≪弁当屋【樹雨の虹】≫マヨヒガ


<オープニング>


 吸い込む空気がかび臭い。
 歩を進める度に、靴の下で何かがぱきりと音を立てる。破れた窓の破片が、色あせて擦り切れた絨毯の上に散っているのかもしれない。その破片もきっと、とうに角が取れて丸みを帯びているだろうけれど。
 木造の建物の中は思いの外明るかった。日射しを柔らかく遮ってくれたカーテンが無くなり、日の光がいっぱいに射し込んでいるせいだろうか。
 仄かに金を帯びて見える日射しは荒れ果てた室内を余す所無く照らし出し、この建物が持つ寂しさと無惨さを際立たせた。
 かつてここは、山奥を訪れた人々の宿泊の場であったのだろう。しかし今は打ち捨てられ忘れられ、正に廃墟と呼ぶにふさわしい様相を呈している。
 今ここにいるのは、結社『弁当屋【樹雨の虹】』の面々だけ――その筈だった。
 ぱきっと小枝を踏むような音を聞き、都築・アキ(ターンコート・b16871)は僅かに俯いていた顔を上げて、カウンターであったと思しき場所へ目を向けた。
 そして、彼は見た。
 自分と、仲間達から20メートルほど離れた場所に立つ、それを。
「わほーい。俺だ、俺がいるスよ! 俺ガイルって言ってもしゃがみガードしないスよ!」
 真っ先に反応を示したのは今市・直人(イマイチな男・b36897)。いつになくはしゃいだ様子で、ぴんと伸ばした人差し指をそれに向ける。
 向けられた指の先にいるそれ――彼と全く同じ姿をした何かは、感情の無い瞳でまっすぐにこちらを見ていた。
 彼らを見ているのは、直人と同じ姿をした何かだけではない。突き刺さる視線は全部で八つ。直人そっくりの何かの側に、7体の何かが立っている。
 それは、ここにいる能力者達と同じ姿をしていた。弁当屋の面々がもう一組、そっくりそのまま現れたと言われても違和感は無かっただろう。それが感情の無い、無機質な表情をしていなければ。
 そこにいるのは、ここへ集った8人の姿を映し取った、8体の何かだった。
「ヤヌスの鏡のメガリスゴーストか……」
 学園で見た報告書を脳裏に過らせ、アキは僅かに目を細める。ヤヌスの鏡のメガリスゴーストが作り出すという、写し身。こいつらは、それに違いない。
「とりあえず、どっちを殴ればいい?」
 すっと前へ進み出た火神・雅子(暴君・b04593)は、写し身の直人と本物の直人を交互に見やった後、拳を握り締めた。明るい茶の瞳が標的として捉えているのは、明らかに本物の方。直人は必死で写し身を指し、自分は本物であると主張したが、他の能力者達は雅子を止めようとはしなかった。彼らにとっては日常の光景であるらしい。
「ふむ。しかし、我が輩たちの写し身のゴーストとは……面白いのである」
「駄目よ。不謹慎よ……」
 黒い瞳に好奇の色を輝かせる霧島・燐(神技流空手伝承者の内弟子・b29825)を、シルヴィア・ジェノス(お菓子の家のラプンツェル・b60679)がそっとたしなめる。
「で、どうするんですかっ。放置しておく訳には行かないと思うのですっ」
 天宮・漣(双月の繋がれし絆・b52754)の声がほんの少し震えているのは、仲間達からの答えを知っているから。
「もちろん、放置する選択肢はありませんよね?」
 穏やかな声で言葉を紡ぎ微笑する阿門・源夜(緋月の騎士・b21774)からは、漣の予想通り抑えようともしていない闘争心が見て取れた。
 アキは写し身達を見据え、イグニッションカードを取り出す。
「ゴーストは、敵だ」
 相手が自らの写し身であろうと、なすべき事は同じ。村瀬・日織(桜舞・b00676)もイグニッションカードを取り出す。
 能力者達は、高らかに起動を宣言した。


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参加者
村瀬・日織(桜舞・b00676)
火神・雅子(暴君・b04593)
都築・アキ(ターンコート・b16871)
阿門・源夜(緋月の騎士・b21774)
霧島・燐(神技流空手伝承者の内弟子・b29825)
今市・直人(イマイチな男・b36897)
天宮・漣(双月の繋がれし絆・b52754)
シルヴィア・ジェノス(お菓子の家のラプンツェル・b60679)



<リプレイ>


「姿も能力も、装備まで一緒だなんてタチの悪い……」
 後方に控える写し身の自分を不快そうに見やり、阿門・源夜(緋月の騎士・b21774)は術手袋をはめた指先でついと空を切る。
「動く事、禁ず!」
 張り上げた声と共に打ち込まれた魔法の茨は爆発的に広がり、写し身の雅子と燐をぎちりと締め付けた。
「神技流空手、霧島燐! 推して参るである!」
 霧島・燐(神技流空手伝承者の内弟子・b29825)は高らかに名乗りを上げると、茨に締め上げられる写し身の自分へと迫る。ふっ、と吹き掛けた吐息は、彼と全く同じ姿をした写し身を凍て付かせた。
「戦い辛いことこの上ないね! だって皆……俺の大切な嫁だもんッ」
「いいからさっさと自分抑えてこい」
 拳をぐっと握り締め、にこやかに言う今市・直人(イマイチな男・b36897)の後ろ頭を、火神・雅子(暴君・b04593)が長剣を持っていない方の手で小突く。なかなか痛そうな音がした。
「鏡もないのに、目の前に自分がいるなんて、不思議」
 碧眼を瞬かせ、シルヴィア・ジェノス(お菓子の家のラプンツェル・b60679)は黒いリボンを結わえた箒をくるりと回す。空中に現れたヤドリギが、彼女に祝福を与えた。
「あれ? 私こんな人だっけ、だっけ!」
 写し身のアキの元へ向かう雅子の後を追う途中、自分と同じ淡いピンクの宝剣を持った写し身が目に入り、村瀬・日織(桜舞・b00676)は困惑したように眉を下げる。
 毎日、鏡で見慣れている筈の顔。表情が無いというだけで、まるで別人のように見える。敵味方を間違える心配が無いのはありがたいが、自分や仲間達の無機質な顔を見せ付けられるのはぞっとしない。
「まっ、しょせんは見てくれだけ。容姿だけに囚われる事なく、とっとと消し去ろうか」
 人の価値が外見だけってわけじゃねーってのと一緒だと、雅子は唇の端を持ち上げる。そんな彼女に頷いて、日織は自らの宝剣に黒燐蟲を纏わせた。
「早く終わらせて、ピクニックの続きをしよう」
 手に馴染んだチェーンソー剣の振動を感じながら、都築・アキ(ターンコート・b16871)が前衛の隙間を抜けて写し身の源夜へ迫る。
 天宮・漣(双月の繋がれし絆・b52754)は、胸元に下げたロザリオにそっと指先を伸ばす。この服は、彼女の無事を願う姉がくれたもの。写し身からの攻撃からも、きっと守ってくれる。
 漣はきゅっと口元を引き締め、アキの後を追って床を蹴った。
「俺は俺を倒せばノルマ達成! 俺の分身くん……俺のサクセスのため、瞬☆殺☆させて貰うよ……ッ!」
 長い鉤爪で写し身の自分を指し、直人は深く息を吸い込み、吐く。
 ぱきんと小枝を踏むような音を立て、写し身達が動き出した。


 写し身の源夜が薄墨色の護符をはめた手を掲げ、植物の槍を作り出す。慈悲の力を秘めた巨大な槍は燐の足元に突き刺さり、隣の直人を巻き込んで爆発した。燐は咄嗟にアイスガントレットをかざして身を守ったが、直人は防ぎ切れずに爆発によるダメージを素通しで受けてしまう。彼の眼前に立つ写し身の直人が、その隙を逃さず獣爪を叩き込んだ。
「ちょっと! 空気読みなさいよ!」
 日織の写し身が放つ紅蓮の妖気を宿した宝剣をぎりぎりで避け、直人は大きく反り返った忍者刀を自分の写し身へと振り下ろす。がきっ、と同じ刃がそれを受け止めた。
「鬼さんはこっちだよ!」
 弾んだ声を上げたのは、本物の日織。黒燐蟲を纏ってぼんやりと黒く光る刃を真横に振るい、写し身のアキを切る。痛みなど感じていないのか、写し身のアキは眉すら動かさず、手近な雅子へチェーンソー剣を振り上げた。駆動音を響かせる刃を二の腕に受けながらも、雅子は長剣に不死鳥のオーラを宿して眼前の写し身へと叩き込む。
「急ぐから……少しだけ、待ってて」
 源夜の写し身の背後に回り込んだアキは、肩を掴むと首筋へ噛み付いた。牙のように突き立てた歯を通して、吸い上げた力が流れ込んで来る。
 無造作に解放された写し身へ、ぽんと跳躍した漣が回転しながら突撃する。紅の刃を持つチェーンソー剣は、回転の勢いを乗せ、ざくりとその身を抉っていた。
「偽者だって分かってても、ちょっと悪い気がするですっ」
 源夜は力任せの攻撃に弱い。彼の能力をそっくりコピーしている写し身も、それは同じだ。だからこそ二人は真っ先に源夜の写し身を狙う事にしたのだが――仲間と同じ姿を持つ相手の、弱点を突いた攻撃を仕掛ける事に多少の罪悪感を覚えないでもない。
 しかし今は、相手の数を減らす事が先決だ。
 写し身の雅子が茨を振り解き、紅のオーラを宿した呪髪を燐に打ち付ける。小さな体が、一瞬で炎に包まれた。続けて漣の写し身が、ほんの少し前に本人が使ったものと同じ技を雅子に仕掛ける。
 シルヴィアの写し身は銀の柄を持つ箒で円を描き、アキと漣の周りを茨で覆い尽くす。避けられたのは、アキだけだった。
「固まっているなら好都合……」
 源夜は手を広げ、魔法の茨を作り出す。戦いが始まった事によって動き出した写し身達は、こちらとの距離を詰めたせいか互いに近い位置に立っている者が多かった。爆ぜた茨が捕らえた写し身は実に半数以上。少し遅れて放たれたシルヴィアの茨も燐の写し身へと絡み付き、締め付ける力を強くする。
「ほーれほれ、獣撃拳ーン!」
 戒められ身動きの取れない自らの写し身を、直人は獣のオーラを宿した爪で引き裂く。
 日織の振るった宝剣を避け、写し身のアキは彼女の脇を抜けた。駆けた先にいるのはシルヴィアだ。
 舌打ちする雅子が剣の切っ先を向けるものの、写し身が攻撃に移る方が早い。ほっそりとしたシルヴィアの白い首筋に、アキの写し身が食らい付く。
「……っ!」
 力を吸い上げる一撃に体勢を崩しそうになるのを、何とか堪える。予想以上に重い攻撃。シルヴィアは首筋から溢れる血を掌で押さえながら、これが自分とアキの力の差なのだろうかと頭の隅でちらりと考えた。
「オマエの相手はちゃんとしてやっから、そんなつれない行動とるなよ」
 長剣の切っ先から飛んだ炎の弾が、雅子の頬を淡く橙に照り返す。アキの写し身が炎に包まれた。
 纏い付く焔から逃れた燐はその場から動かず、写し身の自分へ氷の力を秘めた吐息を吹き掛ける。茨と氷に縛られながらも、写し身の燐はどうにかその攻撃を避けた。
 術手袋をはめた手を動かそうとする源夜の写し身を押さえ付け、アキはもう一度首筋に噛み付く。仲間と同じ姿をした写し身が、手の中でぐらりと体勢を崩す。茨から抜け出した漣はすかさず跳躍し、回転しながら源夜の写し身へ突撃する。
 黒くぼんやりと光るチェーンソー剣に刻まれ、源夜の写し身は鏡のように砕けて消えた。
 雅子の写し身が長剣を構え、炎の弾を直人に放つ。まっすぐに飛んだ紅蓮の弾は、鉤爪に受け止められた。次に動いたのは茨から逃れた漣の写し身。ぽんと跳ねた細身の体が、回転を伴って日織に襲い掛かる。
 源夜は写し身のアキと漣を縛るべく茨を放つが、今度はどちらにも避けられてしまう。自分の写し身が未だ茨から抜け出せずにいるのを見ると、直人はその胸元へ忍者刀を振るった。
 日織がシルヴィアへ駆け寄り、黒燐蟲を彼女の箒へ纏わせる。写し身によって穿たれた傷も、ほぼ完全に塞がった。
「ごめんね、抜かせちゃって……!」
 詫びる日織に笑んで首を振り、シルヴィアは箒をくるりと回して茨を放つ。爆ぜた茨は、彼女自身の写し身をきつく締め付けた。
「我輩、こんなちんちくりんじゃないと思うであるよ」
 むう、と不満の色を滲ませた呟きを漏らし、燐は再び自分の写し身へ吐息を掛ける。
 ばきん、と鳴った音は氷が厚くなった故のものか、写し身が耐えられぬ一撃を受けた事を示すものか。程なくして燐の写し身は、身を苛む茨と氷と共に砕けて消えた。
 呪髪に不死鳥のオーラを宿し、雅子の写し身がアキを打つ。魔力の炎に身を焼かれながらも、アキは仲間の姿をした敵をきつく睨め付けた。
「僕を倒したければ……束になってかかって来いよっ!」
 その手が掴むのは日織の写し身。茨の束縛より抜け出せぬ写し身は、首筋に突き立てられる歯に繰り返し力を吸い上げられる。茨の中で揺らぐ体。あと一息と見た雅子が不死鳥の力を宿す一撃を叩き込み、日織の写し身を砕いた。
 写し身のアキは本物の日織を捕らえ、首筋に噛み付く。
「アキの偽者が厄介ね……」
 日織と自分を祝福で繋ぎながら、シルヴィアは僅かに表情を強張らせる。ヤドリギの祝福で窮地は脱したが、日織の体力は全快には遠い。続けて標的にされれば危険だ。
 源夜が最後の茨を飛ばすも、アキの写し身を縛る事は出来なかった。
 互いの実力差。それは写し身達を相手にする際、最大の障害となり得る。しかし共に守り合い、力を重ねる限り、能力者達に負けは無い。


「やっぱりイマイチだね! 全然倒れなァーい!」
 自分の写し身へ獣爪を叩き込みながら、やけくそ気味に直人が叫ぶ。攻撃が当たらない訳ではない。彼の攻撃は確実に写し身の体力を削り取っている。しかし自身と同じ能力を持つ相手を一人で殴り続けるのは、なかなかに骨の折れる作業だった。何しろ、写し身の体力は直人と同じ。そして前衛を担う彼の体力は当然のように高い。
 写し身の直人は本物の苦労になど頓着せず、茨を振り解くと漣へと迫った。忍者刀とチェーンソー剣が打ち合い、耳障りな音を響かせる。日織は宝剣に黒燐蟲の加護を与え、自らの傷を癒した。
 アキは自分の写し身の行く手に立ち塞がり、首筋に歯を立てる。雅子が長剣にオーラを宿し、斬撃を重ねた。漣が跳ね、突撃する。
 写し身のシルヴィアが魔法のヤドリギを浮かべ、写し身の直人に祝福を与える。漣の写し身は茨に締め付けられたまま。もう少し時間は稼げる。
 燐もアキの写し身に肉薄すると、氷の力を乗せた吐息を吹き掛ける。涼やかな音を立て、写し身の体が凍て付いた。
「砕けて爆ぜろ!」
 茨を使い切った源夜が護符に飾られた指で一点を指す。巨大な植物の槍が、写し身のアキとシルヴィアを巻き込んで爆ぜた。祝福を受けていたとはいえ、締め付ける茨に体力を削り取られていたシルヴィアの写し身は、その爆発で床に倒れ伏した。アキが止めの一撃を加え、その身を砕く。集中攻撃を受けていた彼の写し身も、そろそろ限界が近い。
「燃やしてあげるっ……!」
 日織は宝剣に凝縮した妖気を宿し、アキの写し身を見据えた。癒し手として行動すると決めていた彼女は、反動でアビリティが使えなくなってしまうこの技を、基本的には使わないつもりでいた。しかし今は誰も癒しを必要としておらず、もう少しでアキの写し身を倒せる段階。この力を使えば倒せるのなら、ためらいは無い。
 揺るぎ無い一撃はアキの写し身を燃え上がらせ、鏡のように砕け散らせた。
 アキが背後から写し身の直人を捕らえ、噛み付く。手応えは思ったよりも大きい。無造作に写し身を解放し顔を上げると、長剣に紅のオーラを宿した雅子が見えた。
「さてと。覚悟はイイか?」
 艶やかな笑顔と共に叩き込まれる一撃。勢い良く燃え上がり、砕け散った写し身を、本物の直人が引きつった表情で見ていた。しかし彼はすぐに頬を緩ませ、未だ茨に縛られている漣の写し身の方へと駆けて行く。
「ノルマ達成! 漣ちゃん、今行くよ!」
「倒したのは、雅子さんじゃ……?」
 源夜がツッコミを入れるが、突っ走る直人には届かない。取り敢えず放っておいても大丈夫な気がしたので、彼は雅子の写し身に槍を撃ち込んだ。シルヴィアも茨を飛ばす。
 日織が宝剣を振るい、写し身の雅子を斜めに切る。燐がそこに氷の吐息を重ねた。ばきんと派手な音を立てて写し身が凍り付き、砕け散る。あと一人。
「グヘヘ……どうしてやろうか……!」
「普通に攻撃しようよ」
 漣の写し身を前に締まりの無い表情を見せる直人にさらりと告げて、アキは茨に捕らわれる写し身に食らい付く。雅子から炎弾が飛び、細身の体が焔に包まれた。
「さあ、勝負なのですっ」
 長らく茨に締め付けられていた写し身の体力は、もう殆ど残っていないだろう。しかし『自分』の攻撃が『自分』に通用するのか――いわば純粋な力比べとも言える状況に、漣の心は躍っていた。
 床を蹴り回転と共に自らの写し身へ突撃。同じ紅の刃がぶつかり合う。ようやく茨から抜け出た写し身も、同じ技をそっくり漣へと返す。こちらもガード。
「やっぱり互角ですねっ」
 源夜が植物を束ねた槍を飛ばし、写し身の足元に撃ち込む。慈悲の力を持つ爆発に、写し身がうつ伏せに倒れた。
 日織の宝剣が追い打ちを掛け、最後の写し身もまた、鏡のように砕けて消えた。


「見付けた! あそこ!」
 昆虫のような手足が付いた手鏡を発見し、日織が声を上げる。あれがヤヌスの鏡のメガリスゴーストだ。源夜はつかつかと距離を詰めると、術手袋から生み出した衝撃波で緩慢に移動するメガリスゴーストを破壊した。
「……いくら鏡だからって、この指輪だけは真似るなっ……」
 術手袋の上からそっと指輪に触れ、源夜は吐き捨てるように呟く。あの無表情な写し身に、この指輪も写し取られたのかと思うと不快感がこみ上げて来た。
「私の偽者、まるでお人形さんのようだったわ」
 シルヴィアは自分の写し身が立っていた場所に目を向けた。かつて『お菓子の家』にいた頃の自分もあんな風だったのだろうかと、ふとそんな事を考える。自室にもある、家の中に飾られているお人形のようだったのだろうか。
「自分の偽者ってなんか変な感じだったなぁ。表情の無いゴーストよりも、実際のみんなといる方が何倍も楽しいよねっ」
 ね、と日織に笑顔を向けられて、シルヴィアも笑みを返す。
 かつてはお人形だったかもしれない。だが、今は違う。今のシルヴィアは、こうして外の世界で生きている。
「やりにくい相手であったな。疲れたであるよ」
「何はともあれ、お仕事完了なのですっ♪」
「いや、まだ終わってねーぜ」
 安堵の息と共に伸びをした燐と漣が雅子の言に首を傾げる。
「直人へのお仕置きがまだだろ?」
 掌に拳をぶつける音が、晴れやかな笑顔に重なる。
「え、ちょ、お仕置きって何!?」
「色々と。ほら、か弱いアタシの攻撃なんて痛くねーよなって事で」
 輝かんばかりの笑みの裏に潜む何かを、直人は本能的に感じ取っていた。
 救いを求めるように泳いだ視線の先にいるのはアキ。
「……直人、頑張って生きて。ゴーストになったら殺すから」
 淡々と紡がれるアキの言葉は、けれどどうしようもなく本気で。
 握られた雅子の拳が、空を切る唸りと共に襲い来る。
「ピクニックの続き、したかったなぁ……」
 直人の悲鳴が、廃墟に木霊した。


マスター:牧瀬花奈女 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/07/11
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冒険結果:成功!
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