≪Under the Same Sky≫氷上の妖精……?


<オープニング>


「アタシヲウケトメテー! アタシダケヲミテー!」
 可憐からは到底掛け離れた野太い声が氷上に響く。華奢なとは口が裂けても言えない筋肉質の女性が、はち切れんばかりに広がったピンクのレオタードを身に纏い、時折スカートをヒラヒラさせながら、氷の上を舞う。
「あれが氷上の妖精だって言うなら、僕は全力で否定したいよ!」
「これほどの存在……何としても滅しなければなりませんね」
 トリプルアクセルの動きで繰り出される蹴りの連続を回避して、黒瀬・和真(黒のレガリス・b24533)が吐き捨てるように呟き、紫乃月・美桜(春を待つ桜の蕾・b13384)が女性を見据える。
「上手いのは確かですが……負けは認めたくありませんわ」
「風を乱す者……止める」
 己の肉体美をアピールするかのように女性が背を反らし、何故か客席からは拍手の嵐が湧き起こる。その後ろを女性を追うように、芙倭・暦(双つ蝶蝶・b16382)と音衣・蓮真(流るる空・b34008)が氷上を滑っていく。
「大人しくしててもらえないかな?」
 柏木・リク(赤と青の唐辛子・b38226)の攻撃も、まるで女性を嫌うかのように、スポットライトを浴びて黒光りする肉体を避けていく。
「嘘、当たらないってどういうこと?」
「こ、こっちに来ますよ」
 女性の繰り出す回転蹴りをかろうじて避ける津島・燿(緋翔彩華・b14495)と相馬・真理(絆を結びし蛍火・b29620)。見かけとは想像もつかない身のこなしに、ことごとく翻弄される仲間たち。
 しかし、彼らにもスケーターとしての意地があった。そして何より、『彼女にだけは負けるわけにいかない』という共通した思いが、この色々な意味で厳しい戦いを前にしても、彼らを奮い立たせていた。
「さ、そろそろ参ろうかえ?」
 目をそらすことなく前を向いた蓮華院・迦葉(真理託せし白蓮華・b25887)の声で、皆が氷上に飛び出していく――。

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参加者
紫乃月・美桜(春を待つ桜の蕾・b13384)
津島・燿(緋翔彩華・b14495)
芙倭・暦(双つ蝶蝶・b16382)
黒瀬・和真(黒のレガリス・b24533)
蓮華院・迦葉(真理託せし白蓮華・b25887)
相馬・真理(絆を結びし蛍火・b29620)
音衣・蓮真(流るる空・b34008)
柏木・リク(赤と青の唐辛子・b38226)



<リプレイ>

●妖精? いいえ、精十郎です
 照明の落とされたスケートリンクの上、無数の拍手を浴びて一人の妖精が流れてくる音楽に合わせ滑り出す。躍動的なステップを披露する彼女、高く伸ばした手はまるで、自らと共に舞うパートナーを探し求めているかのよう――。
「サア、ワタシヲウケトメテー!」
 幻想的な雰囲気を跡形も無く消し飛ばす野太い声が響き渡り、スポットライトが妖精とは似ても似つかない怪しさに満ち溢れた女性の姿を露にする。今にも切れそうに伸び切ったピンクのレオタードからは、鍛え上げられた肉体が小刻みに痙攣しており、背中には立派な筆跡で『精十郎』の文字とあっては、もはや女性なのかすら疑わしい。
「どうやら受け止めて欲しいそうだが……」
 華麗なステップで向かってくる精十郎から視線を外して、音衣・蓮真(流るる空・b34008)が言葉をかける。
「いや、そこでどうして僕に視線を向けるのか分からないんですけど!」
 言葉をかけられた黒瀬・和真(黒のレガリス・b24533)が慌てふためくのを横目に、柏木・リク(赤と青の唐辛子・b38226)が合いの手を打つ。
「うん、和真になら出来ると思うよ。……オレは正直無理だけど」
「根拠もなしに言わないで下さいよ! ていうか僕にも無理ですから!」
「大丈夫、みんなで協力すれば必ず倒せます。ほら、向こうでみんな、黒瀬さんのことを応援していますから」
 声を荒げる和真の肩越しに津島・燿(緋翔彩華・b14495)が語りかけ、背後から後衛に回った者たちの声が飛ぶ。
「頑張って下さい。私はしっかり援護を頑張ります」
「団長殿……後ろに居る妾達の為にも……がんばってほしいのじゃよー!」
「が、頑張って……! えと、受け止めて、あげて、ください」
 紫乃月・美桜(春を待つ桜の蕾・b13384)、蓮華院・迦葉(真理託せし白蓮華・b25887)、相馬・真理(絆を結びし蛍火・b29620)の声援を受けて、和真はみなぎる……はずもなく、苦笑いを浮かべて立ち尽くすばかりであった。
「! みんな、避けて!」
 燿の緊迫した声が飛び、間も無く精十郎が上半身と右足をリンクと平行に保ち、左足を軸に回転しながら突っ込んでくる。その攻撃は能力者たちのとっさの回避行動により避けられたものの、精十郎は再び攻撃を見舞うべく旋回を始める。
「どうした、受け止めるのか止めないのか、早く決めたらどうだ」
「逃げてばかりは格好悪いよ。……吹き飛ばされるのも格好悪いけど」
「無茶言わないで下さいって、ホント無理ですから!」
「黒瀬さんのおかげで、他のみんなが助かるかもしれないんですよ?」
「うっ……そ、そりゃ、結社の皆が怪我するよりは僕が狙われた方が良いのかもだけれども――」
 蓮真にリク、そして燿の言葉を受けて、和真が氷上を踊り狂う精十郎に視線を向ける。
(「……できるのか? 僕に、アレを受け止めることができるのか?」)
 見ているだけで毒にでもかかったかのように身体が痺れていくのを感じながら、それ以上に仲間たちから注がれる視線が、そして和真自身の団長としての使命感が、彼をこのあまりに過酷な作戦に向かわせていた。
(「……やれる! 僕にならやれる! 僕がやらなくちゃいけないんだ!」)
 どこか悲痛な思いを馳せつつ、正面に滑り込んできた精十郎から視線を外すことなく、和真が両手を広げて受け止める準備をする――。
「黒瀬様、頑張って受け止めてきでくださいましーっ」
 それはあまりに最高のタイミングで、そして最高の笑顔を浮かべて、芙倭・暦(双つ蝶蝶・b16382)が和真の背中をどん、と押す。
「あっ」
 押された衝撃で飛び出した和真の顔に、飛び込んできた精十郎の違った意味で豊満な胸部が迫る。……その後のことは、仲間たちが全員目を背けたため明らかにされなかったが、次に仲間たちが目撃したのは氷上で仰向けに倒れ、意識をここではないどこかへ飛ばした様子で呟く和真の姿であった。
「……アレは、胸、だったのか? ……違うよな……だって胸なら、あんなに硬くないもんな……はは、きっとそうだ、そうだよ……」
「あら、何とすてき! 黒瀬様が己を盾にしてわたしたちを守ってくださるなんて、まさに団長の鏡ですわー」
 そして張本人であるはずの暦は何も知らなかったかのように、ぱん、と手を叩いて回復の術を施していく。
「安心しろ、オレが倍にして返してやる」
「尊い犠牲には報いないといけないよね」
 蓮真とリクがどこか晴れ晴れとした表情で言葉をかけ、精十郎の左右から回り込むように氷上を滑る。プロのスケーターに勝るとも劣らないステップからの蹴り、そして叩き付けられたギターの一撃を受けて、精十郎が悲鳴をあげて身体をふらつかせる。
「みんな、タイミングを合わせて一気に行くよ!」
 後衛の者たちに目配せをして、燿がオーラを纏わせた斬馬刀を水平に構え、精十郎に向かって滑り出す。
「分かりました、行きます!」
「フィギュアスケートは美しいと思っておったのに……妾の夢を返すのじゃ!」
「え、ええと……恨みは、な、ないです、ケド……た、倒させて、いただき、ます……!」
 美桜の放った炎弾、そして真理の放った光り輝く槍が精十郎目掛けて飛び荒び、屈強な肉体を焦がし抉っていく。迦葉の視線の力による攻撃と同時に、飛び込んだ燿の振り抜いた一撃を受けてレオタードが切れ、あらゆる意味で刺激的な姿となった精十郎が、背を反らして回復を図る。
「きゃっ……あ、あの、すみません、ちょっと……」
「うぅ、見たくないのじゃー!」
「す、すごい迫力……でいいのでしょうか」
 その光景に、視線を外し目をそらしてしまう真理に迦葉、美桜。同性の彼女たちをして直視することができない格好がどのようなものなのか気になるところだが、決して想像しない方が賢明であろう。
「腐妖様、そろそろ、靴を脱いでくださいな。もう貴方の場所はここにはありませんから……」
 そんな中、和真の治療を終えた暦が、悲しい瞳にしかし強い口調で言葉をかけ、弓を引く動作を取る。
「魔を貫く矢をこの手に!」
 放たれた矢は狙いたがわず、精十郎の背中から突き刺さり、勢いそのままに貫き抜けていく。絶叫をあげて苦しむ精十郎が、怒りの表情を浮かべて猛然と氷上を滑り出す。
「これで終わりだ。……眠れ」
「スケートの技術は素晴らしいけど、それだけじゃ駄目なんだよ」
 猪のように真っ直ぐ滑っていた精十郎は、脇から滑り込んできた蓮真とリクの存在に気付かず、二人の息の合った攻撃を直に食らって悲鳴をあげる。
「今度は素敵なパートナーが見つかるといいですね」
 そして、飛び上がった燿の振り下ろした一撃を背中から受け、精十郎の身体が宙を舞う。決着がついたと思っていた仲間たちは、最後に衝撃的な悲劇が待ち伏せていたことを思い知ることになる――。
「くっ……あ、あれ? 僕は一体どうしてこんなところで横に」
 それはあまりに最悪のタイミングで、意識を引き戻した和真が身体を起こした瞬間、飛ばされた精十郎の張り出した臀部が迫る。……その後のことは、やはり仲間たちが全員目を背けたため明らかにされなかったが、次に仲間たちが目撃したのはどうやら塵と化して宙に消えたらしい精十郎と、そして氷上でまたも仰向けに倒れ、もう帰ってこないのではないかというところまで意識を飛ばした様子で呟く和真の姿であった。
「……ははは……あはははは……きんにくってすごいなあ……あはははは……」

●仕切り直して滑ります
「うぅ……か、燿殿、手をしっかり握っているのじゃぞ」
 スケートリンクの端で、迦葉が燿の手を握りながら、ゆっくりと滑り出していく。表情には不安がありありと見て取れ、手足ははっきりと震えているのが見えた。
「とと、スケートってあまりやらないけど、意外と滑れるかも……わぁ!」
 それでも順調に滑っていた二人だが、燿がバランスを崩すのに迦葉もつられ、そのまま重なり合うように氷上に倒れ伏す。
「つ、冷たいのじゃー!」
「ご、ごめんね、すぐに起こして……うわぁ!」
 起き上がろうとする迦葉だが、そこで再びバランスを崩し、やはり起き上がろうとしていた燿を巻き込んで倒れ込む。
「うん、あれなら見ていて微笑ましいよね」
「見て楽しむには、華やかさも重要な要素ではあるな」
「……おぬしたち、見てないで助けるのじゃー!」
 その様子を横目で楽しんでいた蓮真とリクの視線に気付いて、迦葉と燿が恨みのこもった視線をぶつける。
「おお怖い怖い。じゃあ、この辺にして滑りを楽しむとするかな」
「そうするか」
 氷上に滑り出していく二人、風のように滑り抜けていく彼らを横目に、リンクの壁に寄りかかってため息をつく和真。
「はぁ……何だか色々と酷い目に合った気がする……」
「黒瀬様ー、ご機嫌はいかがですかー?」
 もう一度ため息をつく和真の元に、暦が爽やかな笑顔でやってきた。
「はぁ……元はといえば、芙倭さんがあのタイミングで僕の背中を押すから……」
「黒瀬様ってば、細かい事をネチネチとですよー。無事に済んだのだからいいではありませんか」
「まあ、そうですけど、でも……はぁ」
「……もう、しょうがないですね」
 言って暦が和真の手を取る。
「え、ちょ、な、何を」
「黒瀬様、ご一緒いたしますわ♪ それとも、わたしではお相手、務まりませんか?」
 最高の笑顔に、和真はそれ以上言葉を紡ぐことができず、暦に引っ張られるように氷上を滑り出す。
(「……ま、これはこれでいいか」)
 結論付けた和真の視界に、スケートを楽しむ美桜と真理の姿が映る。長く伸びた髪をなびかせながら氷上を滑る様は、まるで映画のワンシーンのように輝いて見えた。和真の視線に気付いた美桜と真理が手を振り、和真もそれに応える。
(「うん、やっぱりフィギュアスケートは可愛い女の子が滑るべきだ」)
「……黒瀬様、どちらを見てるんですか?」
「え、あっ、うわっ!」
 突然言葉をかけられ、和真はバランスを崩して氷上を転げる。それを見た仲間たちの笑い声が響く。
 楽しげな時間が、リンクの中に満ち溢れていた――。


マスター:音込深烈 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/05/16
得票数:楽しい7  笑える2  怖すぎ1  えっち1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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