<リプレイ>
● 時刻は正午10分前だった。 「プラネタリウムか、営業していたらロマンチックだったんだろうな」 柏木・リク(赤と青の唐辛子・b38226)が寂しそうに呟いた。 「この手の施設は、景気が悪いと真っ先にあおりをくらうよな」 それを受けて、柳・深龍(翠龍・b19303)が応える。実家が商売をしている深龍にとっては、事業の閉鎖というのは人事ではないのだろう。 「できればもっと違う形で来たかったなぁ……」 小さく呟いた鈴乃宮・影華(我が命は唯我が為に・b63908)は、プラネタリウムはまだ一度も来たことがなかった。任務ではなく、親しい友人たちと訪れたら、きっと楽しい思い出となっただろう。 プラネタリウムがどういったものなのか、知らない者たちもいた。 「へぇ、ぷらねたりうむ……って、何なん?」 風蔵・魁(青の除霊木道工・b47950)は建物を見上げて、首を傾げた。 「部屋の中で星がみれんの!? すっげー!」 仲間から説明を受けていた松仲・鉄太(自然児・b53106)は、眼を真ん丸にして驚いている。 プラネタリウムに到着後、彼らは事前に入手した情報を素早く交換し、作戦の確認を行う。 「それでは、お借りします」 影華は鉄太から笛を借りる。探索中にリリスに遭遇した際に、他の箇所を調べている仲間に知らせる為の笛だった。 敵にリリスがいるということもあり、全員で固まって移動して来た彼らは、ここで二手に分かれた。正面と裏口から、同時に突入する為だ。突入時刻は正午と決めている。急がねばならない。既にリリスは、能力者の接近そのものには気付いているかもしれないのだから。 「偽りの来場者を幾ら集めたとて、星は輝くまい……心に光無き者どもならば尚更、だ」 裏口へと向かう仲間たちの背中を見やりながら、久世・冥臥(ネクロプロファニティ・b43689)は静かに決意を込めた。 「リリスの狡猾さは素晴らしいな。もっとも、ただ感心しているわけにもいかないが。能力者の務め、果たさせてもらおう」 時刻は正午。駒杖・蒼迩(魔の道を歩む者・b60988)は時間を確認すると、先陣を切ってプラネタリウムに侵入した。
● プラネタリウムの内部は、しんと静まりかえっていた。成る程、予報士の言った通り、電源はまだ生きているようだ。各所の蛍光灯が、ほんのりと灯りを放っている。 プラネタリウム内の見取り図は、事前に役所で手に入れることができた。既に専用のサイトは閉じられており、残念ながらインターネットで情報を入手することは叶わなかった。だが、見取り図があるのは心強い。効率良く探索することができる。 正面から突入したメンバーは、閉じられたままの客室への扉を一瞥すると、右側へと移動した。 手前にスタッフルーム。奥にトイレが見える。 「トイレがある。まずはそっちから探索しようぜ」 鳳・飛鳥(朱炎に舞う迦楼羅・b00942)が奥を指し示す。地縛霊が潜んでいると言われている客席に突入する前に、彼らはその他の各部屋を探索することにしていた。もちろん、トイレも例外ではない。 「姿は可愛いかもしれないが、これ以上の犠牲者を出す訳に行かないからね」 地縛霊共々リリスも討ち取ると、飛鳥は意気込む。 男女両方のトイレを念入りに確認すると、手前に引き返してスタッフルームを探索する。ここにもリリスの姿は見えない。扉を開けた瞬間にリリスと遭遇するかもしれないという緊張感に、次第に喉の渇きも増してくる。 「いましたか?」 前方に、裏口から突入した仲間たちの姿があった。九頭竜・真貴名(中学生土蜘蛛・b45575)の問い掛けに、「いや」とリクは首を横に振る。 「扉にちょっと細工をしておいた。逃げられたとしても、ほんの少しなら時間を稼げるはずだ」 深龍は目に付いた物で扉を塞ぎ、すぐには逃亡できないようにしてきたらしい。どうやら、裏口班もリリスの存在を確認できなかったようだ。 「……あとは、客室ですか」 影華が扉を見つめた。 客室への扉は5つ。飛鳥は自身が呼んだサポートのシャロン・クラスト(木漏れ日に舞う舞踏拳士・b16103)と組み、残りの8人も2ずつのペアを組んだ。これで5つの扉全てをカバーすることができる。 「同時に突入するのはいいですが、タイミングはどなたが指示するんです?」 相棒の真サキュバス・キュアを傍らに待機させ、真貴名は眉根を寄せた。 「さあな」 冥臥は肩を竦めてみせた。扉からの突入のタイミングを、事前に決めていなかったのだ。A班の飛鳥からは、逆側のE班のリクと蒼迩の姿は見えない。同時に突入する為には、何らかの合図が必要だった。 「と、とにかく突入!」 扉の前で躊躇してしまっている年長者たちに業を煮やしたのか、鉄太が突入を敢行した。その声に引っ張られるように、慌てて残りのメンバーも客室に突入した。
● 「わ〜〜〜っ。なんかいっぱい入って来た〜!」 客室に突入するなり、可愛らしい声が飛び込んできた。 「なっ!?」 驚いたのは飛鳥である。扉を開けて客室に入ったら、目の前に可愛い女の子がいたからだ。 「リリス!」 服装と髪型、容姿は事前の情報通りだった。この少女がリリス―――ローザリンダに間違いないだろう。 「我が剣で未練を断ち……あの世への標を灯してやるぜ!」 慌てず、飛鳥は旋剣の構えを取りつつ、背後にシャロンを隠すような動きを取った。 他の扉から突入して来たメンバーも、リリスの姿を確認した。奥にどす黒い靄のようなものも確認できた。恐らく、あれが地縛霊だろう。だが、彼らはリリスの撃破を優先すると決めていた。地縛霊を無視し、全員の意識がローザリンダに向けられる。 リリスに対し、真っ先に集中攻撃を行う作戦だったが、半数が自己強化を先に行い、攻撃の意識を持っていたのは深龍、鉄太、リク、真貴名、魁の5名のみ。だが、突入した直後で攻撃の態勢には移れない。 「変な人たちが来てたのは、とっくに分かってたもんね。ローザちゃんは、『あらそいごと』はキライなの。おじさん、バイバイね。気が向いたら、また遊びにくるね」 ローザリンダは黒い靄に向かって手を振ると、飛鳥をスルーして扉から飛び出す。探索に時間を掛けてしまったことも災いしたようだ。ローザリンダは、プラネタリウム内に侵入してきた能力者たちを既に感知し、いつでも逃亡できる体勢を整えていたようだ。 自己強化を後回しにし、もっとローザリンダに対して攻撃の意識を高めていたら、あるいは結果が変わっていたかもしれない。また、全員で突入せず、外に何名か待機させていたら、違う展開になっていた可能性もある。 「まだ通路にいる!」 通路を覗き込んだ深龍が叫んだ。 「とーせんぼしたの誰〜? 意地悪キライ!」 裏口には深龍の「仕掛け」がある。脱出に手間取ると考えたローザリンダは、正面へと移動する。 「逃がすか!」 深龍はローザリンダの華奢な背中に向かって、呪いを込めた視線を向ける。続けて放った鉄太の吹雪は、左腕を掠めただけだった。 「ふぎゃ〜。痛いじゃないの〜。バカバカバカ!」 悪態を付きながらも、ローザリンダは足を止めない。追撃する為には客室を出なければならないが、それを簡単に許してくれるほど甘くはなかった。 地縛霊に対し、魁の八卦迷宮陣が効果を発揮していたが、そもそも地縛霊には、その場から動く意識を持ち合わせていない。リビングデッドも出現前とあっては、せっかくの八卦迷宮陣も不発に近い。 どこからともなく出現した5体のリビングデッドが、5つの扉の前に移動してくる。加えて、放置していた地縛霊からは、ガスの塊の洗礼を受ける羽目になった。 「これ以上リリスには構うな!」 別の扉から顔を出し、冥臥が叫ぶ。これ以上の追撃は、自分たちの方が危険だ。 「リリスは諦めよう。このままじゃ……」 ガスの破裂に巻き込まれ、全身を猛毒に蝕まれながら、リクは悔しげに呻いた。 「しょうがねぇか……」 2度目の雪だるまアーマーで、受けたダメージを回復させながら、蒼迩も舌打ちするしかない。 「バイバァイ! またどっかで会おうね〜」 ローザリンダは陽気に手を振ると、正面から堂々と逃亡していった。地縛霊に対して言った言葉なのか、能力者たちに対して言った言葉なのか、それは彼女にしか分からないことだ。
● 地縛霊たちに先手を許したことで、能力者たちは確実に不利な状況に陥っていた。 「くっ」 「うわっ」 次にガス弾の被害に遭ったのは、魁と影華だった。魁は防具のお陰で猛毒は回避できたが、影華は強烈なダメージと共に猛毒に苦しむこととなる。 それでも炎の蔦でリビングデッドを絡め取るとその動きを止め、魁が目にも止まらぬ一撃を叩き込む。手応えはあった。ならば、結末を見届けるまでもない。 「次はどこや?」 次のターゲットを魁が探すその横で、リビングデッドの体が崩れていく。
彼らが当初考えていた陣形は、既に取れるような状態にはなかった。真貴名も冥臥も共に接近戦は得意ではなかったが、襲い来るリビングデッドと戦わねばならなかった。 真貴名を守る為に、サキュバス・キュアが前に出る。しかし、真貴名はそれを押し退けて前に出て、『Eine Menschenfresserspinne』をリビングデッドの腹に突き刺す。生気を吸収し、受けたダメージを回復させる為には直接攻撃を叩き込むしかなかったからだ。 「トドメは任せろ」 冥臥の放った雷の魔弾が、リビングデッドの動きを完全に止めた。
「がんばれ、センパイたち! ちょーがんばれ!」 リビングデッドの相手を深龍に任せ、鉄太は猛毒を受けた者たちを癒すために赦しの舞を舞う。 「とにかく舞え! こいつは俺だけでなんとかする!」 深龍が吠える。気ばかりが焦る。地縛霊は未だに健在なのだ。対して、こちらは総崩れに近い状態だった。2発目のガス弾が、魁と影華のところで炸裂したのは分かっていた。3発目を撃たれる前に、なんとかして地縛霊を倒したいところなのだが、このままではそれを防ぐこともできそうにない。 地縛霊に対し、まともな戦略を立てていないことも、彼らを苦しめる要因の一つだった。
飛鳥も実質1人でリビングデッドの相手をしていた。シャロンは味方の回復で手一杯で、攻撃のサポートには回れない。 「避けんじゃねぇぞ……神楽舞・焔走り!」 飛鳥の放った2発目のフレイムキャノンが、漸くリビングデッドの動きを止める。 「くたばったか……?」 倒れて動かなくなったリビングデッドの脇腹に、爪先蹴りを見舞い確認する。機能停止を確認すると、地縛霊に向かって突進していった。
「くそったれ!!」 リクに組み付こうとしたリビングデッドの背中に、蒼迩は光の槍を叩き込む。猛毒の影響は残っていた。動く度に体力が削られる。回復か攻撃かの2択に迫られたが、蒼迩はリクを援護する為に攻撃を選んだ。ここでガス弾の直撃を食らったら、立っていられる自信はない。 「これで……!」 リクが生み出した炎の塊が、リビングデッドの頭を吹き飛ばした。ゆらゆらと揺れると、リビングデッドはその場に崩れ落ちた。 離れたところで、魁の威勢の良い声が聞こえた。顔を向けると、魁の援護を受けた深龍が、リビングデッドを倒したところだった。 リビングデッドは全て倒した。まだ勝機はある。能力者たちは気力を振り絞って、陣形を整える。
● 「さぁ、現世にサヨナラする時間よ?」 影華はリリスに用意していた台詞を、地縛霊に対してぶつける。鉄太の頑張りで、体を蝕んでいた猛毒は、今は完全に影を潜めた。体力は万全ではないが、2挺のガトリングガンを両脇に抱えて、地縛霊に無数の弾丸を叩き込む。薬莢が床に転がり、軽やかな音を奏でる。 「留まってねぇで逝っちまいな……秘剣、朱翼の舞!」 飛鳥のフェニックスブロウが炸裂した。 霧の鏡を介して、魁の瞬断撃が地縛霊の体力を削り取る。リクの炎が飛び、蒼迩の光の槍が空を斬り裂く。 しかし、地縛霊も黙ってやられているままではなかった。 『おおお……!』 地の底から響くような呻き声を発すると、ガスの塊を投げ付ける。その後はノーガードの殴り合いのような展開だった。地縛霊は、減った体力を手近な能力者に抱き付くことで回復させたが、数的に有利となった能力者たちの手数の方が多い。 「返してもらうぜ!」 麻痺から回復した深龍が、奪い取られた体力を奪い返すべく、地縛霊に噛み付いた。 『人が来れば……ここも……』 それでもガス弾を投げて、能力者たちを苦しめる。だが、それもやがて終焉を向かえることとなる。 『人さえ……もっと人さえ来てくれれば……』 死力を尽くした能力者たちの攻撃に、地縛霊は呪いの言葉を残して消滅していった。
● 「天に返り本物の星を見に行くといい」 地縛霊がいた場所に、深龍は言葉を投げる。きっと綺麗だ、と。 「この地に縛る未練は浄火した……後は安らかに眠れ」 飛鳥はそう呟きながら、解放していた激情と能力を封じて彼らの冥福を祈る。哀れな地縛霊と、その犠牲となった5人の冥福を。 「ん、片付きましたか。やれやれやね」 魁がほうっと息を吐き出す。彼にはもう一仕事残っていた。それは、除霊建築士の彼にしかできない仕事だ。 「犠牲者も被害者も無事に成仏しはるとえぇなぁ……」 隅の方で「仕事」をしながら、魁はそんな風に呟いた。 「リリスの気持ちちょっとだけわかるかも。僕も星がきれいなとこ、見たかったな」 白いだけの天井を見上げて、鉄太は言った。リリスを討つことは叶わなかった。星を見るために、またどこかのプラネタリウムを根城にするのだろうか。それとも、別の何かに興味を移すか。ローザリンダが再び動きを見せた時、その答えが出るだろう。 「プラネタリウムの星も綺麗だけど、空気の澄んだ場所で見る吸い込まれそうな星空を見て欲しいね」 そう呟いた後、誰に向けて言ったのだろうとリクは自嘲気味に笑った。 真貴名はリリスが逃亡した正面入口に立ち、悔しげに唇を噛んだ。 「残念だったな」 後ろからやってきた蒼迩が、真貴名の背中に言葉を投げ掛けた。真貴名は無言で肯いた。 仲間たちに後始末を任せ、影華は一足先にプラネタリウムから撤収する。 「そうだ、上を向いて帰ろう」 まだ陽は高い。残念だが、まだ星は見えない。 「……無理かな、都会じゃあ」 確かに、都会では星は見えにくいかもしれない。しかし、よく目を凝らして見れば、きっと星は見えるはずだ。 ローザリンダは逃がしてしまった。とはいえ、地縛霊とリビングデッドたちを殲滅することには成功したのだ。下を向くことなく、上を向いて胸を張り、帰還すればいい。いつか、雪辱を晴らせる日が、きっと訪れるはずだから。
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参加者:9人
作成日:2009/07/19
得票数:泣ける1
カッコいい5
知的1
せつない14
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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