≪町外れの古屋敷≫秋の海岸にいこう!


<オープニング>


「ねぇ! みんな、これ見てよ!」
 町外れにあるひっそりとした屋敷に、めずらしく騒がしい声が響く。
 風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)の声であった。
「そんなに慌てて、何かあったのー?」
 アキシロ・スチュワート(幽霊屋敷の執事・b01500)の入れたお茶で午後のひとときを過ごしていた水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)が、転がり込むように部屋へ入ってきた玲樹に振り向く。
「あー、写真なの。写ってるのは何なの?」
「これは、海岸の景色を撮った写真のようですね」
 アンティークのティーポットをテーブル置くと、アキシロは玲樹が差し出した写真を手に取った。
 写真は、どこかの海岸の情景を写したものである。
「綺麗な海でございます。秋ですが、まだ楽しめそうな場所のようです」
「違う、違うよ! 見るのはそこじゃない!」
 玲樹は指を差してアキシロの視線を、左隅の岩陰へと誘導する。
 そこには、不自然な影が映りこんでいた。
「おー、こりゃ珍しいもん写してきたなぁ」
 一条・姫乃(黄昏色の桔梗の夢・b64945)が写真を覗きこむと……そこには、異様な影が映りこんでいる。
「まぁ、なんや? 心霊写真ちゅうもんやろか?」
「えっ、心霊写真!?」
 名雪・舞矢(高校生ヘリオン・b45266)も、その不自然な箇所へ目を向けると……写ってはいけないものが、そこにあった。
「もしかすると、ゴーストかな?」
「……心霊写真……ですか。嫌な予感がします……」
「何だか厄介なことになりそうじゃのぅ」
 真野・彼哉(下弦の月・b42877)や裏郷・夕香里(高校生黒燐蟲使い・b51508)も確認してみると、普通では写りえない箇所に影が浮かび上がっており、これが残留思念であることが容易にわかる。
「それにしても、不思議なのが写っていますよね」
「そ、そうなんだよ……」
 星宮・雪羽(雪花猫の人形師・b04516)が指摘すると、玲樹は途端に弱気になった。
 放置しておけば、確実に凶悪なゴーストとなって世に解き放たれる……出現して、事件を引き起こし、運命予報されることになって、教室に呼ばれてからでは遅いのだ。
 その前に、ここにいる仲間だけでゴーストを倒さなくてはいけない……と、そんなことで弱気になってるのではない。
「……虫……っぽくないですか……?」
「それを言わないでー!」
 彼哉がじっと写真を見てみる……どうやら、昆虫類の残留思念。つまり、妖獣のようである。
 玲樹の大嫌いな類のアレ。
 多分、フナムシ。
「それでは、さっそく準備をしないといけませんね」
 アキシロがいろいろと準備をするために部屋を出た。
「海水浴も、まだ間に合うでしょうか?」
「秋の海も、ロマンチックでステキなの」
 雪羽や舞矢も、あれこれ相談し始めた。
「ちょっと寒いかもしれないのー」
「今の時期じゃと、クラゲが出るかもしれぬな」
「泳ぐだけが海ちゃうし、釣りとかバーベキューとか、いろいろできるやろ」
「……なんだか、楽しそうですね」
 苦い表情をしている一人を除いて、皆楽しそうである。
 もちろん、目的も忘れてはいないが……ついでにその用も済ませ、秋の海を堪能しようではないか。
「と、と、と……いうわけで、ゴースト退治もかねて、この海へ遊びに行くよ!」
 話によれば、郊外の隠れスポット的な海岸を探していたら、ここを見つけたそうである。
 交通の便があまりよくないらしく、人も少ないし、シーズンも過ぎている……今なら、この海岸を結社で貸切状態にできるだろう。
 海水浴……には、ちょっと微妙かもしれないが、他にも楽しめることはあるはず。
 パンフレットによると、ここから少し離れた場所にあるレジャー施設には、温水プールがあるらしい。
 泳ぎたいのなら、仕事が終わったあとで、そこを利用するのも手だ。
 結社・町外れの古屋敷の面々は、秋の海で遊ぶついでに、ゴースト退治へ赴く。

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参加者
風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)
アキシロ・スチュワート(幽霊屋敷の執事・b01500)
星宮・雪羽(雪花猫の人形師・b04516)
真野・彼哉(下弦の月・b42877)
名雪・舞矢(高校生ヘリオン・b45266)
水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)
裏郷・夕香里(高校生黒燐蟲使い・b51508)
一条・姫乃(黄昏色の桔梗の夢・b64945)
NPC:白河・アイリス(高校生呪言士・bn0084)




<リプレイ>

●今だけ「町外れの古屋敷」専用海岸
 風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)の案内の元、結社「町外れの古屋敷」の面々は、時期の過ぎた初秋の海岸へとたどり着いた。
「お兄ちゃんやお屋敷の皆さんとお出かけです〜。海〜海〜、楽しみだな〜」
「僕はこれで二回目ですが、今回もすごく楽しみです」
 結社仲間で訪れる海ということで、嬉しさと楽しさを顔中に表している星宮・雪羽(雪花猫の人形師・b04516)や真野・彼哉(下弦の月・b42877)がいる反面、企画主である玲樹は気難しい表情をしていた。
「Gの次はフナムシかー! どうして僕に寄ってくるのは虫ばっかなんだ!」
 大嫌いな虫の姿をした妖獣……よりによって、海のGと呼ばれるフナムシがここにいる。
 どうして、海に来たらフナムシと縁があるんだろう……などと思いつつ、玲樹は以前に写真を撮った場所へと向かう。
「……まぁ、主人のために虫を排除するのも執事の仕事、ですかね」
 恐怖に震えている玲樹の後ろで、アキシロ・スチュワート(幽霊屋敷の執事・b01500)は静かに着用していた白の手袋を、戦闘用の黒のものに付け替えていた。
 主を守るのは当然として、笑顔を振りまいている大切な妹を傷つける存在に容赦はない。
「フナムシがいるっていう場所はここなのー?」
 水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)は、玲樹が立ち止まった場所で写真を確認する。
 写真と景色を当てはめてみると、どうやらこの岩場近辺らしい。
 ビクビクしながら残留思念のある場所へ近づく玲樹の後ろで、芽李はその様子を眺めていた。
 虫程度で怯えてる大学生の男の姿は、どこかおもしろい。
「芽李様、ここは危険ですので……」
「わかっているのー」
 名雪・舞矢(高校生ヘリオン・b45266)は芽李の前に立ち、ゴーストの出現に備えている。
 後ろに下がる際、震える玲樹の背中を叩いて、気合と勇気を入れてやる芽李だった。
「ま、こんなことで時間食うのも、もったいないし、はよ始めよか」
 一条・姫乃(黄昏色の桔梗の夢・b64945)は荷物を置くと、イグニッションカードを取り出した。
 すでに他の仲間も用意を整え、あとは詠唱銀をかけて実体化させるだけだ。
「そうじゃのう。はよう倒して、楽しむのじゃ♪」
 裏郷・夕香里(高校生黒燐蟲使い・b51508)も、結構重量のありそうなクーラーボックスを地面に置き、位置についた。
「ルー君もゆきうといっしょに、後ろから皆さんを助けるんですよ〜」
 雪羽はケットシーのルゲイエを傍に呼ぶと、残留思念のポイント一点を見つめる。
 次第に能力者の口数は少なくなり、緊張が高まってきた。
「それじゃ、いくよ!」
 玲樹が詠唱銀を振りかけた……と、同時にあがる悲鳴は、もちろん玲樹のもの。
 そこから現れたのは巨大なフナムシなのだから、嫌いな者にとっては、これ以上ない悪夢だ。 
「去年のフナムシさんの無念なんでしょうか……?」
 去年の出来事を思い出す彼哉。
 町外れの古屋敷と海とフナムシは、何か繋がりがあるのかもしれない。
 ともかく、フナムシ妖獣が目の前に迫ってきている。
 早く片付けて、秋の海を楽しもうではないか。

●海の掃除
 岩場から這い出るように出現したフナムシ妖獣は、大量の小さなフナムシを口に含んでいた。
 ポロポロとあふれ出るそれが数匹、足元にカサカサとGの如く近づいてくる。
 その様子に、玲樹は身の毛がよだつ思いであった。
「みんな、がんばりや!」
 姫乃のサイコフィールドと励ましの声で、少しは恐怖感が緩和された玲樹は、やけっぱちで大鎌を振り回しながら斬り込んでいく。
 が。
「わー! いっぱい出てきたー!」
 フナムシ妖獣が吐き出した大量の小型フナムシに襲われ、悲鳴をあげるのであった。
「情けない顔をしないで下さい。男前が台無しですわよ」
 舞矢はそんな玲樹にギンギンパワーZを渡し、アキシロは吐き出されたフナムシを一掃するように、逆巻く吹雪を周囲におこした。
 一足早い雪化粧に覆われた海辺に銃声が響き渡る。
「ルー君は足止めをお願いですよ〜!」
 ルゲイエが両手に構えた拳銃で奥のフナムシ妖獣を牽制し、雪羽は玲樹が斬りつけている方へ炎を撃った。直撃し、途端に炎上するフナムシ妖獣へ、夕香里がキノコを放つ。
「そぉれ、妾のキノコは一味違うのじゃ!」
 キノコの弾丸に撃ち抜かれて硬直するフナムシ妖獣に、芽李のイラストがぶつかっていく。
 まったく嫌悪感もなく、スラスラと描かれたその絵と共に、そのフナムシ妖獣は消えていった。
 しかし、まだ三匹もいる……彼哉は動きを止めようとするが、悪夢に囚われたフナムシ妖獣はおらず、このメンバーで唯一近接攻撃型である玲樹へと三匹が殺到した。
 いやぁぁぁぁぁ〜っ! と、絶叫に近い声があがる。

 ――潮満ちて 沖に漂ふ 泡沫の 消えて儚き 現身の夢

 その声に混ざり、白河・アイリス(高校生呪言士・bn0084)の和歌が響いた。
 続けて姫乃の支援を受けたアキシロが、フナムシ妖獣に囲まれている玲樹の救出に走る。
「玲樹さま、大丈夫でしょうか?」
 彼は身体ダメージよりも、精神的ショックがはかりしれないといった表情であった。
 アイリスの呪歌が幾度となく潮風に響き、アキシロの息吹が強烈な冷気となってフナムシ妖獣を打ちひしぐ。そして、舞矢が放った光の槍が、満身創痍のフナムシ妖獣の動きを完全に停止させた。
「僕は虫さん嫌いじゃないですけど、ごめんなさいっ!」
 彼哉の呼び出したナイトメアが駆け抜け、フナムシ妖獣を蹴り飛ばしていく中、芽李はギンギンパワーZで放心状態寸前の玲樹を元気付けていた。ここは、無理にでもギンギンになってもらわないと。
 相変わらず悲鳴をあげつつだが、何とか元気になった玲樹は黒燐蟲の群れを残り二匹のフナムシ妖獣へ放ち、夕香里もキノコの弾丸で攻撃を続ける。ルゲイエの銃撃、雪羽の魔弾と攻撃は止むことなく続き、もう一匹のフナムシ妖獣が沈んだ。
 残る一匹も再びフナムシを吐き出して能力者達を襲うものの、舞矢の光の槍とアキシロの吹きかけた絶対零度の息がとどめとなり、消滅していく。

●秋の浜辺を満喫
 戦いが終わり、疲れた身には、秋の涼しい風が丁度よい。
 潮風を浴びながら玲樹はペタンと地面に座り込み、目に涙を浮かべた。
 他の者には何でもない戦いであったが、彼にとってはまさに死闘だったのである……。
「玲樹君、フナムシごときで怖がっちゃダメなのよ」
 そんな従兄弟を励ますと、芽李はイグニッションを解き、海辺へと連れて行く。
「それでは、バーベキューの準備をいたしますわね」
 舞矢とアキシロは、まずバーベキューの準備を行った。 
 近くに簡易テントを張り、バーベキューコンロを用意し、炭をくべ、火をおこす。
 彼らが準備している間、他の仲間は海へと飛び出していた。
「舞ちゃん、いろいろ面倒みてくれてありがとうなの。でも、今日は自由に遊んでほしいなの」
 芽李はバーベキューの用意をしていた舞矢を連れ出す。
 心遣いを受け取り、舞矢も水着に着替え、海へと向かった。
 浜辺では、すでにピンク色の水着にサンダル姿の雪羽がはしゃいでいた。
「ちょっぴり冷たくて、気持ちいいです〜」
「海に入るんでしたら、くらげに気をつけてくださいよ……雪羽、お前まで入るんですか?!」
 でも、この時期だとクラゲが怖いし……アキシロの心配する目もあって、雪羽は浅いところでちょっと浸かりながら遊んでいる。
 そして、黒のビキニの舞矢、空気を読んで同じくビキニでアイリスが登場すると……玲樹はその姿を拝み、さっそく約束の水泳教室を開始。
「教えてくださいますわね?」
「も、もちろん……それじゃ、一緒に泳いで泳ぎを覚えようか」
 上目遣いでお願いする舞矢に一瞬、ドキッとしつつも、玲樹は彼女の手を引いて、海へと入っていくのだった。なお、アイリスもカナヅチを克服するため、練習にお邪魔させていただくことに。
 水温はそれほど冷たくはないが、外気との差があり、どちらかというと、ずっと海に入っていた方が暖かく感じる。風邪を引かないようにと、アキシロはタオルを用意し、暖かい飲み物を作っていた。
「夜になると、もっと寒くなりますからね」
 花火のために明かりなども準備し、万全。
 テキパキとした動きは、さすが執事といえる。
「花火も肉も、たっぷりと用意してきたのじゃ♪」
 夕香里もコンテストで使用した水着に着替え、花火とバーベキューの準備をしていた。
 クーラーボックスには、大量の肉と花火。
 食べるにしても、遊ぶにしても、十分すぎる量だ。
 おそらくは、帰るときにはなくなってしまうのだろうが……どちら優先するか迷ってしまいそうといった表情の夕香里は、バーベキュー用に肉の仕込みに入った。
 一方、一人で海を題材に風景画を描いていた芽李は、スケッチブックを閉じ、バーベキュー用の釣りをすることにした。
「バーベキュー用のお魚を釣りにいくなのよ!」
「滑りやすいから、気をつけるのじゃ」
 準備をしている夕香里や彼哉に見送られ、芽李は意気揚々と岩場へ向かう。
「がんばって大物を釣り上げてくださいね……」
 ……さて、彼女が置いていったスケッチブックがちょっと気になるではないか。
 ちょっと興味が湧いた彼哉は、心の中でごめんなさいと思いつつ、ちょっと拝見させていただく。
「こ、これは……」
「ほほぅ……やはり、二人はそんな関係なのかのぅ」
「いかがなされました?」
 彼哉と夕香里が見ていたスケッチブックを横から覗くアキシロ。
「だ、断じてそんな関係はございません!」
 アキシロの目に、信じがたい絵が飛び込んできた……スケッチブックには風景画の他に、玲樹とアキシロがいちゃついている漫画が描かれてあったのだから。
 沈着冷静なアキシロも、こればかりは声をあげて全力否定するのであった。

 少し離れた浜辺では、姫乃が秋の季節を彩る海を写真に収めていた。
 沈みかけた太陽が深紅の強烈な色彩を放ち、海面もその輝かしい光の反射で煌いている。
 秋の夕空は一段と赤みが映え、薔薇色に染まった雲が何とも美しい。
「あ、きれいな貝殻や」
 その光景を写真と目に焼き付けていた姫乃は、足元にあった貝殻に目がいく。
 二枚貝の貝殻は、別の違う貝殻と形が同じことは少ない。
 ゆえに、互いに一枚ずつ持つというのは、互いがしっかり合わさりあう関係を意味する。
 かやくんと半分こしよ……拾った貝殻を抱きしめる姫乃。
 雪羽も貝殻拾いを楽しんでいた。
 手にいっぱいの、きれいな貝殻に満足そうな雪羽だが、突如響いた悲鳴に表情が厳しくなる。
「何かあったのでしょうか……」
 急いで声の方へ走る雪羽と姫乃が見たものとは……。
「アイリスさんと舞矢さんが溺れたー!」
 足を攣って溺れているアイリスと、それを助けようとしてさらに溺れる舞矢であった。
 必死に二人を助けようとしてる玲樹も、足をつかまれた拍子に引きずり込まれるように倒れ……。
 混沌とした光景がそこに広がっていた。

●バーベキュー&花火!
 ハプニングはあったものの、バーベキューの用意も整い、一行は食事タイムへ。
 夕香里が用意した大量の串に、芽李が釣ってきた魚……消費しつくせるのか? と思うくらいのバーベキューメニューがそろっていた。
 雪羽は隣で焼きりんごを作り、その甘い香りが鼻をくすぐる。他にもハーブとレモン、オリーブオイルで漬け込んだ鶏肉を用意しており、バーベキューは見た目にもにぎやかとなった。
(「あ、これ胡椒やん。塩と間違えてもうたわ」)
 バーベキューが始まり、コンロで肉や野菜が焼かれていく。
 姫乃は何やら胡椒の入った容器を持って思案しているが……。
「お飲み物もありますので、みなさまどうぞ」
 アキシロはポットに用意していたお茶を配り、芽李も皿や箸を配っている。
 さて、そろそろいい具合に焼けただろうか。

「「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」」

 バーベキューコンロで焼かれた肉や魚、野菜が次々となくなっていく。
「おいしい〜♪」
「取れたての魚はおいしいなの! 肉も野菜もいっぱい食べる♪」
「芽李様、お皿からこぼれていますわよ」
「まだまだ肉はたくさんあるのじゃ♪」
「とってもおいしいです〜。あ、ルー君にもあげますね」
 そして、隙間を埋めるようにどんどん投入されていく具材……と、ここで、口を押さえ、悶絶する者がいた。アイリスであった。
「こ、これは……」
 姫乃が味付けした肉を引いたらしい。強烈な胡椒の辛さに涙目になるアイリス。
 ちなみに、アイリスはバーベキューとかで、よく「当る」そうである。

 日も暮れてきたころ、食事も一段落し、結社の面々は花火を楽しむことにした。
「やっぱり、暗くなったら花火に限るのぅ♪」
 夕香里は肉と同じく、大量に用意した花火を持ち出した。
 片手にバーベキューの串、もう片手に花火を持って、両方を一度に楽しんでいる様子。
 玲樹は噴出式の花火をするということで、雪羽を呼んだ。
 導火線に火を付け、花火は鮮やかな色彩の火花と煙を放ち始める。
 その様子を覗き込むように見ている雪羽の額に、玲樹は……。
 デコピン。
「いたいです〜! なんで、ゆきうをいじめるんですか〜」
 雪羽をからかう玲樹だが、その後ろに人影が現れると、ビクリと怯えたように振り向く。
 そこには、アキシロが丸盆を振り上げて立っていた。
「……ひとの妹に何しているんですか」

 ――ゴン☆

 いい音が浜辺に響いた。
「それにしても美しい海ですね」
 雪羽が「大丈夫ですか?」と頭を押さえてうずくまる玲樹を心配してる中、アキシロは夕闇と陽の明かりが混ざる紫色の海へと視線を向けた。
 こんなところにもゴーストが出るのですね……そう思うと、どこかしんみりとしてくる。
 少し離れたところで、舞矢は静かに線香花火を楽しんでいた。
 情緒漂う、その小さな明かりと火花をじっと見つめて、物思いにふける舞矢。
 彼哉も同じく線香花火を手にすると、姫乃を誘った。
 仲間達がロケット花火や打ち上げ花火で盛り上がってるが、独特の味わいがある線香花火は、やっぱりそっと楽しみたいものである。
「暗いですし、足元が危ないですから……」
「いつもおおきに」
 差し出された彼哉の手をしっかりつなぐ姫乃。二人は仲間の声の届かないところまで歩いた。
 そして、線香花火に火をつける。
 哀愁感ある小さな火花に、しばし見入る二人。
 花火の先に玉ができ、激しく火花が飛び散ったかと思えば、だんだん弱まっていき……最後の小さく火花が散る状態まで、ストーリーが流れているようであった。
 その光景を、しっかりと心に焼き付けていく……ずっと思い出に残るであろう、初秋の海の出来事。
 もっとも、彼哉が深く心に残したのは、姫乃の笑顔だったのはいうまでもない。


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参加者:8人
作成日:2009/09/27
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