正義のスク水少女


<オープニング>


「二度と私の前に現れないで」
「本気で言ってるのか? そんな事……認めないぞ……絶対に……」
 暗い夜道で、一組の男女がなにやら言い争っている。
「ちょっと!」
 と、そこに響く第三者の声。見れば中学生くらいの少女が一人。
 ただ、どう言う訳か旧式のスクール水着を纏っている。その事にツッコミが入らないのは、その場にいる人物達が余程自分の事で精一杯だからだろう。
「そう、アンタよアンタ。彼女嫌がってるじゃない」
「うるさい! 他人には関係――あっ、ミキ!」
 少女と言い争っている間に、彼女は足早にその場を立ち去ってしまった。
「男なら男らしく諦めなさい」
「お、お前のせいで……」
「いや私のせいじゃないし」
「黙れぇっ!!」
 逆上した男は懐からナイフを取り出し、少女目掛けて襲い掛かる。
 ――ヒュッ! ガッ!
 しかしナイフを易々と回避した少女は、逆に水鉄砲の様な物で男の首筋を打ち据える。
「ったく、女の子に手あげるなんて最低ね。そんなんだから……ちょっと、聞いてる?」
 倒れこんだきりうんともすんとも言わない男の様子を窺う少女だったが……。
「まさか……死んでる?」

「暑い中良く来てくれたわね」
 柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)は団扇代わりにしていた下敷きを置き、能力者達を出迎えた。
「今回はメガリスゴーストの事件よ。犠牲者が出る前に『天女の羽衣』に取り付かれた女の子を解放して欲しいの」
 例によって「カヨ」と言う名の女子中学生がメガリスゴーストを手にし、いわゆる「正義の味方」として活動し始めた訳だが――。
「男性によってなんらかの被害を受けている女性を助ける……と言う目的で行動していたんだけど、このままだとやり過ぎて相手を殺してしまうわ。その前にメガリスゴーストを破壊して頂戴」
 最も手っ取り早い方法は、少女のパトロールルートで一芝居打ち、おびき出して戦闘に持ち込む手だろう。

「カヨさんは、旧式のスクール水着をモチーフにしたと思われるコスチュームに身を包んでいるわ。色は紺色で……そこ、静かに」
 泳ぐのが好きな、良く言えば活発な、有り体に言えばかなり野性的な少女らしい。
 突然身に着いた不思議な力を素直に喜んでおり、嬉々としてヒーロー的活動を行っている様子。完全に精神を支配されている訳ではないが、説得によって降伏する事は無いだろう。
「まぁただ、あなた達の行動や発言によって、怯ませるとか躊躇させるくらいは出来るかも?」
 そんな彼女には、数羽の海鳥――ミサゴが援護ゴーストとして付き従っているようだ。
「戦場として良さそうなのはここ、埠頭の倉庫が並んでるこの辺よ。夜には余り人も来ないし、戦うには十分な広さもあるわ」
 外灯もあり、視界も一応確保されている。

「彼女を倒す事によって、メガリスゴーストは彼女の身体から離れるわ。その状態になって初めて破壊する事が出来るってわけ。逆に言えば、彼女が身につけている間は破壊出来ないし、彼女自身がダメージを受ける事も無いわ」
 普通の敵と同様、思い切ってやっつけてしまって良いという事らしい。
 ミサゴに関しても同様で、倒してしまっても気絶するだけで死んでしまう様な事はない。
「戦いが終わった後、カヨさんが目を醒ましたとしてもあなた達の事や、不思議な力に関する記憶は曖昧になるわ」
 特別なフォローをしなくても、なる様になるという事らしい。
「それじゃ、早速行って来て頂戴っ」
 説明を終えると、莉緒は手を振って能力者達を送り出すのだった。

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参加者
水梨・響(ドルフィンガール・b04269)
リーゼロッテ・リヒテンベルク(ロイヒトケーファ・b19769)
十城・莉良(黒炎の混沌聖女・b28547)
黒木・摩央(飛燕の月巫女・b37352)
天城・悠(悠久の黄昏・b40149)
安須来・柚架(夢と大空を追いかけて・b45503)
クロランタ・プレートスミス(エクストリームアスリート・b46683)
金城・つばさ(音速戦士マッハヴィクトリー・b55825)



<リプレイ>


「ひっく……どうして、どうしてなの……!!」
 夜、波止場近くの倉庫が並ぶ一角で、少女の悲痛な泣き声が響いた。
 泣き声の主は十城・莉良(黒炎の混沌聖女・b28547)。大粒の涙をぽろぽろと零している。
「貴方、何したか判ってる!?」
「女の子を泣かせるなんて、最低だよ!」
 そんな莉良を慰めつつ、きつく問い詰めるのは安須来・柚架(夢と大空を追いかけて・b45503)と金城・つばさ(音速戦士マッハヴィクトリー・b55825)。
「いやちょっと待って! 話聞いてくれよ!」
「愛してるって……私だけを愛してるって言ったのに!」
「莉良ちゃんのことこんなに傷つけて、それでも彼氏って言い張るつもりなワケ!?」
「人でなし! 浮気者!」
 女子3人の集中砲火の的になっているのは、クロランタ・プレートスミス(エクストリームアスリート・b46683)。
 実のところ彼……もとい、彼女も女子なのだが、今回は作戦の一環として男子に扮している。
 夜闇のお陰もあって、確かに遠目には男子に見えなくもない。

「皆迫真の演技ね……」
 メモとペン片手に、物陰からその様子を見守るリーゼロッテ・リヒテンベルク(ロイヒトケーファ・b19769)。
 万が一カヨに見つかってしまった場合、日本の男女交際を勉強中だと言い張る為の予防線だ。
(「正義のスク水少女かあ。正義のスク水忍者としては、対抗心を燃やさずにいられないね!」)
 その横で、何やらライバル心を燃やしているのは水梨・響(ドルフィンガール・b04269)。
 若干方向性が被ってるのがネックの様だ。
「ミサゴって、タカですよ。準絶滅危惧種なんですよ。ホバリングできるんですよ」
 他方、カヨが操ると言うミサゴに食いついているのは黒木・摩央(飛燕の月巫女・b37352)。ニワトリ嫌いの彼女だがミサゴには興味があるらしい。
「おっと、どうやらヒーローのご登場みたいだ」
 声を潜めつつ、天城・悠(悠久の黄昏・b40149)が指さす先に、小柄な少女の姿。
 事件の発生を感じ取って嬉々として駆けつける様子の彼女が、おそらくカヨだろう。


「泣いてる本人じゃなくてどうして君たちが!」
「友達だからに決まってるでしょ」
「そうだよ、友達を酷い目に遭わされて黙ってられないよ!」
 一層エキサイトしてゆく女子3人。しかし、ここで男役のクロランタが圧されっぱなしでは始まらない。
「……浮気の一つくらいでそんなに騒がなくたって」
 平手の一発くらいは覚悟の上で、火に油を注ぐ発言。
「さっ……最」
「最低ね!」
 莉良の言葉を遮って、凛とした声が夜闇に響く。
「女の子を泣かした挙げ句に、反省もせず開き直るなんて最低の男だわ!」
 クロランタをすごい剣幕で睨み付けながら、よどみなく言い放つのは中学生くらいの少女。同年代の男子であれば這々の体で逃げ出すレベルだ。
「いや……」
「問答無用よ! 正義の使者ウンディーナ、メイクアーップ!!」
 パッと眩い光が少女の身体を包み、思わず直視を避ける一同。
 光が収まった時には、少女は完全にスク水チックな、美少女戦士風のコスチュームに変身していた。付け加えるならば、それっぽいポーズまでばっちり決めていた。
「うわ、アニメみたい」
 思わずそんな感想を抱いたのは摩央だけでは無かったはず。
「覚悟!」
「あ、ちょっと待った。私女性だから。ね?」
「……へ?」
 速攻で襲いかかられそうになったクロランタが、帽子とフードを取ってネタばらし。
 これには正義のヒロインも思わず唖然。
「それってつまり……あっ……そうなの、そう言うことね」
「?」
「いえ、別に良いと思うわ。だって愛にはいろんな形があって良いと思うし。じゃ、私はこれで」
 自分の中で結論が出たらしく、その場を立ち去ろうとするカヨ。
「えーと、ちょっと待って。あなたは大きな誤解をしてると思うよ」
 何となく彼女の誤解の内容に気づきつつ、このまま返す訳にはいかない。呼び止める莉良。
「うん、スク水……萌え要素としてはありだけど、ヒーローってものがわかっちゃいない、わかっちゃいないんだなぁ……」
「え、そっち?!」
 亜空間からのダメ出しをするつばさ。
「何よ、私は平和を守るためにパトロールの途中なの。お姉さん達とゆりゆりしてる暇は無いの」
「いや、だから……」
「あのね、私たちがここでお芝居をしていたのは、カヨを誘き出す為だったの」
「え? って、なんで私の名前を知ってるの?」
 物陰から姿を現すリーゼロッテ。
「カヨの得た不思議な力は、今は良くても、やがてあなたにも平和の為にも良くない結果が待っているわ。私たちはカヨを解放する為に来たの」
「えっ……」
 リーゼロッテの言葉に、思わずそれまでの勢いを失うカヨ。
「ああいう風に説明すれば良かったんだよ」
「うん……」
 反省する数人。
「それにさ、さっきみたいに力づくで解決することが本当に正しいの?」
「……さっきのは、あの男が……女だったけど……あんまり酷いから」
「もし、……もし、すれ違いでケンカしてただけだったら、二人の仲直りの機会奪っちゃうんだよ? それはホントに『正義』、なのかな?」
「……それは……」
「もしやり過ぎちゃって大怪我とかさせたら大変だよね?」
「て、手加減するし」
「力に頼る正義は、単なる自己満足でしかないわ……」
 口々に紡がれる説得の言葉に、カヨはすっかり萎縮気味。
 もしかして、戦わずして勝利となるのだろうか?


 カヨはお姉さん達からの説得を受け、意気消沈した様子。もう一押しで降参させる事も出来るのではないか。一行がそんな期待すら抱き始めたその頃――。
「……そうか、そういう事だったのね?」
「ん? 解ってくれた?」
「ええ、解ったわ。あなた達の言ってることの意味が……危うく騙される所だったけど、もっともらしい言葉でヒーローを騙す。いかにも悪者の考えそうな事ね!」
 瞬く間に勢いを取り戻したカヨは、腰の水鉄砲を抜きはなって身構えながら言う。
「やっぱ説得だけじゃだめか」
「大体、下手な芝居で正義の味方を誘き出すって所からして悪役っぽさ全開だったのよ!」
「その芝居に騙されてたくせに……」
「では、ヒーローごっこはここまで。これからは――戦の時間だよ」
 能力者達も一斉に戦闘態勢。カヨを包囲したまま一斉にイグニッション。
「ヒーローとはこういうものだ、変身!」
 イグニッションしたつばさはVマッハスーツに身を包み、年期の入ったヒーローポーズを披露。
「音速戦士マッハV(ヴィクトリー)!!」
「……あなた達も似たような力を?! ……でも何よそれ、男子向けの特撮モノみたいじゃない」
 カヨは驚きながらも、ケチをつけるのは忘れない。
「こっちも、正義のスク水忍者見参!」
「ちょっと、パクりじゃん! 訴えるわよ!」
「ボクの方が昔からだよ!」
 旧スク水姿で元祖を主張し合う響とカヨ。
「旧式スクール水着なんて、特定の人が見たら、それだけで間違いをしてしまうですよ。そんな危険な格好はダメです!」
「「……」」
 摩央のだめ出しはあくまでカヨに向けての物だったが、響にも若干の精神的ダメージがあったかも知れない。
 事実、現代日本における旧式スクール水着はブルマ同様、現実性を離れた「萌え」の対象と化している。それを身につけると言う事は、当人にその意図が有ろうと無かろうと、いわゆる「萌えキャラ」として特定の人間達からある種の好意――場合によっては欲望の対象にすらされかねない危険を伴う。
 それ故、響の様に研鑚を積んだ人間でない限り、それを身につけて戦う事はかえって不必要なデメリットを背負う事にもなり、カヨの様に突然変異的に力を習得した様な少女には、多分に不向きなコスチュームであると言う結論が導き出される事にもなろう。
 さて、そんな事を言っている間に、戦いの火ぶたはとっくに切って落とされていたりする。
(「多分、柚架も羽衣のメガリスゴーストに乗り移られてたら同じコトしてる気がする。だからこそ、止めてあげないと」)
 カヨ自身の為にも。
 柚架は疾風の如く軽快なフットワークでカヨの間合いへと飛び込む。
「っ!?」
 ――ヒュッ!
 弧状の鋭い蹴りがカヨを捉える。
「痛ぅ……ミサゴ達!」
 羽衣を身につけている限りは実際に肉体が傷つく事はないが、痛みに顔をしかめながらミサゴを召喚するカヨ。
「行くよ、リーフ!」「ニャッ!」
 待ち構えていた様に、クロランタの鋭い一撃が先頭を飛んできたミサゴの一羽をたたき落とし、ケットシーのリーフが制圧射撃を浴びせる。
「雑魚に用はない! マッハパンチ!」
「今よ」
 ――バッ!
 つばさが拳を繰り出すと同時に、リーゼロッテは無数の吸血コウモリを呼び出す。
 数羽のミサゴが傷つき、地面へ落ちる。
「くっ……まだよ! ガンナーズ・ダンス!」
 カヨは両手に水鉄砲を構えるや、回転しながら激しく弾丸を撒き散らす。同時にミサゴ達も円を描くようにカヨの周囲を飛び回り、鋭い爪で能力者達を傷つける。
「いたっ……ホンット力押しばかり……っ、イライラするわね……っ」
 莉良の手から、噴出すような勢いで霧が広がって辺りに立ちこめる。
「な、何よこの霧っ!?」
 魔蝕の霧に包まれ、攻撃力を著しく奪われるカヨとミサゴ達。
「汝を喰らうは蜘蛛が妖。鋏角衆、天城悠――参る」
「っ……く、蜘蛛!?」
 悠と蜘蛛童の夕陽は、圧倒的な威圧感を纏いながらじりじりと間合いを詰める。
 どうやらカヨは蜘蛛が得意ではない様で、牙をカチカチと動かす夕陽におびえながら後ずさる。
「夕陽は、自慢の妹なんだから」
「い、妹? それのどこがっ……防いでっ!」
 傷つき、数を減らしながらも辛うじて健在だった数羽のミサゴ達がカヨの前で滞空し、彼女を守ろうとする。
「そこっ!」
 ――ヒュッ!
 悠の声と共に、夕陽も高速回転。
 ミサゴの壁へと突っ込んだ2つの暴れ独楽は猛然とミサゴ達を蹴散らし、カヨをも巻き込んでダメージを与える。
「ううっ……くっ、大勢で卑怯よ! 覚えてなさい!」
 ミサゴ達も全滅し、絶体絶命のカヨ。どうにか血路を切り開いて逃げようとする。
「にーがーすーかー!」
 ――シャッ!!
 動きを読んでいた元祖スク水少女の響が、水刃手裏剣を放つ。
「きゃあっ!! ……うっ……ぐ」
 正確な狙いで放たれた水の刃は、カヨを直撃。
 戦いに終止符を打ったのだった。


「一件落着、かな」
 悠が気絶したカヨの傍に落ちている羽衣を拾い上げ、切り裂く。
「ええ、カヨも気絶してるだけで怪我はないみたい」
 リーゼロッテも頷きながら応え、安堵の吐息を零す。万が一水中での戦闘にでもなったら……と考えていたが、それも杞憂に終わった様だ。
「寝返り打って海に落ちたりしないように、もう少しこっち側に運んであげましょ……摩央さんは何してるの?」
 莉良はずるずるとカヨを引きずりつつ、ふと妙な動きをしている摩央に疑問を投げかける。
「記念写真を……だって、タカってこんなに近くで見れないんですよ」
 同様に気絶しているミサゴをパチパチと撮影している様だ。
「着てるの水着だけだったもんなあ、男性居なかったのは結果オーライかな」
 何の変哲も無いワンピース姿に戻ったカヨに、クロランタは持参したウィンドブレーカーを掛けてやる。
「ごめんなさい、演技っていっても酷いコト言っちゃって。ゴメンなさい、本当にゴメンなさい!」
「え? いや、そんなの気にしないで良いってば。平手の1、2発は貰うつもりでやってたくらいだから」
 ぺこぺこと頭を下げる柚架へ、鷹揚に応じるクロランタ。
「ただ、男嫌いが加速しないことを祈るよ」
「きっと大丈夫だよ。でも、気がつくまで物陰から見守るのはアリかなあ」
 一時はライバル視していたものの、カヨが普通の少女に戻ってしまえば少し心配そうな響。
「助けた少女の無事を見届け、黙って立ち去る。ヒーローはかくあるべし」
 うんうんと頷くつばさ。

 かくして、能力者達の活躍によりメガリスゴーストは破壊され、悲劇は回避された。
 カヨは普通の中学生に戻り、やがて記憶も薄れてゆくだろう。
 8人の能力者はそんな彼女の想いも胸に、明日も平和を守り続けるのだ。


マスター:小茄 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/07/21
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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