<リプレイ>
青い空と白い砂浜、そして広がる……海。 「学校行事の名を借りたゴースト討伐なんて詐欺ですよ、本当に」 リゾート気分いっぱいの光景の中で、ルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)は憂鬱そうに呟いていた。 「せっかくの臨海学校、きちんと楽しみつつ、ゴースト退治も頑張ろうっ」 砂浜に落ちている貝殻を拾いながら富田・真琴(手探りの道を往くヒト・b51911)が言うように、銀誓館学園の能力者達は小笠原諸島の一つに臨海学校に来ていたのである。 「自然と触れ合えるのは心が躍るわね。仲間と一緒だし、しっかり楽しむつもりよ」 砂浜にはゴミなどほとんど落ちておらず、拾えるものは貝殻や小石といったものばかりだった。薄い桃色の貝殻を見つけて軽く微笑み、シャムテイル・イルミナス(カシミールブルー・b64908)はそれをバケツに放り込む。 「もちろん仕事もきっちりこなすわよ?」 能力者達は臨海学校をこの島で過ごすことともう一つ、海のゴースト退治を目的としていたのである。三人は浜辺での活動に支障が出ない様、障害物になりそうな貝殻や石を取り除いていたのだった。 「ま、夜になるまでは純粋に楽しめそう……かな」 テントの支柱を支えながら稲峰・渓(青にして清流・b35649)は潮風の香りに心を躍らせていた。運命予報によればこの海岸に妖獣が現れるのは夜が更けてからということだったので、それまでキャンプをして過ごすつもりなのである。 「皆でキャンプなんて初めてだから、なんかワクワクしちゃうなっ」 渓の支える支柱にテントの布を広げながら北欧・月凪(赤より紅く緋色で黒い闇色の蝶・b61966)も笑顔を見せている。 「少し支えていてもらえる? 中、組み立てるわ」 「こんな具合でしょうか」 男子のテントに負けない位のスピードで、女子のテントも順調に組み立てられてゆく。真琴が支えてシャムテイルが組み上げ、出来たテントの中でエルレイ・シルバーストーン(銀石の操霊士・b00312)が荷物を広げていった。日焼け止めクリームや帽子、秘密のお菓子など、女の子の必需品がどっさりだ。
「学校行事とゴースト退治がセットだなんて、銀誓館らしいといえばらしいけれど……」 かまどを組み上げて火の番をしていた水原・火凪(雪灯火・b48020)は、軍手でタオルを掴んで額の汗を拭う。見上げる空は快晴、いい天気に越したことはないのだが、照りつける太陽の光が肌を焼き、かまどの熱気が否応なしに汗を滲み出させてくる。 「夏の小笠原は、暑いよ」 ぐったりとした様子で火凪は水筒の水を口に含むのであった。 「おいしそうなの、いっぱいなの」 エルレイが水遊びがてら貝や蟹なんかを持って戻ってくる。ルシアも次々に野菜をカットして調理しやすいように並べていった。このキャンプでは晩御飯は能力者達の腕に掛かっていたのである。 「この日の為にカレーは練習したし美味しい……はず!」 気合を入れて鍋をかき混ぜ、味を見ながらスパイスと調味料の調節をしているのは月凪だった。辛さを控えめにして、その分シーフードの旨味を引き出した感じに仕上げてゆく。 「味見係なら大の得意なのですよ」 では早速と黒瀬・芙美(夢の中のアルペジオ・b48231)は小皿に分けたカレーを味わい、抜群の反応を見せる。エルレイも「美味しそうなの」と満足気だ。 「こうやって外で食事するのも、キャンプの醍醐味だよねー」 一方では渓がバーベキューの串を焼き始めていた。焼き上がった一本をシャムテイルが受け取り、はむりと一口。 「さすがねぇ、美味しいわ」 シャムテイルの反応にそれは良かったと渓も頷き、次々に肉を焼き始める。 「そうそう、アイスティを持ってきましたのでどうぞ」 カレーも完成したようだし、ルシアがアイスティーを配った所で『いただきます』となった。晩御飯のスタートだ。 「あ、このカレーおいしいっ」 真琴の言葉に練習の甲斐があったと月凪が微笑み、ファリューシング・アットホーン(宙翔る双頭の鷲の子・b57658)もモリモリ食べていた。 「芙美さん、隣に座っていいかい?」 火凪はそう言ってカレーの皿と共に芙美の横へと腰を下ろす。それから二人は外で食べるご飯は、何だかいつもよりおいしく感じられるねなどと話していた。 「いつも誘ってくれて有り難う。声を掛けてくれる人がいるおかげで、学園生活もなかなか楽しいよ」 「喜んでもらえたみたいで私も嬉しいですっ」 誘いを受けて下さった火凪先輩にも感謝ですと言う芙美に、火凪は温かな笑顔を返すのであった。
そうして楽しい食事の時間を過ごすうちに、日が沈んでゆく。 海に太陽が沈んでゆく間、世界はオレンジ色に染まる。そして海が光を反射し、海に光の道が走っているようにも見えた。 「すごい……」 呟いた言葉は誰のものか、それも気にならないくらい……壮大な景色は能力者達の心に焼き付けられたのであった。
「ここからは能力者としての時間……なんてね」 そして訪れる闇の時間。能力者達は交代で見張りを立て、テントの中でお喋りやカードゲームをして時間を潰していた。そうして何度かの交代を済ませた頃……それは海から現れた。 「あれがそうみたいだね」 テントから出てきて集まった能力者達が目にしたのは、三体の海ガメだった。普通のものよりやや大型なのだろうか? 能力者達の準備したライトやランタンに照らされながら、ずりずり砂浜を這って近付いてくる。 「夏休みになってものんびりとはいかないね」 先頭のカメに向かって接近し、魔弾の射手を発動させる渓に続いてファリューシングも走る。その途中でライカンスロープを発動させ、力を高めていった。 リフレクトコアを召喚するルシアのやや後方から、月凪は穢れの弾丸を放つ。だが攻撃は先頭のカメの甲羅に当たり、がきんと弾かれてしまった。 「夜に砂浜に上がってくる海ガメかぁ……メスなのかな」 まぁ妖獣だし産卵する訳では無いだろうがと言いながら、火凪はヤドリギの祝福で自身と月凪の力を高めてゆく。 「海ガメは可愛いけど、妖獣なら全く可愛くないね」 向かい来る三体と仲間の位置を確認しつつ、エルレイは十字架の光を生み出していた。解き放たれる光の十字架が海ガメ妖獣達に降り注ぎ、その体を僅かに揺さぶる。 「ここから先は通しません」 真琴は先頭の海ガメを仲間に任せ、自分は右側の奴に向かっていた。挨拶代わりに長剣を振り下ろすが、甲羅に当たってガキンと硬い音が響き渡る。 ばしゅっ! 次の瞬間、カメから水が発射された! 何とか反応した真琴は身をかわすが、避けきれずに僅かに腕を掠められる。 「カメだからといって油断せずに、全力で戦いに挑みましょう」 言って芙美がサイコフィールドを展開し、仲間達を夢幻のバリアで包んでゆく。これで真琴の傷も回復していった。 「くっ!?」 一方では先頭のカメが頭から渓に突っ込み、その猛烈な衝撃で渓の体が後方に吹き飛ばされてしまっていた。月凪の使役するサキュバス・キュア『月姫』が投げキッスを飛ばして牽制する間に、シャムテイルは息を吸い込んだ。 「お聞かせするのが歌声じゃなくて残念だわ」 そうして解き放たれる地獄の叫びが、一気に海ガメ達の体を揺さぶる。だが呪言の力を持った声の衝撃を受けながらも、左のカメはずりずり能力者達に向かって接近を続けていた。 「これも能力者の務め……こっちは食い止めるよ」 左側がフリーなら自分が向かうと仲間達に呼びかけ、渓は移動しながら魔弾の射手で体力を回復させてゆく。これで左は渓で右は真琴、残りは正面の海ガメに集中攻撃するという陣形になった。 「学生にとって貴重な休みを邪魔した罪は重いぞ」 ファリューシングが踏み込み、クレセントファングを先頭のカメに叩き込む。蹴りが甲羅をがつんと叩くが、カメは怯まずにそのまま突っ込んで来た! 「くっ……お星様になってたまるか」 みぞおちに重い衝撃を受けて後退るファリューシングだが、何とか踏ん張って吹き飛ばされずにその場に留まる。入れ替わりに火凪が距離を詰め、氷の吐息を浴びせかけた! パキパキと魔氷が広がり、海ガメの体を包み込んでゆく。 そこにルシアも光の槍を打ち込んで、カメの甲羅がみしみし軋む。確かに硬いようではあるが、無敵という訳では無さそうだ。ならば、叩いて砕くのみ! 「カメか、ドン臭そうな見た目だけど、油断はしないからな」 月凪の穢れの弾丸が甲羅を叩き、月姫の魔力を込めた投げキッスが続く。みしみしと亀裂が入った海ガメに向けて、芙美が仕込み杖『哀幻夢煌』を向けた。 「実は私、海ガメを生で見たこと無いんですよね」 これはノーカウントにしたいものだと付け加え、光の槍を解き放つ! 甲羅の中にめり込むような一撃を受け、先頭の海ガメはどさりと砂の中に倒れ、動かなくなるのだった。 「大丈夫よ、森の癒しで包んであげるわ」 その隙にシャムテイルはヤドリギの祝福でファリューシングの傷を癒し、エルレイはリフレクトコアを召喚してゆく。
「そこっ」 真琴の斬撃がカメの前脚を薙ぎ払うが、相手は頭と脚を引っ込めて甲羅に篭った。この状態でガードアップし、体力を回復するつもりなのだろう。真琴は息を整えながらも視線を外さず、その位置のまま武器を握り直した。 「くっ……!?」 もう一方の海ガメが放った水の弾が渓の胸にめり込む、ぶしゅっと血が傷口から噴き出すも、渓は怯まずに砂を蹴立てていた。 どぉんと甲羅の頂点をクレセントファングが叩き、海ガメを砂浜にばふっと落とす。しかしまだ力は残っているのか、すぐに立ち上がった。 「全部ぶつけてやる!」 ファリューシングも渓と戦っていた左側の方に駆け込み、そのままの勢いでクレセントファングを放つ。甲羅で受け止めながら衝撃を殺すように小さく跳び、海ガメは砂浜に着地した。巧みな動きでダメージが削がれたのかもしれない、ファリューシングはくっと奥歯を噛み締める。 「くっ……」 そしてカメの放った水の弾が月凪の胸にめり込んだ。だがその直後にルシアが念動剣『l'ala di angelo』を解き放ち、カメに牽制攻撃を加える。 「回復するよ」 その隙に火凪がヤドリギの祝福を発動させ、月凪のダメージを回復させていった。 「よくもやったな!」 月姫の投げキッスをかわしたカメの着地を狙い、月凪は穢れの弾丸を射出する。がきんと硬い甲羅を叩き、僅かではあるがダメージを重ねてゆく。その間に芙美はリフレクトコアを召喚し、攻守の力を高めていった。 エルレイは風水盤『天司空』を構えながら力を集中させていた。星に導かれるように、生まれた光が槍となって敵を討つべく解き放たれる。 ……ぴしっ。 光の槍がカメの甲羅を叩き、僅かではあるが亀裂が走る。確かにダメージが蓄積していることを確認し、シャムテイルは地獄の叫びを響かせるのだった。 「もういいから海に帰ってろ!」 地を蹴って繰り出されたファリューシングの鋭い蹴りがカメの甲羅に突き刺さる。クレセントファングを受けてみしみしと甲羅が悲鳴を上げ、亀裂が広がってゆく。 『……!』 どごんっ! だが最後の力を振り絞るようにカメが突撃し、ファリューシングの体を吹っ飛ばした。 「星空へ還してあげます」 ルシアの光の槍が突き刺さり、ばきんと甲羅が激しく割れた。そしてその割れた部分目掛けて渓がクレセントファングを叩き込む! 「見た目からして堅そうな……でもっ!」 輝く軌跡を描いて、蹴りがカメを打ち砕く。ガラガラと甲羅の破片が崩れ落ち、二匹目も倒れた。これで残るはあと一匹!
ぎぃん! 「くっ!?」 カメが甲羅に体を引っ込め、真琴の攻撃を防御する。がきんと長剣の刃が弾かれ、手にはビリビリと衝撃が伝わってきた。 そのままタックルを仕掛けてくるカメだが、真琴も踏ん張る。交差させた剣で甲羅の突撃を阻み、捌くようにして直撃を防いで耐え切った。 「待たせたな!」 そこに月凪の穢れの弾丸が飛来する! がきんと甲羅の曲線で弾かれるものの、その一瞬を利用して真琴は旋剣の構えを取り、体勢を立て直した。 仲間達が他の二匹を倒し、援護に駆け付け始めていたのだ。火凪が氷の吐息を放ち、カメの体が魔氷に包まれる。続く芙美の光の槍は避けられるが、エルレイの光の槍がカメの前脚に突き刺さった。 「私も見せ場ってことかしら!」 バランスを崩したカメに向かってシャムテイルは地獄の叫びを叩き付ける。呪言の力が猛毒となってカメの体に伝わり、蝕んでいった。 月姫のキッスは甲羅で防がれたようだったが、そこに渓が踏み込んでゆく。先程吹き飛ばされたファリューシングが近くまで戻ってきていることをチラリと確認し、クレセントファングを叩き込む! 着地と同時にバックステップで下がり、入れ替わりでファリューシングがクレセントファングをぶち込んだ。みしみしと甲羅が軋み、カメの体勢がガクガク揺れる。 「こんな時間に現れて……私の睡眠時間返して!」 怒りを込めたエルレイの光の槍が甲羅を貫いた。そこからひび割れ、大きな亀裂が幾つも走る。 「流石に甲羅は厄介ですね、でも……っ」 能力者達の連携が、強固な甲羅を打ち砕いていた。真琴は長剣『月下終焉』を振り上げ、闇のオーラを纏わせる。 ざんっ! 振り下ろされた黒影剣が、闇を断ち切る。こうして見事三体のカメ妖獣達は、能力者達によって退治されたのであった。
「おいしい料理のおかげで頑張れましたっ」 戦いを終えて元気に振る舞う真琴であったが、夜も更けておりかなり眠い。 「皆サンお疲れ様」 ふぅと息を吐くシャムテイルも良く眠れそうだと付け加え、仲間達も大体似たような感じで労いもそこそこにテントへと向かっていった。 「やっと終わった。もう寝る。寝てやる」 テントに入ると同時にこてんと眠りにつくファリューシング。 「睡眠時間は結構重要なのです……」 芙美も女子のテントに入り、今すぐ眠れそうだと瞳を閉じる。 「眠い……けど目が冴えて眠れないの……どうしよう」 そうして皆が寝静まった頃、エルレイは目をゴシゴシ擦りながらテントの天井を見上げていた。 テントに入る前に見た、星空を思い浮かべながら……エルレイは静かに瞳を閉じる。
こうして能力者達の夜は過ぎる。翌日彼らは海からの日の出という絶景を目にすることになるのだが……それはもう少しだけ、先の話なのであった。
(おわり)
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参加者:9人
作成日:2009/08/19
得票数:楽しい23
カッコいい1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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