ニンジンもピーマンも大っきらい!


<オープニング>


「ふ……」
 少年はニヒルな笑みを口に浮かべた。
 そして彼の目の前――机の上には、ニンジンサラダと、ジャコピーマンが置いてある。
「…………あ゛あ゛あ゛〜〜」
 なんとなく強がってみたが無理だった。頭を抱えてうずくまる。
 ダメだ、食えない。なんだよニンジンにピーマンって。硬いし苦いしとにかくマズイ! とても人間の食い物とは思えない。
 それでも果敢に、恐る恐る箸を伸ばそうとするものの、結局口に持っていくことはできそうもなく。
 ついに彼は、机を叩いて叫んでしまった。
「こんなもん、食えるかあー!」
 叫んだ、瞬間。
『スキキライ、ヨクアリマセン……』
 そんな声が、すぐ近くで聞えてきた。
 
「誰でも好き嫌いってありますよねー」
 羽佐蔵・しの(小学生運命予報士・bn0242)は、おはぎをもむもむと食みながら。
「今回の依頼はですねー、ニンジンとピーマンが大嫌いな男の子を助けてほしいんです」
 なんでも、とある中学校の給食に、ニンジンとピーマン満載のメニューが出たらしい。
 そして件の男の子は、給食の時間中に食べきることが出来ず、皆が下校した後も、かれこれ小一時間ほどお皿を前にして唸っているとか。
「夕方の教室で、『こんなもの食べられない』みたいな事を言うと、地縛霊が現れます。もちろんそんな台詞を言う前に、少年を追い払ってしまえばいいわけですけどー……」
 どうせなら、好き嫌いも一緒に直してしまおう、としの。
「その教室の隣は調理室になってますから、そこでニンジンやピーマンを使ったおいしい料理を作って、男の子の好き嫌いを克服させちゃってください。火と刃物の扱いには、十分気をつけてくださいねー」
 次に地縛霊の情報だが、現れるのは2体。
 人の背丈ほどもある巨大なナイフを構えた個体と、同じく巨大なフォークを構えた個体だ。ナイフの方の斬撃は強力で、フォークの方は周囲の敵を一度に攻撃することが出来る。
「『こんなもの食べられない』って言った人のすぐそばに現れますから、最初の陣形が大事かもですねー」
 ちなみにその日は、給食の後すぐ下校の日なので、あまり一般人ことは気にしなくて構わない。
「ではでは、おいしいお料理、期待してますねー」
 中学校の制服を差し出して、しのは手を振って見送った。

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参加者
藤咲・珀(にゃんこマン・b01007)
フレイア・アーティラリィー(銀翼の戦乙女・b01782)
レイヤ・ストラフィール(白き静謐・b14350)
神那岐・キリト(サイレントクルシフィクス・b30248)
シュベルト・オセ(進化せし陸の王者・b47155)
伊東・尚人(理の修行者・b52741)
黒山・白児(疫神牛頭天王・b55947)
ポム・プリス(暗闇の月・b61392)



<リプレイ>


 トントントン、と、小気味良い音がする。
 包丁が規則正しくまな板を叩く音だ。
 ここはとある学校の調理室。今、数人の男女が調理台に挑んでいる。
「学校で調理なんてわくわくしますね」
 柔らかく微笑む神那岐・キリト(サイレントクルシフィクス・b30248)。
 料理が趣味だという彼の包丁さばきはとても手馴れていて、見る間に食材を小さく刻んでいく。
 料理の目的は一つ。
 人参とピーマンが嫌いな子供の、好き嫌いを直すことだ。
「食べ物が嫌いになるパターンは、食わず嫌いや調理方法が悪い事が原因となる事が多いようです」
 はてさて、今回の場合はどちらだろうかと、伊東・尚人(理の修行者・b52741)は思案する。
「何にしろ、まずは苦手と言う先入観を払拭する事が第一歩ですね」
「ですわね。原型を留めぬまでに加工すれば」
 きっと純粋に味を楽しんでくれるだろう。
 フレイア・アーティラリィー(銀翼の戦乙女・b01782)はそう言いながら、牛と豚の合挽き肉を取り出した。
 愛用のエプロンドレスを翻らせて作るのは、誰もが大好きなハンバーグ。手際よくタマネギや人参、ピーマンを炒めていく。
「わ、フレイアちゃん手際いいねー」
 同じくハンバーグ作りに挑戦中の藤咲・珀(にゃんこマン・b01007)。
 ぱかりとミンチに卵を入れて、パン粉を入れて混ぜ合わせる。
 美味しく食べてもらえたらいいなと、ぎゅ、ぎゅ、とこね合わせ。
 2人が特製ハンバーグをこしらえているすぐ傍では、濃紺色のエプロンを纏ったレイヤ・ストラフィール(白き静謐・b14350)が軽快にフライパンを踊らせている。
 軽く茹でた人参に、湯通しして匂いと苦さを抑えたピーマン。
 一口大に切ったお肉と一緒に炒めた後は、甘口のカレー粉で味付けだ。
「子供の好きなカレー味で仕上げた野菜炒め! これならきっと、美味しく食べてくれるんじゃないかな?」
「どれ。……ん、うまいですな」
 ひょいとつまみ上げ、一口。
 笑顔でぐっと親指を出すのは黒山・白児(疫神牛頭天王・b55947)だ。
 「調理室の正装」と豪語するエプロン姿はあまり似合ってなかったりするが、しかし調理をする手つきは淀みがない。
 摩り下ろした人参をホットケーキミックスに混ぜ、用意しておいたカップケーキの型に流し込んでいく。
「こんなもんですかね。お、ポムさん、綺麗な花ですね」
「にんじんの飾り切りなのじゃ。ピーマンのクッキーももうすぐ焼きあがるのじゃ」
 嬉しそうにポム・プリス(暗闇の月・b61392)。苦心して作った花型にんじんは渾身の出来だ。料理は味も大事だが、見た目でも楽しませてあげないと。
 お肉が焼ける良い香りに、皆が鼻をひくつかせる。ハンバーグも完成間近だ。
「これで人参やピーマンの美味しさに気づいて下さればよいのですが」
「大丈夫。こんなに美味しそうなんだから、きっと食べてくれるよ」
 励ます珀は、おろした大根にポン酢を加え、あっさり風味のソースを作りながら。
 キリトがオーブンの蓋を開けると、そこにはふっくらと焼きあがったたくさんのシュー生地が。
 その出来栄えに満足そうに頷いて。
「さぁ、後は仕上げですね」
 こうして出来上がった料理たちを渡したとき、少年は一体どんな表情を浮かべるのだろう。
 想像して、皆は期待に顔を輝かせながら、最後の盛り付けに取り掛かった。


「……あ゛あ゛あ゛〜〜」
 頭を抱えて唸る少年。
 夕暮れ時の教室には、彼の他には誰もいない。
 彼は目の前の料理に視線を落とし、――即座にそらして頭を振った。
「人参サラダにジャコピーマン……どうして、どうしてこう、俺の嫌いな料理ばっか出てくるんだよぉ……!」
 それでも頑張って箸を動かす。だが掴めない。体が拒絶反応を起こしている。
 どうしても口にまで持っていくことが出来ずに、彼はついに癇癪を起こし、禁断のキーワードを……、
「こんなも――」
「待った!!」
 スパーーーン! とその時教室の扉を開けて現れたシュベルト・オセ(進化せし陸の王者・b47155)に、思わず言葉を止めて少年は硬直した。
「な、何だよお前!?」
 答えない。シュベルトはつかつかと彼に歩み寄り、
「全く、最近の子供はどいつもこいつも……」
「え? え?」
 少年の机を下から掴んで。
「好き嫌いが、激しいっ!」
 どっせーい! とちゃぶ台返しモーションである。
 驚いて口をあんぐり開けたままの少年の眼前を、恐ろしくスローモーションで人参サラダとジャコピーマンが宙を舞う。
 それを器用に空中でキャッチして、何事もなかったように静かに近くの机に下ろすシュベルト。
「さて、今日は好き嫌いの激しい貴様のために料理のプロフェッショナルたちが来てくれた」
 そのまま話を進める。
 彼の後に続いて教室に入ってきた能力者達に、再度少年は目を白黒させた。
 というかちゃぶ台返しのインパクトが強すぎてリアクションに困っていた。
「少年、好き嫌いはよくないのじゃ」
「そ、そんな事言われても」
「そんな事では戦場で勝ち抜いていけぬのじゃ」
 ぐっ、と握り拳を固めてみせるポムに、呆気に取られた少年だったが、彼女の目はいたって真剣そのものだった。なんとなく実感のこもったセリフである。
 その迫力に気圧されつつも、「だって硬いし苦いし……」と呟く。
「ほう、苦いし固い、か。それだけが理由か?」
 我が意を得たりと、にやりと不敵に笑むシュベルト。
「なら、固さと苦さが無くなれば問題ないのだな」
「……へ?」
 そういって差し出された料理は、どこからどう見ても普通のハンバーグだった。
 なんだ、ただのハンバーグじゃん。食べてもいいのかと視線で問えば、珀とフレイアの二人から笑顔の頷きが返ってくる。
 何もためらわずぱくりと一口。肉汁が出てくるし、ポン酢があっさりしてて美味い。
 食べた瞬間「わぁ!」と歓声が上がった気がしたが、美味しいので気にしない。
「さ、次はこちらを。疲れた時にはあまーいおやつです」
 笑顔のキリトが差し出したのは、ほんのり赤や緑に色づいたシュークリーム。
 イチゴでも入ってんのかな、と思いつつこちらも完食。カリカリの生地に甘いカスタードが滅茶苦茶うまい。
 ポムが作った緑色のクッキー……形が一部ちょっと気になったが……もいただいて。
 何事もなく食べていたが、問題は次だった。
「う……」
「そら、俺はケーキだ」
 白児が差し出した一口大のカップケーキは、上にこれ見よがしに人参が乗っていた。人参のグラッセである。
 少年はたじろいだ後、何となく上のソレは手でよけて、生地をぱくり。……うん、こっちは美味しい。
 と、なぜか目の前の男に爆笑される。白児はケーキを指差しながら、
「そのオレンジのツブツブ、全部人参だぜ? 喰ってんじゃん?」
「ンな……!」
 愕然とする。
 そんな、こんな甘くて美味しいものが、あの硬くて不味くてどうしようもない人参だって……!?
 騙されたことより、その事実の方が少年にとっては衝撃だった。
「やはり、食わず嫌いのようですね。さっきのハンバーグやシュークリーム、食べられたでしょう?」
「ま、まさかあれにも……?」
「うむ、しっかり入っておったのじゃ」
 だからこっちも頑張ってみな、と白児が言えば、少年は恐る恐るといった様子で人参のグラッセを口に含んだ。
「……甘い」
「ん、よく頑張ったな。偉いぞ?」
 わしわしと乱暴に頭を撫でる。
 そして最後に、レイヤが取り出した小皿には、見た目そのままの人参とピーマンが。
 ほのかにカレーの食欲をそそる匂いが漂ってくるが、しかし視覚的にこれはきつい。
「こんな――」
 瞬間。シュベルトたちが一斉に動き、素早く少年の口を手で塞ごうとした。
 が、それをレイヤが手で制する。
 任せて、とでも言うように、少年にも優しく微笑みかけ。
「一生懸命作ったんだから、一口でもいいから食べてくれないかな?」
「…………」
 戸惑うように少年の瞳が揺れた。一口だけなら、と小さく呟き。
 食べる。
「…………」
「どう、かな?」
「…………美味しい。カレー味」
 しぶしぶといった感じで認めると、珀は抱きつかんばかりに喜んで。
「嫌いな野菜をよく食べたね! えらいよー!!」
「うわ、ちょ、頭撫でるな!」
「ニンジンもピーマンも、あまり苦くないよね? こういう風にすれば、美味しく食べれるんだよ?」
 分かったから! と叫ぶ少年。
 その頬が親に褒められた子供のごとく、照れて染まっていた事に、その場の全員が気づいていた。


 少年を帰宅させると、彼らの顔が緊張を帯びたものに切り替わった。
 そう。ここからは能力者――世界の常識を守護する、戦士としての彼らの顔だ。
「こんな物は食べられません! 好きな物を食べさせてください」
 フレイアが叫ぶと同時。
 ふいに風景がゆらぎ、目を凝らせば、いつの間にか二体の人影が、フレイアの傍に立っていた。
『スキキライ、ヨクアリマセン……』
『ノコス、バチアタリマス……』
「現れましたね」
 瞳に決意をたぎらせて、白燐奏甲を纏うキリト。
 同じく白児も「疫神招来、牛頭天王ッと」と軽く呟く。
 既に机や椅子は教室の隅に片付けた。何も躊躇う要素はない。
「好き嫌いの心配は、お前達がする必要はない。早急に退散願おうか!」
 尚人が弾ける。虎紋をその身に浮き上がらせた彼は、高速の旋回運動で接近、目にも留まらぬ蹴撃――を龍尾脚を炸裂させる。
『オ、オオ……』
「日ごろ練武した技の数々、その身にうけてもらう!」
「フレイア・アーティエアリィー、参ります」
 後を次ぎ、漆黒の闇に包まれ敵を切り裂くフレイアの斬馬刀。
 他の技など知らぬ、ただ敵が倒れるまで全力で当たるのみと、再び剣を構え直す。
『オニク、キレイニキリワケマス……』
『ヤサイモ、タクサンツキサシマス……』
「む……!?」
「ぐっ!」
 地縛霊が動いた。
 ぐわん。宙を薙ぎ払い回転する巨大なフォーク。予想以上の鋭さでもって迫る化け物ナイフ。
 長剣で自身を庇いながらもダメージを負ったレイヤは一旦下がり、旋剣の構えで回復したところに、ふわりと白い物が飛んできた。
(「大丈夫か?」)
 ヒーリングファンガス。シュベルトのアビリティだ。
(「これは……うん、ありがとう。おかげで助かったよ」)
(「そうか。しかし情報伝達に便利だな、コレ」)
 感心したような声。実際に面と向かって喋っているわけでもないのに、肩を竦める仕草が目に浮かぶようだ。
「食器は食事をするための道具で、人を傷つけるための道具ではありませんよ?」
 キリエは素早く筆を走らせ、スピードスケッチを使用する。
「一度に喰らわなければ平気なのじゃ!」
「しっかり見てさえいれば、あいつらの攻撃も怖くないよ!」
 それに重ねるようにポムのダークハンド、珀の呪いの魔眼も加わって。
 敵の攻撃に時に傷つきながらも、それでも戦う意志を曲げぬ彼らは、次第に敵を押し込んでいく。
 フォークを構えた敵の懐ふかく、潜り込んだ尚人は、一言。
「――破邪顕正」
 咆哮する龍の如き正拳突き。
 腹を抉りぬかれたゴーストは、異様な断末魔を上げて消滅していく。
「在るべき世界へ還りなさい」
 フレイア渾身の黒影剣。残りの一体もふらふらと後ずさる。
『ス、スキキラ、イ、ヨク、アリマセ……』
「ああ、そりゃ好き嫌いはよかぁねぇがな」
 ス……、と白児は眼鏡に手をかける。
 あらわになった裸眼には、言語に絶するほどの、闇が。
「だからってぶん殴っていい理由にゃ、ならねぇよな?」
『――――』
 呪いの魔眼に射すくめられ、最後の地縛霊も、体を薄れさせていった。


「……昇天し輪廻の輪に戻りて、転生の時まで安らかなる眠りを得ん事を……」
 手を組み、フレイアは地縛霊の冥福を祈っている。
 それが終わると、にっこりと皆に向き直った。
「お疲れ様でした。少年の好き嫌いも直せて良かったですね」
「だね。僕も昔は人参嫌いだったから、嫌いな気持ちがよく分かったよ」
 たはは、と子供っぽい笑みの珀に、キリトもうんうんと頷いている。
「僕も小さい頃は苦労しました。食べ物の美味しさを解ってもらえて良かったです」
「好き嫌いを無くす為の料理、お母さんの愛情料理ですね」
 愛情に勝るものなし、と尚人。
 果たしてあの少年には、能力者たちの気持ちが伝わったのだろうか。
「給食で居残り、ね……」
 レイヤは言う。
 一人で、しかも冷め切ったご飯を食べて美味しいはずがないだろう、と。
「ボク達でも、ちゃんと力になれたのかな」
「なれたさ」
 コンパクトケースを覗き込み、自身の肌をさするシュベルトは、視線を合わさぬまま。
「ところで皆。大事な仕事を一つ、忘れていないか?」
 ? と首をかしげる一行に、ポムが例のクッキーを取り出しながら。
「後片付けじゃ♪ 残ったお菓子、皆で食べようではないかのぉ?」
「そうですね。割とたくさん作ったようですから、皆で処分しましょうかね?」
 こちらはキャロットケーキを取り出しながらの白児。
 ニンジンにピーマン。
 苦手な人も多いけれど、少し工夫するだけで、こんなに美味しくなるのだから。
「……ん、美味しい」
 夕暮れの教室に、満足そうな微笑が並んだ。


マスター:リヒト 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/05/18
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冒険結果:成功!
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