ディスティニーサーガ〜打ち砕け! 創始の中枢


<オープニング>


 ──MMORPGディスティニーサーガ。
 謎の企業によって運営されていた一見何の変哲も無いように見えた招待制のゲーム。
 しかし、それはプレイヤーの魂を奪い取る『呪いのゲーム』だった。

 ゲーム中に昏睡状態となったプレイヤーを助けて招待パスワードを得た銀誓館学園は、
 おりしも大規模なイベントが行われようとしていたディスティニーサーガにログインし、
 敵の想定外の戦力を投入する事で、見事、ゲーム参加者の危機を救う。
 ──そして、さらに。
 成功すれば全プレイヤーを解放する事ができる『ファイナルクエスト』もクリアして、
 ついに、原因となる場所を特定する事に成功したのだった。
 
●打ち砕け! 創始の中枢
「……サーバーがあるのは、けいはんな学研都市にある研究施設だ」
 集まった能力者達に武羽・和史(小学生運命予報士・bn0099)は淡々と告げる。
 一見、ゲームとは関係が無さそうな『生化学研究所』の研究施設の最上階。
 そこに、目的のものが置いてあるのだ――と。
「ゲーム会社じゃなくって研究所!? ……何だか、規模が大きいな」
 眞田・烈人(熱血コミックマスター・bn0142)の声と同時に、周囲にも緊張が走る。
「……この生化学研究所は、銀誓舘クランがファイナルクエストをクリアした翌日から一時閉鎖されているんだ」
 残っているのは、ディスティニーサーガに関わっていた研究員達だけのようだ。
「……だから、研究所に近づくだけなら、それほど難しくはないんだ」
 研究所の扉は電子的なセキュリティが用意されている筈だが、何らかの理由でセキュリティが全てカットされている為、自動扉なども力づくで開ける事ができる。
「……研究所は2層に別れていて、下層フロアはビル5階分もある大きな研究室になっている。内部は百貨店みたいに中央に大きな吹き抜けがある階層構造になっていて、研究室の中央には強化ガラスで囲われている『大きな吹き抜けの実験室』があるんだ」
 この吹き抜けの実験室とサーバーが置いてある上層以外には電気は通っていない。
 防犯カメラも、警報装置も、完全に機能を停止しているようだ。
「という事は、エレベーターも全て止まっているって事か……」
 吹き抜けの実験室より上の階、つまり、上層フロアに行くには階段を使う事になる。
 階段は『中央階段』、『南階段』、『西階段』、『非常階段』、全部で4つだ。
「……中央階段は吹き抜けの実験室のすぐ脇にあって、実験室の様子を見ながら移動する事ができるけれど、この階段には、数名の研究員とSPがいるから気をつけて」
「ちょっと待て。今、SPって……」
 顔を引きつらせた烈人とは反対に、和史は真顔のまま僅かに口元を歪ませた。
「……研究員の多くはアメリカ人。詳しく言うと半分は研究員、残りはSPで銃器と格闘戦のエキスパートだったりするんだな」
「何、そのハリウッド映画バリバリの研究施設っ!」
「……SPはマーシャルアーツみたいな格闘術を使い、オートマチック拳銃で武装してる」
「いや、ここ日本だしっ! あいきゃんのっと、すぴーく……」
「……アメリカ人といっても、全員日本語を理解できるし、話せるからな」
「あ、そう……」
 拳銃を所持しているといっても、相手は一般人なので無力化する事は難しくない。
「……南階段と西階段は研究室の南と西の端にある階段で、学校の階段みたいなごく普通の階段だ」
 この2つの階段には研究員の姿はないが、吹き抜けの実験室の様子を見る事はできない。
「……非常階段は、建物の外側を通る鉄骨の狭い階段で、普段は全く使われていない。外側からは全て施錠されているけれど、内側からなら簡単に出ることができるんだ」
 だが、この階段はとても狭いため、人が1人通るだけで精一杯だ。
 一斉に一般人が殺到した場合、運が悪いと足を滑らして落下してしまうかもしれない。
「……最上階でもある上層フロアにはサーバールームと会議室、その他にも部屋があって、20名程の研究員がいるようだ」
「随分、大掛かりな研究所だな……」
 想定外の規模に能力者の1人が溜息を零したと同時に、和史は指を3本たてる。
「……みんなに頼みたい事が『3つ』ある」
 和史の真剣な眼差しと敵の規模に、それが容易でない事を、誰もが感じていた──。
 
「……1つ目。最優先にして欲しいのは『関係者の逃走を許さず、確保する事』だ。これは2つ目の『施設内にあるディスティニーサーガに関わる研究データを全て回収するか、破棄する事』にも繋がる」
 襲撃を受けた研究員達は、研究データを確保して逃走しようとする。
 事件の背景を尋ねる為にも、絶対に逃走を許してはならない。
「……ただ、相手は一般人だ。手荒に扱うと、死亡させる恐れがあるから気をつけて」
 そして、3つ目と能力者達を見回す。
「……『サーバーを完膚なきまでに破壊する』事だ。同じような事件が発生しないように、復旧できないレベルまで全てのサーバーを物理的に破壊して欲しい」
 研究員の捕縛、施設内にある研究データの確保または破棄、そして……サーバーの破壊。
 やる事が多い分、うまく連携を取っていく必要があるだろう。
「……サーバールームには、300台以上のコンピューターが作動している」
「300台以上!?」
 その数字に驚きの声が漏れるのも言うまでも無い。
 それを復旧できないレベルで破壊しろといわれても、1人辺り10台である。
「……だから、最初は研究員達を制圧して無力化させる事に専念して欲しい。サーバーを破壊するのはそれからだ」
 拳銃で武装したSPがいるが、相手は一般人、落ち着いて対処すれば問題はない。
 だが、流れ弾で研究員が死傷したり、混乱に乗じて逃走する可能性は高い。
 その為にも、31人全員の連携は必要不可欠だ。
「……今判明している情報では、みんなには大きな危険はないけれど……」
 ふと、真顔だった和史の顔が曇る。
「……何だか、嫌な予感がするんだ。危険というよりも、嫌なカンジ」
 それがどんなものなのか、どれくらいの規模なのかは、わからない。
 ゴースト等に遭遇した場合も考えて、対策を備えておいた方がいいだろう。
 パニックに陥った研究員を護る策、仲間や己を護る策、考えれば尽きる事はない。
「やる事は多いけれど……俺達の底力、奴らに見せつけてやろうぜ!」
 この『ディスティニー』に、本当の意味で終止符を打つ為に──。

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参加者
ティア・アルカーク(蒼穹の霊媒士・b00342)
如月・清和(魔導特捜ザンガイガー・b00587)
氷山・悠治(自由人・b00951)
夏沢・雲母(ハイハハイニ・b01136)
日下部・砌(ゲイルトレーサー・b01206)
霧生・颯(マンドラゴラは植物です・b01352)
十条寺・達磨(マッドハッター・b01674)
相澤・悟(古武道部三枚目部長・b03663)
セイジロウ・マグス(珈琲の香り・b04498)
壬生・瑞明(蒼き鳥籠のシュヴァリエ・b16745)
綾瀬・律(日日是事無・b18293)
鰤野・照明(靴屋の小人・b18701)
司・忍(朝焼けの喧嘩番長・b19369)
支倉・タケル(血染めのアリス・b22683)
霧峰・灰十(漆黒の牢獄・b26171)
奥岡・舞夜(怠乱人・b27921)
本間・忠弘(迅風繚乱・b38617)
南・行介(不知詠人・b38673)
闘波・水夢(小学生半熟青龍拳士・b44651)
志村・かなえ(虹へと飛ぶ小さな虫・b45052)
安曇・四季(まほろばの雫・b46432)
ユウカ・ファインデッド(金の意志・b52731)
魔導・瑠璃(中学生クルースニク・b53348)
高峰・勇(高峰流忍術継承者・b55678)
エチカ・ハパル(小学生クルースニク・b60352)
神谷・圭介(刃の継承者・b60649)
転生・破械(高校生ヘリオン・b63537)
三家・真(かおすの権化・b64008)
時渡・つかさ(そこにあるのは純粋な願いだけ・b64658)
サフィール・スターリナ(白衣の猫魔導士・b65685)
NPC:眞田・烈人(熱血コミックマスター・bn0142)




<リプレイ>

 ――生化学研究所。

 表向きはそう呼ばれている研究施設に朱色の夕陽が照らす頃。
 静かに、だが速やかに侵入する者達がいた……。

「内側から完全にロックされているな……」
 研究員と鉢合わせする事なく、早々と非常階段に辿り着いたのはD班の十条寺・達磨(マッドハッター・b01674)達。しかし、内側が上層フロアだけあって扉は頑丈で、専用キットを使ってもすぐに破れるものでは無い。
「上層は電気が通っている筈、開けたらセキュリティが作動するかも」
 顔には現していないが、依頼に入るのもこれだけの数の能力者と行動する事も初めての時渡・つかさ(そこにあるのは純粋な願いだけ・b64658)は、やや萎縮気味だ。
「今は、皆を信じるしかないな……」
 先程まで一緒にいた別班の相澤・悟(古武道部三枚目部長・b03663)が、研究所に入る前から「匂うな」と言っていた事を気にしていた眞田・烈人(熱血コミックマスター・bn0142)も、何時もの賑やかさを隠すように、息を潜めた――。

●襲撃
「閉鎖中に仕事っていうのは、妙なもんだ」
 中央階段では、白衣姿の男3人が実験室の様子をチェックしていた。
「あんな事が有った矢先だ、我慢しろ」
 下層フロアは静寂に包まれており、彼らとSPの他に人は見当たらない。
 愚痴を零す研究員達と反対に、少し離れた所で立っているSP2人は終始無言だったが。
「これも勤勉な日本人を見習う、良い機会だと思うのじゃな……」
 白人の初老の男が2人に皮肉めいた言葉を掛けた瞬間、静寂は――破られた。
「動かないで貰おうか」
 闇を解いた霧峰・灰十(漆黒の牢獄・b26171)がSP目掛けて炎の蔓を放ったのだ。
 絡み付く炎に焼き尽くす力はないが、知らない者にとっては生きた心地はしない。
「くそっ!」
 階段に雪崩れ込む少年少女達に向けて、もう1人のSPが躊躇せずに銃に手をかける。
 しかし、それより能力者の動きは速かった。
「こんな階段登るくらい、いつもの武道修行よりカルいぞ」
 上層に逃げようとした研究員の前に先回りをした闘波・水夢(小学生半熟青龍拳士・b44651)が纏うは青龍のオーラ。その力に怯んだ隙を逃さず、奥岡・舞夜(怠乱人・b27921)が麻痺を伴う土蜘蛛の糸で一網打尽にする。
「これは預からせてもらうぜ」
 高峰・勇(高峰流忍術継承者・b55678)は拘束されたSP達から銃を取り上げると、その手を後ろ手にしてガムテープで6重に巻きつけ、さらにその上から結束バンドで厳重に固定した。
「事態は進行しとる、抜かり無いよう行こや!」
 同じように研究員を手際よく縛り上げた悟は、匂いの元を探るようにフロアを見渡す。
 しかし、匂いの元が近すぎるのか、これ以上の嗅ぎ分けは不可能だった。
「ああ、携帯に雑音が入っていたのも気になるな」
 逃げようとした研究員に飾り気のない白鞘の柄で当て身を喰らわせた司・忍(朝焼けの喧嘩番長・b19369) も、指の間にもガムテープを巻き付けて行く。
「抵抗しないでね♪」
 逃れようともがくSPに手の中のキノコを見せながらニッコリ微笑むのは霧生・颯(マンドラゴラは植物です・b01352)。不思議な輝きを放つキノコを前にはSPもただの人、怯えたように小さく悲鳴をあげるだけだ。
「ここは俺たちに任せろ、ネコ1匹通しやしねぇぜ」
 一般人達を数珠つなぎにして上層制圧に向かうA班を入り口から見届けた神谷・圭介(刃の継承者・b60649)は、内外を警戒するように不気味に胎動する実験室に目を向ける。
 中に人がいる様子はなく、あるのは見慣れない実験器具と巨大水槽だけだった。

●上層西側
「総員、配置につけ!」
 同時刻。
 西側フロアにあるラボ一帯を奇襲するC班の元に現れたのは、数人の男達。
 非常口や他の階段に向けて逃げ出す研究員とは反対に、皆武装している屈強な男達だ。
「ここにもSPがいるね」
 C班を率いていたセイジロウ・マグス(珈琲の香り・b04498)は眉をしかめる。
 目的が不明な相手、ただそれだけでも不安は拭えない。
「だが、これ以上好き勝手させるわけにゃいかねぇ」 
 研究員に加えて警備の為のSPがいるのだろう、だが相手は一般人だ。
 多少無理をしても無傷で拘束しようと本間・忠弘(迅風繚乱・b38617)が飛び出す。
 間合いを狭める彼にSP達が銃口を向けるが――その引き金が引かれる事はなかった。
「慣れないPC画面を見続けさせてくれて、ありがとう。おかげで頭痛が絶えないわ」
 臆する事なくSP達の前に立つのはユウカ・ファインデッド(金の意志・b52731)。
 口調こそ丁寧であるものの、仁王立ちで威圧する彼女の前に動けるものはいない。
「やっぱり、オレは体を動かすほうが楽だな」
 資料収集を兼ねてビデオカメラを回していた支倉・タケル(血染めのアリス・b22683)も、ゲームで溜まった鬱憤を思う存分晴らすと言わんばかりに足払いをかける。
 セイジロウも負傷させないように注意しながらタケルに回し蹴りを放とうとしたSPに箒の先を向けた瞬間、ポンッとSPの頭に運動能力を奪う1本のキノコが出現した。
「く、くるしいデス……」
「あ、ごめんなさいですの」
 サフィール・スターリナ(白衣の猫魔導士・b65685)は次々に無力化されていく一般人をケットシー・ガンナーのシュルヴィスと共にガムテープで拘束していくが、仲間の修学旅行の邪魔をした元凶を前に、自然に力がはいってしまっていて。
「テカゲン、ムズカシイ……」
 相手は一般人、困り顔のまま首を傾げたエチカ・ハパル(小学生クルースニク・b60352)も出来る限り力を加減してガムテープを何重にも巻き、後ろ手にした手首を結束バンドでがっちり締めていく。
(「ゲーム、楽しかった。だからこそ、決着をつける」)
 ティア・アルカーク(蒼穹の霊媒士・b00342)が傍らのフランケンシュタインFWに声をかけると、彼は武器を取り上げられたSP2人を軽々と担ぎ上げる。厳重に縛られた上に王者の風で虚脱した一般人達は抵抗する事も出来ず、言うなりになるしかなかった。
「次、いきましょう」
 静寂が戻ったフロアに残ったのは、ユウカが破壊したSP達の銃器と『×』印だけだった。

●上層南側
「急いで資料を集めなさい!」
 上層フロアの一角に存在する会議室にいたのは5人の研究員とSPが1人。
 緊急会議を中断した彼等は、使用していた研究データを持ち去ろうとしていた。
「下層の電源が全て実験プールに流れ込むわ、サーバールームの様子を見に行った所長とは連絡が繋がらないわ、散々だわ!」
 幹部らしき女性がヒステリックに髪を掻きむしるが、直ぐにその手を下ろす。
「私達だけでも最低限のデータを持ち運んで再起を図る、急ぎなさい!」
 どれもこれも全てが貴重な研究成果、惜しむものは幾らでもある。
 だが、部下達の返事が返ってくる前に、勢い良く扉が開かれた。
「魔導特捜ザンガイガー! 参上!」
 扉の前で突然決めポーズをとる如月・清和(魔導特捜ザンガイガー・b00587)。
 虚を突かれた研究員達が思わず彼に意識を向けてしまったのが、運の尽きだった。
「今だ!」
 鰤野・照明(靴屋の小人・b18701)の白いキノコがSPを無力化すると同時に、
 視界を白が覆った。
「ん、ちゃんと出たな。練習しといてヨカッタ……」
 土蜘蛛の糸の感覚。とても久しぶりで、懐かしくて。
「いいタイミングだったぜ」
 手の平を突き出したまま笑みを浮かべていた南・行介(不知詠人・b38673)に、日下部・砌(ゲイルトレーサー・b01206)が清らかな風を巻き起こして戒めから解き放つ。
「流れ弾とか当たると困るからな」
 SPから取り上げた武器をそのまま地面に叩き付けて詠唱銃で撃ち砕いたのは氷山・悠治(自由人・b00951)。その隙に、転生・破械(高校生ヘリオン・b63537)が傷つけないように注意しながらSPを後ろ手にして縛った。
「正直に答えてね。この建物、壊すことにもなりかねないんだし……」
 土蜘蛛の糸で一網打尽にされた研究員を睨みつけながら所員数を訪ねるのは綾瀬・律(日日是事無・b18293)。青龍のオーラも手伝って物騒な言葉も明らかに凄みを増していた。
「せ、正確な数はわからないけど、関係者しかいないのは確かよ……」
 女性が答えた内容は予報士の情報とほぼ同じ、嘘はついていないだろう。
「さっき、『最低限のデータを持ち運ぶ』って言っていたよな?」
 ふと、研究員達の会話に注意していた照明が笑みを浮かべる。
「悪いな……現実はあんたの想像以上に理不尽みたいだぜ?」
 砌が後ろ手に縛った研究員のポケットを探れば、言葉通りに記録媒体が出て来た。
「フッフッフ、我らの力思い知ったか!」
 王者の風で虚脱状態になった一般人を三家・真(かおすの権化・b64008)はこれでもかという位にガムテープでぐるぐる巻いていくが、仕上げに結束バンドで手首を縛ろうとした時、巻きすぎてバンドが通せなくて。
「途中で使い切らないように気をつけてねー」
 真の様子を微笑ましく見ていた夏沢・雲母(ハイハハイニ・b01136)の視線が防犯カメラに止まる。クスッと嘲笑うかのような笑みを浮かべた雲母は、花のように彩られた宝剣を振って一閃した。
「ここは用済みだな」
 闇に溶け込むように敵の能力者が紛れていないか警戒していたのは壬生・瑞明(蒼き鳥籠のシュヴァリエ・b16745)。破械と共に研究員達を数珠つなぎに縛り終えた彼は、扉の前に立つとスプレーで『×』印を吹き付けた。

●上層北側
「早く開けろ!」
「よし、開い……ぐわっ!」
 研究員2人が非常口を解放した瞬間、先陣を切って飛び出したのは烈人。
 その拳を顎に喰らって倒れた研究員に、達磨は手早くロープを巻き付けていく。
「動かないでね」
 力任せに押さえ付けながら粘着テープを巻き付けるつかさに別の研究員も目を丸くする。
 どう見ても繊細で可憐な少女だが、能力者を知らない一般人にとっては十分脅威だった。
「逃がしませんの……あら?」
 研究員達を追ってきたのだろう、資料室から出てきたのはサフィール達、C班だった。

「残りは北側と東側くらいか、思ったより順調にいっているな」
「ペイントでの連絡も効果的面ですの」
 達磨と仲間が軽く情報交換している間、タケルはスプレー缶を資料室の扉に向ける。
 そして、道中で見かけたB班の律が付けた印のように、大きな『×』印を描いた。

●下層東口
「皆が楽しむためのゲームを悪用するなんて、許せないのです!」
 上層の襲撃から逃れてきたばかりの研究員を圭介と共に縛めの力を持つキノコで拘束したのは安曇・四季(まほろばの雫・b46432)。中央階段はA班が上層で抑えていたが、西側と南側の階段から隠れていた研究員が流れてきていたのだ。
「な、何だこのキノコはぁ! う、動けんっ!」
「みんな、こうなっちゃうから……抵抗しないでください」
 自分達を見送ってくれた仲間の分も頑張ろうと志村・かなえ(虹へと飛ぶ小さな虫・b45052)は頭にキノコを生やした研究員達を手早く数珠繋ぎにしながら脅す。一足先に同じようにしてお縄になった一般人達は素直に頷いた。
「そう言えば、神帝と魔帝は何でジェリーの姿なのです?」
 その中でも早い段階で捕らえた研究員達に四季は笑顔で訪ねると、彼等の瞳が輝いた。
「ジェリー型こそ、最も素晴らしい形だからじゃよ!」
「あの形状、まさに至高の領域ではないかね!」
 子供のような眼差しで答える研究員達に思わず身を引く3人。
 我を取り戻したかなえが責任者がいるか探るように問えば「ここにはいない」と返し、四季が『カリスト』という名を訪ねた時は「木星の衛星の事か?」と研究者らしい答えを返したが、ジェリーには心踊る何かがあるのだろう、多分。
「なぜ、クリア不可能な状況では、参加者の魂を刈り取れないのです?」
 しかし、4度目の質問には全員が「何の事だ?」と首を傾げるだけだった。

●上層東側
「皆、止まってくれ」
 一般人相手とはいえ、慎重に行動する事に越したものはない。
 仲間を曲がり角で制止させた瑞明は、手鏡を用いて先の通路の確認をする。
「ここは他とは少し違う感じだな……」
 既に南、西、北、中央は制覇し、残るは東側フロアのみ。人が多そうな場所を狙っていたら何時の間にか重要ポイントに着いてしまったようだなと行介は苦笑する。
「下層で見つけた案内板通りならば、サーバールームか」
 瑞明が軽く間取りを映していたノートを開く。
 そこは、300もあるサーバーを収めた、大きな1フロアになっていた。
「ん、扉が開いたようだぜ」
 悠治が携帯電話で仲間に知らせようとした瞬間、静かに響く機械音。
 中から出てきたのは、屈強な男達と1人の研究員だった。

「所長、こちらへ!」
「事態は緊急を要しています!」
 
 顔を見合わせるB班の仲間に、砌は無言で頷く。
 最重要人物発見――と。

●上層中央階段前
「本当にパンピーしか居ないのか、ここ」
 拘束された一般人は全て、中央階段を登った所にある広場に集められていた。
 生化学とコンピュータゲームの繋がりがよく見えない分、期待もあったのだろう。超常的なゲームや施設の規模に反して余りにも普通な人々を前に、舞夜は肩を落とす。
「クリア不可能なゲームでは、ゲームへの愛着や熱意が発生しないからですか……」
 捕らえた研究員に四季と同じ質問を訪ねていたのは魔導・瑠璃(中学生クルースニク・b53348)。彼等の話からすると意図して魂を集めていたわけでは無く、集めた『愛着や熱意』で実験プールの活性化を行っていただけだという。
「それが、魂を奪う事に繋がっていた……と」
 瑠璃は怒りを殺しながら魂を奪われた者を助ける方法を訪ねるが、誰もが「未知の分野だ」「わからない」と繰り返すだけで。ゲームにのめりこんだ者が意識不明になるという事は知っていても、それが魂を集める行為であるとは理解していない様子だった。
「所長を含めて、あと5人程いないみたいだね」
「下でも何人か捕らえているみたいだが、責任者はいないようだな」
 A班が付けた印を頼りに合流したC班……セイジロウ達が数えると30人弱。
 下層班と携帯電話で連絡をとっていたタケルの側で、エチカも首を縦にして頷いた。
「ねぇ、ポケットとか服の中に資料とかデータもってない?」
「お願い、隠さないで……」
 拘束された上に水夢の青龍のオーラで威圧され、笑顔でキケンなキノコをちらつかせる颯のダブル攻撃に一般人達は命にはかえられないとデーターを手放す。忍も刃物や銃、ライターまでも取り上げるが、他に特殊なものは見つからなかった。
「これだとメガリスも関係なさそうですわね」
 関係者しか残っていないのも実験の結果を秘匿するために無関係な者に出て行って貰っただけだという。乾く事の無い好奇心と探究心の追求が悲劇を生んだのだろうかと瑠璃が思った瞬間、複数の人影が広場に飛び込んで来た。

「皆の者、奴らを絶対に逃がすでない!」
 真の渋い声が響き渡ると同時にA班の勇が階段を塞ぎ、瞬時にC班が包囲する。
 B班がここに追い込んだのは偶然ではない。
 ペイントの導きでここにA班がいると分かっていたからだ。
「こんな面白ないゲームはもうおしまいや、ゲームオーバーやで」
 所長を護るようにSPが放った蹴りを悟は合気道のような構えで受け流す。
 そして、その反動をもって勢い良く投げ飛ばした。
「ゲーム自体は面白かったがな」
 だからといって、放置しておく理由にはならない。
 銃を構えたSPに向けて灰十が漆黒の刀を振うと、その先から炎の蔓が唸りをあげる。
 炎に縛られたSPが落とした銃をすかさず勇が遠くの方に蹴飛ばし、ティアが素早く拾い上げた。
「ったるいな、やるけどさ」
「よし、いくぞー!」
 人数は5人。
 1人が研究員で他は全員SPという、明らかにVIP待遇だ。
 舞夜は水夢と目を合わせると、彼の王者の風に合わせて麻痺を伴う糸を周囲に飛ばす。
 威圧と土蜘蛛の糸が同時に舞えば、その場に立っていられる一般人は皆無に等しい。
「皆、スゲェな!」
 怪我をさせないよう注意しながら忠弘とサフィールがSP達を後ろ手に縛り上げる手付きも慣れたものがあった。
「Seien Sie still! 静かにしてね、お願いだから」
 雲母は戦闘で錯乱しそうになった研究員に眠りの符を投げてその足を止める。
 穏やかな笑みを浮かべているが、1つ1つの動作は舞のように無駄がない。
「動かないで!」
「抵抗するのは、やめなさい」
 隙をみて逃げ出そうとした拘束済みの一般人には、律とユウカが同時に圧力をかける。
 一連の流れ、それは班が混ざっていても乱れることはない。
「護ってくれるSPはいないぜ?」
「そろそろ観念したらどうだ?」
 封術の反動を受けた仲間を浄化の風で癒した砌と悠治が降伏を促す。
「手荒な真似はしたくないが」
 闇を解いた瑞明も威嚇程度に日本刀を構えるが、穏やかな雰囲気から醸し出される冷たさは刃のようだ。
「クク、子供なのに大した統率力だ……ああ、茶も菓子もなくてすまないね」
 追い詰められたと悟った男――所長は、邪な笑みを浮かべる。
 懐から取り出したのは、お約束的な赤いボタンが付いた機械だった。
「かわりに、素晴らしいものを御見せしよう!」
「ソレ、ナンデスカ……?」
 困ったような顔で眉をしかめるエチカ。
 しかし、研究員達の反応は明らかに違うものがあった。
「それは『最終実験システム』の起動スイッチ!」
「所長、まだ安全性も検証できていません!」
 研究員達の叫びと同時に、能力者達の脳裏に予報士の警告が浮かぶ。
「不味い!」
 班の最後方で警戒を行っていた清和が、危険を察した颯が飛び出す。
 ――しかし、所長がボタンを押す方が速かった。

「実験は成功する、私は神になるのだ!」

 ――瞬間。下層から凄まじい地響きが響き渡った。

●生命の海

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

「地震……?」
 些細な事にも気付けるように感覚を研ぎ澄ませていたかなえの足元が揺れ、
 入り口近辺で様子を伺っていた圭介も闇纏いを解く。
「上層の皆さんに知らせるのです! ……えっ」
 防犯ベルを鳴らしながら急いで中央階段を駆け上る四季の足が止まった。
 実験室の中にある巨大水槽の液体が、激しくうねっていた事に――気付いたのだ。
「――!」
 既に実験室全体に溢れ、異常な速度で増殖を繰り返すのは、液体化したような物体の郡。
 それは100、1000、10000……と、恐ろしい速さでふくれあがっていた。
 階段から見ていれば、すぐに上層に知らせる事が出来たかもしれないが、もう遅い。
「虫さん達も……お願い」
「こんな奴らでも、死なせねぇ!」
 一般人を庇うようにかなえは独鈷杵を構え、圭介も鉄傘を開く。四季が天井に向けて意匠が施された杖の先から弾丸を撃ちだすが、厚い壁に阻まれて届いたようには見えなかった。
「――!?」
 身に抱く、星空のような艶めいた輝き。
 歪んだ肢体に浮かぶのは、数多の戦士達の戦意を喪失させてきた、形相。
 巨大な実験室全てを己が種族で満たした其の名を、3人は――嫌な程知っていた。

「……ジェリー」

 正式名称『コズミックジェリー』
 しかし、どうみても液状化、いわゆる半溶けである。
「暑いから溶けちゃったのです?」
「もう、夏だから……かな?」

 ――沈黙。

「んな訳、ないだろーーーー!!!」
 緊迫した空気をぶち壊しにするが如く、実験室を満たした液状化したジェリーの大大群。
 それは、5階分もある超巨大強化ガラスを突き破って、外に流れ出したのだった。

●上層非常口
「ノー、ジェリーッ!」
「オーマイ、ゴーーーットッ!」
 一方、非常口にはパニックに陥った残りの一般人が全て殺到していた。
 迅速な奇襲の成果もあってSPが1人と研究員が5人という微々たるものだったが、フロア中に鳴り響く複数の防犯ベルの音に、何か起こった事は確かだろう。
「ジェリー? 何をいって……っ!」
「貴様、そこをどけぇー!」
 錯乱したSPが押さえ込もうとしたつかさに銃口を向ける。
 これが魔物だモンスターならば、彼等も気を引き締める事が出来たかもしれない。
 しかしD班は連絡手段を持ってなく、それがジェリーでは難易度は増すだけで。
「先程の振動と言い、暇を持て余している余裕はなさそうだな!」
 思う事は多いが、今は油断せず、自分達の役割を勤めるのみ。
 研究員を烈人に任せて達磨が足を払えば、体勢を崩したSPをつかさが押さえ込む。
 何処か気の抜けるものを感じながら拘束し終えた3人が同時に溜息を付いた瞬間、
「またか、またジェリーかあ!!!」
 先陣をきって全力疾走で向かってくるのは勇達、A班。
「あのゲームがホントの戦いになるなんて、凄いね!」
 必死で走る仲間の姿や施設内部をキョロキョロ見渡すのは水夢。
 彼の瞳は、別の意味で楽しくて仕方がないという風だ。
「ゲームはゲームだから良いのだ!」
「もう、このゲームに付き合わされるのは、真っ平御免なのにーっ!」
「むしろ、三度ネタだ!!!」
 何故か、一般人を下層に避難させる筈の真や雲母や清和達、B班とC班が、
 その間にはムカデ競走よろしく数珠つなぎのまま足並み揃える一般人達が続くが、
 皆が皆、鬼気迫る形相で飛び込んできて――ゴーストより恐いぞ!
「南階段を使って、急いで下層に避難させようとしたんだが!」
 自身よりも、体格が勝る研究員2人を左右の肩で抱えた照明が叫ぶ!
「どの階段も、半溶けのコズミックジェリーで一杯なんだあぁーー!」
 屈強なSPを2人同時に抱えて運んでいた忠弘も大声で叫ぶ!
「もはや、戦闘や退路確保どころではなかった」
 こんな状況でも周囲の警戒を怠らない灰十だが、その瞳は険しい。
「不穏な気配の正体がこれですの!? こんなの、あんまりですわーーー!」
 ヌメヌメした物が大嫌いなサフィールにいたっては、既に涙目である。 
「これで全て終わり、ではなさそうと思っていたけれど……」
「なんか俺、こんなんばっかだな……」
 何ともいえない空気に諦めに似た重い溜息を零すのは、セイジロウ。
 偉そうな研究員2人を両手に抱えた行介も、激しく落ち込んでいた。
「ノォォォーーー!」
「ヘルプミーーー!」
 SPも研究員も能力者も皆一緒に、さあどうぞ♪

「「いい加減にしろーーーーーーー!!!」」

 余りにも滅茶苦茶な展開に、敵味方仲良くパニックでした。

 ……ゴメンナサイ。

●悪夢、再び
 制御不能のコズミックジェリーが下層の実験室に大量発生。
 その知らせを受けたD班の間に、何処かいたたまれない空気が包み込んでいた。
 ……というか、凍っているし。
「名付けて、超液状ジェリー型究極兵器コズミック……ゴハッ!」
「うるせえ!」
 突然命名しだした日系研究員を脊髄反射の如く踵落としで沈めたのは、舞夜。
 両手は赤手と獣爪で塞がっているので、彼女なりに気を配ったのだろう、多分。
「こんな糞ゲー、今直ぐ塵に返して全部終わらしたるッ!」
「止めておけ、死に行くようなものだ。……心がな」
 今直ぐ特攻しそうな勢いの悟を羽交い締めにしていたのは灰十。
 気持ちは……わからなくも無い。
「俺のディスサガはまだまだ続くぜ! って、お前のせいだ〜!」
「こんなはずではああぁー……キ、奇麗ナ花畑ガミエマスネ」
 思わず所長の襟首を掴んで揺する照明は、ちょっぴり涙目。
 赤に青に顔色を変える所長は、ジェリー並にカラフルだ。
「ガムテープでさらに巻かれるのと、言う事きくの、どちらがいいかしら?」
「人死には少ないほうがいいよね?」
 青龍刀を構えて一般人達に常に目を光らせていたのはユウカ。
 柔らかな緑色の布槍を構えて凄みを放つ律に、能力者までもが沈黙する。
 さよならシリアス、こんにちわダークコメディー。
「とりあえずこの状況も撮っておくか……面白いし」
 黙々とビデオカメラを回すタケルは、明らかに被写体を間違えてます……。
「雑音が酷いが、E班と下層で捕らえた一般人は皆無事のようだな」
 E班の圭介と電話が繋がったという清和の声に、再び舞い戻るシリアスな空気。
 辛うじて通じた携帯からは、場所は異なるもののE班は当初の予定通り上層からの一般人を保護するために、非常階段の下で待機しているとの事だった。
「サーバーを破壊すると、どうなるのです?」
「それだけは止めて、貴重なデータが失われるわ……」
 最後まで凛とした態度を保っていた女性も瑠璃の言葉に涙を浮かべて崩れ落ちる。
「聞きたい事は他にもありますけれど、これ以上は難しそうですわ」
 少しでも多くの情報を手に入れようと、瑠璃は顔色を窺いながら言葉巧みに情報を引き出そうとするが、成す術もなくすすり泣く一般人達を見渡すと、深い溜息を付いた。
「幸い、上層の一般人は非常口に集まっている。速やかに次の作戦に移ろう」
「ああ、今はできることを精一杯やるっきゃねぇ!」
 何が起こっても分からない今だからこそ、ここからの連携が大事だ。
 作戦全体の方針を担う砌の声に、それに力強く答えた悠治に視線が集まる。
「最優先は、一般人の人命優先。でいい?」
 何時の間にかフランケンに担がれていたティアが訪ねると、全員が首を縦にして頷く。
「まだ回収していない研究データも、あると思いますよ?」
 憔悴しきった研究員に「お願い」しながら記録媒体を回収していた颯も顔をあげた。
「サーバーも、思いっ切り叩き潰してやろうぜ!」
 騒動で乱れた一般人達を再び繋ぎなおしていた忠弘もその手を止めて、立ち上がる。

「「半溶けのジェリー如きに、負けてたまるかーー!!!」」

 気合いの雄叫びをあげる能力者達。
 しかし、これが前触れに過ぎなかった事を、誰も知る術はなかった――。
 
●打ち砕け、創始の中枢!
「中に人はいないようだな……」
 律と共に周囲を警戒しながら灰十が足を踏み入れたのは、北側の資料室。
 各班の方針と本人の意思を考慮した結果、エチカと忠弘を抜いたC班と階下のE班が一般人の搬送と見張りを担当し、非常口は烈人に任せ、達磨とつかさを含めた残りの者で上層捜索となったのだが、行介の提案でサーバー破壊と資料収集を同時に行う事にしたのだ。
「コレ、モッテイッテイイ?」
「所長のポエムか、あからさまに怪しいな!」
「エチカ、三家。それどう見てもゴミだろ……あ、この金庫、怪しくない?」
「ん、少し待ってくれ」
 引き出しの近くで見つけた金庫を忍にこじ開けて貰った舞夜は、共に中にある記録媒体を鞄に収め、持ち運びが難しそうなものはデジカメで撮って行く。清和も罠や隠し部屋がないか入念に調べるが、そういう特殊なものはなさそうだった。
「うーん、専門用語が多くて、よくわからないかも〜」
 雲母も気になる書類やめぼしい記録媒体をボストンバックに詰めて行く。
 出てくるものは全て独特の数式や用語が連ねているようで、理解するのは難しい。
「『ディスティニーサーガ』、『魂』……さすがに見当たらないなあ」
「『目的』、『まとめ』、『計画』、『報告』……これは逆に多そうね」
 人探しと平行しながら紙媒体の資料を中心に集めていたのは律と忠弘。
 装置の近くにあるもの、痛みが激しいものは、使われている事も多い筈だ。
「ここだけで時間をかける訳にはいかないな」
 重要な情報の殆どは研究員達が隠し持っていたが、他にも外せない場所はある筈だ。
 ファイルにまとめられていた資料を手にした照明は皆に下がるように促すと、
 念動剣を掲げて清浄なる裁きの光を打ち放つ。
「カバン、イッパイ……」
 外部記憶装置はもちろんの事、地図や連絡先、覚え書きやメモ類なども出来る限り持ち帰ろうと大きめのドラムバッグの中に放り込んでいたエチカも、回収しきれないデータをひとまとめにすると、象牙製の長剣から炎の弾丸を撃ちだした。
「よし、次いくよーっ!」
 何処かハイテンション気味で楽しそうな雲母とは反対に、忍は軽く苦笑する。
「これではマーキングもできないな」
 残されたのは、見るも無残に破壊された資料室だけだった。

「こっちだ」
 周りの気配や異変に十分に警戒しながら悠治達は、薄闇に足を踏み入れる。
 そこは、下層の異変を感じさせない程、静寂に満ちていた――。
「ちょっともったいないけど……」
 彼等が足を踏み入れたのは、東側フロアの大部分を占めるサーバールーム。
 しかし、時間は確実に迫っていると水夢は痛烈な蹴りを見舞っていく。
「それでも、遠慮なくぶっ壊させてもらうぜ」
 破壊するのは勿体ないと思うのは勇も同じ。
 勢いをつけるように駆け出すと、鋭い蹴りと白球を交えた破壊工作を行う。
 サーバーの数は300台以上、今直ぐに尽きる数ではないのだから。
「機械に連携が通じないのは、残念ですわね」
 動いているモノと無機質な機械では力の伝わり方が違うのだろう。
 瑠璃は白銀に輝く長剣の切先をサーバーに向けると、雷の洗礼を浴びせていく。
「速く、確実に壊して行くか」
 達磨が躍動ある動きで二対で1つになる透明な剣から瞬撃を繰り出す。
 同時に、彼のケットシー・ワンダラーのマリーも手にした杖から弾丸を撃ちだした。
「これで終わりと思ったんだがな……」
 細長い刃を持つナイフを垂直に構えた砌は、破壊力に満ちた荒れ狂う風を纏う。
 確実に両断しようと透明感のある日本刀を叩き付けるように振う瑞明の横で、突撃という名の突風が駆け抜けた。
(「真のファイナルクエスト、なのかな。本当に終わらせるって意味で」)
 呪いのゲームを終わらせるという意味では、そうなのかもしれない。
 生物には慈悲を施す植物の槍も、この事件に密かに腹立ちを覚えていたつかさの心情を現すように、機械には容赦ない鉄槌を下した。
「これはテオの睡眠時間の分!」
 行介は獣爪を構えると、渾身の力で振り下ろす。
「これは社長のトラウマの分!!」
 さらに、八つ当たり気味に回し蹴りを放つ。
「そして、これが俺の、俺たちの……修学旅行の分だッ!!!」
 何処か悲哀に満ちた顔つきで重心をのせるように片足を振り下ろせば、周囲の機械が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「少し急いだ方がいいかもね?」
 今は緊急事態、ここで時間をかける訳にいかない。
 颯のマジカルロッドの先端から放たれた炎が、宙を裂いて火華を咲かせる。
 水夢も体内に取り込んだエネルギーを青龍の力に変えて、直線上を薙ぎ払った。
「皆、離れといてや!」
 悟は仲間を巻き込まないように下がらせると、空気中に高密度の粉塵をまき散らす。
 瞬間、次々に上がる爆発音。サーバールームは煙と轟音で一気に満たされた。

「ゲーム、面白かったぜ……」
 これが害のないものだったら、普通にプレイヤーになっていたかもしれない。
 そう思いながら、悠治は銀色の詠唱銃を下ろした――。

●運命、再び
「慌てないで1人づつ順番にね、運ぶ人も無理しないで」
 セイジロウの指示の元、ティアとサフィールは一般人達を非常口に誘導する。
「目をつぶれば、恐くないから」
 暴れそうな一般人にはティアが目隠しを施し、フランケンがしっかり両脇に抱える。
「ジェリーに飲み込まれたく無ければ、言う事を聞いてくれるかしら?」
 抵抗する者にはユウカが王者の風で、常に睨みを利かせて黙らせていた。
 30人近くの一般人を何の策もなく非常口1つで避難させるのは時間がかかる作業だったが、前半の迅速な作戦で一般人を徹底的に無力化し、脅した事が功を奏していた。
「ん、あと10人くらいか」
 拘束した一般人を放置しなかった事も迅速な避難を可能にした要因だとタケルは思う。
 縛られた上に王者の風で虚脱した一般人の殆どが抵抗する事なく、従ってくれていた。
「何故、所長の私が最後……ムゴッ!」
「こんな事になったのも、キミが原因だからね」
「てめぇは黙ってろ!」
 中には例外もいたが、パンがなければシビレるキノコでイイじゃない戦法で黙殺する。
 サフィールにいたっては、迫り来るヌメヌメも手伝って時折口調も変わっていた。
 ……主に、所長(という名の元凶)限定で。
「待たせたな」
「回収しきれない資料もしっかりデジカメで撮ってきた!」
 紙束や記録媒体が入った袋や鞄を抱えて戻って来たのは灰十や舞夜達、資料収集組。
 収集した資料は種類も豊富で、全容を知る為の助けになるだろう。
「一般人の搬送、頼んでもいい? 荷物、持つから」
 軽めで小さい資料をティアに、重くて大きい資料をフランケンに預けた能力者達は、変わりに一般人を担ぎあげる。階段は1人しか通れないが、能力者なら人を担ぎながら階段を降りることなど雑作も無い。……担がれた方はたまったものではなかったが。
「サーバーの破壊も完了です♪」
「急いでくれ、すぐそこまで押し寄せてきている!」
 サーバー破壊組の颯と行介もその後に続くが、彼等の顔には焦りが見えていた。
 中央階段から溢れ出したジェリーの一群が、非常口まで迫ろうとしていたのだ。
「ここは俺が何とかする。その隙に……残りの一般人を頼むぜ」
 自分の役目はここを護る事だからと、意を決して前に立つのは烈人。
「先輩、どうする?」
「言うまでもないな」
 その前方に並ぶのは、サーバー破壊から戻って来たばかりの悟と忍。
「美味しい所を持って行くな」
「1人だと心許ないな」
「無茶なら任せろ!」
 呆然とする烈人の横に、照明、瑞明、勇も並んで詠唱兵器を構えた。
「そうだな、皆で護ろ……ん?」
 曲がり角から見えるのは、大きな大きなコズミックジェリーの顔が1つ。

 ……ひとつ?

「「合体しているし――――!!!」」

 どうやら下層で詰まりに詰まったナマモノ達は合体してしまったようです。

「素晴らしい! これこそビックコズミックモンスタージェネレ……痛ぁ!」
「緊急事態だ、許せ」
「ある意味、一番幸せな人ね」
 清和の眠りの符を至近距離で喰らった研究員を、何処か冷めた目で見つめるユウカ。
 フランケンに担がれていく日系研究員は、とってもイイ寝顔だったという。
「間近に迫ると、恐いな!」
「烈人さん、切り込み役では無かったか?」
「いやいや、ここは先輩達からで!」
「ここは1つ、アミダくじで決めるのはどうだ?」
「そういう時間はないと思うが」
「む、無茶なら任せろ!」
 間近に迫るミラクルフェイスに阿鼻叫喚な瞬間、影が――飛び込んだ。

 ガオォォォ――――ン!

 巨大ジェリーの顔面に一撃を与えて降り立った影に、誰もが驚きを隠せなかった。
 その姿は、ディスティニーサーガ世界でも最強を誇る魔獣に良く似ていたからだ。

「「ケルベロスオメガ……!?」」

 しかし、考えている暇も時間もない。
 巨大コズミックジェリーが怯んだ一瞬の隙に、セイジロウは所長を担ぎ上げる。
「早く、外へ!」
 一般人全員の避難を確認した能力者達も、滑り降りるように非常階段に手をかけた。
(「俺達を、助けてくれたのか……?」)
 非常口を護るように外に出た烈人は、扉の隙間からちらりと中を振り返る。
 ケルベロスオメガらしき影は、その背を向けたままジェリーと対峙していた――。

●戦いのディスティニー、再び
「皆、大丈夫です?!」
「無事で良かった……」
 終始一般人を見張っていた四季が長杖を下ろすと、かなえも安堵したように息を吐く。
 合流した能力者達は一般人を担ぎあげ、あるいは誘導しながら状況をすり合わせていく。
 制御不能の巨大ジェリーの事、そして――窮地に現れた影の事。

「一刻も早く、学園に知らせないとな」
 研究員達を捕らえ、データーを確保し、サーバーも破壊したのは間違い無く成功だろう。
 だが、同時に沢山の事が起きてしまったと、圭介とかなえは厳しい表情を浮かべた。
「でも、何だかなぁ……」
「気が重いです……」

 ディスティニーサーガのモンスターが現実に出現してしまった。
 其の知らせを受けた学園の反応を思うと、自然に足取りが重く感じられるのであった。


マスター:御剣鋼 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:30人
作成日:2009/07/15
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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