≪町外れの古屋敷≫危ないパペットガール


<オープニング>


 それはほんの微かな音だった。
 仲間達が無人の撮影所へ入った時に、微かな音が天井から聞こえた。といっても聞こえたのは鋭敏感覚を持った緋神・琉紫葵(蓬莱を守護せし月華の銀翼・b42772)だけだった。
「上に気を……」
 緋神は仲間達に警告した。その警告が終わらないうちに、重い照明器具が1つ落ちて派手な音がスタジオ中に響く。
「あれって高いよね」
 風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)がもったいないとため息をつく。最も残留思念に経済観念は無いからしょうがないのだが。
 ある意味、彼等は世間が言うところの超常現象には馴れていた。それに焦れるように今度は正面から強烈なライトが2つこちらへと向けられた。
「きゃっ」
「まぶし……」
 緋神達が手で目を庇って顔を背けた時、一人の少女の笑い声が聞こえてきた。
「きゃはははは」
 シュと衣擦れの音がしたと思ったとき、緋神の上半身をフリルのリボンがツタのように巻き付いて締め上げた。
「みんな死んじゃえばいいよ。大嫌い」

 きらい、きらい、きらい。
 私が一番可愛いのに。
 可愛いドレスが似合うのはわたしだけ。
 私以外は許さない。

 仲間達の脳内に、どう猛で我が儘な思念が流れ込んできた。 

「勝手な……ことを!」
 緋神は自ら巻き付こうとしたフリルリボンを引きちぎろうとした。
「待っていろ」
 綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が緋神へ巻き付くフリルリボンを武器で切り裂いていく。
「もういいよ。後は自分で」
 そう言うと緋神は自由になった右手で武器を持ち後始末をして、少女の地縛霊へと向き直った。
「君の気持ちは分かったよ。同じモデルとして分からないわけじゃない。でも、そういうのは嫌いだな」
 一番が大好きな君。可愛い事が世界で一番大事で、1つの価値観しか持てずに死んじゃった可哀想な女の子。
 だから消してあげるよ。それから解放されるように。

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参加者
風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)
諏訪神・ひすい(蕾を咲かすカルマートの旋律・b41677)
酒井森・興和(朱纏・b42295)
緋神・琉紫葵(蓬莱を守護せし月華の銀翼・b42772)
セシリア・アークライト(黒き白獅子・b45097)
名雪・舞矢(舞雪乃姫巫女・b45266)
水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)
綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)



<リプレイ>

●撮影ごっこ
 自分達に向けられた強烈なライトの方向に2つの姿があった。1つは太ちょの撮影スタッフ、もう1つはミニドレスを着た少女。
「マリィ、お客さんだぜ。どうするお嬢様」
「死ねばいいよ」
「だよなぁ。撮影の邪魔だもんなぁ。な、ケン」
 フッと強烈な光が消えた。一瞬、視界が真の闇になる。
「消えた?」
「どこだ?」
 仲間達は武器を構えて身構える。
「おっかなびっくりいい顔だあ。いくぜフラッシュ!!」
 突然、正面とは別の方から強烈なフラッシュ光が光る。それと同時に強烈なショッキングビートのような衝撃が襲いかかってきた。ケンと呼ばれたカメラマンのリビングデッドが突然攻撃を放ったのだ。
「お嬢、チャンスだぜ」
「そだね」
 マリィと呼ばれた少女の地縛霊が緋神・琉紫葵(蓬莱を守護せし月華の銀翼・b42772)へと再びフリルリボンを放った。蛇のようにうねったリボンは、まるでネズミを飲み込む蛇のようなスピードで緋神の片腕に絡みついた。
「粘着質なんだな」
 ザックリとリボンを斬り捨てて、緋神は腕に残ったリボンを手首に巻いた。
「月華の銀翼、緋神琉紫葵。いくよっ」
 エアシューズで鳥のように翔け、マリィへの距離を詰める。そしてグラインドアッパー。少女の身体が宙に飛ぶ。
「安心して、顔は殴るつもりないから」
 緋神は呟いた。死んでいてもモデル相手に顔を殴る
「あったまきたぜ。この野郎」
 マリィの側にいた撮影スタッフのリビングデッドが、大きな撮影用の柱のオブジェを振り回してくる。ギリシャ神殿風のくすんだ白い柱は石膏ではなく本物の石で出来ているようで、それをリビングデッドは軽々と振り回す。
「テル、やっちまえ。お嬢、大丈夫か」
 カメラマンのケンがマリィを庇うように前に出ると、再びフラッシュをたいてテルをけしかける。
 前衛はセシリア・アークライト(黒き白獅子・b45097)、風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)、諏訪神・ひすい(蕾を咲かすカルマートの旋律・b41677)、そして緋神。
 緋神へ向かって重量のある柱を振り回してきたテルを、同じ是婦負のセシリアと風見がそれぞれ別の方向へテルを囲むように回り込む。
 テルが叩きつけた石の柱が緋神の身体をかすめたがわずかにそれて床に叩きつけられる。避けたと思って安堵した緋神だったが、石柱が砕けその大きな破片が彼の身体に無数打ち付けられた。
 だが緋神の犠牲は無駄にはならない。動作の大きい隙を突くようにして、セシリアと風見がテルの背後と横から近接攻撃をしかける。
「手加減は一切なしでいくわよ♪」
「僕もだよ」
 セシリアの獣撃拳と風見の暴走黒燐弾が間断なくヒットして、テルの大きな体が揺らいだ。
「おまえたち、嫌い」
 ケンに庇われていたマリィが怒りに満ちた目で仲間達を睨みつける。黒いレースと白いフリルのミニドレスが怒りに揺れた。そしてその愛らしい顔も屈辱に歪む。
「消えちゃえ」
 凄まじい金切り声がスタジオを揺るがす。強力なブラストヴォイスのようなそれが仲間達にダメージを与える。特に近かった前衛は不意打ちのようなそれにダメージをまともに食らった。
「ぐっ」
「効いた」
 まともに食らって膝をついた風見とセシリアの代わりに、ひすいが前に出る。
「わがままばかり言ってんなら、改心させてやるよ」
 ひすいは龍尾脚と呪いの魔眼を一気にはなった。
「お嬢!」
 ヤバイとケンがマリィの前に飛び出す。
「目線はこっちだぜ」
「しまった」
 ひすいの攻撃はケンが受け止めた。ケンの持っていたカメラが粉々に砕ける。
「へへ…まだだよ」
 ケンは最後の力を振り絞るようにしてひすいの腕に噛みついた。
「う……わっ」
 利き腕に噛みつかれ、思わず利き腕から武器を取り落とす。
「ユーカ、ひすいさんを助けて」
 酒井森・興和(朱纏・b42295)がユーカに命じる。戦況も大事だが、最優先は人の命だ。それが一般人でも、仲間でも。主の命に従い、ユーカはひすいからケンを引き離すため炎で威嚇する。だがケンはひすいの腕にとがった歯を立ててまま、引き下がろうとはしない。
「ううっ」
 筋肉が切れていく。その痛みと流れる血にひすいは気が遠くなりかけた。

●悪い子にはおしおきだ
「るっしー、大丈夫?」
 水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)は小首を傾げながら、テルの攻撃をギリギリかわしたながらもマリィの金切り声にやられた緋神へと駈け寄った。
「回復するね〜」
 浄化の風を呼び、回復をうながす芽季を庇うように綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)がゴーストの前に立ちふさがる。
「芽季、前に出過ぎだよ」
「悠斗君……」
 良い雰囲気で視線を合わせる二人に、緋神はコホンと咳払いする。
「あ〜早く回復お願いします」
「あ、そうだね。芽季ちゃん頑張るねっ」
 少し頬を赤らめながら、芽季は緋神の傷に目を落とした。緋神の白い目線から顔を背けつつ悠斗もゴーストに向き直る。
「地に縛られし君よ、汝の浄化の光あれ!」
 悠斗の光の槍が、ゴースト達を貫いていく。マリィはひらりと避けたが、動きが遅くダメージがたまっていたテルはまともに受ける。光に貫かれ、テルは獣のような咆吼を上げた。
 だがテルもケンと同じように粘り崩れ落ちる直前に、渾身の力で新たに石の柱を掴んで悠斗へ向かって投げつけようとした。
 石柱が槍のように悠斗へ放たれようとした。技を繰り出した後の隙、また近すぎたこともあってとっさに逃げ切れなかった。それに自分が引けば背後にいる緋神と芽季は……。 悠斗の呼吸が一瞬止まりそうになる。
「悠斗君!」
 目の前できゃあと叫んで芽季が悲鳴を上げる。
「させませんわ」
 芽季達の背後から光が迸る。
「すでに亡くなった貴方にはこの光は眩しすぎるかしら?」
 名雪・舞矢(舞雪乃姫巫女・b45266)の光の槍がテルの肉塊を軽々と貫いた。
「ありがとう」
 悠斗は息をついて
「こらっ、緋神君、あれだけインフィニティに頼るなっていったでしょうが」
 舞矢はしょうがないわねという風に腰に手を当てて、緋神を見下ろした。
「とりあえず他の人を支援するわね。前衛が倒れるとこちらが危険になりますので」
 そう言い放って、舞矢はギンギンパワーZを惜しみなく前衛に注ぎ始めた。
 腕をかみ砕こうとするケンからひすいを助けたのは酒井森とセシリア。そしてテルは緋神を傷つけ、悠斗を道連れにしようとするが、舞矢に阻まれた。そしてマリィは未だ大したダメージもなく健在のまま、風見と駆けつけた悠斗を前に憎しみに満ちた目で睨んでいる。
 ケンもテルも滅びかけている。だが所詮、それだけの者だ。また別に捕まえればいいやとマリィはほくそ笑んだ。
 愛らしい顔に残酷な笑みを浮かべ、彼女は言う。
「悪い子にはお仕置きね☆」

●マリィ
「僕だって出来れば貴方みたいな可愛い子を手にかけたくないけどね」
 風見は『お仕置き』という言葉をゴースト少女の口から聞いて複雑な気持ちになり顔をしかめた。
(「それは僕たちのセリフだよ」)
「……でも、僕は能力者で君はゴースト。僕は貴方を倒さなければいけない。多くの犠牲者が出る前にね!」
 そう言い放ち、風見は旋剣を構え気魄攻撃を仕掛ける。他のゴースト達が落ちる寸前の今、もう何も考える必要はない。
 倒すのはただ目の前の少女。悠斗も風見の後に続く。そして緋神とセシリアもやってきた。
「マリィのメイク教室〜♪」
 突然、マリィはドレスのポケットからリップを取り出した。リップ、アイメイク、頬紅。
「メイクは女の武器なのです☆」
 のんきなセリフとは裏腹に、色を付けるたびに急激に彼女の攻撃力が上がるのを風見達は感じて背筋が寒くなる。
「早く倒しましょう」
 セシリアは待ちきれぬとばかりに動いた。
「もう、遅いの!」
 マリィは邪悪な笑みを浮かべて金切り声を上げた。
 前とは比べものにならない凄まじい衝撃が空間を揺るがす。
「……っ」
 せめて一撃と思ったがまともに食らいかけたセシリアは床に倒れる。
「セシリア!」
「セシリアさん」
 その衝撃と叫びに、芽季から治癒を受けていたひすいはようやく目を開けた。
「ひーちゃんが目を開けたです」
「あ……」
 ひすいの目に、仲間達が戦う最後の光景が見えた。
「ユーカ、セシリアさんの前に」
 酒井森はユーカに倒れたセシリアを守らせる。だがマリィは倒れたセシリアをなぶるように今度はフリルリボンを鞭のようにしならせた。
 逆らう力の無い彼女の首にリボンが回ったら死ぬ。そう気づいた仲間達は二手に別れた。
 悠斗、酒井森はセシリアの元へ。
 緋神、風見はマリィへ対峙。
 フリルリボンの鞭を武器で受け止めたのは悠斗だった。
「……悪いけど、君の相手は僕にしてもらうよ」
 僕が倒れない限り誰も殺させはしない。仲間も、そして……。
「そしてここで君を倒す!」
 それは僕の剣じゃないけどね。そう悠斗は言い続けたかったが、その間もなく緋神と風見がマリィに襲いかかる。
 悠斗がリボンをつかみ、マリィの動きを止めている。
 そして二人の技が彼女を消した。

●終劇
 戦いが終わった撮影所は、再び静けさを取り戻した。
「やっと静かになったね……」
 ゴースト達の遺体を片付け、スタジオで壊れたものを一カ所に集めて清掃を終えた仲間達はようやく一息をついた。
「みんな、一緒に写真撮影しよ?」
 マリィのフリルリボンの切れ端を集めてリボンブーケを作った緋神は記念撮影を提案する。確かに多少壊れてはいたが機材はほとんど無事だったし、カメラも複数あった。
「あの子の残したこのブーケ、ちゃんと残してあげないと。そして僕も」
 緋神はまるで本物の花のブーケのように作ったばかりのそれを顔に近づけた。
「うん?」
「僕もモデルを引退するから。引退記念♪」
 にっこりと緋神は笑った。花のような笑みがこぼれる。
「ええ〜っ?」
 仲間達は一同に驚き、緋神の爆弾発言に大声を上げた。
「し〜っ」
「あ、声っ」
 大方は片付けたといっても、まだリビングデッドの遺体は残っている。あとはこれを持ち帰るだけだが、もし誰か来て見られると厄介だった。
「るっしーがブーケなら、芽季ちゃんは絵を描くの」
 緋神に触発されたように、今度は芽季がマリィの似顔絵を描く。その中の表情は嘲りでも憎しみでもなく、嫉妬でもなく。
「この絵は彼女の笑顔なの。次は笑顔の素敵な女の子に生まれてほしいなの」
「そうだね」
 無邪気に差し出された絵を受け取りながら、緋神は頷いた。
「……にしてもなあ。その格好……いや、いいけど」
 感動的なシーンなのになあとぼやきながら、何か言いたげだった悠斗もカメラが用意されると慌てて芽季の横に並んだ。
 仲間達はリボンブーケを持った緋神と、似顔絵を持った芽季を中心に固まった。
 風見がいそいそと自動タイマーセットつきの写真機を操作している。ようやくセットが終わり、声を掛けてきた。
「自動タイマーセット! さ、10、9、8、7」
 風見はカウントしながら慌てて仲間達の元へと戻ろうとした。
 
 ガッシャーン、ガタン、ゴトン。

 派手な音を立てて風見は転び、写真は誰もが忘れられない一枚の1つとなった。 


マスター:花うさぎ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/11/12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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