≪D-Force≫鏡像が実体化なんてしませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから


<オープニング>


 特に、前触れはない。打ち捨てられて久しい廃工場の一隅で『それ』を見つけたのは、はて偶然か必然か。
「ヤヌスの鏡の、メガリスゴースト……こちらと戦力が同じなら、戦い方も自ずと絞られるな」
 いたく冷静に寅靖が指摘する。相手は鏡像――不思議の力で姿を結んだ自らの分身。だが翻り、それは鏡像の方もこちらの手の内を知り尽くしているということでもあった。
 さて、このメガリスゴーストに対し反応は実にそれぞれであった。
 にゃはん、と呑気に笑う者、不思議そうに見つめている者、一瞬驚いてすぐに気を取り直す者、この俺の真似をしようとは面白いと不敵に笑う者、不安そうに見つめている者。
「勝った……胸は勝った!!」
 鏡像だという事実を頭から見なかったことにしている者。
 そして。
「不愉快、実に不愉快だ!」
 獅子吼するのは影郎であった。現れた自分の写し身に指を突きつけ、ふざけるなと叫ぶ。
「こんなセンスの悪い覆面野郎が僕だと言うのかっ!?」
「さ、さっさと倒すぞ」
『はーい』
「あれ、ちょっと待ってここはツッコむところだよ!?」
「何、落ち着いて戦えば怖いものではないからな」
『はーい』
 寅靖のかけ声の下、全員が詠唱兵器を構えて自らの分身と対峙する。
 敵は、自分自身。奇妙な緊張感と妙なむず痒さとに挟まれながら『D−Force』の面々は臆せず立ち向かう。
 8人vs8人、希有な戦い、ここに。


「ツッコミは!! ねえツッコミは!?」


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参加者
天城・剛一(金虎拳士・b18369)
渕埼・寅靖(縛鎖のキマイラ・b20320)
流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)
真田・碧(飛燕の空駆狐・b24519)
久遠寺・絢音(アンブルアレニエ・b32745)
知原・朱美(中学生土蜘蛛童・b33635)
緑青・優真(エクストリーム自爆・b44032)
若生・めぐみ(キノコの国のめぐみ姫・b47076)



<リプレイ>

●鏡像ですよ!
 場所は廃工場、むやみやたらと広いばかりで何もない。
「仲間と同じ姿をしてる敵をたおすのは、ちょーっとばかし気が引けるけど〜」
 手加減しないよにゃはーん、とのんきに笑いながら真田・碧(飛燕の空駆狐・b24519)のクレセントファングが優美な弧を描いて『その人物』の写し身にヒット。晴れ渡る秋空のような、実に晴れ晴れとした笑顔を兼ねた一撃である。あとちょっと見たことのないエエ角度。
 一撃をくれてすっきりしたのか、すぐさま当初からの予定通り偽絢音と相対する碧。
「勝ってますから、こっちの方が胸囲勝ってますから……!」
 碧同様『その人物』に全力渾身の導眠符を投げつけつつ、自身の偽物に対して必死に自分の方が胸囲が勝ってると訴えているのは、本物の久遠寺・絢音(アンブルアレニエ・b32745)である。ゴーストかくやという顔と気持ち歪んで見える周囲の空気は、彼女が今まで築き上げてきた清楚なイメージがざっくり瓦解しそうなほど凄絶な雰囲気であった。
 というか胸囲なのか。カップ数ですらないのか。そしてあまりのいたたまれなさと恐ろしさに仲間達が皆、目を合わせようとしていないのには気付いているのか。
「どっちも大きさ変わんね」
「どこに目ぇつけてんですか撃つぞ燃やすぞ呪い殺すぞ感電しろっ!!」
「ごばるちゃっ!?」
 空気が読めないばっかりに余計なことを言ってしまった流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)が真横に走った炎の魔弾に吹っ飛ばされる。さようなら清楚な絢音のイメージ、こんにちはプチバイオレンスな絢音のイメージ。とりあえず良い具合に魔炎に包まれて床を転げ回っているその覆面が自分が所属する結社の結社長だってたまに思い出してあげてください。
「偽物、かあ。ふしぎな感じだね」
 森羅呼吸法で気魄を上げながら、本当に不思議そうに知原・朱美(中学生土蜘蛛童・b33635)。一服の清涼剤のような言葉とは裏腹に、牙道砲をじつにさらりと『その人物』の偽物にぶち当てる。そのあと何事もなかったように、やはり絢音の写し身に向かう。
「……なあ」
 と、ここで声。だが不思議なことに何故か誰も取り合わない。それどころかあえて空気を読まないことで定評のある天城・剛一(金虎拳士・b18369)の放った震脚の轟音でかき消されてしまう。なお、剛一の震脚も『その人物』の写し身狙いである。言わずもがな。
「なあ、君たち」
「自分自身との戦い、勝てます……よね?」
 キノコ帽子を構えながら若生・めぐみ(キノコの国のめぐみ姫・b47076)がシリアスな表情で呟く。誰かさんの台詞を遮るようなタイミングだったのはおそらく偶然であろう。たぶん。
 当たり前ではあるが、全員の動きは非常に統制のとれたものであった。敵が自分たちの写し身であろうとも、こちらには交流を通して築き上げてきた輝かしい歴史と深い絆があるのだ。これほど心強いものもない。感情を持たない偽物風情に後れをとることなど、万に一つもあり得ない。
「……なあ、君たち!」
 先ほどから折を見て声を上げてはいたものの、ことごとく黙殺されていたため、少し大きく声を張ったのは渕埼・寅靖(縛鎖のキマイラ・b20320)であった。つかぬ事を聞くがと前置きし、問う。
「俺の写し身に対して、何だ、必要以上の力を入れてないか?」
『気のせいだよ?』
「……そうか、ならいいんだ」
 ほんのちょっぴり悲しそうに呟く寅靖。何があったんだ、積み上げてきた歴史の中に一体何があったんだ。
「特にないけど積年の恨み〜!」
「待つんだそこの弟子、今はっきり何か口にしなかったか」
 チェーンソー剣を喜々としてフル回転させ斬りつける弟子こと緑青・優真(エクストリーム自爆・b44032)。何があったんだ、結んできた絆の深さに一体何があったんだ。
「口にしてないよ?」
「へらへら笑うんじゃない、今ふざけた台詞を吐いたのはこの口か!?」
 お互い胸ぐらつかみ合っている場合なのか。
「死ねぇ〜渕埼寅靖!」
 復活するや、きっぱり名指しで殴っている影郎にまず気付くべきではないのか。

●一瞬の輝きのために色々投げ打ってしまった人々
 まずは、回復手から、というのが共通認識であった。治癒符を持つ絢音とヒーリングファンガスを持つめぐみの写し身のことである。
 とは言え、それを易々と許す写し身たちでもない。当然のように壁を作り、攻撃が後ろへ通ることを阻んでくる。
 だが、それも見越した上での行動であった。影郎と剛一の、存分に引きつけてからの震脚が、壁となるべく動いていた写し身たちをほとんど吹き飛ばす。一番の強敵と誰もが見なしていた寅靖の写し身、そして影郎の写し身こそ吹っ飛ばせなかった物の、それ以外の壁を取っ払ってしまえば後衛に肉薄するのはそう難しいことではない。
「絢音ちゃんごめんね〜、にゃはんっ」
 鋭く早く駆けた碧のクレセントファングがめぐみの写し身に直撃し、同じく斬り込んだ剛一が虎紋覚醒で威力を上げた龍尾脚で続く。ぴしりと亀裂の入るような音。めぐみの写し身が、ひびの入った鏡のようにいびつに歪んで砕け散る。
「やぁ〜、痛いよ〜う!」
 それを見ためぐみが思わず悲鳴を上げる。何しろ自分の鏡像である。実際には痛くないのだが、その感覚を共有するような気分になるのも致し方ない。
「同じ能力でも、魂無き写し身に負けるわけにはいくまいよ」
 己の敵は、己。左頬の傷から何から完全に写し取りながらただ一点、魂だけは存在しない己の鏡像を睨め付け寅靖は虎紋覚醒からの連携を狙う。紅蓮撃はしかし打ち払われ、お返しとばかりに打たれた紅蓮撃を逆にもらってしまう。
 短く呻いたところに、符が飛んできた。導眠符――絢音の写し身が放った眠りの力に抗えず寅靖は膝を、
「寅ちゃ〜ん寝たらダ・メ!」
 着く寸前に後ろから飛んできた牙道砲に吹っ飛ばされた。
「あれ?」
 きょとーんとしてるのは他ならぬ優真である。手加減するつもりは一応あったのだが、基本中の基本として、イグニッション中は手加減はできないのである。
 静かな、静かすぎるほど静かな怒りをたたえて立ち上がった寅靖は、何か言いようのない顔になっていた。強いて言うなら仲間割れリアルファイト10秒前的な顔である。
「仲良きことは美しき哉?」
 そんな二人を見ながら、朱美。正直、結社の誰も見たことがないどころか、親友たる剛一すら見たことがないような顔になってるし、違うんじゃないかな。
「パクんなこの変態仮面!!」
 吹っ飛ばせなかった自身の写し身に暴言を吐きながら影郎がクレセントファングを打つ。再三言うが、写し身である。本人をまるっとそのまま写した鏡像が実体化したものである。自分の仮面というか覆面の趣味がそのまま反映されていることに何故気付かないんだ。
「私の方が胸囲は勝ってるんですよ!! 私がこんなになだらかで芸術的な平面の持ち主なわけないじゃないですかっ!!」
 聞く者の魂に傷さえ残しそうな切実さで絢音の叫びがこだまする。再三言うが略。写し身略。鏡像が略。何故そろいもそろって非情な現実に立ち向かえないんだ。
「だからどっちも変」
 そして再び燃え上がる影郎。口は災いの元の好例である。
 絢音の写し身を殴り飛ばして倒しながら、なんだか酷いことになってるなあと剛一は少し遠い目になったという。

「頑張ってください!」
 めぐみの思いを込めた白いキノコが宙を舞い、傷ついた寅靖を癒す。ありったけの自制心と、すぐそばにいるキャラが崩壊しつつある反面教師のおかげで仲間割れは踏みとどまった寅靖が封術を払って紅蓮撃を撃ち、癒し手を倒した碧が次の標的である影郎へと走る。
「……偽物って分かってても攻撃しづらいなあ」
 写し身優真の牙道砲をかいくぐってかわし、嘆息と共に朱美が偽影郎に牙道砲を叩き込み、優真もまた同じく偽影郎に牙道砲を撃った。立て続けの攻撃にぐらりと偽影郎が傾ぐ。絢音の炎の魔弾が飛び、剛一の龍尾脚が追い打ちをかけ、碧のクレセントファングが偽影郎を粉々に砕く。
 ほぼ同時、会心の当たりを見せた寅靖の紅蓮撃が自身の鏡像を木っ端微塵に砕いた。完全にこちら側に傾いた流れに、にやりと影郎が笑い、アームブレードを朱美の鏡像に突きつける。
「つーか人の嫁の姿するんじゃねぇー!!」
 一瞬、真空状態と誤認するような静けさが落ちた。
 え、何言ってんのこの人、そんな空気が突拍子もない悲鳴で打ち砕かれる。頭のてっぺんから声を上げたのは他ならぬ朱美本人である。
「嫁っ!? よよよよよよよよよ!?」
 本日二人目のキャラクター崩壊であろうか。
「その、そういうのには、ま、ま、まだ早いといいますか、心の準備が……いえけして嫌なわけじゃないんですけど……ないんですけど……!」
 真っ赤になってしゃがみ込みながら、赤手でコンクリートの床にのの字を彫り始める朱美。中学生相手に嫁宣言をすることの可否はさておき、嫌いじゃなければまあさして問題はないのではなかろうか。
 まんざらでもない反応に大いに気をよくした影郎と、周囲の温度差がいっそ見事であったという。

●戦い済んで日が暮れて
 結局、傾いた流れはそのままであった。特筆するべきこともなく押し切り、全ての鏡像を砕くことに成功する。
 すぐ近くで見つけた、虫に似たヤヌスの鏡のメガリスゴーストも破壊し、一同は人心地つく。未だに真っ赤なままの少女と、そのそばでリアルファイトを再開しそうな師弟、それを押しとどめる親友が居ることをのぞけばおおむね平和である。
「やっぱり、胸の大きい方が正義ですね!」
『なだらかで芸術的な平面』をえへんと張りながら絢音。真っ赤になっている朱美のそばにいた影郎が、だからさあ、と声を出す。
「あれ完全再現だから変わらないからつまり見たものがそのまま絢音の」
 異音。
 あ、あれ鼻低くなったな、と皆に納得させる切れの良いストレート。
「……さて、メシでも食いに行かないか?」
 優真との決着はとりあえず保留にしたらしい。大人らしい切り替えの早さでここは俺が持とう、と提案した寅靖に皆が歓声を上げる。
「ん〜、割り勘でいいよ?」
「いや、学生に持たせるわけにもいくまいよ」
 提案した碧に、笑いながら寅靖。鏡像が全員から全力で攻撃されていたにも関わらず大人の対応である。
「では、帰りましょう……めぐみ、おなかすきました!」
「同じく、いっぱい動いてお腹空きましたし」
 めぐみがはしゃぎ、立ち直った朱美が追従した。あれが食べたいこれが食べたいと騒ぎ始める誰も、何故か後ろは振り向かない。
 か細く響く物悲しい悲鳴を聞きながら、誰からともなく思う。
 またいつか――清楚な絢音と出会える日が来ますように、と。
 無理かな。無理かも知れない。


マスター:赤間洋 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/09/14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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