フリルの天使と砂糖菓子の悪魔


<オープニング>


 ぎり、ぎり、ぎり。
 かちり。
 ゼンマイを巻かれたオルゴールが、ゆっくりと、優しい音色を奏で出す。
 オルゴールの箱の上、くるくる回る2体の人形。
 それを楽しげに眺めていた少女は、ふと周囲の風景が見覚えのないものに変化していることに気付いた。
 子供部屋、だろうか。
 くまなどの可愛らしいぬいぐるみが所狭しと並べられており、テニス球サイズの金平糖やチョコ、ゼリービーンズ、キャンディやケーキが床を埋め尽くさんばかりに散らばっている。
 その部屋には、少女以外に2つの人影があった。
 右手。
 ぬいぐるみが敷き詰められたベッドの中で横になる、愛らしい女の子。
 彼女はフリルをふんだんにあしらったお人形のようなドレスを着ており、腕には猫のぬいぐるみを抱いていた。
 そしてその背には、小さな白い羽。
 左手。
 ぱちぱちと薪がはぜる暖炉近くの壁に背を預ける、執事風の青年。
 彼は仕立てのよい執事服に身を包んでおり、モノクルをはめ、何故かウサ耳のついたシルクハットを被っていた。
 そしてその背には、小さな黒い羽。
『こんにちは』
『さようなら』
 二つの声が同時に響く。二つの微笑が同時に咲く。
 呆然とする少女へと、ぬいぐるみと砂糖菓子が飛んでいった。
 
「そんなメルヘンな事件がもうじき起こるわけですねー」
 羽佐蔵・しの(小学生運命予報士・bn0242)の言葉に、はあ、と生返事を返す能力者達。
 とっても少女趣味な感じだった。
「舞台は、とある人気のない森に立てられた洋館です。廃墟となってまして、一般人を気にする必要はありませんよー」
 そこに地縛霊が現れたので、討伐をお願いしたいのだそうだ。
「その洋館の2階、突き当たりにある部屋の中に、ぽつんとオルゴールが置かれてましてー。そのオルゴールのゼンマイを巻くと、特殊空間に引きずりこまれるわけですねー」
 特殊空間内部は、子供部屋のようになっている。
 また、床にはぬいぐるみやお菓子が散らばっているが、それが原因で戦闘が不利になる事はないし、食べることも出来ないとのこと。
「地縛霊は、子供部屋の右端と左端に1体ずつ、計2体現れますねー」
 で、その容姿というのが、
「猫のぬいぐるみを抱いてフリル付きのドレスを着た女の子です」
「ぐはっ!?」
「ウサ耳シルクハットを被った執事風の男の子も出てきますよー」
「ぐはっ!?」
 何故かダメージを受けたようにうずくまる一部の方。狙いすぎじゃないのか、とか聞こえてくるが、しのは気にしない。
「女の子の方はですねー、こう、ドレスの裾からガトリングのようなものを取り出しまして」
「……ちょっと待て」
「それを撃ってきたり、近くのぬいぐるみを投げつけてきたり、手に持った猫のぬいぐるみで近くの人を『てーい』って殴ってきたりしますねー」
 色々ツッコミどころはあるが、置いといて。
「男の子の方はですねー、指差した相手にお菓子を飛ばして攻撃したり、指を鳴らすと同時におっきなケーキの幻影を生み出して落下させたり、おいしい紅茶を淹れて味方を回復したりしますねー」
 名づけるとすれば、
「フリルの天使と、砂糖菓子の悪魔、です」
 と、そこで思い出したようにしのは付け足した。
「オルゴールを鳴らすと、特殊空間に入るのは前にも言った通りです。それでですねー、普通に鳴らすだけだと、入ったときの位置は子供部屋の中央になるんですけど」
 ある条件を満たすことで、初期位置を変えることが出来るのだという。
「それはですねー……よいしょ」
「? 何それ」
「ネコ耳ですねー。これか、クマ耳を付けてる人は右手……フリルの天使の近くへ。ウサ耳かイヌ耳をつけてる人は左手の、砂糖菓子の悪魔の近くに配置されるわけですねー」
「なんでだよ!?」
 一同の総ツッコミに、しのは無表情をわずかに緩めた。
「メルヘンですから」

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参加者
トミィ・クルス(えきぞちっくますこっと・b33045)
フィル・プルーフ(響葬曲・b43146)
水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)
ルキアス・フォンテローゼ(銀碧の月守人・b47037)
真姫弥・紗耶(夢幻の魔術師・b52679)
佐藤・瑠衣(天真爛漫な魔法少女・b58487)
月代・奏(クロアゲハ・b61344)
福田・真(不覚の淡光・b62135)
柊岐・玖遠(指先の蓮・b62351)
真咲・識(薄銀氷・b65506)



<リプレイ>


 見えてきた。
 鬱蒼と生い茂る深緑の木々を抜ける。
 開けた視界に現れたのは、神戸の異人館を思わせる洒落た建物だ。
 無論、壁にはひびが入り、人の気配は感じられないが。 
「一般人の被害の心配がないのは、ありがたいですね……」
 急いだことで、少しだけ乱れた和服の裾を直しながら、真咲・識(薄銀氷・b65506)。
「洋館はメルヘンな世界なの! 廃墟だけど、こんなお屋敷には憧れるなのよ!」
 首が痛くなるほどに、目の前の古風な屋敷を見上げ続けるツインテール。
 水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)だ。
 彼女の脳裏に浮かぶのは、綺麗なドレスを纏ってくるりと楽しげに回ってみせる自分の姿。
 憧れなお嬢様が住まうメルヘンの世界。だからこそ、頑張らないと。
 芽李の呟きに、異世界系魔法少女――もとい、佐藤・瑠衣(天真爛漫な魔法少女・b58487)もうんうん同意の頷きを返す。
 これより挑むはメルヘンの住人たち。
 可愛いフリルがふっわふわで、山と積まれたお菓子がこれでもかこれでもかと乙女心をくすぐるあまーい香りをただよわせておりいーなーたべたいなーだいこーぶつなのよ……。
「……はっ」
 い、いま異世界が見えた!
「だ、ダメなのよ。ゆーわくするわるいこは、やっつけなくっちゃいけないのよ!」
 ぷるぷる必死に頭を振ってメルヘンの誘惑を振り切る瑠衣。
 そんな彼女を眺めていた月代・奏(クロアゲハ・b61344)は、ふと不思議そうに首を傾げる。
「……地縛霊の退治は初めてだけど、こんなかわいいのばっかりなのかな?」
 福田・真(不覚の淡光・b62135)は肩を竦めるだけで答えない。
 ……しかし、メルヘンと言えば何でも片付くとは。
「メルヘンって便利な言葉なの、ですね」
 真理かも知れなかった。
 ――立て付けの悪い門をこじ開け、玄関を抜ける。
 少しだけ埃っぽい中、前を望み、階段を上りきったその先に、目指すべき扉はあった。
 開く。
「わわ、可愛らしいお部屋ますっ!」
 部屋に入った途端、柊岐・玖遠(指先の蓮・b62351)が目を輝かせた。
 瀟洒なティーカップ、品のいいクローゼット、毛足の長い絨毯からちょっとした小物にいたるまで。
 埃こそかぶってはいるものの、部屋の中には洋風なアンティークがいっぱいだ。
 そして、その中央。
 小さな机の上に置かれた、美しいオルゴールがある。
「それじゃ、みんな。準備はいい?」
 真姫弥・紗耶(夢幻の魔術師・b52679)は振り返り、仲間たちを見回した。
 頷きの返答。
 それを確認して、彼女は。
 目の前、忘れ去られたようにぽつんと置かれたオルゴールへと、手を伸ばし――、
「ちょっと待って……」
 ぴたり。
 紗耶の動きが止まる。
「……? 何かあった?」
 片手を上げて制止したトミィ・クルス(えきぞちっくますこっと・b33045)。
 彼は、訝しむ仲間達の前で、そっと手鏡を取り出して、
「うさみみOK、しっぽOK、はねOK」
 うん。
「――服装の乱れなし」
 ふう、と息をつく。
 満足げだった。
「おまたせ……うん、いいよ」
 ……ずっこけた。
 がばっと起き上がった仲間たちは、声をそろえて、
「「服装チェック……!?」」
「いやほら、砂糖菓子の悪魔さんには負けられないし。キャラ被ってるし」
 そう。
 彼らの多くは、頭にとあるアイテムを装備していたのだ。
 即ち――獣耳。
 ネコミミとかウサ耳とか。
 ぴこぴこ。ぴこぴこ。
 ――もう既に、ここら一体がメルヘン空間……!
「……念の為に言っておくけど、普段はこんな格好してないから」
 こだわりのシャム柄ネコミミ装着済みで、そんなコトを仰るのはルキアス・フォンテローゼ(銀碧の月守人・b47037)だ。
 ちなみに、耳だけでなく付け尻尾や天使の羽も装備済みである。
 準備、万端。
 結構気合入ってたりした。
 郷に入っては郷に従えとごにょごにょ。そんな風に視線を逸らしながら言う彼を包む、幾つかの微笑ましいものを見るような視線。
 奏も普段髪留めとして使っている白色のヘアバンドを外し、代わりのヘアバンドを装着する。
 その髪に溶け込むような、漆黒のネコミミを。
 顔を上げた彼女は、部屋の右隅に姿見が設置されているのに気づき、何とはなしに覗き込んだ。
 映ったのは――黒猫さん化した自分の姿。
(「……やっぱり、これはちょっと恥ずかしいかも」)
「なんだか仮装パーティーみたいですね」
 そう苦笑するフィル・プルーフ(響葬曲・b43146)の頭にも、やはり黒いウサ耳が装着されている。
 何故か傍らのリラの頭にも黒ウサ耳が揺れてたりするが、まぁ、気にしない方向で。
「? リラ?」
「……♪」
 ぴょこぴょこ。揺れるウサ耳。
(「気に入ってる……?」)
「皆さん、似合ってますちゅー」
「――」
 再び停止する時間。
 ……ちゅー?
 はっとして首をめぐらす彼らの視線が、一人の姿に集中する。
 真だ。彼は、頭に大きなリボンを飾り付け、身軽そうなインラインスケートを履いた、可愛らしいハムスターの着ぐるみに身を包んでおり、
(「ハムスター!?」)
「ええと……、その格好は?」
「ハムスター、ですちゅー」
(「むしろ何故語尾に『ちゅー』……!」)
 ああ、なんということだろう。
 とっくのとうに、彼らはツッコミ無用の世界に足を踏み入れていたのである!
 だってメルヘンだし!
「ちなみに、羽もありますちゅー」
「うわ、芸が細かいです……」
 くすくすと微笑をこぼし、紗耶は再度並ぶ顔ぶれを見回した。
 と。狐耳を生やした識が、固い表情で瞑目している。
 彼女にとって、これは初陣。
 考えれば考えるほど、思考はまとまらず不安が湧き出る。
 やるべき事だけは見失わず、とにかく足手まといにはならないようにと、そう思い、
「大丈夫ですよ」
 励ますようなトミィの微笑。
 す、と心の水面が落ち着いた気がした。
 ……大丈夫。
 目を開く。
「……準備できました。お願いします」
 覚悟を決めた識の言葉に、微笑み、紗耶も頷いた。
 頷く動作に、揺れる猫のストラップ。
 きらりとトパーズが光を反射して煌き、
 そして、細い手指がオルゴールへと伸ばされた。
 ――ぎり、ぎり、ぎり。
 ゼンマイが巻かれていく。
 かちり。
 流れ出す、どこか懐かしい、心に響く高音の旋律。
 優しいメロディーを伴奏に、オルゴールの上で2体の人形が踊り出す。
「あ、これ」
「え?」
「この人形……」
 ドレスの女の子と、執事服の男の子――。
 言葉が形を成す前に、彼らは特殊空間に取り込まれた。
『こんにちは』
 ふわりと花咲くように微笑んだのは、フリルの天使。
『さようなら』
 眇めるような目つきで唇を歪めたのは、砂糖菓子の悪魔。
 森の奥。ひっそりと佇む洋館に暮らす、少女と執事。
「攻撃力高いですね……」
 呟くようにフィルは言った。
 それからフリルの天使が持つ猫のぬいぐるみ、砂糖菓子の悪魔のウサ耳へと視線は動き、
「攻撃力高いですね……」
「二回言った!?」
「気持ちは分かる。うん、気持ちは分かる」
「あぁ、もう、可愛いですね……!」
「ケーキ……クッキー……。……あ、あのクマ可愛い」
「しきちゃんがむひょーじょーに見とれてるのよ!」
「お部屋だけじゃなく、ゴーストさんも凄くメルヘンで――」
 またも瞳をきらきらさせていたのに気づき、慌てて咳払いをする玖遠。
 ちょっと恥ずかしそうに頬を染めて、
「と、取り乱してしまいましたです……っ。柊岐玖遠、参りますっ!」
 迷いを振り切るように蟲籠を打ち払う。
 籠に囚われたマリンブルーの花弁が、風を孕んでふわりと揺れた。
 戦場となるは子供部屋。
 ぬいぐるみに砂糖菓子、誰もが子供のころに置き去りにしてきた、夢の残滓。
『ね、遊びましょう?』
『さぁ、戯れようか?』
 オルゴールの二重旋律をBGMに、戦場が動き出す。


「人をゆーわくするわるいこは、スィートシュガーがおしおきなのよ!」
 地を蹴る瑠衣。
 ハートを模した杖を眼前にかざすと、瞬時に魔法陣が虚空に描き出されていく。
 リラの放つ蜘蛛の糸を、片手で払い除ける執事服。
「まるで、おとぎの世界に入り込んでしまったみたいです」
 フィルの独白は宙に消える。視線に力を込め、リラに闘気の具足を纏わせて。
『あっははは! どうだい、楽しいかい?』
 愉快そうに嗤う砂糖菓子の悪魔。
 パチンと、その指を弾いた途端、
「うわっ」
「も、もきゅ!?」
 トミィとわっふるの上に、円状の影が落ちる。
 頭上に浮かぶ巨大なケーキ。
 慇懃に一礼とともに、
『どうぞ、召し上がれ』
 超重量の幻影が、一人と一匹を押し潰した。


「はわわ、何だか可愛いゴーストなのね!」
「女の子を蹴るのは気が進まないけど……」
 言いつつも、容赦なく叩き込まれるルキアスのクレセントファング。
 それをフリルの少女は、スカートから取り出した無骨なガトリングで弾いていく。
『うん、嬉しいの。お友達がたくさんで!』
「ルキアスさん!」
 高速の蹴撃を防御され、その反動で軽やかに飛び退るルキアスの体が黒い燐光に包まれていく。
 黒燐奏甲。その効果の顕現に頷く奏は、さらに次手、自らに纏わせる黒燐蟲を生み出していく。
「すごくかわいい感じだけど、事件を起こさせるわけにはいかないの」
 諭すような紗耶の口調。
 幻夢刃『夜想胡蝶』より放たれた炎の魔弾は、確かに少女を包み込んだ。
 が。その炎壁を突き破り、身を捻ったフリルの天使は、
『猫様いくよ。ていっ』
 三日月に口を開いた猫のぬいぐるみで、紗耶の体を打撃した。


 中央、全体を俯瞰できる場所にいた4人は声をそろえた。
「「メルヘンな外見だけど、思ってたより結構強い……!」」
「今援護しますですっ!」
 フリルの天使側に、玖遠が慌てて走り出す。
 蟲籠を揺らす動作とともに黒燐蟲を出現させながら。
 ……誰も、傷つけさせはしないますっ!
「あの巨大ケーキも凄いけど」
 前衛の中前と祖霊降臨を飛ばす巨大ハムスター天使(真)の目は、先ほどからある物に釘付けだった。
 ――テニス球サイズの金平糖。
「……食べられないのが残念、とかちょっぴり思っていたりしませんよ」
「思ってるなのね」
 くすりと少しだけふきだして。
 広げた五指を握る。固い感触。瞬時に芽李の手に現れたギンギンパワーZを振りかぶり、
「とってもメルヘンな世界だけど、惑わされないように頑張るなのなの!」
 回復・援護を請け負った中央の能力者たち。
 彼らは各自、己のなすべき役割を着実にこなしていく。
 識もその一人である。不安を振り切り、彼女はちらりと火のついた暖炉に目をやり、
「貴方達に、温かみなど不要でしょう……」
 凍ってください――言葉と同時、氷雪を含んだ猛烈な竜巻が部屋中を蹂躙する。
『く……!』
『きゃっ!』
「――行きます」
 言葉が終わる前。
 ケーキの幻影を爆ぜさせて、トミィとわっふるが前に出た。


「こちらも負けずに、キャンディのお返しなのです」
「きゅぴぴーっ」
『な……!』
 腹部にわっふるの体当たりをくらい、のけぞりながら悪魔は見た。
 自らの姿に良く似たキャンディのようなイラストが、空を滑るように突撃してくるその様を。
「たーんと召し上がれ」
「食べ物を粗末にしてはダメですよ……!」
 空気を引き裂いて突き進む、フィルの漆黒の弾丸。
 それが肩口を痛撃した瞬間、リラの鋭い顎が万力めいた強さで悪魔の足を挟みとり、
「おかしには負けないのよ。スィートファイアーなの!」
 砂糖菓子の銃弾をステップでかわした瑠衣、彼女が放った炎の魔弾が、悪魔の全身を包み込んだ。
 身をくの字に折った悪魔は、かすれた声で、はは、と笑った。
『――夢は、覚めないよ』


 渦を巻く突風。
 銀髪をインフィニティエアの風に弄ばせ、身を低くしたルキアスは、一気に戦場を駆けた。
 ガトリングの弾雨に眉をしかめながらも、紗耶は清浄なる風を生み出し、ぬいぐるみが頬を掠めれば、返礼とばかりに炎の魔弾を撃ち放つ。
「そこ!」
『え……?』
 庇うように前に出したクマのぬいぐるみが炎上した。
 呆然とする少女の右手。宙に身を躍らせたルキアスのクレセントファングが、ガトリングガンを踏み砕き、
 ぶおう、と風切り音。
 長剣を頭上高く回転させていた奏が動きを止めた。同時、彼女の影から伸び上がる漆黒の爪。
 袈裟に切り裂かれた天使は、最後、儚げな微笑を浮かべた。
『――夢は、続いてくよ』


『ネジを、巻くんだ』
『何度も、何度でも』
『その音を聞くたび、僕は』
『私たちは、思い出すんだ』
 子供のころの記憶を。
 はや忘れられた、過去の残滓を。
 幼いころ、着飾ったフリルのドレス。
 楽しみにしてた、甘い甘い砂糖菓子。
 オルゴールのメロディに乗って、追憶は今も、色褪せず残っているから。
 ――子供部屋が消えていく。
 ぬいぐるみも、床一面のお菓子も、その全てが薄らいでいく。
 天使と悪魔の地縛霊は、確実に消滅していき、囁くように呟いた。
『さよなら』
『ばいばい』


「……終わった、のか?」 
「そうみたい、ね」
 ふう、と息をつき、能力者たちは緊張を解いた。
「天使の持っていた黒猫のぬいぐるみ、すごくかわいかったなぁ」
 真っ白な本にペンを走らせる音がする。
「今日の事は忘れないから、永遠のボクの内でお眠りください」
「このオルゴール……」
 言葉をとめ、再びゼンマイを巻いていく。
 ぎり、ぎり、ぎり。
 かちり。
 音が、温かい慈雨にも似た旋律があふれてくる。
 胸にどこか温かいものを感じながら、オルゴールの前で手を合わせる者、ぬいぐるみや金平糖を供える者など様々だ。
「2人がいい子になって、どこかでお茶会してるといいのなの」
「生まれ変わった世界で、芽李ちゃんと会うことが出来たら、一緒に遊ぼうなの!」
 ドアを閉じる。
「おやすみなさい」
 外に出た。
 深緑の森の奥。
 誰の記憶からも忘れ去られた洋館から、美しいオルゴールの調べがかすかに漏れ聞こえてくる。
 振り返らず、誰かが問うた。
「メルヘンって結局、どういう意味なの、ですか?」
「御伽噺(おとぎばなし)、ですよ」


マスター:リヒト 紹介ページ
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いまいち
参加者:10人
作成日:2009/07/18
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