≪陽だまりにゃんこの休憩所≫廃墟の殺獣鬼


<オープニング>


「え?」
 草薙・晶(今日もわんこはうたをうたう・b25067)の疑問の声が廃墟となったビルに響いたのは、猫の悲鳴が聞こえたからだ。
 一度きり。高く響いて屋内に反響し、消えた。
 声の消えた方へ、歩みを進める。
 足を踏み入れたのは1階の1フロア。
 取り残されたサビの浮くケージ。朽ちかけた棚。空の水槽。
 おそらく元はペットショップだったのだろう。
 面影ばかりが残り、動くものは……居た。
 薄汚れたエプロンを纏った壮年の男性。その、地縛霊だ。
『仕入れないと……可愛い、子猫』
 右手には、グッタリとした子猫。
『……可愛い、子犬』
 足下には、怯えきった子犬。
 尋常でない様子に晶はイグニッション。
 得物を構え、切り込む!

 外から仲間の声が聞こえてきた。
 痛みに萎えかけていた戦意がそれで蘇り、思わず笑みが零れる。
 背後からは子犬の鳴き声。それで顔を引き締め、正面を見据えた。
 敵はペットショップの店長と思わしき地縛霊に、猫と犬のリビングデッドが2匹づつ。
 体力、アビリティともの半減し、不利には変わらない。が、
「まだやれ、ます」
 誰かの足音がフロアに響き、晶は決意を声にした。

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参加者
斎宮・鞘護(魔剣士・b10064)
玉依・美琴(お日様笑顔・b11621)
シフォン・ブロウニン(うぃずマサさん・b21079)
榊・麗(ショタコン箱入り娘・b23162)
草薙・晶(今日もわんこはうたをうたう・b25067)
サラ・モラトリアス(は今日も龍の夢を見る・b36309)
ユーバー・メンシュ(変身出来なくても心はわんこ・b42924)
ルドルフ・ハイデルベルク(中学生魔弾術士・b58158)



<リプレイ>


 ガシャンッ、と盛大な金属音が鳴り響いた。
 飛び退いた草薙・晶(今日もわんこはうたをうたう・b25067)の眼前、落ちてきたのは錆び付いた動物用のケージだ。
 もっとも、それは人を入れるに十分なほどの大きい。囚われれば……考えたくもない。
 投げつけてきたエプロンを纏う地縛霊は大げさに『あ〜あ……』と呟き肩をすくめる。
 ケージは地縛霊の能力的なモノのようで、すぐに薄れて消えた。
 4体のリビングデッドを挟み、ペットショップの店長とおぼしき地縛霊と視線をそらさず退治する晶は、しかし僅かに後ろへ下がる。
(「……怖い…すごく、怖い……」)
 全身は傷だらけだ。
 敵と止めるために歌ったヒュプノヴォイス、自身を癒すために歌ったヒーリングヴォイス。
 その使用回数は共に半減。状況は絶望的。
 傍らにある使役ゴースト、モーラットピュアのレムも困ったような鳴き声を上げる。
 背後には護ろうと決めた子犬がいる。だが、守る力が圧倒的に足りないのだ。
 心が揺らぎかけた、その時だった。
「キュッ!?」
 レムが振り返るのは、このフロア唯一の出入り口。聞こえてきたのは、2人分の足音。
 新手かもしれないという不安は、
「はわ!? 晶、これはどういう状況ですの?」
 聞き慣れた声に安堵に代わる。そしてそれは、すぐに勇気に代わった。
(「動け、動くんだ! 負けるもんか!」)
 胸中で気合いを込めて、
「地縛霊が! 子犬を……っ!」
 叫ぶ。
 余裕がないためあまりに端的な説明に、しかし駆けつけた玉依・美琴(お日様笑顔・b11621)は察した。
「麗さん、行きますよ!」
「はわ!」
 イグニッションを行いながら前に。驚きながら、榊・麗(ショタコン箱入り娘・b23162)も駆け出す。
「行くよ、レム! ボクらのライブはまだまだ終わらせないっ!!」
「キュピ!」
 相棒に言い含め、晶は子犬を抱き上げる。
 何の抵抗もない。正確には出来ないのだろう。
 骨と皮ばかり。今思えば、ほとんど鳴くこともなかった。
 あまりにか弱いその身に心を打たれつつ、迷うことなく後退する。
 追いすがるのは猫と犬のリビングデッドが4体。俊敏な動きを見せる猫がコンクリートの地面を蹴り跳躍、爪を伸ばして襲いかかる。
 だが爪は晶にも、子犬にも届かない。
「絶対に……通す訳にはいかないの」
 美琴が入り込んでいた。腕から血を零し、しかし強い意志を込めた言葉を呟きつつ。
 残る3体もレムと、美琴の使役ゴーストである真モーラットピュアのモコと一緒に壁となって止める。
 だがそうして1人と2匹が身を挺している隙に、地縛霊は出入り口への先回りを目指す。目的はあくまで子犬なのだ。
 その前に立ちはだかるのは麗。対して地縛霊はどこからともなく巨大な注射器を取り出し、繰り出した!
 針の鋭さもさることながら、送り込まれた明らかに有害そうな液体は麗の体を毒に冒す。
「はわ! こっちですわっ」
 不快さに顔をしかめつつ、それでも麗は回復より相手の注意を惹くべく至近からフレイムキャノンをぶっ放す。
「榊さん! 玉依さん!」
「いいから行って! ほら、痛いの痛いの飛んでけ〜てね♪」
 リビングデッドの攻撃を捌きつつ晶に応え、美琴は治療符を後ろ手に投げる。
 癒しと思いを受けて、晶は走る。
 仲間の声と、地縛霊の唸りと、リビングデッドの鳴き声を聞きながら――出口へ。
「あ……っ!」
 でかい影に勢いよく何かにぶつかり、思わず歩みを止める。
「助けにきたわよん……」
 聞こえたのは覚えのある女性の声。でかい影の後ろから現れたシフォン・ブロウニン(うぃずマサさん・b21079)は晶と、彼が抱えた子犬に暖かな笑みを向ける。
 そして視線はフロアの中へ。視線は鋭く、戦っている仲間を捉える。
「さぁマサさん、やっちゃって」
 でかい影、シフォンが使役ゴーレム、フランケンシュタインFWがゴーストガントレットを受けて前進。
 後に続き、能力者が中へなだれ込んだ。


 より早くフロアを駆け抜けたのは黒い影。
 鬼面を被った執事、斎宮・鞘護(魔剣士・b10064)が紅蓮を灯した長大な刃で犬のリビングデッドに斬撃。
 牙に阻まれながらも、肉を裂く手応えは得た。強引に振り切り、刃を横に構える。
 それは寡黙な彼の、一歩も通さぬという意思表示だ。
「みんな……!」
「はぅ、遅くなってしまいました。お二人とも大丈夫ですか? 皆さんに守りの壁ですよぅ」
 美琴に笑いかけ、サラ・モラトリアス(は今日も龍の夢を見る・b36309)は両手を広げる。合わせてサイコフィールドが展開。
「すぐ援護するからなっ……っといてなんだけど、準備も必要だし……もうちょっと待ってな?」
 勢いに任せた発言を修正しつつミストファインダーを起動するのはユーバー・メンシュ(変身出来なくても心はわんこ・b42924)。
 そんな彼に苦笑しつつ、ルドルフ・ハイデルベルク(中学生魔弾術士・b58158)は長杖を振るう。
 目の前に魔弾の射手による魔方陣を展開しつつ、
「その間くらいは、持たせてみせますよ。ニコラスっ! 奴等の足止めをっ!!」
「ニャ、ニャー!」
 指示を受けたケットシー・ガンナーが二丁拳銃を掃射。リビングデッドの足下で火花が弾け、犬猫が踊る。
 だが地縛霊は違った。
 獲物を逃がした怒りからか、それまでの怖気を誘う笑みから、戦慄を呼ぶ憤怒の形相に変えた地縛霊がケージを投擲。
「はわ!?」
 猫をフェニックスブロウで叩き伏せた麗がその中に。ケージはすぐに消えるが、足止めの効果は確かに現れていた。
 殴られた猫、また犬が飛びかかる。
「よし、そこだマサさん! ファイナルキャノン発射!!」
 2体は空中にある状態で、シフォンの指示の元、胸部を開いたフランケンシュタインFWを見た。
 搭載された最終兵器ファイナルキャノンが咆哮し、リビングデッドは光に飲まれた。
 
「くっ……」
 紅蓮撃をたたき込んだ刹那、手応えに満足を得るより間もなく鞘護は刃を斜に構える。
 刃を打ち、また身を叩くのは地縛霊がばらまくドックフードの形状をした弾丸だ。
「マサさんゴーストガントレットよ」
 前線で戦ううちに削られたフランケンシュタインFWの体力を回復するシフォン。
 主の期待に応え、マサはパワーナックルで猫を地面に穿ち込む。
 その間に、他の仲間の傷はサラのヒーリングファンガスが癒す。
「ファンガスさんの癒しの力ですよぅ」
 彼女一人の癒しで、前線はほぼ維持できた。
 他の能力者の中にも回復手段を持つ者は数いるが、そちらに意識を向けることなく戦い続けられるのは大きなアドバンテージだ。
「サラ凄いな! でもオレだって、皆を守るんだからなっ」
 傷を癒す以外にも、仲間を守る手段はある。
 ユーバーが周囲に発生させたのは魔蝕の霧。確実性は低いが、一度効いてしまえばその恩恵は大きい。
「天の怒りたる雷よ、現世に迷いたるこの者達に裁きを与えん」
 ルドルフの雷の魔弾が迸る。
 狙われた犬は耐えようとするが、ユーバーの霧に侵された身では抗えず霧散した。
 もう一方では敵の減少により後衛に下がっていた美琴の呪殺符が猫にトドメを与えた。
 一時訪れる静寂。破ったのはせっかく集めた犬猫を倒された地縛霊の怨嗟だ。
「はわ……」
 麗は怯まず、視線には哀れみの色すら浮かべてフレイムキャノンを撃ち放つ。
 すべてを終わりにするために。

 美琴の呪殺符が避けられ、しかし避けた先で待ち構えていた麗のフェニックスブロウがクリーンヒットした。
 ドッグフードをばらまき距離を取ろうとする地縛霊だが、その弾幕の中を強引に抜けた鞘護が大上段から紅蓮撃を打ち下ろす。
 虚空から現れた注射器がそれを受け止め、刃は届かない。だがそれでがら空きになった腹部に、
「アタシの攻撃もそれなりには痛いわよ」
 シフォンの穢れの弾丸が突き刺さった。
 毒に侵され、思わず腹を抑えた地縛霊に攻撃が殺到する。
 離脱した主人の代わりをするように、晶のモーラットも、美琴のモーラットと一緒に火花を散らせて奮戦。
『邪魔を……邪魔をするな!』
 注射器を振り回した地縛霊は、血走った眼で周囲を見回し、そして恍惚とした表情を浮かべた。
 視線の先にあったのは、ルドルフのケットシー。
「なっ、ニコラスは猫じゃありませんよ!」
 危機感を感じて攻撃に力を込めるルドルフ。雷弾の直撃を受けた地縛霊は、投げかかっていたケージを取りこぼした。
 慌てて持ち直そうとした手は寸断される。ミストファインダーを介した、ユーバーの瞬断撃によってだ。
 ならば、とドッグフードを掴んだ左手は、しかし力なく下ろされた。
「はぅ、この一撃でお眠り下さいませ」
 サラの悪夢爆弾の効果だ。
 もはやボロボロの身で、深い眠りに落ちる地縛霊。
 能力者達はタイミングを合わせ、最後の総攻撃を仕掛ける。
 地縛霊は薄く目を開きながら前のめりに倒れ、掻き消えた。


 弱々しくも確かな命を胸に抱き、晶は仲間を待っていた。
 子犬のためを思えば残して戦場に戻るわけにも行かず、もどかしい時間が過ぎていく。
 その終わりを告げたのは、突然頭にきた柔らかな感触だった。
「あ、レ、レムっ!」
 無事使命を全うした相棒は、どこか自慢げに主の頭に乗っていた。
 そこに仲間達もやってくる。
 みな無事ではあったが、さすがに幾らかの疲労は見える。
 そんな仲間達に、晶は駆け寄ると深く頭を下げた。
「あ、お疲れ様です! あと、ありがとうございました」
「モキュ、モッキュ」
 モーラットも一緒にお礼。
 対し、鞘護が一歩前に出た。
 上げられた彼の腕の気配に、晶は思わず目を瞑る。
 一人で危険を冒し、結果として仲間に迷惑をかけたのであるなら、怒られるのは当然だと思う。
 鞘護の手が頭に触れ、晶は肩をすくめる。鞘護の手がくしゃくしゃと晶の髪を混ぜ、晶は「えっ?」と声を漏らした。
 撫でられたのだ、多少乱暴だが。
「あの……」
「今回は、あの場にたまたまお前が居たというだけの話だ」
 鞘護の声が、疑問を遮る。
「次に誰かがそうなったら、今度はお前が守ればいい」
 手が離れる。晶が思わず顔を上げると、笑みを浮かべたルドルフが近づいていた。
「よかった。晶さんが身を挺して守ってくれたおかげですよ」
 子犬の息づかいに、ホッとした声を出す。
「わんこちゃんも一緒に御無事でよかったのですよぅ♪」
 サラもまた、心から嬉しそうに笑った。
「でさ、この子犬はどうするの? もし問題なければアタシが飼おうかなって思うけど? それとも晶ちゃんが面倒みる?」
 小首を傾げながらシフォンが問えば、
「あの、出来ればこの子、連れて帰ってお店の看板ワンコにしたいと思うんだけど……」
 美琴が提案。反対意見など出るはずもなく、
「オレは賛成だぞ! 捨てわんこならオレが引き取ろうと思ってたし」
 ユーバーは嬉々として頷いた。
「これからも一緒ですの♪」
 麗の中ではすでに決定事項のようだ。
 鞘護は無表情のままだが、特に否定するでもなく見守っている。
「どうかな?」
 皆の意見が出そろったところで、美琴は晶に問いかける。
 晶はしばらく呆気に取られ、しかしやっぱり拒否する理由などなく、
「はいっ!」
 しっかりと、頷いた。
「それじゃうちにご招待〜、の前にちょっと手当てとかしないとね」
 子犬の様子をみたシフォンが呟く。確かに、このままにしておくのはまずそうだ。
「はぅ、早く病院に連れて行ってあげませんと」
 サラがそう言えば、近くに動物病院あるのか、などという話になる。
 ただそんな中、麗はスッと手を挙げて、
「はわ、わたくしは子猫のお墓を作ってから行くのですの」
 そう提案した。
 晶が間に合わず、犠牲になってしまった子猫の亡骸を、彼女は戦場から運び出していたのだ。
「手伝おう。子犬の方も放って置けん、先に行くと良い」
 鞘護が名乗り出て、他にも数名が残ることにする。
 全員で一度、子猫と、地縛霊と、その犠牲になった犬猫に黙祷を捧げ、それぞれの役目へ向かう。

 小さな別れと小さな出会いを経験し、戦いは幕を閉じた。


マスター:皇弾 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/06/21
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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