<リプレイ>
● 断ち切ると、刀を抜いたその瞬間――響く、鍔競り合いの音。 霜薙・威吹(深淵の間合い・b35312)の首筋に少女の刀があった。『焔霞』で受け止めねば、首を落とされていたかもしれない。 飛び退いて、距離を取る少女に隙はない。その鮮やかな手並みに、久我屋・明彦(アズラクバハルの狼・b54539)は息を呑んだ。 「噂に違わぬ立ち振る舞いだな?」 桐生・カタナ(修羅龍眼・b04195)は言う。心なしか、どこか愉快そうに。 ――貴女の強さを敬して。 「暁月夜神社の神主。居合道部の一人、九櫛宿禰。参ります」 九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)の肌に浮き上がる文様。そして宿禰は『金鳥玉兎集』を構える。彼女が何を求め、何を待ち続けていたのか、剣を交えることで知るために。 威吹と布津・祭理(神聖不可侵・b00603)は、それぞれ『焔霞』と『KATANA 【椛】』を旋回させる。祭理の『KATANA 【椛】』――西洋長剣でありながら、日本刀の技術も組まれた異形の剣は、月光を浴びて艶めいた。 「(一見可憐な容姿だが……油断は出来ないな)」 不覚を取れば負けるのはこちら、そう思い祭理は口元を緩める。――面白い。 「我流、片崎澪。……いざ」 「裏路地の黒揚羽、守森姫菊。拳士として勝負!」 呟きと共に、片崎・澪(白星紅風・b05292)の影が少女へ伸び、守森・姫菊(橙黄の延齢客・b20196)が少女へ飛びかかる。少女は紙一重で澪のダークハンドを躱すと、姫菊の蹴りを受け止めた。 「美人で強いなんて素敵よね。――でもユックリ寝る時らしいわよ?」 連続で打ち込まれる姫菊の蹴りを避け、少女は朽木桜の幹に背を当てる。立て直すように払った刃は、真っ直ぐに『銀誓館学園・居合道部』へ向いた。 少女の立ち姿は、鮮やかに咲く木の花のように美しく。真っ直ぐに見る彼女は、しかしどこか儚く。 廃れた社。二度と咲かない桜の木。時は刻々と流れ、いつしか人はこの存在すら忘れてしまっている。しかし、少女は動けない。 「(いつから待ち続けているんだろうな)」 待ち人はもうこないのに。 もういいだろう、と明彦は思わず呟く。魔狼のオーラをその身に纏いながら。 「せめて……その行く末ぐらいは此の目で見届けたいんだよ?」 礎・彼方(刃金の戦巫女・b46121)に呼び寄せられた古き土蜘蛛の魂がカタナへ宿る。 「石杖流舞刀術継承者、礎彼方が……御相手……仕参る!」 そして彼方は『宝刀“蜘蛛切”』の切先を少女へ向けた。言葉は届いているのか、届いていないのか。少女は刀を構えたまま微動だにしない。見据えた目は、ここへ留まる意思を邪魔する者達へ。 ならば死力を尽くすまでと桐生・カタナ(修羅龍眼・b04195)は地を蹴った。 「無刃流居合術にして、居合道部・総代……桐生カタナ―――見参ッ!」 真っ直ぐに振り下ろされる、闇の力を纏ったカタナの『式刀【喰霊阿修羅】』。月下に再び甲高い金属音が響く。 邪魔をするな、と少女の口元が動いた気がした。 少女は受け止めた『式刀【喰霊阿修羅】』を払う。同時に彼女の身が沈んだ。 深く息を吐き出し、少女が強く地に脚を叩き付けた瞬間だった。どんと地を這う強い振動。足下を掬われるような気の流れ。カタナ達の体が宙に浮き、地面に叩き付けられる。 「さすが、というべきでしょうか」 腕も使わず、気だけで相手を投げつける――合気道以上の力に宿禰は感嘆する。 「居合道部……我が退魔の剣……受けてみよ! 布津祭理……参る……!」 「次の相手は私だ」 吹き飛ばされた姫菊達に代わり、祭理、澪、そして明彦と宿禰が前衛に出る。明彦が放ったの弾丸を、少女は刀で払い、素早く澪の『麗刀【白火霊乱】』を受け止めた。 ぎりぎりと競合う澪。その澪が不意に飛び退く。目を見開いた少女の元へ、代わりへ飛び込んできたのは祭理だった。 宿禰の祖霊降臨を受け、気を纏った祭理の一撃。それは少女の肩口を掠めた。枯木桜に鮮血が散る。 無論、まだ撃剣は止まない。姫菊の龍撃砲が少女に向かい、すんでのところで躱した少女を、威吹とカタナのダークハンドが捕える。切り裂かれた身を縮め、少女は地面に刀を突き立てた。ぐらり、少女の体が揺れる。 しかし、同時に。再び地を這った衝撃。澪達は砂埃を巻き上げて地に伏した。勿論、少女とてここで倒れる身ではなかった。
● 宿禰と彼方の赦しの舞が、威吹達の傷を癒す。癒しを受けたカタナ達は再び、少女へ向かっていく。 「来るよ!」 姫菊の叫びを受け、彼方は振動を受け流す。それは舞うように、しなやかに。 一人で複数もの攻撃を受け流し、素早い剣戟を見せる少女には賛嘆を送らざるえない。少女の刀は幾度となく、宿禰達の身を切り裂き、血飛沫を上げさせた。既に彼女の刀は地に塗れ、赤く煌めいて。 少女の刀が威吹を貫く。少女の連撃に威吹は思わず膝をついた。 「俺に任せてくれ。次は俺が相手になろう」 明彦が言う。 一方、『銀誓館学園・居合道部』は一人ではない。威吹の代わりに明彦が前衛へ出る。こうして前衛の彼方達が攻撃を受けている間、宿禰の祖霊降臨が威吹を癒した。 人数の利――否、それだけではない。祭理達の確かな絆が、少女を超える力を生む。 仲間を信じてひたすら前へ――姫菊は地を蹴った。 「さあ! どっちの威力が上かしら!!」 渾身のローリングバッシュ。何度も撃ち合ってきた姫菊の蹴りが、少女の刀ごと肩を打った。がくりと膝をつく少女。それに続き、澪と威吹、祭理から伸びた影の手が彼女を引き裂く。明彦の弾丸が彼女を打ち抜いた。 「見せてみろ、本気ってヤツをよ!」 滴る血をものともせず、カタナは少女へ飛び掛かる。じゃねぇとこのまま消えることになるぜ――とカタナの『式刀【喰霊阿修羅】』が少女の体を貫いた。 少女は仰け反り、枯木桜に倒れ掛かる。震える彼女の指先が桜の幹を撫でた。 ゆっくりと顔を上げる少女。黒の髪が風に揺れる。髪を振り上げると――少女は笑った。本当にそれは僅かだけれど。 瞬いた明彦達に、少女は再び刀の切先を向けた。 痛みなど忘却したように。少女は真っ直ぐに立ち、正眼に構える。舞い上がる木の葉。袖を翻す。少女の剣気が波紋のように広がった。凄まじい剣気に宿禰達は身を屈める。 「ん……あの構えは……!」 そこに、声を上げたのは彼方だった。 「この尋常ならざる剣氣……礎、何か知っているのか?」 祭理の問いに彼方は頷く。ごくりと喉をならしながら。 「秘剣・木花咲耶……あれを受けたら……死あるのみなんだよ?」 木花咲耶、と姫菊が繰り返した。 「木花咲耶……実在してたのですね」 宿禰が言う。そして、その瞬間。 少女の姿が消えた。 瞬く、その一瞬。気がつけば、少女は彼方の目の前に。咄嗟に掲げた彼方の宝剣。けれどそれでは塞ぎきれないことも彼方は知っていた。思わず彼方は両目を瞑り―― 「彼方!!」 ハッと彼方は目を見開く。彼方の目の前に、見知った背中。夜の闇に舞う赤。 「カタナさん!」 仲間を守るべく、彼方の前に立ったカタナ。彼の体がゆっくりの地に倒れる。威吹はカタナの体を受け止め、守るように『焔霞』を構えた。 祈るように。仲間を想う宿禰の元に集まるほのかな光。土蜘蛛の魂がカタナの傷を癒していく。 威吹の横を抜け、代わりに澪が前衛に立つ。柔なる動きで少女の刀を制し、澪は『麗刀【白火霊乱】』を振り上げた。 「剛の技を使う身だが、動きも剛と思うなよ」 澪の刀が少女を斬る。何度も交えてきた互いの剣。誰かの代わりに、だなんて戯言は言わないけれど。澪は僅かに目を細める。ただ、もう、眠ってもいいだろう? けれど少女は立ち、刀を構える。滴る血を乱雑に拭い、少女が狙うはカタナのとどめ。 ――後ろには行かせない。 「相手は私だろうが!」 姫菊が打ち込む渾身の蹴り。砂を巻き上げ、姫菊は少女の前に立つ。 「あの体格でこの威力とは……」 生前、彼女はどれだけの努力をしてきたのか。明彦は思う。時が流れても変わる事なかったその意志、ゴーストであってもそれは尊敬できる部分だと。 これで、終わりだ。 祭理は仲間達の間をすり抜け、少女に向かって駆け出した。『KATANA 【椛】』が少女の胸を貫く。 祭理を追うように、宿禰は少女の懐に飛び込んだ。気を練り込んだ宿禰の指先が少女に触れる。同時に、少女の絶叫が響き渡った。 宿禰の背後で、明彦は静かに『明けの明星』を構える。 ――強き戦士に、どうか安らかな休息を。 威吹のダークハンドが少女を切り裂くのに合わせ、放たれた明彦の弾丸は少女の心を撃ち抜いた。 少女は空を仰ぐ。その目に見たのは彼女の待人だったのか。かの時には満開に咲き乱れていたであろう桜だったのか。少女は目を細め、口元を緩める。それはとても愛らしく、柔らかな微笑みで。 それが、彼女の最期だった。
● 「この桜も現役の時は綺麗だったんだろうね」 そっと姫菊は桜に手を触れた。 傷が残っている仲間はいないか見回していた宿禰は、姫菊の言葉に「そうですね」と頷いた。見上げた朽木桜は、どこか寂しそうに枯れ枝を揺らす。 「貴女が居た事は忘れませんよ……」 宿禰は小さな声で独りごちる。 「お疲れ様でした。彼女の冥福を祈りましょう」 その場の石を組み立てて、澪は小さな塚を作った。そして澪は静かに目を瞑る。 「(共に戦う仲間が居るのは、本当に心強い……待ち人も然り、かな)」 手を合わせた澪の隣で、威吹は静かに瞑目した。どうか、二人が再会できるように。威吹は祈りを心の中で呟く。祭理も二人の傍で目を閉じた。 傍らで彼方は優雅に手を伸ばした。その御霊が安らぐように、鎮魂の舞を。想いを込めて、彼方はゆるやかに舞う。 「輪廻転生の果てに……想い人と出会えますように……だよ?」 彼方の呟きは、風に紛れて消えていく。 周囲を見回したカタナは、最後に明彦と顔を見合わせた。桜の下に留まる想いはこの世から消えた。もう思い残すことはない。 「よし、撤収ッ!」 カタナの一声に頷き、『銀誓館学園・居合道部』の面々は小さな社を後にする。 彼らが去った社に唯一残されたのは、地面に突き立てられた刀身だった。赤く錆びた刀身は、しかし月光を浴びて輝く。 その刀身、打たれた銘は『赤刀・桜王雅』。
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参加者:8人
作成日:2009/07/05
得票数:カッコいい19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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