ファンガス獲得ツアーへようこそ!


<オープニング>


「みんな集まってくれてありがとう」
 
 王子・団十郎(運命予報士・bn0019)は、集まった能力者たちを見回した。
「かなり揃っているようだな。助かる。これなら大丈夫だろう」
 団十郎に口ぶりに、「そんなに大変な事件なのか」と一同から声が上がる。
 いや、と首を振りつつ団十郎は続けた。
「戦いにはならない。ただ人手があると嬉しいそうだ。まあ、そのあたりは、俺ではなく彼女の方から説明してもらうとしようか。……明生、続きを頼む」
「は、はいっ」
 団十郎に声をかけられて進み出たのは、広いおでこが印象的な女の子だった。
「は、初めましてっ。わたし、明生・芙美っていいます。あの、みなさんには……ここに行ってもらいたいんですっ」
 デジタルカメラの画面に雪深い山の風景を表示して、一同に掲げて見せる芙美。
 その様子を後ろから見ていた団十郎は、そっと助言をした。
「明生。地名を言ったほうがいいと思うぞ?」
「あっ! えっと、ここは北海道のカムイワッカです。
 みなさんに、カムイワッカに行ってもらって、来訪者の『ファンガス』に会っていただきたいの〜っ!」


 突然もたらされた、新たな来訪者の情報――。
 一同は驚き、来訪者『ファンガス』とは何者かと芙美に尋ねた。
「ファンガスは、古き時代に日本に住み着いた来訪者だそうです。地衣類……つまり、キノコ(菌類)の来訪者なの。〈世界結界〉の影響で弱体化していたんだけれど、シルバーレインを受けて、現代に蘇ったんですって」
 それはいつごろかと尋ねる声に、芙美は手作りの『旅のしおり』を見ながら答える。
「ええと、2007年の冬から2008年の春にかけて。狂鬼戦争があったころかな?」
 蘇ったファンガスは、北海道の知床半島で一気に成長し、〈世界結界〉にまで影響を及ぼしかけた。しかしすんでのところで、芙美の友たちが暴走寸前のその成長を阻止、このゴースト事件を解決したのだという。
 一連の事件のさなか、芙美の友だちと友好な関係を築いた一部のファンガスがいた。そのファンガスは、強大な力を秘めたペンダントを身につけたことで人格を得て、他のファンガスとは違い個体として動くことができたのだ。
 そして、今年(2009年)初頭。そのファンガスのとりなしで、ファンガスという種族全体と友好関係を結ぶことに成功した!
 芙美の友だちは、北海道で静かに暮らし始めたファンガスたちを保護することにしたのだという。
 ファンガスから力を授けられ能力者となった芙美も、それを手伝っていた。
「ファンガスは、真っ白でもわもわ……不定形な姿をしてるんです。手のひらに載るサイズでのたのた動くの。人の心が分かって、その心に影響されるんですって。しゃべることはできないし、表情もわからないけど、何かね、伝わってくるものがあるんですよう。すっごくかわいいの〜っ」
 
 嬉しそうに笑う芙美に、疑問が投げかけられる。
 ならばこれほど大勢に、何を助けて欲しいと頼みに来たのか? と。
 もっともな意見を受け芙美の笑顔が曇った。
「――そう、いい関係でいられたんです。けれど、春になってファンガスたちが増殖しちゃって……。あ、別に彼らはわたしたちと敵対しようとしているんじゃないんですよ? 種族的な特徴なんですって。冬を越え、春になって暖かくなると、本能的に仲間を増やそうとしてしまうそうなんです」
 ファンガスは集う。集い、力を得ることで、強い個体になろうとするためだ。
 さすがにそれは放っておけない。力を得て育ちすぎたファンガスが、〈世界結界〉にまた悪影響を及ぼさないとは限らないからだ。その可能性を避けるためにも、増えてしまったファンガスたちを何とかしなければ。
 そこで出た案が、彼らを群生地から引き離すこと。ようは株分けだ。
 とはいえ、ファンガスを個々に群生地から引き離せば、〈世界結界〉に耐え切れず死んでしまう。せっかく築いたファンガスとの友好のためにも、それは避けたいところ。

「そこでなんですけど、みなさんに助けていただきたいんです。
 あ、あのですね……ファンガスを身体に宿してもらえませんかっ?」

 ええー?
 ……と、上がった困惑する声に、芙美は言葉を続ける。
「ファンガスたちが生き延びるには、人間にとり憑くのが一番手っ取り早い方法なんですっ。
 その力の恩恵を受けた人は、『ファンガス共生者』と呼ばれる存在になります。わたしがそう。いろいろと面白いことができますっ。だから、どうかカムイワッカにある群生地に行って〜っ!」

 芙美はデジタルカメラを操作し、次々と画像を見せた。
 ・川の水の温度が高く、その滝つぼは温泉として浸かることもできる『湯滝』
 ・湯滝にほど近い場所に隠れるようにしてある『洞窟』
 ・川を辿って行ける、山頂付近の『雪原』
 この3ヶ所で、特に繁殖が盛んなのだという。今の時期は、立ち入りが禁じられている場所なので、一般人に見られる心配はない。
「群生地に行くだけでファンガスを身体に宿せますから、現地では自由に楽しんでください。好奇心旺盛なので、ファンガスの方からみなさんに近寄ってくるはず。行動を真似たりするかもしれません」

『湯滝』の滝つぼは湯船のようで浸かってくつろげる。今年は水量が多く、湯温が高い。川もすべてお湯なので冒険にはもってこいだ。ただ川底にはミズゴケが大繁殖していてかなり滑る。
 また野生の動物が、ときおり湯に浸かりにやって来ることもあるらしい。

『洞窟』は、外気温に比べると暖かい。中は広く迷路のよう。雪解け水が洞窟内に流れている。
 また壁には、芙美の友だちがファンガス事件を解決する際に、京都の洞窟で見たという絵や文字と同様のものが彫られている。二股に分岐した通路それぞれに、「まつ」「たけ」と文字が。そのほかにも、「キノコっぽいものが、人間らしきものにくっついている絵」や「キノコと人間らしきものを並べ、双方に向く矢印が描かれた絵」もある。暗号のようなそれらを読み解くのも楽しいだろう。

『雪原』には、雪に耐える木々や野生動物の姿が見られる。
 また、スキーや雪合戦用の雪玉を作る道具など、あらゆる種類のウィンタースポーツ用品が準備してある。時間を忘れて遊ぶのもいいだろう。

「温泉がね〜、もう気持ちいいんですよう。あ、ダイアモンドダストはまだ見られるかなぁ」
 うっとりと虚空を見る芙美だったが、はっと表情を引き締め一同に告げた。
「とは言っても原生林ですし雪は深いし、気は抜かないでくださいねっ。
 ただ、ファンガスたちが群生地の外に逃げ出さないようにだけ注意してください。あ、ファンガスを身体に宿して連れ出してもらうのは大歓迎です!」

 そこまで説明をし終えて、芙美は背筋を伸ばして頭を下げた。

「いきなりのことで驚かれたと思うのですけど。
 みなさん。助けると思って、どうか彼らを宿してあげてくださいねっ!」


 今なお雪深い北の大地。大自然の懐に飛び込んでファンガスを得る。
 彼らがどういう存在なのか、出会ってからのお楽しみ、なのだ。

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<リプレイ>

●知床連山を臨んで
 ――その日は快晴だった。
 青く澄んだ空に知床連山の白く雄大な姿が映える。木々の存在を示す茶色がちらほらと見えるようになってきたとはいえ、山の中腹から山頂付近にかけては未だ真っ白。現地の気温をうかがい知ることができるというものだ。
 羅臼岳から、三ッ峰、サルシイ岳、オッカバケ岳、知円別岳を経て知床硫黄山――カムイワッカの地へと続く山々は、遠く鎌倉からやって来た客人たちをまるで両手を広げて歓迎しているかのように見えた。
 湯滝を目指す一行は北のオホーツク海側から沢沿いに、洞窟を目指す一行は南の太平洋側から山を越えて、雪原を目指す一行は西の羅臼岳から連山を縦走してカムイワッカの地に入る。集合解散の時間は明確に決めず、最早到着時刻と最遅出立時刻のみを決めて自由に動いてもらう。
 一般人は立ち入り禁止の区域。ヒグマも出るうえ、積雪で道も足下もおぼつかない。協力を求めてきた来訪者の窮地を救うためとはいえ、道中はイグニッションしなければ切り抜けられない場所がほとんどだ。だが、だからこそ銀誓館の能力者たちはやって来た。一般人ではない、自分たちでなければ彼らを助けられないとわかっていたから。
 防寒着をもこもこに着込んだ能力者たちが、今、北海道の大自然の中を進んで行く。
 銀誓館学園に救いを求めてきた、来訪者『ファンガス』を助けるために――。

●カムイワッカの沢を行く
 ザアザアザア。
 平滑な岩の上を水が流れるナメ床の川が山頂からオホーツク海まで延々と続く。途中にある滝もほぼすべてが緩やかに水を落とすナメ滝という特徴ある川、それがカムイワッカの沢だ。
 ファンガスたちが群生している繁殖地は上流にある滝のいくつか。そこに行くには、沢沿いの道なき道を行くか、カムイワッカの沢の中を行く沢登りになる。沢の水は温かいとはいえ、大気の寒さは骨身に染みる。沢を登ってきた一同にとって湯滝の温泉は、まさに『神の水』だ。
 大自然の恵みをありがたくいただくとしよう。

「ファンガスに触れられて、かつ自然とも触れ合える! 素晴らしいっ! しかも野生動物が来るかもしれないとは朗報ッ! では張り切ってカムイワッカに行きましょう!」
 くどいぐらい丁寧に熱く語ったのは妖瀬・泰。その後ろをぞろぞろと能力者一行が進んで行く。
「すごく温泉の匂いがするわ。周りも良い雰囲気のところね」
「カムイワッカは『神の水』という意味だったかしら。ファンガスがこの地に根づいたのもなんとなく解る気がしますわ」
 気持ちよさそうに周囲を見渡したのは紫苑・涙。火之神・吟奈は自然豊かな北海道の縮図をここカムイワッカに見た気がして呟いた。
「川の水が強い硫黄分を含んでいて、有毒でほとんどの生物が生息できないから『魔の水』という意味の解釈もあるみたいですね」
 強酸性の川の水で白い肌が少し赤くなってしまった鷹武羅・焔は、本で調べたことを思い出す。
 すごく滑ると聞いて、鈴木・まりあーじゅはゴム製のサンダルを履いてきた。ウォーターシューズを持参したのはアンジェリカ・ソアーウィンド。それでも滑るときは滑るんだけどと心のうちで呟く。
「野生動物も来るっていうけど、北海道って何がいるんでござろうね。シカとか?」
「人助けのためですので。すみません、すみません、すみません……!」
 足下の水ゴケに気をつけつつ、純粋な興味で尋ねているのは赤札・凛。メイリン・リーは誰にともなく謝っていた。今はまだ立ち入り禁止の区域と聞き申し訳がない気がしたのだ。その声に元宮・虎次郎は自然を破壊しないよう大人しくすることを決めた。
「ファンガスってどんな姿をしてるんだろうねぇ?」
「来たらいろいろと観察してみたいな」
 まだ見ぬファンガスに興味深々の蒼月・凪と鴻月・るうは、雑談をしながら沢を登っていく。ファンガスも気になるけど温泉も楽しみだと月音・円舞も道を急いだ。
「小さい頃はよく木登りとか草笛とかでよく遊んだからねぇ、見つけるのは得意なんだ」
 行きがてら食べられるキノコや木の実を集めているのは月影・ハルヒ。手伝いをしている天瀬・ゆみるの荷物の中にはキャンディとかチョコレートも入っている。湯滝に浸かりながら食べるつもりだ。
 八十神・馨流は、「新しい出会いをしておいで」と笑顔の兄に北海道行きの荷物一式を渡されここに来ていた。ファンガスを驚かせて逃げ出されたりしないように静かに移動している。
「ふわふわ……もこもこ……♪」
 斉藤・美晴は期待を隠し切れず呟いた。風神・鞠栗鼠はファンガス共生体になったらどんな姿になるのかを楽しみにしてる。
「きっと可愛いんだろうな〜」
 そう言ったとたん、小坂・りゆは転んだ。どうやら前をしっかりみていなかったらしい。傾斜が少し急になり、足下の水ゴケが濃さを増していた。ナメ滝の脇に白くてもわもわしたものが多数見える。
 一行は目的地の1つである、ー番低い場所にある滝に辿り着いたのだ。

●『一の湯』に浸かって
 さんざん山歩きをさせられた一行の前に、『一の滝』が現れた。これより上にある合計4つの滝のそばでファンガスたちが群生しているのだという。『一の滝』は源泉から遠いため、ほかの滝に比べると少しぬるめだ。だが最初に目に飛び込んできた広い滝つぼに心躍らないわけがない。
「ひゃああああああっはははははははっははって、うおっ!?」
 一番乗りを目指し、ひゃっほいと湯滝へ突撃したのは赫蒼・ハズレ。踏み切り足がずるりと滑り、おかしな体勢で滝つぼへ。それを真似するかのようにファンガスたちがぼたぼたと落ちていく。
「お〜お。湯で滝ができてるであるよ」
「このようなところが好きとは……ファンガスの方々とは、とても気が合うような気がしますわね」
 素直に感動しているのは霧島・燐。梯・七枝も自然の温泉に心躍らせた。
「湯滝かぁ……初めて見るぞ! 自然ってすごいなぁ!」と一之瀬・きさらは目を輝かせる。ラスティ・バウマンもナメ滝を興味深く見ていた。
 おっかなびっくりで手を入れているのは志村・かなえ。「あったかい……滝、すごい! 流れてるのにあったかい!」と嬉しそうだ。北海道の寒さに湯滝が異様に魅力的に思えてきた望月・英二は「入りたいわぁ……」と呟いた。
「は〜〜。極楽、極楽ぅ〜〜〜」
 さっそく湯に浸かり御藤・ちはるは幸せそうな声を上げた。ひとりが入ったのをきっかけに、一行は次々と湯に身体を浸していく。われもわれもと服を脱いで水着姿になった。
「もこふたをげっとして、温泉にも入ってりふれっしゅだ☆」と一目散に宵咲・華散は駆けて行く。その近くで、用意した水着が白いスクール水着にすり替えられていたことに御来屋・林檎は衝撃を受けていた。
「大自然の中でこうやって気合を入れいると、気分が高揚しそうだな」
「ふんっ! ぬんっ!! はぁっ!」
 滝の前でラットスプレッド・フロントなどのポージングを始めたのは常川・丈志。寒さなど気合いで耐え切れると、マッスル・ダンディもサイドチェストのポージングを決める。
 覗き対策も兼ねた白無垢の着物で、倉木・月は人の邪魔にならないようにそっと湯に入る。「こういう禊なら、いつでも大歓迎なんですけどね」と温かい湯に顔がほころんでいた。
 琴乃・雫は滝の落ちる音や木々の音が心地がいいと目を閉じて聞き入る。羽柴・紫弦は気持ちよさそうに浸かったり浮いたり流されたりしていた。温泉に浸かりながら蓮沼・晴香は湯を楽しむみんなを眺めている。
「弟2人と温泉来た気分だよ」
 苦笑しながら鷲江・しのは一緒にやって来た宇津木・花にかんざしを渡した。
「しのさんって肌白いからお湯で火照ると映えるわねぇ」
 手馴れたもので、花はすいすいとしのの髪が濡れないように結い上げる。すでに入る用意がすんでいるのは水城・焔。湯滝に来たからというわけではなく、常に水着姿でいるからだ。
「最近は服着てる時間の方が短いんじゃないかい? 脱ぎっぱなしだねえ」
「誰が脱ぎっぱなしやっ! 結社依頼は団員からの要望や。死ぬかと思ったで」
 寒空の下で太陽再生をしたことを思い出し、焔は身震いした。
 少し温まって行こうとザイド・アンコック。滝つぼが混んできたので、白樺・木綿は用意しておいた洗面桶に湯を汲み、歩きつかれた足を休めた。

 川床は見事なエメラルドグリーン。周囲の岩肌がこげ茶や黒に近いグレーといった普通の岩らしい色か、温泉水に反応し変色したオレンジ色にも見えるほど明るい茶色ということを考えると、あの色鮮やかなグリーンの正体は明生・芙美の言っていた水ゴケだ。となると――。
「ファンガスって、かわいいですね……って、あ! うわぁぁぁぁ!!」
 久遠寺・絢音のように転倒する者が続出。通りすがりの人を巻き込む者も少なくない。ちなみに久遠寺・絢音の転倒に巻き込まれたのは月読・小唄。「痛い、です……」と小唄がポツリと呟くと、「滑りやすいので気を付けてくださいね」と魅月・槐がヤドリギの祝福で治療をした。
「きゃっ……!」
 水ゴケに足を取られ君影・鈴もバランスを崩す。すかさず宇土・木人は身を呈しケガをしないよう受け止めた。
「ご、ごめんなさい……大丈夫ですか?」
 いい感じに肘が入り岩にぶつけた腕から血が流れたが、木人はいつものことだからと笑っていた。
 湯に入る前にどんな感じかぐるっと見て回ろうと足を巡らせた秋枝・昇一郎も、足を滑らせ服のまま滝つぼへと落ちていく。
「……OK、着替えの準備は万端だ」
 ずぶ濡れのまま昇一郎は呟いた。
 悪いと思いつつも、その光景を目の当たりにして藤谷・ひなは笑いが抑えられない。
 この日のためにあつらえたラメ入りの紫ハイレグビキニでポージングを決めているのは木島・創一。水ゴケに足を取られて転びそうになるレディたちを、すばらしい身のこなしで助けていく。
「きゃっ……!?」
 佐藤・桂もその1人。しかしあまりに滑る人が多くて手が回っていないようだ。
「う、うわぁ!! 滑る滑る!! あたし泳げないんだよーっ」
 月宮・影はぶくぶくと沈んでいった。慌てて誰かが助けに飛び込んだ。
 柚木永・潤も注意していたが転んでしまう。国東・都も同じく転んでしまい、温泉用にと持ってきた水着を早々に使うことになった。

 気温は一桁、なのに足は温かいとなるとどうしても沢から出にくいものだ。水ゴケの犠牲者はあれよあれよと言う間に増えていく。
「本当に温かいですね。こんなのもあるなんて……ってきゃあぁっ!?」
 ニーニアルーフ・メーベルナッハも水ゴケで足を滑らせ大転倒。服が肌に貼りついてしまった。
「うぅ……服が……って、みなさん見ないで下さ……っくしゅん!」
 滑って転んだスフィア・ブライトハースも川辺に座り込んで「あうぅ〜」と半べそかいていた。
 そんな自分に向けられる視線。しかしどこからかがわからない。
「あ……! もしかして、ファンガスさん?」
 思わず立ち上がろうとしてスフィアはまた足を滑らせた。
「なぜ比較的キノコ嫌いなのにこんなとこにきてるんでしょうか! 納得できません!」
 声を上げた拍子に妹尾・縁も滑って尻もちをついた。
「かわいそうな私に、『ファンガスさんが定員割れで残念ながらつきませんでした』という事態を要求します!!」
 悔しがる縁の大胆な水着のお尻には、白いもわもわが尻尾のようについていた。
 成瀬・澪は川に転落したが、雪村・初音が優しく受け止てくれた。
 服が透けて女装がバレたと慌てる澪に対し、初音は慌てず騒がず、転んだ拍子にケガをしていないかと澪を優しく丁寧に触診する。
 下心を感じなくもないが、親切な初音に澪は礼を言い、「お友だちになってくれませんか」と声をかけた。

 さまざまな惨事を目の当たりにして、杜宮・須弥子は慎重に足を伸ばした。もちろん湯に浸かる前に頭と身体は流している。朝燈那・藍夜は水ゴケが気になって触っていた。触るだけでなく掬ってみた花鳥・嵐月は「これがファンガス、ってか?」と考え、周りに「違う」と教えてもらっていた。
「こらこら、祥くん! ミズゴケあるから走ると危ないって……うわっ!?」
 自分の足元がおろそかになり、遠野・康多も足を滑らせた。その間も近江・祥互はファンガスらしきものを見つけたら、「ちちち……こっちこーい」と猫でも呼ぶように声をかけいく。
「ファンガスって、あの雲みたいにふわふわなのかな〜……あれ、あそこ……今動いたかなぁ?」
「吏緒ちゃん待った、そっちは川から外れるから!」
 ふらふらと散歩し始めた天中・吏緒を、慌てて連れ戻しに行く。康多はゆっくり自然を楽しみたかったのだがムリなようだ。

 グループでやって来た者たちの中には、元気をあり余らせているものや突拍子もない行動を取るものが1人2人は混じっているもので、保護者役を押し付けられた者か1人乗り遅れた者がひどい目にあうのが常だ。ここカムイワッカでもそれは変わらないらしい。結社『チョコリエッタ』の面々もそう。
 最初に足を滑らせたのは回道・しょげ子だった。
 しかし、実際に転んだのはしょげ子の身体を支えた回道・焦太。さらに慌てた白守・翔流も転倒し、その翔流を助けんと手を伸ばした回道・ちょめ子もバランスを崩して転倒する。
 全員が転ぶ中、一人難を逃れたしょげ子は仲間はずれにされた気がして哀しくなった。立ち上がってきた三人の目の前で、しょげ子が自ら足を滑らせる!
「しょ、しょげ子ー!」
 さぶんと川に倒れるしょげ子。
「だ、誰かたすけ……」
 深みに足を取られたようで、ずんずん流されていく。
「あああぁぁ! しょげ子が流れていってるぅぅぅうう!」
「しょげ子! しょげこおーーー!!」
「帰ってこーい! しょげ子ー!!」
 滝から流れ去るしょげ子を三人は呆然と見送った――。

 あっちでバシャーン、こっちでドボーンと響き渡る音にもいつしか誰も驚かなくなった。
「うわっ!」という声が聞こえても、「またか、気をつけろよ〜」といった変に和やかな空気が流れる。
 逆に、ルドルフ・ハイデルベルクは滑ることに楽しさを見出した。浮き輪に身体をゆだねウォータースライダー気分を楽しむ。伊勢・小綾は水に体を浮かべ目を閉じ瞑想し、身じろぎ1つせずたゆたっている。そのままドンブラドンブラと流れていった。
 湯温が高くない『一の滝』はゆっくり入るのに適していた。酸性度が高いので無理はしない方がいいが、疲れた身体を癒そうと、のんびりまったり湯を楽しむ者たちにはもってこいだ。
 白崎・彩佳もそのひとり。自然に囲まれた温泉だなんて最高と戦いの日常を離れ休みを楽しんでいた。能力者はお酒は飲めないけれど、温泉に浸かって一杯やってみたい気持ちがわかる気がする。
 酒ではなくよく冷やしたお茶と冷凍みかんを桶に載せ持ち込んだのは佐原・奏斗。帆立の貝柱などしょっぱいもの好きで甘いものは苦手な御崎・天空に「あ〜ん」と無理やりみかんを食べさせている。
「やっぱ、温泉はいいねぇ」
「……ふぅ。ふむ、良いなこういうのも。今日はこのまま疲れを癒していくとしよう……」
 大田川・龍一はゆったりと湯に浸かった。ファンガスと関わるのが今回の本命と心に留めつつ、冬麻・耶神ものんびりと時間を過ごす。ファンガスの到来を待つ瀬来・舜雷と時山・郁斗は、おしゃべりに花を咲かせていた。
 気持ちいいから動きたくないと湯滝の滝つぼに浸かるのは、天見・日花。葉月・十造も同じくのんびりボーっとしている。ラウレス・ダークは寒い中入る温泉は格別だと日ごろの疲れを癒していた。
「暖かいお風呂はニホンの生み出した最高の文化デス」とトーマス・グリーン。レイヤ・ストラフィールは脱いだ服をきちんと畳んだあとゆっくりと温泉を満喫する。紀・誠人や鷲尾・健児ものんびりと湯を楽しんだ。
「ン、どしたんデス阿門サン?」
「……え? ……何もミテナイデスヨ?」
 アリス・ワイズマンの中学らしからぬワールドサイズの胸に、談笑していた阿門・源夜は照れてしまった。ぷかりと湯に浮くそれを見ないよう目線を逸らしたまま話し続ける。
 雪をかぶった木立の陰で、バスタオル1枚巻いた姿でセクシーな吐息をあげながら浸かっているのはアン・イャン。だがその身を護るタオルの実体は防具の詠唱兵器なのだ。
「だから残念ね、ポロりはないわよ」
 誰にともなく教えてあげた。

 カムイワッカの沢に学生たちの楽しそうな声が響く。いつも冬は静かなこの森が、夏の一日のように賑やかになった。
 温泉に男女が一緒に旅行と来れば、外せないイベントがある。湯煙の向こうに見える人影にドキドキする者たちがやらかすものだが、その情熱は水着姿でも変わらない。健全な青少年としては当たり前のことだと自己弁護しつつ、そろりそろりと活動を始める。
 3ヶ所の中でとりあえずこれが一番色気が多そうだったから選んだと仙風・彰人。ファンガスそっちのけで、滝のそばでのぼせた身体を冷やす振りをしつつ女子の水着姿を鑑賞している。
 穴を空けた風呂桶を片手に「のぞきじゃないよ? あくまで目の保養だ」と奇楽堂・独楽も続く。
「うひょーー! ちちーー! しりーー!! ふとももーー!!」
 興奮のあまり声を上げてしまった相原・空之介は、女の子たちの「誰っ!?」の声に、とっさに独楽を蹴り飛ばした。女の子たちの前にごろん、ざばざば〜っと進み出てしまった独楽。つつーっと嫌な汗が頬を落ちる。
「イヤちょっとお嬢サン、その手に持ってるのは石なんてレベルじゃなく岩ではって、ちょヤメ……ッ!!」
 轟音と共に独楽の声が途切れた。
「あいつは勇者だった……。あいつの分まで行くぞ!」
 しんみりと言う相原・空之介。その背後に予想外の敵が現れた。水ゴケで滑った葉山・亜梨子だ。
「す、すみませ〜ん。道教えてください〜……きゃあ?」
 どーんと突き飛ばされ、女の子たちの目の前に飛び出てしまう空之介たち。そこへ――。
「必殺技、暴れ独楽ならぬ『暴れタオル』が火を噴くぜっ!」
 響き渡った悲鳴と怒号を聞きつけて、不埒な輩を退治せんと中里・雅彦が現れた。目を光らせ、不埒な男2人にパシーンパシーンと暴れタオルをお見舞いした。
「け、決して守った女子に『中里君かっこいー!』って言われたいわけじゃないんだぜ?!」
 一方そのころ。お湯の中では、「水遁の術!」が猛威を振るっていた。
 これが水中呼吸可能な水練忍者しか見られない景色だと丘・敬次郎。目の保養と四神・巽も潜水行動を開始する。だがここの湯は強酸性だ。
 覗きを終えた3人の目はウサギもかくやと思わせるほど真っ赤に染まっていた。

●沢を歩いて〜足湯と沢歩き〜
『二の滝』『三の滝』はほかの2つの滝ほどは大きくはない。しかし、大人が10人ぐらいは軽く入れるサイズだ。深さはそれほどないが半身浴は普通にできる。人ごみを避けてここで湯に浸かる者も少なくはなかった。
「ファンガスさんも温泉に入ったりするんでしょうか?」
「ここのお湯はかなり酸性が強いそうで、目に水飛沫が入ったりするととても痛いそうですよ。滝を傍で見るなら気をつけて」
 目の前の滝つぼを見ながら呟く舞鷺・幸夜。最年少の幸夜を奈月・幸太は気遣った。
 城崎・文香は、敷島・真と木下・未央の3人で寄り添うように滝つぼに浸かっていた。文香と未央はビキニ姿。小学生とはいえ男である真には目の毒だ。思わず目で追ってしまうのもムリはない。
「どうかしましたか?」
「すいません、先輩たち綺麗なので、つい……」
「褒めてくれるのは嬉しいですが、あまり見つめられると恥ずかしいです」
 未央は少し照れて微笑んだ。
「あったかくって、気持ちいいです♪ 椛さんも泳がないですか?」
 冬月・火憐は岸辺で足湯を楽しむ神元・椛に声をかける。
 ブラウ・ドネルシュラーク、比叡・軍平、ミーシャ・グローリーの3人は、狼変身で狼になりリラックスしていた。ブラウとミーシャの仲のいい様子に、軍平の青毛の耳が少し垂れる。
(「……じ、自分だって……」)

 ファンガス獲得より神乃・蝶子の誕生日を祝うために来た、結社【BL牛乳販売所】のメンバー。
 湯滝でほかほかにゆだった後、持ち込んだビン牛乳で全員で乾杯。乾杯の音頭は桂・馬太郎。
「えー、それではー、ちょい早いけど蝶子ちゃんの美貌とお誕生日を祝ってー、カンパー……うわあ!?」
 ビンを合わせた拍子に馬太郎が転倒した。巻き添えを食って飛葉・彰吾も転ぶ。なんとか牛乳は死守できたが、見ようによってはひれ伏している二人の様子に蝶子はご満悦だ。
「みんな、さっそくひざまずいてくれるのね。感心よ。いいわ、馬クンも飛葉クンもいつもの20%増で踏んであげる。心ゆくまで堪能するが良いわ!」
 年長者三人のドタバタを尻目に、一人で「かんぱーい」と江龍・沙也佳は牛乳をゴクゴクと一気飲み。喉を潤したあとで、倒れた二人に「大丈夫だった?」と声をかけた。
 気を取り直し再び乾杯をする一同の頭部や背中に、白いもわもわが乗っかっていた。

 ここは滝つぼがそれほど大きくなかったため、人も少なめ。自衛より興味が勝ったらしくファンガスたちが早々に顔を覗かせていた。
「生き返りますわねぇ……ファンガスさまもそんな感じなんでしょうかしら?」
 ぷかぷか浮いているファンガスを見て姫琴・睦美はひとりごちる。小川・紅葉もその動きをのんびり眺め、どんな感触なのだろうと手を伸ばした。
 温泉に身体をぷかーと浮かべる相馬・都の横で、同じくぷかーと浮くファンガス。都はそのファンガスを自分の頭に乗せ、大きく叫んだ。「超! 合! 体!」
『滝といえば修行』と気合を入れていた育沢・龍一は、目の前に広がるナメ滝に呆然。それでもなんとか打たれようと身を湯滝に入れたその目の前に、まるで湯の花のようにファンガスが流れてきた。
 その近くで精神修行をせんと御剣・蛍も滝に打たれる。ファンガス共生者になって、姉をコテンパンに倒しているところをイメージしようとしたのだが――。
「きゃー! 姉さんごめんなさい! もう許してー!」
 嫌なイメージしかできなかったようだ。
 こちらもナメ滝でなんとか精神鍛錬をしている天草・颯。来たはいいがどうすればいいのかわからず、普段どおり鍛錬しようと水月・現矢もそれにならった。
 ファンガスを受け入れるには精神を強化することも必要と滝打ちするつもりでやって来た在原・とは。「いい湯だな、あははん」と口走りそうになるが、それも自然なことだと湯を楽しむ。
(「……真っ白でもふもふ……どんな姿なんでしょうか?」)
 御門・勇護は綿菓子を想像しながら、実物がやって来るのを待ってみた。
 雪女と上手く共生できるのか心配しつつ、寄ってきたファンガスと湯に浸かって遊んでいるのは氷月・亜羅紫。ファンガスに萌え萌えしていた奥山・和奏は、雪女だって風邪は引くと思うからと湯冷めしないようしっかりと肩まで浸かり直した。
 人と接するのが苦手なマリア・ベルケスは隅の方で湯に浸かっている。同じく隅に来たのは九郎・シロウ。人前で風呂に入ることに抵抗があるシロウは、入れない自分にちょっと悲しくなって、寄ってきたファンガスに話しかけた。
「ちょっと言いにくいんだけど、ちょっと聞いてファンガスリーナ……」
 ファンガスの感触を確かめつつ、「せっかく来たし、愉しまないと」とリリエル・ガブリエラ。
「はじめまして。雪女のねむだよ。どうぞよろしくね」
 ほかにも日本を本拠地にしてる来訪者がいるなら会ってみたい。そんなことを思いながら、結社『エコバッグ同好会』のみんなと参加した神楽・ねむは滝つぼの周りに現れたファンガスに手を振った。
「なぁなぁ、誰か温泉入らねぇ?」
 みんなに話しかける夏目・世津の背後から、玖珂・桜が「わっ!」と声をかける。水際に身内が立ってると驚かせてみたくなるのは人情ってものだ。しかし世津は桜が思った以上のリアクション――滝つぼに転落した。
「ぎゃーっ。夏目生きてる!?」

 足首より少し深い水深に、ちょうど腰をかけるのに適した岩。そんな場所があれば、足湯を始めようというもの。気がつけば、たくさんの能力者がずらりと並んで足湯を楽しんでいた。
「んとー、んとー、足だけでも、入ろうかな。足湯ってゆーんだよね」
 燈蛹・花露は靴下を脱いで、うんしょと座り足を湯に浸す。
「このじんわり温かいのが気持ちいいのよねぇ……!」
「温泉じゃなくてもお湯が沸いてるってすごいな」
 タオルを敷いて玖凪・蜜琉は準備万端。
 初めて見る湯川の風景を楽しみつつ幸せを噛み締めていた浦雪・坤も感動を隠せない。
「少なくとも、ここまで来た疲れは失せそうですね」
 少し遅れて足を湯に浸した烏山・千歳が呟いた。
 これだけでも来た甲斐があると足湯を楽しんでいるのは立見・鑑三郎と萩坂・暈人。足湯は気持ちいいが硫黄の匂いには慣れられそうにないとアキラ・イステリーゼは顔を背けた。
 居場所を決め、お茶を沸かしのんびり読書と洒落込んだのは天川・竜馬。文庫本『キノコのすべて』を読破するつもりだ。
「楽しんでるか? 暇なら茶でも飲どうだ?」
 同じく読書を楽しんでいた紀伊・守と通りすがりの佐藤智秋と美袋侑香は、淹れ立てのお茶をご相伴に預かった。
 セシリア・アークライトはもう少し気温が高ければ浸かっても良かったのにねと足湯を堪能。ずらりと腰をかけた生徒を見て、これほどの生徒がファンガスを思って来たということに喜んでもらると嬉しいと、月詠・雫も足を湯に浸した。
「わぁ、あったかいですねぇ♪」
「ふんふんふ〜ん♪♪」
 龍崎・真央は頭にファンガスを乗っけてご機嫌。ファンガスを宿した亜麻・空も足湯を楽しんでいた。
 足だけ浸して遊んでいる月宮・琴そばに1体のファンガスが現れた。なかなか身体に触れてこないが気に入られているらしい。長い相棒になるだろうから気長に行こう。琴は焦らず待ち続けた。
(「……おーかはいじめないから、逃げなくたってだいじょぶだよ」)
 壬生・桜霞も待っていたが温かさについうとうと。
「ああ、こうしていると眠くなってくるねぇ、うん」
 足湯を楽しんでいたヒュー・メイスフィールドもふわと大きな欠伸を漏らし、背を伸ばした。うにょりと身を捩っているように見えるファンガスがいる。どうやら真似をしているらしい。
「……君も浸かるかね?」
 ヒューは笑みを浮かべ、ファンガスを手の平に乗せると流されないよう気をつけて湯に浸した。

 隈垣・斗志朗と杉乃里・雪菜と手をつなぎ一緒に足を浸けた。
「あ、写真撮りましょう!」
 鈴鷹・彩翔は、斗志朗と雪菜のツーショットをフレームに納める。彩翔も足湯を楽しみ、二人に撮った風景や人物を見てもらった。
「こういう素敵な景色がいつまでも護られるとええんやけどね。それにはウチらも頑張っていかんと」
 呟く雪菜の太ももにぴょんとファンガスが乗っかる。次々と現れたファンガスが寄ってきた。
「だから、力、貸してね? ファンガスさん?」
 にこりと微笑む雪菜。斗志朗も声をかける。
「まあ、今回は俺も力を貸してやるよ」
「仲良くやっていこうね」
 ファンガスを手に乗せ、彩翔は写真を1枚撮った。
 その後ろの森で、紫月・双牙は採取したキノコで網焼きをしていた。そんな双牙の元にもファンガスが近よってくる。知的好奇心から、双牙はファンガスに焼けたキノコを差し出した。
「菌類が菌類を……。なかなかシュールですね」
 がっつくファンガスを見て、双牙は糸目の笑顔のまま呟いた。
 比良坂・双香は膝下を湯に浸しながら、近くのファンガスたちを夢中で観察していた。気持ち良さそうな双香が気になったのか1体のファンガスが湯を覗き込む。
「少し熱めですが、気持ちいいで……っ!?」
 ばしゃーんと響く水の音が、また沢に響いた。

 足湯を楽しんでいた明生・芙美の下へ、少し聞きたいことがあったと能力者たちが集まってきた。
「ファンガスさんってキノコと聞きましたのっ」
 元気よく言い切るのは瑠璃・未羽。言葉を濁す芙美を見て違うのかと不思議顔だ。
「とにかくボクもお友達になりたいですのっ」
「うん、よろしくね」
「ところで風景の写真って撮っていいっすか?」
 念のためにと尋ねたのは氷室・螢。できれば野生動物の写真も取りたいのだ。
「ええ、かまいませんよ。せっかくだからたくさん撮って下さいね」
 芙美に太鼓判を押され螢は木立にカメラを向ける。そこに並ぶファンガスを見て、写るのかと困惑する蛍。くすりと笑いながら芙美は告げた。
「写りますよ。ただファンガスが変わったポーズとかしてても普通の地衣類に見えちゃいますけど」
「地衣類をお湯に入れて大丈夫なのか? 茹でキノコになったりしねえだろうな」
 感じていた不安を神倉・紅牙は尋ねた。
「大丈夫です。あんまり長時間使っているとふやけちゃうんですけど、茹ってしまったりはしません」
「ファンガスくんだって、かわいい女の子やかわいい男の子は好きだと思うんですよ。全種族共通ですよ。美少年と美少女を愛でるのは」
「う、うーん。どうなんでしょう」
 紅涙・りりすの問いに芙美は頼りない答えを返した。

 後にがっつりと質問攻めにあう芙美だが、今は気軽におしゃべり。
 ちょうどそのころになって、沢の近くを散策する者が現れ始めた。滑りさえしなければ、もしくは滑っても気にならなければ、カムイワッカの沢は寒い北海道でも温かくいられる良い道なのだ。そのことに気づいたらしい。
 気分転換に自然鑑賞と、滝の周りを散歩し始めたのは女好菜・弘明。
 隠された森の小路のおかげで水ゴケは問題ない。どこにファンガスがいるのだろうと思いながら、ヤドリギ使いの火倶耶・イルマは進んだ。
「さて、ゆっくり散歩しながら友好を深めるとしますか。どちらに行きたいですかね?」 
 言葉が通じたかどうかはわからないけれど、ファンガスがのたりと伸びをした。若月・梟麻はそちらに足を進めることにする。
 2人並んで沢を行くのは、四月一日・皐月とシュヴァン・シュバルツヴァルトだ。
「危ねえよ?」
「……なんだか、バカ様と二人で歩くのも変な感じだね……っ、ふぁっ!?」
 皐月は声をかけたが、温泉に入る動物たちの様子に気を取られていたシュヴァンは水ゴケに足を取られてしまった。共に転倒し、ずぶ濡れになった互いを心配する。
「ほら、風邪引くなよ?」
「うん、大丈夫。……バカ様?」
 シュヴァンはどこか元気のない皐月の顔を覗き込んだ。
「風香ちゃんもそんなところにいないで、ここにきてくつろぎましょうよ」
「姉さん引っ張らないで。ミズゴケで滑るんだから。あっ」
 手を引かれた鳳・風香は、鳳・真璃愛と共に豪快に転倒する。
 慌てて手を差し伸べたのは千堂・智美。滑り止めブーツに丈夫なロープと完璧な装備に、相手が安心して手を伸ばしたところで、ひょいっと手を引っ込める。
「ここでぇ、あえて助けるフリをして助けないのがクオリティですよぅ」

 沢の周囲は見事な森。今は木立のほとんどが葉を落としているが、温かい沢のおかげで木の幹が見えている。根雪が溶け、若葉も目を覗かせているところもあった。沢ではなく沢の周囲の地面を行くものたちも現れた。
 来られなかった姉たちにせめてみやげ話をと神薬師・備は湯滝を見て回る。
 骨休めと逆土・あやめもゆったり散策を楽しんだ。
 国後・弘一はそんな近くの木立に分け入り普通にキノコ狩りを楽しむ。
 この中にファンガスが絶対にいるはずだと、クルス・トールマンは木立に生えていたキノコを数本採取した。見事に毒々しい赤色をしているものもゲット。
「それって毒キノコじゃあ……」
 ツッコミを入れる周りの声は届かなかった。
「温泉に入るのも一興ですが……散策でもしましょうか」
 景色や野生動物を眺める神薙・龍成の後ろをいつの間にか跳ねてついてくるファンガスがいる。
「おや? あなたも一緒に散策しますか?」
 賑やかな湯滝から少し離れたところでイェル・ベネヴォルメンテは昼寝をしている。滝の近くだと水をかぶりそうだからと、星・琴菜も少し離れた川辺に座り足だけ入れてのんびりした。
 シルフィードの天笠・祭は、ファンガスが風に散ったりしないか気になった。寄ってきたファンガスをギュムっと抱きしめ、一緒に川岸を歩く。
 ラシェリア・グリーンアイズは、狼の姿で森の中を見て回っていた。そんなラシェリアの鼻先に、のたのたと白い塊がやってくる。
 湯滝以外でも出会いがあったようだ。そうこうしているうちに、さらに上流を目指した能力者たちは「これぞ湯滝」と思わせる『四の滝』に到着した。

●『四の湯』で大はしゃぎ
 最奥の『四の滝』は成人男性でもすっぽりと沈んでしまうぐらいの深さがある。湯温も高いので、熱いと思ったら調節するか熱くない場所へ移動したほうがいいだろう。外気の低さもあいまって、湯滝からもくもくと湯煙が上がっている。
「ファンガス……な、なんて野郎だ。滝が沸騰してやがる……!」
 滝が湯になっているのをさもファンガスの仕業と言わんばかりに鎌木・璃御は演出した。
「あ、煙ではなくて湯気ですね! 温泉ですものね」
 小野崎・穂乃美はあまりの湯気に一瞬煙と勘違いしたようだ。
「飛び込むぞー! ひゃっほおおうい!」
「とりゃぁぁーーーー」
 滝つぼにダイブしたのは司式・ゼルと九堂・今日介。
「あったかいからさ。普段、想像できない奴も泳いでたりするんだぜ。ほら、いたいた」
 一度来たことがある今日介は、泳いでいる蛇を捕まえてゼルに見せる。
 豪快に飛び込む2人に触発されたのか、張り合うように神谷・圭介も滝つぼへダイブ。
 この日のためにレティシャ・ネクロフィリアは、結社で買った【Crimson Fire Renart】の赤いマイクロビキニを着てきたのだが、圭介に付き合って飛び込んだ。
 白タキシードをおもむろに脱ぎ捨て、獅子吼・響慈も「うははは、極楽極楽」と滝つぼにダイブする。
「私はキノコ狩り世界チャンピオン――」
 首を左右に振り、カメラ目線でしゅきゃーんとポーズを決めたのは阿野次・のもじ。
「ファンガスキラー☆ 阿野次のもじ、さ」
 しかしファンガスに足を取られて滝つぼへ。全員が見つめる中、ぷかーと水死体気味に浮かび上がる。
「滝つぼがあれば、その裏に洞窟があるのが世の習い! ……そんなわけで滝つぼにごー!」
 元気よく先を行くのはテラ・マキャフリー。引っ張られるように銀誓館・白蛇も湯滝を探索する。
「近くにも洞窟があるようだから、滝つぼに繋がってる穴もあるかもしれないね」
 ファンガスが隠れていないか、見つけた横穴を覗きながら白蛇は呟く。頭上ばかりを気にしていたら、当然足元はおろそかになるわけで。
「「あっ!」」
 テラと白蛇の2人はずるりと足を滑らせた。
 藤野・涼太は限界まで滝に近づき流れる滝と足元の水ゴケを交互に見る。自然界では、滝の轟音と静かな草花の芽生えが共存しうるのだと思った。
「……実にいい湯だ」
「あつーい!」
 角田・堅一郎は湯を浴びて感嘆する。滑って転んだ今倉・愛は熱かったらしい。
 結局ここの湯滝の温度はどれくらいなのだろうと役・呪は手を伸ばす。水着姿にイグニッションした綾重・香菜は、雪で湯温を調整しつつ、お湯の中からゆっくりと風景を楽しんだ。
 ここまで来るのが大変だったぶん格別な気分だと、如月・深雪は素早く黒のマイクロビキニに着替えて滝つぼに浸かった。
「ぬぅ……なんという周到な罠。しかし余はあきらめぬぞ! 真の心の友を連れ帰るのでおじゃる!」
「ここは人間だけの場所ではありません。騒ぐのは別の場所でお願いしますね?」
 滝からのダイブに失敗し転倒したイナニワ・ウドンを、フレイア・アーティラリィーがそっと注意する。これは失礼と、イナニワは用意しておいた浮き輪に乗って川の流れに身を任せる。ぶらりと下げた手に流れに乗ったファンガスがぶつかった。
「余とおぬしが出会うのは必然であったでおじゃる。余とともに世界に羽ばたこうぞ」

「はっ!? しまった。俺はファンガスを救いに来たんだった! うぉー! ファンガスはどこだぁっ!?」
 賑やかに叫んで滑って転んで頭を打って川に浮いたのは岡澤・龍。
「うふふふふふ、流石に入るのは無理そうねぇ」
 ファンガスと戯れながら八雲・紫織は呟く。
 派手に飛び込んで目立てばきっと友達もできると、霜降・牡丹はネトゲ廃人で友人の紗神・零那を湯滝に放り投げた。その衝撃で川へと流れ出すファンガス。わぁ……大惨事。
 水鉄砲の一撃を顔面に受け、「うわ!」と緋桜・瑞鳳は湯の中に撃沈した。
「紫さん、それは水鉄砲ですね。……楽しそうです。たまには童心に帰って遊びましょう」
「……よーし、それは俺も参戦しろというコトだな? 覚悟しろ!」
 志津乃も瑞鳳も、紫乃・紫から水鉄砲を借り構える。撃ち合う視界の隅に紫はあるものを捕らた。
「リスさんに、シカさんに、ファンガスさんに、クマさんに……って、クマっ!?」
 熱いのが苦手な空夢・ユートは湯に雪を入れていた。その隣で、小学5年生の御深井・このはが男の子たちを魅了せんとがんばっている。
「まだ胸は無いけど、頑張ってエロオーラ出すよ」
「このはちゃん、何やってるの……?」
 滝つぼの浅いところで水遊びをするのは漣・恋歌と漣・朔耶。
「ほらなにやってるの、甘えん坊!!」
 恋歌はじゃれつく朔耶を胸に抱いた。
「お姉ちゃんまた胸大きくなったでしょう?!」
 朔耶は恋歌の胸をじーっと見つめた。
 結社『押し入れの仲』のみんなとやって来たセドリック・ヘブナー。薄野・シキが川に直行するのを見送って、腰を下ろして荷物番をする。いつの間にか眠りに落ちたセドリックを起こそうと、キラキラの笑顔でジブリール・シェドゥーブルはその顔面に水ゴケがたっぷり入った水をかける。水ゴケを入れたのはファンガスと仲良くなれるように……というのは建前だ。
 起きたセドリックの両脇を抱え、ジブリールとシキは滝つぼにダイブ! シキは仲良くなったファンガスに「やっちゃえ!」とセドリックをくすぐってもらった。

 水着美女を求めて血眼で探しているのは、月村・斎。そんな斎と共にいるのは、結社『梟の団』の面々、そしてお友だちたちだ。
「滝から湯気が出てて真っ白な煙がもわもわしてるにゃ♪」
「足元には気をつけろよ、ミズゴケで転ぶかもしれ……うわぁっ!?」
 イーリス・フェミリアに注意を促したはずが、御剣・火影の方が滝つぼに転落してしまった。携帯用の救急箱に手を伸ばしながら、臼杵・唯はその瞬間を携帯電話のカメラに納める。
「真っ白でふかふかです〜♪ ふゎ〜」
「ファンガス、しろいもこもこ、あいたいなー」
 氷神・睦月はとろけ顔で見つけたファンガスに擦り寄っている。自分も見つけたいと、アンジェリカ・ルシャトリエは周囲を見回した。
「ここが雪姫ちゃんの故郷なの?」
 ずっと案内をしてくれた君山・雪姫に、星野・綺羅良は尋ねる。
「ええ。雪崩には注意してくださいね」
 さすがに温かくなった。この時期は雪崩が発生しやすいので、みんなには十分気をつけてもらおう。
「友人が居ないと、こういうときに暇を持て余しますね」
 周りの喧騒の見物しながら逆月・凍矢は呟いた。
「少しのぼせてきましたシ出ることとしましょウ。滑らないように注意しませんト……アラ?」
 注意空しく滝つぼに倒れ込むヘイシン・バク。うつぶせのまま浮かび上がり流れされていく。
 温泉に浸って極楽気分でうたた寝中のサラ・モラトリアス。20分後、その心地よさそうな心に引かれ集まったファンガスによって、サラの身体は埋もれて見えなくなっていた……。

 全員が大はしゃぎ。コレを楽しみに来たのだから収まるわけもない。
 湯温が高いこともあって、汗をかいて喉が渇いたり、運動しすぎて小腹がすいてきたりしていた。そんな能力者たちに心強い者が現れた。
「っくーっ! やっぱり温泉には冷たいジュース!」
 凍るくらいに雪でキンキン冷やしておいたオレンジジュースを乾・舞夢は飲んだ。たくさん持ってきたので、みんなにもおすそわけ。みんな、我も我もと手を伸ばした。
「新名物予定の、ファンガスまんじゅういかがっですかぁ〜」
 水着の上にエプロン、木箱に饅頭を詰めて首からかけ、大声で饅頭を売り歩いているのは三世蘭・ステラ。温泉といえば饅頭という強い信念のもと、周りを大量の白い粉で覆い、ファンガスらしい『ふわふわ』『もこもこ』感を出した饅頭をたくさん作ってってきたのだ。
「中身はぁ、アンコのと、カスタードクリームのと、……なにか、です」
「アタイは餅屋だ。餅をつくっ!!」 
 その近くで杵を振り下ろしているのは桜芽・春華。『できあがった餅をみんなで食べると楽しそう』という思いだけで、自称餅屋の春華は餅をついていた。
 どちらも大繁盛。重い荷物を抱えてきてくれたことに感謝して、余分のお代を払うものもいた。

●野生動物と温泉を
「何がくるかなくるかなー♪」
 川岸で足をつけてばしゃばしゃするのは胡桃・黎耶。野生動物を観察する気満々だ。羽柴・鋼は見られたら嬉しいと湯に浸かりながら思う。早坂・涼乃は何が来るかわからないけどぎゅーっとしたいと周囲を窺った。
「ねこさん♪ ねこさん♪ でてくるなの〜♪」
 ファンガスのことをすっかり忘れ、猫を探しているのは猫乃・うるめ。
「指でつついたりしたら動いたりするのかな? いろいろ触って確かめてみたいなぁー」
「野生動物がくるかも? どっちでもいいから、でーみぃと一緒に遊べたらいいなぁっ」
 楽しそうに動物を待っている二本・雅美と二本・雅司は仲のいい兄妹だ。兄の二本・匠はそんな2人を木立の陰から見守り……もといただ愛でている。
「クマとか狐も温泉入りに来んのかなー」
 足湯をしながら滝の風景をスケッチしているのは八戸・洽。森の静かな場所で読書をしていた磯浪・針月もまた、やって来た野生動物に気づきスケッチを始めた。
 見晴らしのいいこの場所は絶好のスケッチポイントだったらしい。鉛筆を片手に次々と人が集まってくる。未崎・風音もそのひとりで、人、そしてやって来た動物やファンガスたちの姿を何枚も絵に写し取る。普段から漫画を描いている栗栖・美香は、普段見慣れない景色を描いておくと漫画の資料になりそうだ思っていた。
「あははー。つい珍しいものを見ると描きたくなるですよぉ」
 そんな寒桜・美咲は、湯滝も入る前に当然スケッチ。野生動物に感激し手を動かした。カワイイ物体は突っつかずにはいられない水守・蒼月は、やって来たファンガスを鉛筆で軽く突ついてみる。

 絶好のスケッチポイントということは、絶好のシャッターポイントでもあるわけで、カメラを手にした人もぞくぞくと集まってきた。
 滑らないよう気をつけながら、弥都吏・カナメは野生動物を見かけてはカメラを構える。志鶴・導は湯で温かいのはいいけれど滑って動きにくいと残念がった。荻堂・スグルもデジタルカメラを手にかわいいエゾリスやエゾユキウサギ、美しい景色を撮って回る。久遠・志伊那は足湯を楽しみながら撮影。家に帰ったらその写真をパソコンの壁紙にするつもりなのだ。
 そうこうするうちに動物たちがやって来た。エゾシカ、エゾリス、エゾクロテン……小〜中型の野生動物たちが湯にそろそろと入っていく。
「おや、君たちは湯に浸かりに来たのですか? 邪魔はいたしませんのでどうぞごゆっくり」
 現れた動物に場所を譲った光狩・鎌夜は彼らの姿を眺められる場所まで移動する。
 天領・晶は野生動物が滝つぼに浸かるのを見て驚かせないよう口を閉じた。帰ったら結社のみんなに報告しようと思っている。武長・信利は野生動物に気づかれないよう、小声で「かわいい」を連呼していた。なかなか見られないものだからと、ウィル・アルファードは防寒装備済みの自前の一眼レフで滝つぼに浸かる動物たちを撮影した。

 先に湯に入っていた者たちも動物たちがやって来たことに気づき始めた。
「にゅ? どうぶつさん?」
 エゾシカを見て百百・東風は目を輝かせる。
「こーも狼変身っ。一緒にあそぼーなのー」
 菅野・生真も猫変身をして近づいていく。同じ動物になっていれば、動物たちも警戒しないかもしれないから遊べるかもと考えたのだ。
 少し奥の温泉に浸かる野生動物を見つけ、館端・楓ははしゃいだ。眼鏡が曇ってよく見えないのに近づこうとして見事転倒。かしゃーんと眼鏡が吹っ飛んだ。
 小型の野生動物でも少し不安を感じた識神・裏桜は逆に逃げだした。 
 温泉にエゾシカを見つけ綾木・レンは一緒に湯に浸かる。距離をとって鳥羽・セレナもじーっと観察。でも、まさかヒグマは来ないだろうとちょっとドキドキしていた。
 修行と滝の下に座って遊んでいた神戸・久々里は、現れた野生動物たちに近づこうかやめておこうかとウロウロ。
 ひよこのおもちゃを浮かべていた神城・華乃歌は、湯に入ってきた動物を撫でている。驚かさないよう気をつけ夜薙・祀も撫でた。蓮見・蘇王はエゾシカに囲まれ角でガスガスと小突付かれている。どうやら気に障るようなことをしでかしたらしい。
 野生動物の姿を熱心に観察しているのは八霧・紫苑。久利生・進琥郎はやってくるエゾユキウサギを捕まえんと狙っている。
「ふふ、動物たちも気持ちいいこの場所、大好きナノデスネ」
 グローリア・フェンは動物たちを撫でながら微笑んだ。
 温泉が大好きなインク・メイは「温泉好きに悪い人はいません!」と断言した。
「シカさん、イノシシにカモシカ……」
「元気に泳ぎすぎて脅かしちゃダメよ」
 指折り数えて動物を探しているのはフゲ・ジーニ。熱が篭った身体を岩に腰をかけて涼みながら、シャイナ・クラストが注意する。椿の花が一輪描かれた白いワンピースタイプの水着が映えていた。
 深見・シンは、動物たちと楽しく温泉に入りつつそろそろではないかなとファンガスの訪れを待つ。その思いに惹かれるように、白いもわもわが姿を見せた。

 いつしか湯滝には人にと動物、そしてファンガスも浸かるようになった。さながら小さなユートピアだ。みんな和気藹々と湯を楽しんでいる。
 エゾユキウサギに触れていた高嶋・俊に、俊や動物たちをカメラに納めるノア・ヴィーギィ。そんな2人を微笑ながら見てたら、ユヰ・アドラステアの前に白いふわもこがのたのたと現れた。
「これがファンガスか。奇妙な姿だがよく見ると……かわいいいと思わないか?」
 ユヰは手を差し伸べながら2人に同意を求めた。
 口に手を当て、土御門・紫も「あら、可愛い」と微笑む。
「よしよーし、怖くないからな〜?」
 身体に宿ったファンガスが野生動物を、野生動物が自分たち人間を怖がらないよう気遣って、語部・千都は声をかける。菱木・ななはさっそく野生動物とファンガスの両方ともをもふっていた。
「しあわせです……うふふふふふふふふ」
 濡れもふもふな野生動物と濡れもこもこなファンガスを堪能している撲・殴子は、表情がすっかり弛緩し切っている。
 裏辺・纏は湯滝を眺めながら、野生動物やファンガスを観察している。向こうから寄ってくると聞いたが歩み寄りは大事だと父から教えられた山城・伊吹は、仲良くしようと近づいた。
 動物とも一緒に暮らしていたかもしれないと、ファンガスに申し訳なく思う十夜・空。せめて写真だけでも思い出を保存できたらと、彼らの姿をたくさん写真に撮っていく。
「ファンガスはキノコの仲間だって言うしさ、それなら大自然の仲間と似たようなもんだよね」と河東・佑朋。自分の故郷にはいなかったいろんな生き物を興味津々に眺め、戯れた。

 しかし、ユートピアに小さな異変が訪れようとしていた。
 ぶらぶらと湯煙が立つ川沿いを歩く比良坂・黄泉は一礼して進路を変える。ヒグマを見つけたのだ。
 エゾユキウサギに話しかけていた雪吹・梓乃も、ヒグマの姿に思わず逃げてしまう。驚いたエゾシカがカッと蹄を蹴立てて逃げていく。ファンガスがのたのたとよけるが間に合いそうにない。「危ない!」と甕星・誄歌は抱えるようにしてかばった。
 お揃いの赤と緑のシャツ、配管工スタイルでファンガスを探していた八環・結伽と佐鳥空・銀狼。現れたヒグマに手作りの石槍を掲げて追おうとする銀狼に、結伽は背後から飛び蹴りをぶちかます。
「何やってんですかぁあああっ! ファンガスたちが群生地から逃げちゃったらどうするんですかっ!」
 ヒグマはそれらのことは気にせず、のそりのそりと湯滝に浸かろうとする。ヒグマだって湯滝を楽しみたいのだ。
 ファンガスを待ちつつ湯に使っていたカメリア・ダイヤモンドは、これも交流とヒグマ相手に相撲を始めた。好敵手を見つけてヒグマも楽しそうに見える。
 居合わせた全員で、ヒグマと一緒でも平気な者、そうでない者で入る場所を分け、邪魔しない程度には離れた上で全員等しく湯を楽しめるよう考えた。
「温泉では戦はなし。戦国時代から続く伝統です♪」
 真嶋・圭はにっこりと微笑んだ。

●みんなで一緒にお湯遊びを
 とにかく急な旅行だった。だが、普段から結社で行動を共にしている者が多い能力者たちだから、今回の旅もまとまって行動を起こしたものも多かった。目的地が湯滝だったので荷物をどこかに置くことになりがち。そこをクリアするにも団体と言うのは良い手段だったようだ。
「荷物は私が見てますから、思い切り遊んできて大丈夫ですよ?」
『クリクラ温泉ツアー』と名づけやって来たみんなの荷物を、天宮・羽衣は受け取った。
「あはっ! スキありっ!」
「ふっふっふ、莉良ちゃんもびしょぬれの刑ですっ♪」
 おしゃべりの途中から、湯のかけ合いっこを始めたのは十城・莉良と小鳥遊・祐理。それを見て湯に浸かっていた文月・風華は、「えぃ♪」と莉良に抱きついた。
「って……きゃぁ! ふ、風華!?」
 足湯だけのつもりだったがここまで濡れたなら同じと湯の中に入る莉良と祐理。
「漣ちゃん足元には気をつけ……ひゃわっ!?」
「あ、危ない……小夏おねえちゃ、きゃあ……っ」
「やっぱりこうなるのか〜!」
 言った矢先に転ぶ出雲・小夏。なりゆきで天宮・凛と天宮・漣も転倒する。元気よく転ぶ面々を見て笑うのは黄楊・スティノークル。
「はっはっはっ、相変わらず元気いいですなあ。ケガせんでくださ……おう!?」
 足を滑らせ顔面から湯滝に倒れ、黄楊はぷかぷかと浮いた。
「あははっみんなびしょびしょーっ♪」
 笑いながら小夏は激しく湯を跳ね上げた。その滴が制服姿の明夜・宵闇にもばしゃりとかかる。
「……宣戦布告と取って良いよね?」
「みなさま〜。タオルはこちらに置いておくのでご自由にお使い下さいな」
 物騒な笑顔で立ち上がる宵闇の後ろから、九龍・幽鬼が声をかける。はっちゃけて濡れネズミになってしまった人用に多く用意しておいたのだ。
 そんな喧騒は露知らず、滝の下へ遊びに行っていた日野・奏は戻ってきてのんびりと浸かり直した。
「う〜、寒いから出たくない……。根づくってこんな感じ?」
 尋ねられた式銀・冬華だったが。
(「あー癒されるな……少し眠くなってくるほど……」)
 日々の疲れと緊張がほぐされたせいか泡を出しながら徐々に沈んでいく。危険な領域に入るところだったが、を探していたパステル・シェフィールドの目に運良く留まり、湯の外に連れ出される。
「しっかりして下さい、式銀さんっ。苔に足を取られてしまったんですか?」

 団体と言えば、『お砂糖遊園地』の面々もそうだ。
 一同は湯に浸かってファンガスと野生動物の到来を待っていた。その静寂を破ったのは叶霧・杏。これはやるしかないと氷山・想陰の背後に回り膝カックンをかました。
 水ゴケのおかげで効果倍増、想陰は見事に転倒する。しかし即座に反撃。
「水ゴケを食らいなさい、このお馬鹿さんが!」
「水ゴケ投げるのやめてくださいですー!」
 飛来する水ゴケに対し、杏はドデカ水鉄砲で応戦する。いち早く杏のたくらみに気づき、被害者が出るのを黙って見ていた高藤・加音は、「ふっふっふ、油断大敵だぜ!」と杏に膝カックン。
 次々と人が転ぶさまを見て一ノ瀬・柴はケラケラと笑う。浮き輪を持ち込んでいた柴は、「俺は転ばないもんねー」と足を激しくばたつかせ、みんなにお湯をかけた。
 一連のドタバタをブリギッタ・カルミーンはぼうっと眺めている。小学生の自分では膝カックンはムリと逃げていたドロシー・ルドヴィカはその油断からか足を滑らせた。が、水ゴケのおかげで怪我はナシ。
 溺れたりのぼせたり、一同は収拾がつかないほどはしゃいでいる。
 ただ、最初に転んだ想陰だけはそっとその輪から抜け出していた。お湯に浸かりつつ、ふうと一言。
「平和ですね」

 結社『深紅の夢』の面々は大自然を楽しみ、全員で湯を堪能している。
「ゆだらぬようにこうしていようか?」
「ありがとう、皓牙。すごく……心地いい」
 雪女である吹雪・皓牙は、雪邑・雅仁の肩に冷気を帯びた腕を回した。湯で火照った身体を冷ましてもらっているのに緊張で雅仁の頬は赤くなる。
 じっとしていることに飽きた月夜野・流火は、穏やかな時間を破って全員に湯を浴びせかけた。「やられたからには倍返し以上だよ♪」と神崎・萱草が2倍よりも多い量を掛け返す。それでも物足りなくて、この中で一番背の高い皓牙に飛びついた。
「ちょっと、待……」
「うわ、流火さんそれは危ないです!」
 たまらず転ぶ皓牙は蓮花寺・光韻の腕を掴む。そんな2人をよけようとしたリアム・スプラウトも湯の中へ。
 そこまでしてから流火は思い出した。自分が泳げないことに! じたばたと必死に手足を動かす流火に皓牙と萱草から救いの手が差し伸べられた。

●ファンガスを求めて湯滝を
 これまでの滝と同様、ここもファンガスたちが群生している場所だ。人が多くて迷っているようだが、楽しそうな能力者たちの心や動きに勝てず、じきに近寄ってくるだろう。すでに何体かは滝に出てきていたし、もうだいぶん姿が見える範囲まで出てきているのだから。
 滝の脇にファンガスを見つけたラスティは気づかない振りをしながら行動を観察していた。
「ファンガスって、キノコの来訪者だって言ってましたよね」
 自分の頭からキノコが生えるという何とも間の抜けた想像をしながら、確かにかわいいですと仙北・メルトは笑った。愛嬌あるのがついてきてくれるといいなと壱目・侑李は思う。
「ファンガス、僕の中で黒く染まるが良いさ」と滝つぼを見下ろし、伊吹・セトは仁王立ちしている。
 狭苦しいのは性に合ないとイブン・アルハリーファは混み合う湯滝を出て、カンドゥーラに身を包む。
「疾く来たれ、ファンガスよ。どのような者かは知らんが、共に来たければ来るがいい。俺が戦うための力にとなるならば俺に否やはない」
 その声に導かれたように、わらわらとファンガスたちが動きを見せる。滝の上から様子を窺っていたものたちが下へと移動を始めた。
「……のたのたしている!」
 その動きに衝撃を受ける時永・柊弥の手を握るリナリア・リアトリス。そんな二人の目の前で、2体のファンガスがそっと身を寄せ合った。
「これがファンガス……ふふっ、面白いな」と鷹橋・誠也は笑う。
 何となく参加した白峰・雪貴は旅の目的を未だ把握していなかった。が、この白いもわもわしたかわいいものとは気が合いそうだと思う。
「おっす! 俺は一咲・さなって言うんだ。好きなものはシャケのおむすび。よろしくな!」
 さなは目の前にやってきたファンガスに挨拶をする。そっと撫でてみて、「うん、確かにふわふわでもこもこ……しっとり? モーラットやケットシーとは一味違うな〜」と思った。
 人の心が分かり影響を受けると聞いたが無心でいたらどうなるのか。時任・薫はそこが気になる。
 同じ理由で興味津々のライ・ルクス。ファンガスを手の上に乗せてじっと見てみた。ファンガスもじっと見つめ返している……ような気がすした。
 しゃべることができなくて、表情もわからないと聞いたファンガス。自分も似たようなものだからと、静森・深由梨は少しだけ親近感を抱いた。
 寄生するキノコには冬虫夏草のような怖いイメージがあるが、共生できるのは素敵だと黒森・マリア。1人で来ていたもの同士話していた九曜・星、姫咲・百合、天照・澪にファンガスが近づいてくる。
「どこら辺から探しやがりマショーかねーェ」
 浮かんでくれると助かるのにと篠田・春一が思ったとたん、目の前に浮かぶファンガス1体。

 温泉でのんびりしていた神垣・奏夜はファンガスに来い来いと手招きをした。寄ってきた1体を頭の上に乗せて遊んでみる。「仲良くしてくれな?」
 鼻息荒くファンガスに呼びかけるのは佐藤田中・鈴木。「イーッ、イーッ!」とだけ言う彼の首には、『さぁさぁっ、拙者のタイツにぃいい繁殖するであります!!』と書かれたスケッチブックがぶら下がっていた。
「ど〜も〜律でござる」
「……」
「おーこれはこれはご丁寧に。こちらこそよろしくでござる〜」
「……」
「そうでござるか、今年は調子がいいでござるか〜」
 石十口・律は成功しているのかどうか分からないコミュニケーションを行っていた。
 文月・昇は着ている物そのままで入り、「強弱は関係ない。新しい力、来い」と真剣な表情で微動だにせずファンガスを待つ。
 有坂・鼓は弛緩しきったいい表情で、ファンガスを手に乗せて戯れている。ぼけーっと足湯をしながら、長谷川・仁太郎は「さすがに鷲掴みはまずいよな」と考えた。
「さすがに鑑賞用としては向かないか。しかし、何ができるのだろうな……」
 ファンガスを手に藤堂・明は呟く。
「キノコ……♪ ファンガスちゃんはどこだ〜い」
 返事がくるはずはないと思いつつも、日乃元・大和は呼びかけ続ける。共生したらどうなるのか、怖くわけではないが楽しみの方が勝っていた。「いつでもとり憑くがいいぜ! ばっちこーい!」

「キミたちがファンガスね……。蟲と喧嘩しないなら、もらってあげてもいいよ」
 九曜・星はふふんと笑って星は手を出した。
 ルーナ・ランフォードはファンガスを手に乗せ、恐る恐るつっついてみる。それを真似てファンガスも身体を伸ばしてつんつんとルーナをつつく。
「……よろしくの?」
 見つけたファンガスに手を差し出し、「共生しないか?」と尋ねる榧口・銹。これは『口説き文句』と言うらしいと心の中で思う。
「あ。ねぇ、あれじゃない? ファンガスって」
「奇妙な形状ですけれど、何となくとは言え、本当に心まで分かるものなのですかね……」
 玖凪・蜜琉は白いもこもこを見つけ指差した。その不思議な外見に烏山・千歳が疑問を口にする。
「お前らあれか、こういうあったかいのと寒いのが一緒にあるとこが好きなのか?」
 ちょんと突付き声をかけた浦雪・坤の行動を真似して、ファンガスも坤をつんつんと突き返してくる。
「こういうのだったら体から生えてても可愛いかも……しれん」
「一緒に帰った後、梅雨の時期とかどうなるかなー?」
 ちょっとドキドキするけどそれもまた楽しみと、フォルトゥナート・フィオーレは一番に寄って来て、自分を気に入ってくれたっぽいファンガスを連れ帰ることにした。
 破月・黒夜はファンガス自身や群生している場所をゆっくりと観察して回る。
「焼いて食べたら美味しいかな?」という杜塚・紗耶の呟きに、ファンガスから怯えを感じた気がした。
 いきなり猫変身をしてファンガスを驚かせてみたのは環・真琴。耳と尻尾のようなものを作ろうとファンガスも身体をのたのた動かした。

「いたー! みずはっち、あそこにおるよー!」
「ちょ、えるっち……! この、のたのたはやばいよー!」
 紀戸・依琉と遊馬崎・水葉は見つけたファンガスの動きに大興奮。
「僕の気持ち分かるの? 僕もキミの気持ち分かるかなー?」
 キラキラ笑顔でファンガスを受け入れた沢村・ナギは、ぬーんとその心を感じ取ろうとする。
「あたしについてきてくれるファンガスもいるかしら……相性のいい子に出会えるといいのよさ」
 南風小路・コロリはファンガスを手のひらに乗せ、つついたり撫でたりその感触を確かめていた。
「ぽわぽわふかふかで可愛いのです〜♪」
「わ、ホントにもこもこだ」
 亜栗・光奈と楢芝鳥・凍歌はファンガスを見つけ肩に乗せてもふもふしていた。
「……こうしていたら体に宿るんでございましょうか」
 白衣・観音はスキンシップと来るファンガスを片っ端から頭や肩、膝の上に乗せ続けた。いつしか身体が埋もれて白く染まっていく。
「ふわもこさん♪ こっちにおいで♪」
 マンドラゴラ型の浮き袋に掴まったまま、霧生・颯は川岸にいたファンガスに手を伸ばした。誘われ川面に落ちたのをそっと掬い上げる。
「お兄ちゃん……これがキノコさん?」
 おずおずといった風に、霧生・楓はファンガスを覗きこんだ。
「ふぁんがす。一緒に、行こう……」
 颯と楓はファンガスを濡れないように頭に乗せた。

「ほれほれ、食うか? 何ならこのまま俺についてくるか」
 リズ・シュトラウトは携帯食をちらつかせファンガスを呼んだ。
 お弁当を作って来た八歳・沙紀は、玉子焼きをファンガスに差し出してみた。つんつんと突付いたあと、ずるりと玉子焼きを包み込むファンガス。気に入ったのか沙紀の弁当にのたのたと近づいた。
 白粉を取り出したのは銀・華蓮。食べるかとファンガスに与えてみたが、ゴロゴロと転がって粉のついた身体を楽しんでいる。
 日本古来よりいたというファンガスには、同じく古来より居た土蜘蛛として興味があると篝・灯夜。積極的に宿そうと手を差し伸べた。「すでに黒燐蟲が巣食うこの身ですが、それでもいいというのでしたら」と碑槌・錐果も手を伸ばす。
 何も知らない人々を守るという自分の戦う理由に賛同してもらえるといいと佐原・利也は思った。
 ルーファス・ロンは動物が出るかもいう話を思い出し、早々に「……じゃ、これからよろしく」と手に取り笑顔で挨拶をする。
「君たちもひなたぼっこが好きかなっ? だったら、一緒にいこ〜♪」
 御子柴・ひなたはファンガスを受け止めようと宙に向かって両手を広げた。
「お前の力を貸してくれよ、俺は身体を貸すから」
 鎖藤・正は握手を求めるように手をのばして笑いかける。
 黒沢・スミレは悩んでいた。ファンガスはキノコらしい。湯滝近くにいるのだし水気は好きだとは思う。が、水分過多はキノコに悪そうだ。濡れた手で少し触ってやるくらいが丁度いいかな?
「呼びにくいから、名前付けた方がいいのかな? ……! 白いからシロちゃん……だめかな?」
 見つけたファンガスを手に乗せ、若生・めぐみは仲良くなろうといろいろと話しかけていた。自分の名前に自身に宿していた蟲のことなど話は尽きない。
「……万果って名前はどうかな。君ら、たくさん増えるでしょ?」
 秋山・楸も手のひらに乗せたファンガスに名前をつけていた。
 ファンガスと共生するのは事情を知っていても正直怖い。けれど必要なことであれば。「女は度胸!」と榊・那由多は自らを奮い立たせる。
 猫変身をして野生動物と遊んでいた榊・多由也もファンガスに出会っていた。
「お前も温泉入るか?」
 多由也はファンガスをそっと手に乗せた。戦わずにすめば一番いいし、お互い足りない部分を埋められると思うから。

 自らの意志か迷い込んだかはさまざまだが、ファンガスたちの群生に踏み込む者も出てきた。
 蕭・仲は大きなファンガスに宿って欲しいかったのでそうした。マイタケ、エノキ、椎茸、それともキクラゲ? どんなキノコか気になる仲。どれもおいしそうだが仲間を食べるわけにはいかないと自制する。「さあ、食べないから出てくるヨロシ!!」
「私と共生したい子、この指とーまれ!」
 人差し指を頭上に上げたのはニルティア・アイエーワイ。その声に惹かれるように、ファンガスがふわりとニルティアの肩に乗っかった。
 群生しているファンガスに、埋もれるようにしてうたた寝をしているのは川辺・結花子。
 たまたま踏み込んだ、レキウス・クルツはファンガスがびっしりといる光景に我が目を疑った。
「うわー……なんだか綺麗……」
「うわぁー。みよさん見て見てあそこ、すごいいますよ」
「あれ? 湯気が妙な動き……ってファンガスさんか! わー! 本当にいっぱい!」
 伽捌・太郎が指差したのは滝近くの壁。キラキラした目で蓮・弥介は壁を見た。もわもわと動くのは壁一面のファンガスたち。
「え、えと、こんにちは」
 挨拶をして、そっと差し出した弥介の手にファンガスたちがどんどん乗っかっていく。
 埋もれても本望とファンガスに身をゆだねる弥介の姿に、太郎は思わず言葉を失った。
(「……みよさんが埋まっていく」)
「先輩、先輩! キノコ……じゃなくってファンガス! 見て見て! 超ファンガス!」
 腕いっぱいにファンガスを抱え、蝶美・味鈴は次なるファンガスを求めて追いかけまわしていた。
「どれがいいかな? かな? この辺とか生きがよさそうだよ?」
 味鈴と一緒に生きのいいファンガスを捕まえると決めていたジャト・オールグッドは、鈴なりのファンガスに意気揚々と立ち向かう。
「せっかくだから、俺はこの一番ぴちぴちしてる奴を……。奴を……。……」
 悲しいことに見分けがつかない。
「って寄ってきすぎだから! ちょ、まっ、多、多いよファンガス! ミリン、ジャト君ヘルプ! へルプミー!」
 飛鳥・篠舞に勢いよくファンガスたちが群がる。せっかくだからとジャトは一番篠舞を驚かせたファンガスを選んだ。
「最後のカムイワッカの湯になるかもしんねーな、しっかり浸かっとけよ」

「かもしてかもしてかもしまくれー!」
 偶然だった。言った紫苑寺・瑞穂の周りにファンガスが一斉に集まってくる。
「もこもこがっ! もこもこがいっぱいっ!? 沙久真くん、どこー!?」
 パニックになる瑞穂。その足を、直前に転んだ貴船・沙久真が掴んだ。
「きゃっ!? 引っぱちゃだめぇっ!? ふにゃあああああああっ!?」
「ぁぅ……ごめんなさい」
 鈴なりのファンガスをひと抱えにして捕まえたセラフィナ・トウドウは、彼らをそっとお湯に浮かべてみた。しばらく待っていると、心持ちファンガスたちが脹れた気がした。
 ファンガスを手のひらに乗せ、湯を楽しむのは皇・なのは。未知なる出会いにわくわくしている。
(「温泉だとほどよくゆだったファンガスが入ったりするのかな?」)
 シル・バーレインはそんなことを考えていた。

 突然現れたファンガスに挨拶をした足利・命。ファンガスには目も口もない。表情も読めないため、そのままにらめっこに突入する。
「ふむ……むーっ……。……何か不思議な感じがしますわ。つついても腐ったりしないですわよね?」
 なんとなく、ファンガスが「そうだ」と答えた気がして、命はホッと胸をなでおろす。
「人に危害を加えないならわたしが守ってやるんだぜ。……おいで」
 のんびりと沢の流れに身を任せていた有沢・双葉がファンガスに手を伸ばした。
「そうですわね。ファンガスさん、これからよろしくお願いいたしますわね♪」
 湯の温かさで眠くてしょうがない蓮未・暁の口元からよだれが垂れた。白くてもふもふ=ひつじっぽい、だから美味しいと思ってしまったからだ。不穏な気配を感じ取り怯えるファンガス。
「ん、大丈夫……たべない……うん……たぶん」
「茸の来訪者がいる温泉……何となく、出汁がきいて美味しそうな響きでござるな」
 そう呟きながら、アザゼル・タリスマンは懐からハーモニカを取り出した。ファンガスを聴衆に吹いてみようと持ってきていたのだ。
 露草・雫もまた、手に砂糖水とハーモニカを持ってファンガスの訪れをひたすら待っていた。
「意志があるんなら、音楽を聞いたりできんのかもなッ。個体ごとに好みとかあるのかな……」
 愛用のギターを爪弾き、創流・鉄彦は即興でセッションしないかと誘いをかける。
 それを始める前に歌声が聞こえた。澄んだ声が高く低く沢に響く。その白銀・凛の歌声に惹かれるようにファンガスがやって来た。
「……あ……、お歌、気に入って……、くれた……?」
 凛が嬉しく思ったのを感じたのだろう。ファンガスがぴょこぴょこ跳ねる。
「……えへへ……、嬉しい、な……。ありがと、ね……」
 温泉に浸かり、みんなと楽しく歌っているのは緋勇・龍麻。その頭の上ではファンガスがじたばたと踊っている。「君も大きく育ったら、俺の大切な人を真似た姿になるのかい?」

 持ってきたファンガスの資料を目を通していた五十鈴・叶は気づいた。
「あ、そういえば椛ちゃんも来訪者なんだ!」
 八伏・椛はクルースニク、立派に来訪者だ。
「来訪者はこの世の外からきた『マレビト』じゃからの。『幸い』と『災い』をもたらす存在じゃ」
 どこか達観したように、椛が告げる。
「でも、お互いを理解しようとし共に歩めれば世界にとって幸いだと、わっちは思うのじゃ」
「うん、そうだね……私もそう思う。だって椛ちゃんと出逢えて私もお兄ちゃんも幸せだもん。だからきっとファンガスさん達も同じだよ☆」
 心からの笑顔で叶は椛に笑いかけた。うんと頷き返し、椛は湯滝そばにある木立に呼びかける。
「わっちゃあ、ここにいる。ファンガスよ、共に生きてみんかの?」

「いたた……寂しいのう、独りは……慣れてるけどさ」
 旅に参加したものの、川に入るやいなやこけてしまい、せっかくの湯が染みる始末。孤独を感じ、神薙・紅葉は少し弱気になっていた。そこへはらりと降る雪のようにファンガスが落ちてきた。
「お前も独りなのか? ……ああ、いいよ……共に生きようじゃないか」
 紅葉はファンガスを受け止め、ニッと笑いかけた。
 身体に宿すのも三種目となると賑やかになりそうだと、裏郷・夕香里はファンガスと湯遊びをする。
「ふぁ〜さん」と名づけたファンガスと共に、伊江椅・杳海はのんびり肩までお湯に浸かる。
(「ファンガスさんの肩って……どこでしょうね?」)
 そんなことを思っていたら、なんとなくファンガスが茹って――もとい、ふやけてしまったようだ。杳海はファンガスを頭の上に乗せ、濡れたハンカチを乗せてあげることにした。
 仲良くなったファンガスに、海神・航は夜は一緒にごはんを食べようと話しかける。
 真ケットシー・ガンナーのウィルと共にファンガスを探し、見つけた神谷・真珠。かわいらしい姿を存分に観察したあとで、お友だちになりましょうと誘いをかける。
「その前に、ウィルとファンガスとあたしで写真撮っておかなくてはね!」

 突然顔にかかった飛沫に玖津王・アギは驚いた。隣で隣・朝矢も顔をしかめている。ごまかし笑いで「わりーわりー」と謝るのは鈴白・舜だ。足だけつけて湯を蹴っていたらしい。
「温泉なんて久しぶりですの。気持ち良いのぅ……」
 肩まで浸かり幸せ気分なのは奏祇・朱陽。飛んできた白くてもわもわで手のひらサイズのファンガスを受け止め、挨拶をする。それを見た夕凪・渚は、使役ゴーストの真モーラットピュアのみるくとどっちがかわいいか考え始めた。
 人まねができると聞き、ガイ・ブリアードはファンガスが悪用されないか心配だと巡回をかって出た。
「用心するに越したことはねえしな」
 同じことを考えていた称得・唱が通りがかった。唱はファンガスに迷惑かけるような行為をする者がいないかも気を付けていたのだ。幸いにも見かけることはなかったと、挨拶をし情報を伝え合う。
「初めまして、俺は天津蒼馬っての。これから同じ生活をするんだ、仲良くしてくれな♪」
 頭に乗っかったファンガスに天津・蒼馬は声をかけた。その視界の端で、はぐれたファンガスが群生地から出ていくのが見える。
「そっちに逃げたら死んじまうぞ? こっち来ーい!」
 そのファンガスをそっと手に取り四季・紗紅は話しかけた。
「一緒に外へお出でになりますか?」
 どのファンガスでもいいのなら、外へ行きたがっている子を選ぼうと決めていたのだ。
「これからは、例え1人でいても孤独じゃないんだね」
 そう語りかける木之本・リリカ。楽しいときも悲しいときも共に生きていくのだとファンガスを思って胸に両手を当てた。

●大切な人と一緒に湯を楽しんで
 大自然の中の温泉。大切な人と一緒にすごしたいもの。そう互いに思い、時間を合わせることができた者たちが、このときしか手に入らない時間を過ごしていた。
(「河……あったかい。足元……ミズゴケ。もこもこ……ふかふか」)
 流れの緩やかな場所を選び足湯を堪能していた双海・青麗は、気持ちよくてうとうととし始める。無意識に身体を預け抱きついてくる青麗に、古閑・静火は目を細める。
 自分が卒業してから一緒の時間が減ってしまった。そのぶん、今日はたっぷり甘えさせてあげよう。
 八神・レインは、筆記用具を取り出し湯滝にいる動物とアリアディアリア・ベルクラシコをスケッチ。一見無表情に見えるが、親しい友人ならレインが楽しんでいるとその赤茶の瞳から読み取っただろう。
「お返しだ。景色と一緒に良いか?」
 湯滝を背にしたレインを、アリアディアリアはパシャリと写真に納めた。
「こっちおいで!」
 紗白・すいひは、川岸に立つ恋人の獅竜・瑠姫に向かって手を差し伸べた。
「すーちゃん、ファンガスは行動をまねるらしいですよー?」
 近づいてきたもこもこを手した瑠姫に言われ、すいひは両腕を広げて瑠姫を抱きしめてみた。
「ってきゃわ……!」
 瑠姫は照れてジタバタ。それを見たファンガスも身体を精一杯広げて瑠姫に飛びついた。その反動で、ゴチンと音を立ててすいひと瑠姫の頭がぶつかる。慌てた二人の顔は、なぜか真っ赤に染まっていた。

 のんびりと温に浸かる佐神・忍に、ぴったりと寄り添っているのは庭井・よさみ。忍のナンパ癖に別に文句は言わないけれど、自分の身は案じて欲しいと常々思う。
「繁殖のお手伝いにかこつけて、温泉でゆっくりしのぶさんとできるというのも良いものですねぇ」
 恋人の御林・忍とやって来た黒星・蛍燐。カムイワッカの湯は硫黄濃度が高いため、蛍燐は足首まである髪を三つ編みにして首に巻きつけていた。
「はじめ、まして……熾火です……」
 寄ってきたファンガスに、御敷・熾火はおそるおそる挨拶をしてみる。
「熾火で、お役に立てるのでしたら……熾火のおうちの子になりますか……?」
 手に乗ってきたファンガスに微笑み、大好きな毘沙門院・刄を振り返る熾火。刄は刄で、近づいてきたファンガスを受け入れていた。
「ふわふわのん。オマエとは気ぃ合いそうやな」
 にひひと笑う刄。
「熾火、どうだ、そいつと仲良くなれそうか?」
「はい……きっと……」
「じゃあ、連れて帰ろうな」
 寄り添って互いのファンガスを見比べる熾火と刄を真似て、近くのファンガスたちは二体ずつくっつきはじめた――。
「えへへ、野生動物さんも一緒にぽわぽわです」
 藤梨・かがみは、すぐ隣にいる九鬼・桜花にすりすりと甘えるようにくっつく。そんなかがみをいとおしげに桜花はぎゅっと抱きしめた。
「あたたかいのですわね」
 温泉につかっている恋人のカイン・シュナウザーを見つめながら、イルヴァ・エーリンクは足を浸した。イルヴァの横で肩まで浸かってゆったりするカイン。イルヴァの様になるかわいらしさにドキドキしながら返事をした。
「うんうん♪ ホントあったかいね♪」
 水際でお湯を手で触りながら、剣杜・メリーはいちゃこくカップルを愛でていた。
「ナチュラルにデバガメスポットね……ふふ……しあわせ」

「いきなり深い所もあるそうよ? ミズゴケで滑ったら嫌だな、テル近くにいてね」
 話しかけてジュリアンナ・エマフリンジは、隣にいる鰤野・照明がどこか上の空なのに気づいた。
 照明はこの人出で場が荒れてしまうことを気にしていたのだ。ジュリアンナに心の中で詫びながら、野生動物たちのためとそっと離れる。すわ浮気かと追ってジュリアンナが目にしたのは、手作業でせっせと自然を元に戻そうとする照明の姿――。
「何してますの?」
 声をかけられて照明はしどろもどろ。ジュリアンナに詰め寄られて、自分の考えを彼女に説明した。
「……。1人で手直しするよりは2人の方が効率は上がりますのに」
 クスリと笑い、ジュリアンナは照明のそばでしゃがんで作業を手伝い始めた。
 湯滝の温かさと愛しい人がそばにいてくれる安心感からか、いつの間にか蜘蛛美・由良は小川・創始に寄りかかって寝てしまった。目が覚めたときには、周囲はもう帰り支度。慌てる由良に、この旅の間ずっとタイミングを見計らっていた創始が告げる。
「ちゃんとしたプロポーズはしてませんでしたね……え、えと。僕の隣でずっと笑っていてください」
「私でよければ……いつでも笑顔を創始さんに見せますよ」
 そんな二人をファンガスたちが見守っていた。

 温泉に誘った片思いの相手が迷子と気づかず、温泉で待ち続けた海藤・想夜はのぼせてしまった。
「龍胆さん、ぼ……俺はずっと貴方が好きでした。なまら愛してます、どうか俺の愛を受け取ってください!」
 ふやけた頭はまともに動かず大声で告白。見知らぬ相手に近づいた想夜の頭に桶が直撃する。薄れ行く意識で肩をぽんと叩く白い何かが見えた――。

●湯に浮かぶ月を
 空には見事な月が浮かんでいる。湯に浸かりながら、鍵鏡・鷹は隣にいる鍵薙・葵への恋心を抑えなければと物思いにふける鷹を、葵は不思議そうに見ていた。
 そんな中、そろそろ帰る時間だよと誰かが声をかける。十二分に湯を楽しんだ能力者たちは1人、また1人と湯から出て行く。
 服の下に水着を着てきた、メディ・クルック。帰りの着替えの事をすっかり忘れていたことに、今になって気づく。「どどどうしましょうっ?」
 一番乗りで湯滝にやってきたが、無謀なハイヒールが祟って、転んで頭を打ち、気絶をしていたエヴィーティール・ロブスター。今の時間になって、やっと気がついた。
「ちょ……私まだ何も……待っておいてかないで〜?!」
 そんなエヴィーティールの後頭部には、しっかりとファンガスがくっついていた。

●洞窟を前にして
 雪山を乗り越えやって来た一行。知床連山は確かに美しかったが、登るとそれはとてもとても大変だということを身を持って知るはめになった。
 それでもなんとかやって来た洞窟は、一見どこにあるかわからなかった。
 明生・芙美に「ここです」と言ってもらって初めて気づく。岩の陰に入り口があった。今は雪に紛れているが、夏は生い茂る草で見つけにくくなっているそう。入り口は狭いが中は広そうだ。
 黒い闇がぽっかりと口を空けて、能力者たちを待っていた――。

「懐中電灯を持ってきたんだけど、使う人はいるかい?」
 タキシードに黒いコートを羽織った篝火・守人は、カバンから持ってきた10本弱の懐中電灯をほかのみんなに渡した。その後、自分の懐中電灯をつけて先に進む。
「雪解け……水も……美味しそう……だし。ファンガス……友達に……なりたい……な」
 阿霧・姫舞はファンガスだちと一緒に食べたいからとお団子をたくさん持ってきたのだ。
「白燐光を使っても大丈夫かな?」
 暗い洞窟内を覗き込んで、衛藤・浩也は明生・芙美に尋ねた。
「使ってもファンガスに迷惑がかからないなら、壁画がよく見えるように照らしたいな」
「ファンガスは珍しいものが好きだから、迷惑どころか喜んんじゃいます。ほかのみなさんも助かると思うので使ってあげてくださいっ」
「……すごい参加人数ね。ファンガスたち、足りるかしら」
 洞窟へと向かう生徒の列を見てアゼル・ラズベータは思った。夜闇・亜利亜も噂どおりすごい数だと思う。人並みに押されるように、シルヴィア・テスタロッサは洞窟の中へと入っていった。
 よくもこれだけの人数が呑み込めるものだと誰かが尋ねた。芙美が言うには、中がかなり広くて長いこともあるが、こことは別の出入り口もあるらしい。そちらも活用して欲しいとのこと。
「ファンガスが驚かないかな」
「胞子状の来訪者っているんだねぇ……」
 七儀・唯冬はそのことの方が気になった。しみじみと呟くのは市古・らむね。
(「一緒に生きて彼らを知っていくのも悪くないと思うから」)
 そう考えて、ナタス・ティンダーは思い切って参加した。御東間・益零も「菌の来訪者ならつけるしかねーだろ」とやって来た。共生者がどんな感じかわからないが、九月・穂は何はともあれ仲良くできたら嬉しいと思っている。
「かなり興味深いので参加させてもらうよ」とオージェ・マスタング。壁画などいろいろ研究する気満々だ。梓刃傳・神楽も気質や地質などの研究にもってこいだと、研究用にノートパソコンを持ち込んだ。どういう環境の時にファンガス達が育ちやすいかなど調べるのだ。
「ファンガス、つまりキノコか。共生者になったら一体どんなことができるのか……」
「菌類というのもいいわね。ふかふかして気持ち良さそう」
 楽しみだと笑うのは黒寄・十夜。滝山・蝶もこの機会に親しくなりたいと期待を隠し切れない。
 のんびりした子がいたら嬉しいなぁと思っているのは宮坂・氷月。冴生・和真は季節物に弱い日本人としては逃す手はないし、ついでに観光というのも悪くないと参加した。

 次々と中に入ってはいるがこの人数だ。全員が見るために中に入るまで、少し時間がかかるだろう。日が差して温かいとはいえ周りには根雪。待っている時間が少し辛い。
 ジェンダーフリーなビジュアル系衣装とフレアスカートを着て洞窟へ来た女性2人……ではなく、男女は斉藤・遊馬と宮本・武蔵だ。世界遺産で禁足地という土地に、武蔵のジャーナリスト魂がぐらぐらと煮えたぎる。当時の人々との歴史やその痕跡を突撃取材だ……と張り切るが、生足が祟ってかわいいクシャミを連発。遊馬は予備のロングコートをそっとかけてあげた。
 黒のワンピースに黒のコート姿の滝川・詩樹は、洞窟を覗いてみて入口で迷いそうだとぼやく。
 天峯・叢は人助けというより好奇心が勝っての参加だ。報告書を読んで、以前ファンガス事件に関わった芙美の友だちの活躍を知った。その彼らが救ったファンガス。最終決戦の地カムイワッカ。「行かない理由があるだろうか」と叢は期待に胸を高鳴らせていた。
 霧本・羽砂はファンガスを実際にこの目で見てみたいから参加した。その感動やファンガス自体を見せたい大切な友だちがいる。どんな顔をするのか、驚くのか、それとも羨ましがるのか。そのことを考えただけで、羽砂の足はさらに軽くなった。
 関・銀麗は、過去のファンガスたちと人間との関係が知りたかった。友好的であったなら何故なのか、また敵対したときの理由は何か。それらを知ることで今後の来訪者との出会いがよきものに繋がるとすれば。それらは計り知れない意味があると思うのだ。
 大丈夫だとは思うが、ファンガスは未知の部分も多い存在だから何か危険なことがあるかもしれない。セーライト・アルシュオーネは、そうなったら周りのみんなと一緒に洞窟の外へ逃げる程度の心積もりをしつつ洞窟に入っていった。

●洞窟をのんびりと
 洞窟に入って蓮華院・美香はその広さに感動した。高いところで天井は5メートルほど、鍾乳洞で有名な秋吉台ほどの迫力はないが、人が管理していないむき出しの野生を感じ圧倒される。道幅も広かったり狭かったり。一般人が入ることができる範囲は狭く小さい洞窟なのだろうが、隠された通路などを読み解けば広い奥へとつながるのだろう。
 そんな洞窟内を白燐光で照らしながら進むのは、体力担当の橘・祀里と頭脳担当の橘・心里だ。
 待雪・雪花はファンガス共生者になるということ、結ばれた運命の糸のこと、いろいろ考えながら洞窟を見て回った。
「……これゴーストじゃないから撮っても後で消えたりしないよな?」
 来訪者絡みの洞窟壁画なんて面白そうだと撮ったはいいが、不安になって明葉・如路は呟く。
「消えませんよ。わたしの友だちもお家に持って帰って調べたって言ってました」
 ひょこりと顔を覗かせた芙美に聞いて安心とシャッターを切る。その制服の裾をつんつんと引っ張って、渕上・陽菜は手にしているホワイトボードを見せた。
『んと、できればおみやげにきのこさんとどうくつのえをかいてかえりたいでスが、よいでス?』
 かわいらしい質問に思わずにっこりする芙美。陽菜の頭のてっぺんを確認しながら答えた。
「はいっ。がんばってお絵かきしておみやげにしてください。キノコさんはおみやげにはできないけれど、もうあなたの身体に宿っているみたい。連れて帰ってあげてね」
 湯滝は温かいとはいっても野外、極寒の外気の悪影響を受けやすい。ましてや雪原では超低温の環境で植物の生きていける環境ではない。洞窟の中こそ湯滝より温度が低くても、外気の影響を受けにくいファンガスたちの絶好の冬眠の場所だと、泉野・流葉は推理した。冬眠するのなら、一番奥の温かい場所だと最奥目指して一直線に進んでいく。
 頭をぶつけながら進むのは、長身の蒼焔・哉蛇と同じく長身の妙円園・理在。どちらがよりたんこぶが少ないかを競って勝負を始める始末。突然――。
「ふぉおおお理在ーー、テンション上がってるかァアア」
「ぎゃぁぁあっ!? やめて、心臓止まっちゃうよ!?」
 哉蛇が後ろから脅かし、理在はマジビビリ。
「コラ! はしゃぐならもっと静かにはしゃげ、周りに迷惑かけるなっ」
 同行者にからかわれ、さんざん賑やかにしていた自分のことは棚に上げて瀬高・憂は2人に注意した。
「神聖なる遺跡を何だと思ってるんだ!」
 さっきまで憂をからかっていた上代・凪は遺跡好きだった。憂に釣られて怒り出し、騒いでいた相手に小1時間ほど説教する。

「ファンガスさんて、どんな感じなのでしょうね、姉さま♪」
 大好きな鳳・流羽と手をつないで、鳥辺・睦那は壁画を見ながら洞窟を散策していた。昔を思い出すとおしゃべりに花が咲く。
 銀・紫桜里は温かいところがいいからと洞窟を選んだ。一柳・唱もそうなのだが、正直北海道をなめていたと後悔中。完全防備なのに寒くて死にそうだ。
 ファンガスがどんなのか見れればそれでいいと、神塵・丁は寒さに負けて洞窟の中に退避。居合わせた松屋・楓と見て回った。
「こういう場所は実家に似たようなのがありますからどう行動すればいいか一番よくわかってます」
 闘魔・聖は実家にある炭鉱を思い出していた。どこかに行こうとしているファンガスが居たら戻すことを考えつつ、洞窟内を注意しながら巡っていく。
 自分の実家は地元でキノコハウスという愛称の屋敷だけに、福島・正成の興味と探究心は尽きることはなかった。
 ミヒャエル・ヴィットマンはファンガスらしきものを見つけるたび、怪しいポーズを決めている。
 座って壁画の絵をスケッチするのは南・星治。今は意味が分からなくても、後々「ああ、そういう意味だったのか」と思い当たればいい思い出になる。
 結社『ぎんのとりかご』の十六夜・ひかりは、壁画を見ながら小学生の子たちの引率をしていた。
 世界結界ができる前も共存していたのかと小鳥遊・アリサ。十六夜・きらりは好奇心の塊みたいに壁画を何とか見ようと小さい身体を伸ばしたり、距離をとったりしている。
「あんまり遠く行っちゃダメよー」
 注意するアリサ。赤壁・静香はほかの3人に遅れないようにと気をつけた。それでもはぐれてしまったきらりに、いつものことなのでと気にしない一同。ひかりは「そのうち帰ってきますわぁ」と先を行き、当のきらりも「そのうち合流できるの〜」と散策していた。
 嵐堂・一矢と嵐堂・弓子は兄妹で洞窟探検。せっかくやって来たのに、ファンガスの力を得るだけというのもつまらない。ファンガスの軌跡、足跡に思いをはせるのも悪くはないと一矢は考えた。弓子も、これからと共に歩む仲間だから少しでも多くのことを知りたいと思う。
 頼れるお兄ちゃんがいるからと、桜宮・彩乃は思いっきり遊ぶつもりで洞窟に入っていく。
 紆余曲折あったらしいが今は友好的らしいから、この身に宿して共生してみるのも悪くないかと考えているのは、お兄ちゃんこと相澤・頼人。
「来訪者ってくらいだから、ファンガスも人と同じ形になれるのかな?」
 小首をかしげる月村・夕貴の後ろから、明生・芙美が教えてくれた。
「ここにいるファンガスたちを全員集めたら、何とか1体ぐらいにはなるかもしれませんね」

「アディ、手離さないようにね。迷子になったら困るから……」
「にぅ……。真っ暗……だぁ。うん。エディちゃんも……迷子……ダメ……よ?」
 手をつなぐエルディア・ショウナァとアディドラ・ショウナァは仲良く2人で洞窟を見て回っていた。
 けっこうな人数が集まっているのを見て、洞窟は自然の要塞と言うがこれだけ広い上に迷路みたいだと確かにそう言えるかもしれないと冴樹・戒璃は思う。
「洞窟の中って言っても、殺風景じゃないんだね。いろいろ彫られてて面白いっ!」
 次はどんな物が彫られているのかと考えながら進む浅風・雲英。決めるのは直感だ。アスカ・エソラは、帰ったらお兄ちゃんやみんなにもファンガスを紹介したいからとがんばることにした。
 1人で散策していた天雅・雛愛は、白燐光で明かりを得て洞窟を移動していた。おかげで両手はフリー。着いたらしようと思っていた壁画のスケッチを始める。
「で、このキノコがファンガスさん?」
 石川・五右衛門が手を伸ばしたのはファンガス……ではなく、ただのキノコ。周りから「違う違う」と総ツッコミをくらっている。その横で、葉月・玲が壁画や文字を1つずつゆっくりとデジタルカメラで撮影していた。洞窟内すべてを回るつもりらしい。心底楽しそうだ。
「ねえねえ陰針さま、ここすっごく広いみたいだけど、どっちに歩けば良いの?」
 子犬のように楫・涼音は尋ねた。
「……ん? あぁ。えっとだな、この変な絵文字的にあっちじゃないか?」
「ああ、壁に書いてあるんだーっ。へーっ!」
 人の流れからもこっちで正解だろうと陰針・薫は分岐を進んでいく。そんな薫を涼音は尊敬の眼差しで見た。次々と現れる壁画を見て、ああだこうだと推論しつつ2人は仲良く奥へ向かう。
「やっぱり、奥にいるのかな? ……中ってどんな風になってるんだろう?」
 つい興味津々でどんどん奥へ奥へと入ってしまうのはユニ・ブランシャール。
「……あれ、そういやここ……どこですか?」
 方向音痴の黎烏・乃鴉は壁画に沿って進んでいたはずなのに道に迷ってしまった。
 その後、彼女がこの洞窟から脱出できるのにざっと1時間はかかったというのは、また別のお話。
 洞窟の最奥でファンガスを身体に宿した近藤・夕奈は、帰ろうとして、疲れきった黎烏・乃鴉を発見。転んだりしてできたケガを看たあと、一緒に洞窟の外へと向かった。

「――つまり、この絵は互いの共生関係を示している訳だ」
 洞窟内の絵や文字を指差しながら、風月・陽炎はファンガスと人との関わりを類推し、講義していた。聴講しているのは、陽炎に引率された来た結社『Bastard Sword』と友人たち。
「こうしてファンガスと友好的に出会えることを、頑張った先輩方に感謝しないとねェ」
「この子たちが私の中に来るんですね〜。うふふ。いっぱいかわいがってあげないといけないですね〜♪」
 相槌を打っているのは音羽・響と白河・いちご。特にいちごは自分はファンガスと共生するために生まれたんじゃないかというぐらいの予感を感じていたので嬉しそうに微笑んでいる。
「ふム〜……一応、菌類なんデスかネ〜?」
「ぇぇっと、ファンガスはキノコ……え? 植物……来訪者なのに人じゃないんですか?」
 銀城・ベルハーライトの呟きに、今さら気づいた黄泉川・戒一郎が素っ頓狂な声を上げる。
「ぅむぅ……最初からもう一度お願いします」
 戒一郎のお願いで、再度始まった講義を磨金・鈴李も興味深く聞くことにした。
 琴吹・つかさは1人別のことを考えていた。
『人のまま、人にあらざるモノを倒すため』の技を代々受け継いできたのが、つかさの流派だ。ひょっとしたら自分の先祖もファンガスと戦ったことがあるかもしれない。
(「とはいえ、ボク自身は因縁や敵意はない。あるのはファンガスと……ボクと同じ色の髪・同じ名前をもつ、共生者の先輩への興味かな」)
 少しボーっとしてしまっていたらしい。。そこへ響の叱責と陽炎の蹴りが同時に飛んでくる。
「こら、あンたたち! せっかく陽炎が説明してくれてるンだから、ちゃんと聞きな! 失礼だろ?」
「聞きたいと言ったのは君たちだろう? そんな態度はないんじゃないかな?」
 決定的瞬間を逃さずカメラに納め、銀城はご満悦。
「ククッ……赤っ恥ナ写真ゲッチュなのデス♪」

「まつ、たけ……マツタケ食べ放題の会場はここか……?」
 知り合いがいると聞いてやってきた長森・瑠那だったが迷ったらしい。しかも何か勘違いしている。
 今ここで自分たち共生しなければファンガスは生きれない。これはセイギの味方として見逃せない。そんな気持ちで参加したのは大河・明。同行している華霧薙・檸檬いわく、「テレビに出るヒーローのような姿のちょっと不思議な人」だ。
 でも洞窟内では、「俺から離れるなよ? 洞窟の中はどんな危険が待っているかわからないからな」と男らしくエスコート。「こ、これがミステリーというものなのですねっ」と壁画に夢中になって足下をおろそかにしていた檸檬をしっかりと支えていた。
「カムイワッカって自然豊かな土地なんですネ。この洞窟なんて、冬眠するのに最適な物件ではありませんか……」
 おもむろに床に寝そべり、ヴァン・バンジーは野獣の眠りを発揮するフリをした。
「えッ、ちょッ、こんなところで埋もれないでください!」
 突然のことにわたわたしながら、桃山・アヅチは全力でバンジーを揺さぶり春眠の阻止を図る。その様子にファンガスたちが面白がって、身体を激しく揺さぶり始める。いつしか2人の身体は白いファンガスたちに包まれていた。
 3人一緒の探索を楽しむ野々路・由佳は、入って早々でっぱった鍾乳石に頭をぶつけた。慌てて縁・琉姫は白燐蟲の白雪が放つ白燐光で、周りをほの明るくする。
「洞窟ってどきどきする。こういう神秘的なところでファンガスと友だちになれたらいいなぁ」
「物描き的にはやっぱりこういうの見ておかなくちゃ」
 和食メインのお弁当を持って参加した一橋・さくらは、壁画を見て想像を膨らませた。
 ファンガスのほかにも何か見つかるかもと神坐生・棗。調べると洞窟内にはファンガスだけでなくヒカリゴケが生えていたり、外気より少し温かい洞窟内の光が当たる場所には、キタミフクジュソウが黄色い花を咲かせたりしていた。棗はそれら植物の生態観察を大いに楽しんだ。
 有栖・儚は、丁寧に洞窟を調べ1人でかなり深い場所まで辿り着いた。いったん引き返した儚は、ほかの参加者にそのむねを報告。きっとこの情報はのちのち迷子者の捜索に活用されることだろう。

「……暗いとこって何故か落ち着くのはわたしだけでしょうか」とへらりと笑う藤・清志朗。
 頭にファンガスが生えたらどうなるんだろうと柊木・博雅はぼんやり思った。食えるのかなと思ったら、次から次へとキノコ料理のレシピが浮かんでくる。今日は帰ったらキノコ料理だ。
 仲間の頼みだからと、村山・ジグはサインをもらうために明王活殺剣の使い手がいないか探していた。通りがかった芙美に聞いてみたが今日は来ていないとのこと。
 先へと進みたい相上・鳴瑠。だが遠縁の槻森・流が危ないと心配するので、しかたなくゆっくりと観賞していた。流としては幼い鳴瑠が転んだりしないようにしたかった。しっかりと護らないとと気合が入っていたのだ。
 気合十分に洞窟を歩き出した鷹來・遥姫は、何だか見たことのある道に出会って混乱した。
「うわーん。ハル、このまま帰れなくなったらどーしよー!? それ、すごく困るの……っ!」
 肩に乗せたファンガスをつんつん弄っていた池田・大海は、緩んでいた表情を引き締め、半ベソをかいている鷹來・遥姫に助けがいるかと声をかけた。さらに石柱の陰から別の声が聞こえる。
「この迷路ができた理由も、きっとあるんだろうねぇ」
 そんなことを考えていた桐真・響も実は迷っていた。考え出すと止まらなくなるのは僕の癖だと響は苦笑する。しかし、本来この迷路は何処に繋がってたものなんだろうか……。
 再び思考の海に響が身をゆだねる前に、池田・大海は響にも声をかけた。2人を案内しつつ、洞窟の外へと無事帰還した。

「わー。なんかもう、言葉で表せないくらいきれいですわね!」
「なんかファンタジック風味できれいだ……っ! さすが洞窟!」
 洞窟の中に雪解け水が流れている場所を見つけ、イセリア・サガンと天野・こやねは声を上げた。
 雪女の蠣崎・綺沙は、寒冷適応によって特段寒いと思うことなく、気持ちいい温度だと周囲の冷気を楽しんでいた。幅はそれほど広くはないけれど深さはある洞内湖を見つけた綺沙は、おもむろに飛び込んで軽く泳いだ。そのために水着の詠唱兵器を装備してきていたのだ。
「ファンガスさん、どこ、ですか? 出てきて、です」
 サウラ・ケツァルコアトルはファンガスに呼びかけながら、洞窟内を不用心に1人でてこてこ歩いて――遭難していた。そのころ、同じように適当にふらふら、危なっかしい足取りで歩いていたゼロ・ホワイト。2人は洞窟の奥で初めて顔を会わせた。
「……ファンガスさん、です?」
 偶然ゼロが全身真っ白な姿だったので、サウラはきょとんと首をかしげる。
「まぁ、そんな感じ」
 勘違いされているのはわかっていたが、説明が面倒くさくてゼロはファンガスになった。
「何だろ、この絵。どんな意味だろ?」
 興味津々にあちこちの壁画を追っていた霧島・萌も迷子になってしまった。歩希・レイも同じ。レイは実は迷路は好き……だが、迷ってしまうのはしょうがない。あとは自分のカンに従って進むのみ!
 勘のおかげかレイは偶然半泣きの霧島・萌を発見。一緒に脱出を図ろうと声をかけた。

●いざ行かん、洞窟探検!
 人が管理していない洞窟は当然だが真っ暗だし、危険なところに注意書きも手すりもない。
 天井から滴が垂れ人を驚かせることもしょっちゅうだ。雪解け水が洞の端でさらさらと流れる川になっているところもある。唯一救いといえるのは、外気が冷えきっているせいで洞窟の中は温かく感じることだろう。
 夏でも冬でもあまり温度差のない洞窟の中は、ファンガスが暮らすには格好の場所なのかもしれない。洞窟、暗号と聞いて、探検気分を刺激された者が多かったようだ。
「目指せ! 洞窟迷路全制覇!」
 謎解きなんてまどろっこしいことはせず、とにかく左手の法則で走り抜けるぜと平・浩は突貫した。
「洞窟探検もまた男のロマン……かもしれない」
「ミステリーツアーみたいでワクワクしますよね」
 ヘッドライトに背負い鞄、トレッキングシューズ姿の鳶沢・成美の気分はどこぞの探検隊だ。勘を頼りに歩くのはサトミ・アストゥリアス。ファンガスを踏まないようにと足下に気をつけて進んでいく。
 喜び勇んで入っていく影月・洸太。ファンガスに関する資料を手に読みながら進んで――ゴツッ! 資料に気を取られ、顔面から壁に衝突した。
「洞窟探検気分で全速前進! 目指すは人類未踏の奥地へっ!」
 ……なんてことは冗談だと九七式・千八。非常時のこともきちんと考える実は常識人なのだ。小さな体を生かして狭い場所の調査もしてくれるらしい。
 事実上、勘で進んでいる売回・商売は、結社『ラブいプレハブ』のメンバーに声をかけた。
「よし、びび! 絶対こっちや!」
「躓子、こけるなよ……手をつないでおこうか?」
 呼ばれた神出・ヴィリアム――通称びびは、もう1人の同行者である小学生の空回・躓子を気遣う。しかし時すでに遅し。
「滑りましたー!」
 元気な声を上げる躓子。染み出した雪解け水に足を取られたあと、体勢を直せずさらに――。
「こけましたー!」

「さあ、ダンジョン探索出発だよ♪」
 旗を手に先頭を行くのは久留宮・沙希。その後ろにずらずらと連なるこの大所帯の一団は結社『TRPG同好会』とお友だちだ。
「それじゃ私はファイター&レンジャー&プリーストで!」
 わかる人にしかわからない不思議用語を言い放つ日下部・風華。その隣で御厨・モニカが11フィートもある長い棒を持ってスタンバイしている。
「まさか洞窟内をリアルアタックする事になるなんて……」
 メモ帳を片手に和宮・優姫は後方を歩く。中が迷路のようだと聞き、恋人七瀬・鏡華とお揃いの『鳥籠のランタン』で明かりを確保した風嶺・涼介は、記念に地図を作ることにした。
 デジタルカメラで決定的瞬間を納めようと意気込む水門・圭は、データ保存のためにノートパソコンを持ち込む始末。池水樹・菜種が全員の食料を持参していることを確認し、いざ探索スタート!
 モニカはICレコーダーに「人跡未踏の巨大洞窟に来訪者ファンガスを見た!」と吹き込んだ。
 特別番組の探索隊長よろしく大浦・政義が大げさなリアクションで洞窟を紹介すると、「あ!? すいません。なんだかテープが切れていたみたいです」と前方でカメラを構えていた紅・零が頼りない言葉を吐く。同じくカメラ係の守崎・汐音は最後尾。こちらは記録がメインで全体の行動をカバーするつもりだ。共に最後尾の紫苑寺・佑助は、「TRPG同好会が取材しているので、ご協力をお願いするぜー!」と周りを誘導するが声が大きいと怒られた。
 その間佐々・ささらは先行し、「こういうのって、逆に行ってみたくなるよね?」と順路らしき道を無視して一同を奥へと誘う。分岐は「こういう時の定番は、これ!」とあらかじめ拾っておいた棒を倒し、浅神・鈴が行き先を決定した。
 壁画を発見したところで、結社『ニューロマンサー』の元団長、漆原・矜持と現団員の稲守・文が偶然再会。
「団長が居なくてもニューロは元気だけどね。それはもう酷いくらいに」
「まあほら、ニューロは私が居なくても基本精神からしてニューロだからね」
 朗らかに語り合い、壁画をバックに肩を組んで記念に写真を撮っている。
「迷探偵・一様が華麗に暗号解読してやるぜ!」とのたまうは一・一。しかし壁画を睨んで3分と経たぬ間に「うん、わかんね!」とさじを投げた。
「ジョブの歴史なんて考えたことなかったぜ……」と、夢中で壁画を見ていた佑助は、置いてきぼりを食らいみんなを追って猛ダッシュ、水に足を取られて転倒した。置いていかれたことすら気づかなかった一は、1人みんなを探して洞窟を彷徨う。
 最奥まで突き進み、終日・魁斗はやっと自分たちの周りに誰もいないことに気づいた。「あれ? ここどこ?」とはしゃぎ疲れて正気に返る。慌てて涼介の作っていた地図を見るも余りのすごさに絶句。
「今回は僕のせいじゃないですからね! 地図作ってたし!」と慌てる涼介の隣で、実は持てる能力をフルに使って完璧な地図を完成させていた鏡華が、「迷った……ですか?」ともじもじしていた。
「まあ、迷うのも楽しみ方の一つだよね?」とサバイバル術を勉強したことのある鈴が苦笑する。
「迷った時は右手の法則ですよ! ……おかしい! 目が回る!」
 そう言って右手を壁につけたまま、小机・水城は駆け出した。が、なぜか1本の柱の周りをグルグル。一緒に走り出した魁斗も回って目を回す。
「TRPGって、意外とハードやねぇ……」
 のんびりココアを飲みながら、菜種は休憩を提案した。
 一休みして、このままではいけないと水城と魁斗は足を踏み出したが、なんとそこに落とし穴が。
「誰ですか穴なんか掘ったの……落下ダメージで死んだらどうするんですか!」
 しかし、穴の底にはぎゅうぎゅうにつまったファンガスがいて、落ちた2人の周りでもぞもぞ動いた。
「こ、これがファンガスですか。……か、かわいいですね」
 目を輝かせる優姫。菜種が用意してくれた食料だけでは物足りなかった誰かが、白いもわもわのファンガスを口に運ぼうとしたとたん洞窟に響き渡るパァンと言う音――。
「そのハリセンはどこから!?」

 続いてやってきたのは『マッチョルーム』の一同。
「こんな大きな洞窟入ったことないよ。江ノ島の岩屋洞窟なら行ったことあるけどね!」
「ファンガスさんとの出会いを楽しみにして参りましたのよ」
 興奮気味の風見・玲樹が洞窟へと入っていく。白い振袖姿の天岩戸・胡蝶もその後に続く。自分も来訪者なので同じ来訪者のファンガスを歓迎したいのだ。
 洞窟に書かれた文字や絵を楽しみつつ、一同は洞窟探検気分でファンガスを探しに奥へと向かう。
「ここに色々な絵が書かれているよ。ファンガスと人の関係の絵なのね」
 どんな意味があるのか、解読できるだろうかと水澤・芽李は考えた。
「洞窟探検気分で楽しいわね!」
「こちらの洞窟に鈴なりになっているとか……。Gが付く虫さんはいらっしゃらないといいですわね」
 ファンガスとの出会いにわくわくしている風見・莱花。その隣で弟の玲樹が怯えている。虫が苦手と知っていて胡蝶がからかったからだ。
「前、テレビで見たんだ。洞窟の中の床一面に、床一面に……の苦手なあの黒くて早いあの油虫がいーっぱいいてさあ!」
「う〜。そんな恐い話しないで〜」
 玲樹の話にぞくりとなって、葉月・さなえは辺りをキョロキョロ。追い討ちをかけるように、莱花と芽李が「そこに虫がいる!」と玲樹をさらにからかう。
 タイミングよく天井からボトリと落ちてくる何か。それを頭に受け、玲樹は「う〜ん」と気を失った。玲樹の頭上でのたのたと動く白い塊はファンガス。ふと周りを見れば鈴なりのファンガスたちがいた。
「わぁこれがファンガス?! ふわふわもこもこしてて可愛い♪ ……… あっ! はじめまして葉月さなえです。よろしくね♪」
「不思議な感じがするなのね。どんな力が隠されているんだろう、楽しみだなあ!」
 喜んださなえは嬉しくていっぱい話しかける。芽李はファンガスの姿をじっと見つめた。
「きっと、雪女の中でも、共生者になるのはわたくしたちが始めですわね」
 大喜びの胡蝶の隣で、莱花が1体のファンガスをそっと手に取った。
「北海道まで来て不思議な体験もしたし洞窟探検もできたわ。せっかく来たんだもの、お土産買って帰りましょうね」

 団体で探索する者のほかにも、個人で探検気分を堪能しているものも多かった。袖振り合うも多生の縁と助けられたり、助けたりしている。
「こういうところってRPGっぽくてドキドキしちゃうんだよな」
 結社のみんなへの土産話のタネにするんだと、時任・三梧は写真を取り捲っていた。この洞窟の雰囲気とか上手く伝わるといいなと思う。
 迷って出られなくなったなんてことがないよう、地図を作成しながら進んだのは元野・沙耶。
 アーリエル・ゴドフィルは迷うのも気にせず洞窟の中をうろうろしていた。
「そこに迷宮あるならば! 踏破せずにはいられない!」
 月音・香織も洞窟探検に燃えていた。ところどころにある壁画を鑑賞し、その意味を考え、太古のファンガスとその共生者たちに思いを馳せる。
「洞窟ってことは、どこかに財宝とかあるやもしれやせんね」
 思い込みで、あるかどうかわからないファンガスのお宝を探し、守白沢・宗龍は洞窟探検を始めた。
「目指せ一攫千金でやす! お土産持って帰るでやすよ!」
 壁を叩いて反響を確認したり、現れたファンガスをかまったりしながら、舞竹・木乃子は調査を進める。奥に行った記念として写真を撮って滑久寺・舞は一言。「ん〜洞窟ってロマンだね!」
 ノートに壁画を写しているのは月来・深烙。謎を解きながら進むのもけっこう楽しいと、ゆっくり歩きながら考えていた。
「迷路みたいな洞窟を潜り抜けて探検するのー♪」
 ご機嫌で歩くのは天乃宮・頻頻。壁画は読めそうなのでじーっと見上げていた。
 自称救難隊隊長カノン・ココナッツ率いる、救難隊の裏隊長として参加した藤菜・千草。2人のみの隊員は救急箱を持参してケガ人の面倒を看るという使命を帯びている。救急箱で追いつかないケガはカノンが茨の領域で、それほどでもない人は千草がおまじないをしてあげることになっていた。
 ケガをしていなくても千草はファンガスに包帯を巻く。理由は何となく。その横で、カノンは面白い動きをしてファンガスに真似させていた。なかなかのできばえに、周囲からお菓子やおにぎりのおひねりが飛んできた。
「そーやー、壁画ばっかり見てないで探検してみよーよー」
 熱心に壁画を見ている十六夜・蒼夜に、ヒマをもてあました安須来・柚架が声をかけた。それでも動こうとしない蒼夜に痺れを切らして歩き出す。
「柚架先に探検してるからねー! 後でそーや迷子になっても知らないからー!」
 そして、もしかしなくても自分が迷子? と気づく柚架。そんな柚架の前に現れたファンガスが、まるで手招きでもするかのように出口へと誘った。

 いい香りをさせながら洞窟へ向かっていくのは、結社『解決屋「虎本舗」』と友好結社の面々。
 北海道の寒さに水瀬・夢緒はコートの襟を合わせ、同じ薔薇組のロザリンデ・シュヴァルツとそっと手をつないだ。ロザリンデはもう片方で風早・昂志郎と手をつなぐ。小学生つながりだ。
 洞窟の中にさすがにドレスでは入れないと、今日は動きやすい格好のリオン・ダルジャン。
 その手を取り、さりげなくエスコートしてウィリアム・ハートフォードは進んで行く。そんなウィリアムの姿に、小学生白一点の昂志郎は「見習って、女の子たちに何かあったら、ぼくが守らなくちゃ!」と決意を新たにしていた。
 洞窟の中は広く迷路のよう。天井は思ったより高く、垂れる水音をきれいに反響させていた。
 こういうところでライブをしたら面白そうだが、さすがに今回はベース持ってこなくて良かったと斑鳩・翔。あったらしたくなってしまいそうだ。
「俺さ〜、最近脱出ゲームにはまってるんだよね〜」
 メモ帳とライトを手に謎解きに夢中なのは瑞口・奏。
「奏さん、こっちこっち」
 朝日奈・護は慌ててはぐれそうになった奏の手首を取った。その瞬間、持っていた懐中電灯の光が壁にあった絵を浮かび上がらせる。
「あそこ! みんな見てみろよ、洞窟画ってあれじゃねえ?」
 護が指をさせば、夢緒が「あれ、ここにもございまするよ」と足下にを指差し、ほかの仲間も反対側やほかの場所を指差していた。いくつ見つけられるか試してみようという護の提案に全員が頷く。
 競って洞窟画を見つけようと懐中電灯の光が交錯する中、次々発見される絵を目で追って楽しむリオン。中には噴き出してしまいそうな拙いものもあった。
「みつけてもらえばわかるんだが、難しいな」
 ウィリアムは見つけるのが下手らしく、自分の懐中電灯の光が通り過ぎたあと、再度調べたほかの人が洞窟画を見つけたりしている。
「謎は全て解けた! ……この絵は東を意味してるんだよ」
 東と呟きつつ南に向かい歩き出す奏。暗号はきちんと解いていても、実はひどい方向音痴なのだ。
 はしゃぎ疲れた一同に、リオンは結社『かふぇ睡晶館』から魔法瓶に入れて持ってきた美味しい珈琲と苺のフィナンシェを振舞った。
「さすが洞窟、外気よりはマシとは言え冷えるから、あったかい飲物とか助かるよな」
「ロザさんのところのお菓子はほんとに美味しいよね」
 翔は珈琲を口に運び、風早・昂志郎は苺のフィナンシェをぱくついた。
 小学生のロザリンデも魔法瓶を持ってきていたが中身はココア。
「小学生なら珈琲ではなくココアですわ。夢緒さま、昂志郎さま、ココアをどうぞ。他にココアがほしい方はいらっしゃいますかしら?」
「あの〜、俺もココアの方が……」
 奏が手を上げた。

「みんなで洞窟たんけ〜んっ!」
 元気に声を上げた乃々木・栗花落は、結社『菜園コテージ【百華荘】』のメンバーと一緒に洞窟内を移動していた。シュヴール・ルドルフの勧めで迷子にならないよう全員手をつないでいる。
「きっと未知の地底人がいるハズ……もしくは、さまよって死んじゃった人の幽霊とか?」
 栗花落の発言に目を丸くする射月・天香。
「え。ほら、だってファンガスがいるんだからいても可笑しくないでしょ?」
 にっこりと言われ、シュヴールと天香は「そうかも」と笑った。
 暗号や壁画について考えたり、ファンガスを観察したり。この機会の間だけ楽しめそうなことを、みんな一緒に話しながら楽しく回った。
 その少し後ろをぷらぷらと追う形でついていくのは南雲・伊織。携帯電話のカメラで壁画を撮りながら進む。雪解けの水がたまって、小さいが深い地底湖になっている場所を見つけた伊織は、「自然の力はすごいな」と洞窟に感動したりもした。
「俺は洞窟王になるっ!!」。そんなことを言いながら少年魂をくすぐられた霧生・要は後輩の日野・渉と洞窟探検に出発した。誰かも言ったが、洞窟には古代遺跡やファンガスと似たような名前の怪人が出たりとか、そういう地底王国的なロマンがあるのだ。
「うぉ、要先輩、ほら、あっちすげー!!」
 渉も負けないハイテンション。「呪いの館には……♪」とか歌い、キノコ人間になるのかとドキドキしながら先へと進んだ。

「迷路、すごいねー!」
 日置・弓弦の手を引っ張ってはしゃいでいるのは久世・羽叶。子供らしく見るものすべてに興味を持って、キラキラと目を輝かせている。
「壁に絵が描いてあるよー! ファンガスってキノコなんでしょう? でも、動いたり人の心がわかるなんて、おもしろいねぇ」
 羽叶の言葉ににこやかに「そうだねー」と相槌を打ちつつ、弓弦は洞窟の絵文字や壁画を読み解くことやファンガスを持ち帰ることで得られることは多そうだと冷静に考えていた。
「そびえ立つ巨大なキノコとか、キノコ長老みたいなのはいないかな?」
 いたら面白そうだと探す芽野・孝宏。
「へー……昔から人と関わりあったのか、ファンガス」
 あえてほとんど情報を入れずにやってきた笹木・智成は、わくわくしながら壁画を見ていた。
「……こーいう仕事つけねーかな」
 そしてポツリとこぼした。柄ではないと思うが、智成は学者や発掘探検、そういったことができる職業に将来つければいいと思ったのだ。高校3年だし、進路のさらに先まで考えておかねないと。
 周りを見渡し、アリスティド・ローランは「まさに古代の浪漫じゃの〜」と独り言。こんなところがあったのを知らなかったのがもったいないと洞窟内を散策する。
 暗号が解けずお手上げ状態になった宮小路・千月は、思わず両手を挙げてUターン。洞窟を出ようと外に向かうその後ろを、ファンガスたちが真似てついて回っていた。
 2人でメモ帳片手に壁画をじっくり見ているのは、スバル・ヒジリと聖・氷雨だ。暗号をあれこれ推理して、最奥まで行けるかチャレンジしようと考えた。
「この洞窟は興味深いですね。ふふふ……血が踊ります」
 天流・央司は怪しい笑みを浮かべる。自然のみでできた洞窟とも思えない。人の手が入ったと思われる場所と自然にできた部分との差を見つけ、央司は念入りに調べていた。
「ちょ、ちょっと暗いですわね……」
 おっかなびっくり進んでいるのはティアレス・セルシウス。こう暗いと何か出そうだ。別に怖くなんてない、ただ未知との遭遇に気分が高揚してるというだけ――と、必死に自分に言い聞かせるが物音に飛び上がらんばかりに驚いてしまう。
「ひっ―――い、いぃい今なにか動きましたわよっ?! ――て、え? ――もしかして、今のがファンガス……?」

●壁画の思いを読み解いて
 探索気分で奥まで来たところで、能力者たちは聞いていた壁画を見つけた。たくさん書かれているルートとそうでないルートがあるそうだが、それに関係なくファンガスはいるらしい。
 ファンガスを宿すことも大切だが、何より壁画を読み解きたくて洞窟を選んだ者も多い。丁寧に調べつつ先を進んでいく。
「すごい壁画ですね」
「ほんと、いつごろ書かれたのかしら……」
 壁画に圧倒されながらレイラ・ミツルギは傍らに立つ杉本・沙紀に語りかけた。沙紀は1つも見逃すまいと目を向ける。その隣で「……意味が分からん」とルイーダ・アッシュロード。頭を使うのは苦手なので、「考えるな、感じるんだ!」の精神で理解しようとしていた。
 中国拳法の達人のセリフを想像したのはルイーダだけではなかったようだ。
「ふむ、これが噂の壁画か、って……うーん、考えるな、感じるんだ、ってことにしとくか」
 遉・太一も同じことを考えていた。
「誰がこれを書いたんだろう……?」
 陰条路・朔之助は思わずそう小声で呟いた。緋波・律も頷く。律は忘却期より昔の能力者か、あるいはファンガス自身かと考えた。
「こんな姿をしてらっしゃるんですね……」
 顔を覗かせたファンガスをランプの明かりで照らしながら、律はにこりと微笑んだ。

「探検映画みたいでちょっとどきっとするな……」
 雲崎・夏野は興味深く壁画をデジタルカメラに納めている。
「ファンガスとの共生について、何か学べたら」
 支倉・ユカリはそう考え熱心に見ている。洞窟内の文字や絵が暗くて見づらいと、天皇・藍華は白燐光で壁画を照らした。普段は飽き性なのだが、今回だけはじっくり見て回っている。
「へー、壁画とか本物見るの初めてだ俺」
「謎にせまるってのは面白いよな」
 気負わず1人洞窟内を見て回る鈴柴・虎鉄。風見・隼人も1人だったので一緒に回ることにした。
「これが件の壁画……実に興味深いね……」
 両手を塞がないよう頭に装着するライトを持ってきた要・耕治は、思う存分壁画をデジタルカメラでメモリーの限界まで撮影する。
「かべの……え、とっても……かわいい……の」
 気持ちは『ファンガスさんこんにちは記念』と、姫神・くくりはスケッチブックと鉛筆で壁の絵や文字を写し取っていた。
 忘却期前のファンガスと人間との関係を表す壁画に興味があると鳳凰鈴・麗火。ファンガスと人間との関係を表す絵や文字が描かれた壁画を前に、「思っていた以上にすごいわね〜」と驚いた。
 言葉や文字を扱うのは我ら呪言士も同じだと神室樹・壬晴。この壁画には、ひょっとしたら当時の他の来訪者やゴーストの情報も描かれているかもしれない。書き取って解読しておいた方が後のためになると考えた。
 八神・海音は壁画を見ながら感慨にふけっていた。「うむ、余でよければ共生できるとおもしろいと思う」と未だ見ぬファンガスへ告げる。
 ファンガスはものを食べるのかも気になるし、共生したとき、お互いに影響がないのかどうかも知りたい。そう思って国見・伏葉は壁画のお互いの関係を表す図をメモをしていた。
「すごいところですわね……。ファンガスが益々興味深くなりましたわ」
 相崎・陣とアニス・アルカンシェルも壁画を見ながら奥へ進んでいく。
「なるほどな。こんなにも昔からの仲でもあったのだな。そして、こうしてる間にも私らにくっ付いているのかな?」

 これら壁画を見ると昔の人のすごさがわかると御門・一二三。その描かれている量に驚いた。
 壁の暗号や絵文字を見て落書きだと勘違いした朝昼・今宵は、「私も何か描こうかな」と筆記用具を取り出し、恐ろしい形相を浮かべている巨大苺のゴーストを描き始めた。
 気づかず壁画を見ていた芳賀・柊輔は、その巨大苺を見て「なんだ……?」とポカン。
「これは落書きじゃない、程々でやめておくんだな」
 今宵の筆記用具を取り上げ、どこか楽しげに笑いながら落書きを消しておいた。
『共生した人間とファンガスが楽しそうに踊っている壁画』を発見した霧雨・御室は思わずぼやく。
「これ、変なキノコに当たってイっちゃってるようにしか見えないんだが大丈夫なのか?」
 洞窟に入る前に芙美に撮影OKと確認しておいた、結社『貧乏人の巣窟 何でも屋【銃道商店】』の面々は、次々と壁画を撮影し始めた。
 わいわい楽しくするのはあまりないからいい機会だと漣・雨水。これでも一応探検家だからと言う淵叢・雹は壁画がかなり気になっていた。以前考古学を学んでいた雹や雨水の2人に薀蓄をねだりながら、一本槍・風太は観光気分を楽しんでいる。狗々・狗々狼も「この絵はいつ頃のもので? ……なるほど。 ならばこの文字の意味は……」と、先輩2人に文化的な特徴や年代などの考察を伺っていた。
 壁画を見つつ、昔からの関係も好意的な共生関係であったならいいとセイジロウ・マグスは思う。今まで出会った来訪者の中でも、ファンガスは随分と異色だから。
(「ちゃんと僕に共生してくれるかなぁ……珈琲の香りも好んでくれると、いいな」)
 珈琲好きのセイジロウらしい願望だった。
 壁に書かれた文字を読みながら群生地を目指して、小野瀬・謙は「本当に人助けになるんだろうな、これ」と少し不安になる。
「あ! こっち見てみて、薙ちゃん! ……これは何を現した絵なんだろうねー!?」
 さっきから大はしゃぎで壁画を見ているのはレフ・ロントン。「あれ……あっちは……?」と壁画の前を行ったり来たり、「こういう記録が残ってるってすごいことなんだろうけど……手掛かりがないから内容はわからないなあ、残念」歩きながらメモを取ってよろけたりと大変だ。
 それにしてもと相模原・薙は思う。レフさんは年上のお姉さんだから頼りにしたいんだけど……なんか危なっかしいのは気のせいなのかな?
 父親が昔のケルト文字研究家なのでこういう文様には興味があるリザ・ロードマン。メモを取ろうと下を向いた途端、どっかりと後頭部に重たいものが。ファンガスがいつの間にか乗っていた。
 解読と言うよりは歴史に触れた記念的な意味で、四十九日・名綯は壁画をメモに控えて保存することにした。洞窟に人の手がどう入っているか、ファンガスたちがここでどんなことをしているのかを興味深く見て回る。きっと知っておくことが、今後の共生に役立つはずだから――。

 奥に進むにつれ、絵だけの壁画に文字が混じり始めた。白塗りの人型や黒塗りの人型、意味深な文字など、自分たちを翻弄しているのではないかとつい思ってしまう壁画が続く。
 なかなかに美しく描かれたものもあるが、はっきり言えばミミズの張ったような文字と絵の描かれたものもある。これは暗号か……? 能力者たちは混乱していく。
「へ〜、なかなか面白いわね」
「……これでわかるのが不思議だと思うのだけど」
 ふむふむと加賀見・縁。渋面で壁画を見ているのは風倉・千紗都だ。
 古代文明の壁画っぽいと一ノ瀬・ゆに。キノコと人間とかシュールだな……と少し思う。
 迷路は永遠のロマンだと奥へ進む雪村・漱。暗号なんてちょろい思っていたが、わからない。
「……。……やるじゃねーか。推理漫画を愛読してるあたしがとけないとは……!」
 芸術的というか独創的すぎると言うか、何を見てもよく分からない壁画だと思う草月・誘。それでもかわいい息子とデートと思えば苦ではないと手をつないで洞窟を行く。
「姐さん、あの絵ってどんな意味やと思うー?」
 そんな胸の内を知らず、霜月・灯は誘に尋ねる。少しでも意味を理解してファンガスのことも理解できたらと思ったからだ。
「……なんで暗号にすんのよ。解けなくて迷子になったらどうすんのよ」
 ぶつぶつ文句を言っているのは、記者志望で諜報部員のリュン・ガーフィールド。愛用のデジタル一眼レフ片手に、やはり奥のが面白いものがあるのかもしれないと暗号を解く覚悟を決めて奥を目指す。
 早々に壁画を読み解くのを諦めた桐嶋・宗司は、今はファンガスがどんな奴らなのか楽しませてもらおうと考えた。
 図書館で見た報告書からファンガス事件を解決した生徒は洞窟の選択肢を間違わずに行ったらしいと涼風・ユエル。でも不正解の方には何があるのか気になったので、選択肢を片っ端から外して進むことにする。しばらくして聞こえるユエルの悲鳴。
「冬汰の頭脳を以ってすれば解けない謎はありません」
 そう豪語するのは長谷部・冬汰。とりあえずは絵や文字を観察しつつ手帳にスケッチしていく。が、段々熱が入ってきて、解析そっちのけでスケッチに集中。ファンガスが寄ってきても気づかなかった。

「元の言語が日本語なら解読は簡単でしょうね。問題は未知の言語である場合です。既知の言語と何かの関連がないと解読は非常に困難でしょう」
 龍答院・ユーセルディンガーは壁画を写真に納めながら冷静に分析する。ざっと見た感じ、書かれた用語のベースは日本語の古語のようだ。分岐などの道しるべとなる部分は暗号、絵の説明文らしきものはかなり難解な言い回しと専門用語たっぷりの文章だ。
 リュリ・ジルタはゆっくり観察しながら1つ1つの絵を頭に入れていく感じで洞窟を見て回っている。
「面白いよな、ほかの土地でもこんな風に生きてる来訪者とかいそうでさ」と鈴城・有斗。キノコと聞いて、「どんだけ幅広いんだ来訪者」と少し呆れていた藤堂・修也も、それだけ昔からいながら気がつかなかったのかと、この調子なら実際にはいるが気がついてない来訪者がまだいそうだと思った。
 メリッサ・カルニスも来訪者っていろいろいるのねと思った1人だ。ヨーロッパにも、たとえば人狼と吸血鬼が遠い昔に仲良しだった何て遺跡があれば面白いのに、そんなことを考えた。
 人と共生できるという特徴は白燐蟲や黒燐蟲を思い出す。まだ知られていないものがあるかもと朱鴉・詩人はメモを片手に歩き出した。
 風景画のスケッチが得意な瀬尾・タケルは、壁画は何で描かかれているのかが気になり、懐中電灯で照らしてまじまじと見た。ほとんどが鋭い何かで直接彫ってあるようだった。
「ファンガスは……、人と集うことを望んだから、こんな絵が残されているのだろうか」
「私も来訪者ですが、こうしてほかの来訪者の歴史を客観的に見てみると、今まで気がつかなかった側面が見えてきますね。今度自分たちの歴史について勉強してみましょう」
 ネリム・アイギルスは壁画を前に、ふとそんなことを思った。有栖川・美津海も興味深そうに呟く。
 教えてもらうより自分で解読したが理解が深まるような気がして、「せっかく仲間になるんだ、できるだけお互いのことを理解したい」と神咲・鋼は書かれた文字や壁画を熱心に読み取っていった。

 ここにある壁画を調べるだけでしばらくは退屈しないで済みそうだと、霧島・絶奈は資料をちゃくちゃくと揃えていく。暁・明美もこれら絵や文字は大変貴重なものだとしっかり記録した。意味は家に帰ってから、ゆっくりと考えてみようと考えたのだ。
 真剣に、でも楽しそうに壁の暗号部分を追っている苑田・歌穂。最初は退屈していた苑田・歌依も釣られるようにだんたん面白くなってきた。
「歌穂、こっちの絵は〜? ね、ね、これは? これは?」
 聞いてくる姉の歌依をうるさいと思いつつも、しかたなく歌穂は聞かれた壁の絵の部分も見てみることにした。そこで初めて、歌穂は人間とファンガスに関わる絵が多いことに気づく。
 全然知らない昔にいろんなことがあったのだろう。
「私が力になれることは小さいかもしれないけど……仲間になれることがちょっと嬉しいです」
 歌依も、壁画からファンガスと人間が昔から付き合いがあったと知り、感動していた。
 壁に夢中の安曇・四季は、ファンガスたちが頭や肩に乗っていても一向に気がつく様子がない。洞窟に来た目的すら忘れるほどに見入っている。
 共生するならそれなりの知識も欲しいと、浅瀬・丹環は祖先たちが残した情報を見ていく。
(「報告書によると、生き延びるために形態のパターンがあるのでしたっけ?」)
 うっかり誰にも憑けずに出てしまったファンガスがいたとキノコとを考え丹環はしっかり見ておいた。
「わーい、迷った……。暗号なんて無理だよぅ。壁画とかこれなんて古代エジプト? ふふふ」
 混乱しきった聖馬・アキラはもはや電波状態になっている。
 壁画を見ながら思いをはせる佐藤・ナツ。分かれ道に当たるたびに混乱しつつも先を決めるが、より難しい方――つまりハズレの道ばかり選んでしまう。「あれ……? あれ!? み、みんなどこに行ったの!? ……まさか私また迷ったのかな」
 嫌な汗をかきつつ、罠などがないか怯えること5時間。
 ファンガスに寄生されたことも気づかず、みんなが帰るギリギリまで道に迷い続けていた――。

 能力者たちの前に現れた『まつ』『たけ』と書かれた文字と分岐。これは何を表しているのか。さまざまな憶測が飛び交う。
「ほう、コレは興味深いな……。今後の研究に活かせそうだ」
「オセ、私までつき合わせるとは……後で礼くらいはしてもらいたいものですな」
 軽口を叩き合いながら、シュベルト・オセと睦月・誡は『まつ』『たけ』の分岐までやってきた。どちらも興味があったので、シュベルトは『まつ』、誡は『たけ』と分かれて行動することにする。
 七儀・唯冬は、これらの文字にはどんな意味があるのかと考えた。
(「ただ単に『まつたけ』? 謎だ……」)
「……ああもう、『まつ』と『たけ』しかないから松茸食いたくなったじゃねぇかー!?」
 思考がすべてそこに帰結し始めた鉤鷲・紅太郎が吼えるように叫ぶ。
「なんでしょう、これ……。ほかに『しいたけ』とかあるのでしょうか」
 いや「まつ、たけ、うめ」かもしれないと真面目に考察しているのは片瀬・斎。蕭・天河は『しめ』『じ』もあるかもしれないと考えていた。個人的には『エリ』『ンギ』が大好きだが。
 里見・八尋も「菌類ゆえに?」と同じことを考えている。狭山・恭平はキノコは『なんとかタケ』とかいうのだから、『たけ』のほうだろうと思ったあとで、まさか今まで知らずに食ってたりしないだろうなと不安になった。
 いろいろ迷った末、『たけ』の方に進んでみた能力者たちは別の壁画が発見した。どうやらこちらが正解だったようだ。野生の感でこちらを選んだ陰条路・朔之助も、早々に次の壁画へと辿り着いた。

 柳・桂刀は、何となく『まつ』の方にいるファンガスの方がすごそうだと、そちらに足を進めていた。
 篠原・薫子も別のキノコではダメだったのかと思ったが、考えるうちこれは正しい道を現す暗号なのかもしれないと気付く。
(間違えたらどうなるんだろう。ファンガスが助けてくれるのかしら?)
 とりあえず薫子は『まつ』の方へと向かった。
 どんどん通路が複雑になり、石柱や石筍の数か増えてくる。壁画の数もめっきり減った。いきなり足下が抜け、篠原・薫子はそこへ転落。あとにやって来た桂刀や月来・深烙、西迫・舞人は、ただぽっかりと空いた縦穴に驚いていた。ちなみに落下した薫子は、穴の下部にみっちり詰まっていたファンガスがクッションになってケガをせずにすんでいた。
『まつ』に向かった一同は、どうやらこちらは危険なルートだったらしいとやがて気づいた。……気づかず突き進んだものもいたようだが。

『まつ』『たけ』と書かれた分かれ道を前に、『うめ』と書かれた隠し通路でもあるのではと御形・司は探してみた。実は彼だけでなく、かなり多くの生徒が『うめ』があると思ったり、探したりしていた。
 アハド・ベルネリもその1人。『うめ』がないことに衝撃を受け、しかたないので暗号や壁画に怪しいのを追加しておこうと思い立った。
 いざ彫らんとナイフを振り上げたとたん、風祭・彩香に襟首を捕まれて強制連行。怒られた。
 風祭・彩香は現地は本来立ち入り禁止……ようは久しく人の手が入っていない場所は意図のあるなしに関わらず荒らすべきじゃないと思い、見回りしつつ見張っていたのだ。
「見ておいて正解だったわ」

 続いて多くの能力者が足を止めたのは、『黒塗りの人型に白塗りのキノコっぽい何かがくっついている絵』だった。
 今までの壁画から黒塗りの人型は人間を現していると推測される。白塗りはファンガスだ。
「一体誰が書いたンだか」とエル・フランシェード。この絵はファンガスを宿すことに関係のある絵なのだろうかと考えてしまう。
「ファンガスちゃんと人はこの洞窟が誕生した時にはもう一緒に居たってのかなー?」
「来訪者ファンガス……いつごろから人と関わりが発生したんだっけ?」
 古の歴史に触れるの機会なんて中々ないからと楽しんでいる里見・八尋。風早・裕は報告書から覚えてきた内容を思い返していた。
 言葉の意味はよくわからないが、二瀬・颯軌はこのキノコの絵はかわいいと思った。紗白・波那は、「これはキノコに萌えられた人間の絵ね!」と断言する。
「ヒトと、ファンガスとの歴史か……興味深いな」
 鏡・翔一は寄ってきたファンガスを肩の上に乗せ、一緒に洞窟探索と洒落込んだ。
「ふあー、すごいですね〜。こんな遺跡があっただなんて〜っ」
 驚きの声を上げたのは、結社『銀誓館考古学部』として調査にやって来たサブリエール・テフィー。解読は難しいだろうと、メモ帳に文字や壁画をみんなで手分けして模写をしながらの探索だ。
「んー。こういうところの写真て、なんだかいいですよね?」
 シャッターを切りながら琴月・立花は壁画が持つ魅力を感じていた。その横で、篠宮・沙樹はこの壁画の成り立ちに疑問を抱く。
「これがファンガスで、こっちが人間……で、あってるのかな?」
 新たな壁画を見つけ、指を差しながら巽・誠一郎は推論を述べた。
「暗号自体新しいものなのでしょうか?」
 次々と見つかる壁画たち。あるいはさまざまな時代に書き加えられつつ今に至るのかもしれない。果たして人間とファンガスは今までにいかなる関係を築いてきたのか、沙樹は暗号を読み解いていけば判りそうだと手ごたえを感じた。
「この☆みたいな形が人じゃな……頭? の上に向かってキノコっぽいモノが?」
 狐塚・蘇芳は壁画を読み解こうとがんばっていた。
(これは『……上を向け』ってことじゃろうか……)
 そう思って天井を見上げた蘇芳の視界に一瞬白いモヤっぽいものが映る。どこかで『にょき』って音がした気がした。
 その後ろを行くのは、はぐれないよう手をつないだ結社『アジア文化研究部』で参加の面々だ。
「引き返すより、このまままっすぐ進んでみましょうよ」
 人混みをさけて足を細い枝道に入ってしまったが、進めなくなってから戻ればいいと林・雪美。七氏・岳志の光明呪言の明かりを頼りに進んでいく。途中、足下に空いた空間をよけたあとで、びっくりするほど大きな洞窟画を見つけた。
 頭からキノコが生えてるその絵を見て、来栖・裕也は「ま、ここまで来たからには帰らんけどさ。でも頭からはちょっと……嫌だぜ?」と渋面する。菌類と聞いていたからおかしくはないのだが、想像するとおかしいねと3人は話し合った。
 一同が見たあとでやってきた八木山・聖夜もポソリと呟く。
「頭にキノコが生えるのかなぁ……?」

 そうして、もっとも足を止めたものが多かった『人間とファンガスと思しき人型の間に双方に向けて描かれた矢印』の壁画が現れた。
「昔は取り付いて意識を乗っ取ったりとかあったのでしょうか?」
 辻本・彩理は双方に向く矢印が、お互い持ちつ持たれつな関係ではないかと睨んでみる。
 これはどんな子たちがどんな気持ちで描いたのか、双方に向く矢印ということは友好もしくは共存の証だろうか……。白貫・弼は、昔のファンガスとそのかかわりの人たちに想いを馳せていた。
「やじるしの絵はー……キノコと人が仲良し? ううん。キノコが人にへんしんする、とかー」
 だったら面白いのにと目を輝かせたのは、日日・わや。
「どう思いますですか?」
 いきなり話しかけられた人は、「キノコになるのはちょっと……」と動揺していた。
 ラインハルト・シュバルトクロイツは、絵の近くに何か仕掛けでもあるのだろうかと辺りを調べる。
「輪音サン! 迷うと大変デスから、手をつないでおきましょう!!」
 そう言って羽柴・鉄は三笠・輪音の手を取った。
「うん、迷わないように。……離さないでね?」
 少し驚きつつも、嬉しそうに輪音はギュッと握り返す。
 件の壁画を見て、昔から助け合って共生していたのだろうと鉄は思う。
「この絵はきっと、ファンガスと人間が仲良しサンだったってことをあらわしてるのでしょうね……!」
「こんな風に見てると、とっても親しみを覚えちゃうわよねー」
 鉄の言葉に輪音は感慨深げに頷いた。
(「世界結界ができる前は、たくさんの来訪者さんがいたん……だよ、ね」)
 アスカ・エソラは壁画を見ながら思った。もちろん、戦わなきゃいけないこともあったはずだ。でもこんな風に、仲良くなれた来訪者もいたはずなのだ。
「世界結界が張られる前も、それなりに上手いこと共存してたんかねぇ?」
 壁画を見ながら柴沼・朔は久瀬・透輝に話しかけた。昔のことはわからないが、この先は仲良く共生していけそうなのはいいことだと朔は思う。争わないですむのならそれにこしたことはないのだから。透輝も未来は平和に共存して暮らせるといいと願った。
「そうならば、きっと時を越えてもそれは同じはずでしょう」
 久瀬・透輝の胸の内を読んだかのように、フローラ・ロザーチェアは壁画を眺めながら言った。

 そのほかにも別の絵、いく通りにも読み取れる壁画があった。深い枝道の奥に描かれていたにもかかわらず、辿り着いた能力者たちもいたのだ。
「ファンガスは生き残るために必死だったんですね……。そして、そんなファンガスと共に生きる道を選んだ人間もいた」
 死んでいくファンガスと人にくっついているファンガスの絵。それらを見てレイラ・ミツルギは呟く。
「ボクたちも、仲良くなれるといいね?」
 きっと昔の人たちに負けないくらい仲良しになれるという願いを込めて、水本・涼花はみんなに確認するよう尋ねた。
 壁画を辿り、ファンガスの群生地へ辿り着つく一同。
「……爆発したりとかしないよな?」
 基本ビビリのルイーダ・アッシュロードはおっかなびっくり。杉本沙紀はあたり一面を覆うファンガスの方へ「すご〜い! こんなにたくさん」と倒れ込んだ。
「当て字にしてもちょっとひどいでき栄えですね」 
 秋扇・紫苑はある壁画の前で足を止めた。該当すると思われる絵に添えられた「命衣我利子」。
 これは図書館で見た報告書に、確かメガリスと書いてあったと思っていたのだが。『megalith』と言う英語から名づけられたと思っていたが、当時から呼ばれていたのだろうか……。謎だと紫苑は首を傾げた。
 同じく首を傾げているのは河田・ジロー。「命衣我利子」という文字が読めずに立ち止まって考え込んでいる。
(「う〜ん……これ、人間? に、付いてるのと……単独で人型なのかな……人間よりも大きい?」)
 壁画を前に百面相をしているのは逆柳・天機。教室で聞いてるより大きくなったりするのかなと思い、なるから来たんだっけと気づいて苦笑する。
(「印象的なものがあったら、覚えて帰りたいな」)
 そう思って見ていた天泉・五月は、世界結界とファンガスの関係を表したと思しき壁画を見つけた。
 遥か上空に張られた世界結界の影響で、普通のファンガスたちが次々と倒れている。その中で、小山のごとく巨大になったファンガス、人間とくっついたファンガス、そして特別な力を秘めた光る珠のようなものを手にしたファンガスだけが生き残っている。そんな絵だった。

「人との関わりが昔にあった存在みたいだねー。来訪者……どういう経緯でこの世に現れたんだろう?」
 鳳・紅介は壁画の意味を想像して呟いた。
「こうして残されてるっていうことは伝えたいことがあったのですよね」
「いったい何なんだろうな? ファンガスって……」
 できるだけ汲み取ってあげたいと夜刃・柊。壁画や暗号を見ていて壬柳・惣一はそう思う。
「キノコが人間にくっついているのはファンガス共生者を、キノコと人間の双方向に矢印が書かれてるのは、お互いが共生関係……助け合ってることを、意味してるのかしらね?」
 紅堂・天音は周りの人の意見を聞きたくて声にする。同じ壁画に篠崎・悠夜は見とれた。いつか自分たちとゴーストも協力できる世界を願って。
「きっとどっちもお互い大好きで、仲良しさんなんだね」
 永藤・ユディも興味深く思い手伸ばして触れてみた。その声に惹かれるように、のたりと姿を現したファンガス。
「ね、一緒にあそぼう、ファンガス! 嬉しいこととか楽しいこととか、一緒にいっぱいやろーよ!」
 ユディは握手代わりに約束のあかしの小指伸ばした。
「今日からボクたちも、この絵に負けないぐらい大々仲良しだよ♪」
 その声を聞いて雪城・ほのかは思った。あの絵が友好関係を表しているといいな……ではなくて、そうなる努力をすべきなのだろうと。
「共に歩んできたのでしょう? そして今、わたくしたちにそれができないはずはありませんわ」
 月音・香織の目は静かな自信に溢れていた。
「……ふふ。これだけ人が集まったこのツアーもまた、この壁画に書くべきですよねぇ」
 黎烏・乃鴉は壁画を見上げて小さく笑った。

●ファンガスとの邂逅 〜洞窟にて
 洞窟のあちらこちらでファンガスは能力者の訪れを待ち構えていた。後ろをついて回ったり、動きを真似したりといろいろな出会いがあったようだ。
 気持ちが伝わるのなら、と西迫・舞人はファンガスを前に恐れないよう心がけた。
「これがファンガスですか……。不思議なものですね。これが、去年世界結界を壊そうとしていたのですから……」
「不定形と聞いていますが、時に応じてその姿を変えられるのでしょうか? 興味がありますね」
 結社『戦狂』の仲間と来ていた鞘月・彪は、わくわくしながら奥へと進んだ。じきにファンガスたちの姿が見えてくる。
「うた、食べたらいかんぞ〜」
 十六夜・瞳は、先手を打ってキノコが大好きな灰羽・天詩に注意した。
「……た、食べちゃだめだったのかに? そかそかっお友達……かにっ。大丈夫だぞ! おいらたとえキノコでもっお友達は……たべない……んだぞっ!」
 この涎は気のせいだと垂らし始めた天詩の涎を、瞳はハンカチで拭き取った。とはいえ、本当に食べられないのか気になる。瞳にじっと見られた彪は汗をかきながら答えた。
「ファンガスさんが食べられるとは限りませんよ? 毒キノコというものもありますしね……?」
 そんな心配をしている一同で、「スーパージャンボマッシュルーム……」と思わず呟いたのは宮之原・滉。ビクリと身体を震わせたように見えたファンガスに「や、食べたりしないから安心して?」と慌ててフォロー。
「え、食べられないの? えー、つまらないーい」と機嫌が悪くなったのは木島・秋広。
「ふわふわ〜もこもこ〜ふわもこもこ〜」と浴衣屋・壱烙は口ずさみながら奥へと奥へと向かう。
 そういえば自分の身体には先住で白燐蟲がいたりするけど大丈夫だろうか、とちょっと心配になってきた。仲良くしてねとファンガスと意思疎通をはかろうとしてみる。
「……春途くん春途くん! 居た! ふわふわ! 白いの! ほらっあの……」
 じたばたとはしゃぐ天鳴・遊司を見て、内心、年齢って一致しないよなと岸納・春途。
「だ、だから何でそんなちっちゃい子を見るような目で僕を見るの!」

「僕は、あなたたちのお役に立てそうですか?」
 杉原・結良は自分に興味を持ってくれたファンガスに話しかける。
 円・未都は、手を広げ抱いて包み込むように微笑んでファンガスを迎えた。自分が能力者に覚醒したときには白燐蟲がいたし『共生』には慣れているつもり……なんだけど。なじんでいけると嬉しいな、と未都は思う。
「世界結界が完成する前……いや、その直後位かな……ボクの生きてた時代だ」
 壁画を見た出雲・団十郎は呟いた。いろいろな想いが胸に去来し、少し遠い目をする。
 小さく頭を振り、気を取り直してファンガスたちの元へとやって来た。微笑みながら手を差し出す。
「さあ、行こうか。これからよろしく、新しい友だち」
 未知の知性との記録らしき壁画を見て、ラリー・マクファーレンは知的好奇心が刺激されてやまなかった。加藤・風雅もここまで常識離れした来訪者と会うのは初めてだと興味を隠せない。
「どんな感じなのかな。感触とか匂いとか……コミュニケーションはどの程度できるのかな?」
 しかしファンガスとの接触に浮かれているラリーを見て、あまり珍しそうにするのも失礼かと思い直す。普通に新しい友人を紹介された時と同じく自然体を心がけようと風雅は決めた。
「同じ来訪者とはいえ、この世界への関わり方は随分と異なるものだな」
 ファンガスを乗せて月神・朔夜は呟く。興味深い種族だと思う。こちらが彼らの助けになれるかどうかは分からないが、交流を深めるのは悪くない。
 ここより引き離せば世界結界に触れて消える。ファンガスにとって生きるには難しい世界ということなのかと、ソロル・エリシオンは目の前にいるファンガスたちを見てそう思った。
「来いよ。居場所が欲しいんだろ?」
 テーオドリヒ・キムラは、近くにいたファンガスに手を伸ばした。逡巡するように身体を伸ばしたあと、ファンガスはその手に乗る。テーオドリヒはファンガスがじっと自分を見ている気がした。
「……俺も、二度と居場所を失いたくなくて戦ってるんだ。似た者同士ってことでこれからよろしくな」

 横穴や縦穴といった場所には、ファンガスがみっちりと詰まっていることが多かった。壁画を鑑賞するついでに見つけたそれらと運命の糸を結ぶこともあったようだ。
 浅倉・郁が見つけた横穴もそう。ファンガスで一面白く染まっているその横穴に向かって、ぺこりと挨拶をする。「はじめまして、これからよろしくね♪」
 壁画のスケッチ用にノートと鉛筆を持ってきていたライカ・セルエズに、ファンガスたちが寄ってくる。
「あはは、一緒に絵でも描きながら楽しもうか?」
「む……白いな」と秋本・ロレンス。ファンガスをじっと見て、ひとこと言った。
 わたあめみたいでおいしそうとネイ・マーブル。ファンガスを手のひらに乗せてつんつんしてみる。その動きが思ったよりかわいらしい。「ファンガスの『ンガ』ちゃんって呼ぶですぅ〜」
 自分で歴史を読み解きたいと参加した真中・由美。本心は、自分から逃げないらしい、ふわもこな小動物、もとい植物に惹かれてだった。小動物から逃げられる体質の由美は、これでようやくモフモフできるとご満悦だ。
 自分の身体はあまり居心地がよくないかも知れない。だが少しでも力になれるなら。ずっと肩に乗せていたファンガスに、ハーヴェイ・マクミランは手を差し伸べた。「私と一緒に来るかい?」
 直感で決めたファンガスに岩崎・弥太郎はびしっと指差し。拝み倒して身体に乗ってもい、相棒と記念撮影&弁当を食べ……ようとして気づく。「迂闊、ファンガスって映るのか? 物を食べれるのか?」
 ガガーンと衝撃を受ける弥太郎だったが、相棒はすべてを難なくクリア。最初の戸惑いが嘘のように弥太郎になついていた。
「洞窟にはファンガスに関する壁画があるんだよね? どんな壁画か楽しみだね♪」
 洞窟探索に必要そうな道具一式を完璧に揃え、樹・咲桜はうきうきと洞窟へ向かった。
 入ってしばらく行ったところで壁画を見つける、結社『黒猫座談会』の3人。
「こんなの誰が作ったんだろ、人間? それともファンガスのほう?」
 言いながら、十衛・慧託はファンガスとの共存の参考にしようと、持ってきたノートに見て得た情報を書き入れる。暗号らしき部分は、咲桜が頭をフル回転させ、もしくは日芽・夏凛が直感で気付いてクリア。資料兼記念に洞窟内のファンガスや壁画を撮り、最後はみんなで写真を撮った。
 最後に悩ましい分岐は咲桜が持って生まれた鋭い感覚で切り抜け、ファンガスの群生地までの最短ルートで到着。そして突然開けた場所には。
「わーい♪ いっぱいいるの〜♪ 今日からファンガスさんとお友達なの〜♪」
 真グレートモーラットのスイと共に洞窟内を歩いていた皆星・幸与は、きっとファンガスが大好きな人があの壁画を掘ったんだろうと思った。一時的にでもスイと離れるのは寂しいが、気になるものを知らないままでいるのは嫌だ。それでお互い助かるのなら良いことづくめ! だからとスイに頭を下げる。
「だから、少しの間お留守番してて下さいッスね」

「おや……、こんにちわ。仲良くしてくださいね」
 見れば見るほど不思議な生き物だと、八嶋・双伍は新しい友人の動きに笑顔を浮かべた。
 宿主となる意思を伝えているのは吉備・智美。ひょこひょことじゃれつくファンガスを、智美は彼らが身体を登るのに任せ、頭の上に乗せてあげた。なぜファンガスが急に目覚めたのか、ほかにも似たような形態の存在がいるのか。意思疎通を試みながら洞窟探索に戻って行く。
「ファンガス……私でも気の合うような子がいるかしら……」
 うつむきがちに呟く雨槻・栞の中で、白燐蟲が栞を怒るかのようにざわめく。地面を映していた視界内に、のたのたと栞を目指してやってくるファンガスの姿が見えた。
 背が低いだけあって地面が見やすいぜ、と城崎・モクレン。
「ほら、もう見つけちまった」
 黄・楊花はまだ鎌倉には来たばっかりで、友だちがいなかった。
(「新しい友だちができるまで……このファンガスを相棒にしてみるのも、面白いかな?」)
「さ、おいで。一緒に行こう」と笑顔で声をかけたのは武内・恵太。図書館で読んだ報告書にあった「強く思った人物の姿をとる」というのは本当だろうか。着物の似合う恋人を脳裏に浮かぶ。
(「……ちっこい赤フレームの眼鏡や着物、もってきたら良かったかな」)
「……壁画によればファンガスは、相手の『一番大切な人』に変化して攻撃をそらそうとする。……今いる子たちがそんな想いをしない、手を取り合う世界が続けばいいね」
 鷺宮・陸はかたわらに立つ、城谷・千鶴に話しかけた。
「一番、大切な人に……。……うん、……辛い思いは、少しでも少ないほうがいいよ」
 千鶴は自分たちの手で新しい友好の歴史を築いていきたいと思う。
(ちょっと恐いけど……君がいてくれたら大丈夫)
 手を握った陸に笑い返す千鶴。2人一緒にファンガスに手を伸ばした。

「これが雪国のまいたけかー! 鍋用になるかな?」
 ちょっぴり勘違いして壁に張りついたり文字を見ているのはワトソン・ロマノフ。
「ららんらんら〜♪」
 アルヴィス・ルナフォードは別の場所でも誰かが歌っていた歌を歌いつつ、ファンガスを見つけ手招きした。アルヴィスはキノコ嫌いだけどこれは別なのだ。
「まだーぼくにーついてーないーならーぼくのーところにーくるー? ぼくはーそれでもーいいーよー」
 にぱにぱと笑顔で歌いながら、戸田・氷魚はファンガスたちに話しかける。
 友だちになるにはまず深く理解しないと。そう考えて桃月・緋雪は壁画の絵や文字を読んで、洞窟の奥までやって来た。ファンガスを大事なパートナーと言う伊波・ことはも同じ考えだ。
 2人はそれぞれ手のひらにファンガスを乗せて、最初の一言を言った。
「初めまして、桃月・緋雪です、私と友たちになってくださいませんか?」
「ファンガスさん、これからよろしくね」
 朔夜・夢亜はファンガスの感触が気になっていたので両手で包んでもふもふしてみる。思ったとおりの手触り。
「はぅ、もふもふ〜♪」
「サキ、オマエ、こんなとこに来てて大丈夫なのかよ?!」
「藤花院か。何を不思議な。……だいじょうぶだとも」
 驚いて目を丸くしたのは藤花院・竜樹。言われたサキ・リィシャロはわずかに笑った……が、目が死んでいる。サキ自身はキノコ料理が出たらちゃぶ台をひっくり返すぐらい嫌いなのだが、己の使役ゴーストである立天が好きなのでやってきたのだ。竜樹はドキドキしながらサキとファンガスとの交流の行方を見守った。
 そんな2人にファンガスはすぐに宿ったが、帰りのサキはショックで少しフラフラしていたと言う。

 広い空間を埋め尽くすのもファンガスは好きらしい。ときおり真っ白に染まった広間を見つけて能力者たちを驚かせていた。
「ファンガス共生者になって、もし体からキノコが生えてきたらどうする?」
 秋元・黄作はそう言って今江・雅鼠をからかった。雅鼠は「怖っ!」と怯えている。2人はおしゃべりをしたり壁画に見入ったりしながら奥へ。しばらくして黄作がファンガスたちで白く染まった場所を見つけた。ため息のように雅鼠が言う。
「……わぁ、神秘的に御座りますねぇ」
 人が少し苦手な秦・古希と岑・洛叉は、共にファンガスたちが多く群生する奥までやって来た。
「あら、随分と不思議な方々ですのね、ファンガスさま。よろしくお願いしますわ」
「とってもかわいいね、これからよろしく」
 にこりと微笑んで挨拶をする2人にファンガスたちは身体を揺らして応えた。
「おいで。きっと楽しいよ。一緒に遊ぼう?」
 後藤・つかさは黒燐蟲を出して手の上や腕に纏わせて遊びながらファンガスの訪れを待っている。
「お、何だこいつ。白いマリモみたいだなぁ」
 秋風・一夜はファンガスを手のひらに乗せコロコロ転がしてみる。
「そういえば、これでファンガス宿ってるのかな? あんまり実感ないんだけど……」
 ファンガスを見つけた伊有・奏乃は、いきなり座布団を敷いた。そこにファンガスを乗せて三つ指ついてご挨拶。「これから長い付き合いになるだろうから、きちっと挨拶をしておかないと」
 逆柳・天機はファンガスを手に乗せて、予想していたとおりのしっとりとした質感を楽しんだ。冷たいかと思っていたが思ったより温かくて生ぬるいぐらい。天機はつついたり、痛くなさそうな程度で揉んだりしてファンガスと戯れた。
 真っ白いもわもわがちらちらと視界に入って、杏・志信はつい笑みを浮かべる。シェスター・トレジャーノは驚かせないようにじりじりと側へ寄ってみた。肩に乗せたいとドキドキしている志信の背後に回り、シェスターはかき集めたファンガスを肩に頭に積んでやる。それを見た周りのファンガスが真似てのたのたと志信を埋め始めた。
 結社のかわいい後輩の太・小燕と五百蔵・清己は2人で洞窟探検にやってきた。小燕はすっかり観光気分。疲れたら持ってきた砂糖水で水分補給で休憩する。
 清己はファンガスは甘いもの好きだろうかと思い、試しに少しかけてみた。最初は驚いたように身を震わせたファンガスだったが、好物をぺろりと舐めた犬のように身体全体でおねだりを要求してきた。

 行くだけでファンガス共生者になれると聞いた赫・朔羅。でもこれから一緒に頑張っていく相手のことは知っておきたい。せめて挨拶はしておきたいと「これからよろしくお願いしますね」と微笑んだ。
 真似してくれるかな、とファンガスたちの前で日狩・篠は頭を左右にふわふわふと揺らしてみる。寄るのを一旦やめ、篠の真似をしてふにょんふにょんと身体を揺らすファンガスたち。
 八之海・陽炎も洞窟の中のコケなども観察していた。採取しようとしたら、手にファンガスが乗ってくる。陽炎はそのファンガスに話しかけ、似顔絵……のようなものを描かせてもらうことにした。
 自分の中には白燐蟲がいるけど仲良くして欲しいと思いながら、鈴森・更紗はファンガスを触る。
 これまでの来訪者の例から、元は異界の住人である来訪者もみな人間の姿をしていると思っていた。だから櫛田・要はキノコの来訪者なんて想像していなかった。少し頭が柔らかくなった気がした。
「これから、いろんなことがあると思うけど、一緒に楽しくやっていこう」とファリューシング・アットホーン。キノコに話しかけるのは、何となく変な感じがして面白かった。
 マイペースに洞窟探索を楽しんでいた総六・逸の前にも、ひょっこりとファンガスが現れる。
「運命の糸が繋がったのが、お互いにプラスになることを願ってみるよ。……ま、ヨロシクな」
 暗がりでも動きやすいように猫化した森屋・虎狐。壁画は共生までのできごとを記録したものだと思いつつ、てってっと歩く。いつしかその背中には白い塊が乗っかっていた。
「友達になってくれるか?」と鷹月・瑠流衣はファンガスに語りかけた。伸ばした腕から頭上へ移動するそれ。心を許しあった仲になったと瑠流衣は確信し、名前を呼んだ。
「行くぞヴィクトリア!」
 霜月・神無は出会ったファンガスにほかにも興味深い場所がないか聞いてみた。しかし言葉が伝わったようすはない。そこで繁殖の中心地を強く思い浮かべてみる。根気強く聞いたり思ったりしていたら、急にファンガスがピョンピョンはねて洞窟の奥へと向かい始めた。まるで神無を誘うかのように。
「……ファンガスさん、ここから出る道……わかるですか……?」
 ファンガスたちを夢中で観察し、あとについて回った琴代・行方は気がついたら迷子になっていた。確認を取ってぎゅむーっと抱きしめさせてもらったファンガスの感触だけが心を和ませてくれる。
 半夏・はづきは迷子が出ないよう、洞窟内の巡回をかって出ていた。が、奥に進んで行くにしたがって自分が迷子に。「ミイラ取りがミイラになってしまいました」と涙が零れそうになる。
 そこへ知り合いのシンディ・ワイズマンがやって来た。一目見て状況を理解したシンディは、「こっち来なサイ」と強引に誘うふりをしてはづきを保護する。
「私は、元々日本には自分のルーツ調査に来たカラね。こう言う遺跡とかやっぱり興味アルのヨ?」
 一心不乱に壁画を写真に納めたりメモを取っているシンディ。その後ろから、ほっとして心が落ち着いたはづきが一面に広がる壁画に見惚れた。
 記録を取り終わり、談笑しつつ歩く2人。気がつくと肩の上にファンガスが乗っていた。
「Oh、君だねfungusッテ。これからよろしく♪」

「あ゛〜暗いしダルいし……マジで気が滅入っちまうっすよぉ。こんな事なら雪原行ってスノボしてれば良かったなぁ。たぶん、明生さんもソッチにいるんだろうしなぁ」
「静かにしろ、他のみんなに迷惑だ。お前が着いてくると言ったんだろうが、俺は知らんぞ」
 ぼやく武内・真治に注意をしたのは杉浦・真輔だ。仲がいいので漫才のように見える会話をしながら奥へ向かっていく。そこにファンガスが現れ2人を真似るようにじゃれ始めた。
「これが……ファンガスか」
「うおぉ! これがファンガスかぁ。モッコモコだな、うりうり」
 一気にテンションが上がってはしゃぐ真治。指でこねくり回している。
「武内、ファンガスを苛めるのはやめろ」
 しかしこねくり回されたファンガスは何だか喜んでいるように見えた。
 ファンガスの群生があるなら見てみたいと思いつつ、最奥を目指していた青葉・響の目の前に、突如白い空間が開けた。
「フワモコがたくさんだ……!」
「なるほど、真っ白でもわもわ……ね。言い得て妙だな」
 じっくりと観察して神狩・焔華は頷く。
「うわああすげぇー。どこもファンガスだらけだ!」
 一緒に来た年下の季前・春や季前・夏より、はしゃいでいるのは杉小路・次郎。その背をイタズラしようと夏が押す。続いて春も押そうとして、こけた。
 その間に、春は手ごろなサイズのファンガスを見つけ油断している2人に向かう。次郎は口へ、夏は耳へと押し込んでみた。
「ちょっ ぶぇっ春くんやめてよ 共生はするけど野性の物はちょっと。蟲吐くよもう!」
「そんなことやってると春兄の鼻に詰めるよ!」
 そんな2人の非難に春は反論。
「ひどい。共生するんでしょ?」

「……此坂、これがファンガスじゃねぇ?」
 白くてふわふわのもこもこ。聞いていた通りの姿に、亘理・計都は手のひらに乗せて此坂・平次に見せた。思わず平次は息を止め顔を背ける。
「……吸い込んで体内寄生されたらどうする」
「……いや、宿しにきたんだろうがよ」
 壁画を見学していた雪原・夕梨の足下から、見上げるようにのへーと伸びる白い塊。気づいた夕梨は人目を気にしつつしゃがんで手を伸ばした。
「……おいで。迎えに来たよ♪」
「これは来訪者助けの行為であると同時に、世界結界のためでもあるとても大切な行為です」と、厳粛に告げるアリス・ナイトメア。しかし心はちぢに乱れているようだ。言葉のはしばしに、「気分はまさにキノコ狩……」や「けっこうかわいらしい。お持ち帰……」など欲望が零れ出ている。
 燕糸・踊壺はファンガスたちに「おいで」と手を伸ばす。それより先に天井から頭を目がけてポトリと落ちてくるうっかりものが1体。思わず踊壺は「ふぁ!」と声を上げた。
「き、緊張するであります、幻龍斎軍曹殿!」
 ファンガストとの共存に緊張している厳島・ゼオンシルトは、緊張を和らげようとスカルサムライに語りかけている。
 行動を真似たりするかもしれないと聞いた辻本・彩理は、好奇心に駆られてクネクネと妙な踊りしてみた。くにょんくにょんと合わせて周囲のファンガスたちが動き出す。どうやら気に入ったらしい。
 それを見てドジョウすくいをしたらどういう風に真似るかと、ファンガスの前で踊り始めたセツナ・ドール。へこんで伸びて、へこんで伸びて……いるようにしか見えないが、どうやら彼らは同じ動きをしているつもりらしい。
 では歌うとどうなるのでしょうねと護持・空。ゆったりとしたバラードを歌い始めた。心地よい響きに、ファンガスたちは何だか嬉しそうにしている。
「植物にも心があるって前に雑誌に書いてありましたけど、ファンガスさんみたいなことを言うのでしょうかね〜?」と、ふわもこを前に清水・優子は思った。
 目の前で踊ったり歌に喜んでいるファンガスを見ながら、禮堂・侑は個体差があるのか否かをチェックしていた。実際すべてのファンガスが友好的なのか、自分たちを繁殖の材料としてしか見られていないのか気になるところだ。

「よろしくなファンガス。俺は一耶だ、この先の景色を一緒に見る相棒ってやつだ」
 何でもそうだ仲良くするに越したことはないと、赤津・一耶はファンガスに話しかけた。
「とりつかれに行くって何か変な気分だ」と笑いながらファンガスに会いに来たのは小此木・亮太。鳳凰寺・龍也は座ったまま動かず、ファンガスの好きにさせてやることにする。
 壁画をゆっくりと眺めながら近寄ってきたファンガスを刀隠・剏摩は腕に乗せた。
「御前が来訪者ファンガスと言うモノか……。俺の身体に宿る前に暫く共に見て回らないか? 御前たちと古の人々との歴史を聞かせて欲しい」
 友だちになりたいという雪之下・香子の挨拶と気持ちを受け、ファンガスは誰かの真似なのだろう。くにゃりとまるで頭を下げるように身体を曲げた。こんな簡単なことでファンガスたちの力になれるなら喜んでと参加を決めた香子。来て良かったと思った。
 その隣で、同じ結社の石動・葛馬は、今後の創作活動のネタにとせっせと壁画の文章などを書き止め熟考していた。「何か少しでも意味の読み解けるものがあればいいんですが。生憎推理小説は得意分野じゃないんですよね」
 洞窟も楽しめて新たな友にも会えて、三國・又兵衛は今日はいい日だとしみじみ思う。相棒となるファンガスに「これからよろしく」と握手を求めた。ファンガスは身体を伸ばして又兵衛の手に触れただけだったが、そこは気分。
「そーれ!」
 御桜・八重は白燐蟲を解放し、照明を兼ねて乱舞させた。その光で天井に浮かび上がるファンガス。
「ファンガスって食べられるのかな……?」
 呟いたのはミラノ・グリフ。ミラノは旅の前にケガをしてしまったが、それでもしっかりとファンガスを探していた。
「奴ら好奇心旺盛らしいし、物珍しくて寄ってくるんじゃねぇか?」
 アルベド・ホロスコープがくすりと笑う。3人の見ている前で、光に近づいたファンガスがおずおずと身体の一部を伸ばし、そしてピクリと引っ込めた。
「か、かわいい〜〜!」
 興奮する八重。アルベドは白燐蟲とファンガスではどちらの方が白いのか気になっていたが、今ので同じぐらい白さだとわかった。
 壁画を前に、美術の成績だけは良かった川瀬・彩里はメモしておこうと筆記用具を取り出した。集中して鉛筆を走らせていると、つんつんと誰かに肩をつつかれる。
「あ、今集中してるから邪魔しないで」
 言ったのにやめてくれないそちらを振り向いて一喝――。
「邪魔しないでって言ってるで……なんだ、ファンガスか。……ファンガス!?」
 ――しかけて、鉛筆を取り落とした。

 ファンガスがどういうものかと楽しみにしている、結社『サテンの空』でやって来た津田・えいな、叢・空、一・景の3人。「もしかしたらアイヌの神話にもファンガスのことがあったりして」などと話しながら奥へとやって来た。そこにいたのは鈴なりのファンガス!
「……かわいい……」
 手のひらの上のファンガスを撫でながら、ぽや〜と照れているのは空。えいなはヒーローポーズを決めてみたりして積極的に遊んでいる。景は自身で「こんな感じ」とポーズを見せ、何とか好きなチェスの駒の形を取ってもらうことに成功した。
 3人の中で一番手こずっていた景は、嬉しくなって挨拶をした。
「……僕の『ポーン』。これから、よろしくね」
 その後ろで、天明・光が鈴なりのファンガスたちを眺めていた。滅多に見られない光景だからと、しばらくの間眺めている。
「つーかこれがファンガスか……マジでいっぱいいんのなー」
 笑いながら、リサ・ヤマモトはマザーグースの歌を口ずさんだ。それに合わせてファンガスがぴょんぴょん跳ねる。「気が合いそうだな!」と、リサはこいつに身体を貸してやろうとそのファンガスを肩に乗せた。
 そこへ現れたのは着ぐるみ姿のティ・ローズ。リサの後を継ぐようにファンガスたちに歌って一緒に踊り始める。
「淡い恋なら……♪」
 ティが一息ついたところで、「これがファンガスさんですか……では一曲」とさらに入れ替わるように文殊院・一穂がポップスを歌い出す。リサとティの歌で暖まっていたこともあって、いい感じに声が伸びる。悦んでくれているようなら、帰る時間までずっと歌おうと一穂は決めた。

「私と同じくお昼寝が大好きで、おっちょこちょいな子はいないー?」
 月館・影嚮はトンボの目を回すがごとく人差し指を回しながら聞いてみる。トンボじゃないけど、とレモン・ブラムレオンも一緒にクルクル。ロビン・シャーウッドも人差し指を回し始める。「オレはロビン、よろしく♪」。ファンガスたちは指に合わせて伸ばした身体を動かした。
「これは……かわいいですね……」
 人に見られるのは少し恥ずかしいからと、志戸坂・和希は人目を盗んでファンガスにほお擦り。
 結社のみんなに見せたいからと、倉巳・宗慈はルファ・クローゼに壁画の撮影とスケッチを頼んで、自身はメモを取っていた。ふと気がつくと、ルファが走らせる鉛筆に合わせて1体のファンガスが木切れを動かしている。宗慈は手を差し伸べて言った。
「ウチで良ければ一緒に来る?」
「私たち銀誓館学園一同を歓迎して頂けたら幸いなのですけれども。ふふふ」
 近づいてきたファンガスに手を差し出し、夜叉小路・稀乃は親愛の情を伝えてみる。
 守山・真矢は、みんなで食べようとお菓子は多めに、ファンガスは何を食べるか分からなかったためとりあえずハーブを持ってきた。
「こんなに広いと かくれんぼしたいなぁ…………しよっか♪」
 思いつきでしゃべって、自分に向けられた鋭い視線にユーミャ・アスティアは「うそ! じょーだん!!」と慌ててごまかす。怒られる前に壁の絵をみて キノコの数を数えて遊ぼうと提案した。
 ユーミャの手を離さないようにしっかりと握っているのはカール・アスティア。共にユーミャと手をつなぐ守山・真矢が振り回されないよう気を遣いつつ、冒険気分を満喫する。
 そんな3人の姿を後ろから保護者のごとく見守る小野寺・零路。しかしファンガスを見つけ、すっかりそちらに夢中。うっとりとその場にしゃがみこんだ。
(「……やっぱりキノコはいいなぁ……キノコ・ラヴ……」)
 九頭龍・玄夜の視界の隅に、洞窟の一部からもれ入ってくる日の光が見えた。どうやら外部につながっているらしい。そして、そこを覗き込む好奇心旺盛なファンガスが外へ転げ落ちようとする姿も!
 群生地の外に出てしまう。慌てて手を伸ばした玄夜はなんとか掴むことに成功する。戻って来いという玄夜の強烈な思いを感じ取ったのか、そのファンガスはのたのたと腕を伝って玄夜の頭の上にどっかりと居座った。

 ファンガスと会話できないのは残念だけど、代わりにじっくり彼らを観察しようと鷺宮・礼呼。彼らが何に興味を持ち、何を恐れ、何を大切にするのか。行動は言葉よりも雄弁なはずだから。
 明王活殺の開祖が望んだ共存の道。つないでいくのが自分たちの使命と、迅・正流と榊・那岐。
 洞窟内の記録はしっかりと取りつつ、洞窟から出て行こうとする子株のファンガスに目を光らせる。「勝手に出てはだめだよ? 行くなら僕たちに宿ってからね?」
 宿す気で来ているのだから、堂々と宿って下さいと、那岐は好奇心旺盛なそのファンガスを肩の上に乗せて連れ歩いた。
「深き白の先に眠る力――お伽話でありきたりなワンシーンだが、その力が多数存在することが異なる点か」
 玖堂・統夜は思わず嘲弄混じりの笑みを口元に浮かべた。そっと片手を上に掲げ、周囲のファンガスたちに呼びかける。
「来い、ファンガス。俺の身体を寄り代に、そしてお前たちの力を俺に貸してくれ――」
 洞窟内の開けた場所でファンガスに語りかけるように、朝闇・雅は己の武器たる日本刀を静かに、流れるように振るった。ただ黙して語らず、言葉ではなく己の剣で信念を示す。その思いを感じ取ったのか、ファンガスたちは雅の行動を身体を動かさず見守り続けた。
「どこにいるんだろうね、ファンガスは」
「気をつけろ。奴は未知の存在なんだからな」
 子供のようにはしゃいでいるのは風宮・裕理子。その隣で警戒を怠らないのは風宮・愁司だ。
 洞窟内を進んでいると、裕理子の肩にいつの間にかちょこんとファンガスが乗っかっていた。
「あぁっ……か、かわいい!」
「……」
 懐いたファンガスに愁司は複雑な気分だ。少し悔しそうな切なそうな表情をしてしまい顔を背けた。
 帰るころになって、裕理子が愁司の頭を指差した。鏡を見ると頭の上にファンガスが。
「……なっ! ……お前っ」
 少し焦るが裕理子が可愛がっているので、少し笑って共存を許す愁司。
「ふふっ……やっぱり愁司は優しい人だものね。お前には分かるのかな?」

●帰りしな 〜洞窟
 洞窟内は昼夜がわからない。時間を忘れて探索をしていたものも多かった。
 生粋の学者肌のベイト・スィクアークは、ファンガスを調べに来たはずが、洞窟内の暗号や絵に好奇心が逸れて解読作業に熱中。気づいたときにはもう帰る時間になっていた。急ぎ片付けていると、道具の金属部分に映る自分の姿に違和感が。頭のてっぺんに白い塊が乗っかっていた。
 帰りの時間になって呼び出しを受けた鈴城・有斗は、洞窟の入口の近くで先に帰っている人を追いかけているように見えたファンガスに気づいた。
「お前、外に行きたいのか? ……なんなら、俺についてくるか?」
 ぴょこんぴょこんと跳ねるファンガス。
 喜んでいると思った有斗は、そのファンガスを連れ帰ることにした。
「ふー、ちょっと疲れたけどものすごく興味深い場所だったな……あれ?」
 ふと、南城・霧冶は気づいた。そういえばサキュバスの蘇芳はどこに行っちゃったんだろう……?
「私たちは戦いに敗れることにより、自分たちを己のおかれている状況を理解するにいたりました。破壊は創造への近道ですが、戦いのない世界がやってくる事を願っています……」
 有栖川・美津海は心の中でつぶやいた。
 洞内ではダメかなと迷いつつ、最後まで撮れずにいたアリスティド。帰り際に「1枚撮っていいですか?」と明生・芙美が声をかけた。愛用のデジタルカメラをかまえて壁画を撮っている。気を利かせたアリスティドが移動する前にパシャリ。
「撮っちゃいました、すみません。あっ、急がなきゃ!」と芙美は洞窟の外へと駆けて行った。
 洞窟を出たところで記念に写真を撮ってもらう者たちの姿が数多く見られた。来洞記念と探検記念のどちらもを兼ねた写真は、能力者たちの記録の1ページに添えられるのだろう。

●雪原に向かって
 春の暖かさだが、それはあくまでこの地域としては、だ。気温は日中でも10℃に届けば暖かいほう。防寒具があってもまだまだ寒い。ただ、4月に入り一気に気温が上がったため、野生動物たちの活動も活発になってきた。山裾あたりでは根雪もずいぶんと溶け、春の野の草が顔を覗かせている。能力者たちは山裾から頂上へと移り変わる山の様相を楽しみながら雪原を目指していた。

「やって来たで、北海道! そしてカムイ……なんやっけ?」
 いきなり目的地を忘れたっぽい中川・始。先頭寄りを歩いているだけに若干不安がよぎる。
「とりあえず山に来た時の定番の……ヤッホー!」
「山に来たらまずこれだよな! やっほおおぅ!」
 2人して叫んでいるのは七転・火蜂と九戸・政美。叫んだあと、周りから静かにするように注意されていた。ちなみに山彦はちゃんと返ってきた。
「わぁ……4月なのにまだ雪があるのですね……」
 さすがは北海道、北国なんだなあとミリア・シルフィストは思う。
 そういえば在原家の実家に顔出す以外の理由で北海道に戻るのは初めてだと、在原・涼夜。だが雪原と聞いても、師匠とやった『雪上を素早く走る訓練』とかしか思い出せなくてちょっとへこんだ。
 久しぶりの雪の中だと、雪女の朝露・雪華は嬉しくなって薄着で大はしゃぎしていた。
「真っ白でもわもわ……まるでシロちゃんのようね」
 身体に宿る白燐蟲に向かい、美咲・牡丹はうっとりと話しかけた。
「そろそろ、貴方にも友達とか嫁とか婿みたいな子が必要だと思うのよ。良い子がいたら、お持ち帰りしましょうね」
 ファンガスと雪原で遊んでみたいと鴉颯・霧歌。雪で遊ぶのも久しぶりだし、一日思い切り楽しませてもらおうと考えていた。
 楡崎・洋子はファンガスを調べてみたくて参加した。すでに学園の方である程度調査済みらしいが個人的に調べてみたいのだ。
「スキーにゃ。かににゃ。おいちぃ〜ごはんにゃよ!」
 佐藤・光の心は、カニと海鮮どんぶり、塩キャラメルを食べることに埋め尽くされているようだ。幸豊かな北海道だし、しょうがないことなのかもしれない。
 最近戦争ばかりだったから、久しぶりにのんびりしたいかなと天道・強司は思う。
(「ファンガスと同じように、ほかの来訪者とも共存できたらいいのに……」)
 真っ白でもわもわだなんて、もう妖精だとしか思えないと白峰・雪華。群生地ということは、きっと辺り一面がふっわふわのもっこもこの天国みたいなところに違いない。「この目で楽園が見られるだなんて……はうぅ、楽しみすぎて夜も眠れません!」
 早くファンガスに会いたいと雪華は山を登っていった。

●ウィンタースポーツを楽しむ 〜エッジを効かせて
 パウダースノウの雪原は一面真っ白。晴れ渡った空から降り注ぐ陽光を受けキラキラと眩しい。
 視界を遮るものはほとんどなく、すばらしい見晴らしだ。身を寄せるようにして群生する木立の陰には、ちらほらと野生の動物の姿も見える。
 山盛りのウィンタースポーツ用品に手を伸ばす者もいれば、せっせせっせと雪玉を作る者もいる。
 みんな、思い思いに今年最後となるであろう雪山を堪能していた――。

「世に知られたすべてのスポーツを網羅したアタシは文字どおり雪原の豹!」
「ふっふっふ。雪女である私にはここはホームなのですよ」
 明生・芙美が用意したウィンタースポーツ用品と共にダンボールの中から登場したのは、仙道・水樹。氷室・朱音は雪を背景に不敵な笑みを浮かべている。
「芙美ねーちゃん、スノボある? スノボ!!」
 はい、と渡されさっそく身につけた神代・望月。大はしゃぎでコブをジャンプした。
 桜・陽姫も目的はスノーボード。じゃーん! と取り出したのは持参の板だ。
「せっかく遠くまで来たんだし楽しまなくちゃ損損♪」
 人懐っこいファンガス。楽しんでいたら、きっと自分と相性の良い子が自然とそばに来てくれるだろうからと陽姫はいそいそと板を準備して滑り出した。
 スキーもスノーボードもやったことがないから楽しみだと天元寺・麻優里。せっかくだからと、エクセル・カーリムはスノーボードを手に取った。
「ウィンタースポーツ用品というとソリもあるのかな?」
 赤いプラスチック製のソリを取り出し、倉田・巴に渡す芙美。
「リュージュやスケルトンとかもできるんでしょうかー?」
「コースはないけど、競技用のソリならありますよ♪」
 新堂・きゃべつの問いかけに、芙美はにこやかに道具を取り出した。
「……芙美さん、ここ高くありませんか?」
 三日月・月代は恨めしげに眼鏡の芙美を見る。それでも覚悟を決めて、月代は頭の上に「おちないでくださいね」とファンガスを乗せる。
 落ちると見つけるのが大変だからとファンガスにお願いしてスキー開始。そして案の定転がった。

 雪原は手入れはされていないがとにかく広い。多少は滑りにくいが、能力者たちは好きな場所を選んで滑っていく。
 スノーモービルを駆るのは楡崎・洋子。すでに学園の方である程度調査済みだが、個人的にファンガスを調べたくてやって来た。雪原を調べるついでにスポーツを楽しんでいる。
 共にこのツアーに参加した、三笠家の親戚一同。保護者代わりの中村・晄は、スノーボードを小脇に、かいがいしく従兄妹たちの面倒を見ていた。
「むぃ? 私は大丈夫〜。晄兄はほかの子みてあげて〜」
「ぇう……えっと……滑れないです……」
 上手にすいっと滑るは三笠・瑠琉。その横を御神・更紗がよろよろとボーゲンで滑って行く。
 滑る前に高い場所から景色を撮っておこうと、天海・真深は携帯を構えた。
「いや〜、こういうのって初めてっスけど楽しいっスよね!」
 スノーボードにスキーと運動が得意な月影・胡桃はいろいろとチャレンジしている。
 岡崎・朋也とワイズ・ウィシュターリアスは、スノーボードで技の対決。コブを利用して、720とか決めている。渡会・灯里も華麗な技を披露していた。
 依頼で雪原に来たことはあるけど、ウィンタースポーツは初めてと夜船・静流。初心者らしくスキーを楽しむつもりだ。本当はボードもやってみたいが順番というものがある気がするから。
 今シーズンは1回しか滑れなかったから楽しみだったんだと綾織・みつき。
 スノーボードを身につけながら麻生・空は、慣れた様子で板を履くフランレーゼ・オフホワイトに「雪のある場所で遊んだこととかほとんどないから、今日は楽しみだったんよ!」と声をかけた。転んだときを想像しているのか、カラ元気が見え隠れしている。
 そんな空の態度から、どうやら自信がないみたいと感じ取ったフランレーゼ。いろいろ教えてあげることにした。「滑れるようになったら冬がもっと楽しくなるかもしれないよ♪」
 せっかく北海道に来たのだからウインタースポーツを楽しもうと斎木・紫苑。格闘修行している身だ。この程度ならとがんばってみたが――。
「……ぬ、お? ぬわーーー!!」
 スノーボードの練習で盛大にずっこけた。その後何度もずっこけては生傷を作る紫苑。同じく転がってばかりいるジーン・ルドラは、来シーズンには上手になりたいと思った。
 時雨・時唯も自分のふるさとは雪は降るが滑ることができるような場所はなかったからと初挑戦。全身で滑って、雪だるまになることを繰り返した。もう転ぶのにも慣れたと思ったとき、嫌な感じで藪に突っ込んでグキリと膝を痛めてしまう。しかし時唯はファイアフォックス。どんなケガだって太陽再生で元気になれるのだ!
「ファイアフォックスの真価を……へふしっ」

「あんまり乾燥したところへ行けなくなるとかそんなことねぇよな?」
 ファンガスを身に宿す前に、柳本・和馬はいろいろと心配になってきた。キノコ系食べようとすると、手が動かなくなって食べられないとかも困る。考えすぎて頭がこんがらがってしまう。
「考えるのはやめやめっ、そうなったらなっただ! とりあえず今はスポーツを楽しみまくる!」
 和馬は芙美にスキーとスノーボードの両方を借りに向かった。
 とっさの判断力と反射神経を鍛えるため、フレッド・ナイトスカーは原生林の中をスノーボードで滑っている。群生する木々の間をどこまで行けるか挑戦中なのだ。
 敷武・雷はついおせっかいで、初心者にスキー・スノーボード講習会を始めていた。スノーボードが得意な西向・劉一も講師として加わる。不慣れで教えてくれる人を探していた川上・透は喜んで講習会に参加した。
「この冷たい風が気っ持ちいーんだよな」とTシャツ1枚でスキーをしていた雪女の上村・奈緒美は、この講習会の横を滑走するたび気になっていた。スキーに慣れたせいで、奈緒美はスノーボードがまるでできないのだ。怖いけどできるようになりたいから、勇気を出し講習を申し込んだ。
「うっはー、雪遊びなど初めてであります!」
 物心ついたときから軍隊にいたミュル・ドレッキヒは雪遊びなどはしたことがなかった。そこでまずはスキーを装備してスキーを堪能。勉強(体育)の才能をフル活用し、メキメキと上達、初めは雪だるまになっていたのに、帰るころにはそこそこ滑れるようになっていた。
「しかしこんな風に遊んでいるだけでファンガスさんはちゃんとうまくくっつくのでありましょうか?」
 ちょっとだけ不安になったミュルの肩には、ちゃんとファンガスが乗っかっていた。
 持参したスノーボードで滑りまわるのは瀬戸口・冬馬。木々の間を華麗に避けながら滑りまわったり、木にぶつかっては木の上から落ちてきた雪に埋もれまくってみたりした。

「普段は私のほうがドジですが、今日はそれを封印ですわよ」
 ウインタースポーツには自信がある名雪・舞矢は、宣言どおり颯爽とスキーを滑っている。その隣で、いつもは逆の立場の緋薙・悠が、板も靴もストックもみんなバラバラに放り出すという芸術的なこけ方をして雪原に倒れていた。
 尻餅をついている悠に手を貸してあげながら、舞矢はちょっとだけいい気になる。
「仕方ありません。雪女たる私が手取り足取り基本から教えて差し上げましょう」
 スキーを借りた香月・風音。スノーボードはどうかと聞かれて、「あれはその、苦手っていうか……」とごにょごにょ口ごもる。風音は両足が別々に動かせないのが、どうも変な感じがして苦手なのだ。
「柚木はスキーをするみたいだから、僕はスノーボードでもしようかな」
 そう言って板を手に取ったのは夜桜・雅。言われた蒼沢・柚木はもう準備を整えて滑り出していた。
「うむ、楽しいのじゃ♪」
「温泉上がってパジャマを着るのは一般人。洞窟の中をパジャマ姿で練り歩くのはよく訓練された一般人。雪原はホント地獄だぜフーハハー!」
 ピンクの熊パジャマに赤いマント姿。桐生院・クリスは、仁王立ちでスノーボードを楽しんでいた。
「俺、スノボしてみたい〜!」とヴァイ・シュトーレン。共に来ていた2人もヴァイも初心者だが、何とかなると板を借り、遊んでみた。
 ヴァイは派手に転んで、突き出てた岩に頭をぶつけてもご機嫌で、「あはは! スノボって楽しいな〜!」と笑っている。一方、板を見てもわからない風花・雪愛は上に乗って、誰かが何かをしてくれるのを待っていた。壱柳・言翅もちんぷんかんぷんだったが、ヴァイの動きを見て何をするものかは理解。何となく立てたぐらいの段階で、ヴァイに滑れるなら勝負をしようと言われてしまった。
 よくはわからないが、「勝負を挑まれたら男としては受けるしかない!」とスタート。当然滑ることなどできず、言翅は激しく転倒。雪を巻き込みながら滑り落ちていく。
 初めてのスキーに挑戦しながら黒依・彰人は思っていた。スキーってこけて転がって雪だるま化してるなんてマンガが良くあるけど、実際にそうなってる人なんていないよね。そう思った瞬間、目の前をゴロゴロと白く丸い雪だるま状態になった壱柳・言翅が転がっていった。
「……世の中って広いなぁ」

 スノーボードを始めた来々々・往人。いまいちスリルが足りないと加速した。
「……おぉ、やっぱこうでなくちゃな!」
 もう少しスピードを上げようとして加減を間違えた。そして迫ってくるのは奈落へと続きそうな崖。
「あいきゃんふらーい!」
 終わった。オレの人生終わった。――どんがらばっしゃーん!
 往人は湯滝まで落ちていき、水着姿の女生徒に鉄拳を食らったという。
「わわっ、こ、これなれるまですごい難しいっ。と、とまらないーーっ!?」
 スノーボードを一度やってみたかったと新城・真理。悲鳴を残して彼方へと消えていった。
 そんな真理とはうらはらに、初心者と思えないほど順応して滑りこなしているのは夏川・花梨。木立に目を向ける余裕さえあるようだ。
「あれっー? あの木の陰にキツネがいるねっー、可愛いなっ」
 ソリで転倒し、雪まみれになったアルビナ・フォルトナウ。偶然頭の上に落ちてきたファンガスと共生し、よろよろとみんなが集まっている方へと戻っていった。が、全身雪で真っ白な姿に、何か怪しいものではないかと誤解されてしまう。
「違う……私……怪しいものなんかじゃない……」
 初スキーに挑戦する杉原・伊織。エアシューズと違う感触に、何度でも転んで雪まみれになる。
 神崎・都和子は女の子にウィンタースポーツを手とり足とり腰とり教えてナンパ。
「そうそう上手よ。それじゃあ、人気のない向こうまで滑ってみましょうか?」
 雪の感触を確かめ、布袋・葵は雪がふかふかで滑りにくそうだと思った。ほかの人たちが滑ったその轍を利用させてもらおう。こんなところでケガでもしたら大変だ。
 その横をとりあえずスピード命で楽しむ新山・沙織が滑り降りていく。
 切札・正義は天才的なスキーのテクニックであちこちに黄色い声援を轟かせてやるつもりだった。
「ふ……どうだい? 惚れたか……あれ? か、加速が止まらんのですが!?」
 同じくスキーなら多少の心得はあるから楽勝と、急斜面へ向かった出葉・柊。
「――って、うおぉぉ!?」
 やはりというか正義と柊のどちらも豪快にコースアウト。途中で思いっきり転んで、大型の雪玉になりつつ下まで落ちていく。正義が巻き込んだ雪の中には数体のファンガスがいたようだ。気がつくと、まるで好きなアイドルを追いかけるファンのように、我先にと正義の頭に群がった
 柊も無様に埋もれた身体をひっぱりだしていたら、ふわりと白いモノが舞い落ちてくる。
「つつ……ん? ―――よお。ははは、格好悪いところ見せたな」
 苦笑しながら、柊はそのファンガスへと手を伸ばした。

 寒冷適応で寒さは平気と雪村・光は、丈の短い白い着物に白い狐のような耳とつけ尻尾姿でスキー。滑りながら、ファンガスとはどんなキノコなんだろうと期待で胸を膨らませていた。
 スノーボードで滑りつつ、矢田・柊子は野生動物を探していた。キタキツネにエゾユキウサギなど北海道ならではの動物たちの姿にドキドキ。その後ろに見えたヒグマに別の意味でドキドキした。
 移動の事も考えて、ショートスキーを借りた明空・萩吾。空いた両手で得意の風景写真をカメラに納める。ただ、雪に紛れた白いファンガスを轢いたりしないのかだけが心配だった。そんな萩吾の横を、身体をスキーの板のように薄っぺらく変形させたファンガスたちが連なって滑って行った。
 七転・火蜂と九戸・政美は宿す予定のファンガスを頭に乗せて、スキーVSスノーボードで競争をすることにした。
「政美ちゃん。スノボよりもスキーの方が速度は出るのよー」
「御託は知らん、勝負だー! 行くぞ、マタン吾!」
 不敵に笑う火蜂は当然スキー。ファンガスにさっそく名前をつけて呼んだ政美はスノーボードでスタート。抜きつ抜かれつの好勝負……かと思いきや。
「ふっふっふ、この勝負もらっ……ってギャー速いー!?」
 スピードを出しすぎコントロールしきれなくなって火蜂がコースアウト。結果は当然政美が勝利した。
 ウィンタースポーツ初体験のリーリィ・デロンギ。スノーボードなら教えてやるという雲乗・風斗の申し出を、負けず嫌いの性格ゆえ断ってしまい、ゴロンゴロンと転がりまくっていた。
 今更教えてというのも恥ずかしくて、リーリィは「転んだ時の練習をしてるんだ」と言ってごまかす。そんなリーリィの性格を知っている風斗は、わざとらしくため息をつきながら助け起こしてあげた。
 手を差し伸ばされたら、素直にならなかった自分が悪いんだとリーリィは思い直した。
「……ありがとう」
 小さく呟いて風斗の手を取った。

 普段雪に縁のない地域に住んでいると、雪原にいるだけでワクワクしてしまうと朝霞・志乃。
 ファンガスと共生したあと、花岬・雅弥は得意のノルディックスキーを始めた。
「さあ! 雪原をひとっ走りしてきますかねい! 歩くスキーで!」
 1人で滑るのは寂しいからと、ファンガスたちを肩に乗せたり胸ポケットに入れて一緒に滑る水沢・春。ボード初心者だけど、自分がケガをしたとしてもファンガスたちがケガしないように気をつけると約束して滑走スタート。約束どおり、ファンガスは春の両腕に護られて無事だった。滑落し目を回した春の頭の上で、ヒヨコがピヨピヨ飛んでいたけれど。
「もー一人でさっさか行かないでよぉー……ボクいちおう初心者なんだからねっ!」
 1人颯爽と滑っていく連れに空廼・夏夜は大声で呼びかけた。久しぶりに兄妹だけなのだから、もうちょっとかまって欲しいのだ。
「っと、悪い悪い。ほったらかしだったな」
 空廼・嵐は夏夜が追いついてくるのを待った。明後日の方向に滑っていかないように見てないとダメだったのを忘れていた。嵐が夏夜の滑りを見てあげたながら、2人で滑り直す。
「ねー嵐、ボク少しは上手くなったかな?」
 しばらくして夏夜が尋ねる。
「ん、うまくなってきたな」
 嵐は夏夜の頭を撫でてやった。そういえば頭を撫でるのは久しぶりだと、嵐は思った。

 揃って華麗にスノーボードでジャンプを決めているのは、結社『放課後の秘密基地』の3人。この日のために、熱雷・風司が教えて事前に練習をしてきたのだ!
「あはは、楽し〜い☆」
 風に乗って気持ちよさそうな野村・さやか。御灯・勇騎はスピード感とキラキラの雪に気分も爽快とご機嫌。雪しぶきがまるでダイヤモンドダストのようで気分最高と風司。
 たとえ転んだって楽しい。3人はどんどんテクニックを上げながら、滑り続けた。
 ここにコースはないが、冬木・誠一郎はすべてのルートを制覇する勢いでスキーを滑っていた。その近くを、「やはりウインタースポーツといえば北海道だな★」と、ご機嫌で北靈院・雪儺がスノーボードで滑走していく。我流だがさまになっている雪儺は、見た感じ今はフリーっぽい。可愛い子と一緒のほうが楽しいからと、誠一郎は雪儺に一緒に滑ろうと声をかけた。
「どれくらい滑れるんですか?」
 小鳥遊・結が同じ結社『第三の月』の神無月・神子に尋ねたところ、返事は「十分に」とのこと。それならばと、お昼ごはんのカレーライスを賭けて勝負をすることになった。
「さてさて、腕前的には互角っぽいけど、どうかしらね」
「勝っても負けても恨みっこなしですよ」
 ゴーグルを着け、スタート! 双葉・清香と仁科・聖は滑走する二人に声援を送る。ゴール近くでは、神苑・恵が雪だるまを作って待っていた。
 来て早々にファンガスを見つけた鬼灯・ムウミは、板の先にファンガスを乗せて、一緒にスノーボードを楽しんでいる。山本・真海もファンガスと一緒にスキー。林の中を滑りながら、キタキツネやエゾユキウサギを捜索。緋衣咲・アレイアは安全速度を無視してスキーで滑りまくっていた。
「実は初めてなんだよねー♪」
 スキー板を足にセット、ストックをしっかり持って、天宮・妃那は勢いよく滑り降りた。
「……って、あれ!? 止まれないよぅー!」
 どこかで誰かが当然だと言った気がしたが、妃那はそのまま小さな雪山に突っ込んでしまった。
「イタタ……これでファンガス逃げちゃったりしないよねー?」
 心配する妃那の周りでファンガスたちが、小山にぶつかってどーん! 真似していた。
 マニュアルどおりにスキーを履いて、高峰・勇は歩いてボーゲンの練習をする。ふと景色に目を奪われていたら、後ろからぶつかってきた誰かに押されて3メートルほど転落。でも下はふかふかな雪だったのでケガはしなかった。
「うおぉ、雪ってすげえぞ!」
 せっかくなので、そこに記念の雪だるまを作って「俺、参上!」と銘を刻んだ。
 ジェニファー・ラングストンは、北海道の風景やスキーに興じているみんなの様子を携帯電話で撮っていた。許可をもらってHPに載せるつもりなのだ。「手、離さないでくださいね?」
 転ばないよう手を持ってもらいながらスキーの感触を掴んでいるのは香坂・亜実。亜実に足取り丁寧に教えているのは、親友の久利・那波だ。
 弱音やあきらめなどは基本的に許さない那波の教えのおかげで、亜実はメキメキと上達。2人で思いっきり雪山でのスキーを楽しんだ。
「しょうがないわね、私でよかったらコーチしてあげるわ。私のことは錐子コーチと呼びなさい」
 植松・弾がスノーボード初心者と聞き、井田・錐子は言い放つ。
「は? コーチって呼べ? ったく、しょーがねーなあ」
 そう言いつつも受け入れる弾の様子は嬉しそうだ。ときおり、「おいコーチちょっとパン買ってこいよ」とか言ってしまい怒られている。
 錐子の教え方がうまいのか、弾の運動神経の賜物か。恐らくどちらもだろう。じきに弾も滑れるようになった。しかし、慣れたと思ったときが一番危ないときで――。
「やべ、止まんね! うぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃいいいいいい!」

 家にお邪魔してるようなものだからと、現地についてすぐ、羽角・ひなたはファンガスを見つけて挨拶をした。頭の上に乗せて一緒にスキーを楽しむ。ファンガスも疾走感を気に入ってくれたらしい。リフトがないから滑り降りたあとがキツイが、がんばって何度も雪原を登る。
 一緒に来た壷居・馨はスノーボードを持参。ハーフパイプがあると嬉しいと探したが見当たらなかったので、雪崩を警戒しつつ共に滑走を楽しんだ。
「ファンガスも大事だけども、せっかくだし、みんなで滑ったりしようぜ?」
 黒瀬・和真の提案に、一緒に来ていた結社『Under the Same Sky』の面々が頷く。
「柏木はそつなく何でもこなせそうなイメージだよな」
 スノーボードを手に取りながら、音衣・蓮真は柏木・リクに尋ねる。
「そうだね、オレは華麗に滑っちゃうよ〜」
「ふふ。何を隠そうこのボクは、スノボなんて一度たりともやったこと、ないんだよ……!」
 余裕綽々のリクの横でリオン・テイラーが宣言する。
 全員で滑り始めたが、案の定リオンは転倒しどおしだった。そんな中、リオンが数回転んだあとで、気づいた。リオンが転がるのに合わせて、そばの雪が妙にはねている。
(「ひょっとしてファンガスがボクの真似をしてる……?」)
 屈辱にふるふる震えながら、リオンは「今日中に絶対、しゅーって滑れるように、なるからね!」と誓った。
「実に……いい雪だ」
 今シーズンの締めとしては十分すぎるくらいだと、蒼波・浅葱は心ゆくまでスキーを楽しんだ。
 神塵・庚は、用意されたウィンタースポーツ用品の中から、タイヤのない自転車のような形をした、スノースクートを取り出した。さっそうと跨り、雪原を滑り降りて行く。
「道具用意してくれた芙美には感謝しとかないと」とスキーを身につけた峰連・要も、思いっきり遊んでいこうと滑り出した。
「……ファンガス、白いんだっけ? 見つけられると良いなぁ……」
 久々に滑ろうと、セクエンツィア・ルーフィスはスノーボードを手に取った。白いもこもこも気になるところだけれど……見落としませんように。
 梶原・沙紀は盟友の浅葱・悠とスノーボードで勝負をしていた。いつもは協力して戦っているが今日は別。スピードの沙紀、テクニックの悠といった勝負に周囲から歓声が上がる。
 決着がついたあと、「競争やるんやったらうちも参加♪」とスノーボード片手に声を上げたのは四月一日・蒼星。自信のあった星祭・祭莉もスノーボードで手を上げる。新たな勝負が始まった。
 初めての雪原にはしゃいでいた柊・刀は、憧れのウィンタースポーツ、スキーにも挑んでみた。知識も経験も0なのに勢いよく滑り出す姿は天晴れだが――。
「あれ、スキーってどこにブレーキが……あわわわわっ!」
 回避が間に合わず、木に突撃した。さらにドサドサと上の雪が落ちてきて生き埋め状態。慌てた周りの人に掘り出してもらっていた。
「世界結界には負けちゃうみたいだけど、寒さや暑さは平気なのかしら?」
 ファンガスを肩に乗せたリヴァル・ローレンスは、共にスキーを楽しみながらふと思った。
(「何となく暖かくて湿った所が好きそうなイメージ。ここみたいな温泉のそばとか、丁度良さそうよね」)
「いぃぃぃやっほぉぉぉぃ!」
 ご機嫌でショートスキーを楽しむのは月詠・優理。基本的なトリックを次々に決める。練習中の大技はせず、今日は遊ぶことに集中していた。
「って悠埜。おっせーんだよ〜はやくこいよ〜」
「早すぎだっつーの! 優理が早すぎなの、追いかける身にもなれよ……」
 スノーボードで追いかけながら、二海堂・悠埜はつい突っ込んでしまった。こっちは追いつくのに精一杯なのに。むしろどうやったらそんな速度が出るのか教えて欲しい。
「悠埜、お前ってば慎重すぎんだよ。だからチビなんだぞ」
「チビ関係ねーよ! お前が成長過程おかしいだけだろ! よこせよその成長速度……」
 テンポが悪くてつまらないとむくれる優理に、悠埜は言い返したものの、ちょっと哀しくなってきた。
「……いつか身長その他諸々、お前より上に行ってるからな」

●雪で遊ぼう!
「ゆーきー!」
 叫んで白銀の雪原にダイブするティエン・ファン。同じくダイブをしようとして、1番乗りを奪われたクロード・ニーズヘッグと一緒に悠希・黒羽も「雪だーーっ!」とはしゃいでいる。が、持ち物の白銀の宝石を失くしそうになってクロードは「ああっ、やべー……」と大慌て。黒羽はその横で、両手を両足をジタバタと動かして雪の妖精を作っていた。
 フィーネ・カルストレニアは人の通らない広い場所で、雪の上に寝そべって冷たさを味わっている。
「……雪って、何かこう、型つけたくなるー!!」
 ぼっふーと倒れ込み、雪に型をつけて遊ぶのは蘭・真矢。こうやって遊んでいるだけでファンガスがくっついてくるってヘンな感じと思いつつ、しっかり共生できるといいなあと笑う。
 雪だるまを作っている大きなシルクハット……もといシルクハットを被っている少年シリウス・マッドは、ここでファンガスたちを探すつもりらしい。「とりあえず雪では遊びたいよね……」
 鴻上・奈々は未踏の雪に足跡をたくさんつけて遊んでいた。遊ぶのに飽きた奈々は景色を眺め、将来はこんな風にきれいな景色が見れるところに住んでみたいなと、そんなことを思った。
「……雪……一杯……」
 たくさんの雪を初めて見たテン・ナンバーズ。何より雪だるまを楽しそうに熱心に作っている。
 斎姫・伽藍と氷桜・ひさめの2人は、人ごみを避け静かな場所で雪うさぎを作っていた。ひさめは笹の葉を裂いて耳を、南天の代わりにナナカマドの実で目を入れる。伽藍はやって来たファンガスたちで、雪だるまならぬファンガスだるまを作ってみた。喜ぶ伽藍の気持ちを感じ取ったのか、ファンガスたちもご機嫌のようだ。寒さなど気にならない楽しい1日となった。
「俺は胴体作るから、チビスケは頭作ってな」
「うん、鉄兄ちゃん」
 高屋敷・鉄平と言乃葉・伝は、せっせせっせと雪だるま作りに精を出していた。それが7割がたすんだところで、ふと思う。
(「それはそうとファンガスってどこにいるんだろ」)
 鉄平は大声で、「ファンガスやーい」と呼びかけてみた。その声に反応して、ざわりと雪だるま……と思っていたものが動く。
「……鉄兄ちゃん。ボクたちファンガスだるまを作っちゃった、の?」

「ゆ、雪が、たくさんなのです、よ! きれいです、ね!」
 大興奮で雪をのせた木々を見るのはミオン・ファーフィル。エゾノウサギを見つけたミシェル・ローデリックも大喜びだ。
「意外とハマるなこういうの作んの」
 力込めて握ってカチカチにした雪玉に、無理やり赤い実をはめ、雪うさぎを作っているのは坂城・祥。ここに集まっているのは結社『Junction−分岐点−』のメンバーだ。
 一緒にこれなかった団員分、団長の紅・十六夜もひたすら雪うさぎを作り続ける。その横でメリッサ・アンティリーズは、雪だるまアーマーを装着した団員の雪像を作っていた。
 人数分作れたところで記念撮影。メリッサのイタズラで、十六夜と祥の頭にはうさぎのつけ耳が乗っかっていた。
 雪が大好きな日向・冬華は、しばらくこの綺麗な雪を眺めていた。
(「来年は大好きなあの人と一緒に見れたら良いな」)
 今年の雪おさめになるだろうし、思いっきり楽しんで帰ろうと冬華は思う。
 雪うさぎを2羽作って、寄り添うように置いて眺めた。こんな風に、ずっと一緒により添えたらいい。また、大好きな人へと思いを馳せた。
 夜霞・華恋はこの季節の雪が嬉しくて雪だるまやカマクラを作っていた。だが仲間同士で楽しそうに何かを作っている声に、「やっぱり誰かと一緒にくればよかったなぁ」と小さなため息をついた。
 そんな華恋を見ていた綾乃・朔琅は、肩に乗ったファンガスにお願いしていた。人が集まっているときは地味な自分はいつも独りぼっちだ。賑やかであればあるほど惨めな気持ちだった、けど今は違う。友だちが作れそうな気がする。
(「学園に来たばかりの我がお友達を作る第一歩を踏み出す勇気。ファンガスさんファンガスさん、どうか、ください」)
「あ……いっしょに、遊びません、か……?」

 ほかの人は何を作っているのか気になる折原・花梨は、雪だるま用の雪玉を転がしながら、みんなが作っている雪像やカマクラを見て回った。
 リシティア・ローウェルの提案で雪だるまを作り始めた、結社『closed』とお友だちの面々。
 北海道の雪はサラサラで、黄金崎・燐はそのままで雪だるまを作るのは難しいと聞いていた。金属製のボウル2つを取り出し中に雪を詰め込み、合わせて芯となる雪玉を作る。八荻・こころもおしゃべりしながらそれを手伝った。
「そういえば、ファンガスさんはこの辺りにいるのでしょうか」
 燐の声にふと視線を上げれば、一同を見守るように集まってきたファンガスたちの姿が。
 向こうから寄ってくるとのことなので、リシティアと御薙・朔耶は雪だるま作りを続けた。雪玉をゴロゴロと転がして大きくしていく。朔耶はファンガスを巻き込まないよう、足下に気をつけた。
 サイズ違いの雪玉を作り、頭の方を御薙・和真と八神・久に乗せてもらう。乗せている途中で、久は自分の頭の上に、何かが乗っかっていることに気がついたが放っておいた。
「まぁ、どんな存在であれ仲良くできればそれに越したことはないからな」

 温度もほどよくいい天気と、雪女の釜崎・アイリーンは雪に沈み、掻き分けて進んでいた。たまには封印される前の昔を思い出して、カマクラでも作ってようと大スコップを持ち出す。
 数刻後、カマクラの中から呼びかけるアイリーンの姿。
「完成ですよー。みなさん、入りませんかー?」
 ロッジなど温かいところを探してさまよっていた里崎・都弥奈は、このカマクラにお邪魔して待ち伏せ大作戦を展開する。都弥奈はスキーウェアに身を包んだ美少女を見るのが好きで、迷惑にならない程度に眺めたりもしていた。
 スキーを堪能したあとカマクラを作った天宮・宗は、どこからともなく取り出した炬燵とドテラを着けて、水筒に淹れた熱いお茶を飲みながらくつろぎ始める。
「わーい、雪だよ雪ー♪ 雪だよ雪那ちゃん♪」
「うん、雪だね。雪音ちゃん」
 手を引っ張って雪原に飛び込む守山・雪音。引かれて飛び込んだ守山・雪那。雪が冷たくて心地いい。そのままゴロゴロと転がる2人。ファンガスたちも2人の真似をしてゴロゴロと転がっていた。
「雪が僕を呼んでいる〜!」
 波木井・直也は衝動に任せて、思いっきり雪だるまを作りまくっていた。10体作ったところで一休みがてら、雪だるまアーマーで11体目の雪だるまになって景色を眺める。それを見ていたファンガスも、自分の身体に雪をくっつけ始めた。直也の頭の上にのたのたと登って、ファンガス雪だるまになってたたずむ。
 白百合・美春もまた雪だるまを作っていた。完成後、その隣で自分も雪だるまアーマーを使って、雪だるまに。同じことを考える人がいないか目を光らせていた波木井・直也は美春に「やぁ同類!」と声をかけた。
 本業が雪女だから雪原の方にとヴィルヘルミーネ・タカナはやって来た。数も多いみたいだし、一斉にポコポコ出てきたりしたらすごい光景だろうとウキウキしながら、雪をすくって撒いてみたり、雪玉を転がして雪だるま作ったりしつつ、ファンガスを探した。
「よっしゃぁーー! 全長3メートルくらいの雪だるま作ろかぁーーー!」
 大声で叫んで、竜胆路・紡糸は雪玉を作り始めた。
 わっしゃわっしゃと雪を集めた白霄院・珠玖伽は、紡糸に負けないくらい大きなものを作ると心に決めた。数時間後、できあがったのはこちらも全長3メートルはあるごっつい雪だるま。それはすごい威圧オーラを放っていた。ちなみに髪型は、この世で最も勇気ある髪型だと珠玖伽が思っているバーコード。ふと振り返るとものすごくシュールな雪だるまがそこに鎮座していた――。
 せっかくこんなに雪があるのだからと、一条・凛も大きな雪ダルマを作ろうと声をかける。
「我輩が頭をつくるでありますゆえ、真祐ちゃんは胴体の担当でありますよ」
「大きな雪玉を作れば良いのだな? 了解した」
 鷹城・真祐斗は凛が喜んでいるようだし付き合おうと大きな雪玉を作り始めた。2人して作った雪玉を合体させてみたが……頭が若干大きくバランスが悪い。
「うう、大きく作りすぎたでありますぅ」
 それも味のある姿だと真祐斗がフォロー。でき上がった雪ダルマと並んで写真を撮った。

「こうだだっ広い雪原を見ると無性に走り回りたくなるな」
 そう呟くのは黒槌・紅丸。この場でしかできない画期的且つ効率的なトレーニングはないかと考察している。雪かきはどうかと思ったが、やる必要がない。そこで思いついた、カマクラだ!
 できあがった立派なカマクラの中で、紅丸はやってきたファンガスたちとお手玉をして戯れた。
 たくさん雪がないとできないから「カマクラ作りに挑戦!」と香坂・菜月も腕まくり。その隣では水平・夜が雪玉を量産し、それを使ってピラミッドを作っていた。一人のんびりと雪景色楽しみつつ雪うさぎを作っているのはレイア・セフィラ。佐藤・楓も1人で雪だるまをせっせと作っている。そんな楓のそばでエゾリスが走っていった。
 ファンガスと一緒に遊べたらいいなぁと思いつつ、雪だるまを作っていた山本・紗世。
(「でも、手のひらサイズのファンガスさん……どうやって雪だるま作るんだろ?」)
 そんな疑問を浮かべる紗世の隣で、紗世の作った雪だるまを見本に、自分たちの身体で雪だるまもどきを作り出すファンガスたち。
「♪ゆっきだ〜るまさんを、作りまっすの〜」
 適当な歌を歌いながらステラ・ハートは雪だるまを作り始めた。膝くらいの高さの雪だるまに、その辺で拾った棒などで顔や手を作る。最後に自分の手袋をはめて満足げ。
「♪も〜わも〜わさ〜んは、どんな子〜かな〜? 雪の景色に『もわもわさん』は隠れてますの〜?」
 キョロキョロと探してみるがわからない。そんなステラを、目の前の雪だるまに乗っかったファンガスが「ここ、ここ!」と主張するように跳ねていた。
 荒・片刃は、異様にどでかいモーラットの雪像を作っていた。
「毛の感じはもうちょっとこうぼてっとしてもふっとして……」とぺたぺた雪を盛り、「口はこう微笑んでいて少しきりっと……」とガリガリ削る。
 こだわりすぎて遅々として進まない片刃の作業を、周りで見ていた蓬莱寺・凪斗は帰るまでに終わるのだろうかと心配した。
 ヴァイローザ・アマネイタがその近くで、「雪ダルマというオブジェでも作ってみましょうか」と、友達のシャーマンズゴーストを真似て雪像を作っていた。

「北海道、広いなぁ……」
「全部雪……すごいですの、なの……」
 雪原の広さに少し感動しつつ、朝霧・由希と連翹・アルティナはファンガスを迎えにやって来た。
 由希は念のため雪崩などの危険がないか確認。安全そうな場所で、アルティナと一緒にファンガスくらいの大きさの雪だるまを作り始めた。
「ファンガス、興味を持ってくれるかな?」
「ちいちゃな雪だるま、難しいけど、楽しいですのなの……」
 大好きな由希と一緒なのも嬉しいし、雪の山で遊ぶのも初めてのこと。アルティナはとても楽しそうな顔で笑った。
「雪だるまを作るのです〜。どこまで大きなものができるかにチャレンジするのです〜」
 周りにも声をかけ、綾倉・理音と陽上・紗綾は大雪だるまを作り始めた。焔咲・硝子もファンガスたちと一緒に参加。1人で大雪だるまを作ろうとしていた白凪・悠菜と大丈・犬太も参加し、片方の雪玉を頭にすることにする。
 雪玉が大きくなってきて転がすのが少し難しくなってきた。そう思ったとたん、スムーズに動き出す。見ると、ファンガスが足下で雪玉を押して転がるのを助けてくれていた。その後、真木・真姫も加わって、ますます巨大な雪だるまに近づいていく。
 朝穂・魅鷺は雪だるまを作って遊んでいた。
「お兄ちゃんもこっちきて遊ぼうよー」
「嫌だ……めんどくさい……」
 魅鷺を尻目に、朝穂・魅臣はパソコンを叩きながら時間をつぶしていた。
「はー……やっぱり植物なのかな……ファンガスって」
 雪だるまを作りながら、明珠・銃音は彼らを観察していた。
 清澄・恋歌はすごい人出だなあと思いながら、雪うさぎを作りファンガスが宿るのを待っている。
 最初は如月・綾香とスキーをするつもりだったが、転倒しまくったので天白・楓はプランを雪遊びに変更。途中、遅れたため慌ててボロボロになってやってきたデュオン・ウィンフォールと合流し、3人で雪だるまを作り始めた。
 いい雰囲気に綾香は気を利かせて2人きりにしてあげる。デュオンは楓がエゾリスを見つけて、迷わず抱っこしようとするのを温かく見守った。さらに楓が今度はヒグマに向かって行ったので、さすがにそれはやんわりと制止。楓が寒そうにしたので、デュオンは自分のコートを被せてあげた。

●ソリに雪合戦に……いろいろだ!
 雪原を前に手っ取り早く始められるスポーツ、それは雪合戦! なかなかに熱い戦いが繰り広げられていた。
「てあーー! とあーーーー!」
 元気な声を上げて雪玉を投げているのは姫宮・心。
「ゆっきあっそび♪ ゆっきあそび〜♪」
 白月・蒼燈も負けてはいない。それに応戦すべく菅原・鵜平も雪玉を投げた。二人の勢いに押され次第に下がり気味になる鵜平を、雪玉で狙撃するのは烏頭森・万葉。自身が狙われれば、木立に逃げ込みヤドリギ使いの本業能力で逃げ切っている。
「そーひさん、そーひさん! 雪です、雪です♪」
 戦いの最中にのんきな声を上げているのは、ベルジャ・ネーヨ。目についたものすべてを話しかける勢いのハイテンションっぷりだ。
 そこへ突然、如月・清和がスキーで颯爽と登場……のはずが、盛大に雪を蹴立ててしまう。
「あれ? ひみつけっしゃのメンバーどこいった?」
 完全に彼らを見失った清和。そんな一同を遠めで見つつ、原・晶はのんびりとスノーボードを楽しんでいた。
「雪合戦する人この指と〜まれ♪」
 一緒に雪合戦しようと呼びかけるのは、結社『ファンタスティック』のメンバー。男女に分かれて雪合戦を楽しんでいる。
「それっ、儂の雪玉の餌食となるはどなたじゃ?」
 アーミーナ・ブレアは気づかずファンガスを混ぜて雪玉を作り、投げつけた。
「食らいなさい! 必殺乙女シュート!」
 ラト・エンジュが作ってくれた雪玉を受け取り、豪快に放つのは桜・美琴。雪玉が多少、ごつごつしていたり、大きかったりするのはきっと気のせいだ。
 真剣な表情で、「気をつけて。うちの女の子達は乙女と書いて猛者と読むよ」と言い切るのは、男子チームの黒須・黎。その黎に飛んできた雪玉を三島・月吉は身を挺してかばう。
「今まで楽しかったぜ、黒須……」
 ガクリと倒れる月吉の姿に、こうなったら逃げるが勝ちと駆け出した黎の背中に、容赦なく雪玉が飛んでくる。ファンガスに会う前に花畑が見えそうだと、黎は薄れゆく意識の中で思った――。

 北神・鈴乃は一緒に雪合戦を楽しもうと、いろんな人に声をかけた。「同志!」とそれに応えたのは伊勢・遥。大玉小玉をわらわらと作って準備を整える。そこへ春宮・鈴が放った雪玉が飛んできた。「とにかく何かすっごい魔球」と名づけられた雪玉は、通りすがった乙屋・ロイズに命中。反撃と雪玉を手にしてロイズはそれがファンガスだったことに気づいて大慌て。きっと自分と運命の糸で結ばれた相手だと頭に乗せてから、改めて雪玉をぶん投げる。
 のんびりと雪原でギターを演奏していた久保田・龍彦は、参加自由のこの雪合戦に気づき参戦。「雪あんだから雪合戦しないともったいねぇしよ!」と藤堂・烈火も飛び入りで加わった。
 アルノー・ケンプフェルトは真ケットシーの朔と雪合戦に参加する。ファンガスを宿すと暫くお別れになってしまうから、一緒に遊んでおきたかったのだ。「すぐに迎えに行くから……ちょっとだけ、良い子で待っていてね?」
 全員が疲れ、雪合戦の勢いが少し下火になったころ、「隙あり、ですよっ!」と飛来する雪玉。それがきっかけで再び雪合戦熱が燃え上がった。口火を切った風嫁・いぶきはちゃっかり逃げに徹している。
「人数いっぱいだし、いろいろ楽しめそうだな♪」
 ニヤリと笑って雪玉を握るのはジャン・ジャズジョーンズ。雪玉製造器に夢中になり、ひたすら雪玉作りに没頭ていた山田・翠華のアシストが戦いの激しさに拍車をかけた。力尽きるまで雪原ファイトだと桜・伊夜も宿したばかりのファンガスと共に戦う。痛いこともあるけど、みんなでこうやって遊ぶのって楽しいよねと天羽・龍河。ソリに雪だるま、スノーボードと遊んだ弧月境・葵。最後に雪合戦を選んで遊ぶことにした。
 スキーに初挑戦したもののうまく滑れるはずもなく、たくさん転んだ後はおとなしく雪だるまを作っていた月代・奏は、不完全燃焼だった闘志を雪合戦で発散する。エゾシカを堪能した雪道・碎花も雪玉を握り締めて加わった。
 そこにソリに乗った水無瀬・裕が参上。裕のソリを引っ張るのは暁月・征次。征次本人はスノーボードで遊ぶつもりだったが、気がついたらこうなっていた。
 2人に志乃神・灰霧ががっちり握った雪玉を投げてくる。暁月・征次は近くにいたエーリアル・トウマが作ってくれた雪玉を投げ返した。エーリアルは小さな雪だるまを作っていたは、途中から作るものを雪合戦用の玉に変えたのだ。その雪玉を通りすがりの輝月・朔を盾にして逃げる灰霧。朔はグレートモーラットと一緒に追いかけっこしている途中だったが、ファンガスの群れに倒れ込んだ。そんな灰霧と征次の2人に、スピードが出たソリに乗ったまま、水無瀬・裕が突撃を強行する。
「ブレーキ利かないとか、雪って怖いよな!」
 何かあったときのためにと救急箱や包帯などを持参していた箕面・来奈は、目の前で雪玉被弾とソリ暴走で次々と人が倒れたため、慌てて手当てをする。誘われて雪合戦にも参加した。

 こちらも2チームに分かれて雪合戦を始めた『大樹で一局』グループの一同。
「3人とも、ちょっと、待っててね?」と吹雪・瑞希は、始める前に盾代わりにする雪だるまを作ろうとした。が、容赦なく飛来する雪玉。「えーい」と紫苑寺・紫苑が投げたへろへろの雪玉が想像以上のダメージを与える。腕力は貧弱だが、紫苑の握力は人並み以上にあるため硬いのだ。達川・薫も負けじと大きな雪玉を作って投げ返す。いつしか戦いはチーム戦から対個人の乱戦になっていた。
 激しくも楽しそうな一同の様子にファンガスたちが集まってくる。雪玉と間違えて投げる瑞希。それをやんわり受け止め、美海はファンガスを手のひらに乗せた。じっと見ながら「食べてもいいか」と尋ねたら、返ってきたのは怯えた様子。
「そーなのかー……わたあめみたいなのに……。食べたりしないから、これからよろしくね?」

「ぉぅぁっさむっ!」
 寒いのが大の苦手な美原・月は、春先でも防寒具でガッチリ。まるで厚着雪だるまだ。
「ふ、ふふふ 北海道は……雪なのは当たり前だよ……うん」
 あまりの寒さに1人でたそがれてしまう。が、結社『弁当屋【樹雨の虹】』の仲間を見つけて少し元気回復。ファンガスが入っていないか確認しつつ作った雪玉で挨拶してみる。
 逆に雪、というか雪合戦に都築・アキはほのかな憧れを抱いていていた。飛んできた雪玉が嬉しくなって、「だりゃーーーっ」と投げた相手にご返事。冷たいと思いながら丸めた雪玉は、いいコントロールで飛んでいった。こうなったらもう止まらない。一面の銀世界を見るのは久しぶりで、不思議な気持ちになっていた蓮華院・優花も混じって全力で雪合戦が始まった。
「さぁっ、全力で行きますよー!」
 容赦ナシに雪球ぶつけて、ぶつけられたらやり返す香坂・桜空。叶野・雛菊と一緒に来ていたのだが、2人でやるよりはと雪合戦に混ぜてもらった。
「ふふふー。桜空、今回は敵同士です。覚悟っ」
 雪玉を作って、雛菊は手近な人に全力投球。向かってくる雪玉は頑張ってよけようとしたが、よけきれなくて思ったより食らってしまう。本当に単純な遊びだけど。
「こういう単純なことが、楽しいんですよね、きっと。ね、雛菊?」
「うんっ」
 喜色満面の笑みで雛菊は頷いた。

「雪はやっぱり投げないとだよね」
 そう言って、雪玉を作って握り締めたのは佐倉・葎花。
「ふ、先輩と言えども手加減しませんよ。へっへーん。私の雪玉をよけられますか〜」
 狙いは適当でも数撃てば当たるものだと、葎花は目を光らせた。
「手加減なしだ! 本気でいくぜっ!」
 真正面から正々堂々。遊びは本気でやるからこそ面白いと、日比野・弥月は小細工なしのド直球を放った。ちゃっかりゴーグルをかけて、雪玉が顔に当たっても大丈夫なようにガードしていたが。
「くすくす……ご覚悟、です」
 両手に持った雪玉を、2人それぞれに投げようとしているのは川原・世寿。経験に基づく勘に勝るものはないと言いつつ、適当に投げてるだけ……なのだが、意外とこれが当たっていた。
 真剣勝負は激しさを増し、弥月のゴーグルが雪で覆われ前が見えなくなったり、葎花が避けるつもりで転んだりと、気がつけば雪だらけ。
「二人とも、大丈夫です、か?!」
 こうなったら、とことん遊んじゃおうと全員が覚悟を決める。
 再戦だと葎花が掴んだのは、雪玉ではなく、ふにふにのファンガスだった。
 ファンガスに会うのも楽しみだが、深田瀬・せりは、それ以上にみんなと遊ぶのを楽しみにしていた。共にやって来た運動にはあまり自信のない浅巳・雪十と、せりを妹的存在としてかわいがっている今市・直人の3人で雪合戦をすることにする。
 雪合戦なんて子供のころ以来だと雪十は楽しそう。しかしうっかり手を滑らせて直人にばかり雪玉が飛んでいく。せりも雪十を狙ったはずが失敗。直人が顔面で雪玉をキャッチしていた。
 当の直人はというと、せりはもちろん、女の子の雪十に投げるなんてと困惑。躊躇している間にべしべしと一方的に雪玉が飛来した。
「オーマイガー!」

 結社『護霊会』の面々も、たぶん今年最後の雪だろうからみんなで楽しもうと雪合戦を始めた。
 存分に雪を楽しもうと雪玉を思いっきり投げつけたのは紅炎寺・絆。月影・静流は、絆にナイスなアシストで作った雪玉を渡している。ついでに雪うさぎまで作ってしまうのはさすが。
 同じく雪玉を思い切り投げるシャロン・クラスト。シャロンに雪玉を渡しているのはシャリオ・クラストだ。さすがは兄妹、みごとなコンビネーションを見せている。負けていられないと天乃・凪は気合を入れる。雪玉を投げ、危なくなったら猫変身で猫になってひるませた。
「……雪女の実力を……思い知れ……なの……」。
 静かに闘志を燃やしているのは月影・九十九。
 ボクはもちろん雪玉を投げる方と防人・輪子も元気に雪玉を放った。
 誰にというわけではなく、投げるよりは向いているとひたすら雪玉を提供しているのは風祭・奏。その雪玉を引っつかんで紅凰・翼は楽しそうに投げている。アストレード・グローディアは投げたり雪玉を提供したりして、みんなとわいわい楽しんだ。
 ソロ勝負の雪合戦は思った以上に盛り上がった。「楽しい!」という強い思いを感じ取ってファンガスたちが現れる。それに気づいた一同は手を止め、ファンガスを招き寄せ声をかけた。
「いろいろな世界を見せてあげる!」

 雪原で手軽に遊べるスポーツ、その2。ソリ遊び! 銀誓館の能力者たちは能力者である利点を生かして、ソリを楽しむ者もいた。
 狼変身をして、犬ぞりならぬ「狼ぞりレース」をすることにした、結社【幻桜の灰】の面々。
 休憩所を設置した柳・深龍は、休憩所を設置しおやつの準備。湯を沸かしながらレースの成り行きを見守っている。審判兼監視役に借り出されたのは、刈谷・紫郎。レオナール・カスティーユと源真・神那も、引率として同行する。
 第1ソリを引くのは、山崎・夕羽。乗り手は水瀬・雪白。夕羽は男だから、ハンデとして妹の山崎・ましろを追加で乗っけている。
 第2ソリを引くのは、アウラ・ファラフ。乗り手は那智・りおん。
 第3ソリを引くのは、マグ・パラベラム。乗り手は万木・沙耶。
 一同が緊張する中、レース開始!
 夕羽もアウラもマグも、のっけからトップスピードで飛ばす飛ばす。
「あちゃー予想通りっつーか……。止まれ言うても聞かんよな、やれやれ」
「そんなにスピード出すと危ないから! 減速、減速!」
 神那の呟きとレオナールの注意する声が空しく響く中、急カーブに差しかかる。
「きゃーーーーーーーー……」
 まず沙耶の身体が宙を舞った。それを見て、動揺したりおんも釣られ落ち。同じく助けようと腰を浮かせた雪白、そしてましろも空を飛んだ。
(「なんか軽くなったな。これがランナーズハイ!?」)
 振り返った夕羽の目に映ったのは、飛んでいく乗り手たちの姿。後ろから聞こえた悲鳴に、やっと気づいたアウラは足を止めて振り返る。競争相手がいなくなり、落ち着いたマグもやっと気がつき落下組に近寄った。
 レースはもちろん中断。こってりと絞られたあと、深龍にはおやつ抜きと怒られ、3人はしょんぼり耳をたれる。あとで普通に差し出されたおやつに、3つの尻尾が揺れていた。

 一方こちらは普通のソリ遊び。だが、エキサイティングになりそうな予感があった。
「望。ソリで遊ぶで」
 一条・陽花はソリと一条・望を引きずって移動した。望を運転手にした日にはパニックを起こしてどこに突っ込むかわからないから、自然と陽花が前、後ろに望が座ることになる。
「ほれ。後ろ乗ってしっかり掴まる。ちゃんと掴まったか? ほな滑るで!」
「はい、おねえちゃん」
 望がぎゅうっと掴まってくる。そのことに安心しながら、陽花は景気よく傾斜を滑り降りた。
 小さいファンガスたちに自分の体にしがみついてもらい、ソリを滑らせるクゥ・ブラッドレス。たくさん一緒に遊んだクゥは、ファンガスたちがおねだするときの仕草がわかるようになった気がした。
 赤いソリに頭を下にして腹這いで乗って、ファース・レガリアは猛スピードで滑り降りていく。腕を足を使ってある程度コントロールしているが、周りを蹴散らす勢いだ。
「どいて! どいて!」と言いながら下まで降りては、また猛ダッシュで登って、また滑る。雪遊びが楽しくってしかたがないようだ。
「どっどなたか止めて下さいなのでありますですよぉぉぉぉお! お願いしますなのです〜っ!」
 ソリ遊びをしていたはずだった。でも気がつけば、ごろごろと転がる巨大な雪だるまと化していたキセキ・メディカルスタッフ。キセキの運命は――きっと誰かが掘り出してくれるに違いない。
「うーみゅ、キノコの来訪者、ファンガスかー……今日の晩ご飯はキノコ炒めにしようかな」
 ファンガスが聞いたらじりっと下がってしまいそうなことを呟きつつ、ソリを操る白羽・命。
 心が晩ご飯に向いていたせいだろうか、命も気がつけばすごい速度に。木にぶつかって目を回すこととあいなった。

 こちらも一頭引きのソリを楽しむ、仲良しグループ『ヴァンの犬ぞり特攻隊』。
 ついたらすぐファンガスを受け入れ、遊ぶ準備を整える。ヴァン・ジェルヴェールが狼変身をしてソリを引き、犬ぞり気分を味あわせてくれると言うので、楽しみにやってきたのだ。
「はいよー! ヴァンにーちゃーんっ♪」
 ノリノリで手綱もどきを引くのはアルシエル・ストゥレーニ。続いて、白石・綾香と華霧薙・詩歌が2人乗りに挑戦。ムチを片手に雪原の中を猛スピードで駆け抜け、ドリフトを楽しむ。最後に御剣・新も犬ぞりを堪能したあと、全員でスノーボードに履き替えて、お腹がすくまで滑りまくった。
 遊日のあとはごはんの時間とヴァンは鍋を作り出した。持参した具材を鍋に入れ完成させる。
「ん? これは……肉だぞ? 肉……何の肉かは知らないが」
 怪しく笑う新に、綾香はあの肉には手をつけないようにしようと心に決める。
 食事が終わったら腹ごなし。流れは自然と雪合戦へと傾いた。
「さあ、かかってくるといい。まとめて相手をしよう」
「おっと、ごめんごめん。手元が狂っちゃったみたい♪」
 余裕綽々の新に、辻雪合戦だとそこら辺歩いてる人に適当に雪玉を当てるアルシエル。
「みなさんも一緒にやりませんか?」
 アルシエルに向かって雪玉を投げつつ、綾香は周りにいる者たちに誘いをかけた。

●雪原の散策を楽しんで
「やっと着きました……。ここがカムイワッカですわね」
 物語に出てくるような一面の銀世界を見るの初めてだと川嶋・菜々香。ファンガスと銀世界、不思議な組み合わせだと思った。
「雪なの、白くて冷たいの♪」
「これは、雪……? 大丈夫、ですね」
 雪遊びを目いっぱい楽しもうと伊織・雫。伊織・澪は足元にファンガスがいないか確かめながら、おずおずと歩いてた。雪の中を歩くことに慣れていないので少し危なっかしい。
「ほらほら、そんなにゆっくりしてると置いてっちゃうの!」
 雫は何だか歩きにくそうな澪を引っ張った。
「みゃ……! は、離しなさい雫!」
 1人で参加していた白水・麗菜はなるべくほかの人たちと外れないように辺りを散策する。最初は怖くないと思っていたがやはり不安になってしまって少ししょんぼり。自然と視線が足下に向かってしまう。そんな麗菜の視界に、動物がつけたと思われる足跡がぽつぽつと続いているのが見えた。はっと顔を上げると木立の陰に駆けて行くエゾシカが。麗菜はぱあっと笑顔になって持ってきた望遠鏡を構えた。
 険しい雪原とまばらに生えて雪に耐える原生林。とても厳しい光景のはずなのだが、木村・小夜には何だかあたたかく感じられた。
(もしかしたら、ファンガスの、みなさんの、おかげ、かも、しれませんね)
 山野を散歩して、山田・一郎は北海道の遅い春の息吹を感じていた。
 小坂・鈴香と神薙・汀は、ピクニック気分でのんびりと景色を楽しんでいる。
「あ、姉さんあっちにキタキツネがいますよ」
「え、どこ、どこ?」
 鈴香はわくわくしながら、汀が貸してくれたオペラグラスで姿を確認。今度はエゾリスが近づいてきたが、汀がエサを与えたそうにしたので「めっ」と怒った。
「野生動物にエサをあげるのはよくないから」
「そっか、残念ですね」

「日々精進、雪中行軍の練習でもしましょうか」
 千羽・烏月はスキー板を履いたまま雪の中を自由に歩けるように訓練していた。
 雪原でプチサバイバルを1人で慣行すると張り切っているのは柞木・功。雪原を歩き回って食材を探している。湯滝へと続く川のほとりまで歩き、フキノトウなど食べられる野草やキノコをゲット。さっそく調理をして空腹を満たした。
「うわぁ……寒いけどやっぱすごいや……」
 感動と寒さで身を震わせながら、陣乃・イスナは雪原を突っ切る。
 濡れて困らないように着替え始めたのは、フレスティータ・オルヴァ。準備ができたら、おもむろ新雪に飛び込んだ。雪女のフレスティータには至福のひととき。心行くまでごろごろして、最後は雪に潜っておやすみなさいと眠りについた。
 雪女なので風邪は引かないのだが、迦陵・白真は「自分は行けないからせめてとセーターを」と持たせてくれた結社や幼馴染の心遣いを思い出す。雪だるまアーマーを発現する必要もなく雪だるまになりながら、白真は楽しくファンガスを探していた。「でておいでー、でておいでー。あそぼーあそぼー、ともだちになろー」と調子っぱずれに歌いながら。
 掛葉木・いちるは、雪の踏み荒らされてない山頂近くまでさくさく登っていた。1人で気兼ねなく雪と戯れたかったのだ。
 楽しい気分で空乃・詩漣は「雪ですわ〜♪」とくるくる、くるくる踊っている。
 一頼・凪は雪原を眺めてのんびり散歩していた。橘・神威はぶらりと散歩しつつ、この時期ならではの自然をカメラに納めている。
 我先にファンガスを得ようと競争していた結社『内藤伝説』の内藤・明哉、内藤・グラットン、田中・ダークネスは3人一緒に遭難していた。あまりの寒さに、明哉が「鎌倉出身だしカマクラで寒さを防ぐしかない」と声をかける。
「流石ブラザー、カマクラ作ろうだなんて、その発想は無かった」
 ダークネスはただただ感心。完成したカマクラにかたまって暖をとった。
「おいおい、ブラザー。どこ触ってるんだよ」

 去り行く冬の風と訪れる春の息吹を感じつつ、久賀・零亜はのんびり散策した。
 キタキツネが見られると嬉しいと時司・雪乃。一面の雪景色に木立にキタキツネを見かけた蓮堂・終は、「るーるーるー……」と歌い始めた。
『雪の寒さに耐える動物たちを見物するツアー』を企画する不動・蒼士。見せて喜ばせたい人がいるから、かわいい写真をムリはしない範囲でできる限り撮って帰るつもりなのだ。
 参加した西野・御子は、どんな動物がいるか楽しみだと周りを見回している。
 大自然の雪原に生息していると言われている、イタチ科のテンに会いたくてやってきた神癒・西洋毛長鼬も参加。ここカムイワッカにはエゾクロテンがいる。異種族とも共生・友好関係を築くことができる能力者だからこそ、エゾクロテンともきっと仲良くなれるはずだと心に誓う。
 スキーはあとにして、先に野生動物を探そうと思っていた茂木・みさかも加わった。ちょうど食事時分だったのだろう。木々の枝にエゾリスを見つけた。かわいいなあと見ていたら、遠くでエゾシカやエゾクロテンが雪原を走って行った。みさかをはじめツアーの面々はそれらをカメラに納める。
「こんな北国にも、動物たちがいっぱいいますわ。いい感じですわね」
 野生動物が見られればと一緒に散策していた木葉・葉子も、観察できて嬉しく思った。
 今回はファンガスを宿すことのみが目的だからと、合瀬・瑠羽はみんなが楽む様子を傍観していた。ほかのみんなが遊んでいるのを見守っている東雲・聯夜に気づき、瑠羽は声をかける。
「……お前も、共生者となりに? 向こうは楽しそうだが。……なぜお前は行かんのだ」
「もし羽目を外しそうになる人がいたら声をかけようと思ってね。それだけだよ」

 桜・飴璃は、勢いよく行こうとして頭からすぼっと雪に転んでしまった。
「冷たいのです……。あ! あっちで何か動いたのです!」
 しょんぼりしたと思ったら、すぐに目を輝かせる飴璃。幼馴染の銀・夕祈は、「飴は目がいいね」と感心しつつ、飴璃を起こして雪を払おうとする。が、全身雪だらけの姿がおかしくてつい笑ってしまう。
「それじゃあ飴がファンガスになっちゃうよ」
 雪原の目立たない場所に佇む、ピンク色――もとい、ピンクの髪の女の子は紋川・なこだ。球根を植えようと、愛用の花柄スコップで勢いよく雪を掘り起こし始めた。……が、掘っても掘っても雪、雪、雪。なこはやがてスコップを取り落とし、がくっと項垂れぷるぷる震え出した。
「な、なぜだ……なぜ土が見えない……! なぜなんだー!」
 叫ぶ声はエコーがかかり遠く消えていった。
「お、うまそ〜!!」
 一面の雪を見て、ブラスカ・レッドレオンハルトはおもむろに懐からかき氷用のシロップを取り出した。北海道と言えば雪! 雪と言えばかき氷風にして食べるしかないと、きれいな雪を集めてブルーハワイ味のシロップを振りかける。神鳥・幸もわくわくしながらメロン味のシロップをかけて一口含む。
「ゎ、普通のよりふわふわですね……♪」
 やわらかさにびっくりしつつ、おいしく食べた。
 雪野・葵も天然の雪で作ったかき氷の味を堪能すべく、シロップを持ち込んだひとりだ。1週間分の食料や非常時のグッズと一緒に多数のシロップを持ち込んだため、取り出すのが少し大変そう。それでもすべての味を試していた。
 風音・瑠璃羽は、見渡す限りの雪に久しぶりのデートということもあって元気一杯で大はしゃぎ。
「そんなに走り回ると危ないですよ」
 暖かく見守る龍薙・我妻は声をかけた。大丈夫と瑠璃羽が笑ったとたん、雪の中へズボッ。はまってしまって全身雪まみれ、さながら瑠璃羽だるまになってしまった。
「ふにぃ〜〜あずま君〜〜さ……寒いよ〜〜」
 冷えて寒くてぶるぶる震える瑠璃羽。何とかしてくれると信じて我妻の元へ向かう。我妻は長マフラーで瑠璃羽を巻きつつ、温まるように優しく抱き寄せた。
「だから言ったでしょう……ほら、今温めてあげますからね」

 野生の動物を見られないか、メリル・グランツは雪原を眺めながらのんびり歩いていた。同じことを考えたらしい女の人とすれ違う。背格好が自分と似ていると思いつつ、軽く会釈をして――気づいた。
「あなたは……」
 一方、リリア・グランツも引っかかっていた。ただすれ違っただけの目の前の女性が、なぜか気になる。ふとリリアは、その人が自分の髪飾りと似たものをつけていることに気づき、思わず尋ねた。いつもの男っぽい口調など消えてしまっていた。
「あの、お名前は? わたしは……」
 挨拶も前置きもない言葉だった。しかしメリルは泣き笑いのような表情を浮かべ、リリアの言葉に先んじて答える。
「あなたの名前はリリア・グランツよね。私はメリル・グランツ。あなたの……妹です」
「! ……わ、わたし、幼いころの記憶がないの。でも――」
 それ以上の言葉は必要なかった。何も言わなくても、伝えられたことが真実だとわかったからだ。
 2人の再会を祝うように、ファンガスたちが足下で小さく飛び跳ねていた。

 ひとしきり遊んだ神代・望月は、狼化してる方が暖かいからと狼変身。日当たりのいい雪原の端っこで丸まった。その隣でファイアフォックスのイルミット・ペルヴェールも昼寝を始める。
「歩いたらおなかがへっちゃったあ」と雪原のど真ん中に座り込み、持参したおにぎりを食べ始めたのはドロシー・タカミネ。神威・焔は狼になってそこら中を走り回り、雪に足跡をつけて楽しんでいた。
 月廼馳・覚雪は枝の上で木の実を食べるエゾリスを見つけ、和んでいる。
 それを見て、本当は絵を描きたいんだけど手袋を外せないからと吉国・冬花はカメラを構えた。雪景色や野生動物の写真をお土産にたくさん持って帰るのだ。
 こういう空気の中ナンパはちょっと……と殊勝なことを思っているのは乱破・道宗。雪野原に1人というのもたまにはいいとのんびり風景を楽しんだ。
 雪女の自分には寒さなんて関係ないと水鏡・霧封。興味のある方へ歩いて行き、雪原を堪能した。
 スノートレッキングで木々の間の動物を眺めたりと雪上散策を楽しむことにした、高梨・浩、白銀山・丹羽、楠原・アギの3人。
 進み始めたが、なぜか世界最速でコースアウトしていく浩。人を巻き込んで転倒し、あちこちに謝っている。丹羽といえば、知り合いに頂いたおいしいフィナンシェを配ろうとポケットをごそごそしている間においていかれてしまった。アギはアギで、あとで雪うさぎを作ろうとか身体が冷えてきたからコーヒーを分けてもらおうとか考えているうちに、周りがいなくなっていた。
 3人で来たはずが、あっという間にバラバラになってしまった一同。
「アギさーん! 浩先輩〜! どこですか〜〜! ひろしせんぱーい!」
 人が多すぎて見つけられない。混乱した丹羽は涙声で絶叫した。
「ひろしせんぱい!?」
 丹羽の声に振り返る浩にアギ、そしてなぜか明生・芙美。実は芙美の思い人も「ひろし」と名で、かつ先輩なのだ。芙美も誘って一緒にコーヒーで休憩する間、「ひろし先輩」つながりで話が弾む。特に恋愛話に関しては、なかなか終わることがなかった。
「センパイと来たかった……かな」
 首元の白いマフラーを握りつつ、千早・紫月はみんなが遊んでるのを穏やかに見守った。誰かが雪玉を食らったのだろう、歓声と悲鳴が上がる。紫月はココアを飲み干しカップをしまって、「よし。混ぜてもらいに行こう」とそちらへと向かった。

「雪原です! キタキツネ探しましょう♪」
 いやいやファンガスを探しに来たのだったと、セルフつっこみをするアルト・グランデ。倉橋・星華ものんびり散歩しながらファンガスと動物を探している。
 エゾシカの姿を見つけた芳野・鈴女は、遠くからそっと様子をうかがっていた。エゾシカはどうも興味を持ったらしく、鈴女をじーと見つめ返している。鈴女は警戒されないよう動きを真似てみた。
(「……そういえばファンガスさんも、こうやって動きを真似てくるんですよね」)
 やって来る野生動物たちを見て、「狩りをしたい」とリリア・フェイルは思った。が、周りから止められ獲物を見ながら渋々諦める。相馬・亮介はリリアを誘ってのんびり散歩に出かけた。
 そんな2人の近くでは、アリョーシャ・ソロヴィーヌフと露木・水無月が子供のファンガスと子供の雪女を探そうと張り切っていた。
「子供の頃から、雪から生まれた雪娘カーチャとお友達になりたかったの! どこかにいないかな、カーチャ!」
「むむむ、僕の感が訴えているのです……こっちの方にいるぞと」
 ケガをしていたユウ・メルフィージは、そのあとを身体に負担がかからない程度の速度でついていく。輪廻・殺機もみんなと一緒にファンガスを探した。
 柊・夏実は周囲の異変に気を配りながら、スキーを楽しんでいた。雪原をゆるやかに滑る夏実の端に、こちらに向かってくる数体のキタキツネの姿が。襲ってこないようなので近づかず行動を観察した。
 野生動物が出ると聞き、その警備も兼ねて雄深・今人は見回りをすることにした。救急箱も準備。雪をなめてケガをすることもあるのだから。
 椎名・睦月はせっかく移動してもらうのだから、ファンガスが好きな環境を整えてあげたいと考えていた。温度、湿度は好みを聞いて何とか整えられるだろうけど、ほかに環境を似せられそうなところがないか、周囲を散策しながら調べる睦月。
「しかし、春というのにけっこう雪は残ってるんですね……」
 こうして見ると雪原もなかなかに風情があっていい。今人はしばし見とれた。
「芙美さん、どんな動物が出るのでしょう? キタキツネさんとかでしょうか?」
 自分もカメラを持ってきたと比企・古杜。カメラを持っている芙美に野生の動物の撮り方やおススメなどを聞いてみる。芙美は自分がちょっと特殊な、おもに風景や静物の写真を撮っていることをまず告げた。
「動物たちは警戒しちゃうので、慣れてくれるまでじっとガマンする……ぐらいでしょうか。雪原だったらわたしのおススメは古い木のうろですねっ。川の近くまで近づくと、雪が溶けているからヒグマが冬眠に使ったものとかが見られるんですよう。あの枯れっぷりがいい感じなんですっ」
「当たり前、ですが……。雪原……とても寒い、ですね。こんな寒いトコでも動物、いるのですね……」
 ちょうど野生動物が立ち去った直後にやって来たポーシャ・メルプリスは、震えながら呟いた。呟いてからはっと気づく。そうか、冬眠を失敗したクマとかが出るのか。ごくりと喉を鳴らしたポーシャは思い出していた。冬眠に失敗して起きてきた、クマは……飢えているので危険だということを。
「しかし、負けない、のです……。みんなの、みんなの仇は、私が取る、のです……!」
 誰も死んでいないが、握り拳を作ったポーシャの心は伝説の巨大グマを追うマタギと化している。
「シュパ兄さま……ポメ子を、天から見守っていて、下さい……!」
 誰も死んでいないと、どこかからツッコミが聞こえてきた気がした。

 納得がいくまで特にかわいらしいと思うファンガスを選んで宿した色織・双鵺。念のために群生地の外側を見回ることにした。
(「花の季節だが、北の地方はまだ雪が残っているな」)
 景色を楽しみながら雪原を巡っているのは朔月・緋雨。ファンガスが外に逃げ出さないように注意も怠らない。好奇心旺盛な異形の来訪者。姿形は変わるけれど、やはり根は人と似ているのかもしれないと緋雨は思った。
 何かを勘違いし、背中に籠、手には鍬と鎌を持ってやって来たのは宮古島・うるみ。
「無限に湧いてくるキノコ……。これがあればもう毎日バーガー屋のゴミ捨て場を漁らなくてもすむッス!」
 木の根元あたりの雪をほじくり返しひたすらキノコを探している。キノコ以外にも蕗の薹など食べられそうな山菜を見つけたら、鎌で刈り取って背中のかごに回収。ファンガスを見つけても目的のキノコとは気付かず、「何スかこれ。まあ、煮れば食えるッス。多分」とつまらなさそうに籠に放り込んだ。
 帰る前に少しだけ食べようと思い、籠を覗き込んだら確かに入れたはずのものない。実は籠の中のファンガスに全部食べられしまったのだ。当のファンガスはうるみに宿ったので、籠の中はカラッポ。
 うるみは最後までファンガスに宿られたことに気づかず、涙ながらに帰還した。

●ファンガスと雪原で
「すごぉい、ぜぇんぶ真っ白やーーー!」
「きゃっほー★」
 一面の雪原に歓喜の声を上げつつ、麓・つわぶきと麓・りんどうはその辺を人型だらけにした。
「ふたりとも、しもやけになってまうですよぉ? ……きゃっ!?」
 おろおろと2人を止めようとした麓・ひなげしも雪に足を取られ転倒。人型を1つ追加する。
 寒さで肌が真っ赤になってきたころ、このままずっと遊んでいそうな2人をひなげしがたしなめ、色違いでお揃いのコートを着てファンガスを探し行く。
「で、キノコちゃんたちは、どのへんにおるんやろね〜?」
 りんどうはキョロキョロとあたりを見回す。ただ探すだけなんて時間が持つはずもなく、ついつい遊んでしまうつわぶき。ゴロンと倒れた雪の中に違う感触のものを見つけた。息を拭きかけて雪のように溶けない確認したがそれは溶けなかった。満面の笑顔でファンガスを頭の上に乗っけて、つわぶきはくるりとまわって適当なキメポーズ。
「きぃめた! うち、この子のきょーせーしゃになる!」
「うわぁ、何ていうか……悪いけどこうしていると雪と見分けがつかないわね……」
 白い雪原の上をのたのたと動くファンガスを見ながら、緒方・光希はボソッと呟いた。
「困っているなら助けるのが人情。大きさが手乗りサイズってコロボックルみたいだなぁ」
 雪原を満喫しつつ、乗り気なのは漣・終夜だ。
「ファンガスちゃーん、いっしょに行きましょー♪」
 雪女のため、雪山でも全然平気かつ新たな出会いに、セイシィス・リィーアはハイテンションになっていた。「あーそーびーまーしょー!」と呼びかけているのは草柳・羽奈。
「ふわっふわのもっこもこになるにゃ♪ でも、雪も楽しみにゃ」
 るんるんと雪原を進むのは斎賀・璃空。魔弾術士の璃空は普段からちょっと猫っぽい。だから基本寒いのは苦手のはずだけどと采女・煉は心配していたが、どうやら大丈夫のようだ。猫変身までして、未踏の雪面に肉球でぺたぺた足跡をつけている。
 そういう煉も爺がいない状態で雪遊びは初めてなので、すごく楽しくなっていた。璃空がファンガスを見つけて、ゆっくりとふわふわしながら観察する。
「来てよかったね」
 煉は楽しそうな璃空とファンガスが見れてそれで満足だ。
 雪目を警戒してサングラスをつけた神谷崎・刹那に、1体のファンガスがのたのたと近づいてくる。
(「体につくにしても、目立たないようにして欲しいわね」)
 クスリと笑いながら、刹那はそっとファンガスに手を差し伸べた。
 鳳城院・桜は、「新しい子が来ても喧嘩しちゃ駄目よ……?」と自身に宿る白燐蟲に呼びかける。
「おいで、一緒に行こう。先客はいるが……大丈夫、良い奴等だからきっと仲良くやっていける」
 出刃霧・紅蓮はすぐ近くにいたファンガスを手のひらの上に乗せた。出会いが助けになるのなら憑かれてもいいと思う。
「これがファンガス……、ホントにフワモコですね……」
 楠凪・亜紀夜は目の前でもこもこ動いているファンガスを見てやや呆然と呟いた。うち1体を見て、なぜか「こいつだ!」と思う亜紀夜。そのファンガスを頭の上に乗せてスキーをしに向かった。
「もう今から思い出を作るよ! ファンガス!」
「オイラたちと遊びてぇ奴この指とまれー!」
 雪合戦をするつもりでファンガスたちに指を突き出した祝鞠・照。が、出したあとで一緒に遊べるか? と気づく。どう見てもファンガスたちの動きは遅そうだ。だったら遅い動きの遊びでっ。
「体操とかなら一緒にできるかな?!」

 野生動物から逃れるためと白いローブ姿で動くペシェ・ヴァロア。保護色代わりとペシェは言うが、色白で髪も白いため本気で雪原に同化しているようだ。
(「まっしろな、せかい……なつかしい……」)
 雪女なので冷たくても平気なペシェは雪原をてくてく歩く。真っ白な世界に真っ白なファンガス。どんな子だろうとペシェは探し歩いた。
「綺麗なものですね……。柳さまと一緒にこの雪景色……見たかったですねぇ」
 雪原を見ながら紅茶をすすって鬼丞・杏夜は呟いた。
 気になったらしくファンガスが近寄ってくる。飲みますかと紅茶を差し出してみたものの、飲めるのだろうかと思っていたら、出したカップににょーんと身体の一部を伸ばして浸し始めた。急いで身体を抜かないことを思うと、どうやら気に入ったらしい。杏夜とファンガスは一緒に雪原観賞を楽しんだ。
 山頂近くまで巫女服で登っていったのは雪女のスノウリン・レゾナチップ。シンと透き通った空気の中で、スノウリンは白い銀と白いファンガスをイメージして歌い始めた。
「古の旋律……」
 ときには優しく、ときには厳かな旋律と歌詞が雪原のステージに響き渡る。同じ宿すなら自分の歌を気に入って寄ってきてくれた子を選びたい、そんなスノウリンの思いが伝わったのか、ファンガスたちが徐々に集まってくる。歌うことはできないけれど、歌に合わせて身体を揺らし始めた。
 伊東・太一狼は、ピエロのお面をつけ雪玉でジャグリングを始めた。国も人も来訪者も関係ない。手を差し伸べる事で救える命があるのなら喜んで手を貸そう……そしてまた、俺たちにも力を貸して欲しい、そんな思いを込めながら。興味を持ったファンガスたちがのたのたと近づいてくる。太一狼はジャグリングを止め、心の赴くまま踊り出した。
 世界結界は大事だがそのせいでファンガスが大変なのかと、今井・海里はちょっと複雑な気分だ。でも、結界のおかげで自分たちは助かっているんだから。
「その分ファンガスさんをお手伝いするよ。仲良くなろうね!」
「兄ちゃん、あんまり離れるなよ? ただでさえ迷子の常習犯なんだからよ」
 後ろを気にしながら染谷・空はファンガスを探していた。しかし、先に見つけたのはあとをついてきていた染谷・晃葵。晃葵が教えてくれた方向にファンガスを見つける空。
「お、こいつらが話に聞くファンガスとか言う奴か? おーい、こっちに来いよ」
 呼びかける空の隣で、晃葵はギターを弾きながら自分で作曲した歌を歌い始めた。「君という光……」と始まる歌には優しさに溢れている。空もファンガスたちと一緒に歌を聞いた。

「ふぁんがすよぉ〜い! 任侠気に興味のあるやつぁ俺んとこきやがれぃ!」
 傾奇者スタイルで叫んだのは炎龍寺・金時だ。野生動物を観察するのは田中・ひろみ。香澄・綾女も厳しい自然と共存する動物たちの姿を目に焼きつけた。その一方で、迷いでて命尽きるのは気の毒だからと群生地から逸脱する迷いファンガスが出ないか警戒している。
 この旅に秘めたそれぞれの思いを読み取るように、草薙・藤次郎はカメラで撮影して回っていた。
 梧桐・薫は1人で雪原をずかずかと移動していた。剥き身の刀のような鋭い気配を放っている。雪原に姿らしいものは見えないが、何かがいる気配を感じ薫は話し始めた。
「剣に魅かれて出てきたとかいう奴ぁお前か?」
 ごく自然な呼吸で薫は危険がないが、端を切り落としかねない鋭さで長剣をおもむろに抜きつける。
「俺の剣は生かすなんて生易しいもんじゃねーぜ? 剣は命を奪うためにあるもんだ。どうでぇ? お前らの中で死ぬ覚悟の出来てる奴は居るか? 居るなら出て来いや!」
 鋭く前方を突くよう構え返事を待つ薫の前に、ほかのものよりほんの少し大きなファンガスが進み出た。薫の剣を怖れず、ずんずん近づいてくる。
「お前か。いいぜ、来いよ」
 ニヤリと笑い、薫はそのファンガスが自分の身体に宿るのを許してやった。
「せっかく繋がった運命だ。戯れるのも悪くないかもなっ♪」とファンガスと共に、今という瞬間を楽しむ櫻・広樹。そんな広樹の近くにカリュア・キトリスはいた。いろいろと話を聞いたが、やはり実際に見ないことにはとファンガスを手のひらに乗せる。しっかりと目で確かめ、仲間として受け入れた。
「そなたたちを家来してやるのじゃ! ゆえに、妾について来い!」
 シルビア・ブギはファンガスたちに言った。家来にしたからには危険から守り、何かあれば助けてやる。その代わりに自分と一緒に暮らすのだと。
「それ以外は特に要求はせぬ。妾は来訪者と人との架け橋になりたいのじゃ」

「うわ、もこもこしてるし、動いてる……」
 稲垣・幻は鈴なりのファンガスを前に感動していた。そっと触れてその感触を確かめる。モーラットの毛とは違って、ふんわりしてるけど少ししっとりしている気がした。幻はお店に帰ったら、留守番をしているモーラットピュアに見せてあげようと思う。
 美作・聖はまずそのファンガスが鈴なりに連なってる場所に行った。仲間になるんだから特性を知っておきたいと思ったのだ。ファンガスたちは人の体温より低いのか少しひんやりしていた。上質な小麦粉かパウダーシュガーのようなしっとりとした質感だ。基本お饅頭っぽい丸い形を取っているが、伸びたり縮めたりできるため不定形らしいとわかった。芙美が言ったとおり、のたのたという表現がぴったりな移動をする。
(「蟲とは違ったかわいらしさがあるかも……しれなくもないわ」)
 雪原の立ち木を眺めていた一夜・静流は、知り合いに「キノコを頭につけてこい」と言われたことを思い出していた。それは許してもらいたいところだと、木の上からこちらの様子を窺っているファンガスを見上げた。その静流の頭に、いつの間にか白いもわもわが乗っかっていた……。
 花井・雪洞は雪原にひとりぽつんと立ち尽くしていた。なぜなら雪洞は、ウィンタースポーツが苦手だから。小さいころ、父に無理矢理はかされたスキーで雪の上をノンストップで滑り落ちて以来、雪の上を滑ることに恐怖を感じてしまうようになったのだ。
「雪洞なんて名前してて、雪が苦手だなんて洒落にもならないー……っ」
 そんな雪洞の足に、誰かの真似をして姿をソリっぽく変形させたファンガスが当たった。雪洞も一緒に遊んでくれると思ったのか、動こうとしない雪洞にじたじたしている。雪洞にはその様子が、ウィンタースポーツの楽しさを教えてくれるつもりのように見えた。
「もう、怖くない……?」
 月倉・咲紅は輝く雪にただ感嘆していた。本当に綺麗なものを見たときって言葉も出ないものだとは思っていたけど、それは事実だったんだとて思う。
 景色を見つつ、ファンガスが群生地の外に出ないように見張りをする咲紅。実はちょっと期待していたのだ。ファンガスは菌類で今が増殖の時期だってことだから、舞い散った胞子が光に煌く様はダイヤモンドダストにも負けないかな、と。
 そんな咲紅の前に、ほかのものとは明らかに違って大きなファンガスが現れた。ふるふると小刻みに震えたかと思うと次の瞬間、その大きなものが消え、2つの小ぶりなファンガスが!
「おー……」
 まさかそんな増え方をするなんて。咲紅の嘆きが聞こえたよう気がした。

 水深・空鵺は雪を楽しみながらファンガスを待っていた。そこから少し離れた場所に端沼・塔路は簡易椅子で陣取ってスケッチ開始。小型の野生動物が寄ってくれるよう、少し仕掛けをしておいたのでいい絵がかけるかもしれない。
 三門・凛華はそんな2人を横目に、これから身に宿るファンガスについて考えていた。現在ナイトメアを宿しているが中で反発しないか気になっていたのだ。だが考えても答えは出ないし、受け入れてみないことには始まらない。泰然とファンガスを待つことにした。
「で、塔路はどんな絵を描いたのかね」
 頃合いをみて横からスケッチブックを覗き込む。そこへ、「見つけたー!」と手の上に白いものを乗せて空鵺が駆けてくる。ほらほらと2人に見せたあと、ファンガスと戯れている。子供のようなはしゃぎっぷりだ。
「楽しそうで何よりやな」と、塔路はそんな空鵺とファンガスもさらにスケッチ。塔路の近くで手元を興味深そうに見ていたファンガスには、短い黒鉛筆を貸してやり、一緒にスケッチを楽しんだ。
 七枷・むつきと標・莱はファンガスを辺りをキョロキョロと見回して探していた。が、白い雪原に白いファンガス、なかなか見つけられない。
「うー……こう、大声で呼びかけたら出てきてくれますかねっ」
 ちょっと興奮気味のむつき。見つけたと思って雪の上にダイブする直前、足下で自分をてしてしと叩くファンガスに気づいた。手袋をはずしてむつきと莱はふわふわ感を確かめる。思わず顔を綻ばせ、幸せな顔で見合わせた。
「まさか、こんなに鈴なりになってるとは……」
 木立にずらりと並んだファンガスを前に神宮・戒は絶句した。思わず苦笑を浮かべて戒を見たのは影守・瑛璃。二人はそっとファンガスに手を差し伸べた。
「小さな……とても小さな命ですね」
 ファンガスを優しく手の上に乗せながら、瑛璃は微笑んだ。
「ん、何だお前……私に寄生したいのか?」
 雪原の隅で雪だるまを作っていた桐嶋・千怜は、近づいてきたファンガスに声をかけた。
「よし、私の真似が出来たら好きにするといい」
 雪だるまを大量に作る千怜。それを真似て、ファンガスも小さな身体で一生懸命雪を集めようとする。そんなファンガスを雪に小さく開けた穴に入れ、千怜は笑う。
「くく、いいなお前。中々に愛い奴だ」
 ウサギの足跡を見つけて駆け寄った風・風緋は、すぐそばにファンガスを見つけて大喜び。
「わ、わ、可愛いー!! よろしくだよー」
 つい出来心で踊ってみた。つられてファンガスもうねうね踊った。
 少し離れた場所でファンガスを探していた鳴羽・遊姫は、偶然ヒグマに追われたファンガスと遭遇した。思わず前に出てファンガスたちをかばう遊姫。ヒグマの一撃はかすったけれど、何とかヒグマを追い払うことに成功する
「キミたち、大丈夫だった?」
 周りにわらわらと集まってくるファンガスたち。自分のことを心配してくれているように思えて、遊姫は嬉しくなった。
 ファンガスは群生地の外に出たらいけない。それなら群生地の外れ近くをスキーの練習がてら滑っておこうと、上山・誠示郎は雪原の端へと向かった。ちょうど白い塊がのたのたと外へ向かっている。
「ん? お前がファンガスか? そっちは危ないからとりあえずこっち来い」

「想夜さん、遅いですねぇ。どちらにいらしているんでしょう……」
 友人に誘われ一緒に来たがはぐれてしまった姫坂・龍胆は、1人雪原を彷徨っていた。物珍しさから雪いじりを始め、手のひらサイズからどんどんとバージョンアップ。次は人型に挑んでみようと改めて雪を触っていると、むにっと違和感が。
「あら? 貴方がふぁんがすさんですか?」
 同じ来訪者で土蜘蛛の龍胆ですとご挨拶。一緒に雪遊びをしましょうと誘ってみた。
 見つけたファンガスと一緒に雪だるまを作ることにした霜月・柚子。手のひらサイズの雪玉作って、最後にちょんちょんって目をつけてファンガスもどきを作って見せてあげると、嬉しそうにファンガスがじたじたと身体を動かした。
 夢中で雪玉を作っていた透賀・乙乃の前に、急に雪玉が。雪合戦の玉が飛んできたと思って、乙乃は思わず身構える。が、ふかっとした感触にその正体に気づいた。ファンガスだ。
「驚きましたのよ? いけない方ですわ」
 スノーボードを堪能して戻ってきた月見里・りのは、雪玉に囲まれて幸せそうな乙乃を見つける。
「この雪玉、乙乃さんが作ったんですか? すごいですね……あれ?」
 よく見ると雪玉ではなく一面のファンガスたちだった。
 フィズ・シュトラウトはころころと雪玉を転がして、雪だるまを作っていた。できたと思ったら、雪だるまの顔部分に覚えのない丸い鼻が。そんなもの作ったっけ? と不思議に思って見ていたら、じたじたとファンガスが出てきた。間違えて一緒に丸めてしまったらしい。
 姉弟で参加した青井・葵と青井・空。雪合戦にソリ、雪だるまと雪うさぎ作りとひと通り遊んだところで、本来の目的を思い出した。
「空、ちょっと探してみようか」
「はーい。どこにいるのかなぁ」
 意外と目の前にいたりしそうと葵。思ったとたん、目の前の雪うさぎが動き出した。そういえば1つ多い。葵は手の上にそのファンガスを乗せて、空に見せてやった。ご挨拶をしないとですね、と空。
「これからよろしくおねがいします!」

「おー! ヒグマだぞ! カッコいい! 美味そう!」
 渦巻・亞瑠麻はこちらの様子を窺っていたヒグマを目ざとく見つけ、向かっていこうとする。それを渦巻・青人が慌てて引きとめた。
 雪原を精力的に動き回ったおかげか、そんな亞瑠麻の前に、ぴょこんと1体のファンガスが現れる。
「おー! これがファンガスかー! のたのただな! 美味しそう!」
 ファンガスをむんずと掴み、迷いなく口へと運ぶ亞瑠麻。
「た、食べちゃ駄目! 良く判らない物を口に入れちゃ駄目! お兄ちゃんはそんな子に育てた憶えはないよっ!」
 白神・麗子は踏み荒らされていない場所を見つけ出し、背中から雪原へ大の字に寝転んだ。そんな麗子を興味深々と言った様子で覗き込むファンガス。
「おや、キミには『桜島大根』という名前をあげよう……ぷぎゃ!」
 命名した途端、通りがかった飛鳥井・響子に踏まれた。小学生で雪女の響子は学園の夏制服姿。雪原では保護色のようで、麗子は接近に気づかったのだ。
「すまぬ!」
 慌てて足をのける響子。彼女も踏み荒らされていない場所をわざわざ探して駆け回っていた。ファンガスを見つけ、「面白い! 同居を歓迎しよう!」と宣言したところだったため、足下がおろそかになっていたのだ。
 大丈夫と返している麗子の横で、踏まれた麗子の真似を見つけたファンガス――『桜島大根』がジタバタと真似していた。もし声が出せるなら、「ぷぎゃ!」と言ったに違いない。
 神中・マイは、見つけて手のひらに乗せたファンガスに「よろしく」と挨拶をした。
「名前は何にするんだ? ちなみに俺はキノコ。神託が降りたんだ」
 真顔で言う彼方霧・白蓮の言葉に戸惑うマイ。とにかく自分は宿ってくれたファンガスの居心地が少しでもよくなるように努力しようと心に誓う。
 そんな二人の隣で、篠並・蛍はファンガスを飲み込むようにして身に宿していた。
「ビバノンノー! ビバノンノー!」
 身体中からキノコが生えればいいと、蛍は全身に力を込めてピルピルと念じる。が、残念ながら生えたのは頭の上に1本だけ。

 ファンガスは白くてもわもわだ。なら自分と似てるのに惹かれないかとミル・フォレストは考えた。
 だから小さな雪うさぎや雪だるまをたくさん作ってみた。さらにミルは、グレートモーラットと踊ってみた。ファンガスのことを忘れて楽しんでいると、いつの間にか周りでファンガスたちが踊っていた。
「わぁ……。ここに、ファンガスがいるんだね」
 白蜘蛛・命と一緒に雪原を歩いていた一条寺・コノハは、まだ見ぬファンガスを思い期待で目を輝かかせていた。しかしいざ出会うと急におろおろ。触っては手を引っ込めてを何回か繰り返すコノハ。
「コノハ姉〜、そんなにびくびくしない〜。ほら、全然大丈夫だよ?」
 肩や頭にファンガスを乗せた命にそう言われ、コノハはそっとゆっくり慎重に触れる。
 楽しくなってきた命が、ファンガスたちを引き連れて、笛を吹いてくるくると踊り出した。コノハもそれに合わせて静かで暖かい歌を歌う。今ここにいるみんなに、ここに来ていない人たちに、すべての人へ……すべての命への祝福をこめて……。
 ファンガスたちを見つけた四季光・鈴夏も、わたし得意のくるくるを教えたいとくるくる回り始めた。
 メイド服は外せないと、いつもの格好で来たため瑠堂・コノカ。動いてれば暖かくなるだろうと、鈴夏と一緒にくるくる回る。回り続ける2人に興味を持ったのか、ファンガスたちがぽわぽわと寄ってきた。真似をしようとするが、雪に引っかかってしまいうまく回れない。
「できないなら、わたしの身体に引っつくといいのです」
 鈴夏はファンガスたちを身体に乗せ、くるくると回ってあげた。
「地球は回っています。わたしたちも回るのです。一緒一緒。ね。ね?」

 こうして見ると、話に聞いたファンガスなのか雪なのかわかりませんねぇと、相馬・雪菜は笑った。雪菜が雪原から跳ね上げ、宙を舞わせた白い塊を手のひらで受け止めて、聞いてみる。
「貴方は、どっち?」
 いつまでたっても溶けなかったそれは、雪菜と運命の糸が結ばれた1体のファンガス。
「ファンガスさまご案内。ほれ寄って来い」
 来訪者だから、無理やりぴっぺがしてというわけにもいけないだろうと師倍・志津真。ファンガスたちに呼びかけ、来てくれたファンガスを宿すことにした。
 もさ……。どうも気の合うファンガスがここには多かったらしい。わらわらと群がるファンガスたち。志津真は来るもの拒まずの精神で気がすむまで身体に乗っけてやった。
「にゃ〜〜、真っ白にゃ♪」
「白い、ほわほわだな」
 無邪気に足もとの雪を掬いあげて、上に投げるを繰り返すのは深山・紅鈴。同じ動きを繰り返す紅鈴を見つつ、飛鳥・ヒドリは初めて見るファンガスたちを観察した。
「雪を満喫するのはいいが、ファンガスと雪を間違うな。今、雪と間違って投げたぞ」
 紅鈴が雪で遊ぶのに夢中で、ファンガスと雪を間違えて投げてしまったのを見つけ、ヒドリは頭を叩いて怒る。
「ごめんにゃさい。大丈夫だったかにゃ」
 紅鈴、ファンガスに平謝り。大丈夫とでも言うように謝る紅鈴の頭の上に乗って、ファンガスはポムポムと跳ねた。
 讖在・瑠璃もファンガスは雪の中にいるっぽいと雪を掘り返していた。ぽわぽわということは、小型のモーラットみたいな感じだろうか? 想像した瑠璃は、ファンガスに埋もれてみたいと思った。
「これがファンガス? かわい〜」
 手袋を外したら、御崎・香雅美の近くふわふわのもこもこがいた。
「ファンガスさんたちは……何かまだ歩き始めたばかりの赤ちゃんみたいな動作で可愛いですの」
 興味深そうに見て微笑むのはエヴァンジェリーナ・サラスワティだ。その内の1体と目が合ったような、そんな気持ちになった。「私でよろしいですの? 仲良くして下さいませ」

 北欧出身の杉江・カベリナは森や雪には慣れていた。1人で散策し早々にファンガスを見つける。
 とりあえず感触その他を確かめるべく、カベリナはしゃがみ込み手のひらで上から押さえてみた。どうやら気にしていないようだ。カベリナはさらに軽く穴を掘ってファンガスを埋め、少し離れてから雪から出てくるところを観察してみることにする。
「…………」
 しばらくしても埋まったまま出てこなかったため、カベリナはファンガスを掘り起こした。雪から出てきた後、近づいて来ても観察に徹し手は出さないと心に固く誓う。
「…………」
 ファンガスは近づいてこなかった。カベリナは来る途中で買った苦いコーヒーを飲みながら、ボーっと座ってほかの生徒やファンガスを眺めていた。
 そんなカベリナ後ろで、さっきのファンガスがボーっとした時間を過ごしている真似をしている。
 叶・真はこの季節に雪があるなんて鎌倉では考えられないとテンションが上がってはしゃいでいた。ファンガスを見つけ、さらにテンションアップ。思わず怪しく両手を構えじりじりと近づいた。その動きを真似るように、ファンガスたちは身体を2ヶ所ほど尖らせ近づいてくる。
「こいつ……動くぞ!」
 ガーンと衝撃を受けたあと、一気に表情を緩める真。
「かわいいなぁ、僕についてきてくれるのかなー♪」
 綾原・義一はファンガスを探して雪原を歩いていた。白くふわふわとした形状のものとは、まるでこの雪のようだなと雪を眺める義一。しかし雪とは違い、日光をキラキラと反射しない何かがそこにいた。
「……なんだ? この生き物は」
 ふわふわしてもこもこしていて破壊的にドキドキさせるソレを見ようと思わずしゃがみ、目線を合わせた気になって、義一は触れようと手を差し出した。
「……家に来るか?」

 こんなにたくさんの雪を見たことがなかった羽鐘韻・璃音は、一面の見渡す限り輝く真っ白な雪原を驚きと感動の気持ちで見ていた。眩しさに目を細め、思わず言葉を紡ぐ。「……綺麗……」
 人けのない時間にと思い、早朝にやって来たのは正解だった。木々の間にキタキツネと、周りに何かの気配を感じる。璃音は微笑み目を閉じて、両手を広げ……そっと呟いた。
「いっしょにおいで。私と共に、生きましょう」
 雪原で雪人形を作り始めた霧雨・有葉。ファンガスに自然の風景以外を見せてあげたいと思ってのことだ。あと、有葉の趣味が人形劇というのも理由の1つ。これから一緒に付き合って行くのだから、自己紹介も悪くないかと思ったのだ。同じ付き合うなら趣味の合う子がいいかと思って。
 その間にファンガスたち集まって、巨大なファンガスだるまを作り始めていた。
 喧騒に背を向けて、舞城・弓矢はふらふらと雪原を歩いた。黒燐蟲がいるとは言え、1人になるのは久し振り。最近ずっと誰かと一緒だったから、余計に寂しいし怖いと弓矢は思う。
「お前も、そうなのかな……?」
 鈴なりになっているファンガスに目をやり、両手を差し出して呼びかけた。
 雪原の景色をぼんやり眺めていた如月・まりんは、スケッチブックを開いて雪原の景色を描き始めた。まりんに興味を持ったのか、ファンガスたちがまりんの肩によじよじと登ってくる。
「ファンガスさんも絵に興味があるんですか〜?」
 ほんわかと話しかけるまりん。絵を描き終わり、まりんは集まったファンガスたちと一緒にほんわかふわふわして景色をまたぼんやり眺めていた。
 小鳥遊・終夜は鈴なり状態のファンガスたちを前に歌い始めた。童謡や子守唄、やわらかな旋律にファンガスたちは心地よさそうに揺れている。終夜は帰る時間が来るまで歌い続けた。
 ハーモニカを吹き始めたのは空天馬・莢華だ。いい反応をしてくれたファンガスにこっちからも近づいて挨拶をする。
「私ね、すごく音楽が好きなの。鼻歌歌い出したりとかしょっちゅうするんだけどそれでも呆れないで付き合ってくれるかな?」
 宿ってもらうなら彼らにも心地よいものであって欲しいから。通じるかどうかは解らないが莢華はファンガスに語りかけた。
「姉さま、この子です。たぶんずっと呼んでたんです、私たち」
 いきなりぴたりと動きを止めて、数いるファンガスたちの中から2体に歩み寄る稲田・琴音。じっと見入って手を差し伸べる。
「……この子、ホントに真っ白でもこもこしてるね」
 その1体に触れ、浅野・クリューナ夢衣は感動気味に一言呟いた。

 雪だるまを夢中でたくさん作っているのは川満・紅実。木立の影に、エゾシカやキタキツネの姿が見え、雄大な大自然の中にいるのだと実感する。ふと視線を雪だるまに戻すとその陰に動くものが。ファンガスだ! 手のひらで大切に包み込む紅実。「これからどうぞ仲良くして下さいね♪」
 宇賀・蛍は、ファンガスのそばに雪うさぎを置いてみた。思ったとおりとてもかわいい。
「名前があったほうがいいかも。うんとキュートでかわいい名前を結社のみんなと一緒に考えなくちゃ」
 ここの雪は質感が違う。火燈・文歌は雪をじっと見ていた。もわもわしてなんだか動いてるような……? ファンガスだったと気づきご挨拶。「これからはお友だちですね。よろしくお願いします」
 寄ってきたファンガスに、「ん、キミも気に入ってくれた? この雪うさぎ♪」と声をかける月乃音・美禍。神雀・霧夜はファンガスたちを観察してしみじみ呟く。「雪の中でも、育つんですねぇ……」。
「ファンガスかぁ〜。なんや面白いことできるみたいやけど、一体どんなことなんやろ」
「面白いか会ってみないとわかんないけど、力にはなれるんだから良いんじゃないかな」
 大きな雪だるまを2人がかりで作りながらおしゃべりしているのは、ユウキ・スタンッアと雪乃城・あやめだ。息の合った動きで、思ったより早く立派な雪だるまができる。ふと気づくと、横にいつの間にか小さな雪だるまが。
「ユウキ? ここに小さい雪だるま作っ……えっと、これがファンガスさんかな?」
「……こいつらか!? 思とったよりかわええやん♪」
 小さな雪だるまの前にいる2体のファンガスは、ユウキとあやめをに、次は何を作るのだと問う――ている気がする。
 そんなファンガスたちをひとしきりつついたあと、今度は雪うさぎを作る2人。できあがった2ずつの雪だるまと雪うさぎ、ユウキとあやめ、そしてそれぞれのファンガスたちと一緒に、記念に写真を撮ってもらった。
「俺はスノボな、前にやった事あるからちゃんと滑れるんだぜ!」
 そう言っておいて、止まれなくなったのは緑乃・音祇。
「……夜宵ー、やっぱ俺にもコツ教えてくれー……」
「あぁ、止まり方や転びそうになった時の受身は最優先で教えるべきですね」
 ケガをしてしまったらせっかくの楽しい時間が台なしになってしまうからと、スキーとスノーボード両方の経験者である御神・夜宵が実演しながら教えてくれる。音祇は夜宵が頼もしく見えた。
「あたしへたっぴやからなあ。みんなについて来れるか心配やなー……」
 気弱になった緑乃・紀之子は先にみんなに謝る。しかし夜宵の適切な指導を受け、持ち前のやる気を取り戻した。
「ねぎ君もいっしょに頑張ろ! みんなで頑張ればきっと上達も早いでっ」
 真面目に取り組んだ紀之子はかなり滑れるようになっていた。自分も負けていられないと音祇も気合を入れて練習をする。
 何度目かの転倒のおり、音祇は雪の中で動く何かに気づいた。ファンガスだ!
「ンなとこにいたらさみーだろ! こっち来て俺らと一緒に遊ぼうぜっ!」
 紀之子も自分に近くにいたファンガスに気づき、手のひらに乗せる。
「初めましてファンガスさん、あたし紀之子って言うねん。『キノコ』同士、仲良くしてくれると嬉しいわっ!」

 ユラ・セレストはファンガスに会いたい、どんな姿をしているのかとわくわくしていた。
「一緒に滑れたらよいのになあ。もうこの場にファンガスはおるのじゃろうか」
 視線の先、ユラは1体のファンガスを発見。そのファンガスを肩に乗せユラはスキーに向かう。
「運動はいいのう。妾とファンガスはもう友達なのじゃ。これからよろしくなのじゃ。一緒に素敵な大人の女性を目指すのじゃ」
 散策していたエル・クロックスも、「一緒に行きますか?」と見つけたファンガス声をかけた。クロスカントリー用のスキーを履いてファンガスを探す八束・露。寄ってきたファンガスに、一緒にあちこちを見ようねと、外のことをいろいろと語っている。
 スノーシューズで散歩しながら鈴なりになったファンガスたちを見つけた御神渡・美雪。その中に、自分に向かってやってくる人なつっこい感じがするファンガス見つけ、それを宿すことにした。
「こんにちは、ファンガスくん。これからよろしくね♪」
 加東・大治郎はスキーでスピードを出しすぎ、転びそうになったところでファンガスを見つけた。思わず手にとってご挨拶。
「はじましてー。俺、加東大治郎。これからよろしくねー」
「ひゃっほー! 一面白銀の世界!」
 名前のとおり、雪に活きるのですとスノーボードで滑り出す小林・ゆき。名前とテクニックは関係なかったのか転がる転がる。「必殺、雪だるまスノボ」状態になったがファンガスをゲッツ! でも、ボードを止められなくてさらに雪に包まれながら、雪原を転がり落ちていった。
 スノーボードで雪原を思いきり滑走する進堂・崇之。雪だるまや雪うさぎ、いろんな障害物は避けながら滑っていたら、エゾリスが木の実を食べている木の下にひょこひょこ動く白いファンガスがいた。
「お前ファンガスっていうんだろ? ……あ、名前じゃねぇのか……。まぁいいや、俺と来いよ。俺と行こう?」
「ほおおおう! 本当にしろくてほわほわですー!」
 大興奮での百千万億・奏。ファンガスが人の動きを真似するそうだからと、とりあえず踊ってみた。
 ノリのいいファンガスたちが踊る踊る。揺れる白いファンガスたちの中で、奏のピンクのうさぴょんの着ぐるみが映えた。柊・華蓮も中心に進んで一緒に踊る。踊りながらファンガスを身体に宿した。
 小鳴・冬路は見つけたファンガスに手を差し伸べる。普段は眠たげで表情を表さない冬路だが、今だけは別! ファンガスの可愛さにデレデレと悶え、ハイテンションに笑みを零していた。
(「……可愛いは、世界遺産……。共生バンザイどんと、コイ」)
「ファンガスの山があったとさ〜」
 アルテア・マッコイは歌いながらファンガスたちと遊んでいた。その光景をアルテアは写真に納める。
 明生さんはファンガスを大絶賛していたけど、説明された範囲では可愛いと感じる要素はなかったと思うと成海・夏鈴。もわもわでのたのたな菌類って……寧ろホラーなような……。
 今更だけど、ちょっと駄目かもしれないと夏鈴は遠い目をした。でも、手伝うと決めたのは誰に強要されたわけでもないから。
「……頑張るしかないのよね」
 真っ白銀世界で白いファンガス探しは、探し難そうというかちょっとしたミニゲームじゃないかと八伏・弥琴は思った。何はなくとも、記念に空と一緒に雪景色の写真を1枚。
(「ん? 今ファインダー越しに何か動いたような……」)
 ファンガスが採れると聞いてやってきてしまった池田・勇人と池田・クラレット。
 勇人はお約束の怪しいポーズを決めファンガスを待つ。隣で七輪とお醤油を準備するクラレット。しばらくしてこちらに興味を示したっぽいファンガスがやってきたが、この動く物体をどう採るのか解らず、見合ったままで動きを止める2人と2体。
「……食べますか?」
「……食べられるのだろうか?」
 迷った2人の心になんとなく「食べないで」という、ファンガスたちの気持ちが伝わってくる。
「……? なんか、体に違和感が……ファンガスが体に宿ったってことかな?」
 瀬名・琉美はふと頭に手をやった。雪とも髪とも帽子ともちがう、しっとりとした手触りがある。
「ぱっぱぱー♪ あたしはファンガスを仲間にしたー♪」

(「俺の、俺たちの進む道には戦いが待っているだろう。それでも来たいという奴は、俺と来い」)
 そう思いながら、千鴉羽・志音は雪原を歩いていた。何かあっても大丈夫なように気を張ったまま、人けのない場所を調べるように動く志音の前に、どん、と現れた1体のファンガス。どこか決意のようなものが伝わった気がして、志音はそのファンガスを肩に乗せた。
 落下物がないかと袋を片手に拾って回っているのは北坂・理都。意図していなくても落としてしまうゴミもある。ファンガスの住処を守るため、拾って帰ろうと決めていたのだ。そんな理都の後ろをついてくるファンガスがいた。
 昨今の情勢を鑑みれば、今この場で何が起きてもおかしくはない。バレイア・エストラニオはファンガスとみんなの共生が終わるまで周囲を警戒しておくことにした。ファンガス自体も繁殖できれば相手を選ばない感じでもあるため、念のためだ。
「せっかくの繁殖期。邪魔されたくはないだだろしね」
 群生地の外周部付近で外に出てしまいそうになってるファンガスがいないか、パトリシア・クーガーは念のため調べていた。動物の鳴き声のようなものがして視線を向けると、キタキツネが何か白いものを前脚でてしてしと叩いている。ファンガスだ! どうやら外に出てしまったらしい。
 動きが遅いため、身体を気持ち膨らませて威嚇するのが精一杯のようだ。パトリシアはわざと音を立てて近づきキタキツネを追い払う。
「おイタはいかんが、活きがいいのは結構なことだよ。外の世界が見たいなら、一緒においでおいで」
 助けて手のひらに乗せたファンガスに、パトリシアは語りかけた。

 そんな平穏な時間が過ぎ、そろそろ帰り支度を考えないとと言っていたとき、異変は起こった。
 山の上部にざっと線が入ったように見えた。
 すぐにそれはずるずると崩れ、人も動物もファンガスたちも飲み込む白い牙――雪崩になる。
 それに気づいた緒方・光希は、抱えれるだけのファンガスを連れ、すぐさま傾斜に対して横に逃げた。
「逃げろ、雪崩が起きたぞ!」
 その声を聞きつけ、警戒していた蒼霧・凍香と色織・双鵺は即座に場所を確認する。ファンガスたちの繁殖地を掠めるように崩れている。気づいた布袋・葵も大声で注意を喚起し、避難を呼びかけた。
 羽角・ひなたも春だしと注意していたので、異変を感じ取った。見た感じ小さな表層雪崩だ。周囲に呼びかけながら、大規模なものへと育たなければいいと願う。朝霧・由希や柊・夏実も逃げ遅れそうな人がいないか確認を怠らない。マドカ・ヴェイドラーは凍香が指示した場所にいたファンガスを拾ってスキーで雪崩から逃げ切った。動物たちは自分たちの足で逃げていた。
 警戒が十分だったおかげで、人が故意以外で巻き込まれることはなくてすんだようだ。
 今日一日ソリで遊んでいたファース・レガリアは、雪崩を見て目の色を変え波、ではなく雪崩に乗りに行った。烏頭森・万葉も一緒に雪乗りで降りてくる。
 小学生の2人がやり遂げた顔をしてソリを止めたとき、待っていた年長者の雷が頭上に落ちた。

●芙美に聞いておきたいこと
 湯滝で、洞窟で、雪原で能力者たちが明生・芙美に声をかけた。
 ファンガスとは何か、共生体になったら何ができるのか、ファンガス事件とはどういうものなのか、ファンガス事件のあとどうなったのか……しばらく質問は終わりそうになかった。

「芙美さんって、直接ファンガスの事件に関わったわけではなくて、お友だちの能力者の紹介でファンガスを宿したんですの?」
 足湯を楽しみながらランナ・ウインドは、同じく足湯を楽しんでいた芙美に声をかけた。
「はい、事件のことは後で教えてもらいました。友だちが親しくなったファンガスさんがいるんですけど、その子の面倒を看ているうちに宿しちゃったみたい。休みの日とかずうっと一緒にいたから」
「でも、私って体内に白燐蟲を飼っているのよね。大丈夫なのかしら?」
「大丈夫ですよ。ジョブのときもそうでないときも、一緒にいてくれます」
 波多野・のぞみは一番の気がかりに返事をもらった。
「白燐蟲たちと仲良くしてくれると良いのだが……」
「僕の黒燐蟲たちと仲良くできるのかな?」
 九枷・依と鷲塚・直人も気持ちは同じだ。白燐蟲の導きで能力者になった月臣・葵は、しろくてふわふわのファンガスに親近感を抱いている。
「私のモーラットとも、仲良くできるといいですね」
「ぽちとケンカしないといいけど……」
 空咲・華夜もナイトメアを思って少し不安だった。大丈夫と笑う芙美の言葉を聞いて少し安心する。
「緑色の液体になるようなヤツに心当たりねぇか……? 少しでもあれば情報提供して貰えると助かるんだが……」
 芙美にではなく、雨夜・銀は身体に宿ったファンガスに尋ねていた。しかし、不安げに動くだけで何も伝わってこない。
「銀さんがその人のことを気にしているってことはわかったみたい。この子たちから何も伝わってこないことを思うと、たぶん知らないと思う。この子たちが知ってて怖がっていたり、嫌っていたら、その感情は私たちにもなんとなく伝わってくるはずだから」
 火照った足を川から引き上げながら、芙美が銀のファンガスの代わりに答えた。
「ファンガスは何を食べるんだ? 芙美さん」
 そういえば、とこちらも湯滝で火照った身体を冷ましつつ尋ねるのはジークフリード・ヴァイスだ。
「お肉でも野菜でも基本的に動物が食べられるものなら何でも。でも、共生体になったら別に何も食べなくても平気なんです。身体を維持するだけなら、ここにいる小さい子たちも別に食べなくても大丈夫」
「そうか。ファンガスと和解に成功したという銀誓館学園のその生徒にも会ってみたいものだな」
 そのときの話を聞かせて欲しいと、ジークフリードはお茶と茶菓子を出した。
「かまわなければ、明生のファンガスも見てみたいな」
 そう言う石弓・衝平に「はい、どうぞ」と、頭のてっぺんを見せる芙美。「ひーくん、お願い」という芙美の声に、いわゆるキノコ型をした白いファンガスがむくむくと姿を現した。その衝撃的な情報に周りにいた能力者たちに衝撃が走る。
「頭に、生えた……!」

 洞窟には能力者たちの興味を引く壁画があり、その前には人がたくさん集っていた。
 相模・幸宏もそう。ファンガスが人の姿へと変じている壁画を前に報告書を思い出していた。
(「力が強くなったファンガスは、共生した人間が強く思っている人の姿を取る、だったか……」)
 下らないことを考えている、と幸宏は舌打ちをした。
(「……本当に下らない」)
 壁画の前にたたずむ幸宏の様子に気づき、壁画の写真を撮っていた芙美がおずおずと話しかける。
「――カムイワッカの中でなら、ファンガスみんなの力を集めれば1度に1人ぐらいなら姿を取れるかもしれない」
 思ってもみなかった言葉を突然かけられ、幸宏は芙美を振り返った。
「姿が似てるってだけだけど……」
「……。……そうか」
 ならば、それは自分の心の拠り所である彼女ではない。
 幸宏はかぶりを振って壁画から目を離した。気を取り直して、自分の視点で写真を撮ろうと歩き出す。
 そんな2人の会話を後ろで聞いていた武藤・旅人はガクリと肩を落とした。旅人はファンガスに彼女の姿をとらせて驚かせようと考えていたのだ。
(「彼女を驚かすためだけにこのツアーに参加したと言っても過言じゃないのに……」)
 旅人の心を感じ取り、頭の上に乗っかっていたファンガスもしょぼんと項垂れていた。
 壁画を見て、生命の神秘というか不思議さに思いをはせる樺井・宵空は、彼ら独特の文化はあるのだろうかと芙美に尋ねた。
「昔はあったようですけど、今は文化と呼べるものはないですね。それより今は、人間からいろいろ教えてもらって学ぶのが楽しいみたいですっ」
「このファンガスってこんななりで、昔はある程度文明持ってたのか」
 鎖神・ヘリオスは少なからず衝撃を受けた。思わず壁画を仰ぎ見る。
「これをファンガスたちが書いたと言うなら、世界結界のできる前は繁栄していたのでしょうか」
 高天崎・若菜の不安げな声を聞きつけ、慌てて芙美は説明を始める。
 この壁画は、忘却期前後ファンガスの存在を知っていた昔の能力者たちによって描かれたもので、そのことを伝えていた一族によりときどき文字や絵が書きたされてきたのだ、と。
 なるほどと若菜は頷いたが、それならそれで別の心配ごとが胸をよぎる。ファンガスはその特性により人に憑き、運ばれ異邦の地でまた繁栄する。そしてそこで新たな協力者、共生者と出会ってまた繁栄……そんな想像が尽きない。
「もし世界結界がなかったら、この世界はどうなっていたことでしょうか……。ファンガスが友好的であったから良かったものの、仮に敵対していたとしたら……混沌の極みでしょうね」
「世界結界の偉大さと、友好を結ぶっていう大切さを改めて理解した気がしますねっ」
 若菜の言葉に、芙美は洞窟の中だったが思わず天井を見上げた。

 壁画の絵をメモしていた降魔・散人は、おしゃべりをしている芙美に気づき声をかける。
「強大な力を秘めたペンダントを持ったファンガスはどこにいるのかご存知ですか?」
「さつきちゃん……あ、ペンダントから力を得ているその子だけは人型をとっているので、そう呼んでいるんですけどっ。彼女は今は鎌倉にいます。ときどき様子を見にみんなとここに来たりしますけど、基本的には学園のすぐ近くにいますよう」
「剣術『明王活殺』の開祖の方は、女性かつファンガス共生者だったのですよね。銀誓館と運命の糸が結ばれた現在の状況をどう思われるのでしょう……」
 メモをしていたその手を止め尋ねるサーシャ・ロマノヴァ。
「ファンガスとの交流を望み、彼らとの共存の道を模索した開祖ですから、たぶん喜んでいるんじゃないでしょうかっ。きっと、そう思います」
 鍾乳石から額に落ちてきた水滴を拭いつつ、芙美は答えた。御門・輝夜も「なあ」と聞いてくる。「この洞窟はどこまで続いてはるんやろ?」
「正確なことはわかりませんけど、最長で知床半島の南側まで続いているところがあるみたいです。何でも変わったコケの生育地があるそうなの。ひょっとしたらそこまで続いてるかもしれないって」
「ファンガス・マザーはいてしまはりませんのやろか?」
 ファンガス・マザーとは、芙美の友だちが暴走を止めたカムイワッカにいた巨大なファンガスのこと。一時的に成長を留めたが、そのあとのことは報告書には記されていなかった。
「事件のあと、さつきちゃんが説得に通ってくれて、わたしたちが敵ではないとわかってくれたんです」
 それはどういうことかと視線で促され、芙美は先を続ける。
「ファンガス・マザー……ここ一帯の母親的存在だった巨大なファンガスは、生き残るためにより強い存在となろうとしていたんです。ですが、わたしたちがファンガスという種を駆逐せず、共存を望み、そしてその方法を具体的に用意したことで納得してくれました」
 ペンダントの力を借りてだが、自身に秘められたファンガスとしての力を制御できるさつきにマザーは力のほとんどを預けることで、今ここにいる普通のファンガスたちとかわらない能力と力に戻ってくれたのだという。
 その辺りのことを疑問に思っていた能力者はほかにもいたようだ。なるほど声が上がる。
「ファンガスの共生体となってできる『面白いこと』とは何だろう?」
「せやな。どんな力が使えるんか気になるんやけど……」
 壁画をチラチラ見ながらサディア・ラズィエリ。心の準備が必要かもしれないと思い、自分で試す前に聞いておきたかったのだ。坂祝・刀美も具体的なことが知りたかった。
「あ! じゃあ、簡単なのお見せしますね。コレはツキヨタケ、毒キノコです。でも……」
 みんなが見ている目の前で、ゴソゴソと取り出したそれを芙美はパクリと食べてしまった、生で! 驚くサディアや刀美の前でケロリとしている芙美。
「毒キノコが怖くなくなりますっ!」
 それ以外にはこんなことができますと、芙美はみんなに技を見せた。
「宿すのに、痛かったり吐き気とかしないかなぁ〜……」
「共存者になったら、じめっとしたトコが好きになるの……?」
 不安そうにお腹を押さえているのは姫月・結那、イツク・シオンも動揺を隠せていない。
「少なくともわたしはそういうことはなかったですっ。でも、この子が喜びそうだなって勝手に想像して、水浴びさせちゃうことはありますね〜」
 自分が喜ぶと宿したファンガスもその心の動きを感じ取るため、結果的に好きそうに見えるかもしれないと芙美は付け加えた。
「共生すると水虫とかにはなりませんよね……コレ」
「大丈夫。ファンガスは水虫さんじゃありませんからっ」
 思わず呟いた長森・瑠那に、ちょっとずれている芙美の答え。
 来年はファンガスは鎌倉市内で繁殖するのだろうか。横穴にびっしりと繁殖しているファンガスを見ながら、気になった西迫・舞人は聞いてみる。
「共生体としてしか連れて帰りませんから、鎌倉で繁殖することはないと思います」
 確かにコレは驚きますよね、と同じ横穴を見て芙美は苦笑した。
「共生って具体的には蟲のように体内寄生って感じですかね? まあ頭に生えても無問題ですが世界結界としてはそうはいかんでしょう?」
「そうですね。蟲さんとの関係に似ている気がします。頭に生えちゃいますけど、隠れて欲しいときはちゃんと隠れてくれますから大丈夫ですよ!」
 にっこり笑って尾道・欽九郎の質問に答える芙美。芙美はここでも相棒の『ひーくん』を見せ、周りに衝撃を与えていた。「やっぱり、頭に生えるんだ……!」
 いち早く衝撃から立ち戻り、いろいろ大変だったんですねと妙興寺・摩耶。
「ファンガス事件を解決したというお友だちのお話も、お聞かせいただけませんか?」
「解決したのは4人。うち2人は、わたしと同じ歳で、同じクラブのお友だちだったんです!」
 芙美は目を輝かせて、摩耶に事件を解決した4人の友だちとその一件で仲良くなったファンガスの女の子のことを話し始めた。次第に「誰が誰と恋人同士で……」といった恋物語に花を咲かせ始める。
 洞窟探検隊と、伊達眼鏡にミリタリぽいファッションで気分を盛り上げていたが、王・明花は聞こえてきた恋物語に引き寄せられるように芙美の下へやって来た。初代のファンガスと友好を結んだ一族の話が聞きたかったのだ。
「初代は女性だったと聞きますがお相手はどんな人だったのでしょう?」
 それはあまり関係ないんじゃないかという周りのツッコミにも明花はひるまない。
「いえ! 恋話はいつでも大事!」
「そうですよねっ!」
 握りこぶしを作って芙美は同意する。「詳しいことはまだわかっていないのだけど」と断ったうえで、妄想混じりの恋物語を語り始めた。
「初代の旦那さまは一族の相談役だったみたい。その彼には初代に密めた恋心を抱く弟がいたの……」
 ――話はなかなか終わらなかった。

 雪原ではウィンタースポーツ用品の貸し出しをしていた芙美。その流れで、ひと段落したときに「そういえば」と尋ねられた。ピンクのスキーウェア姿の白嶺・踊子だ。
「今年はいいですけど、この調子で毎年どんどん増えていったら、早晩手の施しようが無くなると思うんですけど……。銀誓館の能力者だって無限じゃないんですし……」
「今回は特に元気に繁殖しちゃったんですよう。本当にみなさんが来てくださって助かりました〜」
「連れて帰ったら、朝起きたら布団からキノコが生えてたー、なんてことになったりはしないのかー?」
 はーいと手をあげ尋ねたのは赤坂・ヒカリ。愛嬌を感じたやつを選んで連れ帰るつもりだが、そこは確認しておきたかった。
「ええと、ファンガスたちは、みなさんの力を借りて何とか元気にいられるぐらいなので、そういうことはないです。安心してお布団を干してくださいねっ」
「でも、こうやって街に出てったファンガス。ジョブチェンジで解放されちゃったのが集まってコロニーを作っちゃったりしないのかな? ちょっとそれが不安かな」
 山上・雪乃のもっともな心配に芙美は大丈夫とにっこり笑って答える。
「ファンガスを宿した人がそのあと別の能力に目覚めても、ファンガスたちはその人の身体の奥底で眠っているだけなんです。また力を使いたいときは呼び起こしてもらえば、ちゃんと力も貸してくれます。身体から解き放たれるわけじゃないですから、安心してくださいね」
「湯滝でも洞窟でも雪原でも生きられるってことは、温度差はそれほど影響しないんだろうか」
 スノーボードを片手に尋ねたのは渡・醍醐。
「この外見でもいちおう地衣類で来訪者ですからねっ。ただ好き嫌いでいうと、極端な温度はあまり好きじゃないみたいです。温かくて、適度に湿っぽいところが一番好きみたい」
 九条・たつきも雪だるまを作りながら問う。
「野生動物もいるようだが、そっちには憑いたりしないのか?」
「野生動物や無関係の人間にとり憑かないでくれるよう、これだけは徹底してお願いしてありますから大丈夫です。さつきちゃんがみんなに言い聞かせてくれました」
「さつきちゃんって、先輩のお友だちが友好を築けたという人格を持ったファンガスのこと……ですか? とても興味があるんですけど。そのデジカメに写ってたりしませんか!?」
「ちょっと待ってね」とデジタルカメラを操作して、芙美はわくわくして待つ空天馬・莢華に見せてあげた。そこには緑色のリボンが似合う、オレンジ色の目をした色白の女の子が写っていた。
 司・葬も迷惑かけない範囲で調べたいことがあるので手伝って欲しいと芙美に声をかける。葬は人型でない来訪者が近くにいる場合、電波障害は発生するかが気になっていたのだ。来訪者の土蜘蛛は平気だけれど、使役ゴーストである蜘蛛童の場合は電波障害が起こるから、と。
「共生状態なら発生しないでしょうけどね。この情報、将来ほかの人型でない来訪者との接触時には、かなり有益なものになりますから」
 トランシーバーを使ってみたが普通につながった。手ごたえを感じてトランシーバーをしまう葬。
「ファンガスを共生させたら携帯が使えなくなるなんてことはないですよね?」
「使ってみましょうか?」
 笑って芙美。使った携帯電話はつながらなかった。慌てる葬にペロリと舌を出して言う。
「ファンガスたちのせいじゃなくて、ここは電波がつながらない場所なんでした」

 ――質問は尽きないが、あとは身に宿して力を使ってみてから、もしくは学園に戻り得た情報を検討してからだろう。
 能力者たちは帰る時間まであとは楽しむことにした。

●季節外れのダイヤモンドダスト
 雪が緩み雪崩が起こったのは温かさのせいだったのだが、日暮れと共に一気に冷え込んできた。
 気まぐれな冬将軍が南下してきたらしい。急に気温が下がったことを感じた櫻井・真尋は、そういえば明生さんがダイヤモンドダストが見られるかもしれないって言ってたっけと空を見上げた。
 ――空気が輝いてるみたいに見えた。
 一瞬、在鴇・エチカは目の錯覚かと思ったが、空気中に確かにキラキラと輝くものを見つけた。目に映る一瞬を楽しみつつ、キラキラに飛び込んで抱きしめるように思いっきり雪の上を走る。この季節では見られることは滅多にないダイヤモンドダスト、カムイワッカから銀誓館の能力者へのプレゼントのようだ。
「うん……。やっぱり自然が魅せる景色は綺麗だよね。そう思わないかい?」
 まったりとダイヤモンドダストを見ていた絢凪・瞬は、芙美に話しかける。芙美は「そうですね」とうっとりしながらデジタルカメラを構えた。
 きらめくダイヤモンドダストに、影守・瑛璃と神宮・戒はただ見惚れた。ダイヤモンドダストを見るのは昔からの夢だった前田・由虎は、自然からの突然の贈り物に目をウルウルさせる。
「うわぁ! ……すごいッス! 綺麗ッス! 感動ッス!!」
 秘かに期待していた蒼霧・凍香もその美しい光景に息を呑む。空気を切り裂くような速度でスキーを滑っていた御門・悠輝は、また大自然からのプレゼントに滑るのやめた。音無・夕月は真グレートモーラットのうーたんと2人でダイヤモンドダストに見入っている。
「あ、狩耶さん見てください!ダイヤモンドダストですよっ♪」
「これがダイヤモンドダスト」
 スキーの練習は一時中断。ダイヤモンドダストに目を奪われている隙をついて乗っかったファンガスをレアーナ・ローズベルグは肩に、如月・狩耶は頭に乗せて、ほぅ……っと見惚れていた。
「そういえば、北海道に来たのはシンデレラさんのとき以来だなあ」
 ルアン・ニーチェは緑の三角帽子が似合うのヤドリギ使いのことを思い出した。本でしか知らなかったダイヤモンドダストを実際に観られて喜ぶ。急いでカメラを構えて夢中でシャッターを切った。
「行かなかった人たちに見せてあげよう」
「わぁ、すっごく綺麗〜♪ こんな素敵な景色を将弘さんと一緒に見れて幸せです♪」
 心底嬉しそうに笑ってくれる水瀬・夢美を愛しいと思い、鳥井・将弘は微笑んだ。
「俺も夢美さんと一緒に見れて嬉しいですよ」
 薄暮の中、突然もたらされた大自然からの贈り物を、能力者たちは帰り支度をする手を止めて静かに享受した。

●辺りは薄暮に包まれて
 芙美が決めたツアーの最終時間が近づいてきた。能力者たちは三々五々に家路に着き始める。宿ったファンガスを見せ合う者、今日得た情報について語り合う者さまざまだ。
「楽しかった……来年も死なずに来れると良いな……」
 クロード・ニーズヘッグは戦いで散った戦友に思いをはせ、遠い目で空を見ていた。
 空港で買うお土産について考える者もいる。芽野・孝宏はお土産にトドカレーかクマカレーの缶詰を、シュヴール・ルドルフも結社のみんなに、ボルケノ・シュベルツリッターもお嬢さまたちに何を買おうか思案していた。綾瀬・桂は買う余裕があるかが気になっていた。
 湯滝から帰る前、平永・玲奈は念のためと帰り際に旋剣の構えを試みた。きちんと宿せていたなら使えないはずなのだ。結果は――使えない。ほっと安堵の息をついて山を下っていく。
「あ〜、楽しかった。じゃあな〜、ファンガス!」
 ルーク・クライオンは大きな声で叫ぶように言い、帰っていった。
 新しい相棒にはにこやか挨拶をして、前の相棒にはまた会う日を誓ってこの地を去る能力者たちもいる。さっそく身につけた能力を試しながら、来た道を戻っていく者も。
 明日からはまた鎌倉に戻っていつもの毎日が始まる。
 半ば観光気分でやってきた。けれどそれで助かった生命が確かにあることを、きっと銀誓館の能力者は忘れないだろう。そう、ふいに知り合いの頭の上に生えた白いキノコを見たときとかに。

 洞窟で、ユーリリア・イセンガルドが帰りしなに絵を1つ書き足していた。
 隅の方に小さく、手の上に乗せたファンガスと笑顔で話をする人の絵。
 ここから新しい関係を築いていけるよう祈りを込めて描かれたその絵の周りに、銀誓館の能力者たちを見送ったあと、ファンガスたちが嬉しそうに集っていた――。


マスター:篠谷志乃 紹介ページ
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いまいち
参加者:1489人
作成日:2009/04/30
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