<リプレイ>
●分解≠破壊 しんと静まりかえった放課後の図書室で、10人の能力者達は、手にしたボールペンを弄くりまわしていた。 「……ボールペン、たしかに時々やっちゃうんだよな…。うん、ばらして「なんでここに入らないんだろう」って……」 「分かります。授業中に暇ができたりすると、つい分解したくなっちゃいますよね」 経験のある者同士で気が合うのか、井上・皓凱(我が目指せしは壁の華・b31993)と黒霧・凛(あまねく花・b41925)が頷き合う。 「そうそう! だってあんなに細かいパーツの集合体なんだよ!? 分解しろって言ってるようなもんじゃん!」 淵守・透(グッドセンサー・b30327)も、どうやら分解常習犯らしいが、壊してしまったことは一度もないらしい。 「なぁ、そういえば、三色ボールペンの配色ってよ……全国共通か?」 暁葉原・燵吉(恢炎樹・b04308)は、ふと疑問に思った。 「さぁ……多分共通だとは思うけど。てーか俺、お前に「ボールペン貰えるらしいぜ」って連れてこられたんだけど……」 それが、まさか地縛霊絡みの話だったとは……。 「まぁいいけど……」 そう言いながらも、岡田・正(真昼の月・b16747)の視線は彼方の方へ向いている。 「とにかく、捕らわれてる2人を早く助けてあげなきゃ!」 蒼月・花梨(中学生月のエアライダー・b61796)はそう言って、グッとボールペンを握り直した。
能力者達は閲覧スペース最奥の席に集まると、そこで数人が、ボールペンの分解作業を開始した。 「俺は本にライン引いたりするのに使うが、いつも青が残るんだよな」 「あたしは黒が先になくなるタイプ。だから芯交換に分解は必須なのよね」 何とかならねぇモンかとごちながら、青のスイッチを弄る姉川・雪声(勁雪・b00688)。緋之坂・央璃(チェルビエロディブルーノ・b00444)も、複雑なものだと売ってないのよねーと、ちょっと困ったように眉を寄せる。 「僕はいつもは4色の奴を使っててね。青は頑張って使うけど、それでも緑がいつも残って困るんだよね」 「たしかに」 巽・誠一郎(柔らかい弾丸・b09486)の言葉に、何人かが共感した。 「ところで俺、分解後に戻す自信ないんだけど……」 戻んなかったらどうすんだろうなぁと呟きながら、やや腕力的に分解を進めていた崗・攻(昏き秩序の守護者・b06519)だが……。 「……あ」 ぱきん。 その乾いた音は、寧ろ分解時より「破壊」時に聞こえるもの。 テヘ☆ と笑って誤魔化そうとする彼の手元に、仲間達の視線が集中する。 しかしその時、背後から、少女らしき声が聞こえてきた。
『壊シチャ、ダメ……!』 「「「………!!」」」
どこか悲痛な、まるで訴えるかのような声とともに。 能力者達は、忽ち特殊空間へと引きずり込まれてしまった。
●数十秒 大きな本棚に囲まれた、やけに無機質な特殊空間。 そのほぼ中央に落下した能力者達は、素早く辺りを見回しながら、イグニッションカードを頭上に掲げて叫んだ。 「「「イグニッション!!」」」 予報士から教えられたとおり、左にミイラのような地縛霊が2体、そして右には、黒髪の眼鏡少女の地縛霊が立っていた。 『ダメ……』 そう言って、少女はゆるりと歩みだし、すぐ傍に倒れている2人の少年にボールペンを突き刺そうとした。 「うぉっと、そこまでー!」 「そいつらは絶対に傷付けさせないぜ!!」 間一髪。 イグニッションと同時に走りだした央璃と正は、それぞれ少年の前に壁となるよう立ちはだかり、先陣を切って飛び出していた透は、両手に握りしめたナイフを胸の前で交差させ、少女のボールペンを受け止めた。 壁になるよう進み出ながら、魔法陣の力を体内へと取り込む誠一郎。攻と皓凱は少年達を後方へ運ぶ体勢を整えて、花梨もそれに加勢する。 『グァ!』 「おっと、そこまでだ」 ミイラのような地縛霊が、少年達の背後に迫る。けれどそこには雪声が入り、気を引くように獣爪を振り下ろす。そしてもう1体のミイラには、燵吉がフェニックスブロウを叩き込んだ。 鬼面に白燐蟲を纏わせながら、少女の方へと駈ける凛。それを見てか、地縛霊はボールペンで宙に絵を描きだし、彼女のことを襲わせた。 「きゃっ……」 思った以上の攻撃力に、凛は一瞬怯んだが、仲間達が少年2人を安全な場所へ運ぶまでは、ここを動くわけにはいかない。 「大丈夫?」 透にギンギンパワーZを投げ渡され、幾分痛みは緩和したものの、どうやらなかなか侮れない攻撃であることは間違いないようだ。 『グゥゥゥ!』 「わりぃが、そうはいかねぇんだよ」 燵吉と雪声も、自らが囮となり盾となって、2体のミイラの行く手を阻む。 その隙に、出来る限り迅速に。 攻と皓凱がそれぞれ少年達を抱え上げ、花梨とともに地縛霊の対極まで全力で走る。 時間にすれば、ほんの数十秒。 けれど、もしゴーストの攻撃が僅かでも少年達に及べば、彼らの命は呆気なく消えてしまうことは明らか。 それだけは、何が何でも阻止しなくてはならない! 抑え、走り、そして……。 「待たせたな!」 攻が叫び、長剣を旋回させながら駆け戻る。 皓凱はギンギンパワーZを一気飲みし、花梨も急いであとに続いた。 「いくぜ! こっからが本番だ!!」 『壊シチャダメ!!』 3色ボールペ……いやいや、少年達のために! 正は『白』と名付けられた日本刀を構えると、気合を入れ直すかのように頭上で高速回転させた。
●チームワーク 少年達は安全な場所まで運び終えた。 ここからは、遠慮無しに戦える! 「ここまでの借り、返させて貰う」 髪を逆立て、身体に虎縞模様を刻む雪声。透も一旦攻撃の手を止め、ギンギンパワーZを一気飲みした。 「ハートマークは気にするな! むしろ見るな!」 皓凱は皆にそう訴えながら、特に消耗の激しい燵吉へ向けて、ヤドリギで出来たハートを飛ばした。 けれど、やはり気になるものは気になるのか、数人の視線がハートへと向く。 「手加減は、必要ねぇよな?」 燵吉の、躊躇いのない一撃が、少女を炎に包み込む。 まだ体力に幾分余裕のある誠一郎は、回復よりも炎の魔弾を撃ち込むことを優先させ、凛はミイラの攻撃を背中にくらい咳き込みながらも、紅蓮のオーラを凝縮させた一撃を少女の胸元へ叩き込んだ。 『ダ、メ……!』 「うぐっ!?」 ボールペンが、央璃の肩にザクリと深く突き刺さる。炎と毒は、そう簡単には消えてくれなかった。けれど彼女は怯まず、蹌踉めきながらも少女に紅蓮の一撃を見舞った。 「みんな強いねぇ……ボクもまけてらんないや!」 ぐっと握り拳を作り、漆黒の影で少女の左腕を裂く花梨。 若干少女に届かない正も、攻と息を合わせて同時にダークハンドを伸ばしたが、闇は少女の脚を撫でたのみで、毒に冒すまでは至らなかった。 『グァァ……』 「百科事典で不貞を働くとは……!」 ミイラの振り下ろした百科事典が、雪声の肩を強かに撲つ。著者の気持ちを踏みにじるような行為に、彼の眉間に皺が寄った。だが彼は、ミイラへの反撃は行わない。 まず倒すべきは、少女の地縛霊。 回復よりも、少しでも早く少女を倒すことを選び、雪声は龍顎拳を撃ち込んだ。 かなりの深手を負ってしまった央璃に、皓凱と透が続けて回復を施す。 「燵吉さんっ!」 「くっ」 凛の叫びに、燵吉が振り返る。重い百科事典を銀色の刃で受け止め、押し戻し、しかし攻撃は少女へと。 (「ボールペンに拘る理由、何だろう……」) 色々と想像を巡らせながら、誠一郎が魔弾を撃ち、まだオーラの戻りきっていない凛も、可能な限りの攻撃を行う。けれど少女は、それらを揺らめくようにかわし、透へ向けてボールペン画を奔らせた。 「はい奏甲、いくよっ!」 即座に彼に駆け寄って、黒燐奏甲を施す央璃。 上手く敵の背後まで回り込めた正は、漆黒のオーラで包み込んだ刀を少女の背中に振り下ろし、ぐらり揺らいだところで攻がダークハンドで掻き毟る。 次はボクの番とばかりに、花梨もダークハンドを伸ばしたが、こちらは惜しくも外れてしまう。 そうしてる間にも、ミイラの攻撃は雪声と透を襲ったが、皓凱と誠一郎の素早い治癒に救われた。 連携での回復よりも、龍顎拳での打撃を選んだ雪声。透もまた、両手のナイフを巧みに操り少女に傷を刻んでゆく。 燵吉の撃ったフレイムキャノンが、また少女を炎に包み込んだ。そこに凛も炎を重ねようとしたが、あと一歩のところで防がれてしまった。 『ボールペン、壊シ、チャ……!』 「おぅっ!? ぬ、ぬけてくるか!」 慟哭とともに振り下ろされたボールペンは、央璃の持つ堅牢な番傘でも防ぎ切れぬ勢いをもって、彼女の太腿へ深く突き刺さった。幸い毒と炎にまかれる事はなかったものの、傷口からは多量の鮮血が溢れ出した。流石にちょっとヤバイと感じたか、後方へ下がりながら黒燐蟲で傷を塞ぐ。 『ガァァ!』 「痛ぇじゃねーかこのやろう!!」 後頭部を思いっきり百科事典で殴られた正は、そのぶんの体力を黒影剣で僅かであるが取り戻す。花梨、雪声、攻、そして透も、続けざまに攻撃を仕掛ける。燵吉の炎は、惜しくも着火しなかったが、皓凱が仲間の傷を癒す時間を作るには十分だった。 「蒼月さん危ないっ!」 「わぁっ!?」 目の前を掠め飛び、ミイラに直撃した炎の魔弾に、花梨は一瞬驚いた。だがそれは、彼女を狙おうとしていたミイラの気を引くため、誠一郎が撃ったものだった。そして目論見通り、ミイラは彼を百科事典で殴りつけ、ひどい打撲傷を負わせたが、すぐさま駆け寄って奏甲を施してくれた凛のお陰で、どうにか倒れずにすんだ。
そして……遂に期が訪れた! 『ダメ、壊シチャ……』 満身創痍となっていた地縛霊の少女は、修正液を取り出すと、ぺたりぺたりと身体に塗り付け幾つもの傷口を塞ぎ消した。 それと同時に、少女から、強いオーラが立ち上る。おそらく今の行為で、かなり攻撃力が跳ね上がったろう。 「大学での授業で、ノートに修整液を使う暇はないッ! 速いんじゃチキショー!」 央璃が叫ぶ。だが、それこそが、能力者達の待ち望んでいたものだった。 「回復されちゃったか、でもさ……今だよ!!」 「よし、来たぞ!」 彼らは何かを確信したかのように、次々と少女に攻撃を加えていった。防がれ、避けられても、ニヤリと笑みを浮かべたままで。 そして、その答えが出るときが来た。 「行け! 淵守!」 「来ました! 俺の出番!」 『!!!』 一切の迷いのない、透の突きが一閃。 その瞬間、少女の動きがビタリと止まった。 退魔呪言突き……こうなれば、決着はもうついたも同じだった。 「解けないうちに一気に行くよ!」 敵は動けない。だが油断なく、持てる限りの力を使って、一気に畳み掛ける能力者達。 やがて少女は、ぼろぼろと足下から崩れだした。 「何故そんなにボールペンを分解するのを嫌がったんだい?」 誠一郎は、消えゆく少女に問いかけてみた。 『……ダ、メ……壊………』 けれど彼女の口からは、その答えを聞くことはできなかった。
●組み立て 残るミイラ姿の地縛霊は、体力こそかなりあったものの、倒すのにさほどの苦労はなかった。 危なげなく、1体ずつの集中攻撃でこの世から消し去り……そして10人の能力者達は、少年2人とともに無事に特殊空間から抜け出すことが出来た。
まだ若干残っていた傷を、蟲やヤドリギ、ファンガスの力で癒し、イグニッションを解除する。いまだ気を失ったままの少年達は、雪声と攻が椅子に座らせ、うたた寝でもしてしまったようにておいた。 「顔色も良いし外傷もないし、きっとそのうち気が付くわね!」 机に突っ伏して眠る少年達の顔に、仕事をやり遂げた充実感を感じた央璃が、満足げな笑みを浮かべる。 「これで漸く、一段落ですね」 やや離れた席に腰掛け、安堵の溜息をついた凛は、手にしていたボールペンをじっと見つめてみた。 「………」 ちょっと手先が疼いたが、ここで壊すわけにはいかないと堪える。 「そういえば、このボールペン貰っていいんだよな!!」 「そりゃ当然でしょう!」 「やったーーー!!!」 やたら嬉しそうな正を見て、透もちょっとテンションが上がり、3色ボールペンを握りしめたまま何故か万歳三唱が始まった。 「そうそう、こいつらのボールペン、直してやらないと」 そう言って燵吉がつまみ上げたのは、机の上に置かれたままになっていた、生徒達の壊れたボールペンだった。 「中でバネがズレただけかな?」 とりあえず、芯を抜いてみる皓凱だが、何となく余計壊しそうな気がしたのか、組み立て作業はバトンタッチ。 「このノック部分にバネを通すのがちょっと面倒なんだよね…… 」 片目を瞑り、手際よくバネを填め込む誠一郎。 仲間達も、地縛霊を呼び出す際に使ったボールペンを組み直す。 そして程なく、ボールペンは元通りの形に戻り、カチカチと小気味よいノック音を立てられるようになった。 花梨はそれを受け取ると、少年達の傍にそっと置いた。 「ホラ、直ったよ……もう、壊れないといいよね」 その言葉に、皆もふっと微笑んで頷く。
そして、誰にも気付かれぬうちに。 能力者達は、夕陽の射し込む図書室をあとにした。
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参加者:10人
作成日:2009/05/19
得票数:楽しい18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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