≪近くて遠い秘密のお店≫遊びつくせ、夏の海


<オープニング>


 『近くて遠い秘密のお店』。
 緑生い茂るその場所へと、近づいていく足音一つ。
 玄関前、いつものように傘をさしつつ来訪者を出迎えた猫の人形に、彼はわずかに微笑んで、扉をゆっくりと押し開けた。
 店内に、外の光が入り込む。
 振り返って眩しそうこちらを見た仲間たちに、取り出した一葉の写真を示しながら、彼――ドルミエンテ・ダルターニ(祖なる霧と夢幻の次期侯爵・b49489)は口を開いた。
「皆さん、心霊写真です」
 
「え、本当ですか?」
 目を瞬いて、風菜・詩火(刀姫・b47442)が写真へと視線を向ける。
 つられるように、みんなで額を突っつき合わせて覗き込めば、それは確かに心霊写真。
 人気のない海岸線に、ちょっとだけ背の高い、大きくせり出した崖がある。
 天然の飛び込み台だ。
 それを指さしたフェイラ・ノースウィンド(光影の北風又は白にして十字架・b48217)は、
「確かに写り込んでますね、ここ」
「奇妙な影が3つか」
 思案気にうなずく西園寺・風紗(暴風わんこ・b49492)。
 海辺の写真なのだから、海にゆかりのあるゴーストが出てくるのだろうか。
 そんな『能力者』としての思考とは別に、彼らは等しく、もう一つの思考も巡らせていた。
 すなわち、『遊びたい盛りの少年少女』の。
「海、ね……」
 囁くような小鳥遊・桐音(月光の狩人・b53243)の呟き。
 海かー、海ですねー、海ー……と、呟きは伝染する。
 広がる景色は夏の海。
 白い綿飴のような入道雲に、どこまでも続いていそうな青の海原。
 遠く、海と空が交わる水平線に、届く事がないと分かっていても、思わず泳いでいきたい衝動に駆られてしまう。
 ――いいなぁ、海……!
 彼らの心が一つになった瞬間だった。
「あ、近くに砂浜もあるみたいですよ」
 ビーチで遊んだりもできますね、とミント・ハーブラ(蒼月の浮羽・b46490)は嬉しそうに言う。
 緋牡丹・紅(高校生ヘリオン・b61517)は一つ頷き、
「行くのは決定として、問題は何をして遊ぶかだな」
「飛び込みに、ビーチバレーに、お弁当にバーベキュー……もちろん海で泳いだり、ですね」
 近藤・夕奈(コトダマ音符・b56303)の言う通り。
 海の楽しみ方は、それこそ工夫次第で千差万別、色んな遊びができるだろう。
 ――平和な夏の海岸に、現れ出でた残留思念。
 能力者として見過ごすことはできないし、それになにより、
「ゴースト退治も重要ですけど、皆で遊べる時間も重要ですよね」
 それじゃあ、準備をしたら。
 この夏の思い出を、大切な仲間たちと作りに行こう。

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参加者
ミント・ハーブラ(蒼月の浮羽・b46490)
風菜・詩火(刀姫・b47442)
フェイラ・ノースウィンド(光影の北風又は白にして十字架・b48217)
ドルミエンテ・ダルターニ(祖なる霧と夢幻の次期侯爵・b49489)
西園寺・風紗(暴風わんこ・b49492)
小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)
近藤・夕奈(コトダマ音符・b56303)
緋牡丹・紅(高校生ヘリオン・b61517)



<リプレイ>


 ざざ……ん。
 高く背の伸びた波が白い砂浜に打ち寄せて、すぐに砕けて引いていく。 
 ここは、とある寂れた海水浴場。
 人の数自体は少ないながらも、賑やかさなら他のビーチに負けてはいない。
 家族連れの姿もちらほら見えて、笑顔の子供たちが楽しそうにはしゃぎまわっている。 
 首筋を伝う汗の感触。
 遠く聞こえてくる蝉時雨。
 どこまでも続いていきそうな蒼穹の空、紺碧の海。
 水平線の彼方より、わたあめのように湧き上がる入道雲。
 ――夏の海だ。
 ざくりと砂にビーチパラソルを突き立てて、ドルミエンテ・ダルターニ(祖なる霧と夢幻の次期侯爵・b49489)は額に浮かんだ汗を拭った。
「この辺りでいいですよね?」
 まずは場所取り。パラソルの下にレジャーシートも一緒に広げて、遊びの拠点の完成だ。
「これだけ人数でどこか行くっていうのも、久しぶりだな」
 よっとクーラーボックスを肩から下ろす緋牡丹・紅(高校生ヘリオン・b61517)に、小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)もこくりと頷いた。
「せっかく海に来たのだから、さくっと倒してみんなで遊びたいものだわ」
 準備を終えたら連れ立って、件の場所へと歩いて行こう。
 ビーチから少し離れ、たどり着いたその場所は、大きくせり出した崖だった。
 夏の喧噪がフィルターを通したように、どこか遠くに感じられる。 
 天然の飛び込み台から臨む海に、風菜・詩火(刀姫・b47442)は目を細めた。
「綺麗な海ですね」
 納涼にはもってこいの涼やかさだ。
 だからこそ、と近藤・夕奈(コトダマ音符・b56303)は後を継ぎ、
「さっくり、倒して、めいいっぱい遊びましょう」
「ええ、手早く倒して海を満喫しましょう」
 ミント・ハーブラ(蒼月の浮羽・b46490)も笑顔で頷く。
 と、そこで待ったをかけたのは、フェイラ・ノースウィンド(光影の北風又は白にして十字架・b48217)だ。
「早く遊びたいからって、油断してはいけません」
 なんて注意するけれど、しっかり水着装備済み。
 ……説得力皆無!
 まあまあと西園寺・風紗(暴風わんこ・b49492)もほくそ笑み、
「せっかくの海なんだから、全力で遊ぶんだぜ!」
 戦闘も遊びも全力で!
 折角の海なのだから、思うさま遊び尽くさなければもったいない!
「皆さん、準備はいいですか?」
 ドルミエンテの確認に、皆も笑みで頷いて。
 振りかけられた詠唱銀に、妖獣たちが出現した。


 現れたのは3体。
 中の1体、うにょうにょと不気味に動くウミウシ妖獣に、う゛、と表情を引きつらせる一行。
「遠目で見るには可愛いと思います」
 なんて詩火が言うけれど、やっぱり気持ち悪いものは気持ち悪いわけで。
「ちょっとの間、眠っててください」
 鋭利な爪を閃かせるクロガネ。同時、夕奈のヒュプノヴォイスが発動し、ウミウシはぶるりと身を震わせた。
 そのままスヤスヤと眠り始めた不思議物体めがけ、瞬時に距離を詰めたミントが、勢いよく三日月を描く蹴撃を放つ。
 ……ぶにょ。
「ヌメヌメですね、しかもグニョっとします……」
 嫌そうな顔をしつつも蹴り抜いて。
 ぱぁん、と水袋のように破裂して消滅したウミウシ妖獣に、わぁ、と一部から悲鳴が上がった。
 シャキンシャキンとハサミが鳴る。
 なんだか不敵な感じのサワガニ妖獣に、
「僕も鋏で勝負です! こっちが勝利のポーズを取らせていただきますよ!」
 ドルミエンテのクロスシザーズが煌めいた。
 直撃する。が、振り回される巨大なハサミに、たまらずドルミエンテが吹き跳ばされる。
「散りなさい!」
 フェイラの光の槍を喰らっても、しぶとくハサミを鳴らすサワガニ妖獣。
 それを風紗は、豪快に笑い飛ばした。
「あーっはっは! ふーしゃさんに勝とうなど、100年早いわ!」
 生意気な、と炸裂させるジェットウインド。
『……!』
 小規模な竜巻とも言える攻撃に、妖獣がなすすべなく消えていく。
 光の槍が突き進む。
 術扇を翻らせた紅は、しかしそれが難なく弾かれたのをに瞠目した。
 ヤドカリ妖獣だ。ひたすら己の殻に閉じこもる敵に、皆の表情が険しくなり、
 ボウッ! と炎が殻を包み込んだ。
「火加減はいかが? 私はレアが好きなんだけど」
『!? ……!?』
 桐音の炎の魔弾である。
「熱い? 熱いわよね? ならとっととその殻から出てきなさい」
 そっちがひたすら殻に籠るなら、こっちはひたすら撃つだけと、魔弾、魔弾、また魔弾。
 ついに一度も出てくることなく、妖獣が身悶えるように蒸発した。
「あら、蒸し焼きになっちゃったわね」
「サザエの蒸し焼き……」
 ともかく。
「これで楽しめますね」
 視界いっぱいに広がる、夏の海を!


 戦い終わって。
 顔を見合わせた彼らの視線は、自然と前方、天然の飛び込み台へと集中する。
 ……やることは、決まっていた。
「それでは、お先に行かせてもらいますね!」
 準備運動を済ませていたドルミエンテ、仲間たちを振りかえるや、助走でいっきに勢いをつけ、崖のギリギリに疾走し、
「――っと」
 ジャンプした。 
 そう――飛び込みである。
 飛沫を散らす着水音。
 崖から身を乗り出して、紅が下を覗き込むと、海面から顔を出したドルミエンテが朗らかに手を振り返してきた。
「割と高い……のか?」
「二番手はあたしがもらったー!」
 びゅおう。
 凄まじい勢いで突風が通り過ぎる。
「あいきゃんふらぁぁぁい!!」
 ざっぱぁ〜〜ん!
 なんかすごい水しぶき(ちょっと痛そう)を立てて着水した風紗さん。マグロか、と見紛う泳ぎでぐんぐん小さくなっていく。
「早……っ!?」
「目指せ! 太平洋横断!」
「いや太平洋横断は無理だろ……」
 苦笑を浮かべてツッコむも、多分もう聞こえてない。
 すでに豆粒ほどになった風紗に、フェイラはおかしそうに笑みをこぼし、
「準備運動はゴースト退治で十分だと思いますしね」
 跳んだ。
 一瞬の浮遊感ののち、ざぷん、と海に沈みこむ。
 遥か頭上になった水面を目指し、ゆっくりと浮上して。
「ぷはっ」
「気持ち良さそうですね」
 では私もと、ミントも助走の距離を取る。
「っと、その前に……」
 メロン柄の水着の結び目をチェックチェック。飛び込みで外れてしまっては大変だ。
 よし、と一つ頷いて。足裏のあの嫌ぁ〜な感触を忘れるためにも、海に向かって大跳躍。
 派手に弾けた海面に、うわっ、と皆が楽しそうに目を瞑った。
 のんびりのんびり、桐音は無心に波の動きに身を任せる。
 泳ぐのは嫌いではない。こうしてただひたすらに、心を無にして漂うのは、己が海と一体化したようで気持ちがいい。
 何も考えず、時間も忘れて……って時間? 
「……ハッ!? 陸はどこ!?」
 あ、あんなに遠くに……!
 和柄の水着が水を切る。
 ぐ、と深く潜水した詩火。
 ふと水底に何かを見つけ、手に取り一気に浮上する。
「こんなに綺麗なのがありました」
 頬を緩めて差し出したのは、陽光を受けてきらりと輝く、美しい貝殻だ。
 飛び込み、遠泳、潜水に水かけ遊び。
 照りつける夏の日差しが、飛び散る水滴に反射している。
 お昼にしましょう、と夕奈が呼び掛け、遊びもいったん休憩だ。
 楽しそうに喋りしながら続々と浜辺に上がってくる仲間たちに、夕奈が柔らかな微笑を浮かべる。
「いい思い出になりますね」


 大きめのビーチパラソルの下。
 海の家から漂ってくる焼きそばの香りに鼻をひくつかせたりしながらも、彼らは揃ってレジャーシートに腰を下ろした。
「おつかれさまです。冷たい飲み物をどうぞ」
「私は麦茶を持ってきました」
 泳ぎ疲れた体には、冷たい飲み物がありがたい。
 ぐびりと飲み干し一息ついて。
「今回は中華風のお弁当にしてみました、ぜひ食べてくださいね♪」
「私のお弁当は和風にしてみましたので、良ければ食べてみてください」
 広げられた3人のお弁当に、おお、と思わず感嘆の声が漏れる。
「ミントが中華風でフェイラが和風か……これは甲乙つけがたいな」
「夕奈のサンドイッチも美味しそうね」
「どんどん食べてくださいね」
「お、このハンバーグもいける」
「あっ」
 などと。
 ラインナップ豊かなお弁当の数々に、皆の箸が進みに進む。
 ――いつもお喋りする仲良しの人。
 ――普段あまり話す機会がない人。
 美味しいお弁当は、会話の最高の促進剤だ。自然と打ち解けあって会話が弾み、
 カツン、と箸が弁当箱の底に当たる音で、初めて空になった事に気づくほどだった。
「どれもおいしかったですね」
 ぐ、と軽く伸びをして、ギラギラと照り付ける陽光を感受する。
 満腹になった事だし、さて、次は。
 

「よろしい。ならばビーチバレーだ!」
 腰に手を当て、実にノリノリに風紗が宣言した!
 即席で作ったクジでチーム分けして、ビーチバレー大会の始まりだ。
 気になる組み合わせは、『夕奈、詩火』『フェイラ、ドルミエンテ』『ミント、桐音』『風紗、紅』とあいなった。
 それでは第一試合――夕奈、詩火ペアVSフェイラ、ドルミエンテペア!
「まずはベストを尽くしましょう」
「ダルターニさん、よろしくお願いします」
 ピーー♪
 ホイッスルの音が開始の合図。
 ぽん、と放られた夕奈のサーブに、すぐにドルミエンテが食らいつく。
「優勝させてもらいますよ!」
 弾かれたボールはネットを越えて、待ち構えていた詩火の頭上に。
 外野からの声援が飛ぶ。
 強烈なスパイクだ。しかし、
「そう簡単に点は取らせません」
 飛び上がったフェイラのブロックに阻まれて、あらぬ方向に飛んでしまった。
 夕奈と詩火は善戦するも、相手チームの連携に惜しくも敗北。
 けれどやっぱり楽しかったようで、両チームとも喉を潤しながら、互いの健闘を讃えあった。
 続いて第二試合――ミント、桐音ペアVS風紗、紅ペア!
「わりとこういうのは得意ですし、負けませんよ!」
「風紗とペアか……勝てるといいな」
 ピーー♪
 ミントの放った強烈なサーブに、顔をしかめながらも紅が返す。
 白熱する技の応酬。
 風紗がトスした。が、狙いが甘い。こぼれたボールは相手コートへ。
「桐音さん、今です!」
「必殺! 桐音スペシャル!!」
 いつの間にかノリノリになってた桐音、渾身のスパイク!
 必死に跳んだ紅、なんとかボールを上に弾いて、
「風紗!」
「ははっ! くたばれぇぇぇ!!」
 高く飛び上がった風紗の必殺アタックが、砂浜に突き刺さった。

 ゴーストを倒すのが彼らの使命。
 それでも、たまには。
 こんな幸福な休日も、許されると思うから。 
「よし、ちょっともう一泳ぎしてくるか!」
「付き合いますよ」
「あ、それじゃあ私も」
 真夏の太陽が、優しく彼らを見下ろしている。
 楽しい時間は、まだ終わらない。


マスター:リヒト 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/16
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死亡者:なし
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