<リプレイ>
● 「あらあら、かわいい子達ね♪ でもちょーっとだけ顔色悪いかも♪ ダメよー、ちゃんとカレー食べないとっ」 朗らかに言う南條・氷(寒がり雪女・b53103)だったが、その者達の表情は少しも緩むことはない。 「食べ物の問題ではないと思うけど……あそこまで似てると気持ち悪いわね」 写し身達を見回し、微妙な表情の速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)。 「皆さんと、同じ、格好……でも、皆さんみたいに、暖かく、ない……です」 夜咫・晶(水面を映す銀鏡・b53016)の表現は、皆の思いを上手く言い表した。 表情も無ければ温もりも感じさせない、それはあくまで命を持たない偽物。 そう解っていても尚、余りにも見慣れた姿である事が違和感を加速させる。 (「自分がもう一人存在するっていうのは気持ちが悪いね。その上、私の半身である懐中時計まで写し出すなんて……」) 月乃葉・優生(命を刻む懐中時計・b45954)は、自分の写し身が首から提げている懐中時計を見て、少し表情を厳しくさせる。 姿形のみならず、服装や身につけている物……情報によれば力や技、強さまでも完全にコピーされていると言う。 (「身を呈して、この子達を護らないとね。ボクは男なんだから」) 赤狐・参九朗(参九朗って呼んで欲しいな・b04487)は、仲間達――一流の能力者ではありながらも、まだあどけなさの残る少女達を見回して決意を固くする。 (「技量が同じであるならば、その天秤を傾けるのは、ほんの僅かな時の運……だが、信頼できる仲間がいればその天秤を大きく傾ける事はできる」) 強敵である事は理解しながらも、槻森・流(石礫煌姫・b40777)に焦りや不安は無い。 1人1人の写し見がそこに並んでいるにすぎず、互いが『あまやどり』の仲間として固く結ばれている9人とは違う。 (「しかし、みんな可愛いな、うん。俺なら躊躇わずにナンパするくらいに……」) 今は大事な恋人が居るのでもちろんそんな事はしないが、写し身達を眺めて少し表情を緩める鈴峰・蓮(雨音の止む頃に・b53732)。 なんだかんだ言いながらも、コピー元は美男美女揃い。 冷たい無表情も、見ようによっては神秘的な美しさを感じさせる。 (「……気持ちとしてはやりづらいが、まぁ仕方ないよな。容赦せず、消すとしよう」) 一方、普段は柔和な八影・紫苑(翼をなくした八咫鴉・b57701)も、少し表情を硬くしながら決意を新たにする。 大事な仲間を傷つける様な錯覚はどうしても付きまとうが、それで躊躇う様なことがあっては、本物の仲間を危険にさらすことにもなりかねない。 「神妙にお手合わせ願いましょうか」 夜科・涼子(蒼穹の乙女・b55281)も同様に、多少の躊躇いはありながらも、自分たちの実力を測る良い機会と割り切った様子。 差していた傘を畳み、或いは放り投げ、一同はイグニッション。 そぼ降る雨の中で、予期せぬ戦いの幕が開こうとしていた。
● 「あら、私の偽物さんもいるのね? フフッ……どちらが真のカレー好きか、勝負ね!」 先陣を切って間合いを詰めてくるのは氷の写し身。それを見た本人が、びしっと指さして告げる。 微妙に争点がずれているのもご愛敬。 「え、違う。違うのね。OK。理解したわ!」 カレーに関しては争うまでもなく本物の勝ちだろう。 「私が、皆さんを、傷つける……それだけは、絶対、許しません」 さて、そうこうしている間に晶の写し身も距離を縮めてくる。 晶は本来仲間の援護役がメインだが、自分の姿をしたそれが仲間を傷つける事だけは容認出来なかった。 ――ヒュンッ。 念動剣「星の欠片」が宙を舞い、雨粒を切り裂きながら標的に襲いかかる。 ――キィーン! あと僅かで、剣が写し身の眉間に突き立とうかと言う瞬間、写し身もまた念動剣を放って直撃を回避する。 「命を刻まない懐中時計は此処で消えてもらうよ!」 優生も自らの写し身が出てくるのに合わせ、秒針【月光花】を黒い炎に包ませる。 自分の偽物であれば躊躇なく攻撃出来る。 (「己の敵は己自身とも言うが……実際に自分自身と戦う事になるとはな……」) 後衛の仲間を守る様に前へ出る流。煌燐剣に黒燐蟲達が集い、黒い輝きを一層強くさせる。 「銀髪の辛気臭いツラした野郎、んなツラしてねぇでかかってこいやっ」 二振りの長剣を回転させつつ、自らの写し身を挑発にかかる蓮。 感情を持たない写し身が挑発に乗ることはないが、相手もまた旋剣の構えを取りながら前線へと出てくる。 「さてさて……偽者には早々にご退場願おうか」 紫苑もまずは自らの写し身を標的に据えつつ、体内に眠る気を一斉に覚醒させる。虎紋が身を包み、戦闘力を大幅に高める。 「偽物に負けてちゃ冗談にもならないわよね」 左右のガトリングガンに白燐蟲達を纏わせながら、小さく笑みを浮かべるめぐる。 これがもし一人で対したのなら余裕もあるまいが、この仲間達と一緒なら激戦を楽しむくらいは出来そうだ。 「ボクを倒さない限り、晶や涼子達への攻撃はさせないよ。……まずは、偽晶を狙って」 マタドールのようにマントを広げ、敵の前に立ちふさがる参九朗。 ついでに優先的に攻撃する標的を指示する。こういった戦術に基づいた連携を取れる事も、能力者側の大きな強みだ。 「いまです、やっちゃって下さい!」 敵の前衛が気魄での攻撃を苦手としていると見た涼子は、土蜘蛛の祖霊を呼び出し、その力を優生へ宿らせる。 敵味方の間合いがお互いを捉え、乱戦が始まる。 雨脚は、やや強まりつつあった。
● 「……寒いっ!!!」 真偽、双方の氷が呼び起こした竜巻が衝突し、敵味方を飲み込んでゆく。雪女ながら、余り寒いのが好きではない氷は思わず身震い。 表情一つ変えず吹雪の中に立っている偽物の方が、雪女らしいと言えばらしい気もする。 「皆さんは、私が、守って、みせます」 そんな氷の前に、いくつかのリフレクトコアを展開させる晶。 「私と涼子さんの力で、偽者を喰らいなさい!」 「いくぞっ」 優生の声と共に、ややぬかるんだ地面を疾走する影の手。流も時を同じくして呪いを籠めた瞳を標的へと向ける。 最初の標的は偽晶だ。 ――ババッ!! 二つの黒い影が偽晶を襲う。 「……しかし、偽者と判っていても、虐めているみたいに感じてしまうな……」 連撃を受けて少なからず傷を負った偽晶だが、表情一つ変えはしない。流は多少やりづらさを感じつつも、攻め手を弱めることはしない。 (「惜しい……もう少し上だったらー……」) そんな緊迫した状況下で、内心舌打ちをする蓮。 ダークハンドの一撃で、偽晶の膝の辺りが微かに破けたのを見ての感想の様だ。 ――ビュッ! 「おわっ!?」 そんな邪なことを考えている間に、偽蓮からの攻撃が蓮を襲う。油断大敵である。 「ちょっと蓮、ぼーっとしてる場合じゃないわよ!?」 檄と共に白燐蟲達を飛ばすめぐる。 「こんな時に、何か考え事ですか?」 雪の鎧を纏いつつ、少し心配そうに尋ねる涼子。 「い、いや……そんな事は」 蓮は曖昧に応えながら、邪念を頭の隅に追いやることにした様だ。 万が一にも「そんな事」を気にしてたなどとバレれば、味方の女子からも集中攻撃されかねない。 「赤狐クン」 「解った」 紫苑は連携を見据えた龍尾脚を、参九朗は味方の後衛から離れすぎない事を意識し、それぞれ蓮の写し身に狙いを定める。 ――ドッ! ガッ!! 「鈴峰クンだからと言う訳じゃないが、見た目が女子じゃないと思い切りやれるな」 「ボクもそれは同感だな」 「地味に酷い……」 偽蓮を痛撃し、そんな言葉を交わす二人。 しかし見た目で躊躇する余裕が無くなるほど、戦いは激化してゆく。
● 雨は次第に強さを増し、視界を狭め、足下をぬかるませる。 敵味方ともやや入り乱れ、混戦状態で戦いは進行していた。 「この辺で私たちの必殺技を見せておこうかしら……涼子ちゃん、あれを使いましょ♪」 「はい、タイミングは合わせます」 氷と涼子はそんな言葉と視線を交わし、共に手をかざす。 「「ダブル・ハリケーン!」」 ――ビュオォォッ!! 激しい吹雪が猛然と写し身達を飲み込んでゆく。 氷雪が肌を切り、魔氷が更に体力を奪い取る。 「雪へと変わるだろう……か。夏なのにね」 ぼそりと呟く参九朗。 「反撃……来ます」 晶の声に一瞬遅れて、今度は偽氷による吹雪の竜巻が吹き荒れる。 まるで真冬の冬山にでも居るような光景だ。 「……っ!?」 吹雪が止んだと思うと、思わぬ角度から優生に襲いかかる闇の手。 「大丈夫か?」 「うん、ありがとう」 流がフォローに入り、優生もすぐさま旋剣の構えを取って傷を癒す。 「お返しのお返しだっ」 この隙を埋めるように、蓮がダークハンドを打ち返す。 スカートこそ捲れなかったが、偽晶に深手を負わせることには成功した様だ。 しかし深手を負いながら眉一つ動かさない少女、無表情と無言のうちに、機械的にその傷を癒そうとする別の少女。 戦いが始まって暫く立つが、その一種シュールな光景は中々慣れない。 「なんともまぁ……彼女達にそんな目は似合わないから――」 紫苑はそんな感覚を振り払う様に、周囲に流れる気を体内に取り込み、手のひらに集中させる。 「眠れ」 ――カッ! 放たれた衝撃波は、雨粒を吹き飛ばしながら写し身達を飲み込む。 「偽者でも、優生や流みたいな女の子の血を吸うのは、ちょっと背徳的な気分かな」 間を置かず、参九朗の手から無数のコウモリが飛び立ち、更に写し身達に追い打ちを掛ける。 「なぁに言ってるの……いけっ!」 やや呆れ気味に言いつつ、めぐるも白燐蟲達を一斉に解き放つ。 ――ババッ!! 無数に乱舞した白と黒の影が、更に写し身達へ襲いかかり体力を削り取る。 しかし、まだ倒しきるには至らない。
● 連携と戦術の差で、やや有利に戦いを展開していた能力者達だが、回復力は敵もかなりの物。 まだ数体の写し身達が激しく抵抗を続けていた。 「回復役ってホント厄介よねー♪ そう、私は厄介な女……」 そんな状況でも余り緊張感がない氷。逆に偽氷の方は、深い傷を負いながら表情一つ変えず、浄化の風を吹かせている。 「こっちも惜しみなく使うわよ、何てったって私あまやどりの癒し系! そーれ浄化の風ー」 氷もこの場面では吹雪による攻撃を断念し、仲間達の援護に回る。 優しいそよ風が吹き抜け、傷を癒す。 「……寒いッ!」 「……寒くは、ないですよ」 自らもリフレクトコアを放って味方の傷を癒しながら、優しく突っ込みを入れる晶。 「有り難う二人とも! ……でも、回復も無限じゃない。そろそろ決着をつけようか」 「ああ、いつまでも写し身相手に遊んではいられないからな……早急に倒し、散策の続きをやろうか」 優生の足下から、再び黒い影が伸びるのに呼応し、流の瞳に黒い光が宿る。 全力での攻撃を幾度も繰り返す余裕は能力者達にも無い、この辺で勝負を決めに行きたい所だ。 「悪いね、皆の弱点は把握しているよ!」 ――バッ! 地面を黒い影が疾走する。と同時に、禍々しい怨念が襲いかかる。 「よし、じゃあ俺たちも行くか」 「了解、任せろ」 更には蓮と紫苑が、龍尾脚とダークハンドの連続攻撃を仕掛ける。 間断無い攻撃を受けては回復の余裕もなく、鏡の様に砕け消滅してゆく写し身達。 「参九朗、涼子、もう一息よ!」 再び白燐蟲達を解放し、乱舞させるめぐる。 「うん、行こうか」 参九朗はマントを翻して近接戦闘を仕掛ける。 「はい! ……もう大丈夫ですよね」 涼子は体力的な不安から、これまで常に後方に控えて支援に徹してきたが、一撃で窮地に陥る危険も消えた今、天津風を手に間合いを詰める。 ――ヒュッ!! マントと薙刀が唸りを上げ、瀕死の写し身を両断した。
● 「小振りになってきたか……そのうち晴れるかも知れないな」 少し明るくなってきた空を見上げて、そんな予感を抱く流。 「帰ったら気分転換に、皆でお風呂にでも入ってサッパリしたいね!」 優生は髪についた水滴を絞りながら、そんな提案。 「それにしても流石ですね、皆さん強かったです。色々な意味で」 「ほんとよね。味方だと頼もしいけど、敵に回すと怖いわ」 涼子は自分の力を発揮し、勝利に貢献した事で満足した様子。めぐるも同様の様子で頷く。 「ある意味、仲間同士での戦いは貴重なのかもしれないが……」 「なかなかに面白かったが、やっぱ可愛い娘は攻撃しづらいよな……」 一方、蓮や紫苑はこの空模様と同じく、すっきり快晴とはいかない気分の様子。 戦いに勝利したとは言え、自分や仲間と同じ姿を持つ相手を倒す感触は、爽快とは言いにくい物だった様だ。 「ねえ、私の偽物さんってどうだった?」 と、皆に尋ねる氷。 「氷の方が偽者よりも、美人さんだよ」 どう答えるべきか一瞬迷った一同だったが、参九朗は笑みながらすかさずそう答える。 「うん、偽物も美人だったけど本物の氷お姉様には及ばなかったな」 こくこくと頷きながら便乗する蓮。 「あら♪ 帰ったらみんなにはカレーをご馳走しなきゃね」 上機嫌で言う氷。 心なしか皆、ほっと胸を撫で下ろす。 「……やっぱり、みなさんと、偽物は……全然、違います」 晶はそんなやり取りを交わす皆の様子を見て、クスリと笑う。 そう言う彼女もまた、この学園に来て仲間と出会うまでは、表情の豊かな方ではなかった。どちらかと言えば、先ほどの写し身の様に感情を表に出さない少女だった。 けれど今は感情を表に出す事も出来るし、それを受け止めてくれる人たちが居る。 「さ、帰ろうか……俺達の帰りを待ってる人たちの所へ」
こうして「あまやどり」の面々は写し身との戦いに勝利し、ヤヌスの鏡のメガリスゴーストを破壊する事に成功した。 雨降る森の中での遭遇戦は、信頼し合える仲間の存在を再確認する、そんな機会にもなったのかも知れない。
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参加者:8人
作成日:2009/07/29
得票数:カッコいい12
怖すぎ3
えっち2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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