星の砂浜ときらめく思い出


     



<オープニング>


 7月19日、20日の両日に行われた銀誓館学園の学園祭2009は、無事に終了の時を迎えた。
 今年の学園祭も、大きな盛り上がりを見せ、2日間の学園祭はあっという間に過ぎ去っていった。
 毎年大盛況の水着コンテストは、総参加者が2400人を超えたため、候補者の水着を見て回るだけで日が暮れる程であったし、多数の能力者同士が最後の一人になるまで戦ったバトルロワイアルもまた、熱戦に次ぐ熱戦が繰り広げられたのだ。
 勿論、結社の仲間達と共に準備した結社企画も、例年以上に趣向をこらしたものが多数あり、盛況のうちに幕を下ろしている。

 そして今、一般客は全て家路につき、校舎の明かりも消え、下校を促すアナウンスが流れている。
 だが、まだまだ学園祭は終わらない。
 そう、学園祭の最後を飾るイベント、打ち上げパーティーは、これから始まるのだから。

 さぁ、学園祭終了後のお楽しみ、結社ごとに行なわれる打ち上げパーティーへ、仲間と共に出かけましょう!
 
●打ち上げ会場、江ノ島海岸
 学園を出てしばらく歩けば辿りつける夜の浜辺。
 ピクニックのように連なって歩いてきた学生達は、海岸に幾つかの灯りを発見します。
 それは、燃え盛るキャンプファイアーの炎でした。
 今日は、特別に許可を得て、学園祭の打ち上げの為にキャンプファイアーが設置されているのです。
 踊るのもよし、歌うものよし。
 結社の仲間達と、キャンプファイアーの炎に照らされながら、夜の浜辺で楽しい一時を過ごしましょう。
 なお、キャンプファイアーにゴミを投げ込むのは禁止です。
 また、ゴミは各自で必ず持ち帰るようにしてください(キャンプファイアーの後片付けは、翌日までに業者の方がしてくれます)。


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参加者
NPC:霧崎・若葉(中学生ナイトメア適合者・bn0198)




<リプレイ>

 日が沈み、すっかり暗くなった浜辺に、銀誓館学園の生徒達が集まっていた。
「かんぱーい!」
 キャンプファイアーの前で料理を囲んでいるのは、『Angels of death〜黒十字教会〜』の面々だ。
「うまくいって良かった。……皆さんのおかげです」
 音頭を取ったヒャーリスの言葉に、皆大した事はしていないと首を振る。
「それより食べよう。早くしないと溶けるぞ」
 瀞は、ベルシャザールの饗宴に手を伸ばした。
 持ち寄った料理は、学園祭で出していたオリジナルメニューの数々。ベルシャザールの饗宴は、アイスとフルーツの盛り合わせだ。頷いて、キルディーは皆にそれを取り分ける。
「学園祭ではプラネタリウムの夜空でしたが、今度は本当の夜空ですね」
 ヒャーリスは空を見上げて目を細める。
「うん、綺麗……」
 華は頷くと、ロザリオの誓い……パンケーキへ手を伸ばす。それぞれのメニューにちなんだ思い出を皆が口に出せば、夕方になって合流したばかりの瀞が楽しそうに耳を傾ける。
「俺、これで一瞬死にかけたんだよな……」
 遠い目をしながら、シャーバインは真っ赤なピザを置いた。悪魔の復讐、激辛ピザだ。皆にも一度くらい、と勧めるシャーバインだが。
「ええと、私は……」
「お前が食べろ」
「それより、こっちがいいと思うけど……」
 戸惑うヒャーリスの隣でキルディーが皿ごと押し返せば、華が天使の抱擁……オムライスを置く。
「……ちえ」
 苦笑するジャーバインに、全員が笑った。
「みんなお疲れさん!」
 ジュースで乾杯しているのは『町外れの古屋敷』のメンバー。彼らは思い思いのコスチュームで集まっている。その多くは、学園祭の写真館で使われていた物だ。
「楽しい2日間だった、ねっ!」
 ウェスタンカウボーイ姿の玲樹は、そう言うと小道具の水鉄砲の引き金を引いた。ぴゅーっと飛んだ水が、皆に弾けて悲鳴があがる。
「何をするかと思えば。そのような立ち振る舞いでは、英国紳士の気品が疑われるわよ?」
 言いながら笑うライムは、水着コンテストで着た水着姿だ。だからって、まさか濡れるだなんて思いもしなかったけど。
「もう!」
「まあまあ。ところでこれ、さっき拾ったんやけど」
 叱ろうとするのはメイド服姿の姉の莱花。それを取りなすように、ハイカラさん姿の姫乃が出したのは、砂浜で拾ったばかりの貝殻だ。耳に当てれば、波の音が寄せて返す。
 素敵ね、と莱花が応えるそこへ、にこやかにケーキを置くのは琉紫葵だ。
「食べたい物があればお取りしますよ」
 遠慮なく言って下さいね、と琉紫葵はケーキや紅茶を配っていく。ドレス姿での優雅な給仕ぶりは実に見事なものだ。……初対面で彼が男性だと気付くのは至難の業だろう。
「さあ、パーッと楽しぅ盛り上がるとしよう♪」
 バニーさん姿の夕香里は皆を誘ってキャンプファイアーの前で踊り始める。その様子に莱花はギターを持つと、軽快なメロディを添えた。
「そうですね、せっかくですし踊りましょう」
 智尋は少し考えて、今のカンフーチャイナ服にあわせた中華風の武舞を披露する。曲に合わせた身軽な動きは、弾む心を表すかのようだ。
「芽李様、宜しければお手をどうぞ」
 誰か一緒に踊ってくれないかな〜ときょろきょろしていた芽李に、すっと差し出された手はアキシロのもの。
「えへへ、喜んで!」
 勿論、芽李に断る理由は無い。そっとその手に掌を重ねて、アキシロと一緒にダンスを楽しむ。身に纏ったお嬢様風の服装もあってか、今だけは本当に、お嬢様になったかのようだ。
「私も踊ってみて……いいですか?」
「もっちろん!」
 勇気を出して、一歩踏み出した凛に智尋が二つ返事で頷く。初めてでも踊りやすそうなステップに切り替えた動作を真似する凛だが、ぎこちなさは否めない。でも、とても楽しいと、凛は思わず笑顔になる。
「セシリアも、ほら」
「ふふ、そうね」
 ナース姿のセシリアも輪に飛び込む。手に持った玩具の注射器は、服の隙間にしまいこんで。でも、癒して欲しい人がいるなら、いつでも癒してあげるわよ、なんて極上のウインクを飛ばす。
「……こうやって、見知った顔と火を囲むのは、悪くないねえ」
 少し離れてそれを見ていた書生服姿の興和は、いつしか笑みを浮かべていた。
 大きな火は少し怖いから、ほんの少し距離を取ったけれど、でも、こうやって皆を眺めているのは楽しい。
「審査員特別賞なんて実感無かったけど、今にして思えば、すごい事なんだよなー」
 隣では、同じく書生服姿のさなが、ようやく沸いた実感と共に呟いている。
 イベント企画、審査員特別賞。数時間前に届いた受賞の知らせは本当に嬉しくて。だからこそ、皆の笑顔がより輝いて見えるのかもしれない。
「……」
 火が苦手な悠良は、キャンプファイヤーの前で踊っているみんなを見てうずうずしていた。踊りは大好きだけど、火は怖いから……結局、考えあぐねた末、悠良は火から少し離れて踊り始める。
「ねえナギ。見物してるくらいなら一緒に踊ろ?」
「いや、俺は……ったく、仕方ないな」
 悠良は座って眺めていた梛樹の手を引っ張る。絶対に踊らないと、そう心に決めていた梛樹だったけれど、あんまりにも笑顔で悠良が誘うものだから……溜息交じりに苦笑すると、一緒になって踊りだす。
「俺も混ざろうかな〜」
 笑顔で踊るみんなを見ていると、龍麻の心も弾んでくる。
 学園祭はあまり見て回れなかったから、後夜祭くらいと思って歩いていた龍麻だけれど、きっと、これも何かの縁だろう。
 龍麻もまた、踊りの輪へと飛び込んだ。

「かんぱ……」
 ぷしゅーっ!
 ……戒璃と乾杯しようとした漣花は、彼の手元から噴き出して溢れる炭酸を見て、堪えきれない様子で笑い声をあげた。
 本当に引っかかるなんて。
「ごめんなさい、つい悪戯心が」
「大丈夫や」
 戒璃は笑いながら「こんな事もあろうかと」とおしぼりを取り出す。どうやら予想の範疇だったらしい。改めて乾杯をして、語り合うのは学園祭の思い出。
「あれ、食べました?」
「……たまごかけメロンか」
 期待の眼差しを向ける漣花に、複雑な表情で頷く戒璃。ユニークなメニューを味わうのもまた、学園祭の醍醐味……なのかもしれない。
「ああ……あっという間だったね」
 一息つきながら、友梨は星を見上げた。こんな風に、星を見上げて一杯だなんて、なかなか贅沢だなと友梨は思う。
「おかわりはいかがですか? お嬢様方」
 ボトルを掲げた蘭人に、なら、と友梨はコップを出した。隣の芽亜もそれに倣いつつ、ふと通りかかった若葉に気付いて立ち上がる。
「こんばんは、若葉様」
「まあ。ごきげんよう」
 お辞儀にお辞儀を返す若葉に、友梨は新しいコップを用意する。喫茶店の話題で盛り上がり始める女性陣を眺め、蘭人は思わず微笑む。
 卒業しても、後輩達が楽しそうにしているのは嬉しいものだ。……同じ卒業生の友梨が一緒になって楽しんでいるのを見ると、ちょっと羨ましいと思わなくもないけれど。
「若葉様、よければ堤防に登ってみませんこと?」
「堤防に? ええ、構いませんわ」
 やがて、そう芽亜と若葉が歩いていくのを見送ると、友梨と蘭人はコップに飲み物を注ぎ、もう一度小さく乾杯して空を見た。
「学園祭、面白かった?」
「うん。いろいろ食べ歩きして……あ、お兄ちゃんと食べたたこ焼き、美味しかったね♪」
 フゲと一緒に砂浜を歩きながら、霞は満面の笑顔を向けた。楽しそうに思い出を口にする霞を、フゲもまた楽しそうに見つめる。いい思い出になったみたいで、良かったと。
「でね……お兄ちゃん、ありがと! ずーっと大好き♪」
 本当に楽しかったから。でも、それは今日のことだけじゃない。いつもずっとありがとう。その気持ちを込めて、霞はフゲに飛びつく。
「夢……」
 フゲは一瞬動きを止めたもの、すぐに笑って、ぽんぽんとその頭を撫でた。
「小桃ちゃん、大好きだーっ!」
「そ、そんなにべたべたしてくるでないっ。暑苦しいのじゃっ!」
 星空の下を2人で歩きながら、ひっつこうとする飴。でも、それを真っ赤になりながら、小桃はぺしぺし振り払おうとする。
(「……バレバレじゃろうか」)
 本当の気持ちは飴に悟られているだろうか?
 ちらと彼の方を見れば、飴はいつになく真面目な顔で小桃を見ていた。
「飴?」
「……あのね」
 大好きだから。伝えても伝えても、伝えきれないくらいの想いがあるから。だから、飴は小桃を抱きしめて、それから。
「愛してるよ、小桃ちゃん」
 そっと、その唇に触れる。唇で。
「……わらわ、も」
 それが離れた時、小桃の口から、今だけは素直に言葉が紡がれた。
 好き、と。

「眠ってしまいましたか……」
 華呼は、すやすやと寝息を立てて眠るいつきの髪を、そっと撫でた。
 彼が団長として、この2日間とても頑張っていた事を知っていたから。……今日だけ、特別に、膝枕をしてあげる、と。
(「いつきくん、ずっとして欲しいって言ってたから……」)
 ご褒美に、とそうしてあげたら、いつきも最初は星空を見上げていたけど……いつしか眠りに落ちてしまったのだ。
 でも、これはこれで。
 彼の重みを感じながら星を見上げるのは、なんだか安らぐ時間のように思えて。
「……お疲れさま」
 いつきの耳元に、華呼はそっと囁いた。
「これ?」
「あげる。名前が気に入ったから貰って来たのよ」
 そう笑う沙環が差し出したクッキーを、灯里はぱくりとくわえた。
 一緒に学園祭を回っていた最中、立ち寄ったお店で貰ったお土産だ。口の中にさくさくした感触と甘さが広がれば、脳裏に楽しかった思い出がよぎる。
「どう?」
「幸せな思い出と、それをくれる沙環の優しい味だね」
 笑い返す灯里に沙環もまた笑みを浮かべて、そのまま、灯里に寄り添って瞳を閉じる。そんな彼女を見つめて、灯里は空を見上げた。満天の星空。あれに負けないくらい、きらきら輝く思い出を胸に。
「星を見ながら過ごす打ち上げ、というのがMeteoreらしいですよね」
「そうだね。海辺の夜空を見ながらお茶会……嬉しいな」
 持参したスコーンやクッキーを広げ、アイスティーを詰めた水筒を出して。みんなに配ろうとする陸を手伝いながら水澄花は頷いた。
「とても素敵な学園祭でした。星も綺麗で……」
 それらは、どれも喫茶店で出していた物だ。手に取ると思い出が蘇って、美慧はふいに空を見上げた。昨日の星空、今日の星空。どちらも素敵な、星ばかりの空。
「楽しいと思った数だけ、いつもよりきらめいているんでしょうね……なんて」
 私らしくないですよねっ、と照れ笑いする美慧に、皆、首を振りながら、その気持ちが分かるような気がすると頷く。
「夜の海って何だか怖いイメージでしたけど、今日は不思議と暖かい感じがします」
 スコーンを見て嬉しくなりながら、永久乃はアイスティーを抱えて微笑んだ。それは炎があるからだろうか。それとも星の光が優しいからだろうか。それとも……。
「……私、忘れません」
 みんなで協力しての準備、学園祭の夜。それから、このひととき。
 陸は空ではなく皆を見つめる。彼女達こそ、自分にとっての大切な星だから。
「あ、流れ星!」
 美慧の声に皆、空を見上げた。
 ……この空のように、たくさんの人がいるこの世界で、みんなと出会えて良かった。そう改めて思いながら。

「ふふ、色々持って来たんだから」
 オーソドックスな手持ちの物から、ねずみ、そして線香まで。
 さつきが取り出したのは、色とりどりの花火達。
「へえ、色々あるんだな」
 感心した様子で手に取る雅之。和奈もうきうきと花火を手に取り、次々と火をつける。
「綺麗です……」
 花火が初めての晶は、その美しさに釘付けだ。あっという間に消える花火は儚くて、でも、とても綺麗だと思う。
「そーれっ、二刀流ー!」
「りょ、両手は危ないよ?」
 心配するさつきだが、和奈は「平気平気♪」と満面の笑顔。注意はしたものの、あんまりにも楽しそうな姿を見ていると、これはこれで……と思わないでもない。
 さつきは、そのままねずみ花火を手に取って。
「……危ないから、追いかけられたら逃げてね?」
「へ」
 ぽんと雅之の方へ放り投げた。
「! ぱ、ぱんって弾けましたよ!」
 こんな花火もあるなんて、と晶が目を丸くする中、雅之が逃げ回る。一息つくと、彼は線香花火を手に取った。
「これ、昔間違えたことあるんだよな。線香花火と。あと反対から火をつけたりとか」
「あはは」
 笑いながら、みんなで線香花火を囲むと、なんだか心が温かくなるような気がした。
「どーん♪」
 打ち上げられた花火を見て、シロは空へ両手を伸ばしながら歓声をあげた。
「危ないから離れてな」
「はーい♪」
 打ち上げているのは倖だ。気を配りつつ次の花火をつければ、また新しいぱあんと打ち上がる。
「大きい……ね」
 圧倒されつつ距離を取ると、春葵は手持ち花火を選ぶ。あ、と手に取ったのはねずみ花火。この、にょろにょろした動きが春葵は好きなのだ。
「私はこれが好きですね」
 紫衣は線香花火を持つ。ちかちかと火花が飛ぶ様子を、シロは貰った飴玉を口の中で転がしながら、興味深そうに見つめた。
(「騒がしいのは……苦手だった、はずなんだけど……」)
 春葵は、皆を見て笑う。こういうのも悪くないなって、ちょっとだけ思うから。
「……スモモちゃんもお疲れさま」
 そんな楽しんでいる皆を見つめながら、倖は囁く。……この学園に来て、本当に良かった、と。

「はーい、どうぞなんよ〜」
「ありがとっ。ネラちゃんは何がいい?」
 カンパネラにコーラを注いで貰うと、なでしこはバケツの中を漁る。
「若葉おねえちゃんも、ジュースどうぞです」
「ありがとう、悠砂ちゃん」
 ジュースの缶はまだ冷たくて、ひんやりとして気持ちいい。
「グランちゃん、疲れた?」
「……体は疲れてねぇから大丈夫だ」
 ここまでジュースを詰めたバケツを運んできたグランが、なんだかへろへろしている気がして、なでしこが問えば、グランの返事に皆が気遣わしげな視線を向けた。
 目まぐるしく過ぎた学園祭。気疲れでもしたのだろう。
「よろしければ、いかがですか? 疲れた時には甘い物がいいと言いますし」
 そう言って、ひのとが取り出したのはゼリーだった。手作りの差し入れに皆がわっと歓声をあげる。
「まあ、美味しい」
 ついつい手が進むとスプーンを動かす若葉に、それは良かったと微笑みつつ、ひのとは少しだけ照れ恥ずかしそうだ。
「お星様のクッキーも持ってきました」
 結社で残ったクッキーを出す悠砂。と、それを見てグランが言う。
「そういや、あれどうした? ロシアンシュークリーム」
「……グランさん食べたいの?」
 一応あるけど……と呟きながらビニール袋をさぐったカンパネラは、シュークリームとは違う物を取り出した。
「それより、これやりたいんよー!」
「花火だー!」
「海辺で花火なんて、素敵ですね」
 確かにそっちのがいいか、とグランがバケツの準備を整えて。皆が取った手持ち花火から、次々火花が飛び出していく。
「花火なんて初め……うわぁ!」
 見よう見まねで火をつけたなでしこは、先端の紙が燃え尽きるのを見て「あれ?」と首を傾げたものの、次の瞬間、飛び出した花火に目を輝かせた。
「俺、2本いっぺんに持って花火したいっ」
 わくわくを隠しきれない様子で、カンパネラは両手に持った花火をくるっと回りながら楽しむ。
「とっても、きれいなのです」
「ええ……」
 花火を眺めて悠砂とひのとは笑い合う。その輝きは星よりもきらきらしていて、今までのどんな花火よりも綺麗な気がして。
 夜の浜辺で、みんなの目にしっかりと焼き付けられた。

「花火かぁ……」
「やるかい? あるよ」
「! やるやる!」
 耕治の言葉に、暁は諸手をあげてはしゃぐ。結社企画で作ったサンドイッチやチーズケーキは、もうあらかたお腹の中。食後は花火で遊ぼうと、耕治と瑛璃が持ち寄っておいた物を取り出す。
 瑛璃が水を用意する間も、暁はそわそわ。待ちきれない様子で、準備が整うとすぐさま花火に火をつける。
「落ち着きが無いな……」
 苦笑しつつ、耕治は「この順番でやるのが一番面白いだろう」と思われる順番に花火を並べておいてやる。選んだのは色の変化が激しい物や、ユニークな花火ばかり。もちろん、どれがどんな花火なのかは、耕治の頭にすべてインプット済みだ。
 その中に線香花火が混ぜられているのは、それが一番好きだという瑛璃によるものだ。
「わ! すげ〜♪」
 七色に変化していく花火に、暁は心の底から楽しげに声をあげる。
「あれ? やらないんですか?」
「これが僕のポジションだからね。気にせずに花火を楽しんでもらえるかな……?」
 花火を取ろうとしない耕治に首を傾げる瑛璃だが、耕治はそう首を振ってカメラを構える。シャッターを切れば、極上のアングルで、暁と瑛璃の姿が収められた。
「わっ、冷た……」
 零は手首を伝う感触に慌てふためく。学園祭の思い出を語り合ううちに、すっかり夢中になりすぎてアイスが溶けてしまったのだ。
「あ。ボク、花火持ってきたですよ」
「お、いいっすね!」
 思い出した様子で零が花火を出すと、士狼は早速手を伸ばす。色とりどりの花火をひとしきり遊んで、最後に残るのは線香花火。
「誰が最後まで残るかな?」
「……勝負といきやしょうか」
「どれにするか、選ぶ所から戦いだな」
 灰霧は真剣な顔で線香花火を選ぶ。そして、3人で円になると、一斉に火をつける。
「じっとしてると、誰かのにくっつけて落としたくなるんすよねぃ〜」
「!」
「……2人ともそんな顔せんで下さいよ。冗談すから」
 志狼の呟きに警戒する2人を見て、けらけら笑った志狼が顔を青くする。その間に、線香花火がふるふる震え始めたからだ。
 一生懸命、それを支える志狼を見つつ、不意に灰霧は口にした。
「そういや、落とさず終えたら願いが叶う、なんて聞いた事があるけど」
「へえ、何をお願いするの?」
「……秘密」
 灰霧は悟られないように隠して笑う。……皆に幸あれ、なんて、柄じゃないから絶対に言えない。

「今日は本当にお疲れ様だ。色々と任せてしまった部分も多々あったが、本当にみんなのおかげで……って、長々言ってたらはじまらないな」
 苦笑して、煌輝が「乾杯!」と合図を取ると、それに万華堂の面々が合唱する。
「皆さん、お疲れさまでした」
 早速空になったコップに紫苑がおかわりを注いでいく。彼らの前には、お店で出したお茶とお団子と……それから、花火。
「これが日本の夏……!」
「素敵ですわよね」
 浴衣に花火は、日本の夏の風物詩。そう聞いていたフォアは、浴衣姿で瞳を輝かせて花火を楽しんでいた。隣で、同じように花火を手にして目を細めている若葉の言葉に、フォアはうんうん頷き返す。
 花火はあっという間に減っていき、最後に残ったのは線香花火。
「美しいですね……」
 火花を飛ばす線香花火と、夜空を交互に見つめ、紫苑は思わず零す。楽しい学園祭の終わり。それはちょっと寂しいけれど……素敵な思い出。
「若葉も楽しめたか?」
「もちろん」
 微笑み返す若葉に、それは良かったと頷いて。次もまた、みんなで楽しい思い出を作れたらいいなと笑う煌輝に、皆万感の思いを込めて頷いた。
「……もう少し、お喋りしていきません?」
「ん? そうだな。昼間はごたごたしてたし」
 花火が終われば帰る時間……でも、もう少しだけと誘う秀一郎に真澄は頷いた。
「……あの、さ」
 指先に、ちらと目をやって。真澄は思いきって言う。
「繋いでも……いいかな?」
「手ですか? いいですよ。でも」
 1度繋いだら、そのままずっと離せなくなるかも。……そう照れ隠しのように赤い顔で笑う秀一郎に、真澄はそっと手を重ねた。

 そうして、学園祭の夜は更けていく――きらきら輝く、みんなの思い出を包みながら。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:64人
作成日:2009/08/03
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