからと薄着で来たけれど流石にまだちょっと寒い。黙々と花を眺める愛夢は言わなくても判る事を言う自分を想像して、にやけた顔を誤魔化す為に答えを期待していない問いをナイアに向けた。
「それは山茱萸ですね」
 思わぬ所から答えが返り、ぎょっとして振り向く。
 生薬として使えると周りにも説明して回っている散人は、彼なりに楽しんでいるのだろうか。
 くしゃみをしたカイトに燐音が温かい紅茶を差し出した。前よりは上手くなっているはず、と胸を張る燐音にお礼を言って、この温かさはそれだけではないだろうとにっこり笑う。知り合って一年。呼び方を改めて更に距離が縮まったに違いない。
「うわあ。上からはいい景色なっ」
 ジークヴァルトの手を引いて流火がはしゃぐ。日陰に張ったままの霜を踏み締め、ぱりぱりとした感触を楽しみながら丘を登る。流火を肩車してやれば遠くの稜線と町の風景がよく見えた。
 ジークヴァルトが深呼吸していると褐色の粘つく物が垂れてくる。
「にゃああっ」
 悪びれなくみたらし団子を食べていた流火にジークヴァルトはくすぐりの刑をお見舞いした。
 梅林から梅の香りが流れてくる。
 昔家族で見た景色を思い出しながら昂獅郎は梅を眺める。バードウォッチングをしている露やお弁当を広げるひむか。いつも二人に引っ張られるだけでなく、元気を分けて貰っている。そう思うと感傷も吹き飛んだ。クラスが変わったとしても友情は無くならないと露もひむかも微笑んだ。
 カップルや結社だけでなく、クラスメイトとしてお花見に来た者達は他にもいた。義衛郎が禍月のおかずを誉めれば、引け目を感じてしまった華呼の餡バタ入りおにぎりを美味しいと言って普通に食べる裕也。禍月のたこさんウィンナーを作る姿に吹き出したいつきはその餡バタばかり引いてしまい、奈央に笑われっぱなし。裕也が話を振れば思い出話は尽きない。
 同じ一年を過ごしたクラス、仲間。
 このクラスで良かったと華呼は感謝する。もう少し一緒に遊びたかったと心残りを告げるいつき。楽しい高校一年だったとお礼を言う義衛郎に皆の声が重なる。
 半年ぶりの日本で初めて見る梅は零路に感動を与えた。久しぶりのデートに誘ってくれた来夢は気恥ずかしいのか言葉少なに歩く。この言葉を受け入れてくれるだろうか。どの花よりも綺麗だと紡いだ零路をはぐらかして逃がれようとする来夢を零路は引き留めた。
「これからも、ずっと来夢と一緒にいたい」
 不意打ちの口づけは、はにかむような笑顔と言葉で受け入れられた。
 李の手を引いて歩く柾世の姿はお父さんみたいだなぁと紫空は思う。手の中で鈴の音を立てる薺に反応してぴこぴこと李の耳が動く。じっと見ていたせいか、からかうような視線を向けられて紫空は慌てて否定した。まさか李に嫉妬してたなんて言えない。それでも、柾世の視線はそれすら見抜いたかのような意味合いで、顔を背ける彼女を柾世は優しく抱き上げる。
 いつもより高い視界は彼と同じ視線の高さ。織物のような花の濃淡に隠されたいと紫空が呟けば「隠されるより包まれたい」と柾世は口づけを受け入れた。李は少しだけ見ないふり。
 恋人と盟友。沙紀は事の成り行きを見守っていた。呼ばれて来た悠は口が重くなっている芽亜に嘆息して先に口を開いた。沙紀の話題なら少しは沈黙が無くなるかと思ったが、彼女はますます縮こまっただけだった。二人の並ぶ場所に私の居場所はない……、そんな風に思う芽亜に悠は冷たく突き放すように――けれど、一番大切なことを伝える。
 梅の花弁が足跡のように落ちていた。ココを戦いの場以外で紹介することが出来たキッカは今後のことについて話す。留学すること、気になる人が出来たこと……。言乃はもっぱら聞き手に回っていたが、高校の制服で再会することを約束してくれた。
 花形のハム。塩漬けの菜の花、錦糸卵。可愛らしい出来映えに感激しながら百花は手鞠寿司を頬張る。手伝ったけれど本当はおうちの人が……と小さくなる熾火に百花は気にした風もなく食事を続ける。嘴のような口を大きく開けてロクも残さず食べてくれたので熾火は安心した。
 百花はふわりと微笑む。熾火がよく笑顔を見せてくれるようになったこと、それは百花にとって花が咲いたように嬉しいことで。
 梅の下で寄り添って空を見上げる。耳元で交わされる言葉は「大好き」。
 一年ぶりに見る梅は美琴の立場に関係なくそこに立っていた。これから変わることもたくさんあるだろう。それでも、ゆっくり流れる時間が好きだとリネは言った。梅林を背にスバルと声を揃える。
『ミコさん、御卒業おめでとうございます』
 いつまでも大事な先輩。これからも変わらず、仲良くして下さい。
 リネがそう言い終えた瞬間、美琴の目から涙が零れる。さよならじゃないのに寂しくなって目から溢れそうになる涙をスバルは拭った。泣かないでと頭に乗せられた銀が温かくて。
 二人は美琴から強く抱き締められた。涙と笑顔の混じった声で「こちらこそ」と返す彼女は幸せそうだった。

 頂から傾き始めた日の下で沙環と灯里はお昼寝をする。沙環が髪を梳けば気持ちよさそうに灯里は身じろぎした。頬に舞い降りた花弁を握らせてやり、沙環は上から手を重ねる。お弁当のお礼を言えば、くすぐったそうに少女は微笑んだ気がした。
 色をテーマに花探しをする蒼馬達に混ぜて貰った綺羅良はご機嫌。黒猫になって天命の膝でうとうとしている。
「やっぱ手加減なしかよ!!」
 野原を過ぎる剛速球に悲鳴が上がる。お揃いのTシャツを着てキャッチボールをする眞風は壱球に遊ばれていた。そろそろお茶にするかと引き上げた壱球は天命を呼んだ。野に帰ってしまいそうなほど辺りを散策してきた幽兵は寒いと聞いて冷たい麦茶を持ってきたらしい。蒼馬の手作りすあまを見て警戒する。激甘から激辛まで、まともな味まで混ざったら大変……と蒼馬が言った側から口に入れた壱球が顔を顰める。同じく齧り付くようにして口に入れた幽兵は余りの甘さに吐き出しかけ。最も危険と思われる激辛は――顔色一つ変えず、天命が食べていた。
 護の投げたフリスビーを狼に変身した昂志郎がキャッチする。人になったり狼になったりする昂志郎に合わせ、護は上手に風に乗せて円盤を飛ばしていく。赤いフリスビーが日光を反射し、その様子に魅せられた夢緒が投げて欲しいとせがんでいる。
 淡い梅の花が見える場所。
 てん、と音を立てて鞠が飛んだ。もう卒業なのだと一子は鞠を蹴る。卒業おめでとうの言葉を乗せてエルメスが受けた。衣装を着こなした摩那がサッカーの如く蹴り飛ばしてしまっても、紅慈が巧みに鞠を円の中央に戻す。一年間の感謝を込めて、歴史を感じながら。
「ほら、行くわよ」
 丘は梅の香りに満ちていた。
 チェロを取り出したフォモールは風を感じながら弓を弦に添えた。ゆっくりと曲を奏で始める。
 春の息吹が丘から町へ。
 新たに咲く花を見付けては、皆微笑むだろう。
 春は来ている。


マスター:ナギ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:93人
作成日:2009/03/14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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