キミの手のぬくもりを


<オープニング>


『あったか手作りミトンでカレの気持ちをゲットしよう!』
 家庭科室の前に貼り出されたポスター。
 描かれたイラストは手袋、ミトンだ。指の部分が分かれていないため、初心者でもわりあい簡単に編むことができるという。
 編み図にしたがってミトン部分を編み、それから毛糸や刺繍糸を使っての刺繍、はたまたフェルトでアップリケなどを付ければ飾りつけも簡単、という訳。
 バレンタインデーも近い。
 皆で集まって編めば、わからないところも教え合えるし、何より楽しいと言うことらしい。家庭科室には道具や毛糸もふんだんにあるという。
 
「…………………」
 じっとそのポスターを見つめているのは八坂路・繰太(中学生霊媒士・bn0016)。
 通りかかった同級生がひとり、繰太の背を小突く。
「わーもうそろそろバレンタインなんだよなあ。女の子が集まって編み物してるとか、いいよねえ」
「………これは女子限定の企画なのか?」
 同級生は思わず繰太の目を見る。
「いや、別に、いいんじゃない? ……贈りたい人がいるならさ」
 その表情は読み難い。
「……………そうか」
 繰太はがらりと家庭科室の扉を開ける。
「あ、編むのか?」
 思わずその背に問いかけるが、小さすぎた声は届かなかった。
 しばし手を見つめ、同級生は気を取り直しポスターの文字を読む。
 
『ミトンが出来上がったら、カレに渡す前に皆でファッションショーをしちゃおうよ!
 教室をショー会場に見立てて、あなたもモデルウォークを決めてみてね!』
「…………………」
 同級生はもう一度、家庭科室のドアを眺めた。

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参加者
NPC:八坂路・繰太(中学生霊媒士・bn0016)




<リプレイ>


 南向きの部屋は明るくあたたかい。
 窓越しの光をいっぱいに受けて、彼らはそれぞれに編み棒を動かしていた。
「ふふ、これかな」
 毛糸玉でいっぱいのバスケットに白い手を差し入れ、焦行が選んだのは優しいピンクの毛糸。ほわほわと優しくてあの子のイメージにぴったりだから。
「俺もピンクでいこうかな?」
 夜火もまた同じバスケットからピンクの毛糸玉を取る。焦行と目が合って5秒。
「あ、俺用じゃなくてお世話になってる結社のあの子に……」
「わかってますよ?」
 藍色の瞳が何度も瞬かれる。その瞳はちょっぴりおもしろがるような輝き。
「北村様はどなたに?」
 豊かな黒髪とうさぎ耳の雪が尋ねた。小首を傾げればやわらかく束ねた髪が同じように揺れる。
「かわいい弟さんみたいな方」
「まあ、私は弟にあげるんですの」
 だから白と黒のフェルトでサッカーボールのアップリケを入れるつもり。
 贈り物を贈る相手もいろいろ。不安だった舞夢もほっと胸を撫で下ろした。
(「LOVEじゃなくてLIKEでも、いいよねっ」)
 そんな会話を聞きながら、ジョーは涼しい顔で毛糸を選んでいる。ここニッポンではバレンタインに何か貰わないと格差社会の負け組と言われるらしい。それでは自分で自分用のプレゼントを作ればいいじゃないかとの参戦だ。
(「義理チョコはともかく本命チョコを貰える見込みはないからね」)

「ミトンミトン、手袋手袋ー。できたら誰かさんになげつけてやろうっと」
 風姫は物騒な呟きを漏らしながら純白の毛糸玉を抱きかかえる。
「……ありすお姉ちゃん、喜んでくれるかな……」
 ベビーピンクの毛糸玉を頬に当てて、雛乃がひっそりと呟く。皆を見上げる赤い瞳にはちょっぴり不安。
「あたしも前に仲良しの子にマフラーあげたことがあるの。そしたらすっごく喜んでくれたよ」
 壱帆が雛乃に笑顔で応える。あの日のことを思い出せば心がほんわかあったかくなる。
「ええ、気持ちはきちんと通じますわよ」
 大丈夫、と雪が静かだけれど安心感のある声で請け合った。


「やっぱこの時期は編み物だよねー」
 窓際に腰掛け、背中をあたためながら暁は編み進めた。窓越しの陽が頬にあたっている。
「うわー上手ぅ……」
 悠香は目を丸くして暁の指の動きを見ている。
「すごいでござるねー。あたしは編み物は初めてでござるからしてっ!」
 止水も思わず手を止めて見入った。ふたり少しずつ暁の方へ椅子が寄って行く。
「ふふ、わからないことがあったら聞いてね」
「ん??? あれ? 絡まってもーた……」
 霧都は手元に出来上がった、黒と茶色のこんもりしたかたまりを見つめて困惑している。
「あー、ここはね……」
 翔香が静かにあやとりでもするように毛糸のもつれを解いてみせる。
「ほら、できた」
「あ、おおきに。こういうの作るの、実は初めてやねん」
 にっと笑った笑顔は爽やか。

 髪の色とお揃い、これでもかというほどピンクのミトンを編んでいたゆかりが翔香の膝のミトンを見て尋ねる。シンプルだが整った編み目が美しい。
「片瀬さんは初めてじゃないわよね?」
「おばあちゃんに教わった事があるので、何とか」
 大好きなおばあちゃん。翔香は優しい記憶を思い出す。
「もう何がなんだか……どうしよう、これ……」
 涙目になって来果が捩じれた編み物を差し出す。
「大丈夫よ、すぐなおるから」
 千重もまた、自分の編み物の手を止めて手助けしてやる。
 あったかさ最優先にと編む彼女のミトンは少し大きめ。あげる相手もいないし将来に向けての練習と参加したけれど、室内に流れるほんわかした空気には和まされる。

「八坂路様、よろしくお願いします」
 暦は椅子を寄せ、繰太の隣へ座った。繰太は編み目を端まで編んでから、よろしくと顔を上げる。止水と雪は目を細めて繰太の手元を見やる。そのミトンはもしかして……。
「誰に作ってあげるの?」
 壱帆が小首を傾げて尋ねる。
「(もしかしてシャーマンズゴースト?)」
 止水が後をつぐように囁いた。繰太が頷くとその場に波のように広がる納得の気配。
 暦もほうと大げさに胸を撫で下ろした。
 これがバレンタイン行事の一環であるということを忘れようと努め、冷静に編み目を数えていた魔王もまた、深く安堵して再びミトンに取りかかる。
「単純作業には不思議な楽しさがあるよね」
 神威は涼やかに編み棒を操りながら呟く。
「凹んだ時とか没頭できてよいよね……」
 夜火は翡翠色の瞳を細め寂しげに天井を見上げる。手元のミトンには繊細なさくらんぼの刺繍。これからイニシャルも入れるつもりだ。
「M・Rっと、Rが難しいね」
「うさうさうさぎ〜お耳がぴこぴこ〜」
 ほがらかに歌う焦行は可愛いうさぎのアップリケを取り付け中。
「ここが……こう? ……あり? うひょうーぅ? なんか歪んでる?」
 水織の甲高い叫びに千重が貸してごらんと手を差し伸べる。なんだか放っておけなくて。
「ふんふふんふ〜ん♪ ……ふん? あ、あれ?」
 調子良く進んでいたと思ったのにいつの間にか迷宮へと陥っていることもある。悠香は暁の手元を覗き込み、何度も自分のミトンと見比べた。
「(……繰太君、繰太君)」
 人目を避けるようにして、金髪美人が手招いている。繰太が席を立ち近寄って行くとそれはなんとスカートを履いたジョーだった。
「いかんよ繰太君、ここはオーストラリアじゃないんだ。男子の格好で編み物をするなんて目立っていかん、早くそれを着るんだ」
 渡す紙袋の中には女子制服一式。
「スカートは尻が冷えそうだからな………」
 繰太は首を横に振る。
「女子は偉いよな。…………いや、ジョーも偉いぞ」
「うん全くだ」
 金髪美人と仲良く話し込んでいると思ったのか、暦はがたんと椅子から立ち上がり叫んだ。顔が真っ赤になっている。
「お友達になってください!!」
「ああ、よろしく………………?」
 繰太が頷いて、ジョーは横目でそれを見た。


「う〜ん……可愛いのも捨てがたいですがあんまり可愛いのですと、照れてしまって使い辛いかもですし……」
 悩んだ小夜は手を止め、首を傾げている。
 可愛いものが好き、可愛いミトンを作りたい、でももらう方としては……どうなんだろう?
「あ、やっぱり可愛くなり過ぎちゃうと、駄目かな」
 雫翠もそっと膝の上を見る。黄緑色のやわらかなミトン。緑のファーもつけるつもりだけれど。でもあたたかさの為にはやはりファーは捨て難い。
 夕紀も編みかけのミトン持ち上げて、少しばかり天井を見上げる。彼女の思い人は夢に向かって頑張っている。いつも無理ばかりしていて力になりたいけど、あんまり余計なことをすると怒られてしまうだろうし……。
「ミトンを贈るくらいは、いいですよね?」
 恋する乙女は時に不安になる。思いが強ければ強い程、それが相手の重荷になるのではと考えてしまうのだ。
「でも少しでも、あの人が……あったかいって思ってくれたら素敵ですよね」
 ホノカが頬染めて呟いた。言ってから思わずキャーと半ば出来上がったミトンの後ろに隠れる。
 毛糸のぬくもりは、彼女たちの心のぬくもりを、彼の人に伝えてくれる筈。
「そうですよね、頑張って編みましょう♪」
「あのひとの手をあたためるために」
 小夜と夕紀も顔を見合わせて笑う。そこに流れるのは春風みたいな爽やかさ。恋する乙女たちが運ぶ春。
「とりあえずはちゃんと着けられるミトンを作らなくちゃね」
 雫翠の声に思わず笑う。

(「ええなあ、春やなあ」)
 一は頷きながら編み針を動かす。ころころと毛糸玉が回転する。
「随分大きいミトンだな」
 龍麻が穏やかな笑顔を一に向けた。
「中で手がつなげるように……」
 一が頭を掻きながら告げると、恋する乙女たちが大きな瞳を瞬いている。思わず焦って、涼しい顔で編み物を続ける龍麻に尋ねた。
「緋勇さんはどなたに差し上げるんですか?」
「月宮に。クリスマスダンスで知り合って、いろいろ世話になったからな」
「へえ、素敵な人なんでしょうねえ」
 にこにこと尋ねる一に、ああ彼女だ、と龍麻は横にいた友梨を紹介する。端正な眉根寄せて、友梨は慎重に減らし目をしているところだった。
「ん?」
 顔を上げて微笑むが、話は聞いていなかった模様。

「俺だけの愛しい蝶を羽ばたかせてやンぜ……なーンてなッ」
 ゼンは開いた両膝に肘を乗せて、けれど繊細な指遣いでミトンを編む。時折金の瞳でちらちら従兄弟のジュダを見上げる。
 そのジュダは静かに椅子に凭れ、組んだ膝の上に静かに美麗な編み物を展開している。
「ふむ、競う物でも無かろうが……だが面白い」
「てめーにだけは負けねーッッ!」

「出来たあ…………」
 崩れ落ちるような霧都の声。手元にはやっとやっと出来上がった、黒とこげ茶のあったかそうな世界にひとつだけのミトン。
「音楽室から借りてきました♪」
 一がひょいとラジカセのボタンを押すと、流れる音楽は――――。
 

 部屋の中央にランウェイ。両側に皆座って、音楽に合わせ手拍子して待つ。
 皆のミトンが出来上がったのでファッションショーをしようという訳だ。
「ファッションショー?」
 風姫はうにゃ? と小首傾げるが出ろと言われれば勿論出る。
「目立てばいいんだよね! ……よっ」
 とランウェイで黒髪翻し見事なバク転。手にしたミトンは曇りのない白。しゅたっと広げたてのひらには、うす桃色でにくきゅうチックな刺繍入り。拍手が上がればアンコール、とばかりにバク転出血大サービス。
「す、すごいです……」
 客席から見上げるホノカも盛大な拍手。
 ぎくしゃくと来果がランウェイを歩く。瞳と同じくらい顔を桃色に染め、天井を見上げて誰の顔も見る事ができない。
(「は、恥ずかしく……な……駄目! やっぱり私には無理!」)
 ストップとばかりに突き出した両手には白いミトン。毛糸のポンポンがキュートに揺れる。
 逃げるように走り去る来果と入れ替わり、水織がポーズを決めた。ミトンは手首部分に黒をあしらった、夕日に似たオレンジ色。見事なうさぎさんピースから続く拳法にも似た激しい動きでミトンを追うお客さんも目眩がしそう。
「見切らせないのだー!!!」

「はっ! ほっ! はっ! でござるよ」
 続いて止水が見事な毛糸玉ジャグリングで登場した。その手のミトンには可愛らしいうさぎさんの刺繍。ちょっぴり何かを企んでいるようなうさぎさんの顔もまったく個性の範囲内。しゅぱぱぱぱ、と連続で投げ上げた毛糸玉を受け止めてくるりと回る。
 観客からは激しい拍手が贈られた。
 続いて舞夢。
「さぁー、行ってみよー!」
 たたたたと駆け出して飛び跳ねる。ケープが、コートが、マフラーが長い黒髪がふんわり広がる。手にしたミトンは陽だまり色。
「冬にこそ元気は必要だよねっ?」
(「恥ずかしいですが……」)
 でも、と歩き始めるのは小夜。めちゃくちゃに緊張するけれどミトンがあることが嬉しい。そしてとても暖かい。
「これなら春まで……大丈夫なのです……」
 両手をそっと包み込み、ここにいない誰かに向けてそっと呟いた。
 
 そして窓から差し込む日が陰り、舞台に現れたのは背中合わせのふたりの男。
「(女モンつけてモデルウォークって、俺見せモノ決定ーーッッ!?)」
「(貴様の想いとは其の程度か? ならばこの俺が手本を見せてやろう)」
 さ、と前に踏み出したのは漆黒の和装のジュダ。扇を模してぱんと広げたミトンの甲には可憐な花菖蒲。古雅玲瓏、甘美華麗。
 そんなジュダの艶姿に舌打ちしながらも、ゼンも長身を生かして見事に歩く。かざすミトンは鴇羽色、ひらひらと気高く舞う蝶は紅の糸で刺繍した。
 今にも噛み付きそうなゼンを、ジュダは冷笑でかわす。
 歓声に見送られ、去るふたりの間を見事なウォーキングで歩いてくるのは一。
 190を越える長身はこんな時にこそ生きるだろう。素朴な外見もここではアンビバレントな魅力充分。嵌めたミトンはあえてのビッグサイズ。音楽に乗せて華麗なターンを決めれば……派手に転んだ。
 それさえもやけにカッコいいようなそうでもないような気がする。
「うわぁ……皆カッコイイなあ……」
 背筋をぴんとはって悠香は歩き始める。
 白いミトンには手の甲に茶色いハートマーク。そして揺れるポンポンはモーラットのもふちゃん。
 かつかつかつ、ターン。
(「あ、なんか楽しい♪」)

 そして歓声に乗るようにして登場したのは友梨と龍麻。
 音楽にのって華麗なダンスを披露する。高く差し上げた脚が舞えば、追うように豊かな黒髪が揺れて。息のあったふたりはダンス中に何度も目配せし合って笑った。
「いきますよ、緋勇先輩」
「ああ」
 そして絡められ、見事な演出で観客に見せつけられる手には手編みのミトン。
 紺を基調にした白とパウダーブルーのストライプと、流れる音楽にも似て、踊り出す音符たちがいた。


「制服で出る気じゃないでしょうね? これ貸してあげる」
 ゆかりはショーに惜しみない拍手を送っていた繰太の元へと駆け寄る。手にしているのはメイド服。しばし考えて繰太は答える。
「ゆかりが着るといい。……………きっとよく似合うぞ」
「えー、でも」
「繰太、一緒に出てくれ」
 女子制服姿の魔王に頼まれ、驚きながらも繰太は席を立つ。
「似合うと思う?」
 振り返って尋ねるゆかりに、翔香が力強く頷いてみせた。脚を組んで背もたれに深く腰掛け、ショーを眺めればデザイナー気分。
(「どこかにわたしのミトンを任せられるスーパー少年モデルはいないかしら?」)
 翔香はミューズを探し求める。

 舞台に登場した繰太と魔王。冬の散歩道歩く恋人同士というコンセプト。魔王は見事に甘く切ない乙女心を演じ切った。
「乗ってくれてさんきゅー♪」
「…………こちらこそ、誘ってくれてさんきゅーな」
 続いて艶やかにしゃなりしゃなり登場するのは神威。
 紫の瞳細めて婉然と微笑めば、観客からは拍手が上がる。銀の髪はらりと頬に落ちて緩やかに払いのける手にはミトン。
 すれ違うようにランウェイを歩くのはどっきどきの壱帆。
 出来上がったミトンは皆に見てもらいたいから。だってとてもよく出来た。真っ赤な毛糸で編んだミトンは可愛いキツネ。三角の耳をつけて、糸目とひげを丁寧に刺繍してある。
 編んでいる時の苦悩を思えば、ちょっぴり瞳が潤みそう。よく頑張った!

 そして暁はランウェイを大きく手を振って歩いた。
 見られるのは恥ずかしいけれど、ミトンを見てもらえるのは嬉しい。焦げ茶色のミトンに黒いファーで手首を彩り、縫い付けた銀のビーズは羽の形。着けてみれば思い通り、手首まできちんとあたためてくれる。
 中央でポーズ決めてから思わず、
「何かヘンなところない?」
 と思わず尋ねてしまった。

 でもどれも間違いなくよく出来ている。
 心がこもったあったかミトン。
 どうかこのミトンがあの人の手をあたためますように。


マスター:カヒラススム 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:29人
作成日:2007/02/13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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