秘密特訓は夜の体育館で


<オープニング>


 深夜。とある学校の体育館。非常灯が照らすぼやけた暗闇の中、ボールの弾む音がする。
 バスケットゴールの下に一人の男子生徒の姿があった。
「もっと……もっと練習しなきゃ……」
 構え、シュートを打つ。緩やかな放物線を描いたバスケットボールがゴールリングの縁に当たり、床に落ちる。
「……っ! だめだ……もう一回……」
「ねぇ……オレと代わって……?」
 突然、耳元で響いた少年の声。しかし、ここには他に誰もいなかったはずだ。
 反射的に振り返った男子生徒の目に、狂気じみた微笑みが写った……。

「みんな、来てくれてありがと! さっそくだけど説明するね」
 空き教室に集まってきた能力者達を出迎え、月島・生樹(中学生運命予報士・bn0202)は、手にしたノートを開く。
「ある学校の体育館にね、地縛霊が現れるよ。このままだと一人の男の子が犠牲になっちゃうんだ。そうなる前に、みんなになんとかしてほしいの」
 深夜の学校の体育館。そこへ密かに特訓をしにきたバスケ部の男子生徒が地縛霊に襲われてしまうのだという。
 今からならまだ間に合うらしい。一度能力者達に向き直った生樹は説明を続ける。

「バスケ部の男の子が体育館に来るのは夜中の3時ごろ……って、もうほとんど朝だよね……体育館の非常口の外側に隠してある鍵で、いつもそこから忍び込んでバスケットの練習をしてるみたい」
 体育館への出入りはその非常口から難なくできるだろう。ちなみに、肝心の鍵は非常口の外、ドアのすぐ近くに落ちている石の下に隠してあるそうだ。

「地縛霊が現れるのは夜中の12時ごろから明け方まで。体育館でバスケットの練習をしていると現れるよ。3時ごろには男の子が来ちゃうから、タイムリミットは3時間。この時間帯は見回りの人も来ないから、戦いに集中しても大丈夫!」
 時間内に地縛霊を倒すことができれば、あとは余計な心配はしなくても心置きなく戦えるだろう。

「現れる地縛霊は5体。みんなバスケットのユニフォームを着た男の子の姿をしているよ。地縛霊達はね、一人一人ボールを持っていて、それを投げてきたり床に叩きつけて衝撃波を出したりして攻撃してくるよ。あと、4番のユニフォームを着ている地縛霊だけがね、号令をかけて自分とか仲間の地縛霊を回復させる能力を使ってくるから、この辺は注意してね」
 ここまでの説明を終えた生樹が、ふぅ、と小さく息をついてみせる。

「地縛霊達は、4番から8番までのユニフォームを着ているよ。人数も5人だし、チームなのかな……? 練習を頑張ってる男の子を見て、羨ましかったのかな……でも、被害を出すわけにはいかないよね! あ、そうそう、これ、必要だと思うから、持ってって!」
 地縛霊を出現させるためには、バスケットの練習をする必要がある。生樹は一つのバスケットボールを出してきて、能力者達に手渡した。
「練習はみんなでやっても一人でやっても問題ないよ。後からこっそり練習に来る男の子のためにも、みんなの力、貸してね! お願いだよ! いってらっしゃい!」

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参加者
風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)
紫乃月・美桜(春を待つ桜の蕾・b13384)
驫木・一驥(千載不磨・b24882)
七種・燈迩(紅のセレノギルス・b34454)
鞍馬・牛若(義経は苦労する・b37770)
黄泉川・戒一郎(妖戒人間・b43522)
天宮・宗(怠惰にして眠れる蒼龍・b44652)
遥・かなた(地味に目立たず着実に・b45607)
土御門・竜々珠(竜の落とし子・b47656)
ドルミエンテ・ダルターニ(祖なる霧と夢幻の次期侯爵・b49489)



<リプレイ>

●試合開始!
 いくつかの街灯の下。真夜中の校舎は薄暗い闇に包まれている。
 体育館裏の非常口前へとやってきた能力者達は、まず、その下に鍵が隠されているという石を探した。
「……あ、ありました。これじゃないですか?」
 非常口のすぐ側に落ちていた拳大の石を持ち上げてみた、遥・かなた(地味に目立たず着実に・b45607)が声を上げた。石の下から出てきた銀色の鍵を拾い上げ、立ち上がる。
「おっ、間違いなさそうだな。どれ、貸してみな。先に入って様子見てくんぜ」
 かたなから鍵を受け取り、驫木・一驥(千載不磨・b24882)は闇纏いを発動させた。そのまま鍵を使って非常口を開ける。
 ガチャリという手応え。静かに開いた重たいドアの隙間から、一驥が体育館の中へと入っていく。
 少しすると、大丈夫だ、という声と共に非常口のドアが大きく開かれた。どうやら侵入するのに問題はないらしい。外で待機していた能力者達は素早く体育館に入った。
 時刻は深夜の12時を回ったところ。非常灯の灯りが、ぼんやりと暗い体育館を照らしている。
「それにしても、今時感心な子だな。影でいっぱい練習をして実力をつけようだなんて……」
「こんな真夜中に来てまで練習するなんて頑張り屋だよね。その男子生徒の練習の成果を実らせる為にも、僕らで地縛霊を倒さないとね!」
 薄暗い体育館を見渡しながら言った、黄泉川・戒一郎(妖戒人間・b43522)の言葉に、風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)は大きく頷いてみせた。
「さて、気合を入れて! イグニッション!」
 パチン、と手を叩いて起動を完了させた、ドルミエンテ・ダルターニ(祖なる霧と夢幻の次期侯爵・b49489)の後に続いて、能力者達はイグニッションを発動させていく。
「弁慶。皆さんをお守りするのですよ?」
 そう言い聞かせる、鞍馬・牛若(義経は苦労する・b37770)に、彼女の相棒、フランケンシュタインの弁慶は、黙ってこっくりと頷いた。
「さーて、とっとと倒しちまうかね。練習、頑張って欲しいしなー」
「学校の授業でちょっとやった程度なんですよね、バスケって……」
 事前に渡されていたバスケットボールを手にコートの中へと入っていく、七種・燈迩(紅のセレノギルス・b34454)の後を、天宮・宗(怠惰にして眠れる蒼龍・b44652)が追う。
「それじゃ、私は見学してますね」
 バスケットのコートへ入っていく仲間達を見送りつつ、かなたは周囲の様子を窺う。
「いつでも大丈夫です! 後ろは任せてください!」
 前衛が囮となり、後衛を固める仲間達が体育館の隅で待機する作戦だ。コートの中に入っている、燈迩と宗、一驥、戒一郎、玲樹に、フランケンシュタインの弁慶に、ドルミエンテが合図の声を掛けた。
 地縛霊達をおびき寄せるための、バスケットの練習。
 ダンっ、とボールが床に弾む音を合図に、パス回しやドリブル、シュートの練習が始まった。
「地縛霊さんたちも、きっと本当にバスケが大好きな方々だったんでしょうね……でも……このままにはしておけません。ちゃんと、してあげなくては……」
 紫乃月・美桜(春を待つ桜の蕾・b13384)は、コートの中でバスケットの練習をする仲間達の姿を見つめ、自分に言い聞かせるように小さく呟いた。
「そうぢゃな。いつまでも遊ばせておくわけにはゆくまい……今じゃ、ゆけー!」
 心苦しそうな顔をする美桜に、土御門・竜々珠(竜の落とし子・b47656)は努めて明るく声をかけ、練習を続ける仲間達にも声援を送った。
 コートの中では軽快なテンポで練習が進んでいる。
「……ゴメン、俺に球技は無理だった。パスパスパス」
 回ってきたボールをドリブルしてみた戒一郎だったが、どうも手つきが拙い。何となく恥ずかしくなったのか、顔を赤らめながらパスを回す。
 異様に高く上がったボール。落ちてきたそれを受け止めた弁慶が、ぐぐぐ、と体勢を低くする。
「こらぁ、弁慶! そのパワーナックルの体勢はやめなさい、危ないから!」
 牛若声に反応するように、ボールがポロリと零れ落ちた。近くにいた一驥がそれを片手で掴み上げ、高く跳んだ。
 豪快なダンクシュートが決まる。
「……! 出おったぞ、用心せい」
 警告を促す竜々珠の声が響き渡った。皆、反射的に身構える。
「ねぇ……オレ達も練習……していい? 代わってよ……」
 いつの間にか姿を現していたバスケットのユニフォームに身を包んだ少年達。その顔に貼りついた、狂気を含んだ笑み。ニヤリと口元を歪めた4番の番号をつけた少年の地縛霊が、燈迩に向かってボールを投げつけてくる。
「審判はいねぇし、お互いファウルし放題だなー! こっちからもいくぜ!」
 顔面を狙って飛んできたボールをギリギリでかわした燈迩は、森羅呼吸法で息を整え、低く構えた。
「大丈夫……私たちが成仏させてあげます」
 援護の届く範囲に立ち位置を決めた、かなたが、リフレクトコアで自らの防御を固める。
「あらわれやがったな、いざ尋常にバスケで勝負! ってわけにもいかねェか……てめえがキャプテンかい? まずはてめえから挨拶だ」
 前に出ていた4番の少年へと踏み込んだ一驥が、暴れ独楽を発動させた。
 4番の少年はもちろん、その近くに陣を張っていた5番の少年も凄まじい回転撃に巻き込まれていく。
「おいでなすった、という事ですね……」
 すい、と前に差し出された戒一郎の指先から、土蜘蛛の檻の糸が飛ぶ。蜘蛛の糸は6番と7番の少年の動きを封じたようだ。2人の少年の地縛霊がその場でがくりと膝を折る。
「バスケが好きだったはずなのに……何所で歪んでしまったんですかね……少し虚しい気もしますが……」
「後から練習しに来る方の為にも、貴方たちの為にも……今ここで終わらせます……!」
 雪だるまアーマーで防御を高め、伏し目がちに言った宗。それに小さく頷いた美桜が、魔弾の射手の魔法陣を描いて魔力を高める。
 次々に戦闘態勢を整えていく能力者達。一方、陣形を乱されつつある地縛霊達だが、まだまだ戦意は失っていない。8番の少年が、構えたボールを激しく床に叩きつけた。
 ボールが叩きつけられた床から衝撃波が生まれ、能力者達に襲い掛かる。
「こりゃ、ちょこちょこと動き回るでない」
 衝撃波の攻撃をなんとか堪えた竜々珠が、不浄泥濁陣を展開させた。毒の沼が、少年達を飲み込んでいく。
「さあ、僕達が練習相手になってあげようじゃない!」
 旋剣の構えを取って、回復と強化を図った玲樹。直後に5番の少年が放ったボールを打ち落とし、にっと笑ってみせる。
「皆さんと協力して、4番を攻撃しなさい」
 牛若の指示にこくりと頷いた弁慶がパワーナックルで4番の少年に攻撃を仕掛け、その後ろから牛若自身も水刃手裏剣を飛ばし、少年にダメージを負わせていく。
「あなた方にまだある未来を渡すわけにはいきません! 打ち砕け! ペクタ」
 間髪を入れず、ドルミエンテがナイトメアランページを発動させた。颯爽と駆け抜けていくナイトメア。ちょうど直線上に並んでいた4番と5番の少年が巻き込まれ、4番の少年がその姿を消した。
「うっし、面倒なのは片付いたな! 一気にいくぜ!」
 これで回復を担う役はいなくなった。燈迩は手負いの5番の少年に獣撃拳を打った。
 体を二つに折り、苦しげに叫んだ5番の少年が、続いて消滅する。
 残っているのは、マヒで体の自由を奪われている6番、7番の少年と、まだ攻撃を受けていない8番の少年。
「このまま押し込みます……!」
「ン、やはりオレには刀の柄のほうがしっくりくるね。こういう荒事じゃあ負けられねェな」
 かなたが放った光の十字架。降り注ぐ清らかな光に少年達が怯んでいる中、ぐっと距離を詰めてきた一驥が、6番の少年に黒影剣を浴びせた。
 闇のオーラに捕らわれた6番の少年は、そのままその姿を消していく。
 あと少しと思ったその時、7番の少年のマヒが解けた。大きく腕を振り上げた少年が、思い切りボールを床に叩きつける。
 再び能力者達に襲い掛かる衝撃波。仲間達の悲鳴が重なって聞こえる。
「ラフプレーはスポーツマンシップに反する行為だってば!」
 歯を食いしばり、赦しの舞を舞う戒一郎。絶妙なタイミング。完全にとまではいかないが、ダメージが重なっていた分、この回復は貴重だった。
 体勢を立て直し、美桜は炎の魔弾の術式を手の中で練り上げていく。
「もう……もう終わりにしましょう……」
「蒼龍の咆哮から逃れる術はありません!」
 美桜の手から放たれた炎の弾が7番の少年を捕らえた。ぐらりと揺れた体。すかさず少年へ詰め寄った宗が、左手の布槍で軽くフェイントをかけ、右手のリボルバーガントレットによる龍顎拳をぶち込んだ。
 がら空きの体に容赦なく入った攻撃。堪らず7番の少年は消滅した。
 あと1人。残された8番の少年が、手にしていたボールを振りかぶり、後ろに構えていた竜々珠へと投げつける。
「ぬぅ、やりおったな……スポーツは楽しくするものだと思うがのう」
 霧影分身術で、負った傷を凌ぐ竜々珠。彼女を庇うように前へ出た玲樹の足が、体育館の床を蹴る。
「これで終わりだよ! 頑張っている人の邪魔はさせないよ!」
 黒影剣の闇のオーラを纏った大鎌。大きく振りかざされた刃が、少年の体を捕らえた。
 叫び声と共に、少年の地縛霊は闇の中へと消えていった。
 薄暗い体育館に、静けさが戻っていく。
 初めに使っていたバスケットボールが、コロコロと能力者達の前へと転がってきた。
 試合、終了である。

●未来の試合に向けて
 静まり返った暗い体育館。燈迩は少しだけ気の抜けた様子でコートを見つめる。
「終わったなー……」
 時間にはまだ余裕があった。能力者達は撤収の準備をしつつも、時々、何となくコートの中を見つめてしまう。
「あの世で思う存分プレイするがよい。きっと、対戦相手もおろう」
「次に生まれ変わるときにも、また思う存分バスケを楽しめるといいですね……」
 竜々珠は手向けの言葉をそっと呟き、美桜が小さく祈りを捧げた。
「ええと……左手は、添えるだけ、っと……」
 転がっていたボールを拾った戒一郎が、1本だけシュートを打ってみる。しかし、やはり難しいものだ。コツを理屈で理解していても、なかなか思う通りにはいかない。
 ゴールリングにぶつかり、弾かれたボールが足元に戻ってくる。
「あの地縛霊達は、本来はバスケに励んでいた少年達なのかもしれないね。生まれ変わった世界で、一生懸命バスケに励む事が出来る事を願うよ」
 戻ってきたボールを拾い上げ、玲樹は静かになったコートを見やった。
「ほんとにバスケで勝負してやれればよかったんだがね、しかし終わった話だな」
「一生懸命な人がこういう事に巻き込まれて、負の連鎖が続いているような……なんだか悲しいですね」
 軽く頭を掻きながら言う一驥。その横にいる、かなたは悲しげに表情を曇らせている。
「……あ、皆さん、怪我とかは大丈夫ですか? 無事に終わりましたし、帰るとしましょう」
 あと数時間もすれば、頑張り屋の男子生徒がこの体育館へやってくるだろう。宗は皆の安否を気遣いつつ、帰り道を促した。
 能力者達は頷き合い、速やかに体育館を後にする。
「弁慶。お前もスポーツをなさい。最近、お腹が出てきたように思います」
 横を歩く弁慶をちろりと見やり、牛若は小さく笑った。
「だ、大丈夫です。そんなことないですよ!」
 主人の言葉を受け、何となくしょんぼりとするフランケンシュタインに、ドルミエンテは励ましの言葉を掛ける。
 非常口のドアが閉まり、体育館には暗闇と完全な静けさが戻ってきた。
 いつの日か、バスケットの試合で活躍する一人の少年が現れることだろう。今宵の能力者達の活躍により、1人の少年の未来が守られたのだった。


マスター:海あゆめ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/07/14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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