ロンリー・ロンリー・バレンタイン〜漢達の哀歌


<オープニング>


 バレンタイン。
 それは悪夢の祭典。
 恋人って何? って言うか何語? タガログ語? って言うかタガログ語って何?
 などと現実逃避する男達が大量発生する、心も身体も凍り付かせる邪悪な祭の事である。
 チョコレートを恋人に渡すなんて資本主義が生み出した悪しき慣習で有り云々かんぬん、と自分を誤魔化した所で、チョコレートは欲しい。欲しい。超欲しい。
 だが、もらう当てなんてどこにも無い。母親にでも貰えればまだ良い方だろう。
 本命チョコなんて夢のまた夢である。
 そこで誰かが考えた。
「誰も俺にチョコをくれないなら、俺が自分で作って俺にプレゼントすればよくね?」
「お前天才じゃね?」
 いや、天才どころかちょっとヤバくないかとも思うのだが、心の寒さに思考もフリーズしていた男達は、かくて勢いで『自分にプレゼントするためのバレンタインチョコレート作成会』を決行する事となる。

 場所は家庭科室。料理が下手な者でも参加出来るように、チョコレートは皆で同じ物を作る事となった。市販のチョコレートを買って来て湯煎で溶かし、ハート型に固めて冷蔵庫で冷やすだけ。とっても簡単である。
 何が悲しくて、自分の為にハート型チョコレートを作らねばならないのか、と考えてはいけない。考えたら負けだからだ。
 何が悲しくて、男だけで雁首揃えてチョコレートを作らねばならないのか、と考えてはいけない。考えたら、もう惨敗だ。
 そういう事は深く考えないようにして、お菓子作りに恋人のいない理不尽な怒りをぶつけるのだ。

 まあ、チョコレートを黙々と作って解散するだけでは本気で寒い事になるので、これを機にバレンタインへの怒りをぶつけても良いし、独り身同士友情を深め合っても良い。
 おそらく発生してしまうであろう失敗チョコレートや、余ったチョコレートを食べながら語り合おう。
 傷口を舐め合うのか、と言っては行けない。

 言ったら、負けだからだ。いろいろと。

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<リプレイ>

●ロンリー・ロンリー
「仮初めの楽園……ロンリー・ロンリー・バレンタインへようこそ!」
 仮面を被り、黒のローブを纏った涼が宣言する。もうちょっとセリフ長かったけど誰も聞いてなかった。
 そう、今日ここに集まった者は独り身と書いてロンリーばかり。悲しきバレンタインイベントの幕開けである。
「タガログ語は、現在フィリピンの公用語であるピリピノ語の基となった言語で、実際の所今でも広く使われている……と、英語の教科書に載ってたかな」
 心底どうでも良いはずの五六八の雑学に、皆何故か耳を傾け、感心したように頷いていたりするのは、きっと現実逃避だ。
「何かみんな殺気立ってるなー。別にチョコ喰いたきゃ自分で買えば良いのに。ってかそういう集まりだろ、これ?」
「全くです……チョコがたくさん売っているのに買いにくいなんて、嫌な習慣ですよね……」
 恋愛にまだ興味が無い一・一の言葉に同意する成章。
「そうなんだよなー、なんかムカつくよな」
「僕なんか、従姉の為に毎年用意させられてるんですよー」
 なんか意気投合。
「俺たちはチョコが貰えないんじゃない! あえて受け取らないんだ!」
 その横で、強気に叫ぶ優斗。
「本気出せば本命チョコの五つや六つ……いや、一つくらい」
 弱気になった。
「まあ、今回のイベントは自分への褒美だよな、そうだ、そうに違いない」
 何か自分に言い聞かせている。
「オーストラリアと違って、日本ではバレンタインに何かもらわないと格差社会の負け組みとか言われるらしいね」
 ジョーは、何か間違っているようなそうでないような知識を披露しながら、何故かタライとか配ってる。
 そんな光景を見ながら、京介は一人呟く。
「さてさて、どんなことになるやら。阿鼻叫喚にならなければ良いが」
 多分、無理。

●しょっぱいチョコを作ろう
 ハート型のチョコを作ると知らなかった昂夜は、器具を見るなり固まった。
「バレンタインは良く知らないんだが……ハート型って、変えちゃ、駄目だろうか?」
 呻くように口にする。でも駄目です。周囲を見れば、
「泰昭君へ、泰子より……ふふっ、これで本命チョコだぜ……むなしいなんて、心の中で思っていても言わねぇぜ……」
 などと自分のチョコに白いチョコペンで文字書いたりしてる泰昭とかいるし。
「バンアレン帯は、ほんとは男が女に鼻送ったりすンの。お分かり? ねぇ、お分かり? You know what I saying?」
 何故かリズミカルに愚痴をぶつぶつ呟く幻灯とかもいるし。
「モテナイ男の嫉妬よ、このチョコに宿るんやあああ! あの恋人やカップルという人種に対しての天誅をおおおお!」
 大鍋(大釜は家庭科室には有りません)で黒魔術の儀式っぽい事する土軍とか。
「準備は完了した! これよりチョコレート探索任務に就く! 我、目標入手まで決して退くこと無しッ!」
 迷彩完備で一人サバイバルなジョフロアとかも。
 その他いろんな開き直った人達がいるので、見習いましょう。
 ……いや、あんまり見習いたくないか。
「お土産用はハート型だけど、ここで食べる分にはどんなチョコでも良いんだよな」
 と言う事で、凝ったチョコに挑戦する輩も何人かいる。
「へぇ、ジン上手ぇじゃんっ! きっと良いオクサンになるな」
「なりたくないわっ」
 チョコレートムースを作る仁斗と、それを覗き込むルイ。
「まあ、これで今年の冬は安泰だなっ♪」
 楽しそうな声で項垂れるルイ。
「……ま、腹の足しにはなるだろうさ」
「まったくです。どなたかは存じませぬが、ロンリーウルフな我らのためのかようなイベントを用意して頂けて、ありがたい事です」
 おつまみアーモンドから塩抜きしてアーモンドチョコを作るのは白澤だ。
 しかし、本当にありがたいのだろうか。
「思えば昔々、貰えないから作れば良いと思ったあの過ち……あれからウン年、気が付けば、年々豪勢になってゆき、今やちょっとしたパティシエじゃん!」
 へらへらと笑いながら涙を流しながらチョコケーキを作ると言う器用な真似をする夜火とかもいる。
「よければ、これ使ってください」
 晋助など、大理石の板と特別なナイフを使って何か専門的な事をしている。何をやっているのか理解出来ない人も多いが、とりあえず有り難く手伝ってもらっている。
「もしわからないことがあるならアタシに聞いて、手取り足取りイロイロ教えてあげるワヨ〜?」
 でも、和彦には決して誰も手伝ってもらおうとはしない。
「ナニよッ! オカマさんだってチョコは欲しいんダカラッ!」
 目を向けられ、慌てて視線を反らす曾良。辿々しい手つきを微妙に隠してみたり。
「独り身だって、くやしくなんかは、ない。悲しくなんかは……」
 口下手な彼も少々饒舌になって、けれど出て来る言葉がとても悲しい。
 凝ってはいないけれど、陸王も割と手つきは手慣れている。
「って言うか料理は男がするものだろ? 女の子の仕事だって決めつけるのは絶対におかしいと思うね」
 真剣な表情で口にする。
「だから、いつもいつも一人で自家製お菓子食べてる訳じゃないからね! 同好会の後輩とかクラスメイトにあげてるんだからね!」
 誰も聞いてないのに墓穴を掘っている気がする。
 ノリに任せて変なチョコを作る人達もいる。
「だがしかし、これは失敗じゃない……駄菓子菓子……寒いな、俺……いろいろと」
 何故か唐辛子の入ったチョコを手に、一人呟く太一郎とか。
「こんな所にいるなんて、まさか先輩、もしやその手のケが……そんなあほな」
 その太一郎を見ながら戦慄し、そして自己完結してタバスコチョコを作る悟とか。
「さあ、これを世の中のカップルどもに配るのだー! カップル撲滅!」
 ハートに見せかけてヒップ型とかの怪しげなチョコを多数用意する玲樹とか。
「おおゴッド、意外とモテそうな奴が多いのは何故ですか!」
 こんな集まりでさえ周囲に嫉妬しつつ、七味までぶち込んでいく雄介とか。
 でも、食べ物を粗末にしてはいけないので自分らで責任持って食べろよ!
「先輩……何やってるんですか」
「愛は辛いもんです、ええ」
 ほぼ100%カカオのビターチョコと言うか苦過ぎるチョコを作っている忠明にも、要から突っ込みが入る。
 かくいう要も、高級チョコを無駄に投入した割に出来上がりは普通などと言う、意味が有るのか無いのか分からない事をやっているが。
「そうゆうチョコ職人に私はなりたい」
 そうですか。
「うわ、なんかマジにはまりそう……今度はケーキでも作ってみるか!」
 中には奏のように、菓子作りの楽しさに目覚めたりしている者もいる。
「それはそれとして、明日だけでもカップルのない国に行きて〜……」
 頑張れ。無理だけど。
「うぉぉおおおぉぉ! 憎い……カップルが憎いぞぉぉ!!」
 目と同じ幅の涙を流しながら、2月14日なんてこの世から無くなれば良いのにと力説するのは吉太郎だ。無くならないけどね。
「俺もさぁ、小さい頃はさぁ、ユサにぃ、ユサにぃって後ろぴょこぴょこついてきてさあ……本当可愛かったのに、どこぞの馬の骨とも知らぬ男に……」
 幼なじみに恋人が出来てしまったユサも、寂しげにチョコを肩に流し込んでいる。
「あれー、何でユサもみんなも、青春の汗を流してるの?」
 そんな男泣きの面々を見ながら、のほほんと声をかける楓。
「あ、そっか、チョコを食べられるうれし涙か。でも、水気は良くないんだよ?」
 とか言っている彼も、目から大量に汗を流していたりはするが。
 中には、あげる人がいない独り身女性もいたりする。
「砂夜、うまくチョコが溶けないんだが。と言うか、周りの視線が妙に鋭いんだが」
「まあ……みんな飢えてるからね、って言うかチョコを直接火にかけないっ!」
「そうなのか。ところで湯煎とはなんだ」
 舞姫に逐一指導する砂夜(16年間彼氏ナシ)。今のは別に称号ではないがまあ頑張れ。
 あと、彼女の健闘虚しく、なんだか可愛い悲鳴が上がったりもして、そちらにギランと視線が集まったりもした。
「ほんと、奇異な集まりよね……」
 同じく女性の影嚮も、視線を感じながら無難にチョコ作りだ。本命もいないし義理も面倒、でも何かしたいから自分用……と言う彼女自身も、もちろん奇異に含まれる。
「なんか……空気が外と違うわね」
 淀んでます。
 あと、何か黒い巨塔の如く巨大なチョコを作ってるゆかりもいますが、なんかあまりにもすごい事になっているので流石に誰も近づけない。
「チョコをあげる相手がいないからチョコを作る資格がない……そんなのおかしいわよね!?」
 誰もそんな事は言っていないから遠慮なく作ってください。
 そんな風なノリでチョコの型を取ったら、あとは冷蔵庫に入れるだけである。
「この冷気は、心を吹き抜ける風の温度じゃない……ただの冷蔵庫の冷気さ……」
 チョコレートではないどこか遠くを見ながら、エドマンドは冷蔵庫の冷気を浴びて呟いた。

●苦いチョコを食べよう
「しかし、なぜ日本でキリスト教の司祭の殉教をたたえる日がこんなに盛り上がるんだ?」
「全くです、そんな日に愛を語り合うってなんなんですかね? というか、カップルなんかみんな死ねばいいのに」
 何やら、バレンタインの起源を語り合って意気投合する位威と鋼。死にません。
「いや、その記念日がローマの異教の祭りと結びついたので、あながち愛を語らう日としても間違ってはいないんだ」
 さらに詳しい起源を口にするのは征士郎。三人で、歴史について何やら深い議論を交わし合う。。
「……や、楽しいよ? 虚しくなんてないさ? あはは……」
 無駄知識の多さは現実逃避度の高さと比例する気がする。
「はっ、チョコがなんだ! 羊羹に置き換えて考えてみろ!」
 その前提がすでに間違っている気がするが、是清は気にしない。
「羊羹に火をかけて溶かして固め直しても一緒じゃねぇか! それなら俺は羊羹を取る! 羊羹哀羅武憂!」
 あんまり一緒とは思えないのだが、まあ現実逃避の一種なので言葉に整合性を求めてはいけない。
「鬼は外っ! 鬼は外ぉっ!」
 ほら、突然、荒神が豆を窓から投げ出したし。
「せ、節分だ! これから節分だっ!」
 そんな彼に呼応するように、豆を投げ出す者多発。でも節分は過ぎました。
「別に彼女がいないとかそう言う訳じゃないけど、恋人持ちなんかくたばっちまえ……」
 チョコのヤケ食いをしながらぶつぶつと誰かに言い訳する雨水。相棒の雹に付き合ってもらえなかったので二重にヤケになっている。
「自作チョコより美味しくない物もたまに有るけど、そういうメーカーは大丈夫なのかしらねぇ」
 その雹は、のんびりチョコを摘みながらチョコ業界の行く末について考えたりしている。
「うぅ……今頃カップル達はラヴラヴいちゃいちゃしてるんだろうね……? 親父ぃ、もうチョコ一杯っ!」
 架空の親父に愚痴をこぼす終の周囲も、いつしか飲み会状態である。飲んでないけど。
「寂しくなんか〜無いんだからね〜♪ 寂しく……ううっ、ひっく……」
 歌いながら、さめざめと泣き出す康多。お酒じゃなくてチョコに、いや、強いて言うなら空気に酔ったのだろう。
「あの時の俺は若すぎたのさッ。毎年毎年、この日にはいつも朝に下駄箱を調べ、昼休みに下駄箱を調べ、下校時に念入りに下駄箱を調べたものさっ!」
 未弘も加わり、みんなで仲良く傷を舐め合う……もとい慰め合う。
「……今日、この場所に集まった仲間との出会いを祝して、って事で」
 小さなチョコを作って、参加者に配る龍麻。実は彼には貰える相手がいるのだが、この周りの雰囲気的に、それがバレたら……と思うと気分は魔女裁判だったり。
「ま、漢は義理だな、義理」
 男だらけの集団が物珍しいのかきょろきょろとあたりを見回していた昴琉も、某有名市販チョコを一緒になって配る。具体的な名前は挙げちゃダメだ。
「ほら、モーラットだぜ、良く描けてるだろ」
 チョコペンで自分のチョコにモーラットのデコレーションを描いた清流、友人の章に満面の笑みで見せる。
「う、うん、ふっさりした感じが良く出てると思うぜ!」
 最初の微妙な躊躇いが全てを現している。と言うか明らかに前衛芸術だ。目線を反らし、ふと呟く章。
「ホワイトデーにお返しとか気ぃ使わなくても良いし、むしろ勝ち組だよな俺ら」
 それはどうだろう。
「き、霧野先輩……す、好きですッ! きゃっ、言っちゃった!」
「あ、ありがとな……お、俺も……って壱球やん!?」
 どこからか持って来たのかセーラー服を着込んだ180センチ超えの男とスキンヘッドの男が芝居を始めちゃうし。
「逢坂先輩……うち、あんたのことずっと好いとってん……」
 何故か黒髪おさげと眼鏡を装着してやり返すし。
「……十太……なんか、すげぇ虚しくなったな」
「振ったのお前だろ……」
「大丈夫だ! お前ら全員イイ漢だぜ! 俺が保証する! 俺が女だったら惚れてるぜ!!」
 そんな居たたまれない空気を打破するかのように、ドンと宣言するい円。ってか君は女だ。と言うかこんな恋に飢えた独り身の中でそんな事を言うと……。
「……って、おい、ちょっと、お前ら、落ち着けっ!? バレンタインとはかくも漢達の心を惑わせるものなのか……ってか待て、話せば分かる、話せば……!」
 フェードアウト。


マスター:一二三四五六 紹介ページ
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いまいち
参加者:53人
作成日:2007/02/13
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