映画鑑賞に、ポップコーンいかガですカ?


<オープニング>


 その上映は、彼だけのためものであった。
 最後方の席から見渡せる小さめの劇場に他の客は誰ひとりいない。
 男は思う存分、上映中の癒し系感動ストーリーに浸っていた。
 そして物語がクライマックスを迎えた時。
「何度観てもこのシーン、泣ける……」
 彼がそう呟いた、瞬間だった。突然彼の視線を覆ったのは――暗闇。
「!? ちょっ、いいところなのにっ」
 真っ暗になったスクリーンに彼は憤りの声を上げる。
 ……だが。
「えっ!?」
 ぼんやりと光る非常灯に照らされた光景に彼は瞳を見開いた。すべての座席が消え、劇場内は不気味なほど広くガランとしているのである。
 そして。
『ポップコーン……いかガですカ……』
 彼の耳に突然響いたのは、そんな不気味な声と。
 ジャラリと鳴る、鎖の音だった。

「皆様、お集まりいただきありがとうございますの。運命予報、始めますわ」
 水無瀬・詩杏(中学生運命予報士・bn0212)はペコリとお辞儀し、依頼の概要を告げる。
「ある映画館に、地縛霊が確認されましたの。すでに数人の被害者が出ており、このまま放っておけば、今日新たに男性が犠牲になってしまいますわ」
 地縛霊はある条件を満たした人間を、特殊空間に連れ込んで殺しているのだという。
「その条件ですが。まず、午後4時44分にひとりで劇場内にいること。そして、最後列の一番右端の席に座っていること。以上を満たしている人間を、地縛霊は時間がくると特殊空間へ連れ込みますの」
 詩杏はそう言った後、劇場の上映スケジュールの書かれたチラシを皆に見せる。
「この映画館は小さく、劇場はひとつしかありませんの。それで、今上映されている映画の時間を調べましたら……」
「あっ、これ、この前観たやつじゃねーか!」
 渡されたチラシを見つめ、そう口を開いたのは。集まった者のひとり、五十嵐・右京(紅い火狐・bn0248)であった。
「これな、モモとハナっていう二匹の小ギツネの感動物語で話の内容も泣けるんだけどよ。モモとハナがモッフモフのふわふわでよ、二匹がひたすらじゃれまくってるシーンなんて半端なく可愛すぎで、めっちゃ和むんだぜ?」
 思わず表情を緩めて語る右京。だが、集まる視線に気がつき、慌てて首を振る。
「あっ、いや、勘違いすんなよ!? わざわざ上映開始初日に観に行ったりとか、パンフ買ったりなんて……し、してないんだからなっ」
 初日に観に行って、パンフレットも買ったんだ。
 詩杏は蒼の瞳をちらりと彼へと向けたが。敢えてツッこまず、話を続ける。
「男性は、今日の午後3時半からの上映を観るべく劇場を訪れますので、まずはこの男性の対処をお願いしますの。今から向かえば、皆様は午後3時頃には映画館に着くと思われますわ。男性は午後3時半ギリギリに劇場にやってきます。男性への対処が済み次第、地縛霊を出現させて退治する手筈になるかと」
 平日の昼過ぎに映画を観にくる人は少ない。多少映画館内にスタッフはいるが、注意していればどの人物が対象の男性かはすぐに分かるだろう。
 この映画館は、外にチケット売り場、中に入ると売店やトイレなどがある広めのエントランスがあり、その奥が劇場だ。映画館入り口はチケット売り場そばの1箇所のみで、劇場の出入り口も1箇所だけである。どこでどう男性の対処をするかは作戦次第だ。
 そして条件を満たし、地縛霊を出現させて。開かれた特殊空間は数分は閉じないため、タイミングを計れば囮以外の侵入も容易いであろう。空間内部は特に障害物など何もなく、広さも十分にある。だが、明かりが非常灯のみのため暗いという。
「次に、敵の詳細ですが。空間主である地縛霊1体と、過去の被害者と思われるリビングデッド3体がおりますの」
 地縛霊は売店スタッフのような格好をした男性で、着弾すると爆発するポップコーンの弾丸を放って攻撃してくる。身体の自由を奪う、長い映画のフィルムを飛ばしてきたりもするようだ。また近づくと、鋭い映画のパンフレットの角で殴りかかってもくるらしい。
 3体のリビングデッドの攻撃方法は、殴打や引っかきのみであるが。力が強く体力があるので、油断せず退治したい。

 詩杏はそこまで説明した後、映画のチケットを皆に手渡す。
「この映画館は今時珍しく、入れ替え制ではありませんの。なので、一度入場すれば何度でも映画を観られますわ。ですので、退治後でも映画鑑賞できますの」
 勿論上映されているのは、右京おすすめのふわもふ小ギツネムービーである。モッフモフでふわふわな感動物語らしいので、時間があれば鑑賞するのも悪くないのではないか。
「それでは皆様、どうぞお気をつけて。ゴースト退治、よろしくお願いしますの」
 詩杏はそう頭を下げて、能力者を送り出した後。
「モッフモフで、ふわふわ……」
 ちょっぴり羨ましそうに、ポツリと呟いたのだった。

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参加者
朱雀寺・スイ(舞う炎雀・b17578)
雪村・羽根(ふわり宙に舞う・b22459)
南・優(赤糸の絆・b30373)
代参寺・七日(憎らしい三叉戟・b42545)
三崎・優児(小学生月のエアライダー・b48478)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
穂宮・乙樹(眠りを誘う霧・b62156)
福島・正成(彷徨って比奈村・b62949)
ユーリィ・リンドヴァル(ゆりかごの眠り姫・b63110)

NPC:五十嵐・右京(紅い火狐・bn0248)




<リプレイ>

●映画を楽しく観る前に
 時計の針は、午後3時を指している。
 映画館に到着した少年少女達は、入り口で映画チケットを引き換えて。
「ほゎ〜♪ とても可愛いです」
 無事に入場者特典のふわもこ小ギツネなミニぬいぐるみを貰い、広いエントランスへと足を運んだ。
「小ギツネムービー……ふわふわ、もふもふ……とても楽しみです」
 文月・風華(暁天の巫女・b50869)はそう呟きながら、手にしたぬいぐるみを嬉々と抱きしめている。
 朱雀寺・スイ(舞う炎雀・b17578)も売店でパンフレットを購入し、パラパラと中身に目を通す。
「……あら、本当にもふもふっと可愛らしい……」
「……ふわもふな映画かぁ……」
 雪村・羽根(ふわり宙に舞う・b22459)も、たのしみ、と笑んでから。
(「とっととゴースト退治して、見るんだー」)
 そう、心の中で続けた。
 彼女達が映画館を訪れた目的は、映画鑑賞――だけではない。
 能力者として映画館に存在するゴーストを滅すべく、この場所に赴いているのである。
(「地縛霊も、映画が好きで此処に留まっていたのかな」)
 南・優(赤糸の絆・b30373)はふとそんなことを考えながらも。鼻をくすぐるポップコーンの匂いにそっと瞳を細めた。
(「……でも、食物を攻撃に使うのは言語道断。きっちり退治させて頂きます」)
(「何の未練があってここで霊として現れ人を襲うのか知らないけど、害を成す者である以上放っておけないわ」) 
 一般客を装い、パンフレットを見ているスイも、同じ気持ちだ。
 敵は、映画を楽しむ人間を襲う地縛霊。
 迷惑な話ね、と嘆息して。初依頼の穂宮・乙樹(眠りを誘う霧・b62156)は表情を引き締めた。
「犠牲者をこれ以上出さないために倒しましょ」
「乙樹さんは初依頼ですね♪ 一緒に頑張りましょう」
 同じ結社仲間でもある風華は乙樹にそう声を掛け、乙樹もそんな風華を頼もしく思う。
「身共も依頼参加は初でござる、気張らず参ろう」
 同じく初陣となる福島・正成(彷徨って比奈村・b62949)も、少々緊張気味ながら仲間に声を掛ける。
(「これがはじめての依頼だけど、みんなといっしょにガンバるぞ、オー」)
 ユーリィ・リンドヴァル(ゆりかごの眠り姫・b63110)も心の中で気合を入れつつ。
(「でもできれば早くきつねさんが見たいなぁ」)
 ふわもふぬいぐるみをモフりながら、小ギツネムービーに思いを馳せていた。
(「わたしは、面倒な事は早めに終わらせておきたい主義なんだ」)
 風に聞こえた噂によれば、全米が泣いたとか凄い評判の映画らしい……!?
 代参寺・七日(憎らしい三叉戟・b42545)は、一番前の座席で見るんだぜ! と、大いなる野望を密かに胸に抱く。
 そして七日と同じく、最前列で映画を楽しむ主義の三崎・優児(小学生月のエアライダー・b48478)は。
「映画は落ち目産業だけど……こんな事で大切なファンが減ったら大変だ」
 映画に人一倍思い入れのある彼は密かに使命感に燃えながらも。携帯電源断や騒がないことや5分前トイレなど、映画鑑賞の際のマナーやノウハウを何気に仲間にレクチャーして。
 それを真剣に聞いていた五十嵐・右京(紅い火狐・bn0248)は、5分前ではないが慌ててトイレへと走っていた。
 それから皆は時計の時間を合わせたりと抜かりなく準備を済ませて。被害者になるはずの一般人男性の到着を待つ。
 ……いつの間にか時計の針は、午後3時半を指そうとしていた。
 
●開幕
 誰が保護すべき人物なのかは、一目瞭然であった。
 映画の始まる午後3時半ギリギリに。ふわもふなぬいぐるみを抱きしめやって来た男性は、慌しく劇場へと消えていく。それを確認して男性に続き、能力者達は劇場内へと足を踏み入れた。
 男性は予報視通り、最後列の一番右端の席に座っていた。
 予告編が終わって本編が始まり、男性の意識は完全にスクリーンへと向いている。
 乙樹はそっとそんな男性の背後へと忍び寄って。
 ペタリと、眠りへ導く呪符を彼へと施した。
 それから寝息を立て始めた男性の様子を確認した乙樹は、男性を運ぶ役を担う正成と優児に目配せをする。
「よく寝てる?」
「よく寝てるようでござるよ」
 小声でそう確認し合った後、正成と優児の手で男性が劇場の外へと運ばれる。
 眠っている人間は思いのほか重かったが。男性は大柄ではなく、出口も席から近かったため、運び出すことに問題は生じなかった。
 だが……その時。
「どうかされました!?」
 能力者達が男性を劇場から運び出す様に、慌てて劇場スタッフが駆け寄ってくる。
 そう広くない映画館。数名いる映画館スタッフから、劇場の出口は丸見えであったのだ。
 だが何とか、急にこの人が劇場で倒れて、と誤魔化す。
 スタッフに揺り起こされた男性は、何が起こったか分からない様子だったが。倒れたと聞くと、首を傾げながらも映画を諦め、帰って行った。
 これであとは……ゴーストを、退治するだけ。
 そのためには、まず地縛霊を出現させなければならない。
 男性の代わりに囮になる右京を劇場へ見送り、残りの面々はロビーで待機しておく。
 囮という大役を任され、最初は「俺!?」と驚く右京であったが。
「自己強化や体力的もあるが、感受性豊かで映画好きな男性故囮役を頼みたい」
 そんな真摯な正成の言葉に。
「そうそう、売店に今回の映画のもっふもふのキツネのぬいぐるみ売ってたわよ。無事依頼を終わらせたら買ってみたらいいんじゃない?」
 そんなスイの誘惑の言葉に。
「センパイよろしくお願いします!」
 そんな後輩の優児の言葉に。
 任せとけ! と、調子に乗って勇んで引き受けたのだった。
 ……ナントカとハサミは使いよう、だ。
 そんな右京に、正成のヒーリングファンガスを施しマインドトークによる連絡ができないかと案が出たが。マインドトークの効果は、一瞬。持続性はないために今回は使えないと、今回は時計を頼りに突入することになった。
 劇場の外にいる能力者達の様子にスタッフは小首を傾げていたりもしたが。
 特に声を掛けられはせず、時間が過ぎていく。
 優は慎重に何度も時刻を確認し、女性陣はパンフを見ながらふわもふ語りしたりと一般客を装っていた。
 だが時間が近づくにつれ、皆の緊張も高まる。
「しかし上映時間を考えると、お話もそろそろ佳境ってところでゴースト登場みたいだなぁ」
 五十嵐さんの胸中たるや如何なものか、と。そう呟く七日。
 そして時計の針が――突入時刻を指す時が来た。

●本日の山場です
 ――午後4時44分。
 劇場に足を踏み入れた各人の目に飛び込んできたのは、映画を映し出すスクリーンと。
 囮の右京がいた場所に在る、ポッカリと開いた特殊空間の入り口。
 皆はすぐさまイグニッションし、空間内へと突入する。
「やはり暗いですね」
 風華はそう呟き、瞳を凝らした。
 予報視された通り、空間内は暗く視界が悪い。
 そんな暗闇の中。黒燐蟲のものだろう光が見え、俺はホラー映画は苦手なんだー! とか、カムバックふわもこー! とか、そんな誰かさんの叫び声が聞こえる。
 囮もどうやら元気なようであるし。まずは、視界の確保からだと。
 榮の白燐光と久埜の光明呪言の光が特殊空間内を明るく照らし、暗闇を一蹴して。
「霧影分身の術!」
 生み出した霧で自己強化をはかったスイが、まずは地縛霊に狙いを定め前へと躍り出る。
 優も戦闘に備え、魔法のヤドリギによる加護を自らと正成へと施す。そして周囲をホラー映画よりリアルなリビングデッドに囲まれ涙目な右京の援護をすべく、羽根の奏でるショッキングビートが敵1体の身体を麻痺させることに成功した。
「……お前らはもう、死んでいる……在るべき場所にとっとと行くがいい!」
 仲間がリビングデッドを抑えている隙に。地縛霊目掛け優児から放たれたのは、龍の尾の如く力強くしなやかな回転蹴りの連打。
 そして仲間を包むユーリィの幻夢のバリアが戦闘態勢をより万全なものにした。
「さっさと終わらせます!」
「これで傷を癒して!!」
 力漲る白虎の紋様を宿す風華の声と同時に、乙樹の癒しの呪符が体力を消耗している右京目掛け宙を舞う。
 だが敵も、黙って見ているだけではない。
『……映ガ鑑賞、いかガですカ?』
 地縛霊がそう呟いたかと思うと。
 ビュッと空気が鳴り、長い映画のフィルムが後衛の位置で弾け飛んだ。
 だが範囲内にいた優やユーリィを縛り付けることはできず。
 逆に反撃に転じた正成の呪詛呪言改が地縛霊に向けて繰り出され、ダメージを与える。
 そして体力を取り戻した右京が、リビングデッドに炎を宿したバス停を見舞うと。
「ンフハハハハハハハ! 眠れ眠れェ!」
 基本的に絶対安全(重要)である位置の後衛からそう叫ぶ七日から、強烈な悪夢の塊が放たれ弾けて。直撃を受けたリビングデッド2体が深い眠りへと落ちていく。
 その間、スイの強烈な退魔呪言突き奥義が炸裂し、堪らず声を上げる地縛霊。
 優のヤドリギの祝福がユーリィにも施され、神秘的な能力を更に上げると。羽根のショッキングビートが再びリビングデッドへと放たれる。
 そして青龍の力が込められた優児の龍顎拳奥義の連携が地縛霊へと決まり、優のヤドリギの祝福を受けたユーリィの魔法の茨がリビングデッドの動きを封じた。
 マヒに眠りに締め付けにと、リビングデッド3体の動きは完全に抑えられている。 
 その間にと、風華の龍尾脚改が地縛霊へと叩き込まれ、乙樹の展開したミストファインダーが後方からの射程に捉える。
 地縛霊は受けた衝撃の大きさに一瞬上体を揺らしたが。すかさず自分を囲む前衛の能力者を狙い、ポップコーン爆弾を繰り出した。
「!」
 刹那、派手な破裂音が生じ、複数の能力者の体力を削り取る。
 だが、この程度で倒れる能力者ではない。
「ただの子供のかんしゃくみたいね」
 スイはふっと息をつき、敵を見据えた。
 動きを封じられていたリビングデッドも徐々に状態異常から回復しつつはあったが。
 中衛の正成の呪詛呪言、後衛からの七日の光の槍、前衛の右京のフェニックスブロウを立て続けに受けた地縛霊の体力の消耗は激しく。
 封術から開放されたスイの退魔呪言突き奥義が、ついに止めを刺したのだった。
 残る敵は、3体。
 特別な攻撃こそないリビングデッド。だが腕力と体力のある相手に時間こそかかったが。
「今回復します」
「ジークフリート……おねがいしますね」
 優やユーリィが後方から仲間を支援して。羽根の獣撃拳改や、優児と風華の連携による攻撃が効率良く敵にダメージを与えていく。
「回復の担い手が居なくなったら困るでござろう?」 
 正成は中衛から敵を撃ちながらも、臨機応変に仲間を守り回復に回ったりと動いて。右京も前に出て攻撃を仕掛け、七日の放つ光輝く槍が敵を貫いた。
 1体、また1体と、攻撃を集中させ根気強く打ち倒していく能力者。
 敵の豪腕による強烈な攻撃を受けはするものの。
 回復にことかかず、自己強化済みの能力者の優勢は揺るがず。
「あなたの未練を断ち切ってあげるっ」
 タイミング良く放たれた乙樹の瞬断撃が。最後のリビングデッドを、容赦なく切り裂いたのだった。
 
●ポップコーンとふわもふ映画鑑賞
 進んで全員分を引き換えてきたパシリ体質の右京から、それぞれがポップコーンを受け取って。
 スイと羽根は好みのキャラメル味であることに、思わず笑みを零す。
 そして、誰か誘えばよかったかなぁ……と呟いた羽根に。一緒に観ようぜ! と、はしゃぐように声を掛ける右京。
 榮からレモネードを受け取った優も嬉しそうに彼女に笑顔を返している。
 いよいよ、お待ちかねの映画鑑賞。
 和気藹々とした雰囲気の中、劇場内がおもむろに暗くなり、ついに上映が始まる。
 こうやって全員で映画を楽しめるのも。誰一人大怪我することなく、皆で依頼を完遂した結果である。
 そして劇場のスクリーンに映し出されるのは、極上のふわもこ感動ストーリーだ。
 映画館での鑑賞が初めての優。普段なら人のいる所で泣くのは恥ずかしいと思うが。劇場内は暗く、音も大きい。優は素直に映画に見入り、感動シーンでは涙ぐんだりもして。
 そんな優の様子を、榮はスクリーンの小ギツネと交互に微笑ましく見つめていた。
 風華もポップコーン片手に、映画の場面のようにころころと表情を変え、鑑賞を楽しんでいる。その手にはふわもふぬいぐるみは勿論、何気に購入したパンフレットの姿もあった。
 実は隠れ可愛いもの好きなスイも。大きなスクリーンでじゃれ合うふわもこに、萌え萌えきゅ〜んとなっていて。右京に買うのを勧めたグッズのぬいぐるみをこっそり買って帰ったのは、ここだけの話だ。
 モフモフでフワフワな本物のキツネを触ってみたいと思いながらも。貰ったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、涙目でスクリーンを見ていたユーリィ。
 だが、ふと横に視線を向け、小首を傾げる。
(「なんだかなきそうな人がいますけど、なんでがまんしてるんだろう?」)
 そんな、泣くのを我慢している人たちはというと。
 映画慣れしているはずの優児は一見クールな表情で鑑賞しているように見えるが。いつも観るのは活劇系、感動系のものの免疫が実はなくて。
「泣いてない! 泣いてないったら泣いてないッ! これは汗です!」
 表情はクールながらも、ダーッと涙を流しながら必死に強がっていた。
 そして、内心。
(「……俺は今モーレツに感動しているッ! ……こういうのもいいなぁ」)
 拳をグッと握り締め、パンフレット購入と次回の上映も観て帰ろうと心に決めていた。
 何も強がっているのは、優児だけではない。
「泣いてなど居らぬでござるよ」
「お、俺だってな、泣いてなんか……ない、んだからなっ」
 動物ものにめっぽう弱くウルきゅんしている正成と、どこからどう見ても感動しまくっている右京。
 正成の親友である藺草もクールに装いつつ、実は子供や動物が大好きで。勿論そんな彼も、内心はうるうるできゅんきゅんだ。そして鑑賞後正成とともに、同じ子供や動物が大好きな右京と意気投合するのだった。
 正成と藺草の間に座る久埜も、もふもふ可愛い! と、正成から貰ったぬいぐるみを抱きしめながらときめいている。
 そして、七日も。
(「七日さんはすっごく涙脆いぜ! 全米なんてメじゃないくらい泣くからな」)
 そう思いつつ、心に決めるのだった。
 この胸の感動をクラスメイトにもネタバレしちゃうんだぜ! と。
 ちなみに七日のクラスメイトには、無類のふわもふ好きな予報士がいる。
「いいお話じゃない……」
 乙樹は思わずそう呟きながらも。
 ふと、どうして地縛霊はあの場所に居たのかしら、と疑問に思う。
 だがその答えは分からないし、映画館に安全が戻ってきたのは事実だ。
 乙樹はそう気を取り直すと。再びスクリーンへと、視線を戻したのだった。


マスター:志稲愛海 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2009/06/10
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