同人は愛だろ、愛!!


<オープニング>


「ん〜ふふふふふ♪ 300部、と」
 ある大学の漫画研究会の部室から、そんな楽しげな声が聞こえてくる。
 手入れをしてなさそうな髪を輪ゴムで束ねた女性は、刷り上がった同人誌の山を前に、至福の笑みを浮かべていた。
「ぼっろ儲け〜、ぼっろ儲け〜っと♪」
 B5の薄い本文を包む煌びやかなカラー表紙には、メイド姿の乙女が手に手をとって見つめ合う図が踊る。非常に逸出な筆運びが素人ではないと物語る。
 ――ただし、中身は白い。
 ――――ひったすらに、白い。
 どう考えても……上手い人が1ページ当たり5分で描いたラクガキ感満載。
「ほんっと我ながらそっくりよねぇ。ダテに有名漫画家のチーフアシで、アタリだけのトコにメインキャラ描いてたわけじゃないわよねぇ。にゅふふふふ♪」
 数日後のイベントに自分の前に列をなすヲタクどもを想像すると、唇が緩んで仕方ない。
 ――大学生の本分は、学業です。学業なんだぞ?!
「んふ〜、いくらにふっかけようかなぁ♪ あいつらバカだから、こんなぺらぺらの……」

「ふ、ざける、なぁ…………」

「……手抜き本……に……?」
 真夏だというのに、肌に当たる空気が急速に冷え込み、女はゾクリと背を振るわせる。
 怪訝に思い辺りを見回すと、驚く事に山積みの同人誌が消えていた。目の前には原稿用紙がばらまかれたデスクと椅子のみ。
「な……に……こ、こ?」
 駄目だと本能が告げているにもかかわらず、女は好奇心に負けて声のした方へ視線を向ける、すると――。
 ぼん!
 笑ってしまうほど漫画的な擬音と共にTシャツから上が爆散。吹き出す血飛沫が折りためたページに赤いベタを添えた。
「…………同人はぁ、愛だろぉ、愛ぃぃぃぃ」
 陰気くさい痩せたビン底眼鏡の男は、血まみれのケント紙(萌えイラスト入り)が降り注ぐ中で、そう絶叫した。

「表紙だけ綺麗な手抜き本をつかんでも、泣かないコト」
 星崎・千鳥(中学生運命予報士・bn0223)は例によってダウナーな口調で言い切った。
「今日は学びの園に現れる、地縛霊の始末だよ」
 どうしてそう繋がるのかがわからないのでとりあえず続きを聞こうと思う、それが懸命だ。
 更に話を詳しく聞くと、どうやら某大学の漫画研究会の部室に、地縛霊が現れると判明した。
「現れるのは今晩。このままだとおねーさんが1人殺されるよ」
 おねーさんは漫研部員で、本日夜指定で部室に届くはずの同人誌を受け取りにバイト帰りに立ち寄るそうだ。
 彼女が来る前に部室に侵入し、地縛霊を排除するのが今回のミッションである。
「漫研の部室は平屋建ての1室で、部室の鍵は開いてる」
 不用心だが、殆どのサークルは新しい建物に移ってしまい人の出入りも余りないためなのだろう。
「今は夏休み中だから、大学生以外が構内を歩いていても見とがめられないし、さくっと上がり込んで片付けるといいと思う」
 地縛霊を呼び出すキーワードはあるのかとの問いに、千鳥はつらつらと返す。
「『ぺらぺら』もしくは『手抜き』って言うと、部室にいる全員が地縛霊の特殊空間に引きずり込まれるよ」
 んー、と少し考えた後、千鳥はどうでも良い事を付け加える。
「特殊空間はキーワードだけで入れるけれど、手製の同人誌を用意していくとかその辺りは気分で。ボクは、止めない」
 ……うん。
 言いたい事は色々あるが、この予報士に言っても仕方がないのでやめておこう。
「地縛霊は、1体。外見はビン底眼鏡姿のおにーさん。いかにもインドア派、ペン軸以上に重い物を持ったコトがなさそうな感じ」
 そこまでか。
「けど攻撃は割と派手かな」
 予報士は携帯端末をのぞき込むが、すぐに能力者に視線を戻し続ける。
「1つは、思いの丈を注いだ原稿用紙を投げつけてくるダメージ低めの遠距離射撃。ただし特殊空間が狭めだからほぼ全範囲が攻撃対象に入るね。あとは運が悪いと魅了される、描かれてる漫画に感動して」
 喰らいたくない攻撃だ。
「あとはビン底眼鏡からビームが出る。このビーム、ダメージは結構痛いけど至近にしか届かないよ」
 こっちもやっぱり喰らいたくない攻撃だ。
「それから……自己回復があるね。自分で描いた作品を見て感動の涙を流し、傷が治って能力も上がる」
 ナルシストもいいトコだ。
 しかし1体しか居ないとは言え、回復まで使いこなすとはやっかいこの上無い。
「戦いが終わったら、部室からはとっとと撤収した方がいいだろうね」
 今から向かえば、戦闘中におねーさんが部室にやってくる事はまずないので、そこは大丈夫だ。
 せいぜいが帰りに大荷物を抱えた彼女とすれ違う程度だろう。
「ま、このサークルが落ちるとがっかりな人もいるし、頑張るといいと思うよ」
 めちゃめちゃコアな人間にしか効き目の無い激励を、最初と同じくダウナーばりばりに口にすると、千鳥はみんなを送り出すのであった。

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参加者
九條・葵(ストーリーテラー・b23090)
竜桜院・エレナ(幸運の金色兎・b32417)
青園・真燐(萌え雪女・b35459)
水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)
ヴォルフ・ワーグナー(紅き華舞う風・b56563)
篠宮・リーマ(紙の上で踊れ・b60957)
増田・団(締め切りギリギリマイスター・b61615)
悠希・黒羽(血は涙〜我契りなり・b62237)



<リプレイ>

●きゃは☆ 手抜きのぺらぺら本で大もうけ!
「正直なところ、ウケ狙いで流行物を描くよりも、好きな作品を好きなように描いて欲しいっていうか……」
 翳した掌の光で漫研部室内を照らすのは、九條・葵(ストーリーテラー・b23090)だ。端正な横顔で彼はしみじみと頷く。
「芽李ちゃんはあのイベントの抽選落ちちゃったなのー!」
 あどけない膨れ顔で水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)は、ここにいない被害者候補の女性への憤りを口にする。
「そうね。漫画を他人に見せる姿勢が間違ってるのは確かね。漫画描き失格、一流にはなれないわ」
 それを受けて竜桜院・エレナ(幸運の金色兎・b32417)が青丹色の瞳で毅然と言えば。
「愛無くば同人を語る事なかれ! 金儲けの手段に使うなど言語道断!」
 青園・真燐(萌え雪女・b35459)が力強く同意する。
 うんうん。うんうん。
 この場の全員から口々に同意の声があがる。
 被害者候補の女性より、愛あふれる地縛霊に親近感を抱いてしまうのは、物描きならば仕方のない事である。
 おねーさんを退治したい……いや、そこはぐっと我慢! だって銀誓館の能力者だから、ゴースト退治をちゃんとやらなくちゃだし!!
 ――言い聞かせ。
「……何となくやりづらい気もするけど」
 大きな飴玉を口にもごもごと言うのは、ヴォルフ・ワーグナー(紅き華舞う風・b56563)である。せっかくの日本人離れした端麗な顔立ちが台無しだ。
「はじめようか」
 彼が懐からラミカを取り出して机にぴしりと置くのを皮切りに、方々から手製の同人誌がお目見えする。
 トーンはおろかベタだって入ってないよ? あ、消しゴムかけ忘れてるね! 表紙が殴り描きでデッサン以前の問題だ。てか……白!! 中身あんまり描いてないよ?!
 もちろんわざと手を抜いて作ってきたのだ。予報では呼び出すのに同人誌は必要ないって言ってたのに、皆、無駄にやる気だ。
 増田・団(締め切りギリギリマイスター・b61615)は、長机にべしっとスケッチブックを置く。
 スカイブルーの瞳を瞼で隠すと、手にしたペンが滑り出し恐るべき速度で描き上げられていく1本のストーリー。本業能力――ゴーストライティング、起動。
「わぁい、この手抜きペラペラ本でイベントで大儲けだーっ」
 あっさり仕上げた漫画を掲げ、団はわざとらしく大はしゃぎ。
「この中からセレクトして1冊手抜きペラペラのコピー本作りましょ。きっと儲かるわ」
 ふふんっと胸を反らし、エレナはラフ画だらけのスケブをめくる。
 その傍らできらりんと眼鏡を光らせて、コピー誌の真っ白な表紙を懐中電灯でぺしぺしと叩くのは篠宮・リーマ(紙の上で踊れ・b60957)だ。
「あ゛〜こんな手抜きぺらぺらコピー誌じゃ、うちの愛は語られんわぁ」
 ぺしぺし、ぺしぺし。
 眼鏡越しに見下ろすのは、明らかに密度が足りてないふたりの人物の絡みあう絵、ポーズも異次元に骨格が狂い非常に適当。普通の人間は絶対この格好、無理。
「どうしてこうもペラペラのつくるかなぁ、ペラペラ。私は買わないなぁ」
 紙の叩かれる音を背景に、悠希・黒羽(血は涙〜我契りなり・b62237)は「ペラペラ、ペラペラ」と連呼する。
「うんうん、3時間並んで買った本がぺらぺらの手抜きだと凄く切ないよね」
 テンション低! しみじみとした葵の声には黒羽と同じく妙に実感が篭もる。
「表紙買いはダメよねぇ……ペラッペラだもの」
 真燐が持参した同人誌だが表紙は非常に煌びやかだ。きっと覆い焼きツールをめいっぱい使用したのだろう。
 だがぴらぴらと捲れるページは哀しいぐらいに何も描いてない。あってもラクガキと文字で穴埋め程度。
 ――思い出したくもない過去の失敗、人それを『黒歴史』と呼ぶ。
「これ、とってもぺっらぺらー!」
 背後では、ラミカをしならせるヴォルフと共に芽李も「ぺらぺらー!」と囃したてる。と、なんだか異様な空間が構築されつつある中――急速に部屋の温度が落ち込んでいく。
 能力者達は一瞬顔を見合わせるが、召還キーワードを口にし続ける。
 周囲の景色は順調に書き換わっていく……地縛霊が特殊空間に8人を捉えに掛かっているのだ。
「内容も真っ白でペラッペラ! あら……出たわね」
 ライトボックスの乗った机の前に、ビン底眼鏡をかけた陰気くさい男が現れた――。

●オレの漫画を見ろ! さすればわかる!!
「この拝金主義がぁああ! 愛なき執筆活動に、意味などないわぁあああ!!」
 地縛霊が叫ぶと、机の上の原稿用紙が応じるように飛び交い男の腕の中に次々に収まっていく。
 葵とリーマにより灯りは確保されており戦うには充分である、が、2チームに別れて全員が男の視界に入らないように警戒していたのだが、出現位置がわからなかったのが懸念事項ではあった。
 不安は的中し、現状は壁を背にした地縛霊の視界に全員が入ってしまっている。
 机を盾にすれば幾人かは確実に視界から外れたかもしれないが、今からではその位置取りも無理だ。
「隊列、立て直しじゃ!」
 状況を悟り、声をあげたのはリーマだ。正面担当のA班である彼女はそのままの場所で瓶の中身を煽る。
「ほらほら、よそ見してると危ないよ?」
 同じA班の葵も、挑発するような軽口と共に教典を地縛霊の腹へとえぐり込む。ぎおっと妙な悲鳴をあげてのけぞるも、彼はまだ元気な様子。
「あなたには同意するけど、意見があったら生きているうちに言わなきゃ」
 真燐は敵の背後に回り込むと呼び寄せた雪を身に纏う。
「あなたはなにをしたいの? 正義という自己満足振りかざしてるの?」
 冥府へとたたき返す切っ先を突きつけて、芝居がかった口調で挑発するのは黒羽である。A班である彼はその場で刃を円に動かし次に備えた。
 地縛霊より先手を打てたのはここまでだ。
「正義? オ、オオオレェの正義はああ! 愛! 愛愛!!」
 地縛霊は黒羽に答えるように両手を掲げあげて指をわきわきと蠢かせる。
「あの子、この子、その子、禁断の脳内カップリングーぅーーーーー!!!」
 バサバサバサバサー!
 鳥の羽音のようなものが空間内を満たし、手にしていた紙がばらまかれる。
 死角に逃れた真燐以外の目の前で舞うのは、パンチラスレスレミニスカートに、ごてごてと中近東風のアクセサリーを身につけた少女達が頬を赤らめ抱き合う絢爛豪華絵巻。
 絵のセンスはきっと二昔前、だけど愛だけはてんこ盛りだ!
「ゴーストさんの気持ち、よっく分かる! お金よりは愛だよ!!」
「素晴らしい日本文化を踏みにじる人は、許せないですよねぇ」
「愛が、正義だよね……あのペラ本を手にした時は、どれだけ絶望したか!」
「「「ところでそのダダ漏れの愛、最高です! 原作知らなくても、キャラが愛しくてしょうがないです!!」」」
 紙が地に落ちた後、団、ヴォルフのB班後衛とA班前線の葵が見事、地縛霊の虜と相成ってしまった。
「そうだぁあああ! それが、オレの愛の同人力なりぃいいいいい!!」
 地縛霊は熱烈な同志を得て最高の気分らしい。
 テンションぶっ高めでペンを滑らせ、見つめ合う乙女と乙女(実は一方男)な変身少女同士のラブを描き散らかす。
「くっ! そこまで徹底的なジャンル違いに惑わされるものですか!」
 三人が手駒と化したのに内心冷や冷やしながら、エレナは地縛霊の姿を自らのタッチに落とし込み描く。出来上がったのは眼鏡美少年……うん、美少年だ。
「私の愛の一撃、受けてみなさい!」
 美少年が駆ける! まるで腕を広げ相手を抱きしめるような所作で、ビン底眼鏡にぶつかり砕けて散った。
「ぐぼばっ! ホモは不許……」
 いや、ホモとかそれ以前の問題だ。自分同士でラブ! 究極ナルシストカップリングもいいトコなんだよ?
「萌えを差別するなああ!」
 ……うん。
 誰の叫びかは想像にお任せする。
 そして自分同志の禁断愛には誰も突っ込まなかったね。
 仕方ないとは言え、スピードスケッチが繰り出される度にそんなよろしくない光景が展開するわけで……あと何回だろうね。
「古くさいタッチもまた魅力的だよね」
 えへへと人好きのする笑みを浮かべて、ヴォルフは団へと斧を振り下ろす。仲間の血が下げられた桜のペンダントの花びらの如く、散った。
「しっかりしてくださいのー!」
 芽李は移動するのをやめて、その場で踏ん張り清浄なる空気を巻き起こした。
「芽李ちゃん、親戚のお兄ちゃんとその執事さんをモデルにした漫画を描いてるなの!」
 高らかに語られる自分の作品への愛は、葵と団の心を正気へと引き戻す。
 団は作戦通りに地縛霊の視界外へと走った。
「人を殺したらあかんけぇ……成仏したってや」
 真正面のリーマの描くスケッチと葵の教典が更に男へと傷をうがつ。
 真燐は攻め手が足りないと判断し唇から凍える息を吹き付けた。
「ふっ……12歳以下の美少年になって出直してらっしゃい……」
 無茶言うなー。
「重いものを持てない割には、打たれ強いじゃない?」
 黒羽も畳みかけるように刃を袈裟に入れたが、まだまだ男は耐えられるといった風情だ。
「同人は、体力勝負ぅううう!!! だからこんなモノも嗜んでます」
 ちきっとたくし上げた痩せ男の眼鏡の縁が不気味に輝いたかと思うと。
 びーむ!
「わっ!」
 怪光線が至近に居た葵の肩を焼いた。
「感覚が古い、現代には通用しないわね」
 それを、まるでどこぞの編集のように冷たい声で切って捨てると、エレナは2回目のスケッチを描き男にぶつける。
 なんとか正気に戻ったヴォルフと、回復の要である芽李はそれぞれ魅了を喰らわぬように、今回は移動に徹した。
 これで最初描いていた布陣に近い物に立て直しは完了した事になる。

●こんな出会い、したくなかった……
 体制を立て直した後は、手数の多い能力者側が有利に事が運んだ。
 もちろん魅了や怪光線でのダメージは喰らいはしたが、芽李の他に自己回復が豊富なのが功を奏した。
「原稿はね、締め切りギリギリに入稿するもんじゃないんだよ。余裕を持って入稿するべきもんなんだよ! うわぁん!」
 それは魂の叫びですか? ですよね。
 涙組ながらも団は手にした紙を敵へと投げつける。
 翻る紙片の上、描かれるのは地縛霊の彼がムキムキマッチョに変身、全身スーツで街を守るオタク仮面……団なりに彼への敬意を表したつもりらしい。
 ナルシストな愛じゃないだけ、救いがあるかもしれない。
「ぎゃあぁああ! 全身タイツとはなんて崩壊センスぅうう!!」
 びしびし!
 妄想自分の図に切り裂かれながら、彼はきりもみ状にもだえ苦しむ……しっかりと効いている、どう見ても喜んでない、喜んでないよ! どうやら救いは、なかったっぽい。
 散々攻撃を受けた地縛霊はさすがにこのままではマズイと考えたのか、ライトボックスの上に紙を置き、目にもとまらぬ早さで乙女ずの姿を描き上げる。
「むはぁあああ、キタキタキタァァ! オレのひゃんたん! 作者より絶対サイコー!!」
 同人屋としてその姿勢はどうかと思うが、彼は今まで受けたダメージの一部を癒しながら、自らのパワーのチャージも完了させる。
 心なしか顔色もよくなった気がする。徹夜後、ぐいっと栄養ドリンクをかっくらったぐらいに、だが。
 しかし。
 地縛霊がエンチャントのオーラを纏ったその瞬間、誰かがにやりと笑んだ。それも1人ではない、複数が。
「〆切がー! 〆切がー!!」
 ぐっと拳を握りしめると、リーマは腹の底から響く声で嘆きを叫ぶ。
「このままでは落ちてしまうわー!!」
 ――それは、同人作家最大の、恐怖。

 今回は、落ちました。

「印刷費5割増しはぁあ! 死ぬぅううう!!」
 それでも間に合わせようとあがく地縛霊は、頭を掻きむしりのたうちまわる。
 ガンガンと床に頭をぶつけてる辺り、なにかトラウマに触ってしまったのかもしれない、トラウマは毒となり彼の痩せた肉体をじりじりと蝕んでいく。
 アビリティが復帰した葵はまずは落ち着いて自分の傷を癒す、エンチャントをかけた地縛霊を眼前に唇の端をあげながら。
「御免なさいね、あなたの萌え原稿には惹かれないの……だって私はショタだもの!!」
 真燐も更にと攻撃を畳みかける。彼のジャンルは百合寄り(女装あり)――そりゃあ、相容れないだろうて。
「もう手抜き作品を恨んだりしないで、大人しくするなのね!」
 メッ!
 指を立てた芽李のすぐそばから飛び出していったコミカルな感じのビン底眼鏡青年は、ぽこぽことモデルの胸を叩き塵と消えた。
「本当、ごめんね……」
 非常に親近感を抱く敵に心を痛めつつ、ヴォルフは最後のフレイムキャノンを放つ。合わせて真正面の黒羽が踊るように切り込んだ。
「ぎぃやあ! 熱い! 火の車ぁあ!! いやだぁああ、破産はいやぁあああ!」
 ヴォルフのキャノンか黒羽の振り下ろした太刀筋か、灯った炎は更に彼の忘れていたい記憶を引きずり出したようで、マジ泣きにまで追い込んでしまった。
 ……夢や理想ばかりじゃあ、やっていけない場合もありますよね。
「愛! 愛があれば!! 愛愛愛!! カンパ募集中! まじでまじでまじでぇええええ」
「独りよがり、分かり難いわね――面白くない」
 ずぱっ。
 そんな物には金は払えんと、言葉で斬って捨てたのは最初からひたすら冷徹だったエレナだ。
「あ」
 その言葉は地縛霊の胸にぐっさり刺さり、決定的なダメージを与えたようだ。
 具体的には、読者からのファンレターだと思って開けたら批判しか書いてないのを目の当たりにしたぐらいに。
 心の力がなくなりました。
 もうね、動きたくないです。
「…………く、愛、だろ、愛ぃぃ」
 からーん。
 横倒しになりながらうめいた男の顔からビン底眼鏡が落ちた。能力者達がその顔を確認しようとした刹那、彼の姿はぐしゃぐしゃになり眼鏡と共に消滅した。
「にーさんの想いは忘れんけぇ。安らかに眠ってや」
「貴方の意思は私達が継ぐ、かもしれないから……安らかに」
「あなたの原稿、しっかり読んでみたかったな」
 リーマと真燐そして黒羽は、熱き魂へと心で手を合わせる。
 愛。
 彼が最期に残した叫びに異を唱える者は、いない。
 ただ。
「ボクたちには越えちゃならない一線があるんだよ。それを君は越えてしまった」
 静逸な葵の声が幕引きの合図であるかの如く、彼らは現実世界へと帰還した。
 早々に部室を辞した一行は、段ボールを抱え浮かれた足取りで部室に向かう被害者候補だった女性とすれ違う。
 彼女に言いたい事はままあるが、まぁ言葉を飲み込みつつ帰途につくとする。
 そう。
 同人屋は口ではなく、本で語れ!
 君たちの聖戦はすぐそこだ!
 愛を込めた本で、悪しき本を駆逐せよ!!


マスター:一縷野望 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/28
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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