<リプレイ>
● 「リンカさん、番組の審査員を誘惑して有利な判定をさせたって噂があるんですが、これは本当ですか!?」 「月9主演大抜擢の裏には枕営業があったって言う話があるんですが、これはどうなんですか」 「リンカさん答えて下さいよー」 「な、何を……そんなの嘘です!」 アイドル志望の少女は、これでもかと言う程の悪夢に囚われていた。 「おいおいリンカ、まさか実力でやってきたと思ってんのか? 俺の力に決まってるだろ、この業界で俺に睨まれたらアイドルとしてはおしまいだぞ? あぁん?」 「プ、プロデューサー……」 報道陣の容赦ない取材攻勢に加え、セクハラプロデューサーによる脅し。純真なリンカは信じられない、信じたくないと言った表情で、ただ立ち尽くすばかり。 この様子ではさほど時間を要さず、彼女の心は参ってしまうだろう。 「どうやら修羅場に行き遭ってしまったようだな。出直すとしよう……それは冗談として、さっさと助け出した方が良さそうだな」 ツッコミを待たずに、早速報道陣たちの中へと紛れ込んでゆく興那城・ミキノ(ミゼルコルディア・b66476)。 黒スーツを纏い、マイク片手のリポーター姿だ。普段よりかなり長身に見えるのは、夢の中で彼女の望む外見に近づいているからだろう。 「頑張れ、めぐる。その間にリンカは私が保護するから!」 ケルベロスベビーを頭に乗せた朝宮・りんね(狂気に染まりし復讐者・b57732)も、ミキノに続いて人だかりの中へ。 「りんねもしっかりね。それじゃ、私達も行きましょ」 リンカ保護担当の2人を送り出すと、速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)は隣の少女を見上げて促す。 「ええ。人の夢をあざ笑うような真似してくれちゃって……!」 ナイトメアの作り出した悪夢を目にし、怒りを露わにする鷹野・綾香(如獅公聖・b39929)。 2人はプロデューサー担当という事で、人混みを迂回しながら接近してゆく。
● 「リンカさん!」「リンカさーん!」 取材攻勢は更に強まってゆく一方。 リンカとプロデューサーへ向かった4人も中々近づけないで居る、そんな時である。 ――ジャーン!! 突然周囲に鳴り響いたギターの咆吼。人々は一斉にそちらへ目を向ける。 「さあ、長い夜のはじまりだ……。よい子はねんねの時間だぜ!」 閑静な住宅地にも見えるその場所には、いささか不似合いなロックバンドの姿。流星を象ったギターをかき鳴らしているのは立花・是清(漢は拳と背中で語る・b16701)。 「みんな〜♪ 聞いてくれてありがと〜♪」 「みんなで一緒に弾けよー♪」 自分達の歌を聴いてと言う想いを籠め、キーボードを弾く野村・さやか(元気爆発フリッカースペード・b27031)と、サブボーカルでこちらもキーボードを弾く照山・もみじ(陽だまりの歌い手・b53306)。 目の合った報道陣をウィンクで魅了しつつ、ベースを鳴らすのが桜姫・杏(黙する巫の歌姫・b49197)。 「お、おい……一応こっちも撮っておけ」 「なんて言うバンドだ? 誰か知ってる奴居ないか!?」 見た目の華やかさに加え、魂に響くサウンドを聴かされては、報道陣達も注目せざるを得ないと言った様子。つかの間、リンカの事など忘れてさやか達に注意を向ける。 「おいおい、そんな事よりアイドルのスキャンダルだろ!」 「そうだそうだ、清純派アイドルの裏の顔だぞ!」 そうはさせまいと、報道陣の中で上がる声。再びリンカに話題を戻そうとする者が居る。 「私達のライブも聴かずにガタガタ言ってんじゃないわよ! 誘惑が何だって? んなもんは古今東西のってきた方が悪いわ!」 ギター片手に、そんな報道陣の中に突っ込んでいくのは草間・静音(ナイトダンサー・b02758)。 「それともうらやましいわけ? ほーれ」 「う、うわっ!?」 更には、近くにいた報道陣の首根っこを捕まえるなり、胸に抱え込む静音。暴れっぷりもかなりRockだ。 「さてリンカ、不粋なカメラも向こうをむいた事だし、スキンシップと行こうか」 「ひっ!?」 報道陣の注意は逸れたが、プロデューサーがこれ幸いとリンカに迫る。 「ねぇねぇ、プロデューサーさぁん♪」 「……あぁ? 何だ君は」 ようやく2人の元にたどり着いた綾香が、プロデューサーにしな垂れかかって艶っぽく言い寄る。 「そんな子より、私といいことしましょ?」 「い、いいこと? ……確かに君は胸も大きいし、可愛いが……俺の求めてる人材とは違うな。でもま、俺と良い事したいなら断る理由はないし、また今度相手してやるよ」 プロデューサーは名刺を取り出し、綾香に渡すが、すぐにリンカの方へ向き直ってしまう。 ぞんざいな扱いに、思わずムッとする綾香。 「あ、あの、おじさん……」 「あぁ? 今度はなん……だ……と……?」 次にプロデューサーの気を引きに掛かったのはめぐる。袖を掴んでくいくいと引っ張ると、プロデューサーはめんどくさそうにこちらを向く……が少し様子がおかしい。 「年の頃なら9〜11歳。純真で無垢、これからどんな色に染めていくのも俺の手腕次第、まさに原石中の原石! これだよ、これを求めていたんだ! 君、名前は?」 「えっ……あ、めぐるです」 「めぐる?! アイドルになるために付けられたような名前だな!」 プロデューサーの守備範囲が何歳までなのかは不明だが、とにかくアイドルの卵という意味ではめぐるを気に入った様で、あれこれ質問攻めにし始めた。 「……」 作戦は成功したワケだが、放置される綾香は心中穏やかではないらしく、やや引きつった笑み。 「リンカ」 「えっ?」 「安心して。私たちは少なくとも貴女の敵じゃない」 この隙に、回り込んだりんねがリンカへ声を掛ける。 「私も質問があるぞリンカ」 「……で、ですから皆さんが仰っている様な事はっ……」 「走るのは得意か?」 「え? は、はい……陸上部に居ましたから……でもそれが――あっ!?」 同じく声を掛けたミキノが、リンカの手を引きプロデューサーや報道陣達から引き離すべく走り出す。
● 「おい、お前ら! こんな無名のバンドの演奏なんか聴いてる場合か! リンカのスキャンダルを追え!」 「えっ……そ、そうだった! リンカはどこだ!?」 暫し、能力者達のゲリラライブに注意を引かれていた報道陣だったが、我に返ったようにリンカを探し始める。 「ふう、待たせたな。こっちは成功だ」 「リンカを保護したわ!」 が、時に既に遅く、ミキノとりんねの2人はリンカを保護しながらライブステージの袖へとたどり着く。 「お前ら、リンカを出せ!」「そうだそうだ!」 報道陣はすぐにそれを察して、バンドの前に殺到する。 「おう! 俺らの羅威舞(ライブ)を素通りしようってのかい?」 「有名じゃなかろうと、こっちは人生かけてんだかんな!」 是清、静音をはじめとして、バンドのメンバーはリンカを守る様に陣取り一歩も引かない。 「ええい、皆まとめてやっちまえ!」 ステージに殺到する報道陣。 「わ、いっぱい来ました」 「とびきりハードなビートを刻んでやるか」 バンドのメンバーは今まで以上に激しく楽器を鳴らし、情熱的なダンスパフォーマンスを繰り広げてゆく。 「いかん、リンカはどこだ!?」 羅威舞が更なる盛り上がりを見せ始めると、プロデューサーも我に返ってリンカの姿を探し始める。 ――トントン。 「あ? なんだ君か、しつこいな。今度、巨乳タレントとかグラビアアイドル向けの事務所を紹介してあげブハァッ!!」 ――ドゴォッ!! 肩を叩かれ振り向いたプロデューサーの顔面に、綾香の爆水掌がクリーンヒット。 遙か彼方まで吹き飛ばした。 「ちょっといやマジでイラっと来たから」 「え、ええ、解るわ。当然の報いよね」 満足げに微笑む綾香に、めぐるは相づちを打つのが精一杯。
「働きすぎが劣悪な報道の原因なのかしら? ゆっくり休んで下さいね♪」 激しいビートの中に、もみじの柔らかな歌声が響く。 「な、なんだか眠く……Zzz」 職業柄寝不足だからと言うワケでもないだろうが、バタバタと倒れてゆく報道陣。 「こういうのは性に合わないんだけど……」 りんねはケルベロスベビーに命じてリンカを守らせ、自らは仲間達の傷を癒すべく浄化の風を吹かせる。 「か、可愛い……この子、名前はなんて言うんですか?」 「名前はまだないけど、ケロちゃんて呼んでるわ」 リンカも、愛らしいケルベロスベビーの相手をして少し笑顔を取り戻したようだ。 「ええいどけっ! リンカを出せっ!」 ――パシャッ! パシャッ! しかし盛んにフラッシュを焚きながら、押し寄せる敵達。 まさに雲霞の如く沸いてくる。 「人のグラビア見て――を――してるだけの連中がナマいってんじゃねぇわよ!」 二振りの長剣、風神と雷神を振り回し、そんな敵を蹴散らしてゆく静音。悲鳴や怒号、演奏に掻き消されて何を言っているかまでは聞き取れない。 「ミキノさん、この写真はミキノさんですか? どうみても小学生にしか見えませんが、これはいつの写真なんですか?」 本来の小柄なミキノの姿が写された写真を手に、1人の記者が質問を投げかける。 「さっきからどうも頭にくるな……余程死にたいらしい」 ――ゴォッ!! 「ぎゃああーっ!」 強烈な上昇気流が、失礼な質問をした記者を吹き飛ばす。 「他にも質問があるか? 内容次第では、私が直々に蜂の巣にしてやる」 冷徹な微笑を浮かべつつ言うミキノに、報道陣も思わず気圧される。 「無名のバンド? 俺達を知らねえとは、あんたらモグリかい? へっ! そんなんじゃ、他社さん出し抜く記事は書けっこねえな!」 ――バッ! 是清の手から放たれた龍撃砲が、並み居る報道陣をなぎ払う。 「……き、君可愛いね……俺とスターダムにのし上がってみないかい?」 「ひっ……!」 さて、綾香に吹き飛ばされたプロデューサーだが、虫の息ながらまだ生きていた。吹き飛ばされた先で、偶然近くに居た杏ににじり寄る。 「なぁに、俺に任せておけば安心だよ……さぁ身も心も俺に委ねて……」 「いいかげんにしなさーーいっ!」 ――ガガガガガッ!! 「ぐはあっ!」 赤面しながらも、ベースマシンガンを乱射する杏。無数の弾丸を浴びせられ、セクハラプロデューサーは完全に引導を渡される。 「これでフィニッシュ! ファンガスのつぶて、いっちゃえ〜♪」 ――バシュッ! 「ぐっ……ぐふっ……」 戦闘中だろうとステージ上で笑顔を絶やさないさやかが、キノコ型の弾丸を放つ。 最後の衛兵が地面に伏すと同時に、能力者達の演奏もフィナーレを迎える。
● 「こんなバカなことしてくる奴なんて一部よ、一部。もし遭ったら、事務所の人とかに相談しなさい。きっと助けてくれる筈よ」 「は、はい……」 先ほどまでの喧噪が嘘のように静まりかえった夢の中、綾香はリンカの肩をぽんと叩きながら慰めの言葉をかける。 ここからは、彼女を励まし勇気づける作業だ。 「自分をしっかり持つことも大切なことだし、ファンやスタッフの皆さんと手を携えることもとても大切。芸能界で夢を与え続ける決意に変わりが無いなら、まずは私とお友達になりましょ♪」 「……有り難うございます。みんなが助けてくれなかったら、私はきっとあのまま……」 業界では先輩にあたるもみじと握手しながら、皆へ礼を述べるリンカ。 「でも、実際有るからねああ言う事。身体と心が惜しかったらやめとけ。憧れ持ちながら普通に暮らしてた方が絶対ラク」 「っ……!」 しかし、厳しい調子で言い放つのは静音。厳しいが現実的な意見に息を飲むリンカ。 「けど、リンカにもあるんじゃないの? アイドルになりたい! って思った理由が。それが本当に自分のしたいことなら、どんな現実とも戦えるはずよ」 「……」 しかし続く言葉は、静音なりの強力なエール。俯き気味だったリンカも顔を上げる。 「貴女が自分で選んだ道なら、もっと自信を持ったら?」 ケロちゃんを頭に乗せながら、言葉を引き継ぐりんね。 「うん、泣きたくなると思うし、辛いこともあると思うんです。でも、アイドルって、ファンのみんなに幸せと笑顔を与える、天使のようなお仕事だと思うんですよ♪」 更にはさやかが、彼女自身零れるような笑顔を湛えながら、そう告げる。 「だから、夢をあきらめないでください」 「……はい、私が馬鹿でした。これくらいでへこたれるなんて……でも、みんなのお陰で目が醒めました! どんな事があっても絶対、アイドルになってみせます!」 固い決意を宿し、言い切るリンカ。これまでの、どこかおどおどしていた様な面影はもう見えない。 「うん、神は常に乗り越えられる者にしか試練を与えない。常に前を向いて生きればいいさ」 そんなリンカの様子を見て、深く頷くミキノ。 「でもスキャンダルには注意が必要かもね。業界には口の上手い男の人がいっぱい居るから」 年に似合わず枯れた忠言をするめぐる。 「ま、清く正しく美しく……つったって、青春まっただ中だしな。それに、昔の人は『恋は芸の肥やし』って言ってたそうだ。……でも、火遊びしない程度にな」 「い、いえそんな……恋なんて私にはまだ……」 是清の言葉に顔を赤らめるリンカ。 「わたしは歌が好き。リンカさんは?」 「もちろん、大好きです!」 「じゃあさっきのライブの続き、一緒にやりましょう」 「はい!」 言葉での説得はこれまで、ここからは歌で語り合おう。差し伸べられた杏の手を、力強く握り返すリンカ。 これから彼女がアイドルを目指す過程で、様々な苦難に出会うことも有るはずだが、少なくとも簡単に夢破れてしまう事は無いだろう。 「あ、あの……もう一つお願いが」 「ん?」 と、ステージに上がったリンカが能力者達に切り出す。 「さっき皆さんのライブを見ていたら、胸が熱くなって……私も何だかロックをやってみたくなりました!」 「清純派アイドルにロック……」 「よし、だったらもう一度俺たちのビートで夜の闇を切り裂くとしようか」 つかの間の静寂は打ち破られ、再び激しい旋律が空気を震わせる。
再び夢を取り戻したアイドルの卵を交え、彼らの熱いセッションは、まだまだ終わりそうにない。
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参加者:8人
作成日:2009/09/22
得票数:楽しい18
カッコいい12
ハートフル3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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