今日の欠席はゼロか、みんなエライなぁ


<オープニング>


 かつての賑わいを忘れた学校に、一つの影が足を踏み入れる。雨風をしのぎたくて、山間に位置する廃校へと訪れた初老の男性だ。腕をさすりながら軋む戸を閉め、暗闇に身を沈める。
 まともに横たわれる場所を探す彼は、月明かりの中に浮かぶ手を見た。
 教室と廊下を隔てる壁。そこには開放感を覚えるガラス窓がずらりと並んでいて、その殆どは割れてしまっている。けれど浮かんだ手は、見紛うことなく窓ガラスにべったりろ貼り付いていた。
 教室から訪問者を窺う無数の手と、何も見えないはずなのに刺すような視線。
 そして重なったのは、幾つもの笑い声だ。
 男性が恐怖を覚え踵を返す。そこで彼は気付いた。
 小脇に何かを抱え、闇から現れたのは若そうな男だ。優しげな顔立ちと、少しばかり心許ない体格。教室に隣接する廊下で立ち尽くした男性を見やり、男の表情に色が灯る。
 ――ほらほら座れ。出席を取るぞー。
 途端に響き渡ったのは、教師らしき男の言葉。しかし目の前の男から聞こえたものではない。
 教室から零れてきた声だった。生徒らしき幼い声も、答えるように次々と放られる。
 そして目の前の男は、侵入者となった男性へと口を閉ざしたまま、抱えていたものを振りかざす。
 男性が死の間際に見たのは、シミの滲むしなびた冊子だけだった。

「テストお疲れ様〜。終わって早々だけど、能力者さんに地縛霊退治をお願いしたいんだ」
 井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)は山奥に佇む廃校の写真を見せ、早速本題に入った。
「もう何十年も前に閉ざされた分校だよ〜」
 廃校となった小学校ゆえ、今後近づく者はそう多くないだろう。
 しかし犠牲者は出てしまったのだ。たとえ出なかったとしても、ゴーストを野放しにはしておけない。

 ゴーストは一階にある5、6年生の教室の前へ通りかかると出現する。
 正面玄関から入って右折すると職員室だ。次にトイレ、5、6年生の教室が並んでおり、その先に3、4年生の教室と図書室、体育館への連絡通路がある。地縛霊の男はちょうど職員室付近の廊下に現れ、教室へ近づいていく。
 小さな学校だったこともあってか、二学年で一つの教室を使っていたようだ。1、2年生の教室やその他授業に使う教室は、二階にあるため特に関係無いだろう。
「廊下は一般的な木造校舎の廊下って感じだね〜。ただ教室のある壁に窓がついてるんだ」
 廊下を通れば、戸が閉まっていても教室内の様子がわかるようになっている。しかし今となっては、その窓もほとんどが枠を残すのみとなっていた。
「地縛霊が出現してからはずっと5、6年生の教室のその窓にね、こう、手がべたべたーっと」
 パントマイムのように手の平を動かして、恭賀が状況を説明する。廊下を覗き込むかのように、幼い手形が無数につくというのだ。その上、教室内の日常と思わしき声までもが校舎内に響き渡る。
 しかしいずれも、特に不利となる効果は無い。精神的に辛い人ならいるかもしれないが。

 地縛霊は男性型が一人、あとは教室から飛び出す形で子どもの地縛霊が二体いる。
 子どもの地縛霊は、先生先生、ときゃたきゃたはしゃぎ回るように、廊下へ飛び出そうとする。ちなみに教室内では机も椅子も当時のままだ。もちろん当時より荒れてはいるが。
 子どもはそれぞれ、少年と少女の姿をしている。
 駆け寄ると回避が難しい箇所を狙って、迷わず蹴りを入れてくるのだ。
 他にも、少年はドッジボールに使う大きさのボールを、距離を問わず四方八方へ投げてくる。直撃すると気絶してしまうため、侮れない技だ。
 少女に至っては、近寄り握った箒で鋭くはたくこともある。箒から放たれる粉塵は体内へ入り、相手を内側から徐々に石化させていく。油断は禁物だ。
「で、男性の姿してる地縛霊だけど……見た目は先生、みたいな感じだね。昔の」
 手に持った名簿は赤く滲んでくたびれているが、彼の武器は間違いなくそれだ。
 名簿で頭を小突かれると、その見目とは異なりじわりと痛みが滲んでくる。攻撃されると同時に衝撃波を注ぎ込まれた――と考えるのが、わかりやすいかもしれない。威力も侮れないため、注意が要る。
 また、名簿を開き誰かの名を読み上げることがある。名指しされた者は手足の自由だけでなく心をも奪われ、『先生』である地縛霊を護るように行動してしまう。

「他に一般人はいないし、夜だから暗いけど月明かりはあるよ〜」
 恭賀はそこまで説明を終えると、一度能力者達の顔を確認してからにっこりと微笑んだ。
「いってらっしゃい、能力者さん。ただいまが聞けるの、楽しみに待ってるねー」

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参加者
弥栄・未生(武装主義・b00063)
楫・涼音(マグスのしっぽ・b11342)
カイ・ティンタジェル(終節・b15618)
朝永・柾世(栄光の架橋・b16442)
朝月・紫空(夜想曲・b17266)
テラ・マキャフリー(毒ロリ・b23387)
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)
紫陽院・禊(絶望の歌声・b43939)
月乃葉・優生(命を刻む懐中時計・b45954)
下郡山・志江(白虎の森・b59304)



<リプレイ>

●廃校
 賑わいを映し出していたであろう窓ガラスも、もはや無残に跡を残すだけとなっている。
 暗がりに浮かぶ影は、まるで訪問者たちを闇へ誘うかのように、ぽっかり口を開けた廃校の正面玄関へと続いていた。
 床を確かめ、弥栄・未生(武装主義・b00063)が細い息を吐く。
「思い出をこんな形にされては……誰も浮ばれん」
 こんなところにゴーストが出るとなれば、まるで学校の怪談のようだと、楫・涼音(マグスのしっぽ・b11342)は少しばかり肩を竦めた後、一緒に連れてきていた真ケットシー・ガンナーのアンリへ、これからの指示を向ける。
 ――教師の地縛霊が出現するのは我々より後方……厄介だな。
 カイ・ティンタジェル(終節・b15618)はまぶたを伏せ考え、仲間達を振り返た。
 無言のまま陣形を整え、能力者達は遥か彼方に待つであろう図書室めがけ、直線状の廊下を駆け抜ける。
 地縛霊が教師らしき姿のそれ一体のみであれば、特に気にする必要もなかったことだろう。しかしこの現場では、教室から二人の地縛霊が出現することも判っている。
 図書室は五、六年生の教室よりも更に奥。挟撃を免れるための手段だった。
 そんな彼らの傍ら、件の教室と廊下を隔てる窓枠がおぞましい姿へと変貌していく。
「……手形も声も、まるで学校の怪談だな」
 朝月・紫空(夜想曲・b17266)が脇を一瞥しそう呟いた。
 それもそのはずだ。あるはずのない窓にべったり貼り付いた無数の手が、通り過ぎる能力者達を窺う。突き刺さる幾つもの視線も本来ならばあり得ないものだ。
 驚かぬよう注意を払っていた月乃葉・優生(命を刻む懐中時計・b45954)も、貼り付く手のみを確認し過ぎ去る。
 恐ろしい現象をなるべく見ないようにと、烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)に至っては視線を逸らしたままで。
 ――声は平気だけど、手形はやなのね。
 生々しさに身震いをする頃、能力者達は勢い余って飛び込んだ図書室前の廊下で身を翻す。
 闇の中からぼんやりと、近づいてくる人影が浮かんだ。細身の体躯はしかと背筋を伸ばしたまま、視界に捉えられる距離まで寄ってくる。
 ――教え学び巣立った人達にとって、ここは大切な校舎。
 朝永・柾世(栄光の架橋・b16442)の握った拳に、自然と力が篭もった。悲しみの連鎖を断ち切ろう。秘めたその意志によって。
 布陣を終えた能力者達の瞳に、若き青年の姿が映る。彼が小脇に何かを抱えるのは赤黒く変色した冊子。教室をとうに過ぎてしまった能力者達をゆっくり眺めた刹那、手形のこびりついた教室から嬉々とした声がこぼれてくる。
 ――ほらほら座れ。出席を取るぞー。
 学校生活の日常。そこから飛び出したのは、目の前の若者と声だけではない。
 きゃたきゃたtと叫びながら、二人の子どもまでもが非日常へと姿を現した。ボールを抱えた少年と、箒をふりかざす少女だ。
 間違えるはずもない。いずれも、能力者達が討伐するべきターゲットで。
「さて、授業といくか地縛霊」
 テラ・マキャフリー(毒ロリ・b23387)は、ケットシー・ワンダラーのリリィを前にし不敵に笑む。
「始業ベルは鳴っとらんがな」
 代わりに響くのは、戦いの始まりを示す音だった。

●学び舎
 彷徨う人魂を思わせるように揺れる。各自が用意した灯りだ。月明かりにより一層の眩さを加え、冷え切った校舎内を照らし出す。
 行くぞ、と宣言とともに手の平へ紫空が寄せたのは、水の流れだ。やんちゃ盛りに見える少年の地縛霊へ向け、鋭く投げる。
「お願いな」
 共闘する真ケットシー・ガンナーの李へそっと手を伸ばし、紫空は李の頭を撫でた。主の期待に応えるべく、李は凛々しさを帯びながら魔力を供給する。
 ここの地縛霊はどのような経緯で亡くなったのだろう。涼音は疑問に首を傾げ、指先で術式を編みこんだ。
「いけっ、禍炎剣!」
 涼音の許を離れた魔弾は、猛々しい炎を伴い少年を叩いた。アンリも続けて射撃を仕掛けるが、足を止めるには至らずに。
 横跳びのごとく避けきった地縛霊の少年は、そこで抱えていたボールを四方八方へほうり始める。一見すると適当に飛び交うボールだが、バウンドの威力も添え広範囲へ弾ける一撃は、まともに喰らうと気を失ってしまう。
 幸運にも、能力者達や使役ゴーストは皆、そのボールを防ぐか避けることに成功していた。
 ――小学校、かあ。
 下郡山・志江(白虎の森・b59304)はふと、自分達を包む今の環境に想いを馳せる。特殊な能力を有するわけではないが、教室からは絶えず学校らしい会話があふれてきた。
 掃除当番について揉めていたり、ふざけあって走り回っているのを先生に咎められ、座っても尚飽き足らず余所見をしあっていたり。
「机、小さいな……」
 抱いた感情を押し込めるように息を呑み、志江は体内に眠る気を覚醒させた。柔らかい春の草原を思わせる髪が逆立ち、全身を虎の模様が這う。
 その間、紫陽院・禊(絶望の歌声・b43939)は幻夢の守りで仲間達を優しく包み込んでいた。
「何が原因でゴーストになっちゃったか、わからないけど……」
 禊が一度だけ瞬いた眼差しで、地縛霊を射抜く。
「やっぱり……人に危害を加えるのはいけないと思います」
 ぽつりと呟きが床へ転がる頃、若き教師の姿をした地縛霊が、持っていた冊子をぱらりとめくった。
「リリィは欠席か?」
 ぴくりと能力者達が反応する。教師が読み上げたのは、職員室側に佇んでいたリリィだ。呼ばれた当人は、教師の方へ向き直り心を奪われたまま、能力者達を優雅な振る舞いで誘う。
 リリィの踊りに翻弄されたのはごく僅かで、涼音が連れてきたアンリ、そして柾世の二人がその場で当人たちらしい踊りに明け暮れる。
 前へ立ちはだかる優生が、そこですかさず魔狼の気高さを宿し、力を蓄えた。
 ――もう誰も来なくなった廃校なのに、今もずっと下校できないのね。
 構えた優生の刃は止まった時間を報せるかのように、機会を窺う。
 刹那、地縛霊の少女が掲げた箒を振り下ろし、粉塵でリリィを侵す。
 ようやく自由を取り戻したのは柾世だ。踊りから解放された手で、そのまま炎の弾を撃ち出す。視界に映る少年と、そして教室からわかる手跡の数々を横目に。
「休み時間は終わりだよ」
 長く続きすぎた時間を再び取り戻すために、柾世の弾が少年を焦がした。
 矢継ぎ早、未生の操る腕を模した黒き影が、少年へ容赦ない一撃をくだす。
「思い出が積もる学校で、この様な事件が起きたことは悲しいことだ」
 かつてここで過ごした人々の想い出を、むげにしないためにも。更なる被害を出さぬためにもと、未生は決意を新たにして。
 そのとき、ふわりと渦を巻いた風をメジロが味方につけた。強風がもたらすのは加護と代償。それを背負い、メジロはゴーストを見遣る。
 ――う〜ん……まだ授業をしているのかなぁ。
 メジロが小首を傾いでも、ゴーストは淡々と自らの欲を充たすために動くのみだ。授業をしているつもりなのだとしたら、とそこまで考えた思考をメジロは一旦遮断する。
 女王蜂のごとき逆鱗を解き放ち、テラも攻撃に加わっていた。見慣れたリリィの様子を知り一瞥すると、我に返ったリリィが心底申し訳なさそうにシルクハットを整える。
 ――これで攻撃参加する際、少しはましになろうか。
 攻めに転じた際のことを考え、カイは魔法陣を眼前へ生成した。高める術式の威力を胸に抱くのとほぼ同時に、教師が再び名簿を開く。
「紫陽院は今日も来てるかー?」
 禊だ。名前を呼ばれ一瞬縮こまった禊は、すぐに両手で顔を覆うようにして突然わっと泣き出した。仲間達の困惑をよそに、禊はキーボードを叩き鳴らし衝撃波を隣の紫空へと飛ばす。
 不意に、少年が前衛として立つ志江の眼前へ駆け寄り、小柄な身の弱い箇所へと蹴りを入れた。重たく圧し掛かるような威力にややふらつきながらも、志江は散りばめた星空に似た電光剣をしかと構えなおす。
「早く天国にいってもらわないと」
 自分の言葉に頷いてから、涼音が少年めがけ魔弾を撃ち出した。戦場を駆ける魔炎が一気に敵を覆い、焼いていく。
 すかさず長き踊りから解き放たれたアンリが、寸分狂わぬ射撃で少年の足をその場へ縫いとめる。
 好調な仲間達の流れに乗って、優生がここで凝縮された恨みの念で得物を染め上げた。
 ――いつまでも終わらない学校は、カンベンして欲しいかなぁ。
 苦笑いで口角を歪め、優生の力強い一撃が少年を押す。
 未生がここで、両手の得物を垂らす構えのまま、少年へ影を飛ばした。
「授業の終わりは、疾うに鳴っている」
 裂いた傷口に地縛霊は痛みさえ訴えず、直後、教師が名簿をぱかっと開き見て。
「きます……!」
 志江が注意を促すのと同時に、血の気の無い唇が名を紡ぐ。
「弥栄〜。弥栄は来てないのかー?」
 ぐらりと意識が揺れ、未生はその瞬間から我を忘れてしまった。仲間達を押し退けるようにして、教師を庇おうと立ちはだかる。
「今すぐ治すのね!」
 すかさずメジロが清らかな風を呼び、戦場へ吹かせることで自我を奪還する。
 けれど敵も動きを鈍らせることはなく、少女の振りかざした箒がリリィを石化の呪いに侵す。
 その仕草にか言葉にか、少女の眼差しが志江をちらりと見遣る。
「そこでターンじゃよ、そして回れ!」
 機会は逃すまいと敵を指差したテラに、リリィは頷くような素振りを見せてから自らを軸に回転し、鋭さで地縛霊を切り裂いた。
 再び、少年がボールを頭上高く持ち上げる。
「こんな狭い廊下でボール投げなんて危ないよ」
 咄嗟に突っ込んだ志江の一言に、一瞬少年の動きが鈍ったようにも見えた。しかし完全に制止させることは叶わず、ボールが戦場を跳ね回り能力者達を痛めつけていく。
 リリィがその苦痛に耐え兼ね姿を消し、走る痛みに気絶する者も数名出た中、仕返しとばかりに柾世が炎の弾を射出する。まとわせた剣から放たれた炎は、迷わず少年を焼き尽くした。
「自分の席に……行くべき処へ、帰らないとね」
 呟きが届いたのか否かもわからない。ただ、今し方ボールで遊んでいた少年の姿は、既に見当たらず。
 空気を切れば澄んだ音が零れゆく。その薙刀を構えたまま、カイが祈りを込めて舞いを披露した。気絶していた仲間が、ぽつぽつと目を覚まし始める。
「人が学ぶ場であって、死ぬ場ではない」
 流れるように少女と青年を見つめ、カイが胸の内を告げた。
「おりしも卒業の時期。静かに旅立って欲しいものだ」
 カイの言葉に同意するように、能力者達の間からも頷く声が届く。誰もが秘める願いだ。
 続けて、色の白い指先を辿らせ禊が白きナイトメアを召喚する。
「……先生の言葉って、なんだかちょっと抗いがたいですね」
 震える声はいかなる心に囚われてか。禊の想いは白き馬に乗り、少女を突き抜け疾走した。

●接戦
 教師の名指しを受け魅了された柾世が、黒燐蟲の淡い輝きを教師へ宿した。威力を増した名簿の一撃が、魅了によって教師の盾となっていた未生へ深々と食い込み、彼の意識を完全に途絶えさせる。
 続けて、少女の鋭い一撃が優生を抉る。すんでのところで滑らせるように威力を削ぐものの、その重みに思わず眉根を寄せて。
「どんな思いで、ここへ留まっているのかわからないけど……」
 身軽さを利用し仲間を引っ張った紫空が、手の平へ挟んだ水で手裏剣を象り、教師の青年を見つめる。そして、どうか往くべき途を示してくれるようにと、願いをまぶたで隠し投てきした。
「いい加減下校の時刻だよ!」
 壁となる自分が倒れるわけにいくまいと、優生が手際よく魔狼の力を取り戻す。叫んだ言葉に少女が箒をくるくると回して遊び、けれど教師は何事もないように佇む。
 カイと禊の漂わせる癒しの術(すべ)が仲間達をたくましく支える間も、地縛霊は待っていてなどくれない。
「テラ・マキャフリー。テラは出席してるか?」
 ぴくりと、テラの指先が応じた。相手を回復する手段をもたぬテラは、能力者の攻撃から教師を庇うかのように、前衛陣へしがみつき始めた。
「魅了されてる!」
 すかさず涼音が報せ、そのまま生み出した魔弾の炎で少女を箒ごと包んだ。しぶとく巻きつくはずだった炎を、しかし少女は振り払ったままの流れで、飛び出してきたテラを叩く。
 ずん、と沈むような衝撃が走り膝を折った彼女を、傍らにいたカイが咄嗟に支える。
 刹那、軋む木の床を踏みしめ脅威の懐へと駆け込んだ志江が、漂う全ての気を味方につけたかのように、力強さを練り上げた。
「私も蹴りは得意技なんです」
 不敵な笑みは挑発を示し、志江の言葉に違わず衝撃波は教師の身体を深く痛みを覚えさせる。
 同じタイミングで、永久の調べを寄せる風をまとったままのメジロが、教師の呼びかけに目を大きく見開き抗う。
「あたしの先生じゃないもん」
 返った答えと弾かれた手段に、教師の表情が心なしか呆然となったように映る。抵抗は攻撃直後の隙をつき、メジロの舞い上がらせた気流は教師の足元から天へと放った。
 一瞬のできごとはまばたく暇も与えず、出席を取り続けた教師を掻き消していく。
 引き戻された風に青年の姿はなく、残された少女へもたらされたのは、李とアンリの重なった射撃。足を引きとめられた彼女に待っていたのは、優生と紫空の終わりを招く真っ直ぐな一撃だった。

●終
 そっと花を供えた未生の手が、名残惜しむように教室を離れる。戻るべき場所へ帰ってほしい。咥内での呟きは、乾く喉に少しばかり染みて。
「先生のもってた名簿みたいなの、見られたら良かったのにね」
 残念そうに息を吐いたのは涼音だ。地縛霊と成ったその真相に近づけるかもと考えたものの、その地縛霊もろとも消滅されてはどうしようもない。
 埃をかぶった教壇へ、メジロは仲間達とともに外でつんできた花を乗せる。
「授業は、もう終わったの」
 だから誰が来ているのか、休みなのかを確認しなくても良いのだと、付け足そうとした声は喉につかえ出てこない。
「……ここにも桜はあるのだろうか」
「来る時に、少しはなれたところにありましたよ」
 ふと浮かんだカイの疑問へ、志江が薄く微笑み答えた。
 紫空と柾世の、皆が愛したであろう校舎を惜しむ会話がぽつぽつと落ちる。
「今までお疲れ様」
 踵を返す際に柾世が壁を撫で告げた。すると、何も知らず巣を張っていた蜘蛛が暢気に糸を引く様を見つけ、思わず苦笑する。
 月明かりに照らされた校舎とも、もう、お別れだ。
「とりあえず、私達の中で欠席はゼロかな」
 何の気なしに優生が嬉々として胸を張った刹那。
 ――そうかそうか、みんな偉いなぁ。
 教室から遠ざかる彼らを、風の囁きが見送る。
 全てを成し遂げ、全員で帰還が叶った能力者達を称えるかのように、優しい音で。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/03/26
得票数:楽しい2  笑える1  泣ける2  カッコいい7  知的3  ハートフル1  せつない17 
冒険結果:成功!
重傷者:弥栄・未生(武装主義・b00063)  テラ・マキャフリー(毒ロリ・b23387) 
死亡者:なし
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