演じられたお姫様


<オープニング>


「ふふふふっ、よく来たな勇者よ。褒めてやろう。だが、おぬしの活躍もここまでだ」
「いいや、魔王。お前には、僕は止められない。必ずお前を倒して見せる。――とらわれの姫のためにもっ!」
 夜。二人の分の声が建物内に響いた。声の主である二人は、互いに木製の剣を構える。
 彼らは、姫をさらった魔王と世界を救う勇者、ではない。高校の男子生徒。
 ここは高校の体育館、演劇部でもある二人の生徒が、劇の練習をしていたのだ。
 薄暗い中、魔王役の生徒は不敵な笑みを浮かべる。そんな魔王に、勇者役の生徒が突進した。二人ともすっかり役になりきっていた。だが、
「ああーーっん! 勇者様――来てくださったのですねっ!」
 突然、声がした。二人は芝居を止める。
 声の主は女。体育館の隅に立っていた。女は細身の体を緑のドレスで包んでいる。頭には、金色のティアラ。
「勇者さまぁん、お待ち申しあげておりましたわーーっ」
 女は二人に駆け足で迫る。細身に似合わぬ豊満な胸が揺れた。
 男子生徒はあっけに取られている。自分たちがまもなく殺されてしまうとも知らずに。

 雀籠・ミラ(小学生運命予報士・bn0250)は能力者たちに頭を下げると、説明を開始した。
「地縛霊の存在を確認しました」
 場所はある学校の体育館。近い未来、男子生徒がそこで地縛霊に遭遇し、殺されてしまう。
「でもっ、今から現場に行けば、事件が起こる前日の夜にたどり着けますっ! だから、今回の事件は皆さん次第で回避できるんです。
 皆さんの手でゴーストを倒してくださいっ!」
 ミラは人数分の制服を取り出し、能力者たちに渡す。
「その高校の制服です。潜入の際に使って下さいね。夜は人気が少なく、体育館の裏口の鍵も開いているようなので、潜入は容易です。
 さて、地縛霊は、夜に『魔王と勇者が戦う』といった内容のお芝居を、しばらく行っていると、出現します。
 ですので、皆さんで『勇者』と『魔王』を演じてくださいっ!」
 台詞や演じ方はどんなものでもかまわない。勇者らしさ、魔王らしさがあれば、シリアスでもコメディでも自由。勇者役と魔王役は必須だが、他にも、勇者のお供や魔王の手下などを演じてもよい。
 衣装は、制服でも普段着でも大丈夫だ。
 地縛霊は、ドレスを着けて姫に扮した女性の姿。外見年齢は、18歳。
 攻撃手段は、体当たり。単純だが、気魄に満ちていて油断できない。
 両手を広げて体を回転させることにより、近接する全員を攻撃できる。また、近くの相手を抱きしめ麻痺させてしまう力もある。
 援護ゴーストとして、地縛霊三体が現れる。
 うち二体がメイド服を着た少女、一体が執事服を着た少年。三体ともモップや箒などを投げてくる。メイド二体には特殊能力はない。が、執事は、回復効果のあるお茶を生み出し20メートル以内の仲間を癒す力がある。
 三体とも、姫の地縛霊よりも弱い。が、注意は必要だろう。
 なお、時間的に一般人がやってくることはない。

「襲われる予定の二人が練習していた劇ですが、何年か前の演劇部OBが台本を書いた、オリジナルものらしいです。毎年演劇部で上演しているだとか。
 演劇部では昔練習中になくなった方がいるとも聞きましたが……地縛霊は、演劇部と関わりがあるのでしょうか?
 でも、関わりがあってもなくても、地縛霊は退治するより他にありません」
 そこまで云うと、ミラは皆に向かって頭を下げた。
「翌日居残りして練習する、熱心な演劇部の方のためにも、地縛霊を退治して下さい。よろしくお願いしますっ!」

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参加者
緋月・終(インフィニティブレード・b00061)
河村・業(眠る月・b28422)
葛城・月乃(天叢蜘蛛・b32787)
サラ・モラトリアス(は今日も龍の夢を見る・b36309)
玖珂守・いつき(闇櫃のダークロード・b50763)
鷹宮・優都(恋に恋する貴種ヴァンパイア・b55073)
雪吹・玲螺(暴走犬橇雪娘・b61805)
亜麻月・聖(食卓の守護者・b67588)



<リプレイ>

●勇者たちと魔王たち
「ふふふっ、この村の牛はあたしたち魔王が頂いていくわ! 何? 貴方、邪魔をするの? なら――っ」
 体育館の舞台にはまだ、誰も立っていない。ただ、葛城・月乃(天叢蜘蛛・b32787)の不敵な声がどこからか響く。
 ついで、何かを蹴り飛ばす音。そして舞台の袖から出てくる丸っこい何か。――雪吹・玲螺(暴走犬橇雪娘・b61805)が使役するモーラットピュアのしらたま。
 しらたまは舞台中央までやってくる。先ほどの声の主に蹴り飛ばされたかのように、ふらふらとした歩みで。そして、おもむろに倒れた。
「……この村で大事に育てた、最後の乳牛まで奪うなんて……魔王の奴らめ……」
 しらたまの動作に合わせ、彼の後ろに立つ黒子が声を出す。黒子の正体は、河村・業(眠る月・b28422)。
 しらたまの台詞を、黒子の業が話しているのだ。
 舞台の端に、玲螺が現れた。じゆうちょうを観客側に見えるように開く。
 彼女は世界を記録するシスター。彼女が開いたページにはこう書かれている。
『平和な世界に突如現れた魔王。彼らの目的は人類が育てた家畜だった。牛も豚も、鶏も、全て魔王たちが奪っていった。人々にはもはや野菜しか残されていない』
 ノートの文章は真実。このままだと、人は家畜を諦め、ベジタリアンになるしかない! だが――
「いいや、そんなことにはさせないっ! 僕が魔王を倒してみせる! 魔王を倒す勇者になって、家畜を取り戻すんだ!」
 業の声と共に、しらたまが立ち上がる。しらたまはマントをつけ、旅に備えるのだった
「話は聞かせてもらった。……俺も手助けしよう……俺は、世界を旅する食卓の騎士・ヒジリ」
 魔王討伐を志すしらたまに歩み寄るのは、戦士に扮する亜麻月・聖(食卓の守護者・b67588)。
 聖の手と、業に抱えられたしらたまの小さな手が互いにがっちりと握られる。
 さらにカエルのお面をつけた成瀬・シキもやってきて、僕もお供します、と勇者への協力を誓った。
 玲螺はじゆうちょうをめくり、新たな文章を示す。
『しらたまは勇者になった! ヒジリとシキが仲間にくわわった!
 こうして、勇者と仲間たちの旅は始まり、――そして、魔王の城にたどり着いた』
 まさかの急展開。

 魔王の城内と化した舞台の上で、周囲を見回す勇者一行。
 そんな彼らの前に五つの影が姿を見せる。
「世界の食材をカレーに変える金色の魔王!」
 金色のライダースーツで身を固めた玖珂守・いつき(闇櫃のダークロード・b50763)がポーズを決めた。カレー好きでも「きいろ」ではない。「きんいろ」だけど。
「お菓子大好き、紅魔王!」
 鷹宮・優都(恋に恋する貴種ヴァンパイア・b55073)が深紅のメイドドレス、そのスカートを持ち上げてお辞儀する。彼女の髪には純白のリボンがついていた。
「あのときの子がまさか勇者になるなんてね――あたしは五人の魔王の一人、ピンク!」
 劇の初めで声のみ登場していた月乃もまた、名乗る。ピンクだが、露出は少なめ。
「勇者よ、よくも経験値目当てで魔物たちを倒してくれたな? よくも勝手に人の箪笥を漁ってくれたな? 許せん! 我はブラック魔王!」
 怒りと使命感で声を震わせるは、黒い鎧と仮面を纏う、緋月・終(インフィニティブレード・b00061)。
 唐突に、すーすーと寝息が聞こえた。
 魔王の最後の一人、サラ・モラトリアス(は今日も龍の夢を見る・b36309)は、仲間たちが名乗っている間に、枕を抱きつつ眠りこけていたらしい。
「……おはようございます……私はお昼寝魔王ですよぅ」
 サラは仲間たちに袖を引かれ、目をこすりながら己の名を言う。
 とにもかくにも、名乗りをおえた五人は、それぞれポーズを決める。
「「五人そろって――魔王戦隊まおれんじゃー!」」
「おのれ、魔王たちめ……っていうか、そろってねーっ!
 金色に紅にピンクにブラックって、英語か日本語か統一してねーし。お昼寝魔王って、色ですらねーっ」
 黒子・業が思わずノリツッコミ。
 こほんと、咳払いをしたのは、聖。
「……世界の破滅を防ぐ為、世界と食卓の平穏を守る為、お前たちを倒してみせる!」
「うふふ。倒されてなんて、あーげない! だって倒されちゃったら、ケーキが食べれないじゃない」
 即答したのは、優都。口元を手の甲で隠し、無邪気に笑う。家畜を奪ったのは、お菓子に使う乳製品や卵を独り占めするためでもあったらしい。壮大だが、微妙にせこい。
「貴方たちにあたしたちは倒せない……それよりどう? あたしたちと手を組まない? 貴方たちになら、世界の半分あげたって構わないのよ?」
 月乃が勇者に片手を差し出す。
 勇者しらたまは、その手を受け取らない。首を――もとい、丸い体をもふもふ左右に振って、拒絶する。聖とシキもまた、彼女の誘いを断った。
 彼らが求めているのは、世界ではなく、美味しく楽しい食卓なのだから!
「くく……戦いを選択するか、勇者。ならば、我も最大の魔術を出そう。エタナールフォース・サンダーブリザードをなぁ!」
「せっかくのご飯までの眠りを邪魔した貴方たちは、もう許さないのですよぅ」
 終が身振りをまじえてノリノリで発言し、サラはぷんすか怒って枕を振りかぶった。
『勇者と魔王の戦いが今、始まる。はたして、勝者は? 世界と食卓の未来はどうなるのか?』
 決戦の雰囲気に、冒険のじゆうちょうをめくるシスター・玲螺も、緊迫した表情になっていた。
 しかし――、
「あああん! 勇者様、勇者様、勇者様ああんっ!」
 今までで一番大きな声が、体育館中に響いた。声の主は体育館の隅に立つ、白いドレスの女性。背中と床とをつなぐ鎖は、彼女が地縛霊である証。彼女の後ろに、メイド二体と執事が付き従っている。
 四体のゴーストが能力者たちに迫る。能力者たちは、臨戦態勢をとった。
「何奴と思えば――第三勢力の登場か! 勇者よ、しばし共闘だ! 姫どもに我が金色の……真の力を見せてやろう。ふははははははは……っ!」
 いつきは未だ役に入りきっている。高笑いの後イグニッションを行った。

●姫との戦い
「護りの障壁ですよぅ」
 サラはおっとりとした声を出すと、同時に幻夢のバリアで皆を包む。
「お待ちしておりましたわあーーっ」
「待とうが、何をしようが勝手だが――死者であるアンタが、生者を阻むのは見過ごせない」
 聖は舞台の上から、突進してくる姫へ無情な言葉を放つ。姫が十分な距離に来たのを見計らい、黒き腕を飛ばした。
 姫は己を引き裂かんとする腕を、足で蹴り飛ばして防いだ。
「こっ……怖い、姫さまね……でも、負けてられないわっ」
 優都は、こくりと喉を鳴らす。戦慄しているのだ。だが、それでも攻撃を止めない。優都は無数のコウモリを発生させ、ゴーストたちから血を吸い取る。
 傷をさらしつつ、それでも能力者たちに迫る姫。
「悪いけど、俺たちは誰も、お姫さまになんて興味はなくてね!」
 終が舞台の下に降り、姫の前に立ちはだかった。旋剣の構えを取る。
 玲螺も技を行使する。吹雪の竜巻が生じ、姫たちの体を傷つけ、魔の氷で覆った。
「ねえ、姫様たち。劇は楽しんでくれたかな? 劇の次も楽しんでくれたら嬉しいな。ってわけで……あたしの歌を聴けーっ!」
 月乃は姫たちに向かって語りかけ、銀の瞳で相手の目を見つめた。ブラストヴォイスを、熱く激しいリズムで発し、敵を傷つける。
「お嬢様、お茶の時間で…」
 執事は回復の力を使おうとした。だが、彼が力を使いおえるより早く、業が接近した。カップを取り出しかけていた執事を動きで翻弄し、高速の蹴りを頭部に叩き込んだ。
 執事はカップを取り落とし、膝をついた。いつきが畳み掛ける。
「金色の洗礼をうけよっ!」
 鋭い声と共に、光輝く槍が飛ぶ。いつきが飛ばした槍は執事の胸を貫通し、執事を消滅へと追いやった。

「あああんっ……姫は、姫はずっと、ずっと、待っていましたのよーっ」
 執事を失っても、姫の声に悲しみはない。一番近くにいた終を抱きしめ、彼の体に甘い痺れをもたらす。
 さらに、メイドたちが腕を動かす。二体が投げた箒とモップの柄が、玲螺の腹と、月乃の頭をしたたかに打つ。
「俺も仲間たちも、強引に触られるのは御免なんだ」
 終に抱きついたままの姫の背中を、聖の黒影剣が切り裂き、ダメージを与える。姫の体が終から離れた。
「今、治します!」
 シキの声と同時に、清らかな風が起きる。終から痺れを取り払った。
「なかなかやるね、姫さま! だけど、あたしたちはこれ位で、やられも、へこたれもしないんだからっ……皆、あたしの歌を聞いてーっ!」
 月乃の歌は先ほどにまして情熱的。歌の響きが自分や味方を回復させた。
 しらたまも、終の背後へと移動し、彼を舌で癒す。
 一方、メイドと姫はさらに攻撃をしようという気配を見せていた。
 させないのじゃ――とばかりに、玲螺が動く。彼女の起こした吹雪の竜巻が、敵を傷つけ牽制する。
 業もまた、戦場を駆け抜け、クレセントファングで姫を蹴りつけた。姫の強さを感じるが故に『彼女には早く退場してもらわねば』との想いを蹴りに込めて。
「フハハハハハ! 魔王に挑む愚かさを知ったか!」
 魔の氷と蹴りにひるむゴーストたちを見つつ、いつきは演技を続ける。光の槍を召還し、姫を撃った。

 その後も姫とメイドたちは、能力者たちに反撃し続けた。その威力は決して侮れるものではない。
 だが、能力者たちは、自分や他者を回復する技を十分に備えていた。
 最初に執事を倒した戦略も、功を奏した。戦況は徐々に、かつ確実に能力者たちへと傾いていく。

「ゆうしゃ、さま…ぁ…姫は、姫は」
 能力者たちの猛攻に、姫は全身に傷を負っている。震えた声を発しながら、それでもなお、足を動かす。
 そんな姫の側面に、終が立つ。死角から紅い刀身の切っ先で姫の胸を刺し貫いた。
 姫はふらつき、床に腰を落としてしまう。
「まだ戦おうとしてる……そんなに大きな未練があるの? ……でもっ!」
「そのまま、立ち上がらないで永眠してくださいませ」
 優都がバッドストームを、サラがナイトメアランページを放つ。
 発生したコウモリの群れと夢魔が消えたとき、姫は床に仰向けになっていた。
「……私は……姫なの……」
 その呟きを最後に、姫の地縛霊は消えた。

●熱く演じたその後に
 残ったメイドの地縛霊も、能力者たちの力によって、あっけなく倒れた。
「姫よ、悲劇のヒロインで満足か? もし満足できず、金色の魔王に再びさらわれたいというのなら、いつでもさらってやろう。だから今は、しばし休むがいい」
 いつきは芝居がかった、それでいて厳かな声で告げた。
「でも、彼女、よっぽど演劇が好きだったんですね」
「ああ……せめて、思い残すことなく成仏させてやれたなら、よいのだが」
 優都が普段の口調に戻って言う。彼の言葉に、業が自分の想いを口にした。
 聖は姫が消えた方向に眼を向けていた。
「アンタの舞台は此処じゃない」
 呟くと、そこから視線を逸らす。
「ともあれ、皆の勝利なのじゃー♪ 皆お疲れ様じゃ♪ しらたま、これでおぬしも念願の勇者なのじゃよーっ! 今宵は練乳で乾杯なのじゃ」
 なんとなく流れた寂しげな空気、それを打ち消すように玲螺が、明るい声で皆をねぎらう。そして、しらたまの頭を撫でた。
「玲螺の言うとおり、皆お疲れ様。ゴースト退治も演劇もうまくいって何よりだね。演劇はカオスだったけど。カオスなのも演劇の楽しみだし」
 終は皆の熱演と熱闘を思い出し、笑みを浮かべる
「そうだね。演劇は初めてやるから少し緊張したんだけど、うまくいってよかったね! でも、観客がいないのが残念だったかな……?」
「なら、来年の学園祭で本格的な演劇でやってみるのもいいかもですよぅ♪ 私は残念ながら、卒業しちゃってますけど、でも、後輩の皆さんに期待してますね♪」
 首をかしげながらの月乃の発言に、サラが笑いながら提案する。

 やがて、能力者たちは談笑しつつ、帰途につくため出口の扉を開けた。風が差し込んで、舞台の幕がパタパタと音を立てる。
 その音は拍手の音に、似ていたかもしれない。


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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/09/12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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