ぼくの保健室にようこそ


<オープニング>


 夕方になって、風が出てきた。
 その風に乗って、下校時間を知らせるチャイムの音が聞こえてくる。
 日に劣化してほつれた白いカーテンが揺れ、旧校舎の保健室に、赤い夕日が差し込んだ。もう使われていない保健室の中に残っているのは、マットレス剥き出しのベッドだけ。
 きしり、とそのベッドが軋んだ。 
 ベッドの上に並んで腰かけている、制服姿の少女が2人。
 1人の少女が、もう1人の少女の瞳をじっと覗きこむ。そして2人の顔が、ゆっくりと近付いて――触れる、と思いきや、寸止め。
「……みたいな感じにしようと思うんだけど」
「んー……シチュはいいけどー……もうちょっとひねったほうが良くない?」
「そうかなあ。ここはあんまり奇をてらわずに、王道がいいかと思ったんだけど」
 ベッドの上には、一冊のノートが置いてあった。表紙には「演劇部2009年秋公演・百合の花園」とタイトルがついている。
「脚本、がんばってね。あとは保健室のシーンだけなんでしょ?」
「うん。つきあってくれてありがとね。雰囲気つかめたし、今夜仕上がるかも」
 励まされた少女が、ノートを取り、足元に置いていた学生鞄を取ろうと身をかがめる。
 その時。
「ぼくの保健室にようこそ!!」
「「わーーーー!!」」
 にょろん、と白衣の男が、ベッドの下から仰向けで現れた。
 保健医風のその男の、眼鏡がキラリと光る。
「青春、結構結構。しかしいけない。いけないなあ、不純な交友は!!」
「え? べ、べつに、わたしたち……」
 やましいことは何もしていないのに、なんだかあらぬ疑いをかけられて、少女たちは呆然と混乱を同時に味わう。大体、誰この人!?
「問答無用!!」
 ビカリと男の眼鏡が輝き、その光が2人の少女達の胸を貫いた――。

「ようこそ、いらっしゃいました」
 志之宮・吉花(中学生運命予報士・bn0227)は、扉を開き能力者たちを教室へと迎え入れた。
「とある高校の旧校舎、その保健室に、地縛霊です」
 吉花は小脇に抱えたメニューブックを開き、中のメモを読み上げる。
「このままですと、脚本作りの雰囲気掴みのためにそこを訪れる演劇部の生徒が2人、犠牲となってしまいます」
 運命予報が現実となってしまわないよう、地縛霊を倒さねばならない。
「今から出発なさいますと、夕方頃に現場に到着可能です。校門は開かれていますので、潜入は簡単でしょう。問題は、犠牲となる女生徒様たちが、皆様よりも少し遅れて保健室に来てしまうことなのですが……」
 難しい顔をしつつ、吉花はメニューブックのページを捲った。そして、こほん、と咳払い。
「今回の地縛霊は、保健室のベッドの上で、どなたかが、そのう……『ラブシーン』を演じると出現いたしますので……自然と追い返すことが可能かと……」
 男女でも女女でも男男でも、いっそ複数でくんずほぐれつでも構わない。とにかくラブっぽいセリフと演出をすれば地縛霊が現れる。
 ベッドは入り口ドアのガラス窓から見える位置にあるので、女生徒たちはそこでラブシーンが展開されているのを見れば、敢えて保健室に入ってこようとはしないだろう。
 彼女達が戻ってくるのが不安なようなら、少し声をかけて駄目押ししても良いかもしれない。
 ただ、本当のラブシーンだと思わなければ女生徒たちも立ち去らない可能性があるため、囮以外のメンバーはベッドから離れた位置、入り口ドアの死角となる場所に隠れていたほうが良いだろう。
「地縛霊は、白衣の保険医風の姿で眼鏡をかけた、若い男性です。詠唱眼鏡による攻撃に似た光線を撃って来ます」
 現れた時、ベッドの上の囮に向けてまず最初に光線を撃って来るので、注意が必要だ。
「また、戦闘が始りますと、スーツ姿の女教師と、ジャージ姿の体育教師の地縛霊が現れます。それぞれ、授業用の大きな定規、テニスラケットによる殴打攻撃をしてきます」
 情報は以上ですね、と吉花はメニューブックを閉じかけたが、手を止めた。
「そうそう。その学校の近くに、とてもお洒落な南国風カフェがあるのだそうですよ。フルーツを凍らせて作ったフラッペがとても美味しいのだとか。よろしければ、立ち寄られては如何でしょうか」
 吉花は瞳を輝かせている。本当は自分が研究のために行きたいくらいらしい。
 そして今度こそ、パタリとメニューブックを閉じた。
「では。皆様くれぐれも油断なさらず、行ってらっしゃいませ」
 深く頭を垂れ、吉花は能力者たちを送り出した。

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参加者
柴・朔太郎(トマリギ・b01919)
サラ・モラトリアス(は今日も龍の夢を見る・b36309)
神崎・都和子(アンチテーゼ・b37964)
式銀・冬華(継承された断罪の剣・b43308)
真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)
月村・斎(閑人・b45672)
ハーヴェイ・マクミラン(サイコマニア・b46916)
冷泉・香夜(水面に映る優しき銀蝶・b47140)
神倉・紅牙(忘却の彼方より・b52223)
鳳凰寺・龍也(終わりを見届ける者・b53591)



<リプレイ>

●なんという愛の劇場
 古い保健室。放課後。夏、夕暮れ。
 ベッドのそば、寄り添い合う少女たち。
「サラ……美術室で見掛けてからずっと手に入れたかったよ」
 真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)が、真剣な表情で相手の目を覗き込む。
「は、はぅぅ、私もですよぅ。私も以前から茂理さんのことが好きでしたよぅ」
 サラ・モラトリアス(は今日も龍の夢を見る・b36309)は、銀色の瞳を潤ませながら、答える。
 サラは嬉しそうに茂理に身体を預け、きゅっと抱きついた。
 その時、廊下から、扉にはめられたガラス越しにひょこりと覗いた女子生徒の顔が2つ。
「(あれ? なんか先客……?)」
「(え!? マジでラブシーン!?)」
 慌ててしゃがみ、小声で囁きを交わす女子生徒たち。再びそーっと立ち上がり、中を覗く。
 長いポニーテールをさっと揺らし、茂理が扉の方を振り向いた。
「ボクらの今宵の愛の巣を汚そうと言うのかな。不躾な娘達だ」
 きらりと光る瞳で睨みつけられて、少女たちは飛び上がった。
「ご……っ、ごめんなさーい!」
「覗くつもりはなかったのー!」
 ぱたぱたと、賑やかな足音が去ってゆく。
「上手く行ったわね」
 神崎・都和子(アンチテーゼ・b37964)が、ドア脇の死角から立ち上がる。
「校舎から出て行ったようだ。落し物もしていないし、わざわざ戻っては来ないだろう」
 闇纏いで一般人の目には見えなくなっている鳳凰寺・龍也(終わりを見届ける者・b53591)が、少女達の背中を見送ってから、保健室に戻ってきた。
「王者の風を使うまでもなかったな」
 茂理は再びサラに向き直った。あとはラブシーンを続行して、地縛霊の出現条件を満たすのみ。
 きしり。2人分の体重を支えて、ベッドが軋んだ。
「それにしても……少し、風変わりな……地縛霊さん、です……ね」
 冷泉・香夜(水面に映る優しき銀蝶・b47140)が呟く。
「どこかの誰かの生霊かと思わず疑っちゃう出現条件だね」
 柴・朔太郎(トマリギ・b01919)は、その誰かのことでも思い出したのか苦笑した。
「……僕の知り合いの……団長さん、みたい……かも?」
 香夜は香夜で、思い浮かぶ知り合いが居るらしい。
「ま、地縛霊の思考回路は仕方が無いから、地縛霊が変なのは見逃そう」
 月村・斎(閑人・b45672)が小さく肩をすくめる。
 ベッドの上での演技は、佳境に入っていた。
「普通のプロポーションなんて嘘をついて…学園祭で大胆な水着姿を見たよ。こんなに見事に実ってるじゃないか……」
「はぅ、少し恥ずかしいですけど、茂理さんでしたら何をされても」
 耳元で囁きながら、す、と胸元に手を伸ばしてくる茂理に、サラは頬を染めながらされるがまま。
「……ふむ……女性同士とはこういうものか……」
 ハーヴェイ・マクミラン(サイコマニア・b46916)が、興味深げに呟く。
「……そういや百合を見るのは初めてかもしれない」
 神倉・紅牙(忘却の彼方より・b52223)はそう言いつつも、ちょっと目のやり場に困ってきている様子。
「…………百合? この部屋に、花瓶などは置いてないようだが……?」
 式銀・冬華(継承された断罪の剣・b43308)は首を傾げている。
「はぅ〜♪」
 仰向けに押し倒されたサラが、細く声を漏らした。ベッドがまたきしりと軋み、茂理がそっと、唇を落とし――。
(「おおっ……あれは迫真の演技!」)
 斎は囮役2人の身体を張った演技に、心の中でエールを送る。
 その時。
「来る!」
 最初に気付いたのは冬華。
 緊張が走り、イグニッションの宣言が高らかに響き渡る。

●なんというホラー劇場
「ぼくの保健室にようこそ!!」
「「うわー!?」」
「怖っ。つーか気持ち悪っ」
 にょろん、と仰向けの状態でベッドの下から出てきた白衣の男に、思わず悲鳴が上がった。
 保健室は、愛の劇場から一気にお笑いホラー劇場へと化した!
 身軽にしてきたことと、注意していたことが幸いして、サラと茂理は素早くベッドから離脱する。
「仲良きことは美しきかな! 結構結構! しかしいけない! 不純な交友はいけな……へぶぁ!」
 ベッドから降りるついで、茂理の深紅のエアシューズが白衣の男を踏みつけた。
 思わぬ先制攻撃を受けた男――保健医風地縛霊は、眼鏡を直しながらゆらりと立ち上がる。
「……不純な交友は、いけないなぁ」
 眼鏡に夕日を反射させ、保健医は途切れたセリフを言い直した。
「守りの障壁ですよぅ」
 保健医の言い分はサクっと無視して、サラがサイコフィールドを展開する。
「なんだ君たち! 男女入り乱れてぞろぞろと! グループ交際かね!? ああー不純だ!」
 能力者たちを見回した保健医の、眼鏡が輝いた。眼鏡から出たビームが、地縛霊の出現と同時に前に出ていた龍也の脇腹を貫く。
「演劇と本物を間違えるとは、もてない男の僻みか?」
 怯まず接近し、龍也は闇のオーラを纏わせたクレイモア、トリル・トラヴィスを保健医に振り下ろす。
「無理、しないで……ください、です」
 後方で、香夜が手の中にヤドリギを出現させた。桜香を纏った白い衣の裾を揺らしながら、空中に描くはハートマーク。ヤドリギの祝福。少し回復が追いつかなかったぶんは、龍也のサキュバス、リコリスが癒してゆく。
「ぐっは! ハートマークだと! その上女の子まではべらせて! 今時の若い子はほんとにもう! 不純だ! あー羨ましい!」
 黒影剣のダメージと、他、精神的苦痛で血反吐を吐きながら、元気に吠える保健医。
「そうだぞ若者よ……スポーツだ……邪念はスポーツで発散しろ……! 羨ましい!」
「そうよ……私なんて……私の青春時代なんて……羨ましい!」
 呼応するように、保健医の両脇に暗い影が2つ現れる。女教師地縛霊と、男性体育教師地縛霊だ。
「さて、無粋な先生方には消えてもらおうかな?」
 魔弾の射手の魔法陣を伴い、ハーヴェイはレイピアを構えて軽く首を傾げる。切っ先を向けるのは、女教師に。
「死人じゃなければお相手したかったけどね」
 唇に笑みを乗せるハーヴェイに、女教師が返すのは狂った微笑み。
「あら悪い子。そんな不純な子は、これでも食らっておきなさい……」
 女教師の手の中で、授業に使う大きな三角定規の鋭角が、ギラリと光った。振るう。ハーヴェイのレイピアが弾く。それはもう立派な凶器。当たるととても痛そうだ。
「定規には負けねーぜ?」
 紅牙は、弟の使っていたものを勝手に持ち出してきたというわりには大胆に、十六夜の名を持つ日本刀を旋剣の構えで頭上に振り上げる。
 一方、体育教師の前に立ちふさがったのは冬華と斎だ。
「さて、いこうか……!」
 冬華はライカンスロープの獣のオーラを纏い、飛斬帽に手を掛け構える。
「ああ行こう。体育教師……貴様は許さん。なぜなら個人的に嫌いだからだ!」
 体育教師に向けられた斎の2刀が、黒燐蟲の光を帯びた。
「そうとも! 誰であろうと、ラブシーンを邪魔する奴はたとえお天道様が許してもこの僕が許さない!」
 朔太郎が熱く叫び、固まって並んでいる3体に向けて茨の領域を展開した。甘酸っぱい学園ライフ&ラヴを積極的に応援する彼の気合が作用したのだろうか。教師たちは次々と茨に巻き取られてゆく。
「こ……っこんな、こんなプレイまで!! 不純すぎる!!」
「違うっ!」
 茨に縛られながらワナワナと震える保健医の発言を即否定してみたものの。
「……いや……茨に絡まれる女教師。なんだかヒワイな気がするけど……いやいや! そんなことないよね!」
 女教師の姿を見ると、ちょっぴりその通りのような気もせんでなくて、ぶるぶると朔太郎は頭を振った。
「ああ、なんてこと! 子供達がこんな怪しげな行為を……私なんて毎日授業授業でロクに交際も……ああ羨ましい!」
 絡み付く茨を破り、女教師が三角定規を振るう。
「うっわ! 危なっ!」
 頭を狙ってきた鋭角を、紅牙は十六夜で受け流す。定規が欠け、きらきらと破片が散る。 
「……やっぱ、俺の日本刀のほうが切れ味いいな!」
 紅牙は懐に入って来ていた女教師に、返す刃で黒影剣を叩き込んだ。
「先生になんていうことをするの……!」
 肩から胸へ、深く斬られ怨嗟を吐く女教師に、無数の吸血コウモリが襲い掛かった。
「教育的指導は向こうでやってくれ」
 バットストームの名のとおりのコウモリの嵐の向こうに、女教師はハーヴェイの、余裕の微笑を見る。
「あら……教育的指導はなしって……教師と生徒っていう関係から離れましょうっていうこと……?」
 ゴーストだというのに、ぽっと頬が染まったように見えたのは気のせいだっただろうか。しなりと床に崩れ、女教師は三角定規と共に消えてゆく。
 残る体育教師と保健医はというと、茨の拘束からいまだ逃れられないまま、黒燐蟲に食い荒らされているところだった。
「さっきからコウモリだのムシだの!! 若い者がこんなにマニアックでどうするんだ! ……けしからん!」
「黒燐蟲よ。喰らい尽くせ」
 じたばたもがく体育教師に、斎は容赦なく、再びの暴走黒燐弾。
「邪念はスポーツで解消ォァアア!」
 やっとのこと、茨から逃れた体育教師は、ラケットを振り回して暴れ始める。その背後で、長い銀色の髪がさらりとなびいた。
 気配に気付いた体育教師が振り向くよりも、色鮮やかなカードの弾幕が、至近距離から放たれるほうが早かった。
「零距離射撃。現状における俺の十八番でな……」
 冬華の静かな声を、体育教師は聞くことができたかどうか。
「なんでもかんでも如何わしい解釈するそっちのほうが不純だ。……あばよ」
 うつ伏せにくずれた体育教師の背に、斎の2刀が深々と突き立てられた。
 残るは、保健医。
 ようやく茨の締め付けから逃れた彼に、再び茨が纏わりつく。
「もう少し、じっと……していて、ください……ね」
 香夜が、光る薙刀の刃を向ける。しかし今度は回避された。
「不純な行為は……許さない……」
 ギラリと、保健医の眼鏡が光る。前衛の中に飛び込んできて、ビームを放ちながら回転し始めた!
 しかしもう、これが最後の抵抗というところだろう。能力者たちは、傷つきながらも怯まず反撃に出た。
「人の恋路を邪魔するゴーストは、馬に蹴られて滅びなさいですよぅ」
 サラの呼び出したナイトメアにパカーンと蹴り飛ばされて、保健医の回転が止まった。
「馬も良いけど、ボクにも蹴らせな!」
「はグァ!」
 茂理がすかさず、クレセントファングを叩き込む。
「いい加減に倒れなさい」
 仰け反った保健医に、都和子の呟いた呪いの言葉が更なるダメージを与えた。
「無念っ……我が城は、ぼくの保健室は、若者達によって淫らの園にされてしまうのかぁあああ! ……羨ましい! 保健室をなんだと思っているんだ!」
 ダメージが深く、首も胴もグラグラの保健医は、嘆き悲しみながら眼鏡ビームを放ち続ける。お前こそ保健室を何だと思っているんだ!? ……能力者たちの胸中にそんな思いがよぎった。
「保健室でラブラブやってた僕らが言うのもなんだがね、保健室を私物化しちゃあいけないなっ!!」
 朔太郎が複雑な表情で、鳥の形をした可愛い蟲笛を口許に寄せる。溢れる、黒燐蟲たち。
 龍也が、トリル・トラヴィスで孤を描き、ダークハンドを放った。
「そもそも……聞いておきたいのだが、お前は男なのに保健医なのか? 最近では小学校などでは男も採用されていると聞くが、社会的見地から中学校では保健医は女だと聞いている」
 引き裂かれ、ふらふらとベッドの上に仰向けで倒れた保健医に、龍也はずっとひっかかっていたことを言ってみる。
「……天晴れ。よくご存知だ。……てへ☆」
 割れた眼鏡の奥、保健医は「バレちゃった!」みたいな顔で片目を瞑った。つまり。
「キミ……『ぼくの保健室』とか言って、さては……ただの白衣の変態だったのかな?」
 朔太郎の口調は、凪いだ海のように静かだ。眼鏡が夕日を反射して、今彼の瞳にどのような色が映っているのかは、見て取れない。
 地縛霊の元となった残留思念を遺した人間は、学校に出没していたただの変質者だったのだろうか。真実はわからない。わからないが。
「説教の資格などないではないか」
「馬に蹴られろ!! ナイトメアランページ使えねえのが本当に残念だぜ!」
 冬華が、紅牙が。
 そして皆が、心を一つにして攻撃を放つ。保健医……もとい、保健医風地縛霊が、消えてゆく。
「えっと……安らかに……」
 香夜が祈りを捧げ、マットレスの上に残っていた眼鏡も、見る間に消えていったのだった。

●南国カフェでスイーツを
「はぅ、折角ですし皆で近くのカフェに行きませんか? フラッペ食べてみたいですよぅ」
 帰り道、サラの言葉に皆異を唱えることはなく、カフェへと立ち寄る。
 涼しげなラタンの椅子、パーテーョン代わりの鉢植えは花盛りのハイビスカス。
「ヘンなニセ保健医退治お疲れ」
 乾杯のノリで、紅牙がフラッペのカップを軽く掲げる。
「苦戦はしなかったが」
「無粋なゴーストの相手は、精神的に疲れたな」
 朔太郎とハーヴェイが、揃って吐息した。甘くて冷たいものと、安らぎの空間がありがたい。
「最近、暑かったので……冷たいもの、嬉しいです……ね」
 香夜が、赤や黄色、緑と、色とりどりのフラッペたちを眺めてキラキラと瞳を輝かせる。
「ふむ……フレッシュフルーツを冷凍して、それをカキ氷にしているんだな。なるほど……」
 家事全般を得意とする冬華は、食べながらレシピ研究に余念がない。後で吉花に報告すれば喜ぶだろう。
 さくさくさく。
 甘酸っぱくて冷たい山をスプーンで崩す涼しい音と、談笑がテーブルに満ちた。
 と。
 聞き覚えのある声が、隣のテーブルから漏れ聞こえてくる。ハイビスカスの隙間から覗けば、保健室に来るところだった少女たちが、ノートを挟んで話し合いをしているのだった。
「びっくりしたけど……お陰で、ヒロインたちの詳細設定もサクっと決まったね」
「凛々しいお姉さまに、ふわふわ可愛い妹系!」
「それと、もう少しシリアスにしたいな。禁断の百合モノだからっていうんじゃなく、やっぱり愛し合う2人に純粋も不純もないと思うし」
 少女たちは楽しそうだが、表情は真剣だ。
「頑張った甲斐があった……のかな」
「はぅう、みたいですね」
 茂理とサラが、苦笑に近い微笑を交わす。
「……ところで、百合って花以外に意味があるのか?」
 冬華が首を傾げ、意味を知っている者たちがどう説明したものかと悩んだりしつつ。和やかな時間が過ぎていった。
「さて……なんだか、アイツの顔が見たくなったな」
 甘酸っぱいフラッペの最後の一口を唇に運びながら、斎は呟く。
 真剣に愛し合っていれば、不純も純粋もない。他人が、ましてやゴーストが、決め付けることなどできないのだ。
 あの保健室に、不純を叫ぶ地縛霊が現れることは、きっともう二度とない。


マスター:階アトリ 紹介ページ
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作成日:2009/07/31
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