≪*お菓子の家*≫甘い誘惑を打ち破れ


<オープニング>


「あぁ、新しい材料が届いたのか。お菓子作りは新鮮な材料が命だからな。シュークリームにプリン、ゼリー、苺の乗ったショートケーキ……あぁ、想像するだけで楽しみだ」
 パティシエのような格好をした恰幅の良い男性が、手にしたホールのパウンドケーキをパレットで掬って頬張りながら、喫茶店を訪れた能力者たちへ卑しい笑みを浮かべる。
「お菓子は好きですけど、私自身がなるのは遠慮したいですね」
 武器を構えた高宮・琴里(天つ風・b27075)が、男性へ厳しい視線を向けつつ辺りの様子を伺う。周りは椅子や机、窓から扉に至るまで全てがお菓子でできているようだ。チョコレートの甘い香りが呼気を満たし、見た目麗しいお菓子の数々がお菓子好きの思考を段々と鈍らせていく。
(「……これ、食べてしまえないかしら? これだけのお菓子に囲まれるなんて、夢のようですわ……」)
 思わず傍に置かれていたプリンアラモードに手を伸ばしかけた琴里は、仲間たちの「お腹壊しますよ」発言に惜しみつつも手を引っ込める。
「へっへっへ、お前たちもお菓子が好きなんだろう? 大人しくすればたらふくお菓子が食べられるぞ」
「……そ、そのような戯言、誰が聞くものですか!」
 琴里の反応に、「あれは動揺してるな」という仲間の感想が漏れる。
「そうか……じゃあ、ちゃちゃっと料理しちまうか。おいお前たち、こいつらを動けなくしちまえ!」
 男性が言うと奥の扉から、蟻の姿をした頭に鋭い角を生やした妖獣が立ちはだかる。
「この後お菓子をいただくためにも、ここで負けるわけにはいきません!」
 琴里の意思を秘めた掛け声と共に、能力者たちが次々と敵の中へ飛び込んでいく――。

マスターからのコメントを見る

参加者
風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)
アルファ・ラルファ(ティアレタヒチ・b15679)
ユーリリア・イセンガルド(ウインドミル・b22726)
綾木・レン(紫雲の坪庭・b22977)
高宮・琴里(天つ風・b27075)
天乃宮・頻(兎の小道・b30003)
菰野・蒼十郎(小者で弱くてヘタレな三拍子・b30005)
空知・凪(華蝶拳士・b43818)



<リプレイ>

●お菓子の家は魅惑だらけです
「ほらよ、俺サマ特製のお菓子、たんと喰らいな!」
 全てがお菓子でできた『お菓子の家』、その中で始まった戦いは、片萩・水津が見舞ったスイーツ攻撃で幕を開けた。ブッシュドノエル、ロールケーキといったお菓子が投下され、それは地面に落ちる前に衝撃波を起こして飛散する。
「あら、それほど言うからには、さぞ美味なのでしょうね?」
「自慢のスイーツ、アルファたちが味見してあげるデスよ!」
 生じる爆発から逃れながら、高宮・琴里(天つ風・b27075)とアルファ・ラルファ(ティアレタヒチ・b15679)が水津を挑発するように言葉をかける。
「当たり前だ、俺サマの作るスイーツは世界をも動かすぜ。……なのに誰も認めやがらねえ。ま、天才は簡単に世には認められないって言うしな! 世界が俺サマを認めるまで、スイーツを作り続けてやるぜ!」
 意気込んだ水津のスイーツ攻撃はより激しさを増していく。ビスコッティ、カトルカール、マドレーヌといったお菓子が次々とばら撒かれ、次の瞬間には店の内装をも巻き込んで破壊していく。
「うっひゃあ! ってか爆発云々の前に、飛んできた欠片で怪我するんとちゃう!?」
「食器や照明もお菓子でできている故、ちと厄介じゃのう……」
 飛び散る机や椅子から生じた破片を避けて、菰野・蒼十郎(小者で弱くてヘタレな三拍子・b30005)と空知・凪(華蝶拳士・b43818)が敵を前にして呟く。柔らかいお菓子はまだいいものの、食器などに使われているのは硬い材料でできているため、当たればそれなりに痛い。横では使役する真モーラットピュア2匹が、身を縮めるようにして自らの身体を護っていた。
「おっと、男はさっさと材料になってもらうぜ? 俺のスイーツを食べられるのは女だけだからな。そっちの丸っこいヤツは……ま、いっか。後でメレンゲの材料にでもしておいてやるか」
 パティシエの格好からは想像もつかない動きで蒼十郎と凪の前に躍り出た水津が、手にしたパレットで攻撃を仕掛けてくる。かろうじて避け切る2人だったが、パレットの先から飛んだクリームが2人の身体についてしまった。
 その瞬間、幼児ほどの大きさはあろう蟻の妖獣たち、その目が赤々と輝きだしたかと思うと、2人目掛けて突進をかけてきた。本人たちを標的にしているというよりは、クリームを齧ろうとしているだけに見える。水津のスイーツが世界を動かすかどうかはさておき、蟻の妖獣たちは動かせるようだ。
「クリームべったりな姿ってちょっと美味しそうって思ってしまいましたが、ああなるのはちょっと遠慮したいです……」
「蟻さんはお菓子を食べて、人は食べちゃダメなんだよー?」
 蒼十郎と凪、モーラット2匹が蟻の蹂躙を受けていたところへ、ユーリリア・イセンガルド(ウインドミル・b22726)と天乃宮・頻(兎の小道・b30003)の生み出した魔法の茨が蟻たちを絡め取る。生まれた隙を生かして、攻撃を受けていた者たちが体勢を整える。
「ちっ……なかなかやるじゃねーか。こりゃ俺も本気出していかねーとな」
 茨の範囲から逃れた水津が、片方に持っていたパウンドケーキをパレットで掬って口に含む。
「……かぁ〜、流石は俺の作ったスイーツだ。この程よい酸味の中に混じる苦味がまた格別だな」
 自らのスイーツに舌鼓をうつ水津に、どうしてスイーツなのに酸味と苦味!? という疑問が能力者たちの間に流れる。
「私はお、お菓子なんかに釣られないから!」
「私もパウンドケーキ食べたい……ち、違うのです!!」
 しかしそれも一瞬のこと、風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)が水津に向けて地獄の如き叫び声を放ち、綾木・レン(紫雲の坪庭・b22977)の全てを凍てつかせる吐息が水津を襲う。
「うおっと危ねえな……ぐおおおお!!?? な、何をしやがったお前たち!? お、俺のスイーツが、スイーツが甘い、甘いぞおおおおお!!?? ちくしょう、こんなスイーツなんぞ認められるかバカヤロウ!!」
 吐息を回避した水津だが、叫びを耳にした瞬間突如悶え始め、口の中に残っていたケーキを吐き捨て、手にしていたケーキも地面に叩き付ける。バッドステータスを受けた影響だろうか、しかしどうやら彼は甘いものが苦手なようである。だからといって甘くないスイーツは、スイーツと呼んでいいのだろうか疑問が残る。
「えっ……あのスイーツ、甘くないのですか? スイーツを投げられた時、思わず飛びつきそうになりました……危なかったです」
「例え甘くなかったとしても、お菓子を粗末にする人は、お仕置きデス!!」
 錯乱している水津へ、琴里の放った雷弾とアルファの放った雑念弾が直撃し、水津は店の壁に叩き付けられる。壁に貼られたチョコレートの欠片が降り注ぐ中、起き上がった水津の表情は、怒りに歪んでいた。
「お前たち……止めた止めた、もう俺のスイーツの材料にするのは止めた。お前たち全員、こいつらの餌になっちまえ!」
 言うが早いか、水津が辺り構わずパレットを振り回す。先端から吹き出すクリームがあちこちに飛び散り、それを確認した蟻の妖獣が狂ったように突進し、噛み付きを繰り返す。机に置かれていたイチゴパフェも、天井から吊り下げられていたシャンデリアを模したアメ細工も、妖獣が次々と吹き飛ばし、踏み荒らしていく。
「パティシエやのにお菓子を粗末にするなんて、パティシエ失格やん!」
「見た目は悪くなかったのじゃから、ゆっくり見たかったのう。……じゃが、そうも言ってはおれんな。まずは暴れるこやつらを何とかせねばな」
 妖獣の攻撃を回避した蒼十郎が意思を込めれば、破壊を免れたビスケットの椅子に鋭利なトゲが生え、それが弾丸のように飛んで妖獣を襲い、直撃を受けた妖獣が床に倒れ伏す。そこへ、飛び込んだ凪の回転を交えた蹴りの応酬が襲い、為すすべもなく全てを身に受けた妖獣は、断末魔の鳴き声をあげて塵へと消えていった。
「お菓子を食べてくれる人のことまで考えないあなたの行いは許せないのですよー!」
「そんなに急ぐと、みんなごっつんこだよー?」
 突進してきた妖獣が棚にめり込んで動けなくなっているところに、ユーリリアの生み出した蟻の姿をしたモノが突進を見舞い、妖獣の横っ腹に鋭い一撃を見舞う。叫び苦しむ妖獣はそこから逃れることなく、次に頻が放った光輝く槍の一撃を受けて塵に消えていった。
「女の子にクリームを投げ付けるなんて最低よ! 地縛霊といえども、料理人なら食べ物を大切にしないといけないんだから!」
 壁にぶつかって床に転げた妖獣を、莱花の放った槍の爆発が襲う。真モーラットピュア2匹の電撃に裂かれた妖獣は、床一面に敷き詰められたビーンズの上で、細やかなパウダーとなって消えていった。
「ちくしょう……何だよお前たち、メチャクチャ強えじゃんか……こりゃ一旦逃げるしかねえな――ん?」
 瞬く間に3匹の妖獣が倒されたのに怖気づいたのか、水津が弱気な台詞を呟きながら後退る。次の瞬間お尻の辺りに違和感を感じた水津が見たのは、自らのお尻にクリームをつけたレンの姿だった。
「よくもクリームをつけてくれましたですね〜。これで蟻にたかられるとよいのです」
「なっ!? お前、何てことしやがる!!」
 水津の攻撃を避けて、仲間たちの下へレンが合流する。それと入れ替わるように、あちこちぶつかった反動でお菓子を全身に被った妖獣が、瞳を赤々と輝かせて水津に近付いてくる。
「や、止めろ!! お前散々俺の作ったお菓子とか材料とか食ってきただろ!? せっかくの自信作が大量の蟻にたかられた時の絶望感をお前は知っているのか――って聞いてねえなちくしょおおおおおお!!」
 抵抗も空しく、水津は妖獣の頑丈な顎に持ち上げられ、空中でじたばたと身を捩らせる。
「お菓子を弄ぶ悪い子にはお仕置きです!」
 琴里の掛け声で、水津と妖獣に攻撃が集中される。それらを妖獣と共に身に受けた水津は、最期にどこか穏やかな表情を浮かべて呟いた。
「ああ……激辛ウェディングケーキ、作りたかったぜ……真っ赤に染まるケーキを頬張って、苦しみに悶える新郎新婦……くくっ、さぞかし滑稽な光景だったろうなあ……」
 水津と妖獣が塵に消えるのを見遣りながら能力者たちは、そんなケーキ誰も見向きもしないよと思ったとか思わなかったとか。

●それでもやっぱりお菓子は大好きです
「はぁ……敵だけじゃなくて、スイーツまで甘くなかったのデス……」
 戦闘が終わり、今はその面影もないお菓子の家を思い返して、アルファがため息をつく。
「まあ、皆無事で何よりやな。しっかし匂いだけはまんまスイーツやったで。おかげでこう、お菓子食べたい気持ちが毒のように身体を駆け巡ってるっつーか……」
「そうじゃな。ここは一つ、美味しいお菓子の店へ皆で行かぬか? わしは店がどこにあるのか知らぬので、言い出しっぺになってしまうがの」
 蒼十郎が身体を震わせているその横で、凪の提案に皆が嬉々として食い付く。
「美味しいお菓子、いっぱい食べに行きたくなっちゃうもんねー」
「そうです、あれだけお預けにされたんですから、この後は美味しいデザートを思いっきり食べたいのですよ!」
「みゅー、でも食べ過ぎちゃうと後で怖いものがあるって誰かが――」
「た、体重計なんて怖くないのですっ!」
 頻の無邪気な言葉に、ユーリリアが顔を紅くしながら応える。
「お菓子は皆で楽しくお話しながら食べるのが一番美味しいですものね!」
「う〜……あれだけお菓子を見せられて、とてもつらかったのです。お菓子、甘いお菓子が食べたいですー!」
 莱花とレンもすっかりその気である。
「じゃあ、皆で行きましょう! 大丈夫です、第二第三の候補もちゃんと調べてあるのです! さあ、食べ損ねた分まで食べるです♪」
 琴里の言葉に、皆はやっぱり食べるつもりだったのかと戦慄を覚えつつ、揃った声をあげる。
 そして一行は、これからの楽しい時間を待ち侘びながら、その場を後にしていった――。


マスター:音込深烈 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/07/30
得票数:楽しい10 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。