危険な占術書


<オープニング>


 日曜日の夕方。冷房の効いた小さな図書館には日中の外の暑さもあいまって、涼みに来る人がちらほらと訪れていた。
 本を真面目に読む者、読むフリをして寝る者、様々な人々がそれぞれの休日を過ごしている。
 しかしこの図書館にはちょっとした噂があった。
『古書コーナーの赤い表紙の本には、魔物が棲んでいる』
 ――と。
 そんな噂は誰も信用してはおらず、古書コーナーに置いてある本も膨大な量のため、赤い表紙の本がどこにあるかもわかったものではない。
 古書コーナー自体も人気が全くなく、図書館の奥の奥へと追いやられてしまっていた。
 そのせいか不気味な雰囲気すら漂うようになり、訪れる人も月に一人か二人来れば良い程度にまで廃れている。
 流れる噂も、どこにでもある単なる噂。
 この図書館を訪れた人ならば誰もが『聞いた事はある』、と答えるほどの噂だが、信憑性はまったく無いものだった。
「あ……。あそこにあるのって、その噂の本、なのかな」
 だが運命の前に信憑性など、あってないようなもの。古書コーナーに興味本位で一人やってきた、見た目から真面目な印象を受けそうな少女が、数多くある古書を納めた本棚の中に紅い表紙の本を見つけていた。
 本にはタイトルもなく、しかし他のどの書物よりもその存在に興味を惹かせる感じがした。
「噂の本だけど、なんだか面白そうね……」
 興味本位でその本を手に取る少女。しかしその興味が少女に災いをもたらす。
『あなたの運命、占います……』
 ページをめくると同時に、静かだが、確かに耳に聞こえた暗い声。その声に少女が気付いた時、その姿は図書館から消えうせていた。
 
 
「皆さんは占いって、お好きですか?」
 藤崎・志穂(運命予報士・bn0020)が占い雑誌を片手に、能力者達を迎え入れる。
「今回はこの図書館に地縛霊が現れました。少女が一人捕らわれてしまっています」
 古書コーナーは人が訪れることもほとんど無く、一般人の姿はほとんどない。
 だが何かの拍子にやってきた少女が、運悪く赤い表紙の本を開き、特殊空間に捕らわれてしまった。
 今から急げば閉館前には間に合うだろうが、場所が図書館。静かに行動しなければ不審に思われるだろう。
 また、本棚に一冊だけ存在する本を探すために手分けする必要もある。
「この地縛霊は本を開くと、周囲にいる人ごと特殊空間に引きずり込むようです。少女は今のところ占いばかりされているようですが、特殊空間の中では占いの結果が出るとすぐにその結果を反映するようですね」
 閉館してしばらくの間は図書館員がまだ残っているので、閉館後に忍び込むのは少女の安全を考えると、難しいだろう。そのため、閉館前に決着をつけなければならない。
 ただし本を探すのに手間がかかるため、迅速に本を探す必要があるだろう。人が訪れることが少ないコーナーとは言え、騒ぐと注意しに人がやってくるのでそちらにも注意を払う必要がある。
 今のところ少女は引きずり込まれて占いをされているだけで、無傷ではあるのだが……。
「本に書かれた占いの結果が本当に降りかかる特殊空間ですから、占いで悪い結果が出ればどうなるかはわかりませんね……」
 なお、本を発見した後は、全員で固まって本を開けば良い。特殊空間の中は、本の1ページ目に記載されている占いの館の写真と同じ景色で、障害物はなくそれなりに広い。
「特殊空間に入るとまず入り口側にまず飛ばされます。逆側で地縛霊が少女に占いを行っているので、急いで引き剥がした方が良いでしょう」
 少女に声をかけて引き剥がす方法も考えられるが、占いの邪魔をすると地縛霊は急に攻撃的になるため、その場合は少女に危険が及ぶ可能性が高い。
 邪魔をしないようにしながら、地縛霊の注意を少女からそらす事が出来れば、保護は容易だろう。
「特に目立つ行動をする人を優先して攻撃を行うようです。直接占いの邪魔をしなければ、目立つ行動をしても見向きもしないみたいですけど……」
 地縛霊は移動はしないが、占いに使用する赤い本のページに表れた占いの結果がそのまま攻撃につながる。
 落雷と出れば雷が落ち、爆発と出れば爆発が起き、吹雪と出れば吹雪が巻き起こる。
 目立つ行動を取る者を優先的に攻撃する傾向があるため、保護した少女が目立つ行動をしないよう注意すれば少女に危害は及ばないだろう。
「後、たらいが落ちてきます。おっきな金ダライが、カコーン、と」
 ページによっては金タライが落ちてくるらしい。カコーンと当たれば気絶してしまうが、これは占いのちょっとした愛嬌かもしれない。
「この地縛霊は、生前は的中率の高い占い師さんだったようですね。良い結果でも、悪い結果でも、その的中率が高すぎて、逆に世間から嫌われてしまったようです」
 腕の良さが仇になり、世間から爪弾きになってしまったのだろうか。赤い表紙の本はその占い師が生前、占いに使っていた占術書らしい。
 

「捕らわれた少女を、なんとか助け出してあげてください。よろしくお願いします」
 志穂は静かにそう言うと、能力者達を見送るのだった。

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参加者
ディスト・スクウィッド(魔符術士・b39407)
神栖・真弥(クリムゾンロア・b39876)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
影太刀・シュリケン丸(阿修羅ノ章・b45806)
聖・氷雨(深緑の霧使い・b49995)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
シンシア・ノルン(黄昏を告げる娘・b55866)
羽空・ひなた(幸せの運び手・b57477)



<リプレイ>

●赤い占術書を探して
 日も暮れ、人もまばらになってきた図書館。閉館までは後1時間半と言ったところか。
 件の赤い占術書をまずは探すべく、能力者達は手分けして古書コーナーを物色していた。
「占いってあんま気にしたことないけど、当たるって言われたら気になるなぁ」
「当るも八卦、当らぬも八卦といいますけど、どちらかといえば私は信じる方かな……」
 本棚に架けられた梯子を使いながら、本棚の上段を探す神栖・真弥(クリムゾンロア・b39876)と、下段を探す文月・風華(暁天の巫女・b50869)。
 彼等は二人ずつのペアに別れ、それぞれが目的の本を探して行動している。
 的中率が高いと言われれば確かに誰もが気になるところだが、多分に漏れず真弥も気になる方だった。
 風華も元から占いを信じるタイプであり、的中率の高さゆえに社会から抹殺された占い師に同情はしつつも、やはり相手は地縛霊。倒さなければならない、と、気を引き締めて本を探している。
 一方の真弥は静かにしているのが苦手なのか、少し落ち着かなさそうだ。
「不幸な占いは、本当に不幸を招き入れるという話もあるからな……」
 変わって、ディスト・スクウィッド(魔符術士・b39407)とシンシア・ノルン(黄昏を告げる娘・b55866)のペア。
 こちらは探し物が得意なシンシアが先導し、あれこれと似たような本を見つけていた。
「この辺じゃないかしら」
 シンシアがココだ、と思ったところを指差し、その場所をディストが捜索。自身の手の届く範囲は自分で探しはしていたが、ココだと思った場所は総じて高い位置だった。
 しかし本は中々見つからない。
 時計を見れば、閉館時間までは後1時間――。
「閉館時間1時間前です。閉館時間ギリギリになると込み合うので、本を借りる際は早めのほうが良いですよ」
 見回りに来たのだろう、図書館の司書が彼等の姿に声をかける。静かに探していたので注意はされなかったが、1時間前と言う言葉に本を探す手が忙しくなる。その様子に、このままでは司書が本探しを手伝うなどと言い出しかねない。
「わかりました、早めに借りることにしますね」
 こういう場合はそう答えたほうが良い、と、皆月・弥生(夜叉公主・b43022)が司書にそう答える。司書は軽く頷くと、踵を返して古書コーナーを去っていった。
 もし、占いで未来が見えていたならば、本探しも、司書の見回りにも楽に対応できただろうか。
 ――否。
「……未来なんて見えない方がいいのよ」
 先の事がわかったとしても、それは必ず良い結果をもたらすとは言えない。弥生のその呟きに、聖・氷雨(深緑の霧使い・b49995)が軽く頷く。
「悪い結果が当たるのは、かなり嫌ですしね……」
 そう氷雨が返した時、ポケットに入れていた携帯電話がブルブルと震え始めた。本を見つけたのだ。
「この赤の本が気になったでござる」
 赤い本を手に取りながら、影太刀・シュリケン丸(阿修羅ノ章・b45806)が合流してきた弥生や氷雨に本を見せる。
 その隣では、羽空・ひなた(幸せの運び手・b57477)が他の仲間達へと連絡をしている姿があった。
 しばらくの後、本の周囲に能力者達が全員揃ってくると、弥生やシュリケン丸、氷雨が周囲に人がいないかを確認し始める。
 先ほどの司書も近くにはおらず、辺りに人の影はない。
「開きますよっ」
 ひなたが恐る恐る、本の表紙を開いていく。題名のない、表紙が赤いだけの不気味な本。
 その本の中には、日本語でも英語でもない、古文書にあるような古代文字が羅列されていた。まるで魔道書のようなその本は、ページをめくるごとに何ともいえない重たい空気を能力者達に感じさせていく。
『あなたの未来、占います……』
 ぱらぱらと数ページめくった時、地縛霊のものらしい声がどこからともなく彼等の耳に響き渡る。
 ドサリと落ちる赤い本。彼等の姿は、図書館の中から忽然と消えていた。

●的中率100%、地縛霊の占術
「えっと、その、そろそろ帰りたいんですが……」
『まだ占いは残っているわ。最後に、あなたの未来を知る占いが、ね』
 出口のない特殊空間の中では、少女に対して地縛霊が半ば強引に占いを続けようとしていた。少女はまだ無事ではあったが、最悪の結果が待ち受けているだろう『最後の占い』が今まさに始まろうとしている。
 地縛霊がそっと占術書を開いて占いを始めようとした時、ぞろぞろと現れる八人の来訪者達。
『順番があるから、待ってくれるかしら? この子の占いはこれで最後だから……』
 あくまでも占いは順番に。地縛霊はそう能力者達に告げるが、八人はそんな言葉など意に介さず地縛霊と少女の周囲をばらばらに取り囲む。
 いきなり現れた来訪者達の行動に、少女はキョロキョロと辺りを見渡すばかりだ。
 無理もない。突然現れたかと思えば服装も様々で、全員が物騒な武器を手にしているのだから。
 少女からすれば、物騒な連中がやってきたと思うばかりで何が何なのかさっぱりわかったものではない。
『人の占いなど、見るものでは……』
「あの〜……きゃっ!?」
「妹が帰って来ないんです! 何処に行ったのか、どうすれば良いのか教えてください! 警察なんて宛てになりません!」
 地縛霊の注意を引くように、少女を押しのけ強引に占いの卓に陣取ろうとするひなた。
 押しのけられた少女はすぐさまディストの投げた導眠符で眠りに落ち、その場に崩れ落ちる。その時、地縛霊の顔には怒りの表情が浮かんだ。
『そう、邪魔をするのね……あなた達の未来は、死、あるのみよ』
 地縛霊がパラパラと占術書を開き、邪魔者達の未来を占う。
「それ、自慢の遊戯、見せてみよ」
 どのような占いであれ少女に攻撃が及ばないよう、シンシアが挑発気味に地縛霊に語りかけるが、占いの結果は実際に邪魔をしたひなた本人へと向けられた。
『あなたには、雷が落ちます……怒られる、という意味で』
「高名なんでしょ? 貴方の占いが必要なんです!」
 ひなたがそう言っている最中に、鋭い落雷が彼女に突き刺さり、その身を麻痺させる。占いは、地縛霊の怒りを買ったせいか全く関係のない結果だった。
 ともあれ、地縛霊の注意は能力者達へと向けられる。後は少女を引き離せば、戦いに集中することが出来るだろう。
「いざ参ります!」
 まずは風華が距離を詰め、虎紋覚醒。その隣で弥生がディストに黒燐蟲を這わせれば、シンシアが雪だるまに身を包み、残る能力者達もそれぞれの強化を行っていく。
 邪魔をしようとしている者達の行動を凝視している地縛霊の注意が、完全に少女から外れたのを見計らって氷雨がずるずると少女を引っ張って地縛霊から引き剥がしていった。
『もきゅー、もきゅー』
「ありがとう、モラさん。私も雷なら、得意ですよ!」
 モーラットの祈りを受け、麻痺から回復したひなたの雷の魔弾が、地縛霊を麻痺はさせないまでもダメージを与えれば、その後ろから大きな声と共に飛び出す影。
「NINJAAAHHHHッッ!!」
『ひあ!?』
 森羅呼吸法を乗せて放つ、シュリケン丸の渾身の紅蓮撃。占いで予想はついていたようだが、あまりの勢いと叫び声に驚いたのか、まともにその一撃を食らう地縛霊。
「裏からの攻撃はないと油断したようでござるな……占いだけに」
 ふっ、と口元に笑みを浮かべるシュリケン丸。地縛霊の占いによるものではない、寒い空気が流れたが、彼はそんな事は気にした風でもなく。
「油断するな、まだ離れきってない!」
 氷雨が少女をまだずるずると引きずっている姿と地縛霊を交互に見やりながら、ディストが地縛霊目掛けて導眠符を投げる。
「ひなた先輩お疲れ! こっからは俺の番だぜー!」
 導眠符は避けられてしまったが、大鎌『蒼輝刃』を振りかぶりつつ真弥が地縛霊を斬れば、続けて風華の龍顎拳が斬られたばかりのその体を殴りつける。
 その間に、氷雨は地縛霊と少女の距離をかなり離すことに成功していた。
「離せたみたいね、これからよ」
 自身の武器にも黒燐奏甲を這わせつつ、弥生が仲間達へと声をかける。
 本当の戦闘開始は、ここからだ――。
 誰もが武器を握り締める手に、力を込める。それは地縛霊にも当てはまることであり、占う対象は少女ではなく能力者達へと移っていた。
『あくまでも邪魔をするのですね……。次は吹雪が吹き荒れますよ』
 地縛霊が本に手を乗せると、どこからともなく吹き荒れる吹雪。別にシュリケン丸の駄洒落に合わせたわけではないはずだが、地縛霊が次に占った攻撃はとにかく吹雪だった。
 駄洒落のせいだ、と思う者もいたかもしれないその吹雪は、シンシアや真弥、さらにはシュリケン丸までを巻き込んでいく。
「これで吹雪を冠するか」
 大きなダメージを負いながらも、尊大な態度で地縛霊に臨むシンシア。雪だるまに身を包まれていても冷たく感じる程の吹雪ではあったが、直後に作り出したミストファインダーの巨大なレンズでその傷を癒していく。
 連続して彼等に攻撃が行かないように、風華の龍撃砲が反対方向から地縛霊にダメージを与えれば、占いの被害を抑えるべく放たれる氷雨の魔蝕の霧。
 その霧をかき消すように地縛霊が占術書をパタパタと仰ぐのを確認し、弥生は援護のために虎紋覚醒で次の攻撃に備えている。
 攻撃を分散させれば、このまま押し切ることが出来る。誰もがその思いを胸に、それぞれの役割をきちんとこなしていく。
「耐えてくれよ!」
 そして回復をしたとは言え、体力の少ないせいか一人大きなダメージを負っているシンシアを、ディストの投げる治癒符が僅かに癒し、態勢をなんとか立て直していく。
(気休めにしかならない威力だがな……)
 本人ですらそう思うほどに、僅かに傷を癒すだけの治癒符。それなりに傷を癒すことは出来ているが、ニ撃目がシンシアに直撃すれば耐え切れないかもしれない。
 先ほどの紅蓮撃の反動を受けたまま、シュリケン丸が叫びながら地縛霊に斬りかかりさらに注意をひきつけようとするが――。
『次はそちらに、爆発です』
 占いの次の結果は『爆発』を暗示し、ディストと風華、そして運悪くシンシアが爆発に巻き込まれる。挑発しながら注意をひきつけていたシンシアだったが、ディストや他の仲間の援護もむなしく、その爆発に耐え切れず倒れてしまう。
 仲間が一人倒れた事で、地縛霊の占いによる攻撃を舐めてかかることは出来ない、そう感じる能力者達。
 これ以上戦闘を長引かせれば、せっかく引き離した少女が目覚めてしまう可能性もある。
「悪いけどさぁ、良い占いなら信じるけど、悪い占いは信じねぇんだよ、なっ!」
 仲間一人が倒されるほど被害の大きな占いを否定するように、真弥の黒影剣が地縛霊の体を鋭く引き裂き、椅子に座ったままのその体を大きくよろめかせる。
 地縛霊も大きなダメージを受けているのは間違いない。ここは押し切るべきところだと、さらにひなたの雷の魔弾、ディストの射撃、氷雨の光の槍が続けて叩き込まれていく。
「お返しです。当るとかなり痛いですよ」
 倒れたシンシアの分も頑張ろう、という決意が秘められているのだろう。弥生から黒燐奏甲の援護を受けた風華の一撃が地縛霊を後一歩のところまで追い詰める。
『これが最後の占いになるのでしょうか……。あなたに、タライが……』
 占ったわけではないが、自分の未来を予測できたのだろうか。最後の占いと言う言葉と同時に、落ちてくる金ダライ。
 クワーン!
 戦闘の緊張を一瞬で吹き飛ばすかのような気の抜けた音と共に、そのタライが弥生の頭上に見事に落下。
「わ、私がネタキャラ扱いされるなんて、屈辱……!」
 決してネタとして扱っているわけではないのだろうが、ダメージもほとんど無く、ただ単にタライが落ちてきただけという攻撃に思わず肩をがくりと落とす。
(「ドンマイ!」)
 その場にいた誰もがそう思ったかは定かではないが、それが地縛霊の言うように最後の攻撃だった。
「やはり忍術のほうが上だったようでござるな!」
 封術から解放されたシュリケン丸が放つ紅蓮撃。忍術と占術では何をどう比べるか良くわからないが、戦いにおいては忍術の勝利と言う事だろう。
 燃え盛る炎に包まれながら、地縛霊が鎖から解き放たれる。
『運命は変えられる、ということかしら……』
 未来は一つではない。自身の占いの結果を覆された地縛霊は、その言葉を残して消滅していった。

●図書館へと戻って
 地縛霊が倒れ、元の図書館へと帰還した能力者達。
 時間にしたら10分も経っていなかったのだろうか。彼等のそばでは、まだ少女が導眠符で眠ったままだった。
 少女はこのまま放っていても起きるだろうし、もし寝たままでも見回りに来た司書が起こしてくれるだろう。
(「……迷わず、成仏してくださいね……」)
 閉館時間までは残り僅か。
 風華が手を合わせて少しの間、地縛霊に祈りを捧げた後、能力者達は少女をその場に残したまま、図書館を後にした。
 彼等に声をかけた司書が、何も借りずに帰っていき、さらに怪我を負ったシンシアの姿に首を傾げたのはまた別の話。
 図書館を出た時には、シュリケン丸の姿は音も無く消えていた。忍者は忍者らしく、と言ったところか。
「おっつかれさまー! ……結局、あの本は何が書いてあったんだろうな?」
 元気のいい声で共に戦った仲間を労う真弥。と同時に本の内容が少し気にかかるようで、開いた本に書いてある文字の羅列を思い浮かべていた。
 当の占術書は地縛霊が消えたせいか、一緒に消えてしまったようだ。
「読めない文字の羅列ばかりだったわね……」
 記憶に鮮明に残る、古代言語のような文字列。それを思い出しながら、やはり読めない事にはわからない、と弥生が首を振る。
 謎は深まるばかりだが、地縛霊となっても愛用した占術書ならば、よほど信頼できる何かがあったのかもしれない。
「とにかく、助ける事が出来てよかったですよね」
 地縛霊の事も占術書の事も気になるが、少女を助ける事が出来たと言う結果の前では、ほんの些細な事でしかなかった。
 氷雨のその言葉に、誰もがその頬を緩める。
「あ……」
 ふいに口から飛び出たひなたの言葉に、全員が彼女の方へと振り返る。何か忘れ物でもしたのだろうかと、少し遠くなった図書館に視線を移す者もいた。
「この近所に評判の占い師さんがいるんですがこれから皆で行きません?」
続いて飛び出したのは、新たな占い師の話。
「それよりも先に手当て、だろ」
「そうしてもらえると助かるわね」
 ディストのツッコミにあわせるように、痛む体を押して苦笑いを浮かべるシンシア。
 占いはしばらく懲り懲りだ、そんな雰囲気が彼等の間には漂っていることだろう。
 そんなモノに頼る事無く、これからも彼等は自身の力で運命を切り開いていく。先に何が待ち受けていようとも、きっと良い未来が切り開けるだろうと信じて。


マスター:真神流星 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/07/12
得票数:楽しい14  笑える8  カッコいい2 
冒険結果:成功!
重傷者:シンシア・ノルン(黄昏を告げる娘・b55866) 
死亡者:なし
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