≪≪Reve*Lune≫≫王子様……見つけました


   



<オープニング>


 午後のティータイムに合わせ、団長コレット・マリエール(雪少女とお伽月・b38240)の呼びかけで結社【≪Reve*Lune≫】に集まった8名の仲間たち。それぞれおいしいお菓子を持ち寄り、いつものように楽しいお茶会の始まりかと思いきや……?
「あの……みなさんにも……見ていただけたら……と思って」
 皆で囲んだテーブルの上、そっと大事なものを慈しむような仕草で、コレットが一枚の写真を取り出した。
「……これって、遊園地とかによくあるメリーゴーランドだよな?」
「確かに……にしても、何か随分と古めかしい感じがしますね」
 左右から首を伸ばして覗き込み、被写体を確認し合う雨辻・慧夜(紅十字の宵鏡・b54839)と冬木・誓護(護るべき誓いはこの心に・b47866)。慧夜の言うように、写真にはどこか懐かしさを感じる、レトロな雰囲気の回転木馬が写し出されていた。
「わぁ、メリーゴーランド! お馬さんに乗ってぐるぐるなのですー」
 遊園地と聞き、アルト・サクラバ(ブラウシュテルン・b51316)があどけない瞳をぱぁあと輝かせる。『めりぃごーらんど』とは何をするものなのかと尋ねた峰月・あかり(高校生雪女・bn0188) に、アルトは身振り手振りを交えて熱心に説明して聞かせた。
「メリーゴーランドにジェットコースター、お化け屋敷……遊園地、とっても楽しそう……です」
「……遊園、地……出掛ける、のなら……一緒、に……行きたい、な」
 たまには、結社の皆とお出掛けというのも素敵かもしれない。愛らしい唇を綻ばせる植苗・美々(メディカルハーブ・b39662)に続き、海音・褥(フェルトシュネーズ・b31168)も、やや遠慮がちに自らの望みを口にした。
 たまの休日を遊園地で過ごすことに反対する者などあろうはずもなく、自然と話題はいつ、どこの遊園地に出掛けるかという方向へ。
「そういえば……姉さま、このメリーゴーランドはどこの遊園地のものですの……?」
 コレットを姉と慕うリシティア・ローウェル(常闇の精・b52354)がふと思い出したように尋ねたのには答えず、代わりにコレットはこんなことを言った。
「王子様……見つけました」
 思いがけない告白。うっとりと熱を帯びたコレットの視線は、先ほどからずっと写真上のただ一点だけに注がれ続けていたことにアルトは気づく。
「はて、王子……様?」
 コレットの言葉を反芻した日下部・遥(高校生水練忍者・b61258)が、訝しげに首を傾げる。
「にゅ?」
 リシティアも不思議そうにコレットを見返したが、彼女がコレットの言葉の意味を理解するのに、さほど時間はかからなかった。写真の中の薄汚れた木馬──その上にぼんやりと浮かんだ白い影は、言われて見れば確かに、純白の衣装に身を包んだ王子様のシルエットに見えなくも……ない。
 恋は盲目、とでもいうのだろうか。ただ一人、写真の影が本物の王子様だと信じて疑わないコレットは、白磁の頬を薔薇色に染めて皆を誘う。
「今度のお休み……白馬の王子様に会いに行くです。一緒に……行きませんか?」

 どこにでもありそうな平凡な遊園地。
 メリーゴーランドやジェットコースターといった定番の乗り物が揃う園の中央から外れ、老朽化を理由に打ち捨てられたまま、従業員たちにさえ存在を忘れられて久しい場所に、そのメリーゴーランドはあった。
 そこをテリトリーとする王子様服の地縛霊が、生前何者だったかを知る者はいない。能力者たちはただ、彼が現世に残した怨念を断ち切るべく戦うのみだ。その前に王子様の存在を信じるコレットを説得する必要がありそうだが、王子様の地縛霊がピンチに陥ると、どこからともなくお姫様の格好をした地縛霊が現れる。彼女の存在を知った瞬間、コレットの盲目的な愛は醒め、戦闘も滞りなく終えられるだろう。
「全部終わったら、とりあえずオレはジェットコースター乗りたいでっす!」
 元気よく手を挙げ、遥はアルトと美々、渋る慧夜にも一緒に乗ろうと誘う。
 恐らくその頃にはぼちぼち日も傾きかけているだろうが、夕暮れの観覧車というのもなかなかにロマンティックなものに違いない。他にもお化け屋敷やメリーゴーランドなど、閉演時間ギリギリまで存分にたっぷり遊び倒そうではないか。

 それぞれ楽しい想像を膨らませ、【≪Reve*Lune≫】の面々はいそいそと準備に取り掛かった。

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参加者
海音・褥(レーベンスエンデ・b31168)
コレット・マリエール(雪少女とお伽月・b38240)
植苗・美々(メディカルハーブ・b39662)
冬木・誓護(護るべき誓いはこの心に・b47866)
アルト・サクラバ(ブラウシュテルン・b51316)
リシティア・ローウェル(常闇の精・b52354)
雨辻・慧夜(紅十字の宵鏡・b54839)
日下部・遥(ヘリアンタスクムルス・b61258)
NPC:峰月・あかり(高校生雪女・bn0188)




<リプレイ>

●忘れられた回転木馬
 汗ばむような初夏の陽気に誘われ、週末の遊園地は大勢の来園者で賑わっている。
「何だか……とて、も賑やか、ね……」
 【≪Reve*Lune≫】の仲間と共に入口のゲートをくぐった海音・褥(レーベンスエンデ・b31168)は、楽しそうな親子連れや仲睦まじい恋人たちを眺めて眩しげに目を細めた。
「ジェットコースターにお化け屋敷、それにメリーゴーランド! どれも楽しみだけど、とりあえずお楽しみは後でたっぷりと……ねっ?」
 人好きのする笑みを浮かべて客の流れとは逆の方向を示す日下部・遥(ヘリアンタスクムルス・b61258)に頷き、園内を奥へ奥へと進む。
 『関係者以外、立ち入り禁止』
 汚れてペンキの剥げかかった看板をやり過ごし、薄暗い通路を抜けると、褥たちはそこだけぽっかりと忘れ去られたような広場に出た。
「あれか……」
 冬木・誓護(護るべき誓いはこの心に・b47866)が、正面に円錐形の大きな屋根を認めて立ち止まる。かつては美しい彩色がなされていたであろう屋根飾りの下には、すっかりくすんで色褪せた馬車や木馬たちが並んでいる。敢えて確認するまでもなく、コレット・マリエール(雪少女とお伽月・b38240)が結社に持ち込んだ写真と同じ、あの古びたメリーゴーランドに違いなかった。
「……ん?」
 右手を添えてそばだてたアルト・サクラバ(ブラウシュテルン・b51316)の耳に、どこからともなく軽やかなメロディーが聞こえてくる。不思議に思って辺りを見回そうとしたところで、異変は起こった。
「わ……すごく……綺麗、です……」
「あれが、アルトさんのおっしゃっていためりぃごーらんどなのですね」
 屋根飾りに付いた電飾に一斉に明かりが灯り、壊れて動かないはずのメリーゴーランドが静かに回り始めたのだ。幻想的でロマンティックな光景に、植苗・美々(メディカルハーブ・b39662)も峰月・あかり(高校生雪女・bn0188)も思わず目を奪われずにはいられなかった。
「……」
 メリーゴーランドの方に向かい、コレットがふらりと歩き出す。小さなその手には、例の写真と詠唱銀の入っていたはずの空の袋が握られていた。
「……ぁ、姉……さま、待っ……」
 ただならぬ様子を案じ、リシティア・ローウェル(常闇の精・b52354)の伸ばした指が宙を掻く。それすら気づかぬまま、コレットは熱に浮かされたようにこう呟いたのだった。
「わたしの……王子様。やっとやっと……見つけたのです」

●王子様とお姫様
 ゆっくりゆっくりと回り続ける木馬の背に腰を掛け、美しく整った顔に作りものめいた笑みを貼り付けた青年──明らかに人ならざるものであるそれを、コレットは『王子様』と呼んだ。
「おお……リアル王子様だ」
「前に絵本で見た王子様にそっくり!」
 遥とアルトは2人して口々に感嘆の声を上げるが、いつまでも呑気になどしていられない。
「コレット、行くな。行くなって、おい……」
「慧夜お兄ちゃん……離して……ください……!」
 半ば強引に腕を掴んだ雨辻・慧夜(紅十字の宵鏡・b54839)を拒み、雪白の髪の少女はいやいやとかぶりを振る。そのやりとりをからかうように王子様の投げた白薔薇がコレットの頬を掠め、柔らかな肌を浅く切り裂いた。
「……赦しません」
 握り締めたリシティアの拳が震えている。
「姉さまを傷つけるなんて赦しがたい仕業、この手で断罪せねば気が治まりません……!」
 凛々しくも言い放ったリシティアに合わせ、コレットを除く7人も一斉にイグニッション。
「私が傷つくのは構わない。でも、他の皆さんを傷つけるのは許しません」
 すべての攻撃を己のその身で受け止めてみせるとばかりに、誓護が勢いよく敵の前へと躍り出る。
「コレットさんのことは頼みます」
 【誓剣"心希"】と名づけた宝剣を手に誓護は、王子様の傍に行かせまいとコレットを遠ざける慧夜とリシティアを振り返った。
「回復はお任せくださいね」
 楚々とした舞に清冽な祈りを込め、コレットの傷を癒す美々。同じく後方に留まって回復に専念することになっているアルトは、代わりに真ケットシー・ガンナーのよつばさんに前衛で誓護や遥をサポートするようお願いした。
 他にも後衛に褥とあかり、前衛にはリシティアの使役ゴーストであるスカルロードの先生と褥の真フランケンシュタインらが加わる。
「さくさく行くよ、遊園地のために!」
 言うが早いか遥の鋼糸が敵を絡め取り、王子様の身体をキリキリと締め付ける。そこへ後方から褥が穢れの弾丸を撃ち出し、少なからぬダメージと毒の効果を与えた。
「王子様……攻撃しちゃ……だめです……! お話……すれば……きっとわたしのことを……迎えに来たんだよって……言ってくれるのです」
 今にも泣き出しそうな声。慧夜の腕の中で身を捩り、コレットは仲間たちに訴えかけた。
「うぅ……」
 胸が痛い。堪らずぎゅっと目を瞑ったアルトだが、コレットのためにもここは心を鬼にしなくてはと自分に言い聞かせる。
「こら、コレッ……あ……!」
 僅かな隙をついて慧夜の腕を逃れ、王子様の胸に飛び込もうとしたコレットの足が止まる。苦しげにもがく王子様の背後に、美しいお姫様の地縛霊が現れたのだ。
「王子様に……お姫様はひとりだけ……わたしの……王子様じゃない……ですか?」
 ふいに夢から醒めたような顔で、コレットはきょとんと睫をしばたかせる。お姫様が王子様に癒しの術を施すのを見て、ようやく目の前の地縛霊が自分だけの王子様ではないと理解したらしい。
「ほら、コレットちゃん! あの王子様には、お姫様がいるんだよ。一緒になるのが一番の幸せだなんから、倒してあげないと、ね!!」
「二人に安らぎを与えてあげることこそ、私たちにできる彼らへの手向けなんですよ」
 いつもの調子で言って屈託なく笑いかける遥、穏やかな声で優しく諭す誓護にも素直に頷いてみせる。
 こうなれば話は早い。後は全力で戦うだけだと改めて皆で結束を固め、全員一丸となって敵に立ち向かった。
「先生、あんなのは細切れにしちゃって下さいっ」
 リシティアの指示を受けた先生が、お姫様の霊に向けて死神の大鎌を鋭く薙がせる。続けて慧夜が緋色の刀身に闇のオーラを纏わせた剣で斬りつけると、お姫様の地縛霊は呆気なく霧散した。
「さて、と……。では、そろそろこちらも片をつけてしまいましょうか」
 誓護の愛剣に、凝縮した妖気を具現化させた炎が宿る。
 慧夜たちがお姫様を相手にしている間にも王子様は魅了のウィンクや細剣で必死の抵抗を試みたが、結局どれひとつ誓護らにダメージを与えることすら出来なかった。それどころか全身に攻撃を受け、今にも落馬してしまいそうだ。
「……どうか、せめて安らかにお眠り下さい」
 祈るように言って、誓護は剣を振り下ろす。たちまち全身を魔炎に包まれ、なすすべもなく王子様は紅蓮の向こう側に崩れ落ちた。

 ふたたび、辺りに静寂が戻る。
「王子様も……お姫様も……ゆっくり眠ってくださいね」
 もう二度と動くことのないメリーゴーランド。柵を越えて回り舞台に上がった美々が、乗り手のいなくなった白馬の背をそっと撫でる。
「ふたりは一緒に成仏して、幸せになりましたよね?」
 コレットを気遣い、そっと傍らに歩み寄ったアルトへの答えはもちろん──。
「ハッピーエンド……なのです」

●お楽しみはドキドキパニック?
「よーっし、それじゃ遊園地行こー♪」
 気づけば早くも太陽は西に傾きかけていたが、閉園までたっぷりと時間は残されている。入口のゲート付近まで戻ってきた遥たちがまず目指したのは、遊園地の花形ともいえるジェットコースターの乗り場だ。
「あかりさんも早く早くーっ」
 弾むように駆け出したアルトが、あかりに向かって手招きする。
「あかりちゃんは乗れる? 一緒に行こうよっ♪」
「あ……はい、そうですね。何ごとも挑戦、です」
 遥の誘いに頷いた後で、ちょっぴり不安そうにあかりは胸を押さえた。
「……凄く、速いの、ね……」
 ジェットコースターは見るのも初めてだという褥も、コースターが急勾配や角度のついたカーブを通過するたびに聞こえてくる悲鳴に、少なからず驚いているようだ。
「速いのは……苦手だから待ってるです」
「私も、こういったものは得意ではないので……。すみませんが、遠慮しときますね」
 遥らに誘われるより早く、コレットと誓護は自ら見学を宣言して先手を打つ。理由こそはっきりと明言しなかったもののリシティアも乗車を断り、さらに慧夜もそれに倣おうとしたのだが。
「……俺も乗るのか?」
 絶対、慧夜さんも一緒がいいです! と手を掴んで離さないアルトに引っ張られ、渋々順番待ちの列に加わる。
「はあ……しょうがない、付き合うか」
 結局ジェットコースターにはアルト、遥、慧夜、美々、あかりの5人が乗ることになり、すっかり気をよくした遥は順番が回ってくるまでの間、コースターの楽しさをたっぷりと皆に話して聞かせたのだった。

「これ食べて……ここのベンチで待ってるです」
 乗り場近くのベンチに座り、慧夜に買ってもらったチュロスをぱくり。すっかりご機嫌なコレットの横でコーヒーを飲みながら、リシティアは独り言めいた本音を洩らす。
「……なぜ皆さんは平気なんでしょうか、不思議です」
 わたしなんて、ちょっと高い所に行くだけで足が竦むというのに……。
 溜息をつき、僅かに怯えと憧れの入り混じった目でコースターを見上げた。

 遥たちの乗り込んだコースターはカタカタと音をたて、傾斜のきつい坂を上っていく。
「わー、高いー。景色が綺麗です!」
 思いがけず遠くまで見渡せることに気づいたアルトが、はしゃいだ声を上げる。この頃には誰もが余裕の表情だったが、数瞬後、彼らは文字通り天国から地獄へと一気に突き落とされる。
「……は……わわ……っ……。こ………こんなに……スピード……出る……っ……です……ね……」
 うっかり舌を噛みそうになり、あわてて歯を食い縛る美々。
「……わ、……っ……」
 傍目には冷静そうに見える褥も、ただただ目を白黒させることしか出来ずにいた。
 数分後。
「……うぅ、恐ろしい乗り物でした……」
「……遠心分離……され、た……気分……」
 げっそりとやつれきった顔で、アルトと褥がコースターから降りてくる。ゴーストとの戦闘後よりも明らかに消耗し切っている2人を気遣う一方で、遥だけはニコニコとご機嫌だ。
「満足まんぞく! ちょう楽しかったー! 慧夜も楽しかったでしょー?」
「別に……なんとも」
 問われた慧夜は、相変わらずの無愛想。他人が見れば感じが悪い以外の何物でもないのだが、そこは気心の知れた親友同士、遥もすっかり慣れっこのようで。
「ええー、本当ノリ悪いなぁ。そんなんだと女の子にモテないぞっ」
 ふざけて慧夜の首に腕を回すと、2人もつれるようにしてじゃれ合った。

 ふたたび合流した一行が次に目指すのは、これまた定番のお化け屋敷。どうやらこちらの遊園地では、ジェットコースターのそれに似た連結式の乗り物に乗って館内を回る方式らしい。
「ゴースト退治した後で乗るのも変な感じだねぇ」
「……ゴーストは……平気なのですけれど……。う……これは……ちょっと苦手かも……です……」
 呑気にへらへら笑っている遥とは対照的に、期待よりも不安が勝る美々がびくびくと闇の中に目を凝らす。
「私は、お化けなどはそこまで怖くないのですが……。あかりさんは、こういうのは大丈夫ですか?」
「え、ええ。多分……」
 誓護に問われて頼りなげに答えたあかりも、なんだかお尻の辺りがむずむずとしてくるのを感じずにはいられなかった。
「ゴーストは見慣れてるから、こんなの怖く……って、おぉぅ!?」」
 ガタンッ!
 あかりを安心させようとしてか、笑顔で言いかけたアルトがびくっと飛び上がる。突然、目の前に血だらけの腕が落ちてきたのだ。
「どうせ作りものだろ? ……うわっ」
 一瞬遅れて生首とこんにちはした慧夜は、単に驚いただけだと嘯いたが、その顔が引きつっていたのを遥は見逃さなかった。
 そんな中、意外にも肝が据わっているのはリシティアやコレットたち年少組、それに褥の3人だ。
「……ん……」
 横から勢いよく飛び出してきた骸骨にも動じることなく、軽く頭をひと撫でする褥。
 コレットなどは辺りが暗くなってすぐ眠ってしまったようで、出口のところでリシティアに起こされるまで、どんな物音や悲鳴にも一度も目を覚ますことがなかったという。

●わたしだけの王子様
 お化け屋敷を出ると、真正面にある華やかなイルミネーションが目に飛び込んでくる。まるでそこだけ夢の世界か何かのように七色に輝いているそれは、昼間見たのとはまったく違うデザインの真新しいメリーゴーランドだった。
「わぁ……とっても可愛い……です」
「……凄く……派手、ね……」
 最後にあれに乗りたいとせがむコレットに、褥は少し困った風に首を振る。代わりに保護者役を買って出た美々と誓護に年少組の世話を任せ、褥と慧夜、遥の3人は外からメリーゴーランドを眺めることにした。
「なんかさー……誓護や美々ちゃんはともかく、アルト、違和感ないよね……」
 楽しげに褥と手を振り合うアルトを見て、遥が苦笑いを浮かべる。その意見に心から同意しつつも、慧夜は「本人には言わない方がいいと思うぞ」と真顔で返した。
 同じ頃。
「……雨辻さんとハルさんが見てるっ!?」
 なんだか気乗りしない様子で馬車に乗り込んだリシティアが、ちょうど一周したところで彼らの視線に気づいてうろたえる。実際の年よりもずっと精神年齢の高いリシティアにとり、メリーゴーランドに乗ることは罰ゲームにも近いものがあった。
「……ぁ、穴があったら入りたい」
 今にも消え入りそうな声で呟いて、リシティアはその顔を完全に俯かせた。

「わはー、風が気持ちいいのです!」
 2人の会話の内容など露知らず、遥と慧夜にも愛想よく手を振る。一番立派な白馬に跨り、すっかりご機嫌なアルトだったが、胸の中にひとつだけもやもやもとわだかまるものがあるのがずっと気になって仕方なかった。
「コレットさん、もしかして……」
 本当は今もまだ、あの王子様と一緒にメリーゴーランドに乗りたかったと思っているのではないだろうか。
 完全に回転が止まるのを待って馬から下りたアルトは、意を決してコレットの足下に跪く。
「お、お姫様……お手をどうぞ」
「ぅ? 手……ですか?」
 王子様とは、こういうことをしてくれる人のことをいうのだろうか。
「コレットさん、今回は出会えませんでしたけど……きっといつか、あなただけの王子様に会えますよ」
 誓護の言う『王子様』がアルトなのか、今はまだ誰にも分からない。
 差し出された右手の意味もよく分からぬまま、コレットはすっかりお姫様気分になってそっと手を重ねるのだった。


マスター:水綺蒼猫 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2009/06/01
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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