仮装でパーティ? 肝試し?〜Banri's birthday


<オープニング>


「寒いよ寒いっ。こんな日に野球行くだなんて、高城ホント好きだな〜」
 肩をさすっても瞬間的な熱しか生まれず、井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)は、ある少女の名を口にする。当人は既に、自転車へ跨り颯爽と何処かへ向かってしまったようだ。
 誕生日なのにいつもと変わらないよなぁ、と恭賀がため息混じりに呟く。
「ほう、野球猫の誕生日か」
「うわびびびっくりしたー! 後ろから急に話しかけないでって言っただろ〜っ」
 彼の呟きを掬い取ったのは、神谷・轟(高校生ゴーストチェイサー・bn0264)だ。
 飛び退いた恭賀に、彼はひらりと手を振り笑う。
「せっかくだ、祝いの場を設けるのも良い。……野球以外で好きなものは?」
「うーん、ファッション?」
 疑問系で返され、轟の口角が僅かに上がる。
「雑誌買ってるの結構見るし、あと食い意地張ってるね」
 後者に関しては感付いているのだろうか。轟は深く頷いた。
 しかし、パーティの参考にするには情報が少ない。
「……ところで予報士の、脇に抱えてる物は何だ?」
 轟はふと、いや先程から微かに気になっていた物へ視線を落とす。思い出したように恭賀が取り出したのは絵本だ。ハロウィンやクリスマスの時期によく見かける、飛び出す絵本で。
 ――ハロウィン。
 表紙に描かれた、仮装行列の絵。
 それを見た恭賀は、これだ〜、と目を輝かせ、何の気なしに表紙をめくる。
「いやぁ、さっすがあの子! 超いいヒントもらっちゃったよ〜。後でお礼言いに……」
 パパパパンッ!!
 突如響き渡った弾け散る音。そしてはらはら舞うのは、細い紙テープと紙吹雪だ。
 忙しない足音と共に、目の前にいた姿が忽然と消え、轟は思わず肩を竦める。
「そんな礼を言いに急がなくても、逃げやしないだろうに」
 他人事のように、床へ寝そべる絵本を拾い上げた。


「こうなったら仮装して驚かそう! めちゃくちゃビックリさせよう!」
 妙に気合の入った様子で、恭賀は君へ声をかけてきた。彼の後背では、轟が傍観者のように佇んでいる。
 君の力が必要なんだ、と真剣に恭賀が言うものだから何かと思えば、所謂ハロウィンパーティへのお誘いで。

 概要はこうだ。
 草野球帰りの万里を待ち構え、ハロウィンらしい理由をこじつけて一緒に遊ぼうと誘う。お祭りごとや変わったおふざけが好きな彼女だ。易々と乗ってくれる。
 そして、そのまま万里を連れて山へ向かう。ただでさえ、草野球の会場となるグラウンドの周囲は、建物も人気も無い場所。そこから近い山へ入りはしゃいでも、咎められる心配は無い。
「使役ゴーストさんも一緒にさ、山で肝試しっぽいハロウィンパーティやろうよ〜」
 微妙に時期外れだった。
「山って言っても登りきれる高さだし、頂上んとこは開けてて景色も最高なんだ」
 中腹までは緩やかで、容易に駆け回れるものの、中腹から山頂までは急勾配のため、走ると疲労する。しかし生い茂る植物や木々があるため、隠れたり何かを仕掛けるにはぴったりだ。
 また、頂上には巨木が立つ。最終的に目指すのはそこだ。

「普段驚かないような人を脅かすってのも、楽しいよね、うん」
 恭賀いわく、万里は割りとお化けや虫の類にも強く、そう簡単に悲鳴を上げるような性質ではないらしい。そういう性格の人は、他にもたくさんいるだろう。
 名目上は『山頂でのハロウィンパーティ(要仮装)』だ。
 それを理由に――万里のような――普段怖がる素振りの無い知人を誘うのも良い。
「イタズラは度を越えない程度に楽しもうね。トリックオアトリート〜」
「となると、菓子も要るか」
 漸く口を開いた轟の言葉に、恭賀は振り向いた。
「あ、山頂にもお菓子用意しとくよ。各自持ち歩くのもいいし、最後に食べるのもいいね」

 半ば呆然と聞いているだけだった君に、恭賀は「良かったらお友達も誘ってねー」と緩い笑顔を見せる。
 面識の有無は問わない。とにかく大勢で楽しめれば、万里にとっても良い思い出となるだろう。
 もちろん、主旨から外れる行為や、アビリティ、武具の使用は禁止だ。
「高城に何着せるかは決めてないやー。あ、俺はキャプテンやるよキャプテン」
 真紅のロングコートに華やかなシャツ、そして海賊のハットをかぶりたいと恭賀は言う。
 徐に君が轟へ視線を向けると、轟は不敵な笑みを唇へ刷いて、
「俺はガンマンの衣装でも着ておく。主目的は、これだからな」
 持ち歩いているらしいデジカメをポケットから取り出した。
「ええと、そういうことだから準備しておいてね、それじゃねー」
 恭賀は次の人へ誘いをかけるべく、さっさと走って行ってしまった。
 戸惑う君へ、轟が小さく肩を竦める。
「気が向いたらで構わない。が、俺も向こうで会えると期待している」

 君はこのパーティに参加する? それとも、参加しない?

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参加者
NPC:高城・万里(田舎育ちの野球猫・bn0104)




<リプレイ>


「人の気配がしないわ、ね」
 緩やかな山道を、妖精に手を引かれ登る少女。高城・万里は、その静けさに素直な感想を述べた。せっかくだからと由衣が勧めた、黄を基調としたドレスを纏って。
「山頂で会えるわよ。先導役は任せて」
 純白のワンピースをふわりと靡かせ、妖精の由衣が手を引く。
 二人についていくのは、ぴょんぴょこと片足立ちで頑張る龍麻だ。案山子に扮した彼は、その姿を崩さぬよう跳ねる。
「普通のお化けは平気なのかな?」
 彼の問いに、ええ、と頷いた万里の許へ、同じく案内役を買って出た亮とシャズナ、そしてジングルが寄ってきた。黒猫を思わせる服装の亮は、何処か温かそうな袖から、闇にまぎれる黒い皮手袋をちらつかせる。
 一緒に行こうとの誘いと共に右手を差し出せば、応じた万里も手を伸ばす。
 ぼとん――。
 何かが転がり落ち、その場にいた者達が反射的に地面を見下ろす。そこには、亮の右手があった。
 一瞬の沈黙の後、返り血を浴びたサンタ、ジングルが、わなわなと唇を震わせて。
「ヒャァァァアアッ!!!」
「だ、大夫だよジン! ほらこれ偽物だからっ!」
「あたしも驚いて目が取れちゃった、わ」
「うわああああ!!?」
 万里が手の平に一つだけ目玉を転がし、亮たちに差し出す。それを見てか見ずしてか、いくつもの悲鳴が重なり直後にはすっかり人気が失せてしまう。由衣も驚きのあまり、身を固めてしまっていて。
「まっ待ってェー! ついでに怖がってーっ!」
 中華風の衣装で額に札を貼り付けた小夏が、ケルベロスオメガのらおーと並んで飛び跳ねてきた。跳ね方が跳ね方のためか、やや出遅れたらしい。
 ぜえぜえと息を切らす小夏も一緒に、残された側は再び歩き始める。


 謎のアフロ男と遭遇したのは、そのすぐ後だった。
「万里、どんなことしたら驚く?」
 ストレートな質問をぶつけたアフロ男、奈緒は期待と僅かな不安を胸に答えを待つ。何が返ろうとやり遂げて見せる、と意気込む彼の拳はぎゅっと握られたままだ。
 万里が手を俯いた顔へ添えた刹那。
「とりっくおあとりーッ!」
 不意に背後から彼女へ抱きついたのは化け猫の瞳だ。「あら」などと澄ました声で振り向いた万里は、瞳とエルの顔を見つけて表情を綻ばせた。
 すぐ近くを通り過ぎていくのは、『町外れの古屋敷』だ。驚かす方を楽しむ者もいれば、驚かされる側として山頂を目指す彼らのような者もいて。
「大分寒くなってきたよねえ」
 真っ赤な衣装をクールに纏い、玲樹がホットココアを蓮明へ手渡す。白い息を長く吐き、蓮明は有り難く頂戴したココアで手を温めながら、礼を告げた。
「……水澤殿はどこまでいってしまわれたのでしょうかねぇ」
 やたらざわめく木々の横を進むうち、蓮明はぼとぼとと落ちてきた黒い物体に天を仰いだ。玲樹はといえば、丁度腕へ着地したそれが何かを知り、凍りつく。
「蜘蛛!? だから山は苦手なんだーっ!」
「……落ち着いてください、それは玩具です。風見殿、風見殿ー?」
 蓮明の呼びかけなど耳に入らないらしく、絶賛虫嫌い発動中の玲樹は、瞬く間に砂煙を上げ、姿を眩ませてしまった。後姿を見送った蓮明は、木から軽々降りてきた芽李と目が合い、肩を竦める。

 静寂を破る賑やかさは、随所で起こっていた。
 そんな世界の中を歩き、万里は少しばかり頬を緩める。着慣れないドレスの裾を掴み歩く彼女の前へ、次に姿を現したのはタキシードを着た案山子だ。不浮かぶ白いマスクからは、不敵な笑みが映って見える。水平に広げた腕の先、山奥は彼が羽織ったマントにより遮られていて。
 声をかけても反応しない案山子に、万里がそろそろと忍び寄れば、マントの影から真っ白い着物に身を包んだ狐面がゆるりと踏み出す。顔の窺い難い彼らへと近づいた万里は、直後一斉に飛び出してきた幾人もの影に、身を構えた。
 巨大なシーツで顔を隠し微笑む姿もあれば、シルクハットを斜めにかぶった正装で佇む者達までいる。
 ばさりと布を翻る音が奏でられ、身構える彼女の後背へ何かが舞い降りる。そして彼の者のローブから、一匹の猫が姿を見せた。ミニシルクハットを括りつけ、燕尾服猫を着たその姿はまさに、ケットシーのごとく。同時に本物のケットシー・ワンダラー、レイも飛び出して。
 ――囲まれた……。
 万里が辺りを見回せば、誰もが顔を覆っていた仮面や帽子を除け、襲撃者達の人相が明らかとなる。
「がおー」
 聞き覚えのある声。
 ぽかんと口を開けた万里の前へ、明るみになった笑顔が並ぶ。
「トリック・オア・トリート。そして誕生日おめでとう、我らが友よ!」
 六芒会の仲間達からあがる言葉と音に瞳を眇めた少女は、ふと小さなケットシーから、一枚のカードを差し出される。
 カードを見下ろす万里の指先は、微かに震えていた。

 ぴーひょろ〜。
 空気を揺らす音は、恐怖を呼ぶのとは反対で、奏者である柾世も首を傾いだ。傍らにいた紫空が思わずこけそうになる。にも関わらず、おかしいな、と呟きながらも彼はリコーダーの代わりに尺八を手に取った。
 ブフォー。
 地を響く音色からは、恐怖の欠片もなく。
 再び膝の力が抜けかけた紫空は、頭に巻いた白い三角布を整える。
「……まぁ、そのなんだ……愉快で良いじゃないか」
 そう告げる柾世の目は、遠くを見つめていた。
 笛の音が木霊した大自然の先、圭吾はかぶった帽子を指差し、目をきっらきらと輝かせていた。
「この帽子を取ってみてください」
 こくりと頷き万里が何の迷いもなく彼の帽子を掴んでみると、ぼわんとまるで膨張したかのように抑えられていたアフロヘアーが露わとなって。
 しかし、万里は驚くどころかアフロを少しだけ摘んで引っ張り始めた。
「そのへんにしとかないとソレ取れちゃうよー」
 近くを通りかかった運命予報士、井伏・恭賀がその光景に小さく笑う。
 同じタイミングで、圭吾へと後ろから声をかける弥琴の姿があった。
「先輩。落し物ー」
「ぬひゃー!」
 振り返ってすぐの場所に立つ殺し屋ジャックに、圭吾が悲鳴をあげる。連鎖ゆえか運命か、木陰の暗がりに隠れていたウィルがその悲鳴に驚き近寄れば、今度はウィルを見て叫び声が飛んだ。
 白い着流しに狐の面では、さすがに怖い。
「もへえぇえー!!」
「ぎゃああああ!」
 驚いたのはどうやら彼だけではないようだ。圭吾の悲鳴とお稲荷なウィルの連携攻撃(?)に、運命予報士がぴゅーんと一目散に逃げ去ってしまう。一部始終を眺めていた万里は、くすくすと笑いを零して。
 ふと、冷静なままでいた弥琴が思い出したようにウィッグを掲げてみせる。
「あ、これ、金髪縦巻きロールも似合うと思うんだ……! 玲とウィル先輩もどう?」
「お前らなぁ……」
 呆れというより楽しげに肩を震わせたのは玲紋だ。そしてふと、本来の目的を蘇らせ、万里へ視線を移す。
「なんか賑やかな誕生日だな」
 本当にね、と返る声音は嬉々としたものだった。


 轟く悲鳴。阿鼻叫喚。
 まさか日常にそびえたつ山で遭遇しようとは、誰が想像できたであろうか。
 見つけた知り合いに声をかけるだけでも、混乱へと続く一歩となってしまうのだ。
 死神姿の翔太もまた、その犠牲者の一人で。
「うわああああ!?」
 和服姿の麻花をびっくりさせる予定が、叫んでしまったのは彼自身だった。振り向いた般若面の鬼女に、軽く飛びのく。しかしそんな彼の心など露知らず、聞こえるのはマイペースな声。
「あ、やっぱりしょーたんです」
 ひとりぼっちだった麻花にとって、それは喜ばしい再会だ。思わず形振り構わず般若面ダッシュ。
「うわあああ般若こえええええ!!」
 そうして始まった鬼ごっこが通り過ぎたのを知り、ルシアは怯える心を飲み込むかのように口を閉ざしたまま、イグニスの腕をぎゅっと掴んで離さない。
 見るからに怖がっている少女へ、イグニスは瞳をすがめた。
「足元に気をつけなよ、ルーシー」
 腕を通して伝わる、頼られているのだという感覚に、イグニスは口角を僅かにあげる。
 パパパーン――!
 途端、クラッカーが弾ける衝撃が響いた。道場「極」の面々が、だいぶ先で固まっている。
 クラッカーを引いたのは枝璃夏だ。黒衣を整え、満悦を表情へ乗せている。紙テープがひらひらと辺りに漂い、万里もまた、散った紙ふぶきに鼻をくすぐられて。
「わぁっ!」
 クラッカーに気を取られる万里の背中へ、大声と共に籠を押し付けたのは赤頭巾をかぶったココナだった。籠にたっぷり入った菓子を見せながら、
「いっぱい詰めてきたんよ〜」
 と、柔らかく微笑んだ。
 直後、パラパラと空から飴が降った。カボチャの形をした飴が、万里を含めそこにいた人々へと恵みをもたらす。木の上に腰掛けたカボチャのお姫様、熾火がそうしたのだ。
 一方の刄は、吸血鬼というキマッた格好にプラスアルファ、愛用のきのこぬいぐるみを抱えていて。
「オレ、ワイルドだろ? なあ枝璃夏」
 確認するように振り返った先では、枝璃夏も胸を張り対抗心を吐き出す。
「ワイルドさなら負けないぜ? 俺の方が男前!」
 鼻を鳴らす二人の横を通り過ぎ、万里はもらった飴を舐めながら山頂へと向かう。
 ずいぶん時間がかかったように思えて、食べ物はまだ残っているだろうかなどと、パーティの心配がよぎり始めた。
 警戒を薄めたらしい彼女の許へ、草むらから突如姿を現した死神が走る。
「能力者として長い年月は、自身をゴーストを狩るだけの只の死神に変えてしまうかもしれない」
 落ち着いた問いかけ、克乙が万里へ放った。
「……貴女はその恐怖に勝てますか?」
 目を瞬かせた万里は、投げられた質問に迷わず。
「怖くない、わ」
 思いのほか、それは優しい音になった。
「この広い世界で、ひとりだけじゃないんだもの」

 同じ頃。
 山頂付近で準備を始める『アプリ』のメンバーは、ターゲットを万里ではなく、別の人物へ絞っていた。
「恭賀くんがひっくり返る姿が目に浮かぶようですヨ」
 によによと表情を緩ませた真夏は、楽しげに笑うとジャックオーランタンの被り物をかぶり、白マントを羽織る。
 ――お世話になった恭賀さんに、いいのかしら。
 真っ白なメイクを施したアンナが、鏡で最終確認を取りながら疑問を抱く。もっとも、それもすぐに飛んでいってしまうが。
 脅かし側として同じく山頂付近を訪れた恭賀と轟を発見し、『アプリ』はそろりと彼らの背後へ近づく。そして。
「わっ!」
「お菓子をくれなきゃ食べちゃうゾーっ!」
「ぎゃあ!?」
 がばっ、と飛び出した真夏たちに、びくりと震え叫んだのは真紅のロングコートを纏いキャプテンに扮した恭賀だけだ。
 同時にゴンッと鈍い音が聞こえた。視界が狭すぎる南瓜の被り物ゆえ、政美が木にぶつかったのだ。
「きちんと見えているのか?」
 藍の瞳をぱちぱちさせ、政美が轟の問いに頷く。その視界は若干心許ない。
「後ろからしかも脅かし役を脅かすなんて〜」
 半ば涙目な恭賀に、政美はくつくつと笑う。気の所為か、轟も妙に楽しげに口角を上げていて。
 それにしても、とここで言葉を紡いだのはアンナだ。
「海賊姿の恭賀さんかっこいいですね。別の意味できゃ〜ですね」
「え? そ、そうかぁ?」
 突然降って沸いた賛美に、誰が見てもそうだと解る程に恭賀がはにかむ。
 アンナはにっこりしていた表情を一変させ、そんな彼へくわっと怖い顔を向ける。
「ええ、本当に喰べてしまいたいくらいに……!」
「!!?」
 低音とその台詞に、恭賀が文字通り脱兎のごとく走り出しかけた。彼の逃亡を、危うく掴んで防いだのは轟だ。くすくすと、アンナがそこで肩を震わせる。
「ふふ、ドキドキしていただけましたでしょうか?」
「え、ええ!? なんだぁ、びっくりしたよもう〜」
 情けない恭賀の返答に、真夏も政美も、思わず笑いを零した。

 籠いっぱいに詰まった夢のような菓子の数々。
 『怠惰会』の沙夜は、赤いファーの温かさを撫でながら、その籠を万里へと差し出していた。ハロウィンらしい菓子を選んでほしいと話せば、食欲旺盛な少女は目を輝かせる。
 すぐ近くではケルベロスオメガのオルタが、諷に撫でられながらじっとしていて。
「にゃー」
 聞こえたのは、どう聞いてもケルベロスの鳴き声ではない、何か。
「……隠れる気、ゼロ?」
 沙夜が苦笑するのとほぼ同時。諷がぼそりとオルタへ囁き、口を開かせる。ぴょいっと口から飛び出したのは、猫に姿を変えた誠だ。思いがけない登場の仕方に、万里だけでなく諷も目を瞬かせた。
 そんな二つの驚きをよそに、誠は猫変身を解くと、やはり持ち寄った菓子を開きだして。
「誕生日おめでとー、ギバちゃん。記念にトリック&トリートだー」
 菓子の分け合いっこが始まった。

●山頂
 一本の巨木が佇む山頂に到着するが早いか、悠樹は元気な挨拶と共に。カボチャのクッキーを作ってきた、と箱を万里と恭賀、轟へ手渡した。
 徐に三人がふたを開ければ、真っ黒な猫の仕掛けが遠慮なしに飛び出してきて。
「ふふ、可愛いわ、ね」
 小さく笑う万里とは反対に、恭賀は胸を押さえて驚きを抑えこんだ。対照的な様にやれやれと肩を竦めた轟へ、話しかけてきたのは悠斗だ。
「轟、今度どっか撮影に行こうな」
「ああ、良い思い出になりそうだ」
 刹那、突然響き渡ったのは――。
「いくぞ、三年一組! トリックオアトリート!!」
「トリックオアトリート! がおー!」
「高城さん、トリックオアトリート、だにゃーんっ!」
 スーツを纏った三つの人影が、万里の前へ姿を見せた。吸血鬼に扮したシュカブラと、白いもふもふきぐるみに黒スーツな勘三郎、そしてスーツにプラスしてオレンジの猫耳と尻尾をつけた忍だ。
「テーマは本業合わせなんだ」
「そうだった、の。やっぱり皆さん似合うわね」
 シュカブラの弾んだ声に、万里も心なしか普段より調子を弾ませていて。
「雪女を表現すると温かくなった不思議!」
「そういう格好だから寒冷にも適応するの、ね」
 勘三郎へ、万里が本気か冗談かとんと見当がつかない言葉を返す。その時、忍が握っていた漆黒の猫耳を不意に振りかざした。
「はいっ、高城さんもにゃーん♪」
 すぽっ。
 ドレスに猫耳という不思議な組み合わせだ。万里も思わず笑い声をこぼした。
 そんな彼女達へ、静かな雨が降る。空気を濡らすものではなく、甘いキャンディーの雨だ。木の上を見遣れば、ばら撒く紗耶の姿も見受けられて。
「あ、空……」
 思わず口を開いた万里の呟きに、皆が空を仰ぐ。
 紗耶がヘリオンサインで描いた「Happy Birthday&Happy Halloween」が、天高くに横たわっていた。
 まだ始まったばかりのパーティ会場を眺め回し、万里は一度伏せた瞼をゆっくり押し上げる。
「今日はとことん騒ぐわ、よ。それと……」
 ありがとうと紡いだ唇は、気恥ずかしそうな笑顔をもたらした。

 そして少女はひとつ、大人になる。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:48人
作成日:2009/11/07
得票数:楽しい15  泣ける1  ハートフル16 
冒険結果:成功!
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