修学旅行2009〜温泉、そして枕投げ!


<オープニング>


 銀誓館学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
 今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
 この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。

 中学2年生の修学旅行は、四国四県を巡る旅です。
 徳島県で鳴門の渦潮を見学し、香川県ではうどんを食べ、愛媛県では今治市などを観光、高知県では四万十川でアウトドアを楽しみます。
 宿泊地である琴平温泉と道後温泉もとても魅力的です。
 さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

 豪華な料理に舌鼓を打ち、疲れを癒す。一般的には滅多にお目にかかることもできないくらいの料理。それも旅館ならではその地域ならではの趣向に溢れ、舌だけではなく目や知識も満足させてくれる。
 まさに、旅の醍醐味の一つと言えるだろう。
 そして、それを楽しんだ後の風呂というものもまた格別であるに違いない。
 進み行く生徒たちの足も軽い。しかし、どこかで物足りない気分が湧いてくる。
 なぜかと問われれば、答えは簡単。
 修学旅行も三日目が終わろうとしている。
 そう、楽しい旅も明日で終わり。
 いつまでも続けばと思うが、現実は非情な訳で。確実な旅行の終わりは明日。
 それは絶対に捻じ曲げられない。
 ならば、どうするか。
 今のうちに楽しい思い出を作る。それが一番の方法だ。
「だからさ、お風呂の後に枕投げとかどうかな?」
 温泉へ向かう道すがら、にんまりと笑みを浮かべて築嶋・憐(へたれ拳士・bn0247)はそう言う。誰が企画したのかは分からないが、どうやら彼女はこの遊びに参加するようだ。
 修学旅行の定番、枕投げ。もちろん、先生には内緒で、だ。見つかったらまず間違いなく説教を食らうだろう。
 今からお風呂に入ったら班長会議があり、二十三時に就寝時間となっている。その就寝時間後で枕投げに興じようと、そういう魂胆である。
 幸いなことに、この旅館では大部屋を取っている。その部屋内で枕投げをしようというのだ。
「銀誓館学園って人が一杯だから、大部屋で寝たふりでもすれば誰がいるかとか人数とか先生たちにはばれないよ」
 多分ね、とか付け加える辺りに激しく適当感が溢れている。胡散臭さがぷんぷんするが、それはそれ。
「どう? 乗る? もちろん、優勝するのは私だけどね!」
 そんな憐の誘いに貴方は―――。

 旅は終わりを告げようとしている。
 だが、夜はまだまだ長い。
 宴は続く。
 旅行にあるべき楽しい夜の時間。
 楽しまなければ損なのかもしれない。
 ―――更けいく夜のラプソディを。

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参加者
NPC:築嶋・憐(へたれ拳士・bn0247)




<リプレイ>

●嵐の前の静けさは……静かじゃない?
 スッと夜空に星が流れた。温泉の湯気に包まれた空間から見る夜の世界も格別で。
「んんん〜!」
 チャポと水の揺れる音が響く。亜梨子は湯に身を預けて体を伸ばす。体の芯から温まる湯で、疲れの塊が溶けていくような感覚に陥る。ふぅ、と吐息を一つ。湯当たりするぎりぎりまで浸かっていたい気分にもなる。
 水着ということもあるだろうが、さすがに覗きをする不貞の輩はいなさそうだった。
 まだ、夜は長い。ゆったりと湯船に身を沈め、旅の疲れを癒す。
「うきゅ〜……」
 その横では目をぐるぐる巻きにして里桜が伸びていた。折角の温泉ということで堪能しようとしたところ、あまりにも風呂に浸かりすぎてのぼせてしまったようである。
「うぅ、恥ずかしいよ〜」
 濁った湯に体を隠すように。首の上までレシミアは浸かっていた。水着着用の上とは言え、普段の風呂という感覚を拭い去れず。どうにも気恥ずかしさが残っていた。どこか無理矢理に朱鷺から引っ張られてきたのは良いが、動けなくなってしまった。
 当の本人はというと、堂々としているもので。ちょっとだけ恨みのボルテージが上がったりしたのはここだけの話。
「って、こら、胸を触るなぁ!」
「あははは」
 怒声と笑い声が響く。露天風呂の方に駆けてくる沙希と御澤・憐。中学生にしては成長の著しい、そのたわわに実った果実をからかう沙希。
「別に好きで大きくさせたわけじゃないし……」
 対して、羞恥から顔を染める憐。多感な年頃の少女は、それを誇ることなどなく。むしろ、身長が伸びて欲しいと思うのであった。

 一方の男風呂。
「ふぃ〜」
 爺むさい息をつくゼガリア。長い時間、浸かっているが旅の疲れを癒すためだ。決して、彼が爺臭いわけではない。はずである。
 近くで夢路もゆったりと温泉に腰をさすりながら身を沈めていた。
「あいたたた」
 ソフトボール大会の反動が未だに腰に来ている。
 温泉にはきっと滋養効果もあるはずで。少しずつ痛みが引いていく気がする。
「泳ぎてぇ」
 ふと、そんな呟きが和吉の口からこぼれた。これほどに広い風呂場ならば泳いでも何ら問題はないだろうが、マナーというものがある。顔を半分だけ沈めて、ぼんやりと周囲を眺め、ふつふつと湧いてくる衝動を抑える。
 ともあれ、野郎共のむさい入浴シーンなんてもう良いよな。

 脱衣場から出た先には飲み物が売ってある。
 もちろん、旅先で入る温泉だけでなく、上がった後の一杯もまた格別である。
「やっぱり、温泉のあとはこれだよね」
 コーヒー牛乳の空き瓶を片手に涼介がしみじみと呟く。
「うぁ〜! これがないと温泉を堪能したって言えないよね!」
 フルーツ牛乳を一気に飲み干した里桜が笑顔でそう言う。もちろん、腰に手を当ててのスタイルである。このスタイルも是非、守ってこそだ。
「よーし! どっちが早く飲めるか勝負だ!」
 ディートリヒが双子の兄、ウルリッヒに早飲みバトルを仕掛ける。しかし。
「何で?」
 あっさりと断られていた。
「だが、俺は……! コーヒー牛乳ではなく、あえてイチゴ牛乳を推す!」
 黎己の背後からドーンという文字が浮かんだ気がする。そのまま腰に手を当ててイチゴ牛乳をあおる。
「オレはフルーツ牛乳で」
「私はラムネで結構ね」
 サイトと燐もそれぞれ別の飲み物を買う。一杯も人それぞれである。
 だが、この『風呂上りの一杯』も戦いの序曲に過ぎない。
 不適な笑みを浮かべ、コーヒー牛乳を一口の下に飲み下した叢。
「天下は、俺たちがいただく」
 そう、今から一大のイベントが待っている。
 ひそやかに、だが、確かにそれは話題になっていた。しおりのスケジュールにはないはずのイベント、枕投げ。
「こんばんは、今夜はよろしくお願いしますね」
「ふ、覚悟はできてるんだな」
 紫月の挨拶に涼介が挑戦的な言葉を返す。
 周囲の多くも逸る闘志が熱気として渦巻いてる。
 まだ、夜は長い。

●飛び交う枕の狂騒曲
 枕投げ戦線に集まった人数はしゃれにならないことになっていた。
「う、うーん。凄い人数だね……!」
 自分で手当たり次第に誘っておきながら、築嶋・憐はそんなことをのたまう。
 正直、八十人もの人数が一堂に会することなどできない。
 仕方がないので、部屋を三つに分けることに。
 こっそりとチームで結束している面々は必然的に同じ部屋に集まる。だが、あくまでバトルロイヤル。
 そう、戦場の行方は誰にもわからない。

 一つ目の部屋、電気を消して最初の巡回が過ぎるのを待つ。少しずつ足音が遠ざかっていく。完全に足音がなくなった瞬間、明かりが点った。
 そして、それが開戦の合図。
 皆、立ち上がると周囲に配置してある枕を片手に、標的目掛けて投げつける!
「うらぁあああ!」
 気合充分に投げられた輝義の枕が麻優里に目掛けて奔る。
「ボクに当てるには三年、早いよ!」
 白の塊は、しかし避けられる。
「やられたらやり返す!」
 お返しとばかりに、枕が返ってくる。だが、序盤も序盤。まだ当たるわけにはいかない。
「瑞羽、店でつちかった連携。生かす時が来たね」
「うん、頼りにしている」
 個人での参戦より、実は徒党を組んで戦うものが多い。もちろん、それが有利だからなのは当然。今日介と瑞羽の二人もそんな組み合わせだ。
「右だ!」
「よし! 隙あり……!」
 他へ投げようとしていた彰人の体へクリーンヒット。
 だが、今日介にはあまりにも敵が多かった。どういうわけかは知らないが。
「常日頃の恨み―――は特にないけど、覚悟っ!」
「これも勝負のうち、悪く思わないでよ!」
「くっ!」
「ふっふっふー、私たちの勝ちだねー」
 さすがに凛とみさか、久埜の三人からの枕を避けきれずに、最後の枕が今日介にヒット。
 お返しで放たれた瑞羽の枕が凛を捉えたのがせめてもの救いか。

 二つ目の部屋。
 こちらの部屋はシュールな開戦模様だった。
「………」
 何か部屋の隅にダンボールがある。さっきまではなかったはず。
 ジッと見ていると何か動いた。
 枕を投げると。
「あいたっ」
 声が上がる。
 そして、それを皮切りに宙を舞う枕の数が増える。
「っりゃー! って、当たれよ!」
 手当たり次第に投げる和吉であるが、そう簡単には当たってくれない。
「クラスメイトのよしみだ。協力してやってみないか?」
「はい〜、良いですよ〜」
 慧は睦月に共闘を持ちかける。一人よりは二人という理論だ。現にタッグを組む面々が優勢に動き始めているのも確かで。
「よし、本気で行くぞ!」
 枕の飛び交う激戦区へと向かう。

 三つ目の部屋にもダンボール……。
 和泉、お前もか。
(「部屋の隅にダンボールが一つや二つくらいあっても怪しくないはず」)
「………」
 もちろん、全力で怪しい。特に時折、もぞもぞと動くのだ。怪しくないはずがない。
 いくら某蛇の人の真似をしても状況が状況だ。
 枕が一斉に飛んでくる。
「ひゃうっ」
 ダンボールごと枕に潰される。
「ば、ばれてしまいましたか」
 当然だよ。
「こ、こうなったら反撃です! ……あれ?」
 すでに皆、彼を無視して戦闘は始まっている。白い枕が宙を舞う。
 どうやら、狙いはそれたようである。ほっと一息。目的の人物を探す。
「よう、和泉」
「あ、イグニスさん……」
 そこには枕を片手に、笑顔を浮かべるイグニスの姿。
「あーっ!」
 まだ、勝負は長い。

『一つ、提案がある。オレたちと組まないか?』
 好物のお菓子で鴇継により買収された憐は彼のいる場所へと向かおうとするが、他の弾幕が激しくて近寄るに近寄れない。
「くっ、勝ちが目の前にあるというのに……!」
「勝負だよ、憐さん!」
 そこへ結枝がびしりと枕を突きつける。するとおもむろに、謎のポーズを取り。
「へーん、し……ぶはっ!?」
 盛大な隙も同然でそれを見逃すはずなどなく。特攻気味に前線へ出ていたシャンロットの枕で顔面ヒット。
「変身中は攻撃しちゃいけないっていう紳士同盟を破ったな〜!」
 もちろん、そんなのテレビの中の世界だけだ。
 憐を無視して、そちらの方へ振り返って行ってしまった。
「な、何だったんだろ今の……」
「隙あり〜っ!」
「ぷぎょぁっ!?」
 ぽかんと呆気に取られていた憐の顔面に紅音の枕が直撃した。
 もちろん、怒りと共に枕を投げ返す。だが、紅音は左手に持っていた枕でそれを撃ち落した。
「な、何!?」
 要は当たらなければ良いのである。何とも洗練された戦術であった。
 それもそのはず、彼女は枕投げ部なる結社に所属している。後ろを一切、気にしていないのはタッグの笑弥が完璧にカバーしているからだ。
 レベルの違う相手だった。
「私と組まない?」
 そんな時、後ろからまゆらの声がかかった。渡りに舟と、その誘いに乗る。
 だが、憐はあまりにもへたれだった。目の前にした強大な相手に腰が引けている。
(「……これは不利、かな」)
 まゆらは悟る。このままでは勝てない。ならば。
 笑弥の枕が投げられる。
 さっと、まゆらは憐の身体を自分の前に押しやった。
「へ? もぎゅっ!?」
 哀れ、二回ヒットに。早くも退場。
 その投げた直後の隙にまゆらが笑弥を捉える。
「くっ……まだまだっ!」
 二対一のバトルが切って落とされる。

 戦いは数だよ、と。偉い人はそう言いました。
 もちろん、それに則った鹿苑寺キャンパス中学2年E組の一行の数はチームとして最大規模だった。
 しかし、チームと言ってもその実態は酷い。
「ちょっと待てえええええええええ!」
 どういうわけか、涼介は味方であるはずのマイナ、咲夜の攻撃に晒されていた。
「女を守るのは男と昔から相場が決まってるのよん?」
 しかも、梢からは背中を押され、前線に押しやられて盾代わりにされている。女子の団結力って怖い。
 速攻で一回アウトにされた。さすがに前後から飛んでくる枕を避け続けるのは不可能。
「かくなる上は!」
「んあ?」
 すでに二回当てられてすごすごと引き下がる憐を見つけて。
「必殺築嶋バリアー!」
「ちょ、また、ぎゃあああああ」
 ぼこぼこと積み重なる枕に呑まれて行く。
「君の犠牲は忘れない……」
 何か嘘泣きでもしているが、これっぽっちも涙は流れちゃいない。
 当然のように、その後、味方の女性陣からリンチを受けて沈む涼介であった。

 最前線で積みあがった布団が宙を舞う。枕の比ではないサイズの白がその姿を隠す。
 チームで組んでいる面々には溜まらなかった。敵と味方の姿が隠れたのだ。同士討ちを恐れ、攻撃の手が一瞬だけ止む。
「貰ったー!」
 サイトの仕業だった。同時に飛び上がり、手に持つ複数の枕を一気に投擲する。
 その攻撃はヴァンとシュヴールを捉えた。
「むぅ……やられました」
「く……クソ、こうなったらゾンビ戦だ」
 ヴァンは一度目、シュヴールは二度目のヒットだった。
 その舞い上がる布団を尻目にエルアンが獅子奮迅の様で敵を蹴散らしていく。
「おらおらおら、落ちろ、落ちろ、落ちろってゆーんだ!」
「隙あ、りー!」
 手当たり次第に枕を投げていたガラフの横合いから枕をぶつける。
「屍の上に立つのは俺、だー!」
 一人でガラフを下し、次の目標に目を向けると。
 恋人のルステラと目があった。
 一瞬だけ、悩む。もちろん優勝するためなら、彼女を倒さなければいけないことも分かっていた。負けん気の強い彼である。絶対に倒すことは確定していたのだが、それを後にするか先にするか。
「天空からの鉄槌、その目にしかと焼きつけよ! シューティングスターライト!」
「!?」
 ほんの少しの逡巡が命取りになってしまった。
 莢華の叫んだ適当な必殺技名と共に枕が迫り、ヒットする。
「ライフポイントはあと1、な……そしてお前はここで終わり、だ」
 もちろん、エルアンも黙ってはいない。反撃で投げ返した枕で莢華を捉える。だが。
「これぞ人狼騎士の力……」
 挟み撃ちをするようにハルモニカの一撃が決まっていた。
 何か必殺技を言った方が強くなるとか莢華は言ってたが、そんなことなかった。
「あー、躊躇わなきゃ良かった、な」
 エルアンが反省しつつぽりぽりと頬を掻く。ともあれ、これからはゾンビ参戦だ。

 中には疲れのピークに達しているものもいた。
 イセス、那美、ミライは枕投げの途中で、すでにお休み状態だった。
 那美に至っては先生をやり過ごすべく、端の方で布団に包まっていたのだがそれが裏目に出た。襲い繰る睡魔と心地よい布団の柔らかさが、彼女を包み……。
 ミライも途中までは参戦していたのだが、思わずキャッチしてしまった枕を手に取った瞬間、睡眠の欲求に抗えず。すでに布団の中で幸せそうな寝息を立てている。
 
 そして、悪魔がやってくる。
「!!」
 その気配に夢路が気付き看板を掲げると、近くにいた者たちから順に制止の声を上げる。停戦協定だ。
 二つ目の部屋ではプリケンが、声を上げて動きを止める。と、同時にルステラが電気を消す。さすがに、こうもされると全員が気付き布団に潜った。
 しかし、中にはその存在に気付かず、攻撃の手を止めないものもいる。
 ディートリヒもそんな中の一員であった。
「えっと……す、すいませんでした……」
 土下座するが時すでに遅し。先生に捕まり退場。
「はぅぅっ!?」
「げっ!」
 何より最悪なのは、投げた枕が先生の顔面にヒットした遊姫と阿沙であった。
「ほぅ……いい度胸だな。廊下に来なさい」
「せ、先生? これは日本の文化を体験し」
「シャラップ」
 一緒に隠れるタイミングを逃していたジルベールであったが、一言の下に封殺。言い訳は通用しなかった。
 そのまま、即座に連行。足が痺れるまで正座された。
「フ……枕では俺はやられん!」
 そんな阿沙の悔し紛れの捨て台詞が廊下に響いていたとか。 
 もちろん、大半はこの魔の手を逃れることができていた。
(「このドキドキ感もまた醍醐味の一つですね」)
 押入れに隠れていた悠樹こそが、修学旅行最大の楽しみをこの瞬間に味わっているようにも思えた。昂ぶる気持ちで興奮冷めやらぬといった様子。
「んー、もう食べられへんよー」
 ちょっと棒読みくさくなったが、瑠美は寝ぼけた振りを通すことに。
 明らかに布団のない場所に転がっているのだが、寝相が悪いと言うことで押し通る。
 次第に先生の気配が消えていく。
 第二ラウンドの開始だった。

 戦いも佳境に差し迫ってきた。
「うわっ!?」
「あ、危ない!」
 身を挺して瑞羽を庇う。
「今日介!? 大丈夫か、傷は浅いぞ!」
 自分を庇ってまで倒れた今日介の下に駆け寄る瑞羽。だが、それは盛大な隙でもあり。
「うわっ!」
 一回目のヒット。もう後はない。しかし。
「瑞羽を優勝させると誓ったんだ、このくらい!」
 ゾンビ化して周囲へと手当たり次第に枕を投げる。
「最後まで絶対に諦めない……!」
 残る人数も少なくなってきた。
「やっぱり、暴力はいけないよな、うん」
「そうだ、そうだ!」
 隅っこでお茶を飲む彰人に憐が賛同する。自分で参加しておきながら、言ってることが無茶苦茶である。それもこれも二人とも即座に二回アウトにされた面子であるからで。妙な連帯感がそこに芽生えていた。
 そして、佳境には裏切りが勃発していた。
『痛くないですよー?』
 インカム越しに聞こえる鈴女の怪しげな一言。
「ん?」
 縁が振り向くと、そこには枕を構える鈴女。
「おぃ、ちょっと待て、ぐぁっ!」
 後頭部に枕が直撃。あれ、後頭部? 鈴女は投げていないはずで。
「悪く思うな縁、油断するからいけないのじゃよ」
 さらに振り返ると、そこには投擲後の琴理の姿。
「ふふ……恨みっこなしです、ふぉっ!」
 今度は顔面に鈴女の一撃。折角、守っていたライフが一気に0へ。
「く……この」
 この恨みはらさでおくべきか。ゾンビ化したままに、琴理へそのまま枕を投げつける。
「縁の癖に生意気な!」
 酷い。
 琴理と鈴女から何個も枕が飛んできた。
「ちょ、ま、痛い、痛い!」
 最終的には枕に埋もれ、中央に謎のオブジェが出来上がっていた。
 中にはここまで粘っておきながら油断をする愚か者の姿も。
「わは〜」
 御魂が適当に上の方へ枕を投げる。浴衣でそんなことをし続けていると、こうひらひらとその御御足が姿を露に。
「うへへ」
 鼻の下をデレッと伸ばして勇はその姿を拝んでいた。だが、そんなことに気をとられていたら、当然。
 御魂が適当に投げた枕がヒット、ヒット、ヒット、ヒット。今まで粘ってきたのに一瞬で終了。
 でも、そんなの気にしていない。
 だって、良いもの見れたんだから。

 そして、勝負は終着へ向かう。
 一つ目の部屋で勝負を有利に運んでいたのは、星宮キャンパス2年H組の面々であった。
 まず、聖夜の陣取りが神懸かっていた。
「狙われづらく攻めやすい陣地を確保するぜ!」
 部屋の四隅。その内の一箇所に陣取れば、背後からの奇襲に警戒する必要もない。
 前面で暴れる沙希も多数に集中されかけるが、聖夜に庇ってもらい、また御澤・憐による援護を受けつつどんどんと敵を潰していった。
 凍夜の枕を運んでくる作業で、弾が尽きることはない。さすがに、無傷とは言えなかったが未だに一ヒットしかしていない。
「悪いが、これも作戦なんでな」
 ゼカリアの奇襲も憎い。冷静に、白熱して周りが見えなくなってきた相手だけを討ち取っていく。
 途中で仲間の鴇継が先生という名の強制力によって排除された誤算はあったが、順調に敵を潰して行っていた。
 最後にぶつかったのはまゆらを下した強豪タッグの紅音と笑弥であったが、初戦で消耗しすぎていた。
「これをボクだと思って……キミはボクの分まで生き……」
「よくも相棒を……よくも、紅音ちゃんをっ!」
 物量枕の前に紅音が倒れ、自分の枕を笑弥に託す。熱血化した笑弥の攻撃は憐や聖夜を下していくが、さすがに多勢に無勢。沙希の枕の前に撃沈してしまう。
 もし彼らと部屋を異にしていれば、彼女たちの優勝もありえたかもしれない。それほどの健闘だった。
 二つ目の部屋は個人の健闘が数を圧倒していた。本来なら数で戦場を制するつもりの銀狼チームだったが、エルアンの奮闘、サイトの奇策により序盤で数を失いすぎていた。鹿苑寺キャンパスの面子は疲労でダウンしたのが効いていた。そうなると、後は個々の戦闘が物を言う。
 三つ目の部屋では混沌を極めていた。ゾンビが大量にいる。
 中盤まではチームを保っていた仁奈森キャンパス中学2年D組の面々が優勢に見えていたが、やはり敵は敵。早めに味方にも潰れてもらおうと同士討ちを始めた者がいた。
「先手必勝、悪く思わないでね!」
 弥生だ。突然の味方からの襲撃に戸惑うが、すぐに全員が立て直す。しかし、それは明らかな隙。
「悪いが、もらった!」
 黎己はこういう瞬間を待っていた。序盤からはひたすらに回避だけをしており、後半の今になって攻勢に転じた。
 そこの隙を押し切られ、見る間に敵味方とも数が減った。
 それを機に諦めきれない者たちがゾンビと化し、生者の邪魔をしてくる。ゾンビの攻撃はアウトにならないとは言え、足止めや不意討ちの機会を一気に高めていた。

 一時間にも及ぶ激戦を繰り広げ、それぞれの部屋で最終的に立っていたのは―――沙希、サイト、黎己だった。
 熱い戦いは終わり、今は静けさが支配している。もっとも、一部の有志はいまだに第二ラウンド、第三ラウンドと続いていっているのだが。
 ともあれ、思い出は一つ増えた夜のひと時。
 満足して眠りに就く能力者の面々だった。


マスター:屍衰 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:86人
作成日:2009/06/27
得票数:楽しい26  笑える7 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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