這い寄ります


<オープニング>


 学園祭も終わり、銀誓館学園も夏休みの季節となりました。
 夏休みは、海にプールにカキ氷、そして夏休みの宿題や自由研究など、やる事がたくさんあります。
 しかし、忘れてはならないのは、学校行事の臨海学校でしょう。
 銀誓館学園では、小笠原諸島の浜辺で、8月18日〜20日の3日間、臨海学校が行われます。
 この臨海学校で、普段の授業では得られない様々な体験を楽しんでみましょう。

 なお、臨海学校が行われる小笠原諸島近海は、日本版バミューダトライアングルである『ドラゴントライアングル』の地域に含まれているようです……。

「ドラゴントライアングル、というものをご存知でしょうか。房総の沖・小笠原諸島・グアム諸島を結んだ三角形のことで、日本版バミューダトライアングルとも呼ばれています」
 中根・寿一(中学生運命予報士・bn0220)は、集まった能力者に話しかけた。
「そのドラゴントライアングルに、多数のゴーストが存在しているという情報をいただきました」
 情報提供者は、ディスティニーサーガを研究していた研究員達を追っていたエージェント。海外の能力者組織の一員だ。ディスティニーサーガの事件は銀誓館の能力者達が解決してしまったので、彼がお礼にと日本周辺のゴースト情報を教えてくれた。
 念のために海域を調査したところ、数年前から近辺を航行する船舶の多くが不自然にこの海域を避けて航行していることが判明した。また、その後の追跡調査で、日本近海で発生した海のゴーストが、多くこの海域に集まっていることもわかっている。
「原因究明と対処は別途行います。それはそれとして、このままこの海域に集まったゴーストを放置するわけにはいきません。臨海学校は小笠原諸島で行われますから、合わせてゴースト退治をしましょう」

「それでは、退治していただくゴーストの説明をします」
 寿一は『海のいきもの図鑑』を広げる。柔らかくて派手な色の生物の羅列に、藤間・圭(白狐忍者・bn0004)は眉根を寄せた。
「海中にいる妖獣です。ウミウシっぽい外見をしています。頭に二本の触覚があって、牛っぽいからウミウシと呼ばれるんだそうです」
 ちょうどこんな、と寿一は一匹のウミウシを指さす。青と黒の縞模様で、体のふちは鮮やかな黄色をしている。
「……これを体長3メートルに巨大化させたような妖獣です」
「海中で戦うのは避けた方がいいな」
「こちらが圧倒的に不利です」
 圭の言葉に、寿一は頷く。
「敵を発見したらちょっかいをかけて、注意を惹いて……泳いで戻るのがいいでしょう。陸上へおびき出したら倒すのみ、です」
 妖獣の攻撃は二種類。触角で殴るのと、体当たり。体当たりをされると、吹き飛ばされる可能性がある。
「相手は一匹ですし、気を抜かなければじゅうぶん勝てる相手です。妖獣を見つけるまでは、シュノーケリングで小笠原の海を楽しむのもいいんじゃないでしょうか。ものすごく綺麗だって聞きますから。もし泳げない人がいましたら、圭さんが水泳のコーチをしてくれます」
 本人の意思をまるっと無視して、寿一は言う。圭は渋い顔になった。
「勝手に決めるな」
「してくれないんですか?」
「……そういう意味じゃない」
「では、してくれるそうです」
 なし崩しに決められて、圭は諦めのため息をついた。

「それでは、ゴーストの掃……退治、よろしくお願いします」
 寿一は笑顔で、能力者達に頭を下げた。

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参加者
霧生・颯(マンドラゴラは植物です・b01352)
轟・轟轟(轟火・b02870)
麻生・瑠璃(呪われし瑠璃色・b03552)
平良・虎信(荒野走駆・b15409)
伴・童瑠(ガラドリエルの使い・b26731)
風祭・彩香(マジックユーザー・b37371)
刹楽伎・纏(跫音さえも識らない名前・b41949)
駒杖・蒼迩(魔の道を歩む者・b60988)
NPC:藤間・圭(白狐忍者・bn0004)




<リプレイ>

●準備はできた?
 透明な青が、遙かな向こうまで続いている。
 波打ち際に立って目をこらせば、珊瑚の森が繁っているのが見える。その間を縫うように泳ぐ魚の姿も。
「折角、海に来たんだし、めいっぱい戦ってスッキリして遊んじゃおー!」
 刹楽伎・纏(跫音さえも識らない名前・b41949)は、浜辺に特大のビーチパラソルを立てた。日除けの役にも立つが、その派手な色は浜辺の目印になる。
 霧生・颯(マンドラゴラは植物です・b01352)がレジャーシートを敷くと、平良・虎信(荒野走駆・b15409)がクーラーボックスを置いて待機場所を完成させる。
「合図を再確認していいかな?」
 勘違いがないようにね、と伴・童瑠(ガラドリエルの使い・b26731)が言う。風祭・彩香(マジックユーザー・b37371)が頷いた。

 作戦はこんな流れだ。
 3つの探索班と陸上の連絡班に別れる。
 探索班はウミウシを発見したら陸上に合図を送る。合図を見たら、連絡班の童瑠がヘリオンサインとホイッスルで全体に知らせる。
 水練忍者の2人がウミウシを攻撃、注意を引きつけて陸上に誘い出したら。
 ――倒す、それだけ。

 認識に間違いはなかった。童瑠は小さくため息をつく。
 海に入る前に、連絡班も一緒に準備体操をしておく。途中で足がつったら洒落にならない。
 ゴーグル・シュノーケル・フィンの三点セットを装着して、探索班は小笠原の海に向かう。

●捜索班、海をゆく
「夏はやっぱ海だよな! 今年の夏も楽しむぜ!」
 釣1班の轟・轟轟(轟火・b02870)が海に飛び込むと、豪快な水しぶきが上がった。鍛えた体に海パンがよく似合う。
 振動を感じて、魚がくるりと身を翻す。派手な色のイソギンチャクがそよいでいた。
 しかし、別世界の光景を楽しむのは後のお楽しみ。轟轟は海面に顔を出した。岸辺を振り返って、コンビを組む麻生・瑠璃(呪われし瑠璃色・b03552)に手を振る。
 瑠璃は小さく手を振り返すと、オペラグラスを構えた。海中に怪しい影は見あたらない。轟轟からも他の班からも、発見の合図はまだない。
 瑠璃はぱしゃん、と足先で水面を叩いた。

 釣2班の藤間・圭(白狐忍者・bn0004)は、潜ろうとしたところで腕を引かれた。相手は同じ班の彩香だ。
「一人で潜って、置いていったりしないでしょ?」
 にこりと笑う彩香から、圭は目をそらした。反論はしない。
「実はやったことないのよね、シュノーケリングとか。折角だし、潜る時の泳ぎ方とか教わりたいな」
「……難しくない。思いきり水を蹴るんだ」
 圭は簡潔に説明して、実演してみせた。フィンをつけた足で水を蹴ると、あっという間に深くへ行ける。
 彩香は真似て潜った。ぐんと近づいた海底は、水面近くから見るのとまた違った表情をしていた。

 釣3班は砂浜から離れ、沖を探索していた。
 背中に太陽を感じながら、駒杖・蒼迩(魔の道を歩む者・b60988)は海底に目をこらす。
 海水は透明で、深さがあるにも関わらず隅々まで見えた。波の影が揺れている。蒼迩自身の影もはっきりと見えた。
 人々を魅了する姿をした、魔の海域。
「ドラゴントライアングルか。また随分とマイナーな伝承が出てきたな」
 だが実際にゴーストが出現している以上、ただの伝承と無視するわけにはいかない。
 蒼迩が呟く。
 虎信はバミューダトライアングルの噂を思い出し、深く頷いた。
 海は魔物――と言うが、コレは意味が違う。
「大型客船でも沈められたら、世界結界に良くない! さっくりと終わらせて、臨海学校をエンジョイだ!」
「エンジョーイ」
 纏がぐっと親指を立て、横を泳ぎ抜ける。
 水族館でしか見られないような珍しい魚が、群れを成して彼を追い越す。
 それを目で追った纏は、大きな影が海の底にいるのを見つけた。
 黄色い縁取りが目立つ巨体。体長3メートルほどの縞模様のウミウシ。
「……!」
 ウミウシは海底で、潮の流れに触角をそよがせていた。まだこちらには気づいていないようだ。
 纏は急いで浮上すると、岸に向かって口笛を吹いた。

 双眼鏡を覗いていた童瑠は、響き渡る口笛に身をこわばらせた。
 予定とは違うが、合図は合図だ。
「どこだろう……」
「あ、あそこ! 蒼迩くんが手を振っているよ。釣3班だね」
 あっち、と颯が海を指さす。蒼迩が大きく手を振り、纏と虎信が海の一点を大袈裟なジェスチャーで示している。
 童瑠は空中にヘリオンサインを描いた。
『釣3班が遭遇』
 続けて、首から提げたホイッスルをくわえて、短く数回に分けて鳴らす。
 その音を聞きつけた他の班が、海中から次々に浮上した。童瑠がヘリオンサインで詳細を知らせるより早く、探索班はウミウシのもとに集まっていく。

●海の生き物、上陸
「んじゃ、お客様一匹ごあんなーいといくぜ」
 轟轟はニヤリと笑い、圭と共に海中に向かった。
 他のメンバーは少し離れて、けれど万一の時には戦闘に加われるようにスタンバイしている。
 ウミウシ妖獣は同じ場所で、触角を揺らしていた。
 二人は目で合図すると、続けて水刃手裏剣を放った。不意の攻撃にウミウシは激しくのたうつ。折れた珊瑚と砂が舞い上がって、海水を澱ませた。
 異変を察した魚が四散する。
「ウミウシって、でかくなるとなんかすげーな」
「あれはウミウシのような外見だが、妖獣だ」
「そういう意味じゃねーよ……って、来やがった」
 ウミウシが動き出す。二人は身を翻し、岸へと向かった。息継ぎをしなくていい分、泳ぐことだけに集中できる。
 敵、あるいは獲物をウミウシは追いかけた。軟らかな体を伸び縮みさせると、背中の縞模様が不気味に震える。
 離れすぎず、追いつかれないように。
 距離を保って小笠原の海を泳げば、岸まであっという間だった。他の能力者が牽制する必要もなかった。
 轟轟と圭の後を追って、ウミウシが上陸する。
 ぬるぬるぷるぷるした巨体が砂浜にいる光景は――醜悪そのもの。ウミウシという生物が持つ独特の美しさを、妖獣は一ミリも持ち合わせていない。
 ウミウシが海から出るのを待って、蒼迩が波打ち際に走る。
「退路を塞ぐぞ」
「海側を遮る形だな!」
「逃がさないわよ。還ってもらうけれど」
 瑠璃は紫色の瞳で、倒すべき敵を見つめた。
 すでにリフレクトコアを纏っていた童瑠は、皆をサイコフィールドで包む。
 一連の動きに危険を感じたのか、ウミウシは触角を振り上げると近くにいた圭を殴った。ぬるりとした感触に鳥肌をもよおす間もなく、全身の骨が軋む音を立てる。
 颯がパラライズファンガスをお見舞いする。
「そうはいかないよ!」
 ウミウシの二本の触角の間に、白いキノコがにょきりと生える。
「ここからは僕達のターン♪」
 身動きがとれなくなった妖獣を、全員の総攻撃が襲った。
「修学旅行でもディスティニーサーガのためにネトゲ三昧! 臨海学校でもゴースト退治なんてふざけんなっ! いいから海で遊ばせろっ!」
 纏の獣撃拳が、ぷるぷるした体にめり込む。その叫びはきっと、彼一人のもので終わらないだろう。
「俺様の本領発揮はここからだな!」
 虎信は殴る蹴るの暴行を加え――ではなく、重い龍尾脚を叩き込む。
「このままじゃお前さんもつれーだろ。今、楽にしてやるぜ」
 轟轟の脳裏をよぎる、妖獣の知識。あれらは激痛にさいなまれているから、それを和らげるために暴れるのだ。
 前衛の合間を縫った水刃手裏剣が、ウミウシに刺さる。
 ようやくマヒが解けたウミウシは、見かけによらず素早い動きで海へ逃げようとすす。しかし波打ち際からの攻撃は容赦がなかった。
「逃がさないと言ったわよ」
 ジェットウインドを放つ瑠璃。巻き起こった風にウミウシの体が不安定に形を変える。
 彩香は茨の領域を使った。魔法の茨が軟体を締め上げる。
 ふたたび身動きを封じることに成功した。
「勝てるわね……」
 もはや結果は明らかだった。いや――誘き出し、退路を塞いだ時に勝利は決まったも同然だった。
「こちらに這い寄られても、困るんでな。這い寄る先は、あの世で探すといい」
 蒼迩は光の槍でウミウシを貫いた。
 ぶるぶると小刻みに震えて、妖獣は動かなくなった。その死骸は自然に還るかのように、溶けて失われていく。

●臨海学校の時間
 退治が終われば、後は全力で遊び倒すのみ、だ。

 颯は妹の楓と一緒に、泳いでいた。
 度の入ったゴーグルをつけ、海中に潜る。珊瑚の欠片を拾って楓のもとへ戻る。
「綺麗なの、見つけてきたよ♪」
「きれい……なの……」
 兄が差し出した物に、楓は目を輝かせた。

「いやー一仕事終えての遊びって格別だよねー」
 纏は、しみじみと言った。
「海! 青い! いい天気! ……どうかした?」
 童瑠に声をかける。シュノーケリングをしているのだが、泳いでいる時より止まっている時が多かった。
「海の様子や魚の種類を観察しているんだ。絵日記に描くことがたくさん出来たよ」
「絵日記? へー。今日はネタに困らないな」
「本当にたくさんあるから、忘れないうちに頑張って描くよ」
 童瑠は、日記の話題を探しにふたたび海中へ潜った。

 一方、陸の上では。

 瑠璃は泳がずに、ヒトデやイソギンチャクが動く様子を眺めていた。
 不意に日差しがかげる。瑠璃は顔を上げた。轟轟が、太陽を遮るように立っていた。
「俺はずっと潜ってたからな。良い観察ポイントを沢山見つけたぜ」
 あのへんと、あのへんと……と轟轟は海を指す。瑠璃はそれを目で追って、場所を確認した。
「うし! ぶっ倒れるまで遊び尽くすぜ!」
 伝え終えると、轟轟は海へ走った。弾丸のような勢いで泳いでいる。
 それを眺めていた瑠璃に、彩香が声をかけた。
「そっちの班は、探索の時に綺麗なのとか見つけたかな? 結構広範囲を探索したから、みんな色々知ってると思って」
「良い観察ポイントがあるそうよ」
 瑠璃は、轟轟から聞いた地点を彩香に教える。
「そう。ありがとう。全部行けるかな」
 彩香は手を振り、どのポイントから潜ろうか思案する。

 虎信は持ってきたクーラーボックスを開けた。肉やら野菜やら、下準備を済ませた食材がぎっしり詰まっている。
 圭は思わず尋ねた。
「何をする気だ?」
「海と言えばモアベターにバーベキューというやつだ!」
 虎信は持ってきた道具を広げる。
「俺も手伝う」
 圭は申し出たものの、慣れない作業にまごついた。虎信が歯切れ良くアドバイスをする。
 二人で準備をすれば早く用意が整う。
「適当に焼いて適当に食う!」
 虎信は火をつけた。炭が赤くなるまで待つ。
 砂の上に足を伸ばして、圭は休憩に入った。
「蒼迩は遊ばんのか? 食うか?」
 虎信が声をかけると、一人でいた蒼迩はそうだな、と言葉を濁した。
 網が温まったので、虎信は次々と食材を載せていく。その量は全員でも食べきれるかどうか。
「食ってから考えるのも良いぞ!」
 重ねて声をかけられて、蒼迩はそうだな、と繰り返した。


マスター:亘理針 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/19
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