廃鉱にて〜大地を貪る者〜


<オープニング>


 放課後の教室で皆を出迎えた秋月・善治(高校生運命予報士・bn0042)。彼は集まってくれて感謝する、と頭を下げた後、依頼の説明を開始した。
「とある山の廃鉱に、強力な残留思念が発生した。今回皆には、その残留思念に詠唱銀を振り掛けて、発生させたゴーストを倒してきて欲しい」
 この廃鉱。稼動していた当時から爆発事故などが絶えず、何人もの人が亡くなっている。さらに、お払いに来たお坊さんが中に入っていったまま戻らず、行方不明となる事件も起きてしまった。故に、廃鉱という道を辿ったのだという。
「場所としては、ある程度の広さはあるが光は全くない。電灯を渡しておくから、光源を確保してくれ」
 続いて、出現するゴーストの特徴に移っていく。
 中心となるのは、ひび割れた杖を持ち、ぼろいローブを身に纏う、老爺の姿をした地縛霊。力量は皆より遥かに高く、運も良い。
 攻撃方法としては、全ての敵を切り裂き、肌を凍らせる強い魔力を秘める氷刃の嵐。全ての敵を締め付けようとする光輪の群。
「そして、最も厄介な攻撃となる大爆発、だな」
 杖で大地を強く叩く事で発生する、全ての敵を薙ぎ払う大爆発。威力がとてつもなく高く、体力の低い者では耐え切れない。反面、反動としてしばらくは杖による威力が若干高いだけの打撃しか行使できなくなるようだ。
「これで、地縛霊に関する説明は終わりだな。続いて、共に登場するゴースト……妖獣だな。その説明に移るぞ」
 数は八、姿は体の表面に粘液を蓄えた、大型犬ほどの大きさを持つトカゲ。力量は皆と同じくらい。
 攻撃力は皆無に近いが、攻撃に付随する粘液は詠唱動力炉の動きを止める力を持つ。
「出現後の位置は老爺が洞窟の最奥、トカゲたちが老爺への道を塞ぐように取り囲む、という形だ」
 説明は以上だ、と善治は一度言葉を切る。軽く息を吐いた後、締めくくりの言葉を紡ぎだした。
「知性自体は低く、特別な条件等も無い。だが、力量だけならばかなりのレベルだ。決して油断せず、事に当ってくれ。吉報を待っている」

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参加者
不破・零夜(漆黒の剣聖・b02805)
片倉・陽人(黯翁・b03249)
ルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678)
マリア・シンクレア(護衛メイド・b24391)
永陸・武史(車軸の雨・b26923)
カリュア・キトリス(銀紫ノ輪・b38118)
シュカブラ・キアロ(太陽に焦がれたジュダス・b41558)
ソーマ・アビルーパ(緋焔嵐舞・b50768)



<リプレイ>

●廃鉱にて
 歩けば小さな水音が響き渡り、闇の中へと紛れていく。電灯で地面を照らせば水溜りが点在している事を知り、壁を、天井を照らせば腐りかけた木の枠組みが、今もなお坑内を支えてくれている事が分かった。坑内に別れ道は存在しない。彼らは一瞬足りとも緩める事無く歩を進め、行き止まりへと……最奥へと辿り着く。
 残留思念が、最奥への道を塞ぐように渦巻いていた。肌を心地悪くざわめかせるそれがもしも完全な形で現出していたならば、面白くない未来が紡がれていただろう。
「……さて、と。それじゃあ、準備を整えようか」
 シュカブラ・キアロ(太陽に焦がれたジュダス・b41558)は、軽い調子で袋から残りの電灯を取り出して、仲間たちに配っていく。マリア・シンクレア(護衛メイド・b24391)の指示を中心に設置を始め、光溢れる場所へと変えていく。
「……っと、こんな感じかな」
「ああ。申し分ないと思うぜ」
 最後の電灯に命を吹き込んだソーマ・アビルーパ(緋焔嵐舞・b50768)が立ち上がる。頷いたシュカブラは改めて周囲を眺めて、目を細めた。
 数多のライトから放たれる輝きが、闇の存在を消していた。太陽など届かぬはずなのに、今や野外ステージのような煌きに満ちている。
 舞うのは役者じゃないけどな……と冗談を飛ばし、シュカブラは不破・零夜(漆黒の剣聖・b02805)を送り出す。零夜は残留思念の目前で立ち止まり、静かに瞳を閉じた。
 仲間たちも陣を整え終えたのか、足音も無く呼吸すらはばかれるような静寂が訪れる。
「……ふっ」
 口の端を持ち上げながら、零夜は瞳を開いていく。詠唱銀を、残留思念の渦に放り込んだ。
 残留思念は耳障りな叫び声を上げながら、一つの大きな塊と八つの小さな塊に分化する。
 木が、地面を叩く音が響いた。ひび割れた杖を携えている、足の先から頭のてっぺんまで余す所なくぼろいローブで包み込んだ老爺へと変貌を遂げた大きな塊は、布地の影から赤い瞳でぎょろりと周囲をうかがっている。
 小さな塊は、大型犬ほどの大きさを持つトカゲの形をした白い粘液が滴る魔性に変化して、警戒気味に低い姿勢をとっていた。
 刹那、トカゲたちの中心に黒い塊が着弾し、爆発する。八体の内二体がカリュア・キトリス(銀紫ノ輪・b38118)の悪夢に誘われて、深い眠りへと落ちていく。
「エルヴィン、頼んだ」
 雑霊を手元に集わせながら、片倉・陽人(黯翁・b03249)はケットシー・ワンダラーのエルヴィンに踊るよう命を飛ばす。ダンスに一体が誘われていく中、陽人は集わせた力を解き放つ。
 その頃にはソーマたち前衛もトカゲたちに接敵し、交戦を始めていた。
 故にだろう。老爺は杖で地面を軽く叩き、虚空に氷の刃を幾つも生み出していく。氷が硬質な音色を奏でるのを聞いた後、嵐に紛れさせて戦場へと送り出す。
「っ……那美様、彩香様、お願いいたします」
 メイド服の布地を滑らせ全て受け流したマリアの叫びを受けて、出雲・那美が赦しを願い舞い始める。風祭・彩香は柔らかな風を巻き起こした。
 シュカブラに張り付いていた氷が溶けていくのを横目に、ルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678)は銀と黒とのつながりが一時途切れる事もいとわず強烈な一撃を叩き込む。それは地面を抉るだけの結果となってしまったけれど、横合いから飛び出したシュカブラの高速回転がトカゲの体をねじ切った。
「次は……あの個体をお願いします!」
 マリアの言葉に導かれ、永陸・武史(車軸の雨・b26923)が高速回転を始めていく。老爺が放った光輪をも弾き飛ばし、大柄な体を直撃させた。
 気絶していくそのトカゲを、陽人の力が打ち据える。光の中に溶けていくトカゲを一瞥し、次なる対象を視界に納めた。
「皆様、来ます!」
「っ、間に合え……」
 杖を高々と振り上げた老爺に、マリアが警告を響かせる。カリュアが切なる願いを込めて、夢の力を展開した。
 虚空に小さな光が集っていく。
 夢の力が薄く広く散らばっていく。
 光はライトすらも凌駕する明るさで、廃鉱内を満たしていく。
 散らばった夢は規則正しく並べられ、ドーム状の障壁となって仲間たちを包み込んだ。
 轟音と共に、光は質量を伴って爆発する……!

●大爆発
 光が潰え、戦場が程よい灯りに満たされた場所へと戻っていく。零夜は崩れそうになる膝を叱咤しながら、静かに刀を構え直した。
「……さま、……です……?」
 耳をやられたのか、マリアの声が途切れ途切れにしか聞こえない。周囲の喧騒も、今は轟音が響くのみである。
(「思ったより威力が高い……が」)
「……ふっ」
 身が癒され、聴覚も元に戻ってきた。仲間たちも各々身を癒していくのを肌で、耳で感じ取りながら、零夜は再び刀を構え直していく。
 刹那、光の中でなお輝く光が発生した。それらは集う事無く幾つもの輪に別たれて、トカゲの合間を縫い飛来する。
 武史が剣で弾き、勢いのまま刃を翻してトカゲの頭を切り飛ばした。
「主よ、邪なる闇を消し去り給え……」
 マリアの光が光輪をも飲み込みながらトカゲたちを包み込み、うち一体を蒸発させていく。
「……」
 残るトカゲは四体。密度が下がってはいるが、中央を突破するにはまだ厳しい。
 刀を握り直し、零夜は冷たい視線を向けていく。尾撃を一歩下がって避けて踏み込んで――。
「あなたの相手は、ルリナです」
 ルリナが横合いから鎖を伸ばし、零夜が睨みつけていたトカゲに絡みつかせていく。力を込めて、その個体を引き寄せた。
 老爺への道が、開かれる。
「皆様、参りましょう」
「後を頼んだよ!」
 ぼろいローブに穴を穿つマリアの光が標となり、真っ先にソーマが駆け寄った。すらりとした足を振り上げて、孤を描く形で大上段から振り下ろす
 舞と風。二種の力が届かぬ場所へ向かう三人を見送るルリナは得物を分解し、引き寄せたトカゲに渾身の一撃を叩き込む。シュカブラの体当たりはぬめる粘液に滑ってしまったけれど、その隙を縫い解放された陽人の力が、大地に繋ぎ止められているトカゲを消失させた。
 次は、とルリナは視線を動かす。刃が分解されたままでも引き寄せることはできるからと、次なるトカゲへ腕を――。
「来ます!」
 カリュアの叫びが響き渡る。かき消すように轟音が鳴り響き、熱量を伴う光が視界を満たした。
 まともに刃を動かせないルリナが吹き飛ばされて、壁に叩きつけられていく。唇の端から血を流し、壊れた人形のように崩れ落ちた彼女が再び動き出す様子はなく……。
(「……零夜兄の足は引っ張りたくないから……だから……!」)
「……大丈夫。まだ、やれる」
 時、同じくして、片膝をついてしまっていたカリュアが立ち上がる。視界が揺れ動き、霞む中、幻夢の領域を開放した。
「……へへっ」
 受けきった、とはいかない。けれど、耐え切った武史は交差させた腕の隙間から顔を上げながら、得物を構えなおしていく。
 再び皆、己の身を癒すために動き出す。
 早く倒さなければという気持ちを抑え、戦況を磐石なものへと変えるために。
 トカゲからのちょっかいは、防具の加護も活かして乗り切ろう。たとえ粘液が詠唱動力炉に絡みついたとしても、舞が、風が溶かしてくれるから……。
 ……再開の合図は、シュカブラの体当たりが六体目のトカゲを滅ぼした時。老爺の周囲に集った氷刃が、嵐に混じり皆を襲う。
「そう易々と、やられてたまるかよ!」
 武史は癒しを後ろに任せ、氷の破片を張りつかせながら体当たりをぶちかました。
 バリアで全て弾いたカリュアは白いキノコを生み出して、武史に投げ渡していく。
(「もう少し……もう少しで老爺へと雪崩れ込める。もう少し、耐えてくれ!」)
 込めるは願い。
 成し遂げるは、浄化の波動が届かぬ者への癒しの力。
 もう、誰一人として倒れさせない。倒れたルリナに誓い、打ち倒す――!

●想いの行き先は……
 再び空気が爆裂し、明るい闇が訪れた。晴れたなら、彼らは勢いに耐えるための力を抜いていく。
「……無事か」
「……ああ」
「……私も大丈夫。ただ、やばいわね」
 武史の問いかけに、零夜が静かに頷きながら構えを取った。ソーマは痛む足を無理やり構え、老爺に回し蹴りを叩き込む。
 ……断続的に放たれる大爆発に、何人かが癒しの術を失っていた。
 状況は芳しくない。マリアら後衛と、トカゲと交戦している者たちにはサポートの癒しが届くけれど、老爺に接敵している三人にはそれもない。次が来たら……と、マリアは思考を巡らせながら治癒の符を作り出し、蹴りの勢いを殺しきれずよろめいたソーマに投げ渡す。
「主よ、彼の者の傷を癒し給え……」
「っ……」
「速い……!」
 しかし、時を待たずして虚空に生み出された光輪が飛来する。零夜は刃で受け流したけれど、武史が体を縛られた。
 老爺は焦る彼らをよそに、杖を高々と掲げていく。
「お待たせ!」
 横合いから陽人が長槍を突き刺した。雪花を煌かせるシュカブラの呪髪が胴を裂き、カリュアの夢が細かな傷を消していく。
 老爺はよろめきながらも力を集わせ、爆散させた。凄まじい質量を持って、光が彼らへと襲いかかる……!
 ……けれど、倒れる者はいない!
 もう少しで倒せる事を知ったから、魂を燃やして立ち上がる。
 ――己を癒している暇など無い!
「主よ、闇の眷属に光の裁きを与えたまえ!」
「ここが正念場だ。行くぞ!!」
 マリアの光と共に駆けたカリュアは、パラソルの柄に手をかけていく。老爺を貫く光を裂くように抜刀し、左腕を切り落とした。
 シュカブラの呪髪が胸に裂傷を刻んだなら、ソーマが真紅の刃で十字の軌跡を残していく。武史の影の剣が老爺を二歩下がらせた隙を突き、一度気を失いかけたため再び現出したエルヴィンの衝撃波と共に、陽人が鋭き刃を差し込んだ。
「後は……」
「紅蓮一閃、この一撃で断つ!」
 陽人は長槍を抜き、老爺の体を引き寄せる。倒れる勢いに逆らい、零夜が紅蓮の刀を振りぬいた。
 真っ二つに別たれた老爺は、炎を抱いたまま崩れ落ちていく。濡れた地面を乾かしながら、その身を業火で焼いていく。
 杖が塵へと消えた。体も、足元から虚空へと消え去った。
 ――天井から落ちた水滴が、水溜りを跳ねて小さな音を響かせる。
「……はぁ、手強かったな……」
 炎が消えても続いていた静寂を破るように、陽人が深い息を吐いていた。戦いの終わりを、未だ姿勢を崩せぬ者たちに伝えるために――。

 意識を取り戻したルリナは悔しそうに唇を噛んでいた。それでも数日休めば癒える傷だから、仲間たちからは安堵の息が漏れている。
 休むには向かない、湿った土に包まれている廃鉱。誰が導くでもなく一人、また一人と出入り口目指して去っていく。外で、優しい陽射しの降り注ぐ場所で休みを取ろう……と。
 ――後には、ソーマが一人残された。
(「……これで、ここも静かになるのかしらね。近づく人はいなそうだけど」)
 瞳を伏せ、静かな祈りを捧げていく。もう誰も訪れる事の無さそうな場所だからこそ、今、最後になるかもしれない黙祷を捧げるのだと……。
「おやすみなさい」
 ……言葉は木霊し、坑道内を駆け巡る。外へと届けと、想いを導けと出入り口に向かい行く。
 光溢れる蒼い空。ここに積み上げられてきた無念を、天へと昇華するために――。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/09/14
得票数:カッコいい9  知的1  えっち2 
冒険結果:成功!
重傷者:ルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678) 
死亡者:なし
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