<リプレイ>
● 「海って何度来ても不思議だねえ」 山育ちの酒井森・興和(朱纏・b42295)にとって、どこまでも続く水平線の眺めはまだまだ物珍しい様だ。先程から興味深そうに、岩場に寄せては返す波や遥か彼方に見える船影を眺めている。 「それにしても、のどかな所ですね」 杉内・和巳(燭龍・b27212)は逆に、ひなびた港町の景色を見渡してそんな感想を洩らす。 静かな海沿いの道を歩いているのは「町外れの古屋敷」の面々。 海中温泉に発生した残留思念を駆除すべく、現場へ向かっている所だ。 「ええ、天気も風も穏やかだし……ねぇ、あれじゃない?」 和巳に応えかけた所で、風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)が海のほうを指差す。 「どれどれ?」 「ほら、あそこ」 「えっ? ……あぁ!」 莱花の指差す先、大川・侑麗(太陽と月の光輝・b56060)もワンテンポ有ってようやくそれらしい潮溜りを見つける。 「なるほど、確かに秘湯だな」 レーヴェ・フォレム(金色焔狐・b31750)もその温泉(らしき潮溜り)を見て然りと呟く。 周囲に目印になりそうな物も見当たらず、ここに温泉があると知らなければ見つけるのは困難だろう。 「……はい、間違いありませんね」 真神・智尋(誓いの守護者・b41226)は持参した写真に移っている岩場の景色と目の前の風景を見比べ、こくりと頷く。 「おんせん、おんせんーっ」 トトッと、軽い足取りで岩場を駆け出す百百・東風(おおかみ・b56793)。 「温泉に残る思念……覗き……ルー君に赤いおリボンを付けたら、おとり斬りの成功率上がらないでしょうか?」 イグニッションを済ませた星宮・雪羽(雪花猫の人形師・b04516)は、真ケットシーのルゲイエをチラリと見てそんな計略を思いつく……が、幸い実施するには至らなかった様だ。 ルゲイエも内心ほっとした……かもしれない。 「準備はいい? いくわよ」 ともあれ、莱花が詠唱銀の入った袋を取り出していよいよゴーストとのご対面だ。
● 「おやおや……随分と大勢……しかも、うら若き乙女ばかりがこんなにも」 莱花の撒いた詠唱銀が煌きながら次第に人の形を作り、やがて一人の中年男が姿を現した。 まるで覇気の無い死人の様な(実際死んでるが)表情に、瞳だけが鋭く光り、主に女性陣へと向けられている。 「これはまた性質の悪そうな……」 和巳は真モーラットピュアのあんみつに前を守らせつつ呟く。 「おじさん、もしかしてへんたいさんなの?」 「変態さん? 違うよお嬢ちゃん、お嬢ちゃんみたいな小学二年生くらいの幼女がお風呂に入ってる所をこっそり見るのが大好きなだけの極めて普通のお兄さんだよ」 東風の問い掛けに、薄ら笑いを浮かべながら答える男。 「……うわぁ……」 百戦錬磨の能力者達さえも、思わず気圧されるほどの禍々しいオーラを纏っている。 「なんて不届きで下劣な地縛霊なんでしょう。さっさと退治してしまいましょう」 魔方陣を広げつつ、凛と良い放つ智尋。 「いいねぇ、一見大人しそうなのに芯の強い女の子……中学三年くらいかなぁ? 中学生って言うのは成熟する前の独特の魅力があるよねぇ」 だが、男は臆するどころか一層楽しげに、下品な笑い声を上げてじろじろと智尋を見遣る。 外見を見て何年生くらいか特定出来る特技を持っているらしい。 「この破廉恥ゴースト! 女の子の敵には容赦しないよ!」 年長の侑麗が雪の鎧を纏いつつ、二人を庇うようにしてびしっと言い渡す。 「おやおや、今度は王道の女子高生かい? ピチピチの若いオーラが溢れ出てて眩しいくらいだねぇ」 滴る涎を拭いつつ、一層下卑た笑みを深くする変態男。 「初の任務の相手がこれか……ローズマリー、援護を頼む」 レーヴェはサキュバス・ドールに命じつつ、自らは地縛霊との距離を詰める。 彼にしてみればとんだ初陣だが、最初に出来るだけ性質の悪いゴーストを退治しておけば、その後が楽になるという説も……。 「女の子を狙う変態なんて、このままにしておけないわね。皆で正義の鉄槌を食らわせてあげましょう」 莱花はやや引き気味の皆を励ます様に言い、地縛霊へ向けて呪詛を紡ぎ始める。 「美しいお嬢さん、貴女がこの子達の保護者かい? 小学生幼女から大人の女性まで、選り取り見取りじゃないか」 莱花の呪詛呪言は少なからずダメージを与えたが、地縛霊は一切怯む様子を見せない。 それどころか、女性陣を代わる代わる眺め回しては満悦した表情で笑みを浮かべるばかり。 「死後も女の子に執着してるなんて、生前は変質者だったのか……」 と呟くのは、シャーマンズゴースト・フレイムのユーカに援護を命じて間合いを詰める興和。 「変質者? んっん〜、違うなぁ……美しい物を見たい、触れたい、味わいたいと思うのはごく自然な欲求ではないかね?」 が、地縛霊は悪びれる様子も無い。 「つまり、お風呂を覗き見する、ヘンタイさんなんですね」 魔方陣を展開しつつ、雪羽は皆と地縛霊の遣り取りを総合してそんな結論にたどり着く。 「……ヘンタイさんってなんですか?」 たどり着くが、ヘンタイが何なのかはイマイチ理解していない様で周囲の仲間達に尋ねている。 「お兄さんが手取り足取り、プライベートレッスンしてあげようか。いずれにしてもここは温泉……皆早く服を脱いで、裸の付き合いと洒落込もうじゃないか?」 「……温泉には入らせて貰うわ。あなたを倒した後でね!」 かくて、凶悪な邪気を発する地縛霊と「町外れの古屋敷」の面々との戦いの火蓋が切って落とされた。
● 「早めに片付けた方が良さそうだ。和巳、いくぞ」 「そうですね、女性陣にも目の毒でしょうし」 レーヴェの拳が炎を帯びると同時に、和巳の手からは空を裂く水の刃が放たれる。 「男の裸には興味が無いんだよなぁ」 地縛霊は相変わらずの薄ら笑いと共にそんな事を嘯く。 「はっ!」 ――ゴオォッ! 眩いばかりに炎が広がり、薄ら笑いの地縛霊を飲み込む。 「やったか……?」 「手ごたえは有りましたが……っ!」 「甘い甘い……私がこれしきの、それも男の攻撃で倒れるものかね」 だが、魔炎に包まれながらも地縛霊は健在。 尚も能力者達(主に女性陣)へ粘着質な視線を送り続けている。 「こんな物じゃボクの探究心を挫く事は出来ないよ……さぁ、早く邪魔な物を脱ぐんだ。お嬢ちゃん、お兄さんが手伝ってあげるからバンザイしてみようか」 「へんたいさんは、めー! なのっ」 東風ににじり寄ろうとする地縛霊へ、パラライズファンガスが放たれる。 「な、何だ……動けない? 目の前に宝の山があるというのに……っ!」 頭にキノコが生えた地縛霊は、動きを封じられる。 「女の敵には天罰!!」 智尋はその隙を突く様に雷の魔弾を叩き込む。 ――バシィッ! 「こ、これしきの傷……女の子の裸を見れば……さぁ、君……早く……」 なんだかんだ言いながらも、ダメージが蓄積し始めた地縛霊。苦悶の表情を浮かべながらも、侑麗をじっと見つめて急かす。 「いやあぁっ、こっち見ないでーっっ!!」 ギラつく眼に凝視された侑麗は思わず寒気を覚え、手の平に出現させた光の槍を投げつける。 ――ドスッ。 「おごっ!?」 槍は地縛霊の鳩尾を貫いた。 「は、はぁ……はぁ……此処の温泉は傷を癒す効果もあるんだよ……さぁ……一緒に入ろう」 それでも、男はまだ倒れない。凄まじいまでの執念だ。 「G並にしつこいわね。興和君、雪羽ちゃん、トドメ刺すわよ!」 「了解だよ。それにしても……ここに来てまだ女の子? ある意味感心するな。残念ながら僕にはその心情解らないけど」 「ゆきうをそんなに見たって、面白くないですよ?」 莱花は二人に呼びかけ、呪言の詠唱を始める。 これに応えて炎弾を放つ雪羽。 「ぐうおおっ!! まだだ……まだ終わらんよ……」 呪詛の響きと業火に苛まれながら、尚も現世にしがみつこうとする地縛霊。 「こんなのに噛みつくのは気が進まないけど、そんな事言ってる場合でもないしねえ」 興和は地縛霊の執念に半ば呆れつつも、その首筋に噛り付く。 「ぐわあぁーっ!! ……お、おのれ……例えこの身が滅びようと……君達の入浴シーンは必ず見届けてやる……」 「入浴シーンって言うけど、どうせ水着よ?」 「何……だと……? 温泉に水着……嘘だ……嘘だぁーっ!!」 莱花の言葉に耳をふさいだ地縛霊は、断末魔の悲鳴を上げながら消滅していった。 「水着着用が余程ショックだったようだな。怪我はないか?」 レーヴェの問い掛けにこくりと頷くローズマリー。 「何だか酷く疲れましたね……」 やれやれと溜息をつく和巳。あんみつも無事の様だ。 「はやくおんせんはいろー、おんせん、おんせんーっ」 「そうですね、心身共に癒したい気分です」 東風の言葉に智尋、そして一同も頷いた。
● 「いくよーっ」 ――ドボーン! スクール水着姿の東風は、岩の上から温泉へダイブ。大きな水柱を立てる。 「山奥の秘湯なら幾つか入ったことがありましたが、海の秘湯もいいですね」 豊かな藍色の髪が濡れない様、お団子に結っている智尋。 レースをあしらったブルーの可愛らしい水着姿でゆっくりと湯に浸かる。 「うん、山と比べると四方が開けてるのはすごい開放感だね」 同じく山育ちの興和は、空に浮かぶ白い雲を見上げながら海ならではの開放感を満喫している。 「わぁ、みんなの水着姿とってもかわいー♪ 雪羽さんの水着も凄く素敵」 「そ、そうですか? 有難う御座います……あ、来られなかったお兄ちゃんの代わりに、私が飲み物お給仕しますね〜」 侑麗の賛辞に照れつつ、クーラーボックスを抱える雪羽。 白いワンピースタイプの水着にロングパレオを巻いていおり、大人っぽい落ち着きの中に、胸元のフリルがさり気無い可愛らしさを演出している。 「アイスクリームも作って来たんですよ〜。きゃっ!」 が、岩場につまずいて派手に転倒。 卒業しても、ドジっ子属性は抜けていない様だ。 「ちょっとちょっと、大丈夫?」 慌てて駆け寄る莱花はと言うと、セクシーなビキニの上下。 さすが卒業生らしくすっかり大人の魅力だ。 「大丈夫です〜。クーラーボックスの中身は死守しました!」 幸い雪羽も怪我は無かったようだ。
「海水浴と温泉を一度に楽しめるなんて贅沢な気分ね?」 改めて、雪羽の死守したアイスを片手に温泉に浸かる莱花。 「ええ、あんなゴーストが居てはこうしてゆったり景色を眺める事も出来ませんからね」 と、岩に腰掛け景色を眺める和巳。 「ああ、僕も何かと勉強になった気がする」 同様にレーヴェ。 初任務の相手として適切だったかどうかは別にしても、何かしら得る所は有ったのだろう。 「……キャンッ!?」 「あぁほら、取ってあげるからジッとして」 狼に変身して磯の生き物と遊んでいた東風は、ちょっかいを出したカニに思わぬ反撃を受けてしまったらしい。 侑麗が駆け寄ってカニのハサミを外してやる。 「でも、私もなんだか少しのぼせてしまった様な……」 雪羽も湯船を出て、パタパタと顔を扇ぐ。 「それじゃ、スイカが冷えるまで少しその辺を探検しましょうか?」 莱花の提案で、一行は少し岩場を探索する事にした。 帰ってくる頃には、海水でスイカも冷えているだろう。
「何か面白い生き物とか居ないかしら……って東風ちゃん、今度は何咥えてるのよ」 岩場を見回していた莱花だが、最初に目に入ったのはヒトデに噛り付いている東風。 まぁ、毒もないし噛み付かれる心配も無いので放置しておいても大丈夫だろう。 「ねぇ、莱花さん見て」 「ん?」 侑麗の声にそちらを向いてみると、彼女の手の上には虹色に輝く貝殻。 「綺麗……!」 「ほら、たくさん落ちてるよ」 岩場の間に溜まった砂の上に、無数の貝殻が落ちている。 夢中で拾い始める二人。 「女の子達の水着を見て可愛いな、とは思うけど……さっきの地縛霊の気持ちは良く解らないな。蜘蛛族の僕でももうチョイ大人になれば解るもんだろうか」 無邪気に貝殻を眺める女性陣の様子を見て、小首を傾げる興和。 「さて……どうでしょうね。でも、先ほどの地縛霊と比較するのはさすがに……」 「そうだな。男が皆さっきのゴーストみたいだったら困る」 そんな言葉を交し合う和巳とレーヴェ。 美しい物を愛でるのは良い事だが、やはり節度と言うのは必要だ。 「そこの三人は難しい表情で何の話をしてるの?」 「いや……」 「そろそろ戻ってスイカ食べましょ」 ひとしきり貝殻を集め終わった女性陣に続き、三人も温泉へと戻る。 ● スイカを食べてもう一度温泉に浸かって暫くすると、そろそろ夕焼けが水平線を染める時間帯。 帰り支度を始める時間だ。 「今日はとっても楽しかったです。また、お出かけしたいですね!」 雪羽は空になったクーラーボックスを持ち上げながら、にこりと笑顔を浮かべる。 「ええ、私も皆さんとご一緒できて嬉しかったです。これからもよろしく」 智尋も笑顔で応えながら、ぺこりとお辞儀。
海中温泉に巣食う変態的な地縛霊を退治し、また仲間同士の友情を深める事にも成功した「町外れの古屋敷」の面々。 彼らは温泉で火照った体を心地よい潮風で冷ましながら、ゆったりと凱旋の途についたのだった。
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参加者:8人
作成日:2009/05/23
得票数:楽しい14
笑える1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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