真夏の夜の提灯行列


<オープニング>


 さらりさらりと、和服の袖が鳴る。白い手が、細い竿を持っている。竿の先に揺れる、赤い提灯。
 揺らめく明りにほんわりと照らし出されるのは、赤や青の原色で彩られた和服だった。まがまがしいほどに鮮やかな和服を着た女が、帯を締めず着崩して襦袢を覗かせ、じゃらりじゃらりと裾で地面を擦りながら歩いている。
「寂しい……寂しい……誰か一緒に……もっと一緒に……」
 ぶつぶつと泡を吐くように呟きながら、女は歩く。
 ほつれ毛が落ちる乱れた和髪に、顔は白いを通り越して青白い。目はうつろで、ぼんやりと前だけを見ていた。
 その足元に纏わりつくように、白猫黒猫、2匹の猫たちがついてゆく。
 ナア。ニァーン。猫たちが鳴くと、笑いさざめく声が後ろに続いた。
 ふふ。
 うふふ。
 女と猫の後ろをついて歩くのは、肌も露な肢体に蛇を巻きつけた娘たちが2人。そっくり同じ顔をした彼女たちの違いといえば、手に手に下げた提灯の色だけだ。
「わたしたち、これだけじゃ、まだまだ寂しいものね……ふふふ」
 黄の提灯を下げた娘が言う。
「寂しい寂しい……うふふふふ」
 青い提灯を下げた娘が言う。
 真夏の真夜中、田んぼばかりが広がる田舎町を行く、女たちの行列。彼女たちは美しかったが、この世のものにはとても見えない、暗い美しさだった。
 ふと、先頭の女が足を止め、蛇を纏う娘たちがぴたりと黙った。
 遠くから、鼻歌が聞こえてくる。
「うぃー……っと。ふあ、呑み過ぎたぁ……かーちゃん家に入れてくれっかなぁ……」
 歩いてくる、中年男性らしき人影があった。
「…………」
 女はふわりと提灯の光を闇の中に揺らし、それきり。
 異形の行列は影も形も残さず消えた。
 千鳥足のお父さんは、何も目撃することなく、ふらふらと家へ帰ってゆく……。

「皆様、いらっしゃいませ」
 志之宮・吉花(中学生運命予報士・bn0227)が、教室を訪れた能力者たちを出迎えた。
「百鬼夜行のゴーストが現れました」
 小脇に抱えていたメニューブックをパラリと開くと、吉花は中のメモに目を通しながら事件の説明を始める。
「現れました場所は、京都府内の田園。民家は遠く、夜になると人通りはありません」
 ごく稀に午前様のお父さんなどが通りかかることもあるが、今から出発すれば誰にも出くわさずに済むそうだ。
「百鬼夜行の地縛霊は、人影を見ると特殊空間に身を隠してしまいます。しかし、正々堂々と名乗りを上げ、戦いを挑む者に対しては、隠れる事は致しません」
 挑めば、逃げずに挑み返してくるというわけだ。
「その性質を利用し、戦闘による撃破を、よろしくお願い致します」
 吉花はパラリとページを捲った。
「まず百鬼夜行の地縛霊は……赤い提灯を下げた、乱れた和装の女性ですね。その地縛霊が先導するすぐ後ろに、猫の姿をした妖獣が2匹。さらにその後ろを、黄、青の提灯を下げたリリスが2体」
 若い女性と猫たちが成す、一見華やかで美しい提灯行列……といった風情のようだ。
「まず和装の女性地縛霊について。非常に打たれ強く、また、長い和服の袖を振り回しての攻撃や、提灯の中から火球を生み出して投げつけてくる攻撃はとても強力です」
 それだけでなく、厄介なことには、先頭の地縛霊は後ろをついて歩く猫妖獣とリリスたちに指示を出し、ある程度の連携を取ってくるらしい。
「猫妖獣2匹は、足元に纏わりついたり爪でひっかいたりしてきます」
 攻撃力は低いが、動きが素早く、能力者たちに隙を作って女地縛霊が攻撃しやすくしてくるというわけだ。
「そして黄の提灯を下げたリリスは回復役。青い提灯を下げたリリスは、フリッカーハートのダンシングワールドに似た技で踊りのバッドステータスを与えてきます」
 主なアタッカーは女性地縛霊のみとなるが、他のゴーストたちがかなり邪魔になるので、倒す順番や分担などはよく考えねばならないだろう。
「また、女性地縛霊やリリスたちは『寂しい寂しい』と言って、仲間になって欲しい一緒にきて欲しいなどと言って来ます。ゴーストと対峙する時の常ではありますが、同情は禁物です」
 一緒に行ってやれたらいいんだけど、などと同情するようなことを言ったが最後、ゴーストたちは喜んでその者を集中攻撃してくるだろう。
「けして、優しいお返事はなさらぬよう」
 気の重いことですが、と吉花は吐息した。もちろん、攻撃を集中させるための作戦、ということならわざとそういった発言をしてみるのも良いかもしれない。
「最後に。百鬼夜行の地縛霊は、妖狐によって生み出された人造ゴーストです。百鬼夜行が完成いたしますと、妖狐が強大な力をひとつ、手に入れることになってしまいます」
 それを阻止するためにも、ここで完成前の百鬼夜行を阻止せねばならない。
「皆様のご武運と、ご無事でのご帰還、心からお待ちしております」
 パタリとメニューブックを閉じ、吉花は深々と頭を垂れた。

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参加者
久遠・彼方(黄昏は愁橙を騙る・b00887)
幸野・忠明(己が想いに迷わず進む・b03818)
緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)
大塚・万里(ちょっと型破りな霊媒士・b17247)
宮村・雛乃(夢色ドルチェ・b36890)
玖珂・桜(シロイツキ・b43035)
桐原・真夏(太陽のリズムで踊ろう・b50014)
徳永・由衣(暁乃夢・b50269)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
聖羅・琳琅(狭霧に佇む・b61388)



<リプレイ>

●提灯行列、やってくる
 夏の夜の湿った空気にぼんやりとにじんだ赤い提灯が、ゆらゆらと揺れながら近付いてくる。
「私の夜の百鬼夜行、か。……え、違う?」
 桐原・真夏(太陽のリズムで踊ろう・b50014)がえへへと笑い、茶色の長い髪を揺らした。
 やがて先頭の和服の女の姿が、ぼうと見えてくる。
「敵を確認致しましたわ。ゴースト達の百鬼夜行……なんだか薄気味悪いですわね」
 徳永・由衣(暁乃夢・b50269)が、異形の提灯行列に目を細めた。
 夏の夜風に乗り、寂しい寂しいと、ぶつぶつ呟く声が聞こえてくる。
「寂しいですか……何があったのかよくわかりませんけど」
 文月・風華(暁天の巫女・b50869)が呟き、眦を決した。
「でも一緒に行くつもりは無いし、誰かを連れてくのも許さない」
 久遠・彼方(黄昏は愁橙を騙る・b00887)がかすかに眉を寄せ、呟く。気持ちはわかる気がする、だからこそ――此処で、終わらせてあげるから。
「一体残らずお掃除して差し上げましょう!」
 大塚・万里(ちょっと型破りな霊媒士・b17247)の白いヘッドホンが、薄明かりの中きらりと光る。
「ああ。そして仲間全員揃って無事学園に帰るんだ!」
 緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)は声を低めてはいるが、力強く言い切った。
「気合入れて頑張んないとね!」
 聖羅・琳琅(狭霧に佇む・b61388)の藍色の瞳が、前方を見る。
 赤い提灯の後ろに、青と黄の提灯。3色の明りに照らされたゴーストたちの姿が闇の中に浮かび上がった。
「来るぞ」
 玖珂・桜(シロイツキ・b43035)が、低く皆に促す。
 ニャーン。ナァウ。くすくす。うふふふ。猫の鳴き声と、リリスたちの笑う声も聞こえてきた。
「名乗る……んだよね。やあやあ我こそはー……って、ちょっと言ってみたかったんだー」
 宮村・雛乃(夢色ドルチェ・b36890)は笑顔で言いつつ、気を引き締めるように術手袋をはめた手をぱんと合わせた。
 相談の通りに布陣した能力者たちに、百鬼夜行が迫る。
「幸野・忠明だ! すみませんお姉さん、この猫一匹持ちかえってもいいですか?」
 幸野・忠明(己が想いに迷わず進む・b03818)が、一番最初に大音声で名乗った。同時にイグニッションした彼の両手で、チェーンソー剣が唸りを上げる。
 和服の女の足が止まり、それに従って猫たちとリリスも止まった。熱い視線を送った忠明に、白猫と黒猫が、牙を剥いて背中の毛を逆立てる。普通の猫ではないのだから当たり前といえばそうなのだが、ちょっと切ない。
「我は龍の伝承者なり、百鬼夜行よ、いざ勝負ッ!」
 刀身を現した電光剣を、龍麻は真っ直ぐに構える。
「我が名は久遠彼方、古より伝わる魔術の紡ぎ手なり。ひとつ御手合わせ願います」
 こうなったらとことんなりきろう、と、夕焼けの空という意味の名をもつ魔道書を開きながら彼方が続く。
「我こそは大塚万里、この方はわが師匠おやっさん」
 高らかに名乗った万里は長槍を構え、茜色の飾り布が鮮やかに揺れた。
「我らこそ銀誓に誉れ高き師弟! 恐れを知らぬものからかかってきなさい!」
 シャーマンゴーストフレイムのおやっさんが、万里の背後でわたわたと一礼する。
 そして次々と名乗りが続いた。
「聖羅・琳琅。災いの芽を摘むために来た!」
 少し照れくさそうに名乗った琳琅の手の中、ギターマシンガンの弦が小さく唸る。
「やあやあ我こそは宮村・雛乃! 百鬼夜行の行列は此処で終わり」
 美しい金の装飾が煌くホーミングクロスボウを構え、雛乃が。
「エア×魔弾、玖珂桜。どうぞよろしく」
 桜がシンプルに名乗り、その両手に握った刃が光った。
「このマヒ無双の真夏と言われた私をスルーして行こうなんて、そうは問屋が卸さないよっ」
 真夏が箒を振り上げ、白と赤を基調とした涼やかな浴衣の袖がひらりと待う。
「我の名は文月風華! 退魔の巫女なり! その魂解放させていただきます!」
 風華の手にした霊装と呪装、2つの布槍がするりと夜気を切った。
「我が名は徳永・由衣……」
 ゆらり、由衣の2刀が光を弾く。声が、揃った。
「「「いざ尋常に、勝負っ!」」」
 先頭の女が、布陣を整えた能力者たちの顔を見回し、紅い唇を動かす。
「……たくさん……おともだち……。羨ましい、わ……」
 ぼうっ、と、赤い提灯の中の火が大きく燃え上がった。

●いざ勝負
「前衛さんたちの邪魔しちゃダメよ!」
 まず走り出てきた猫たちが、雛乃の広げた茨の領域に絡め取られ、フゥフゥと機嫌の悪い鳴き声を上げる。
「ま。一緒に来てはくれないのね。寂しいわ」
「うふふ、こんなに楽しいのにね? 寂しい寂しい……」
 黄と青の提灯を下げたリリスたちは、和服の女の後ろで相変わらずくすくすと笑っている。恐らく後方支援を命じられているのだろう、前に出てくる様子はない。しかし身体に巻きついた蛇たちは激しくうねり、彼女たちが臨戦体制に入っていることを示していた。
「……おやっさん、お願いします」
 万里はおやっさんの手をぎゅっと握った。ゴースト合体。おやっさんの力を取り込みながら、万里はリリスたちをねめつける。
 能力者たちは敵の様子を覗いながら身構え、緊迫した空気が流れた。
「さて、まずは手早く1匹を仕留めて、敵の戦力バランスの良さを崩さないとね」
 呟いた琳琅のギターマシンガンが、黒燐蟲を纏って黒く光を帯びる。
「どちらも射程内ではあります……あちらから撃破致しましょう」
 由衣が指したのは、事前の打ち合わせ通り、回復役である黄提灯のリリス。
「手加減無用ですね! 全力で参ります」
 虎紋覚醒で体中に満ちた気を、風華は布槍を握る手に込める。
「当たったら儲け……だけど」
 忠明の投げたタイマンチェーンを回避し、黄提灯のリリスがぺろりと舌を出した。
 次の瞬間、大きく動いたのは、毒々しくも鮮やかな袖。乱れた和服の裾を引きずっているとは思えない素早さで、赤い提灯の女は能力者たちの前へ突っ込んで来た。
 袖の初撃が前衛を薙ぐ!
「うわっと。食らっちまった!」
 黄リリスに気を取られていた忠明は、ざっくりと肩口を切り裂かれ、たははと苦笑する。
「交代するか!?」
 黄リリスに向けて雷の魔弾を放ちながら、中衛の彼方が声をかけた。
「もうちょい粘りまっす」
 振り向かず親指を立てた忠明の後頭部に、スコーンと当たって跳ねたドリンク剤の瓶が、クルクルと回って彼の口へ。
「今日も身体に元気が漲る、ギンギンパワーっ! 飲んでがんばれ!」
 投げた真夏は声援を送りつつ、次は雷の魔弾を放つべく黄リリスへと箒の先を向ける。
 気持ちとしては、厄介な回復とバッドステータス攻撃を持つリリスたちから先に片付けておきたいが、女地縛霊がそうはさせてくれない。舞うように回転しながら切れ味鋭い袖を振り回す女を好きにさせると、こちらの作戦と同じことをゴーストたちにされることに――後方に控えるこちらの癒し手たちを倒されてしまうことになりかねない。
「く……ひとまず、地縛霊を前衛で抑えておかないと布陣が崩れてしまいますわね」
 由衣は後方でふらふらと黄色い提灯を揺らしているリリスを睨みつつ、間近に迫る地縛霊の足元へと滑り込んで、グラインドアッパーを放つ。
「この一撃は重いですよ! 必殺! 龍顎拳!」
 青龍の力を拳に込め、女地縛霊の袖に負けじと、風華の布槍が舞う。
「この女は俺たちが相手をしておく。皆は早くリリスを」
 後方へ言い放ち、龍麻は地を蹴った。漆黒の髪が弧を描き、龍尾脚が女の首をきれいにとらえる。
「ひどい……さびしい……」
 頭揺らしながら、地縛霊が血泡のようにぶつぶつと呟く。
「仲間になってくれればいいのに……ふふ、寂しいわ」
 リリスが提灯の中の黄色い炎を手に取り、ぽぉんと投げた。癒しの炎が地縛霊の女を包み込み、ダメージが回復してゆく。
 一見して堂堂巡りのようだが、リリス自身は地縛霊を優先して癒しているので、自分の回復にまでは手が回っていない。中衛後衛のメンバーが一気に叩けば、充分倒せる!
「前衛の方々の怪我は私たちに!」
「リリス攻略に集中してください!」
 最後方で、回復役としてサポートに来てくれたアリアン・シンクレアと出雲・那美が声を上げる。彼女たちのおかげで、前衛と中衛の交代は今のところ必要なさそうだ。
「了解! よろしくお願いします!」
 琳琅が頷き、力を込めて黄リリスを睨み据えた。呪いの魔眼。ぱっ、とリリスの胸に、傷が開く。
 だらだらと黒い血を垂らしながらも、リリスは地縛霊を嫌そうと黄色い炎を手に取り――しかし投げる前に、その体が茨に巻き取られる。
 やっと茨から開放された猫たちも、共に茨に絡まれていた。締め付けによるダメージで、フギャンと潰れた鳴き声を上げる。 
「えへへ。ちょっとずつでも続くと苦しい。でしょ?」
 茨の領域を放った雛乃が、片目を瞑る。
「ふふ、どうしても、一緒に行きたくないみたい……」
「うふふ、じゃあ次は私が、踊りに誘ってみるわ……」
 動けない黄リリスの隣で、もう1人のリリスが、青い提灯をゆらぁりと揺らした。肌も露な肢体が、蛇を伴い手招く。踊りましょうよ、と、妖しい力が周囲の皆を巻き込んだ。
「かっ、体が勝手にー!」
 雛乃が悲鳴を上げる。水色のセーラー服とセットの、大きな帽子をひらひらと振りながら踊る姿は可愛らしいが、微笑ましく見守れる状況ではもちろんない。
「集中攻撃のチャンスが……!」
 桜も、翼の刻み込まれた白いエアシューズの車輪を鳴らし、華麗に舞ってしまう。
 しかし、やはり最後方からの支援が心強い。
「無駄ですよ、こちらにもあなたに負けない舞があります!」
 元気の良い声は、赦しの舞を舞う、神楽・ねむ。
「あら……残念」
「ねえ。女性からの踊りの誘いを断るなんて、無粋ねぇ。寂しいわ」
 同じ顔をしたリリスたちが、頬を寄せ合う。黄の提灯を持ったリリスは既にかなりのダメージを受けてボロボロで、それでもくすくすと、笑うのだ。 
「無駄口叩いてる暇があったら倒されて下さい」
 万里が雑霊を呼び集め、気の塊に纏め上げて黄リリスに撃ち付ける。
「そろそろ終わりだろ!」
 踊りから回復し、桜が雷の魔弾を放つ。
「そう願いたいね!」
 と彼方が放ったものと、2つの雷の魔弾がほぼ同時に着弾する。 
 茨に絡まれたまま、ビクリとリリスの体が痙攣し、動かなくなった。手から落ちた黄色い提灯に中の火が移り、燃えて消えてゆく。
「まずは、1体! 次は青提灯さんの番だよ!」
 浴衣の袖に散った華をゆらし、真夏が撃ち出した雷の魔弾が、青リリスをとらえた。ばち、と大きく雷の花が散り、クリーンヒット。
「これじゃぁ……踊れない……わ……」
「マヒ無双の真夏だって、言ったでしょっ」
 動けないリリスに、真夏はびしりと箒の先を突きつけた。
「仲間が減ってしまったわ……寂しい……寂しい……!」
 おぉお、と、地縛霊の女は吠えた。白い顔の中に開いた口は、まるで絶望ばかりが中に渦巻く黒い穴のようだ……。

●真夏の夜の……
 地面に落ちた青い提灯が、ぼぅと燃え上がり、持ち主であったリリスと共に消えてゆく。
「さて、ここからが本番でしょうか」
 由衣は呼吸を整えながらちらとそれを見て後、再び地縛霊の女に向き直った。
「ええ! まだまだこれからです!」
 後方からの回復で足りなかった分を虎紋覚醒で癒しながら、風華が固く拳を握る。
 ギャウッ、フギャウッ!
 耳障りな猫の悲鳴が響き渡る。茨から抜け出した来た猫たちが、龍麻の震脚に揃って叩き伏せられたのだ。
 それきり、猫たちは消えてゆく。それを目の当たりにしても、ぽっかりと黒い女の瞳には何の感情も浮かばない。ただ、寂しい寂しいと、己の悲嘆だけを訴え続ける。
「勝負はここから……か」
 龍麻は呟き、地縛霊と対峙した。
 皆、傷こそ癒されているものの、かなり消耗していた。アビリティを使える回数にも、もう余裕がない。
「ポロリ狙いー!」
 チェーンソー剣で狙い澄ました一撃、インパクトを叩き込みながら、忠明ははっちゃけたことを言ってみたが後悔した。
「……いやでもこのお姉さん怖すぎて、ポロリしてもあんまり嬉しくないな」
 苦笑し、忠明は袖の攻撃から逃れて後ろへ飛びずさる。
「寂しい……一緒に一緒に……!」
「ヒナたちは一緒には行けないよ。寂しくないように、すぐに還してあげる、ね」
 おぅおぅと吠える地縛霊に向かって、緑の蔓の如き弦が唸る。クロスボウから矢を放ったのは、雛乃だ。矢は女を追い、命中する。
「他人は他人、我は我。お一人で成仏なさいませ」
 由衣が言い放ち、最後の1回のグラインドアッパーを叩き込んだ。ひるがえる制服のスカートと、舞い上がる毒々しい袖。
「要とあれば容赦は微塵もありません! 倒すのみです!」
 おやっさんの力を身の内に感じながら、万里は最後の雑霊弾を撃ち込む。
 ふらりふらりと、よろめき、女は後退した。
「逃がしませんよ! 当れ! 龍撃砲!」
 風華が気迫と共に、最後の一撃を放つ。衝撃波が、真っ直ぐに女へと走り、炸裂した。
 ぼとり、女の手から提灯が落ち、地面の上で燃え上がった。その火が着物の裾に移り、毒の色が赤い炎に包まれて行く。
「人造ゴーストとはいえ1つの魂……迷わず成仏してくださいね」
 風華は手を合わせる。
 消えてゆく女の細い悲鳴を、夏の夜風が散らしていった。
「妖狐の尾、断ち切ったか。……支援、感謝する」
 龍麻が電光剣の刀身を消し、後方のアリアンと那美に礼を告げる。
「なんとかなってよかった。ねむもサポートありがとな!」
 桜も笑って後ろに手を振った。
 皆肩で息をしていたが、立っていた。重傷者はいない。しかし、長く激しい戦いだった。
「こんな戦いがいつも何処かで繰り広げられてるんだよね……。私も頑張らなくちゃ」
 息を整え、琳琅が呟く。
「未完成であの強さ、完成した尾や完成間近の尾ならどれだけの脅威になるでしょうね……」
 万里と同じことを、考えない者はいないだろう。
「まあ、その時も倒すだけですけど」
 しかし万里がケロリと強気の言葉を付け足したので、皆笑った。
「真夏の夜に、この真夏さんに勝とうなんて百年早いよ♪」
 更に真夏が胸を張り、緊張が完全に解ける。
 空には、夏の湿度に潤んだ金色の月。
(「ゴースト達はどこに向かおうとしてたのかな……」)
 月を見上げ、忠明はそんなことを考える。
「こうして見ると、なかなか風情のある、良い夜ですわね」
 由衣が剣を収めながら言った。
「じゃあ、月でも見ながら、皆で帰ろうね 」
「うん! 帰ろう!」
 彼方の言葉に頷いて、雛乃が路傍の草の穂を片手に、先頭切って歩き出した。
 月の下、連なって帰途につく少年少女たち。
 絆に結ばれ、互いを信じあって戦った彼らの作る行列は、毒々しく寂しいばかりだった百鬼夜行とは違い、真に明るく晴れやかだった。


マスター:階アトリ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/08/26
得票数:楽しい2  カッコいい14  せつない2 
冒険結果:成功!
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