≪小さな時間≫もう一人の自分


<オープニング>


 それはまるで何かを試すように、夕闇の中に現れた。
 戦いを告げるイグニッションの声に続き、瞬時に広がる剣戟の響き。
 鹿瀬・静(ましろき雪の袱紗・b52849)の目前で、2人の富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)の刃が火花を散らす。
 いや、真琴だけではない。
 公園の中、人気のない夕暮れの遊歩道。そこで『小さな時間』の団員たちは、瓜二つの自分たちと戦いを繰り広げていた。街路樹の間を踊る計16人の人間が皆それぞれ双子に見える光景は異様だが、原因は明らかだ。
「ヤヌスの鏡のメガリスゴースト……!」
 『強い力のある者を鏡に映すことで写し身を作り、互いに戦わせる』というメガリスゴーストの存在が、静たちの脳裏をよぎる。
 おそらく街路樹の陰にでも隠れているのだろうが、まずは目の前にいる写し身たちを倒さねばならない。なんせ相手の力は自分たちの力そのもの。普段は頼もしい仲間と同じ能力の敵が、容赦なく牙を剥いてくるのだ。
 幸いなことといえば、相手がまるで人形のように無表情なことだろう。どんなに姿が似ていても、その虚ろな瞳は本物と見間違えようがない。
「これが噂の……」
 写し身をまじまじと見つめ、門丘・玄六(武雷漢・b40739)が小さく笑う。
「偽者つっても女の子相手は気後れするが、自分の面なら思い切り殴れるぜ。己の限界を超えられるか……いい腕試しだ!」
 威勢のいい声を響かせると、玄六は突撃してくる写し身を真正面から見据えた。
「さて……己を試すいい機会。自分の力が自分にも通じるか、相手をしてやろう」
 毛利家の人間を模写したからには、その名に恥じぬ戦いをしてもらわねばならない。絶妙な間合いを保ちつつ攻撃してくる写し身に、毛利・周(日輪を崇め奉る智将・b04242)が目を細める。
「テンションの低いアタシなんてアタシじゃないよっ! 偽者なんかすぐに叩き壊してあげるからね!」
 偽者がなんとなく漂わせる辛気臭さを吹き飛ばすように、八乙女・舞華(蜘蛛切の巫女・b54352)がにっこりと笑う。
 そんな舞華と対照的に、無言で写し身を見つめるのは神代・怜里(約束を胸に抱いて・b52360)だ。
「……」
 思うことは色々あるが、とりあえずあの蹴り技だけは許すわけにはいかない。
 ただ動きをコピーしただけの、何かが抜けたしまりのないあれだけは。
 虚ろな目をした偽者を見つめながら、怜里はネクタイをそっと緩めた。
「私と同じ姿……。正直、その姿で誰かを傷つけるのは見過ごせない。消えてもらいます」
 どんなに似ていてもそれは鏡であり、双子の姉と向かい合う感覚とは全く違う。無表情な写し身を、冬木・誓護(誓いと絆の紡ぎ手・b47866)が静かに見る。そんな誓護に同意するのは、写し身と激しい斬り合いを繰り広げる真琴だ。
「公園の皆を傷つけるのなら……それがたとえ自分の姿であっても、私は打ち倒します」
 相手が己の写し身だからこそ、絶対に負けられない。振り下ろされた一撃を受け止めると、真琴は生気のない瞳でこちらを見てくる写し身を見つめ返した。
 もしかしたら、ヴァンパイアとして血の乾きに飲まれた自分が出てくるのではないか。そんな恐れを抱いていた新城・香澄(巣立つ雛鳥・b54681)は、ほっと胸を撫で下ろした。
「……少しだけ怖かったけれど、大丈夫です」
 物言わぬ偽者は気味悪いことこの上ないが、相手陣営の中で淡々と行動する写し身は機械仕掛けの人形のように味気ない。
 決意を固めたように小さく頷いた香澄の瞳には、力強い光が宿っていた。
「生気のないその目……。ある意味、昔の私そのものですね……」
 悪夢の再来のような写し身の表情に、そっと微笑む静。
 負ける気はしない。なぜなら今、自分はきちんと笑うことができるようになったのだから。
「さあ、皆さん……行きましょう!」
 心の奥底に潜む闇を振り払う為に。
 更なる高みを目指す為に。
 8人の戦いは、今始まった。

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参加者
毛利・周(日輪を崇め奉る智将・b04242)
門丘・玄六(輝き満ちる未来の空へ・b40739)
冬木・誓護(誓いと絆の紡ぎ手・b47866)
富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)
神代・怜里(約束を胸に抱いて・b52360)
鹿瀬・静(ましろき雪の袱紗・b52849)
八乙女・舞華(蜘蛛切の巫女・b54352)
新城・香澄(巣立つ雛鳥・b54681)



<リプレイ>

●『私』にさよならを
「個々が連なり携えあうが故に連携という……貴様らに披露しよう。束ねた力は何者にも勝るとな」
 深呼吸をして心を研ぎ澄ませると、毛利・周(日輪を崇め奉る智将・b04242)は駆け出した。援護するように、新城・香澄(巣立つ雛鳥・b54681)が彼の行く手に立ち塞がる写し身に狙いを定める。
「……木よ、森よ、棘持ちし緑の束縛よ」
 香澄の小さな口から紡がれる呼び声に、写し身たちの足下から茨が飛び出した。茨の中でもがく周と玄六の写し身たちの脇をすり抜け、冬木・誓護(誓いと絆の紡ぎ手・b47866)と門丘・玄六(輝き満ちる未来の空へ・b40739)もまた相手陣営の奥深くへと突撃していく。
(「私に似て、私でない存在」)
 香澄が、己の写し身をそっと見やる。
(「負けるわけにはいかないです。……私の見たくない所を、明らかにされてしまいそうな気がしますから」)
 己を鼓舞すると、香澄は他の写し身たちへと茨を放った。
「偽者、ねぇ。なんにせよ、本物の方が生き生きしてて俺は好きだ」
 涼しい顔で呟く神代・怜里(約束を胸に抱いて・b52360)の龍撃砲が、誓護と己の写し身にかする。
「頑張って! せめて自分には当てないと!」
 静の写し身の茨に絡めとられた富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)の為に舞いつつ、八乙女・舞華(蜘蛛切の巫女・b54352)が笑う。
「『せめて』ってなんだ、『せめて』って」
 舞華の言葉に苦笑しつつ、怜里が再び龍撃砲を放つ。相手にする写し身はほとんど男ばかりなので、多少はやりやすい。迷いの無い攻撃が、写し身たちへと襲い掛かった。
 その後ろで、本物の鹿瀬・静(ましろき雪の袱紗・b52849)が真琴の写し身へと狙いを定める。
「先ずは……その動き、止めさせていただきますね」
 大切な人と姿だけは似た相手に、静が茨を放つ。
 皆の為にも、絶対に逃がさない。
 決意を込めた茨が、虚ろな瞳の写し身を飲み込んだ。
 自身の写し身が捕らわれたのを確かめ、真琴が誓護の写し身へと斬りかかった。
「貴方のその姿……これ以上、侮辱させる訳にはいきません!」
 切っ先が写し身の前髪を僅かに掠める。反撃体勢へと移った写し身の前で、真琴は再び得物を構えた。
 陣営の最奥に控えていた香澄の写し身の顔面を、周の手がむんずと掴んだ。
「所詮は偽者よな……本物にはもう少し愛嬌がある」
 直後、その手から炎が弾丸のように撃ち出された。顔面を直撃した炎が、写し身の体を舐めるように包み込んでいく。
「さよなら……私に似た私ではないもの」
 ガラス細工のように砕け散る写し身を遠目に見つめ、香澄がそっと呟いた。
「遠慮はいらないから、さっくり倒しちゃって〜」
「わかりました!」
 赦しの舞を舞おうとした舞華の写し身に、舞華本人の了承を得た誓護が獣のオーラを宿らせた一撃を叩き込む。よろめく写し身に飛び掛るのは、玄六だ。
「よく出来た模造品だが、本物のが断然可愛いぜ……っと!」
 偽者とはいえ女子を攻撃するのは気が引けるが、抵抗感を押し殺して噛み付く。なんとも無機質な味が口の中に広がった直後、偽舞華の体が砕け散った。
「ああっ!? 自分で言っておいてなんだけど、何か複雑だよっ!?」
 手加減なしの連続攻撃の前に倒れた写し身を眺め、そんな感想を零す舞華。だがその声は、どこか楽しんでいるかのようだった。
(「昔の私に似た写し身さん……」)
 周のフレイムキャノンを受けても眉一つ動かさずにヤドリギを操る写し身に、静があの日の自分を思い出す。
(「支えてくれる人がいることが……どれだけ大切か、貴女にはわかりますか……?」)
 時には喧嘩をしても、心から信頼し合い、笑い合える大切なぬくもり。
 そんな素敵な物に出会えたから、あの日の『私』に似たあなたにはさよならを。
「たとえ姿を真似ても、あなたはあの人にはなりきれない!」
 誓護の獣撃拳に打ち砕かれる写し身に、静はそっと微笑んだ。
 写し身たちの後方支援組が全員倒れたのを確認し、真琴が無言で己が写し身を見る。
 同じ姿の少女たちが、寸分のズレもない動きで旋剣の構えをとった。

●『過去』を打ち砕け!
「……さて、ようやく本番だな、私の偽者。試させてもらうぞ……私の力がどの程度なのかを!」
 炎の弾丸がぶつかり合う灼熱の光が、遊歩道を刹那の間満たす。
 黒衣がはためいた直後、2人の周の間で獣爪が火花を散らせた。
「生憎、自分の戦い方だ……どう攻撃するかなぞ百も承知」
 写し身の鋭い一撃を、周が無駄のない動作で受け流す。
 互いを攻め合うこと暫し。
 写し身が放った炎に、周が飲み込まれた。
 香澄が思わず悲鳴を上げるが――炎の中で、周はうっすら笑っていた。
「温い炎だな……。見るがいい、これが日輪の焔というものだ!」
 超がつくほど至近距離から、周が写し身に炎を叩き込む。ガラス玉のような瞳を炎が包んだ瞬間、写し身が爆ぜるように砕け散った。
「礼を言う……確信が持てた。我はまだまだ強くなれるとな」
 写し身の破片に背を向けて歩いて来る周に、香澄が安堵の息をつく。
「……ヤドリギの力を持ちて、傷ついた同胞に祝福を」
 勝者の酷い火傷を、優しい祝福が癒した。
(「小さな時間のうちの一歩でも、大きな成長を遂げられる心と絆を信じるならば……『今』のオレたちが数分間のコピーに負ける道理はねぇっ!」)
 高揚感を胸に、己の写し身を正面から見据える玄六。
「お前もオレなら、背中を向けるなんざねぇよな?」
 2人の玄六が、同時に地を蹴った直後。
「いっ……てえええ!?」
 自由奔放な動作の写し身に噛み付かれ、玄六が絶叫した。ごっそり肉を奪われた腕から、温かな物が溢れ出す。
「玄六クン、応援してるよー!」
 舞華の明るい声に続き、祖霊降臨がかけられた。得物を通じて肉体に力が流れ込み、鮮血が溢れる傷口を塞いでいく。舞華をちらりと見て笑みを浮かべると、玄六は己が写し身へと再び向き直った。
「昨日より今日、今日より明日強くある為に……オレは何度でもオレを超え続けるっ!!」
 自身を竜巻と成すように荒れ狂う暴風を纏い、【天玄闘覇】GSトルネード・ブレイカーを構え、裂帛の気合と共に真正面から突撃する玄六。
 暴風たちのぶつかり合いの果てに響いたのは、「過去」が散り逝く爽快な破砕音だった。
「では、私たちも始めましょうか。この手は守るべき仲間の為に……」
 静かな宣言に続いて始まった誓護と彼の写し身の戦いは、緊張の糸が無数に張り巡らされていた。
 相手の攻撃を見極めて受け流し、生じた僅かな隙に攻撃を叩き込む。冷静な誓護に、写し身も同じスタイルで勝負を挑んでくる。なかなか決定打を与えられぬまま、互いの体には無数の小さな傷ばかりが増えていく。
(「私の写し身だからといえばそれまでですが、さすがにこれは……!」)
 生気のない相手に、誓護が気味の悪さを覚え始めたとき。
 玄六の起こした浄化の風が、誓護が頬を優しく撫でた。清らかな風が傷を癒し、背中をそっと押してくれる。
「私の写し身……あなたに教えてあげます」
 眼鏡を押し上げ、誓護が写し身の攻撃を最低限の動きでかわして懐に潜り込む。
「私は一人じゃないことを……信じ合える仲間が傍で支えてくれていることを……!」
 信念を織り込んだオーラが-Vinculum-の刃に宿り――虚ろな鏡像を打ち砕いた。
「そこの『俺』、ちょっと蹴りで勝負してみないか?」
 本物の涼しげな声の直後、2人の怜里は互いの隙を狙って動き出した。
 自分ならば、動きを止めるような戦い方はしない。怜里の分析通り、写し身はこちらを翻弄するように駆け回り、突如として龍尾脚を繰り出してくる。
「お前が俺なら、そう来ると思ったさ!」
 怜里も負けじと龍顎拳を放つが、互いの攻撃は僅かにかするのみで、体の中心を捉えられない。
 近づいては離れ、相手の隙を見出しては再び接近して牙を剥く。
 そんな中、舞華の陽気な声が響いた。
「怜里クンも頑張れ〜! ……あ、でも偽怜里クンなら呪詛呪言しちゃってもいいかな!」
 ハイテンションな舞華の呪いの言葉を受け、偽怜里がよろめく。
「ああ、なんかちょっと悲しい……!」
 舞華の衝撃的な言葉によろめく写し身に呟きを零しながらも、好機とばかりに怜里が接近した。龍顎拳が吸い込まれるように決まり、写し身に大きな隙が生まれる。
「……お前もコレ、期待してただろ?」
 美しい姿勢から繰り出された激しい蹴りが写し身を蹴り砕き、破片が花吹雪のように舞った。
 静の悲痛な叫びの直後、強烈な一撃が真琴の腹部に打ち込まれた。一瞬体が浮き上がり、長い髪がふわりと広がる。思わず倒れ込んだ真琴を守るように、誓護が彼女とその写し身の間に飛び出した。
 こんなところで、あんな空っぽな相手に負けるわけにはいかない。静に傷を癒され、真琴がゆっくりと立ち上がると誓護の前へとゆっくり進み出た。
 おそらく、次は真正面から黒影剣が来る。
 そんな予想の通りに動く写し身に、真琴が思わず笑いを零した。
「私も応用が効く方ではないですが……貴方はただなぞるだけですね」
 普段の自分の太刀筋を思い描き、護身刀-黒耀-を構える。その刀身が見事に写し身の攻撃を受け止め、軽やかな音が響いた。
「私が公園の皆にどれだけ支えられてて、皆が私にとってどれだけ大事な人かなんて……」
 反対の手が持ち上がり、構えられた月下終焉 −Glorous Illusion-の刀身を闇が包む。
「姿を真似ただけの貴方には、わからないかな?」
 真琴が放った一撃は写し身を袈裟懸けに切り裂き――街路樹の間で、透明な破片が輝いた。

●小さな時間
「皆さん、お怪我は……ないようですね。よかったです」
 きちんと団員たちの傷が癒えたのを確認して微笑むと、静は皆と共にメガリスゴーストを探し始めた。
「……どこにあるんでしょうか?」
 黄昏時の遊歩道で、香澄がベンチの陰を覗き込む。そのとき、街路樹の後ろ側へと回った静が声を上げた。昆虫のような手足でのたのた逃げる手鏡は、間違いなくヤヌスの鏡のメガリスゴーストだ。静が落ち着いた動作で布槍を振るい、難なく破壊する。
「……これでもう、ニセモノは現れないですね?」
 どこか不安げな香澄の声に、静と誓護が顔を見合わせた。
「写し身とは……また出会うかもしれません。ですが……」
「たとえ、また写し身が現れても……私たちなら大丈夫ですよ、きっと」
 柔和な笑みを浮かべる2人の言葉に、香澄の瞳が輝く。
 皆と一緒なら、きっと新たな恐怖も超えられるはず。
 少女の顔に、年相応の愛らしい笑みが浮かんだ。
「さすがはオレのコピー、かなり手を焼かされたぜ」
 仲間との絆に感謝しつつも、表面上は笑って軽口を叩く玄六。そんな彼の耳が、真琴がポツリと漏らした本音を拾う。
「できれば、写し身でも皆が倒れる所はもう見たくないな……」
 思いやりに溢れたその一言に、玄六はそっと目を細めた。
「やはり、色々な意味で生きた子の方が可愛いな」
「色々な意味って?」
「いや、変な意味じゃなくてだな……」
 舞華に揚げ足を取られてしどろもどろになる怜里の様子に、周が笑いをこらえる。
「いくら姿形を似せても、本質までは真似できんからな」
「そうそう、姿形だけなら人形と同じだもん。一番大切な心と、アタシたちの絆もコピー出来てないじゃない。そんなのに負ける訳ないよ」
 真剣な言葉を紡ぐ舞華を、怜里が驚いたように見る。そんな悪友に何事かを言いかけ、舞華は言葉を飲み込んだ。代わりに飛び切りの笑顔を向けると、大きく一歩を踏み出す。
 少し遅くなってしまったけれど、いつもの小さな時間を過ごすあの場所へ。
 大切な場所目指して、8人は歩き出した。


マスター:橘奏夜 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/06/21
得票数:カッコいい12 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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