夢見がちなカナリア


<オープニング>


 真っ白に枯れた巨木の残骸。
 まるで巨大な遺骨のようなそれの上で、鳥は鳴く。黄金の声で鳴く。
 それはすばらしい声だった。時すら動きを止めて、耳を澄ましそうな……。
 夢のように美しい音に満たされたその場所には、いくつもの屍骸が転がっている。すべては歌声によって餓死した獣の成れの果て。
 そのうち、腐敗したいくつかが蠢いていた。
 
「みんなそろってる?」
 運命予報士の長谷川・千春(中学生運命予報士)は、いつも持参のペンとノートをしまいながら笑顔で言った。
「とある山の山中で、困った妖獣が出たんだよね」
 千春は肩をすくめた。
「外見は……ショッキングな紫色のカナリア。大きさも鶏ぐらい」
 ……想像するとちょっとキツイよね、と彼女は笑う。
「だけど歌声はすばらしいんだよ。聞くと気持ちよくなって眠くなるぐらい」
 歌声を聴いたものは、そのまま陶然としてしばらくはその場で眠りこけてしまうらしい。そうして眠らせたままの生き物を捕食する。そうやって餌食になった獣の何体かはリビングデッドとして樹の根元をさまよっているというのだ。
「まだ人の被害はでていないんだけど。このまま春の山菜取りの時期になっちゃったら問題だよね」
 そう説明すると、千春はポケットからメモを取り出した。
「カナリアは山の中、ちょっと目を引く枯れた樹の上から動かないんだ」
 その枯れ木は、周囲の木々よりも背が高いため。遠くから探すことができるという。
「樹の高さは20メートルよりすこし低いぐらい。射撃武器なら木の上のカナリアに攻撃が届くけど」
 枯れ木の下を徘徊する鹿やキツネのリビングデッドが、少なくとも3体はいるので気をつけなければならないらしい。
「あとやっぱり問題は「歌声」かな。声の範囲は樹の周囲5メートルぐらいなんだけど、カナリアとの距離を考えればどうしても根元まで行って打たなきゃいけないだろうし」
 歌声の眠りはフリッカースペードのヒュプノヴォイスと同じで、刺激を受ければ目を覚ますものの厄介なことには違いなかった。
「カナリアはいつも歌ってるわけじゃないし、目が悪いからこっそり近づいて攻撃することもできるよ。あと、カナリアの歌声はリビングデッドにも効果はあるみたいだから」
 上手に倒す順番を考えてねと告げた。
 そこまで説明すると千春はぐるりと周りを見回し、なぜか声を落とす。これはあんまり関係ない情報なんだけど、とつけたした。
「カナリアの声で眠ってる間は、それはステキな夢が見られるみたいだよ。妄想ドリーム」
 なんだそれは、と返す能力者に千春は肩をすくめて見せた。
 
「山はまだ冬景色だけど、雪うっすらしかないから。ハイキング気分で大丈夫」
 気をつけて。
 いつものようにそう言ったあと、運命予報士はきらきら光る瞳で付け加えた。
「面白い夢が、みられたら教えてね!」

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参加者
槻時・未久路(苞の庭・b00764)
秋枝・昇一郎(高校生ゾンビハンター・b00796)
美作・卯逗(中学生青龍拳士・b00937)
江長・ミミ(宇宙怪獣ミミラ・b02298)
風凪・旋(護風纏衣・b02943)
唐澤・響(紅き追憶と共に・b14965)
上条・コウ(鬼伽のカイナ・b17218)
吉村・昭(慟哭する紅き魂の欠片・b17726)



<リプレイ>

 常緑樹の緑が、いまだ冬の気配を残したままの山を陰鬱に覆っていた。
 春間近で暖かくはなってきたとはいえ、山の空気はまだひやりと冷たい。
 そんな深い緑の中、抜きん出た高さの大樹の残骸は一枚の葉もなく。文字通り枯れ果てた巨大な遺骨を連想させた。
「大きな木ねぇ」
 まだたどり着かないその木の大きさを遠目で見やって、江長・ミミ(宇宙怪獣ミミラ・b02298)が呟く。
「ところでカナリアってどんなのだっけ? しゃべる鳥だっけ?」
 その横で「はて?」と首をかしげて美作・卯逗(中学生青龍拳士・b00937)が聞き返した。しばし考えてから「そんなことどうでもいいか」と一人納得する。どうせゴーストなのだし、正体を難しく考える必要はないだろう。
 卯逗が見渡した視線の先。目的の樹はまだ遠い。根元近くに辿りつくには、まだもう少し歩かなくてはならない。
 どことなく落ち着かない様子で唐澤・響(紅き追憶と共に・b14965)は左耳にある紅石のピアスに指で触れる。そうすることで、緊張がわずかながらにほぐれる気がした。
 能力者となって初めて解決にかかわる事件だ。皆の足を引っ張るようなまねはしたくない。
「成功します様に――…なんて、俺らしくもねぇな」
 すでに亡き親友へ小声で呟いて、響は舌打ちする。弱気はいけない。
 その声が聞こえたのだろうか。歩きながら樹の様子を見ていた上条・コウ(鬼伽のカイナ・b17218)が、双眼鏡を目から離してうかがうように響を見た。人懐こいわりに、他者の顔色を伺う癖があるらしい。
 コウの視線に気がついた響がなんでもない、と首をふると。コウは安心したのか視線を枯れ木に戻し、小声で有名なカナリアの歌を小声で歌った。
 紫色のカナリアは、樹の上で眠ってでもいるのだろうか。ぴくりとも動かなかった。
 巨木の上に佇むカナリア。動けないのか動かないのか。
 遠くにいる奇妙な色合いの鳥を見て槻時・未久路(苞の庭・b00764)は思う。
(「その姿にどことなく寂しさを感じるのは何故でしょう」)
 青い空に溶けない紫。
 自然界からは確実に逸脱したその色の鳥が、どうしてその枝にとまったままなのか。その理由は誰にもわからなかった。
 しばし黙って誰もが足を進めていた。やがて先頭を行っていた秋枝・昇一郎(高校生ゾンビハンター・b00796)の進みが緩まり、無言で仲間たちを見た。
 目の前の木々が、途絶えるのがわかった。
 ぽっかりとひらいたように見えるそこに踏み込まぬよう、慎重に木々に隠れつつもうかがう。
 樹が葉を茂らせていた頃、そこは巨大な木によって気持ちのよい木陰が作られていたのだろう。しかし枯れて幹だけになった今、その周囲はどこか奇妙な何もない空き地になってしまっていた。
 そんな森から取り残されたような巨木の遺骨の足元には、多くの獣が新たな屍骸をさらしている。
 周囲にわずかに積もった雪にまぎれるよう、白い衣装に身を包んだ風凪・旋(護風纏衣・b02943)が、慎重に周囲を確かめた。
 いかにも不自由な動きで足を引きずる鹿が、枯れ木の後ろから顔を出した。根元に二匹の死んだ狐が、他に横たわる屍骸を鼻先でつついている。
 ―――これで三匹。
 少なくとも三匹、といわれたが……視認できるものはそれしかいない。
 一同は顔を見合わせて頷くと事前の相談の通りに移動をはじめた。

 運命予報士に告げられた『歌声』の範囲に踏み込まぬよう、十分に注意をしながら吉村・昭(慟哭する紅き魂の欠片・b17726)は仲間の合図を待つ。
「哀れな歌姫とその観客達のため……そしてこの地に住む人々のため……この地に死の舞踏を捧げます」
 胸に下げたペンダントに触れて小さく祈った。―――発動。
 そしてわずかに離れた場所で身を隠す仲間たちへと目で合図を送る。昇一郎は頷くと目を閉じ息を吸い込んだ。
「今だ!! ……仕掛けるぜッ!」
 合図の声をあげた昇一郎の足元から、まず根元の狐の一匹へと影が伸びた。それは鋭い爪先でたやすく狐の毛皮を切り裂く。卯逗の鎖鎌の分銅が、もう一体の狐へと伸びるが、それは避けられた。
 ガールミーツガンナイフで鹿を狙い撃ちしていた未久路に向かい鹿が走ってくる。あわてて逃げかけるが、思い直して雑霊弾を打ち込んだ。
「た……たわしさーんっ」
 腐った毛皮を揺らして突っ込んでくる鹿の頭突きを危うく避けて、未久路が自分のモーラットの名を呼んだ。傍らで、同じく使役ゴーストであるシャーマンズゴーストに火を吹かせていたコウが、避けそこね転倒する。
「ソラタ」
 名前を呼ぶコウをかばうように、シャーマンズゴーストが立ちはだかった。やや遠くから、援護するようにミミの雷の魔弾が飛び、腐った毛皮を焦がした。
 コウをこのまま襲うのは不利と思ったのか、けたたましい声を上げた鹿のリビングデッドはくるりと背を向けると、反対側で狐たちを牽制していた旋へと走った。
 距離の分助走をつけた鹿は、すさまじい勢いで前足を上げ、その蹄で彼女を打ち倒そうとする。一瞬目をむいた旋は、逃げることをあきらめて斧を構えなおすと。反対にロケットスマッシュを叩き込んだ。
 アビリティの加速ですさまじい勢いで繰り出された斧に、半身えぐられるように吹っ飛んだ鹿がそのまま、カナリアの玉座たる巨木にぶち当たる。枯れたとはいえ大樹の幹。折れて倒れることはなかったが、湿った重たい振動を枝先にまで伝える。
 ばさり、と紫の小さな羽根が舞い落ちてくる。昭の目の前にいた狐が、突然くたりと前足を折り横倒しになる。
 ……歌が始まったのだ。
 アビリティのようなものなのだろう。範囲を外れている彼らに歌声はわからないが、二匹の狐はその場に倒れたまま動かない。容赦なく昭のロケットスマッシュが。立ち上がったコウの雑霊弾が眠ったままの狐を永遠の眠りにつかせる。
 足元の掃除を済ませた彼らは樹を見上げた。
 青空になじまぬ紫の鳥は、そこが玉座でもあるかのように堂々と能力者たちを見下ろしていた。

(「素晴らしい歌に素敵な夢は少し気になる所ですが」)
 再び前衛・後衛に分かれた彼らは、ぎりぎりの場所に立つ。意外とそれは、全員の共通の思いだったかもしれない。
 カナリアは動かない。
 一歩、前衛に立った……内側の輪を作った、昇一郎・昭・旋・卯逗が踏み込んだ。
 
 ―――世界が、空気がまるで芳しい芳香を放っているかのような錯覚がする。

 感覚が歪むほどの美声。まるで時すらゆっくり流れているかのような。空間が甘い蜜になったかのような錯覚を昇一郎は覚え……。
「大仏がーーーー!!!」
 何故だか鎌倉の大仏様が立ち上がり、街を破壊しつつ土煙をあげながら走り回る世界に放り込まれた。
「起こせーーー!!」
 後衛班からミミの声が飛ぶ。後衛の彼女たちからは、まだカナリアに攻撃は届かないのだ。
 上に向かい水刃手裏剣を放つ、卯逗。向こう側では「大仏が…大仏が!」と叫びながらうなされ転がってる昇一郎の姿。それを起こすべく、響が果敢に踏み込み
「秋枝先輩、おき……」
 ……その場に倒れた。ニヤニヤしているからには、いい夢が見られているのだろう。
「はしたないですけど」
 眠りの誘惑に耐えた旋が、メイド服のすそをつまんでえいっと昇一郎と響を蹴り飛ばした。
 ……傍目で見ていれば、結構楽しいかもしれない光景が繰り広げられるが、その隙にも昭からはカナリアに向けて白燐拡散弾が飛ぶ。彼はすでに白燐装甲を身にまとっていた。
 しかしそのダメージも微々たるものなのだろうか。カナリアが歌をやめる気配はない。
 旋の蹴りのおかげで起き上がった昇一郎が……
「モアイに、自由の女神までーーーーーー!! 世界はどうなるんだーーー!!」
 また、寝た。
 こちらは寝なおさなかった響が、舌打ちしつつもあわててその足をつかんで歌の範囲外まで昇一郎を後退させる。
 眠ったものを起こすのに苦労する仲間を見つつ、卯逗は再び水刃手裏剣を紫のカナリアに向かって放つ。少し苦戦しているかもしれないと思ったとき、強い睡魔が彼女を襲う。
(「くっここまでか」)
 なぜか彼女の周囲は岩場に変わり、周囲を紫色をした怪人たちに囲まれる。邪悪な紫ビームが彼女を襲うその瞬間、がしぃっっと肩をつかむたくましいハト胸が現れる!
「情けないざまピヨね」
「お、お前はっカナリア妖獣?」
 確かこの間倒した後にカナリア丼にして美味しく戴いたはずじゃ? などと時間軸を超越した展開が始まった。
 驚愕する卯逗をかばうようにたった、ハト胸悪役はニヒルに微笑んだ
「ふっそれはそれこれはこれ! オマエを倒すのはこのオレピヨ、こんな所で倒れられたら困るピヨよ」
 燃える展開、焼ける肉、果たしてこの後はいかに――…
「……という夢を見たんだよ」
 とコウのシャーマンズゴーストに効果範囲外まで引っ張り出された卯逗が、パッチリと目をあけて説明をする。結構な余裕だ。
 一方こちらもたたき起こされたものの、世界遺産や有名看板の大攻勢を受けたらしい昇一郎がすごい勢いで起き上がりながら額の汗を拭いた。
 気がつけばいつのまにか前衛後衛が交代していたりして。
「……皆さん押さないで!」
 切羽詰った未久路の声に、ピンチかとあわてて昇一郎が振り返った。
「おかわりは沢山ありますから……!」
 ……寝言だったらしい。見れば、ミミも向こうでにゃふふふふと幸せそうな笑顔で丸くなってしまっている。
 効果範囲に入らぬ場所で、昭は鳥を見上げた。全員眠らせるまでは降りてこないつもりなのだろうか。だとすれば二重に囲み、半分は起こす役にしておいたのは正解だったろう。
 しかし、このままではいつまでたっても埒が明かない。
「交代しましょう」
 眠らず、上方へとバレットレインを打ち込む響に声をかける。頷いた響はそばにいたミミを引きずり効果範囲に出る。雑霊弾を打ち込んでいたコウも、シャーマンズゴーストとともに未久路をひっぱりそれにならう。
 再び、前衛班が中に飛び込んだ。
「モアイどころの話じゃねぇ……」
 ……とことんカナリアと相性がいいのか、再び昇一郎が崩れ落ちた。
 昭の意識も眠りの圧力に侵食される。ふと…遠くに、故郷の影が見えた。そこにあった幸福も。
 しかし、旋が的確に上を見上げ放ったフレイムキャノンが紫の羽毛を焦がした時、歌声は消えうせた。
 瞬間、走りこんだコウの銃弾が。ミミの雷の魔弾が鳥の体を打つと……その紫紺の体はボールのように容易く地上に落下し、羽を撒き散らし二度と動くことはなかった。

「……今度は本当の空で歌えるといいですね」
 髪にさした葉を樹の根元に手向けながら、未久路は囁いた。後ろに立つコウが頷く。
 その二人を見ながら、響はいつしか詰めていた息を吐いた。
「静かな森に…戻った、か……」
 そして自分が再び、左耳のピアスに手をやっていたことに気がつき舌打ちする。
(「情けねーな」)
 無意識に、その存在にいまだ頼っている自分を思うと苦い気持ちになる。
 同じく樹の根元にしばし黙祷した旋は、ぼんやりと空を見上げた。カナリアの歌で眠らなかった彼女は夢を見ていない。けれどもし、夢を見ていたら?
(「……シオンさんと一緒にいる夢でしょうか。いつもみたいにスキンシップか、あるいは……き、キスとか?」)
 知らず真っ赤になった旋の顔をコウが不思議そうに見る。ふと、気がついたように響へと視線を移し、見た夢をたずねた。
「絶対いわねぇ」
 顔を背けて逃げる響。ため息をついたミミが空を見上げた。
「今日はいい夢見れるといいなぁ……」
 その声は、晴れやかに広がった空へと吸い込まれた。


マスター:遠野夕 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/02/17
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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