<リプレイ>
● 「あちぃ……そういや、海でまともに泳ぐの初めてかもしれねぇ」 佐原・源(眠禍・b38419)は、照りつける日差しに顔を背けつつ、バンダナで腕に水中ライトを固定する。 銀誓館の生徒達はこの夏、臨海学校でこの小笠原諸島にやってきていた。 「(毎年毎年、臨海学校となると厄介事が多いのでしょうか)」 アニス・アルカンシェル(虹色の魔女・b30091)がそんな風に考えるのも無理はない。 今回の臨海学校も能力者達にとってはただの臨海学校では無く、この海域に集結しつつあるゴーストの戦力を削る――いわば漸減作戦を兼ねたもの。 これが終わらなければ、思い切り南の海を満喫する事も出来ない。 「臨海学校までゴースト退治かよ。しかも海の中かよ。俺達人間だぜ?」 麻倉・尚穂(高校生魔剣士・b54361)も先ほどから口を開けば文句ばかり。 能力者にとっても、水中で戦闘をする機会はそう多く無い。何が起こるか解らないと言う不安もやや入り交じっているのかも知れない。 「ま、なんてこたーねーわな。ゴーストさえ倒しゃ、後は好きにしていいんだしさ」 龍宮・神奈(守紅緑龍・b57328)は普段通りあっけらかんとした様子で、早くも準備体操を始めている。 重要な事を言い忘れたが、一同は水着に着替えている。 「(折角の臨海学校ですから楽しむ時には楽しまないとっ!)」 シュノーケルの具合を確かめつつ、こちらも前向きな池田・クラレット(護界召喚師・b45628)。 巨大なクーラーボックスを持参した彼女だが、その中には本物の海の幸が満載されており、任務遂行の暁にはそれらで舌鼓を打つ楽しみも待っている。 「ふう……標的は巨大なホタテ、あのサイズのホタテが養殖出来れば、食料事情が一気に改善……でも、大味そうだからイマイチですかね」 サーフボードを引き摺るようにしてやってきたのは石動・葛馬(ルサンチマンの檻・b50559)。 巨大ホタテの養殖は、エサ代や場所の確保も大変そうだ。 「……そういえば今回集まっているゴーストは食える連中が多い気がする。まぁ、試す気はないが」 レニー・ネイムド(名無しではない・b57056)も水中ライトをチェックしつつ、今回の標的となるゴースト達の顔ぶれを想起する。 トビウオやらクジラやら、食用としてもなじみ深い海洋生物に似たゴーストも多いが、油断すれば食べるどころか食べられる危険もある 「さて、ホタテ探しと言ってもどこを探したものやら、とりあえず、水中散歩と洒落込みましょう」 水鏡・明(冷血漢・b59829)は持参した魚の餌を手に、文字通り水中散歩におもむく様な余裕で波打ち際へと歩む。 「よし、行くわよ!」 ゴーグルもかけて準備万端の速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)もこれに続き、9人は巨大ホタテの索敵を始める。
● 透明度の高い海の中、能力者達は3人1組でそれぞれ捜索に当たる事にした。 水中で源が、ふと一方を指さす。アニスとレニーがそちらを見て見ると――。 「……!」 そこにいたのは美しく輝く山吹色の魚達。 少し視線を移せば、他にも青や黄色、色とりどりの魚たちが無数に泳いでいる。 いずれも本州周辺では見られないような、珍しい魚ばかりだ。 「ぷはっ……知らねぇ魚がすげぇ居るな。手で触れそうなくらいだ」 「ええ、やはり綺麗ですわね」 「ああ、東洋のガラパゴスと言われるだけのことはある」 水面に上がった3人は、口々に感想を述べる。 鎌倉にも多くの海が存在するが、そうした日本の見慣れた海水浴場とは違う、自然の海が此処にはある。 「よし、次はあっちだ」 3人は息を一杯に吸い込むと、再び潜水を再開した。
「透明度が高いのは助かりますね……」 葛馬はサーフボードをビート板の様に使って浮かびつつ、水中を見下ろす。 水は澄んでおり、海底まで一通り見ることも出来る為、いちいち潜水して体力を消耗しないで済みそうだ。 「ぷぁっ……凄い一杯魚が居るわよ! 葛馬は潜らないの?」 すぐ横に浮上してきたのは、すっかり上機嫌のめぐる。ボードの端に捕まりながら葛馬に尋ねる。 「いや僕は……その代わり、水上で皆のサインをしっかり確認しますよ」 「そっか。あれ、神奈は?」 周囲を見回すが、神奈の姿はない。めぐるより先に潜ったのだから、かなりの時間潜ってる事になるが。 ――バシャッ! 「これ見ろよ、これ」 突然真横に浮上してきた神奈が、ボードの上に並べたのは珊瑚。 「えっ、これ……取って来ちゃったの? ダメだって言われたじゃない」 「いやいや、海底に落ちてたのを拾ってきただけだって」 「これは……大分前に死んだ珊瑚みたいですね」 珊瑚も生き物なので、当然死ぬ事もある。 また近年では海水温の上昇に伴って、珊瑚が白化しやがて死滅してしまうと言う現象も世界各地で報告されている。 小笠原諸島でもかつて大規模な白化現象が起きた事もあるが、近年は数を回復させていると言う。 「へぇ……って、自然保護も大事だけど、ゴースト探さないとね」 「よし、もうひと潜り行くか」 二人が再び水中へ潜り、ボードの上には珊瑚と葛馬が残された。 「……これも海に還しておきますか」
(「オイオイ…海の中ってマジ別世界なのな。イソギンチャクとか、よくこんなうねうねした植物みてーなやつが塩水の中で生きてんな!」) さてその頃、クラレット達の班も水中を捜索に当たっていた。陸の上では文句ばかりだった尚穂も、小笠原の海を目の当たりにしてしっかり楽しんでいる様だ。 (「おおっ? 魚がすげー寄ってきたぞ?!」) さて、そんな3人に向けて魚の群れが一斉に寄ってくる。 (「まー持って着ておいてよかった、という所ですかね」) 明の持参した餌に群がる魚たちを、それこそ目の前で存分に観察する事が出来た。 (「では、次は珊瑚に協力して貰いましょう」) すっとクラレットが手を動かすと、海藻や珊瑚達が一斉に3人の前に道を開く。 幾分、ホタテを探しやすくなったかも知れない。
● 「うーん、簡単に見つかるかと思ったけど、意外に見つからないな」 「バンドウイルカか?」 「いや……ホタテの事な」 「そうですわね……景色はいくら見ていても飽きないけれど」 源達は水上に集まって、暫し休憩を兼ねた相談タイム。 泳いでいてくれればいっそ見つけやすいのかも知れないが、海底というのが意外なネックでもある。 「ま、しょうがねぇ……もう少し広がって、手分けして探すか」 「よし」 「参りましょう」 3人は再度、水中へと赴く。
「ぷはぁっ……!」 「また龍宮さんの勝ちですね」 水面に浮上しためぐるは周囲を見回すが、そこには苦笑いを浮かべる葛馬の姿だけ。 「……ぷぁっ。オジサンに勝つには、まだ5年くらい早いな」 「くっ……」 暫くして、浮上してきた神奈は余裕の表情。対照的に悔しげなめぐる。 「ところで、ホタテは……?」 「「……」」 葛馬の問いかけに、顔を見合わせる2人。 「……もう一度勝負よ!」 「無駄だと思うけどなぁ」 2人はまた、同時に水中へと潜っていった。
(「魚と共に、海中に開かれた道を行く……これ以上の水中散歩はありませんね」) 明達は無数の魚を引き連れながら、隠された森の小路によって開かれる海中の道を行く。 (「!?」) すっとクラレットの手が上がり、人差し指が斜め前方を指さす。 そこには、巨大な二枚貝が海底に鎮座している光景。 周囲に他の生き物の姿は無く、そこだけ異質な空間で有ることを現している。 (「なんか……海ん中にハゲが出来てるみてーだな。ここの奴ら、お前に用は無えみてーだぜ」) もはや海に生きる仲間として受け入れられる事のなくなったその敵を、尚穂は少しだけ憐れんだ。
● (「同時攻撃だ!」) (「解りましたわ!」) 源の瞳がゴーグル越しに禍々しい光を帯びる。と同時に、アニスの念動剣が水中を走った。 標的はもちろん、水中をかなりの速度で航行する巨大ホタテ。 (「ナイトメア! ……それにしても、凄い勢いですね……おや?」) ナイトメアを召喚し、ホタテに突撃させた葛馬。しかし、次の瞬間にはホタテが自分に向かってくる事に気付く。 ホタテを発見した能力者達は、陸上におびき出すべく刺激を与えたが、これに激怒したホタテは猛然と能力者達に襲いかかってきたのだ。 (「こっちだ、こっちにこい!」) いずれ葛馬に追いついてしまいそうな勢いのホタテに、水中ライトを点滅させ、しきりに挑発するレニー。 (「よし、そうだ……追って来るが良い」) すると、今度は急に向きを変えてレニーへ突進してくる。 (「でもよ、この調子なら……割と簡単に陸までいけそうだ」) 交互に囮役を演じながら、次第に陸の方向へ向かっている。神奈は親指を立てて早くも勝利宣言。 ――バシュッ。バシュッ。 クラレットの詠唱銃から弾丸が発射され、レニーを追っていたホタテの貝殻に命中する。と、今度はクラレットめがけて向かって来始めた。 確かに、ある意味では御しやすい相手と言えそうだ。 (「次はこっちの番ね」) ――ボボボボボッ! 今度はめぐるのガトリングガンが無数の弾を撃ち出す。 が、これは紙一重の所でホタテを掠めるだけ。 (「やばっ……!」) (「やれやれだぜ……」) めぐるのミスをフォローすべく、格好良く身構えたのは尚穂。 ――シュッ! 黒い影が彼の足下から伸び、ホタテへ襲いかかる。 ……が、これも外れた。 クラレットまで、後わずかという所に迫るホタテ。 水中では満足に防御姿勢も取れないし、もし挟まれでもすれば、酸素の問題もある。 (「おっと、行く先はこっちですよ」) しかしここで、明のクロストリガーがホタテに無数の弾丸を降らせる。 この衝撃に、ホタテは再び向きを変えた。 一同が安堵したのもつかの間――ホタテは急浮上すると、水面へと出る。 「ホタテも息継ぎ……って事はないよなぁ?」 同じく水面に浮上した源達。 「何か妙ですわ。陸へ急ぎましょう」 アニスの言葉に従って、一同は陸へと急ぐ。もうあと数十メートルという所だ。 ――ガパッ。 彼女の予感が的中した様にホタテの口が開き、まるでヨットか帆船の様に水上を滑り出した。 風だけが動力ではない様で、海中とは比べものにならない速度だ。 「サーフボード、持ってきておいて正解でした」 上手い具合に波に乗ったボードに、しがみつく葛馬。 「くっ……不条理な速さだな」 レニーは腕につけたライトを投げ捨て、クロールで陸へ泳ぐ。 「吹っ飛べっ」 神奈の手から衝撃波が放たれ、水を巻き上げながらホタテへ命中する――が、殻に弾かれるようにしてダメージを与える事は出来ない。 「これでっ……!」 続けざまに放たれたのは、クラレットによる魔法の茨。 水上で爆発的に広がった茨が、ホタテを縛るように絡みつく。 「やった……?」 ――ビュオオッ!! 動きを止めたかと思われたが、ホタテはその場で高速回転。まるで茨を断ち切るようにして戒めを脱する。 「こりゃ、どうあっても泳ぎ切るしかないってわけかよ!」 「皆さん、もう少しです。急いで」 陸まではあと少し。 体力を振り絞って、能力者達は泳ぐ。
「……はぁ……疲れた……ぜ……」 持久力には定評のある源だが、さすがに全力で泳いだ直後は息を切らす。 砂浜には、彼と同様――或いはそれ以上に疲れ切った様子の能力者達。 そして、勢いよく砂浜に乗り上げたせいで三分の一くらいが砂に埋まっている巨大ホタテ。 どうにか追いかけっこは能力者達の勝利に終わった。 そしてそれは、戦闘における能力者達の勝利とほぼイコールと言って良い。 「一気に参りましょう。当たると痛いですわよ?」 「倒すと消えてしまうんですよね……勿体無い話です」 アニスの炎弾が、葛馬の召喚したナイトメアが同時にホタテへ襲いかかる。 「このままたこ殴りだ、いくぜ!」 「よし、これでっ」 源の瞳が再び黒く光るのに呼応し、レニーのネイリング・改がホタテの殻の間から貝柱を狙って突き入れられる。 「今度は外しませんよ」 クラレットの宣言通り、茨ががっちりとホタテを捉えて一切の動きを封じる。 「煮ても焼いても食えねーヤツはこれでも喰らっとけ!!」 「さて、烈風の槍、避け切れますか?」 尚穂のダークハンド、明のジェットウィンドが続けざまに放たれる。 苛烈な集中砲火の中、巨大ホタテは次第に砕け、ボロボロと崩れ落ちてゆく。 「神奈、トドメよ!」 「よーし、これで……終わりだっ」 ――ゴォォッ!! 神奈の身を荒れ狂う暴風が包み込み、トルネードと化してホタテへぶち当たる。 あわれ巨大ホタテは、粉々になって砂浜に散った。
● ――バキ、バキッ! ホタテの片殻を捻るようにして外し、取り除くアニス。 と言っても、巨大ホタテではなくクラレットが持ってきた、普通のホタテである。 「他の海域も気になる所ですが、これで一安心ですわね」 ナイフとフォークで身を切り分けつつ、表情を緩める。 「うん、美味しいですね。こうなるとさっきの巨大ホタテが消えてしまったのも、勿体無く思えます」 葛馬も、醤油とバターで味付けされた貝柱を頬張り、冗談なのか本気なのかそんな事を呟く。 「いや、やはり……適当なサイズというのがあるのではないか」 こちらは海鮮パエリアに舌鼓を打つレニー。 戦ってみてより強く実感したのは、余り巨大だと美味しそうには見えないと言う事。 「マグロもそろそろ食べ頃だと思います」 日本の文化には何かと馴染んでいるクラレット。マグロの兜焼きの加減を確認して皆に告げる。 「やっぱよ、煮ても焼いても旨い奴の方がいいよな」 尚穂も豪華な昼食には何の文句も無い様子。満足げに箸を動かしている。 「干すと言う手もありますよ」 ふっと微笑を浮かべながら言う明。 「よし。任務も終わったんだし、何も気にせず泳ぎなおしってのはどうだ?」 「賛成!」 「……俺ももう少し泳ぐかな」 神奈の呼びかけに、体力と気力を残した有志達が立ち上がる。
まだこの海域のゴーストを殲滅出来たわけではなく、戦いは始まったばかりと言っても良い。 けれど今はひとまず、臨海学校にきた学生の立場に戻り、思い切り楽しむ事にしよう。
|
|
参加者:8人
作成日:2009/08/19
得票数:楽しい14
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |