あたたかなぬくもりを。


<オープニング>


 バレンタインデー。
 心をこめた、プレゼント……何がいいかなと、悩んでいる人もいるだろう。
「手編みのマフラーを、プレゼントしませんか……?」
 バレンタインに向けてのイベントの告知が、幾つも並んでいる。放課後の教室を貸切にして、手編みのマフラーを作りましょう、という告知のポスターが、その一角に掲示されていた。ちなみに、ポスターを見ているのは二人の女生徒だが、男性の参加も構わない、とのことだ。
 
 編み棒と毛糸は、学校側で用意するが、持込も可能とのこと。思い思いの色を選んで、一つだけの手編みのマフラーを作ろう。ゆび編みで編む事もでき、どちらにせよ家庭科の先生が編み方が判らない人には指導をしてくれるのだそうだ。
 色や、糸の太さも好きなものを選ぶのがいい。尚、指編みの人は太目の毛糸がお勧めだ。

 今回は基本がプレゼント用ということで、小さなメッセージカードと、沢山の筆記用具、それにラッピングの道具が沢山用意してある。
 誰かにプレゼントする、という人は、メッセージカードに一言メッセージを添えるのもいいだろう。名刺より少し大きい、手のひらよりちょっと小さい程度のカードだから、そんなに長い文は書けないだろうけど。
 メッセージカードを書いたら、可愛くラッピングだ。色とりどりのリボンや、和紙の包装紙や可愛いプラスチック製の袋など、ラッピングの道具も色々用意されているから、好きなものでラッピングするのがいいだろう。

 誰かの為に。あるいは自分の為に。万一多少目があらかったりしても、心を込めた一品だから、きっとあったかい筈だ。
 マフラー、作ってみませんか?

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<リプレイ>


 毛糸の山の前で里奈はちょっと後悔。なんとなく聞いておくべきだったと相手の好みを必死で考える。
 迷った挙句選んだのはライトブルーの毛糸。似合いそうだと思って。席に戻り編み始める。いつもありがとうの気持ちを込めて。
 希兎が手に取ったのは白い糸。先生に教えてもらいながら、少しづつ。プレゼント用だからと一生懸命だが、なかなか上手に編めなくて肩を落とす。ちょっと微妙かなあと、まだ初めだから、解いて編みなおし。
「粗い……」
 同様に、糸を絡ませないように四苦八苦している蓮歌や蜂蜜と目があって、頑張ろうねと声をかけた。ちょっと笑顔が引きつってる気がするが。
 蓮歌はいつもお菓子を作っているからと、何か別のを、という事でマフラーを選んだのだが。お菓子作りと勝手が違う気がする。
 でも一生懸命に愛しい想いを編みこんで。気持ちの暖かさも渡せるだろうか。
「うう……、リリアン編みは苦手なのですの」
 蜂蜜は、先生やすらすら編んでいる生徒にやり方を教わりながら、少しづつ指編みで編んでいる。指編みは慣れればそんなに時間はかからないらしいが。最初だからゆっくりと。
 ちょっと苦い顔をした力とも顔を見合わせた。
「こうして、ここを通して……ああもうっ、また失敗」
 感謝と、ほんの少しそれ以上の気持ちを込めて。シンプルなマフラーだが、何度も失敗。
「でも……最後まで。頑張ろぅ」
 少しづつだがしっかりと編んでいく。
 霊夢は困っていた。
 一時の味わい以外にも使える物をプレゼントしようと、マフラーを作りに来た。山小屋での一人暮らしで、作れる物は全て自分で作ってきたのだ、このような物が……と思いつつ。
「やはり教えてくれぬじゃろうか」
 編み棒を握って数秒で、一人で作るのは諦めた。

 暖かい白系の色の毛糸を使って、丁寧に編んでいるのは龍麻。チョコ作りに加わるのは肩身が狭くて。大切な人に、一目一目丁寧に編んでいる。家事はそれなりにやっているだけあって、結構スムーズだ。失敗を恐れず編んだのも、幸いしたんだろう。
 反対に、持ってきた編み物の本を何度も見ながら、少しづつ編んでいるのは雫翠。
 選んだのは手触りのいい暖かい色。一つの失敗が崩壊の原因になる所が編み物と信頼は似ているなと思いながら、自分を慕ってくれる人に、感謝の気持ちを込めて。
 感謝の気持ちを育てるのは、とても幸せだと感じながら。
「のんびりと……お話しながらする編み物は楽しいですね」
 使い慣れた棒針と綺麗な青の毛糸を手に、舞兎は隣の小夜へと話しかける。編み物は初めての小夜に教えたり、他愛の無いおしゃべりをしながら針を動かしていく。空色のマフラーが欲しいと言っていたあの人の為に一目一目、気持ちを込めて。
(「後一月程で冬も終わってしまうのですが……大好きな人に暖かく過ごして貰える様に」)
 好きな色は青や水色だけど冬は寒そうだから。そんな理由で小夜が選んだのは暖かいブラウンの毛糸だった。舞兎はそんな小夜の横の窓の青い空を見上げて呟いた。
「空色と言っても、人それぞれ思い描く色は違うのでしょうか……?」
 例え感じ方が違っていても、いつも隣で同じ空を見てられますように。腑抜けた乙女になったものだと思った反面、悪い気はしなかった。

 最近寒いですし、風邪とか引いてはいけませんし!と、紅凛がプレゼントにマフラーを選んだ理由はそんな感じ。
「先生、ボーダーマフラーはどう編めば良いのでしょうか?」
 お世話になっているライバルに作ろうとしているが……相手は赤と黒が好きなのだ。編み物は得意な方だが、二色の糸を使うのは初めてだ。
 他にも、動物の絵柄を入れたいフェイ、ユニオンジャックの模様に挑戦する達磨など、頑張る生徒は頑張るらしい。
 フェイは初めてだから、小さな絵柄を少しだけ。もてない兄か部活の先輩にと考えているが。誰に渡そうか。
「編める、編めるぞ! この俺でもマフラーがッ!!」
 太目の白い糸を使って指編みで編んでいるのは月吉。以前貰ったマフラーのお返しに。
 最初はゆっくりだったがだんだん慣れてきて、少しオーバーなぐらいの歓声を上げる。服装は体操服にエプロン姿。
「指先で糸だけでなく、想いも編みこんでいくんだなー」
 場の雰囲気で、そんな台詞も口から出てきたり。編みあがったらポンポンにも挑戦する予定だ。
 ヴォルハルトは太目のコーラルピンクの糸を選ぶと、教わりに。短くは無い指に太い毛糸をかけて、少しづつ編んでいく。
 元はといえば、もふもふしたのの好きな編み物が得意な人に薦められたからだった。何事もチャレンジ精神。
 ちょっと面倒くさいと思っていたら。後ろからちょっと位失敗しても怒っちゃ駄目よと先生の声。
「って、別に怒ってねぇぞ?この目付きは元からだっ」


 自宅から赤系の毛糸を持ち込んで編んでいるのは姫乃。結構高級な毛糸で、肌触りもいい。マフラーを編みながら、別の物を作っているだろう、友人たちの顔が頭をよぎる。
 アクアリースと睦美は仲良く話しながら編んでいる。二人のイメージカラーである水色と桃色を使って、睦美は水色メイン、アクアリースは桃色メインの緩やかなしましま模様。色も二人で仲良く相談して決めたのだ。
 お世話になっているからと、丁寧に編むアクアリース。睦美は彼女を見やりながら、一生懸命に編んでいく。
 やはりチョコも渡したい。そう考えているのはきっと束音だけではない筈だ。
 黒い毛糸をベースに、赤と白の糸も混ぜつつ。最初は少しづつ編んでいたが、マフラーが長くなってくると、結構面白いかなと思う。
 喜んでくれるかなとか、家で作るチョコはどんなのにしようかとか、そんな事を考えていると、思ったより長くなっていて。
「まあいいよね。うん、ほら、沢山まいた方があったかいし!多分」
 前向きに考えつつ編み続ける。

「雨兎ちゃんは誰にプレゼントするんですか?」
 白い毛糸でふんわりした感じのマフラーを編む手を動かしながら。透輝は隣で慣れた手つきで青いマフラーを編んでいる雨兎へと問いかける。
「いつもお世話になってる先輩に、差し上げよう、かと……久瀬先輩は、どなたにプレゼントするんです、か……?」
 甘いものが苦手だと聞いたから、少しでも喜んでもらえるようにと。憧れの先輩と一緒で嬉しいと思いつつも、答える雨兎のその表情は無表情にも見える。
「わたしは親友にプレゼントするんです」
 優しく微笑みながら、透輝は問いに答えた。雨兎ちゃんからマフラーを貰える人は幸せですね、と思いながら。
「ここどうだっけ?」
 隣で見本代わりにとマフラーを編み続ける華凛に、問いかける雪那。その姿を微笑ましいと思いながら、華凛は丁寧に説明を。何度か網目の間違いを指摘されたりもしつつ、雪那のも少しづつ長くなっていっている。
「そういえば、華凛は編みあがったのは誰にあげるつもりなの?クリスマスの時、誰かのお誘いを受けていたみたいだけど、その人だったりして?」
「わ、私は別に誰かにあげるつもりは……」
 耳元の輝蝶の耳飾りに視線が向いている事に気がついて。贈り物を貰ったのだからお返しはすべきなのかもしれないけど、等と思っていたら。
「あれ?珍しいわね、華凛も編み目間違えてるみたいよ?」
 一目飛んでいるのを雪那に指摘された。不覚。
「マフラーってよ、想いを篭めて編み上げっからこそあったけーンだぜ?」
 以前二人で依頼に行った際贈った鴇羽色のスカーフと同じ色の糸を選び。ゼンは灑沙鵺の為、編み目一つ一つに想いを込めて、指で編み目を作っていく。
(「出来上がるマフラーは、絶対の絶対に、身も心もぽっかぽかにしてくれるのだわ♪」)
 灑沙鵺は常盤緑の毛糸で。編み物には自信があったが、なんだかゼンの方が上手な気がする。結局教わる事に。

 そんなやりとりを傍目に見つつ銀のマフラーを編み続ける亮。ポケットの中には、イグニッションカード。
 寒そうだからと、亮がマフラーをあげたい相手は、使役ゴーストのスケルトンだった。バレンタインに使役ゴーストに手編みのマフラーをプレゼントすると能力者の知人に告げた結果、ちょっと生暖かい目で見られたりもしたが。
「玲ちゃん、上手くいってる?」
 気に入ってくれればいいなと恋人の事を考えながら。クリスマスは何もあげられなかったから、とクリーム色のマフラーを編む陸は、笑顔のまま手を動かしている。
「目的が弱いと挫折しそうですよ」
 一緒に参加している玲紗は、特に手渡す相手を決めていなかった。いつか渡すべき相手ができればいいとは思うけれど。恋愛のなんたるかを理解していない以上、当分は無理かなとも。
「ちょっと単純作業かなあ」
 二人はちょっと飽きてきていた。学校の話でもして、気を紛らわしてみる。
「簡単かんた……って、今どこまで進んでたっけ?」
 孔明は白と青の毛糸を使って、楽しげに編んでいる。最初は苦労したものだが、慣れればそこまで大変でもなかった。何回か、途中で数えなおしたりもしたけれど、もう少し頑張れば編みあがるだろうか。


 ガーター編みでクリーム色の毛糸を編みつつ、翔香は周りを見回してみる。大好きだった祖母に教わった通りに、シンプルなのを。
(「私もいつか恋人とか出来て、その人の為に編んだりする日が来るのかしら。今は全然想像出来ないわね」)
 このマフラーは、いつもお世話になっている人に渡すものだ。チョコでなく、マフラーを選んだ理由も、相手が恋人でないから。
「えっと、ココはこうだったかしら……うん、よし!」
 翠は、できあがったエメラルドグリーンの幅広マフラーに、小さく『H.K』と文字を入れる。何か残るものをと考えて、これにしたのだが……暖かいと思ってもらえるだろうか。
 指編みの本と書かれた本とにらめっこしながら、日ごろお世話になっている人の為にと編んでいるのは夜火。暫くぶりだから、ちょっと編んでて不安になる。
「ここはこうで良いんだよな?」
 ページを見直す。結局、予想していたよりも時間がかかってしまった。
「苦戦したけど出来はまずまずだね、良かった」
 出来上がったマフラーを手に、ほっと一息。
 プレゼント用に編んでいる人ばかりというわけではない。壱烙は欲しい色のが見つからなかったから、自分用にマフラーを編んでいた。既に、解いてやり直すこと五回。ちょっと青みがかった緑色の太目の糸を、編み棒で目を数えながら編んでいる。
「……来年以降の練習ってことにしよう、うん」
 ちょっと不恰好ながら完成。そのまま巻いて帰るのも微妙だからと、袋を取りに行く。
 達磨のマフラーも完成していた。なんだか長いが。
「ちょっと長く作りすぎたけど、見た目はイメージ通りだし……ま、いっか!」
 誰かにプレゼントか、自分で使うかは決まっていないが。実用的と言えるだろうか。
 同じ問題に行き着いたのが流羽。元々行き当たりばったりで、彼女が選んだ糸は最後の幾つかのひとつの紺色。
 毎冬何か作っていて、両親や身近な人にプレゼントしては喜ばれている。そんなこんなで、手馴れた手つきで編んでいたのはいいが。
「!?」
 気がついたら身長よりだいぶ長くなっていた。


 マフラーらしきものを仕上げた蓮歌は素直な気持ちをカードに記す。
「バレンタインの綴りはVからですよね?」
 理尋は念のため先生に綴りを確認して、小さなカードにそっと『Valentine For You.』と。
 シンプルな言葉に想いを込めて。
 すぐ近くで悩んでいるのは綾音。マフラー自体は手馴れたもので、かなり早く編み上げていたのだが。
(「何時もお世話してるしね。義理よ! 義理義理」)
 とか、色々考えた結果。
『一人暮らしなんだから、風邪引くんじゃないわよ!』
 自分らしく、そんなメッセージに決めた。手間のかかる幼馴染なんだから、と思いつつ、ラッピング道具を取りに向かう。
 マフラーよりカードに苦戦しているといえば、氷魚もだ。青いシンプルなマフラーを編み上げ、ピンク色のカードと手に取ったペンとを見比べている。
「直球過ぎるのは恥ずかしいし、下手に繕うのも何だか虚しいし」
 時に赤くなったり、時に悩んだり。変わる表情はまるで百面相。
『いつもありがとうございます。これからも、宜しくです』
 悩みぬいた末ここに居ない相手を思って書いた言葉はそんな感じで。逆に恥ずかしくなったりもしたけれど。
 夕莉が選んだのは、オフホワイトの紙に金の枠が箔押しされたカードだ。黒の毛糸で編んだマフラーは心を込めて作ったけれど、初めてなのもあり余り上手にはできなかった。
 でも彼は付き合いが長いし自分が不器用だと知っているから。きっと笑って身に付けてくれるだろうと思って。
『今までもこれからも、昔交わした誓いの通り、死が二人を分かつまで側にいるから』
 青い万年筆で書いたメッセージには、ちょっとだけ願掛けの意味もこめて。
「大人っぽい……」
 少し離れた所から、他の人はどんなカードを書いてるんだろうと、優しい緑色のシンプルなマフラーを編み上げた千絵子はそっと何人かのカードを覗いてみる。勿論勝手にメッセージを読んだりはしないけど。
「自分にあう物を選ぶのが一番かしら?」
 後ろから助言してくれたのは先生。
「書く事決めた?」
 ピンクの筆記用具で、少し大きめの文字でカードに書いている真白にも声をかけてみる。少し柔らかい印象の字で、一気に書き上げている。
『ずーっと、大好き! 真白』
 初めてのプレゼント。ちょっとだけ失敗しちゃったけど、カードにもマフラーにも、大好きの想いを一杯込めて。
 千絵子は座席に戻ると、白いカードに淡い色鉛筆の緑の蔦の装飾と、四隅に桃色のハートを付けて。
『大好きな先輩へ 少しでも寒さが和らぎますように』

 アクアリースは、睦美に渡す所を想像しながら、可愛く包装紙で包む。
 顔を赤らめた彼女の首に、毛糸のマフラー。その当の睦美が、編みあがったマフラーを首に……って、ちょっと長くないかと聞いてみる。
「こうして使いますのさ♪」
 一緒に巻いてみたらしい。照れるアクアちゃんも可愛いと思う睦美。
 マフラーを抱きしめて、蜂蜜も相手を想う。
「喜んでくださるかしら」
 なんだかちょっとだけいびつだけど。一生懸命編んだから気にしない。
 できあがったマフラーをゼンの首に巻くと、灑沙鵺は彼へと抱きついた。
「約束どーり当日交換だぜ?マジに互いに贈り合うのはよ。マフラーじゃねーでその想いの温もりだケド……な?」
 マフラーを返したゼンに、灑沙鵺は少し早いキス。

 亜弥音は編みあがったモノクロームのマフラーを手に、色とりどりの包装紙の中から持ってきた和紙で包み始める。
 一折り一折りにを丁寧に。気持を伝えたいあの人の反応が気にはなるけど、不安な気持ちにならないようにと。
 想いを込めてリボンで止めたら、後は渡すだけだ。


マスター:永瀬晶 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:41人
作成日:2007/02/13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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