【白の追跡行】幕開けはアザレアの香りと共に

<オープニング>


「新学期早々、お集まりいただきありがとうございます、ご主人様方」
 始業式の生徒達が帰った後の教室。やって来た能力者達を、いつものようにメイド服を身に纏った紫崎・芽衣香(中学生運命予報士・bn0057)が一礼して出迎える。
「さて、今回の依頼なのですが……」
 普段ならばここで依頼の説明がある。だが、今日の彼女は言葉を切って後ろを振り向いた。
「はい、まずは私が説明しますね」
 その視線の先にいたのは、山神・伊織(龍虎双握・bn0002)。前に歩み出ると、やや緊張した面持ちで口を開いた。
「すでに、噂なんかを耳にしてる人もいるかもしれませんが……今朝、私は外国人の集団に襲われて、詠唱銀を奪われたんです」
 伊織の緊張が、教室内に伝播する。集団と言っても能力者である伊織を襲い、目的を成し遂げる集団が、ただの一般人である筈が無い。
「ええ、おそらく相手は能力者でした。それも、今まで見たことの無い……」
 新たな能力者との、敵対的な遭遇。それは、とても重い事件だ。
「そこでご主人様方への依頼なのですが……」
 伊織の言葉を引き継ぎ、再度芽衣香が口を開く。
「襲撃者の方々の正体や、目的については一切不明です。が、奪われた詠唱銀が悪しき意図に使われる可能性は否定できません。そうなる前に取り戻す、可能ならば理由も聞き出す……それが今回の依頼となります」
 襲撃から始まった一件である以上、平和的には済まないだろう。戦いによって力づくで奪い取るなり、捕虜にするなり……と言った事になる筈だ。
「でも……襲われておいてこんな事を言うのもおかしいかと思うんですけど。完全に悪い人たちじゃない、とも思うんですよね」
 思い返して口にする伊織。
「もし、ただの無法者なら、私は殺されているか、連れ去られているか……今頃ここにはいないと思いますし。だから、なるべくなら事を荒立てたくない、とも思うんです」
 槍に貫かれた部分は、治療を受け傷一つ残っていない。殺されるどころか、重傷にさえされなかった。
「そうですね、襲撃者の方々の背後関係も分かっていませんし、今後の交渉を視野に入れるとなるべく双方に死者が出ない事が望ましいでしょう。無論、仕掛けて来た以上は戦いを躊躇う事はありませんが」
 芽衣香もその意見に同調し、大きく頷く。
「しかし、殺さないとしても襲撃者と戦う事に変わりはありません。運命予報によれば、襲撃者はこの場所に現れます」
 地図を取り出し、芽衣香はその一点を指差す。
「神奈川県、三浦半島。ご主人様方には馴染みの深い土地でしょう」
「……アザレア国際交流センター、ですね」
 銀誓館学園が発見した最初のゴーストタウン。そこで襲撃者が何をするつもりなのかは分からない。
「ですが悪い目的の可能性がある以上、黙って見過ごす訳にもいきません。今から向かえば、アザレアに続く人気の無い一本道で彼らを待ち伏せる事が出来るでしょう」
 そこで戦闘を仕掛け、彼らを撃退する。それが今回の作戦の目的である。
「可能ならば、彼らの目的を聞き出せれば良いかとも思いますが……とにかく、ゴーストタウンへ向かう事を阻止する、それだけは必ず果たしてくださいませ」

 だが、敵は能力者。一筋縄ではいかないかもしれない。
「襲撃者の人たちは、20代から30代の男性が3人、女性が1人。それと、高校生ぐらいの男女が1人ずつで、6人。各々の実力差はそんなに無かったと思います」
 朝の事を思い出しながら、口を開く伊織。
「最初は武装していなかったんですけど。古びたメダリオンを掲げ、『リベレイション』と叫ぶと、一瞬で突撃槍と西洋甲冑、それに白いサーコートを装備してたんです」
 それはまるで、銀誓館の『イグニッション』のようだった、と告げる。
「その時使ったアビリティは……まず、味方全員に射程延長効果のある範囲回復アビリティです。それと、トドメに使われたのは近接の強い突きでしたね。残り1つもあるとは思いますが、使ってこなかったので分かりません」
 なるべく正確な情報を、と慎重に言葉を紡いでいく。
「本人と同じ動きをする幻影が襲ってくるようになって、前後衛から息の合った波状攻撃を受けて……体勢が崩れた所に突きを受けたら、命中と同時に槍の穂先が光って。気づいたら吹き飛ばされ、壁に叩き付けられていました」
 敗北を思い出して少し悔しげに表情を歪め、だが、その表情をすぐに引き締めた。
「相手が何者なのか、一体何が待っているのか、それは分かりません」
 他の能力者達を見回して、拳を握り締める。
「けど、おじいちゃんは言ってました。『目の前にどんな深い闇が広がっていても、前に進む為には一歩を踏み出すしかない。そして踏み出す勇気さえあれば、進めない道などそうはない』って」
 皆を見回し、自信の篭った笑みを浮かべて伊織は告げた。
「頑張りましょう、皆さん。きっと、私たちなら、どんな道でも歩んでいけますから!」

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参加者
鎖天・契(闇夜を纏う陽の刀・b00883)
氷室・雪那(雪花の歌姫・b01253)
八伏・弥琴(綴り路・b01665)
神崎・遥(紅月の魔女・b03039)
天代・美輝(言霊歌い・b11644)
水上・結奈(神代の雪巫女・b45505)
碓氷・宗一郎(光源氏計画蜘蛛童編・b47117)
三崎・優児(少年活劇ヒーロー・b48478)
NPC:山神・伊織(龍虎双握・bn0002)




<リプレイ>

●接触
 夕刻、アザレア国際交流センター前。
 待ち受ける銀誓館の能力者達の前に、彼らは現れた。
「その娘は……」
「待って下さい、話を聞いていただきたい」
 山神・伊織(龍虎双握・bn0002)の姿を見てメダリオンを取り出す襲撃者達。その前に、碓氷・宗一郎(光源氏計画蜘蛛童編・b47117)が歩み出る。
「先日は彼女がお世話になりました。ですが私達は報復に来たわけではありません」
 イグニッションを解除し、敵意無き事を示しながら交渉の意志を告げると、襲撃者達は互いに顔を見合わせた。
「話など、聞く必要があるとは思えないが……どうする?」
「ふむ……」
 最初に口を開いたのは銀髪の男で、問われたのはリーダー格と思しき男。しばし瞑目し、思案する。
(「完全に悪い人には思えないと言っても……」)
 張り詰めるような緊張の中、氷室・雪那(雪花の歌姫・b01253)は拳を握る。
(「詠唱銀を強奪されている以上は穏やかな話ではないわよね」)
(「何の目的か知らへんけど、強奪するやなんてな〜」)
 水上・結奈(神代の雪巫女・b45505)もまた、緊張に表情が硬い。
(「何でこないな事したか、釈明して貰わんとな〜?」)
 いつ交渉が途切れても良いよう相手を注意深く見つめる能力者達。その視線の先で、男は目を開き。
「……まずは、聞こう」
「ありがとうございます」
 その言葉に、ほんの僅かだが緊張が緩む。宗一郎は謝意を示し、言葉を紡ぎ始めた。
「私達は世界結界の守護等を目的とする巨大な能力者組織の者です」
「この先に何があるか知ってるんだろう? 俺達はお前らが奪った詠唱銀で何をするつもりか見極めに来た」
 言葉を継ぐは天代・美輝(言霊歌い・b11644)。口調はややぶっきらぼうだが、真摯に言葉を紡ぐ。
「戦いに来たんじゃない。ゴーストと戦うというのなら俺達は協力し合える筈だ」
「ふむ……」
 そんな会話を聞きながら、鎖天・契(闇夜を纏う陽の刀・b00883)はじっと相手を観察する。
(「統率は取れているな……他の面子ももう少し喋ってくれれば手がかりが増えるんだが」)
 他の五人は、リーダー格を完全に信頼し判断を委ねているようだ。こちらに警戒の視線をしっかりと向けている。
(「このまま、簡単に交渉に乗ってくれるとは思えないからな……手がかりは少しでも欲しい」)
 襲われた当事者である伊織も、必死に言葉を紡ぎ交渉に当たる。
「あなた達がただの悪人とは思えません。戦いは……衝突は避けたいんです」
「我々の偽らざる本音です……このまま平和的に終わることは出来ませんか?」
 問いかける宗一郎。男は再度短い思案を経て、口を開く。
「一つ、条件がある」
「条件?」
 頷き、男はメダリオンを掲げ。
「リベレイション!」
「っ……!!」
 高らかな宣言、そして巻き起こる一陣の旋風。次の瞬間、襲撃者達は甲冑に身を包んでいた。
「大人しく、お前達の詠唱銀を全て渡してもらおう……そうすれば戦う必要はない!」
 それは交渉決裂の言葉。その声からは話が通じないというよりは、信用していないと言う意志が伝わってくる。
「まあ、見ず知らずの人の言うことを鵜呑みには出来ないわよねぇ……」
 対抗するように、能力者達もカードから己が武器を解放していく。装甲を仕込んだメイド服を身に纏い、神崎・遥(紅月の魔女・b03039)は襲撃者へと槍の穂先を向けた。
「もっとも、最初に仲間を闇討ちしてケンカを売ってきたのはそっちの方だけど……!」
「待て! そこのニセ騎士ども! まずは事情を説明しやがれッ!」
 三崎・優児(少年活劇ヒーロー・b48478)も、挑発の言葉と共に逆鱗を構える。
「挑発のつもりか。だが生憎と我らは子供の喧嘩をしている訳ではないのでな」
「仲間を闇討ちしといて何を……!」
 嘲笑うように言う赤髪の男に、怒りを露にする優児。
「この先じゃないとダメなの?」
「さて、な。応える義務はない」
 八伏・弥琴(綴り路・b01665)の問いかけに、そう応じる襲撃者のリーダー。頷き、彼らは
「そう。なら、ここは通せないよ……それが僕達の役目だから!」
 かき鳴らされるその音が、戦端を開く合図となった。

●激突
 各々が駆け寄り、間合いを詰める中、一番最初に敵と接触したのは優児。襲撃者のうち少年に近づき、その目を真っ直ぐに見据える。
「友を裏切りしは誰ぞ?」
「……何だそりゃ?」
 銀誓館の一般生徒ではないか、と言う推測からの問いかけだったが、帰ってきたのは戸惑いの表情。
「俺の知ってる日本語が間違ってる……って訳じゃねぇよな?」
「エドガー、あまり相手の言動に付き合うな!」
 赤髪の男が、少年……エドガーを叱咤しながら槍を構え駆ける。その前に立ちふさがるは契。
「おっと、行かせねぇぜ」
 蒼の鉄球を投げつけ、それを囮に懐に潜りこんでの拳。龍の顎を思わせる一撃が、甲冑を貫き相手の身体に衝撃を伝える。
「ようは、後輩がカツアゲされたから落とし前つけて来いって事だよな……!」
「……そういう言い方はどうかと思いますがっ」
 虎紋を纏いながら、伊織は微妙に目を反らす。
「胡蝶、行ってください!」
 宗一郎はその指に嵌められた絆の証から力を迸らせ、頑強なる霊手を己が蜘蛛童・爆の胡蝶に纏わせた。
「使役ゴーストか、小賢しいっ!」
 胡蝶の力強い噛み付きはその突撃槍で受け止められた。が、それを引き戻す前に、弥琴の真スカルロードが大鎌を振るう。
「くっ……厄介だな」
 素早い攻撃に対する反応は鈍いようで、ザックリとその身を裂かれる赤髪の男。
「ミリセント、頼みますよ!」
「はい、メルヴィナお姉さま!」
 眼鏡をかけた女性……メルヴィナの言葉に応じ、ミリセントと呼ばれた後衛の少女が槍を高々と掲げる。戦場を力が包み込み、襲撃者達の身体から靄のような幻影が立ち昇った。
「さて、やるか」
 突撃槍を構える銀髪の男。しかしその狙いは目の前の相手ではない。
「くそっ、させるか……」
「行かせんよ」
 咄嗟に斜線を遮ろうとする契へと襲い掛かる分身。リーダーが後衛で槍を突き出す動きに合わせ、幻影が契を貫こうとする。
「くっ……」
 咄嗟に赤いジャマダハルで受け流しつつ、攻撃を回避する契。危惧していた回避困難の効果は無いが、風を切る音がその攻撃の重みを伝える。
「小娘一人を、と言うのも気乗りしなかった所だ……こちらの方が気楽で良いっ!」
 銀髪の男が叫び、同時に槍衾となって襲い掛かる分身。それは前衛をすり抜け、後衛へと降り注いだ。
「やるじゃねぇか……っ!」
 防具の力も借りて、手にしたギターでなんとかその一撃を受け止める美輝。命中した瞬間光が走り、受け止めきれぬ衝撃に腕が軋むのを感じる。
「碓氷先輩!!」
 琵琶で受け止めながら叫ぶ弥琴。その視線の先、一撃をまともに受けた宗一郎が後方へと吹き飛ばされる。
「……平気、です」
 同じように一発目を受けたところに、続く二発目。オオクワガタを模した赤褐色の大鎧でも到底防ぎきれず、肉体を魂で支えて身を起こす。
「後衛を狙い、使役使いから落とすのは定石ですから。悪く思わないで下さいね」
 冷静に、メルヴィナが口にした。脆い後衛は狙われれば危険で、仮に戦闘不能を免れても飛ばされれば戦場に戻るまで一手消費する事になる。
 わざわざ、敵が前衛から狙ってくれる理由はどこにもない。
「そう、ならこれ以上やらせる訳にはいかないわね!」
「っ……!?」
 ならば先に倒すしかないと、展開した魔法陣へと、槍を突き入れる遥。そこから生み出される魔弾の炎が、メルヴィナの身体を包み込んだ。
「こっちも、喰らえっ!」
「そう何度も喰らえるかっ!」
 赤髪の男が、契の拳を甲冑に滑らせて回避する。続く伊織の拳も槍で受け止め、跳ね除ける。
「まだ、これからです……おおおおおおっ──!!」
「っ……範囲攻撃か!」
 だがそこに、弥琴の口から迸るは、地獄の呪声。分身の力を得ている襲撃者達は、その力を呪われ、猛毒をその身に浴びる。
「まだっ! デュエット、どうぞ……っ!」
 合図と共に、暮れ行く空を描いたギターを爪弾くは美輝。彼の低音と、雪那の高音が重なり合う。
「「一緒に描く未来があれば怖くないさ、夢を分け合えるなら」」
 広がる歌声は夢への誘い。銀髪の男とエドガーが眠気によろめき、彼らの操る幻影が消える。
「サイラス様、しっかりしてくださいっ!」
「……俺はいいのかよ、おい」
 だが、即座にミリセントが力を振るい、再度2人の身体から幻影を立ち昇らせた。
「かけ直されちゃうか……面倒ね」
「こちらにとっても面倒ではあるがな。だが、面倒以上には届かなかったらしい」
 それを見ながら呟く雪那に、銀髪の男、サイラスが返す。
「……マイルズ、やれるか?」
 やや傷を蓄積させている赤髪の男……マイルズに、そう声をかけるリーダー。
「当然だ。あの攻撃は止める必要があるからな!」
 応じて彼は突撃槍を構え直し、それに合わせてメルヴィナとエドガーもその穂先を再び後衛に向けた。
「っ……水上さん、離れてっ!」
「はわっ!?」
 その瞬間、背筋に走る寒気に叫ぶ弥琴。彼の傷を癒していた結奈が、その言葉に目を見開き。
「かはっ……!」
「弥ぃやんっ!?」
 直後、閃光と共に弥琴の武装ジャケットに四つの穴が開く。分身の連撃は回復した体力を奪い去り、彼をその場に打ち倒した。
「技量に比さぬその脆さ……なるほど、その骸の主はお前だったが」
 槍を振り切ったまま、ちらとロードに目を向けてサイラスが呟く。
「ならば、四発は要らなかったか。まあ確実に止める必要はあったからな」
「なあ、何でこないな事をするんや?」
 目の前で弥琴を打ち倒され、襲撃者を睨みつけながら問いかける結奈。
「人様の物に手ぇつけたらアカンって親から言われへんだんか〜?」
「挑発か本心か、どちらにせよ考え方が子供ですね。いえ、考え方だけではないようですが」
 あくまで冷静に応対するメルヴィナ。美輝はそんな敵に対する怒りを抑え、少しでも情報を得ようと観察する。
(「あの装備。サイズ以外は形も意匠もほとんど同じだな。それに言葉のイントネーションも……そういう奴らが、タイミングを合わせての同時攻撃や時間差攻撃か」)
 統一された装備、統制の取れた動き。それが襲撃者達の強さをその技量以上に引き上げている。多彩さを武器とする銀誓館とは対照的だ。
「さて、一人倒れましたが……続けますか?」
「当たり前でしょう、人様のお膝元で詠唱銀のカツアゲとはいい度胸よね!」
 メルヴィナの問いに、燃え盛る炎で応える遥。それは、再度メルヴィナの身体を焼く。
(「どうやら、眠りの歌や呪言より、魔弾やスカルロードの方が苦手みたいね……」)
 敵の動きを観察し、遥はそう結論付ける。
「「お前が前を行くなら、俺はその後ろを護ろう」」
 そして戦場に響く歌声は、癒しの二重奏。
「「ひとりじゃ出来ないことも 仲間と共に成し遂げる」」
 神々しき刺突剣を握り締め、雪那は美輝のギターに合わせて美しき歌声を紡ぐ。
「宗やん、だいじょぶか?」
「ええ、私はなんとか……」
 それでも治りきらぬ傷を負った宗一郎には、駆け寄った結奈が傷に結晶輪を近づける。
 祓戸四神が一柱をその名に冠し、禍事を祓う氷輪。そこから生み出された白き燐光が、彼の傷を癒していく。
「無理せんといてな、うちも精一杯回復するから」
「ありがとうございます……胡蝶!」
 礼を言うと、蜘蛛童に指令を飛ばす宗一郎。
「頼む……!」
 己が動けぬ事、名を呼べぬ事をもどかしく思いながら、スカルロードの背を見つめる弥琴。
 主達の思いに応えるように、胡蝶が白糸を飛ばし、ロードが鎌を振るう。
「くっ……!」
 白糸で動きを奪われた所に、振り下ろされる大鎌。身を捩るもかわしきれず、マイルズは大きく顔を歪める。
「いい加減に……」
 そこへ一気に駆け寄り、月の如き蹴りを叩き付ける優児。それはかろうじて受け止められたが、体勢を崩し。
「倒れろっ!」
「ぐっ……倒れる、かっ……!」
 そこに、叩き込まれるは、契の拳。その体力を奪い取るも、マイルズは魂を身体で支えて能力者達を睨みつける。
「しぶとい奴だぜ、ならもう1発……!?」
 続けての一撃を叩き込もうと振りかぶる契。そのゴーグル越しに、振り上げられた分身の突撃槍が視界に入る。
 咄嗟に腕を上げ、それを受け止めようとして。

●終幕、あるいは始まり
「……ここまでだな」
 だが、その突撃槍は振り下ろされる事は無かった。
「何?」
 構えを解き、口にするリーダー。それに合わせ、他の襲撃者達も武器を引き、後ろに下がる。
「ここはお前たちの勝ちだ。我々は大人しく引こう」
「不利になったから、逃げるんか〜? そっちの赤髪の人も、もうすぐ倒れそうやしな〜」
 軽くそう口にする結奈だが、リーダーは意外なほど素直に頷く。
「否定はしない。だがマイルズが倒れようと、このまま続けて負ける気は無いがな」
 確かに、こちらも弥琴が倒れている。今のままでは、まだどちらが勝利するかは分からない。
「それでも続けると言うのなら、命賭けで相手をさせてもらう」
 確かな覚悟と共に、彼はそれを口にする。他の者達も、それに異は差し挟まない。ここで戦いを続ける事を選べば、確かに総力戦になるだろう。
(「目に見えて狂っているところは、見当たらないわね……」)
 そんな彼を見ながら、遥は思案する。見えざる狂気は倫理観の崩壊に関しては判断はつきにくいが、少なくとも彼らの思考が狂っている様子はない。
「……いいわ。深追いするつもりは無い」
「賢明な判断に感謝しよう」
 敵の撤退について考えていた雪那がそう判断し、頷く。それに応じ、撤退していく襲撃者達。
「待て! 名乗れ、ニセ騎士!」
「子供に名乗る名は無い。が……そうだな。ここはお前達の力に免じよう」
 その背に声をかける優児の言葉にそう返し、しかしやや思案するような表情を浮かべるリーダー。そして彼は、一度こちらへと向き直った。
「我が名はランドルフ。お前達の事は覚えておこう、日本の能力者よ」
 再度背を向け、去っていく襲撃者達。
 かくて、最初の戦いはここに幕を閉じた。けれど。
「どうあれ。ただ事では終わりそうにないわね……」
 雪那が呟いた通り。これはまだ、物語の始まりに過ぎない……。


マスター:一二三四五六 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2009/09/15
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