<リプレイ>
●その前に 交通の便が悪い、と言われていただけあって荷物を背負いながら延々此処迄歩いてくるのは苦行にも近かったが、開かれた景色に能力者は揃って感嘆の声を上げた。 「わぁ、凄い雪……寒いですけれど、綺麗ですねぇ」 ダッフルコートとマフラーを着込んだ此花・縁樹(砂の薔薇・b01304)の歓声は白い息と共に。広がる銀世界は正に壮観。緑を宿す木々も山も、何もかもが真っ白。雪が一面に広がっているだけで何かが起こりそうな、そんなわくわくした感覚がやって来る。 (「依頼のついでに雪遊びねぇ……能力者がこんな調子でいいんだか」) 残留思念の退治は名目と知っている鳳・南雲(中学生青龍拳士・b11630)は弛んでいる、とも思う。だが、 「……犠牲者が出る前に処理が出来るのはいいことですね」 シア・ウィスタリア(小学生ゾンビハンター・b03026)の無感情な呟きに、確りと能力者としての自覚を持って「遊びに」来ている事を知る。 「……まぁな」 遊べる内に遊んでおくのも悪くない。立場柄、常に平和を甘受出来るとは限らないのだから。 誰かが言う迄もなく、能力者達は自然と写真の場所を探し始める。 「親分、ドんな感ジデスー?」 テラ・ゲゼル(中学生魔弾術士・b14617)の呼び声に親分と呼ばれた逢坂・壱球(流星球児・b16236)は両腕を上げてバツ印を作る。山の形を参考に、森に沿って探せば大した手間も掛からずその場所は見つかった。葉月・十造(昼行灯・b00384)が携帯のカメラで確認し、雪達磨を作っておく。こうすれば観光客の目にも不自然には取られない。雪達磨の頭をぽんぽんと撫で付けながら、一区切り付いた事で壱球が嬉しそうににっと笑った。 「……日暮れ迄、遊ぶぞーッ!」 おーっ! と、純白の世界に賛同の声が上がった。
●デート? 勝負? ……雪合戦も戦いです (「雪遊びか……」) 全身黒ずくめの防寒着を纏った浅奈・無月(月無キ夜ヲ歩ム・b17530)は、駆け出していった面々を見て淡々と足元の雪を掬ってみる。 「…………」 周りの雪を両手で掻く様に集め、小さな球を作ると無言の侭ころころと転がす。その侭無心で球を大きくしていった。 「防寒はばっちりと思っていましたが手袋を忘れていましたね……」 風邪を引きやすい体質の縁樹は寒さに身を寄せる様にして手に息を吹きかける。色違いではあるけれど、お揃いの防寒具を纏った霧生・颯(小学生魔弾術士・b01352)と霧生・楓(小学生ファイアフォックス・b01351)の双子は二人寄り添ってせっせと雪達磨を作っている。 目標は、身の丈の倍はある雪達磨作り。楓が動かし辛くなった雪玉に困った様な声を上げた。大きすぎて重い球はとても二人の力では持ち上げられない。きょろきょろと辺りを見回し、木陰で昼寝を決め込もうとしていた「お兄ちゃん」の側に寄って行く。二人揃ってお願いの特技を発揮し、『頼り甲斐のあるおにーちゃん』の一言に彼はあっさり陥落した。 ……長身の南雲なら、腕力さえあれば頭を乗せるに苦労しない事も双子は見抜いたらしい。満足そうに記念撮影も、ばっちり撮っていた。 「よっし、雪合戦するよーっ」 笹原・るえる(黄金の林檎姫・b01819)の招集に何人かが集まっていく。十造は森で枝を拾っていた。 「よーし、チビ助、かまくら造るぞカマクラ♪」 「合点承知なのデス♪」 スコップを担いできた壱球に、テラもスコップとは反対の手で敬礼して見せた。伊達ではない筋肉が大量の雪を掻き出す。 全員が入れる様なかまくらを作るには、体力と根性も必要だ。巨大な半円が出来上がった頃には流石の壱球も息切れしていたが、整形の為に屋根に登ったテラを見てハラハラと心配になる。気前の良い返事をした側から、テラはバランスを崩した。 「うみょー!?」 雪合戦のやり方を知らないというシアに松田・雪智(夢の迷い人・b16543)がルールから教える。 「はい……つまり、雪玉で敵を倒せばいいのですね」 「……合ってますが、何となく不穏な言い方ですね」 固めの雪玉も用意するといいと教えて、二人で雪玉を蓄えておく。るえるの悲鳴の様な声が上がった。 「ぅやー、どこ飛んでくのー」 胴体を狙ったつもりが、大暴投。雪玉は木陰で昼寝にありつけた南雲に命中。 「ぶっ……やりやがったな!」 「きゃー! 十造先輩、助けて〜!」 笑いながらるえるが背にささっと回り込む。十造は微笑みながら、彼女に投げられた雪玉を枝で払い落とした。 「守るのはやぶさかではないのですが……釈然としないのはなんでだろうね?」 頼りにされている証拠です、きっと。 「ふふっ、コントロールには自信あるのですよ結構」 寒さに震えながらも此方も雪合戦は初めての縁樹。雪玉は狙い違わず、雪智に当たった。だが、シアの投球が上方に当たり、マフラーの隙間から冷たい雪が滑り込んでくる。 「ひゃうっ! ……っ、やりましたね!!」 雪の冷たさに意外な悲鳴を上げた彼女は頬を真っ赤に染め上げると、ルール無用で怒涛の反撃に転じる。負けじと雪智も柔らかい球を纏め投げし、怯んだ所へ固めの球を投げるという巧みな戦術で対抗した。
「完ー成ー!」 「やったデスー、親分ー!」 雪合戦が白熱してきた横で猫耳型のかまくらが遂に完成した。 作品の完成度に満足しつつもテラが双子をちょいちょいと手招く。小さな子供は、それだけで冷えるのも早いだろう。元から休憩所に作ったかまくらに壱球も快く招待する。颯がぺこりとお辞儀をして、楓が颯の服の袖を引っ張った。 「……お弁当、分けてあげて欲しいの……」 「いいよ」 楓がそう言うなら。お気に入りのリュックから颯特性お弁当が出てきて、壱球は思わず唾を飲み込む。鮭、梅干、海老の定番おにぎりから、鶏の唐揚げ、卵焼きにポテトサラダ迄ある。味は言う迄もなく幸せそうにがっつく壱球の前で、木を盾にして避けていた南雲に枝から降った大量の雪が降り積もる。続けていくぞ、と静かなる宣言と共に連続投球が見舞われた。 「ぶわっ! ……ずりーぞ、浅奈!」 無月が態と枝を狙った事に気付き抗議するも立派な戦術だ、と素知らぬ顔をされる。だが無月にも怖ろしい攻撃が待ち受けていた! 「……誰だ、石を入れたのは」 額からうっすらと血を流し 振り向く。無表情なシアが放った雪玉は親の敵でも倒すかの如く強く固く握られ、立派な兵器と化していた。良い子も悪い子も真似しちゃいけません。 雪智が慌ててそれは駄目です! と注意する。戦いの中だけで育つと色々な弊害が出るらしい。シアは素直に頷いた。
視界一杯を埋めるのは白銀の世界。鳥達の囁きだけが木霊する中、ずぼ、ずぼ、と雪に足が填る感触すら楽しい。 初めての銀世界、湖の畔で、隣の彼は何時転んでも大丈夫な様守ってくれている。だからるえるは安心して其処を歩けた。 「どうぞお座りください。お嬢さん」 白いロングコートを羽織った彼の姿は王子様そのもので、嬉しくてるえるはにっこりと微笑む。 「お邪魔しますなの」 照れながらも、大好きな十造の膝の上は暖かい。それでも大切な彼が風邪を引かない様、ポットに入れたホットココアを差し出す。 「静かだしとても綺麗だねぇ……」 冬の抜ける様な青空の下、氷に覆われた湖が太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。 「あ、見てみて、鹿なの!」 二人でこうして居られる時間が、とても幸せに思えた。
一人、反対側の畔で黄昏れていた成瀬・司郎(世界の片隅で萌えを叫んだ小者・b09381)だったが雪玉の強襲は避けられなかった。 しかも固い。 「つめ……っていうか痛い。どれだけ固めてるんですか!」 予想通り、ミミが得意満面の笑顔で其処に居た。まるで猫だ。 「へっへーん。油断大敵よ!」 「……お礼はしますよ」 黒いオーラを背負って雪玉を投じる。彼女が雪に埋まる頃には肩で息をする羽目になり、ふと横を見れば足元で何やらごそごそやるミミの姿が。 その手にはおやつのバターロールが握られ、しかも食べ尽くされている事に気付き司郎は雄叫びを上げた。食べ物の恨みって怖ろしい。 二人の戦いの火蓋は(再び)切って落とされた。
●日暮れの時間迄後少し 冬の日没は早い。四時を回った頃そろそろ終わりにしましょうかと雪智が声を掛けた。 「っくしゅん!」 「おいおい、大丈夫か? これ使えよ」 もう少し厚着した方が良いと南雲から差し出されるマフラー。鼻を赤く染めた縁樹は有り難う御座いますとそれを受け取った。 動き回った御陰で体は温まっていても、寒さが消える訳ではない。吐き出される息は白く凍え、雪で体が冷えきらない様雪智がタオルを回す事にする。湖を散策していた者達も帰ってきて、全員でかまくらにお邪魔した。 「飲んで温まるといいデスよー!」 「ってか、何この色……」 カップの中身を見てぎょっとする一同。普通のレモネードより色が濃い。濁っている様な気もして、恐る恐る口を付けてみれば、 「あ、味は美味ぇな」 えへんとテラは胸を張った。蛍光色の様なブルーベリーと苺のジャムで作ったパンケーキも振る舞い双子がおずおずとクッキーを差し出す。それぞれが持ち寄ったお菓子や飲み物を広げれば、それだけでちょっとしたティーパーティーの完成だ。 「珈琲頂けますか」 「……どうぞ」 すっかり冷えたらしい司郎達がありがたやーと飲み物を分けて貰う。が、物凄く苦い。 無月の飲み物は大人の味……。ふっと意識を飛ばして、魂に刻み込んでいる間に体は温まっていく。外はどんどん暗くなっていき、ちらほらと居た観光客も帰った様子だった。
●終わりの時間と能力者の時間 雪達磨はずっと其処に居た。隣には縁樹の雪兎もちゃんと居る。 「早く終わらせて帰りたいですね……」 体は温められてもバテ気味の司郎がふらふらとカードを掲げ、起動。森に吊された洋燈などで光は確保してある。 「……いくぜ」 南雲から撒かれる銀の雨。数分もしない内に、其れは地縛霊と云う形を得る。十造が剣を高々と回転させ、二つの魔法陣が生まれる横で無月が霊に肉薄。日本刀を素早く振るう。 るえるの打撃を伴う歌声が雪原に響く。リス妖獣も姿を現し、能力者達は分担に従って散った。 「……んぅっ」 「楓!」 楓に走ったリスに向けて颯が炎の弾を放つ。噛み付いたリスは魔炎に包まれてキーキーと啼いた。 「大丈夫? ケガはない?」 鼠の顔が合わさった様なリス型妖獣は体が小さいもの同士渡り合えそうな相手を選んだらしい。リスは範囲技から逃れべく散っていく。討ち洩らしも発生した事で、能力者は緩く円を描いたリスの群れに囲まれてしまった。ばらけて動かれれば何処迄も戦闘範囲は広がっていく。広い雪原を走り回られれば、遊び疲れた司郎にはそれらを追い掛ける体力も気力も残ってはいなかった。 「あアアアアアあぁッ」 縁樹が翳す、杖の先から迸る雷撃。森を損ねない様、軌道を調節された炎が魔炎を伴って地縛霊を包み込む。地縛霊は両の爪を伸ばすとテラに斬撃を刻んだ。十造から放たれた影の腕が地縛霊を引き裂く。 「苦しいのは嫌だよね……だから、解放してあげるよっ」 一つ一つの音階がリスの躯に傷を生む。るえるの側で燃え上がる炎が鳥となって地縛霊を覆った。雪で転ぶんじゃねーぞ、と仲間に声を張り上げた所で霊の爪が南雲に振り下ろされる。 「地に還れ……」 旋剣の構えで回復した無月が雪を蹴散らし、日本刀が深々と地縛霊の胸元に突き刺さる。霊は其の場で掻き消えた。 「振り回されるのも良い気分がしませんね」 見える全てを範囲にして、漸く司郎の眠りの歌がリスを雪の上に昏倒させていく。待ってましたとばかりに壱球が眠り、或いは弱っているリスに弾丸の雨を降らせる。眠りの覚めたリスを縁樹が杖で叩き一匹一匹を無月と雪智が仕留めていく。 飛び掛かるリスを十造の影の腕が裂く。 走り回るリスは動きで能力者を引っ張り回した挙げ句、逃走の素振りを見せた。 「逃がしません」 背を向けて走るリス達にシアから銃弾の雨が降る。僅かに避けたリスにも、炎と雷の雨。 歌声の余韻が消える頃にはゴーストは跡形もなく消滅していた。
「さて、これでもう安心ですね。あとはゴミを持って帰りましょうか」 観光地の塵を持ち帰るのは基本中の基本。ゴミ袋を広げて雪智がにこやかに微笑む。 貰った紅茶で一息吐いていると、手を繋ぎ、眠たげな双子がじーっと見つめてきた。視線に耐えきれず根負けした司郎は涙乍らに双子を抱っこして、おんぶする。 「背が高いと、こういう不幸がある物なんですねぇ」 るえると手を繋いだ十造が他人事の様に話す。暗に手が塞がっておんぶは出来ないと云う意思表示。南雲がからかっていると、丸眼鏡がきらりと光った。 「頼り甲斐のあるおにーさん、手伝って下さい」 「……聞いてたのかっ!?」 後退る南雲にテラが笑う。 「頼り甲斐のあるおにーさん、素敵デスよー」 「肉まんと珈琲で勘弁してくれ……」 「お。なら替わっても良いぜ」 食べ物に釣られて交代を申し出る壱球。 「今日は、風邪を引かないよう温かくして寝なきゃですね」 微笑みながら呟く縁樹にシアがこくりと頷いた。遊び疲れた事もあって、今夜はきっとよく眠れるだろう。 静謐に抱かれる雪原をそっと振り返れば、月光を浴びて結晶が雪明かりの下で踊る。
四季毎に違った遊び方がある様に、冬は寒さを尊ぶ季節。 雪と過ごした思い出を胸に、能力者は帰路に付く。
|
|
参加者:12人
作成日:2007/01/22
得票数:楽しい24
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |