ハンマー・ガール


<オープニング>


「い、いや落ち着け! いったん落ち着こう!」
「落ち着いてる場合じゃねぇよ。さっさと泳いでくれよ25メートル」
「そうよ、早瀬さんなら楽勝でしょ?」
 どこにでもある学校のプールサイド。どういう訳か1人の女子が、クラスメートらしき生徒達に詰め寄られている。
「いや、何て言うか……私風邪気味だし」
「じゃあなんで水着着てんだよ」
「い、いつの間に?!」
 追い詰められているのは、ナツミと言う名の活発な少女。
 運動神経抜群で、頭の回転も早い。ケンカも強く、クラスの女番長的存在だ。
 そんな彼女にも唯一の弱点がある。
「……もしかして、こいつ泳げないんじゃね? そう言えば見たことないな、早瀬が泳いでるトコ」
「は、はぁ? そんな訳ないし! バッカじゃないの?」
 図星を突かれて、解りやすい焦り方をするナツミ。
「じゃあ早く泳げよ。なんなら俺たちが突き落としてやろうか?」
「ぶ、ぶっとばすぞ……」
 脅しにもひるまず、じりじりと近づいてくるクラスメート達。
 このままナツミはプールに突き落とされてしまうのだろうか――。

「と、そんな悪夢にうなされている女の子を助けてあげて欲しいの」
 柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)の話によれば、ナツミはいわゆる「かなづち」。
 完全無欠の番長として君臨している彼女にとって、それは誰にも知られたくない弱点でもある。
「その彼女が、夢の中で25mプールに突き落とされそうになってるのよ。このままそんな夢を見続けていたら、彼女の精神は参ってしまうわ」
 そうなる前に阻止して欲しいと言う事だろう。
 悪夢を見せている張本人、ナイトメアの思惑通りにさせる訳にはいかない。
 ナツミはごく普通の一軒家の自室で眠っており、そこへの進入・脱出は能力者達なら造作もない事だろう。

「夢の中……プールサイドに着いたら、早速ナツミさんを助けてあげて。同級生に扮した衛兵達が彼女を水に引きずり込もうとしている筈だから」
 プールはごく普通の25mプール。学校のプールにありそうな物(ビート板や大きな浮き板等)は一通りあるようだ。
「やっぱり、その敵の見た目は小学生って事ですかぁ? 思い切りぶっ飛ばしたりしたら、ナツミさんが引きませんかねぇ」
 こう見えて意外と子供好きな志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)は、やや慎重な意見。
「大丈夫、夢の中に入るとあなた達も小学生程度の見た目になるわ。ナツミさんとは同学年という設定で立ち回れるわね」
「なら大丈夫ですねぇ……?」
 相手は悪夢の衛兵だし、一切の手加減は無用だ。
「あとね、衛兵達は物理的にナツミさんを水に入れようとするだけじゃなく、言葉で挑発してくる可能性もあるわ。ナツミさんはプライドの高い子だから、下手をすると挑発に乗って自分から水に入ってしまう可能性もゼロとは言えないかも」
 そうなると彼女を守る上でかなり不利だ。ナツミを制止するのも仕事の一つになる。

「衛兵達を全滅させても、一件落着ではないわ。ナツミさんが同じ夢に囚われない様、水に対する恐怖心を克服して、出来るなら25mを泳ぎ切れるくらいにしてあげられたら完璧ね。元々運動神経の良い子だから、ちょっとしたきっかけですぐ泳げるようになると思うんだけど……」
「莉緒さんも一緒に行けたら良かったですねぇ」
「意味が解らない。とにかく、上手くケアしてあげて。それが今回の任務の鍵になる所だから」
 努めて事務的な口調で莉緒は説明を終えた。

「ティンカーベルの粉を渡しておくわね。夢の中では現実の理屈は通用しないわ。その反面、夢の中で重傷を負ったり命を落とせば、現実でもそうなる事を忘れないで」
「暑い〜。早く水に入りたいですぅ」
「それじゃ、行ってらっしゃい」
 そんな感じで、能力者達は任務におもむくのだった。

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参加者
聖馬・アキラ(日輪の神狐・b00129)
仙風・彰人(熱風咆哮・b28844)
片瀬・斎(白蓮仙弓・b35202)
進堂・崇之(シナモンシンディ・b42128)
玖珂・ひかり(高校生魔剣士・b42674)
カサンドラ・ベルリオーズ(猟剣・b44894)
マヤ・ザレスカ(トーテンブルーメ・b51324)
河本蛸地蔵・エロイーズ(雪色の姫狼・b51747)
NPC:志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)




<リプレイ>


「(むぅ……悪夢の中で泳ぐのは二度目なのですよ)」
 真夏の太陽が燦々と降り注ぐプールサイド。どこにでもありそうな学校のプールで、ぼそりと独り言を呟くのは聖馬・アキラ(日輪の神狐・b00129)。
 背格好は小学生と言って違和感無いが、水泳の授業中とは思えないようなお洒落なワンピース水着に身を包んでおり、もはや女の子に見えるとかそういう次元ではない。
「お嬢ちゃん、誰にそんな格好させられたんですかぁ? 犯罪の臭いがしますねぇ」
 そんなアキラを見て、悪い冗談を飛ばしているのは志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)。
 こちらはノーマルなスクール水着。背格好が縮んでも余り雰囲気は変わっていない。
 彼ら能力者は、このプールサイドにおいて己のプライドと、生命の危険のジレンマに揺れる一人の少女を救うべくやってきた。
 見た目が小学生っぽくなっているのは、悪夢の影響だ。
「いったん落ち着こう。ほら、私は後で良いからさ」
「お前が最後なんだっつーの、さっさと泳げよ。給食の時間が減るだろ!」
 さて、小さくなった能力者達が目を向けると、プールの一角では子供達が少女を取り囲み、激しい言い合いをしている。
「そうそう、つべこべ言ってないで早く泳げよ。なんなら俺たちが突き落としてやろうか?」
「ぶ、ぶっとばすぞ……全員泣かすからな!」
 ファイティングポーズを取って威嚇するナツミだが、普段は恐れるクラスメイトがどういう訳か恐れずに近づいてくる。
「こ、このっ!」
 ――ヒュッ!
 ナツミをクラスの女番長にまでのし上がらせた、鋭いパンチが繰り出される。
 いつもなら拳は男子の顔面を捉え、一撃で倒す(泣かす)所なのだが、今回は――。
 ――ぱしっ。
「え?」
「遅いぜ。さぁ、泳いで貰おうか」
 軽々とパンチを受け止めた男子は、そのまま彼女をプールの中へ突き落とそうと迫る。
「……えとえと。その……ナツミちゃん。ごめんね? その、準備運動のお手伝いお願いできませんか?」
「え? ……あっ、OK! そうだった、準備運動しなきゃね!」
 思わぬ助け船に、一も二もなく飛びつくナツミ。その船を出したのは、片瀬・斎(白蓮仙弓・b35202)だ。
 元々小柄な彼女は、違和感無くナツミのクラスメート役に馴染んでいる。
「(ところでワシの見た目が余り変わっていないのは仕様ですか?)」
 河本蛸地蔵・エロイーズ(雪色の姫狼・b51747)はそれに輪を掛けたように、ほぼ無変化。中1なので当然と言えば当然かも知れないが。
 ただ、詠唱兵器であるデジタルカメラは、持ち込みに成功していた様だ。
「おいおい、運動なんて適当でいいだろ、早く泳げよ!」
「準備運動は必要だ。邪魔をする奴は私が成敗する」
 さて、しびれを切らしてナツミ詰め寄ろうとするクラスメート達の前に立ちふさがるのは、玖珂・ひかり(高校生魔剣士・b42674)。
 新式スク水にサンバイザーという出で立ちで、小柄ながら威圧感は十分。
「……何か、童心に帰った気分だな」
 他方、カサンドラ・ベルリオーズ(猟剣・b44894)は、ビキニ上下に白いコートと言う装い。もちろん、ビキニもコートも小さくなっているので心配ない。
 幼く見えてもどこか大人っぽい雰囲気なのは、彼女自身のキャラクターのなせる技だろう。
「(……何か勿体ねー気がするなー、水着的に)」
 対照的に、絵に描いたようなやんちゃ坊主に変身しているのは、仙風・彰人(熱風咆哮・b28844)。
 全体的に小さくなってしまった女性陣を見回し、ごく一般的な感想を呟く。
「ほら、いい加減準備運動も終わっただろ。入れよ」
 暫くして、いよいよクラスメートらが急かす様に声を掛ける。
「いや、まだ不十分って言うか……」
「なぁ、あっちでビート板運ぶトコだからお前も手伝ってくんねぇ?」
「えっ、あ、OK!」
 新たな口実を与える進堂・崇之(シナモンシンディ・b42128)。
 子供ながら手足は長く、均整の取れたスタイル。顔立ちも既に整っており、クラスでもモテるタイプの男子だ。
「おいおい、やっぱ泳げないんじゃねーの? そのビート板使ってバタ足でもするか?」
「ぐっ……ビート板なんか使うわけ無いでしょ! 低学年じゃあるまいし!」
 しかし、クラスメートの挑発によってナツミはビート板を投げ出し、自ら水際へと歩んでいこうとする。
「(弱みを見せるのは嫌よね。……まぁ本来であれば、弱みも見せられてこそ……な気もするけど)」
 今回は色気控えめの、セパレートタイプの水着に身を包むのはマヤ・ザレスカ(トーテンブルーメ・b51324)。
 彼女くらいになれば、弱みを強みにする事も出来るのだろうけれど、そこまで求めるにはナツミは幼すぎる。自らの弱みを見せまいと、今にもプールへ飛び込んでしまいそうだ。
「ともかく、こっち来いよ」
「な、何よ。私は泳げるって事をあいつらに見せてやるんだから!」
「ほら、斎も困ってんじゃねぇか」
「……えと、はい……ナツミちゃん、もうちょっとだけ、お願いします」
「……し、しょうがないな。お前ら、もう少し待ってな!」
 なんだかんだ言っても、ナツミ自身も少しほっとした様子でこちらへやってくる。
 しかしこの調子では、いつ挑発に乗ってプールにダイブしてしまうか解らない。
「ほれ」
「ん? 何だよこ……れ……?」
 崇之によっておでこに導眠符を貼られ、眠り崩れるナツミ。
「っとと……」
 斎がこれを受け止め、仲間達へOKサインを送る。
「いたいけな少女を苛める輩は、許す事はできません!」
「おうおう、女子一人を大勢でいじめてゴキゲンじゃねーか! テメーらの相手は俺がしてやるぜ!」
 エロイーズ、彰人が口々に言いながら得物を身構える。
「ちっ、こいつらも纏めてプールに沈めてやれ!」
 本性を現した衛兵達と能力者は、プールサイドで激突する。


「そ、それにしても皆さん……すっかり可愛らしく……」
 眠っているナツミの傍に寄り添いつつ、サイコフィールドを展開する斎。
 後方支援の役目は果たしつつ、改めて小柄になった皆を見回して身悶えている。
「小学生同士の戦いにおいて、男子が女子に勝とうなど笑止ですぅ!」
 ライカンスロープの構えを取りつつ、不敵に笑う涼子。
「誰でも怖いもんってあるよな」
 リフレクトコアを展開しつつ、尚もうなされているナツミを見遣る崇之。
 悪夢の中で刹那の眠りに落ちたとしても、安らぎは訪れないのだろう。
「あっちは二人に任せるとして、邪魔者を片付けましょ」
 ――ババッ!
「うわっ! なんだこれっ」
 マヤの手から無数の黒い影が飛び立ち、クラスメートらに乱舞し襲いかかる。
 吸血コウモリにたかられ、にわかに浮き足立つ敵達。
「行くぜ! 必殺チャンバラ剣法!」
 これを好機と、敵中に躍り込んだ彰人。
 ――ザッ!
「ぐはぁっ!!」
 手にした嵐刃と雪舞が黒炎に包まれ、唸りを上げながら振るわれる。と、ワンテンポ遅れて男子の一人が悲鳴を上げ、地面に突っ伏す。
「くそっ、邪魔するなよっ!」
「己がされて嫌悪を抱く事を他人にするな、そう習わなかったか?」
 カサンドラに殴りかかる男子だが、ひらりとこれを回避。逆に氷気を帯びたカルラ・カンがその男子の身体を貫いた。
「小回りが利くと言う所では、小さい方が良いのかも知れんね」
 普段より低い視点、腕や足の長さが違う事なども、彼女にとってはさほどの障害にはなっていない様だ。
「もっと暑くなるよ!」
 ――ゴォォッ!
 更にはアキラの槍斧に宿った不死鳥が、新たな敵に襲いかかり瞬く間に焼き尽くす。
「どうした、口だけか?」
「く、くそっ!」
 ――ザシュッ。
 次々に仲間を打ち倒され、及び腰になる敵を挑発するように言うひかり。
 激昂した数人の男子が殴りかかるが、これを軽く鞘で受け流すと、紅蓮の炎を帯びた虎徹で切り捨てる。
「水着女子小学生には指一本触れさせませんよ」
「お前もだろ」
 どこからともなく鋭い突っ込みが入るのにもめげず、エロイーズの放つ破魔矢は確実に敵を討ち減らしてゆく。
 見た目は同じ小学生同士だが、能力者達と衛兵ではさすがに勝負にはならない様だ。


「ん……ぇ? あれ? ここは……」
「あっ、気がつきましたか?」
 斎に助け起こされるナツミ。
「あっ、あいつらは?」
「あいつらなら、もう追い払ったよ」
 準備運動をしながら答える崇之。
「それじゃ、泳ぎましょうか」
「えっ……や、私はその……」
 安心しかけたナツミだが、マヤの提案に再び表情がこわばる。
「水が嫌いなの? 顔を水につけるのが嫌って訳でもないでしょう?」
「足が立つくらいの深さなら、一応平気だけど……でも全然泳げなくて格好悪いし」
「大丈夫よ。片瀬さんも泳げないのよね? この機会に、二人とも泳げるようになれば良いわ」
「は、はい……一緒に頑張りましょう?」
「うっ……」
「こんな皆だけど、最初の方は皆弱かったわ。だけど、ちょいとしたきっかけでこんなに強くなったのよ。怖いものに突っ込んだという、きっかけでね」
 まだ躊躇いがちな様子のナツミを後押しするエロイーズ。
「つまりあれよ……死ぬわけじゃないんだし、少しだけ、根性絞りだしてみない?」
「……解ったよ。べ、別に怖くなんかないし……」
 そんな風にして、乗り気じゃないナツミをどうにか水へ入らせる一行。

「なあ、水の何が怖いんだ?」
「何がって、だって……水の中だと息が出来ないじゃん! 死ぬって事だよ!?」
 プールの壁に張り付いて緊張しているナツミに尋ねるカサンドラ。
 水自体が怖いと言うよりも、やはり泳げない事がネックになっている様だ。
 ――バシィン!!
「ひっ?!」
 そんなナツミの目の前で振り下ろされる竹刀。
「君達を指導することになった玖珂ひかりだ。よろしく頼む」
「……」
「それじゃ早速始めよう。こう、すーっと身体の力を抜いてだな。ばばっと足を伸ばして、ゴウっと……ずびゅーんと。顔を上げて……たわばな感じで……」
「解るか!」
 かつてひかりを指導していた師は、そんなキャラだったらしい。
 ともかく、壁に掴まってバタ足をさせたり、潜らせたり、順を追ってカナヅチ二人組を慣らしてゆく。
「それでは、今度は涼子さんとマヤさんに手を持って貰いながら、実際に泳いでみよう」
 幾分慣れてきた様子の二人は、ひかりコーチの指示に従って更に高度な練習へ。
「さぁほらぁ、後ろからサメが追ってきてると思って必死でバタ足するですよぅ!」
「わ、わ、わ。手を離しちゃダメですよ。絶対ダメですからっ。わぷっ!? 水がっ!? あー!? めがね、眼鏡外れそうです。まってまってください!」
 自分には甘いが人には割と厳しい涼子。斎はかなり一杯一杯になって沈んだり浮かんだりしている。
 ただ、泳ぐ時にも眼鏡を取らない斎の一貫性は、高く評価されるべきだろう。
「……やっぱり私、もう暫く壁でバタ足する」
 しかしそんな斎の様子を見たナツミは、顔を青ざめさせて弱気発言。
「ずいぶんと軟弱だな」
「え?」
「そんな事すら出来ないと自ら決めつける様なら、俺たちが幾ら手助けしても無駄かもな」
 プールサイドから、カサンドラが嘲笑うように言う。
 わざとプライドを刺激する事で、火を点けようというのだ。
「……やってやるよ……やればいいんでしょ!」
「さぁ、それじゃ行くわよ」
 マヤに引っ張られ、プール中央へと移動するナツミ。
「ちょ、ちょっ……沈む……沈む!!」
「力を抜いて、人の身体は浮くようにできているのだから」
「浮くって……浮……う、浮いてる?」
「ね?」
 元々運動神経も頭の回転も良いだけあって、早々にコツをつかみかけた様子。
「よーし、あれだけ泳げるならもう一押しだな」
 にやりと笑みを浮かべ、ナツミに接近する彰人。
 最後にちょっとしたきっかけを与えて、ナツミを自主的に泳がせようと言う目論みだ。
「待った。その任務はワシの方が適任だと思うのです」
 と、ここで彰人を制するのはエロイーズ。
 悪夢から救う為とは言え、男子高校生が女子小学生の身体にお触りするのは、考えようによっては不味かったり不味くなかったりするのではないか。そんな懸念を考慮したのだろう。
 さもなければ自分の趣味か。
「……そうか、じゃあ任せたぞ。俺も大人の女ならともかく、子供に触っても楽しくないしな」
「任されました!」
 ノリノリのエロイーズは、潜水しながらナツミの背後へと近づく。
「マヤ、ひかり! 一人でも……泳げてるよ、ほら!」
 一方のナツミは、助け無しでも少しずつ泳げるようになりつつある。
「あっちに負けてますよぅ! もっと頑張るですぅ」
「そ、そんな事言って……もごぼっ……ゴボゴボ……」
 斎の方は、まだまだカナヅチ娘の汚名返上とはいかなそうだが。
 ともあれ、スイミング教室も最終局面へと突入してゆく。


 水面下で、ナツミのお尻へと迫る黒い影。
 エロイーズの魔手がまさにナツミの臀部を捉えんとしたその瞬間――。
「それじゃ一緒に泳ごうよ。ほら、僕だって泳げ……!?」
 狙ったわけではないのだろうけれど、アキラがビート板から手を離して水没してしまった。
「大丈夫かアキラ!? おっ?!」
 傍にいた崇之が助けようと近づくが、アキラに捕まれて一緒に沈んでしまう。もちろん演技だ。
「やばっ!」
 姉御肌のナツミは、勇敢にも自ら二人を助けるべく泳ぎ出す。
「良いぞ、その調子だ。すーっと腕を伸ばして、ぶわっと水を掻くんだ」
「やれば出来る物だな」
 相変わらずの調子でアドバイスするひかりと、水に足をつけつつ感心した様子のカサンドラ。
「ほら、あれを見るですぅ。さっきまで泳げなかった子があんなに泳げてるですよぅ!」
「め、眼鏡が沈んで……見えません」
 斎の方は、気長にやっていくしかなさそうだ。
「ほら、アンタ達落ち着きなよ。人間は浮かぶように出来てるんだからさ!」
 ナツミは溺れていた二人に近づくと、ビート板を差し出しながら言う。
「……あぁ、ありがとう。ナツミも、自分の中の『怖い』って感情は倒せたみたいだな?」
「うん、もう立派に泳げてるね」
 さっと平静さを取り戻して、その場に立つ崇之とアキラ。元々足の立つ高さだったのだ。
「おう、やれば出来るじゃねーか!」
 彰人もプールサイドからニッと笑って、賞賛の言葉を手向ける。
「え? あぁ……ま、まぁね。私こそ、アンタ達には色々と……ありがとね」
 ナツミはちょっとはにかみながらも、皆へ軽く礼を述べる。
 彼女の運動神経から行けば、25mでも50mでも、泳げるようになる日は近いだろう。
「めでたしめでたしかな……はぅ? 何か殺気が……」
 大団円の気配にほっと一息つくアキラだったが、彼の演技によって千載一遇のチャンスを潰されたエロイーズが怒りの炎を燃やしている事は言うまでもない。
 とは言え、任務は無事完了。
 この後どの様な遣り取りが為されたかは、各人の想像にお任せするとしよう。


マスター:小茄 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/30
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