≪ミゼリコルディア≫運命崩落サンドリヨン


<オープニング>


 まるで幾多の童話に出てくるような――そんな場所だった。
 煌びやかで瀟洒な宮殿。そこが、朽ち果てて居なかったなら。
「運命の、糸は、繋がる……ですね」
『人気は』無い夜の宮殿に佇んで――。
 木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)は小さく呟いた。
 闇に溶け消えるその言葉に九重・美珠(土蜘蛛クノイチ・b23706)は苦笑い交じりに頷いた。
「皮肉……とも言えるのでしょうね」
 彼女達の視線の先には朧な『何か』が居た。
 三人の『義姉』を『継母』を供に何かが居た。
『宮殿』に似つかわしくないみすぼらしい風体。長い黒髪は碌な手入れもされていないのかばさばさで『元は美しかったであろう』その顔は痩せこけ妙に瞳ばかりがぎらついている。
 多くの少女の期待を背負った『灰被り』は灰を被ったまま朽ち、果てている。
 嗚呼、この世界。夢が無い程に余程有り触れた現実なのだろうけど。
「……ま、いいか」
 張り詰める緊張感と空気を切り裂いたのは六桐・匳(青藍荒天・b66454)。
 肌を突き刺し続ける濃密な殺気にも怯む事無く彼は静かに構えを取った。
「始末、付けるぞ」
 彼の言葉は短く、多くを語らなかったが真実にはそれで十分過ぎる。
『ミゼリコルディア』の面々が今日ここにやって来たのには意味は無い。
 何故こうなったかを考えるのにはその実大した価値は無い。
 全ては――出会ってしまった『これ』をこの後どうするか。
 全てはそう――。

 ケケ……ケタケタケタケタケタ……!

 運命を踏み外し、魔法使いに出会えなかった目前の怪異をどうするか。
 言葉を合図にステージが進む。引き返せない領域に高まった。

 ――暗黒舞踏、Shall we Dance?
 

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参加者
葉月・沙耶(蒼刃閃華・b00082)
神谷・響介(煉刃・b02415)
後月・悠歌(月響纏う紫苑の奏・b02867)
木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)
九重・美珠(土蜘蛛クノイチ・b23706)
細氷・六華(幻日に輝く欠けた虹色・b46165)
六桐・匳(青藍荒天・b66454)
キーラ・ケリー(お嬢様の忠実なるメイド・b69000)



<リプレイ>

●憐憫運命サンドリヨン
「さても……」
 唯広い夜のホール。
 ゆっくりと幻想と死を奏で始めたその場所で重く口を開いたのは葉月・沙耶(蒼刃閃華・b00082)だった。
 物事には常に表裏の二面が存在する。
 出会いと別れ、成功と失敗、幸福と不幸。
 その種別に関わらず選択するべき――或いはされるべき――未来(さき)は既に不定形で不安定である。
 なればこそ。
「踏み外した運命とは斯くも儚く崩れるものなのだな」
 言葉は僅かな憐憫を帯びていた。
「物語とは随分違いますね。……残酷な話だ、なんて説もありますけど」
 九重・美珠(土蜘蛛クノイチ・b23706)の視線の先には一人の少女が佇む。薄汚れた衣装はライトアップされた華美なる宮殿には不似合いで。美しい面立ちながら尋常ならざる彼女はこの真夜中の廃墟にこそ相応しい。
「皮肉だな」
 静かに傍らの神谷・響介(煉刃・b02415)が言った。
「まるで、夜会だ」
 訪れる客はたった四体のゴーストと彼女等を排するべき八人の能力者達だけだけど。
 深い未練があるのだろう。果てない憎悪があるのだろう。『舞踏会』に現れた能力者(まねかれざるきゃく)達を目の前にして。『彼女』の口元が凄絶に笑む。
「……このままで居てもあなたはお姫様にはなれないの」
 低いながらも良く通る声だった。
 後月・悠歌(月響纏う紫苑の奏・b02867)の言葉が張り詰めたピアノ線のような空気を切り裂いた。
 終わってしまった物語の形は、変わりはしない――何を間違えてもそれは決して変わるまい。
(「だから……でも。嗚呼、その糸を断ち切ってあげる──何て言うのは、奪う者の傲慢だけれど――」)
 シルバーレインに導かれ運命の糸は時に難解に絡み合う。
『ミゼリコルディア』の面々がここにこうして集まった事、哀れなサンドリヨンと出会った事は偶然だ。
 だが、この出会いにも。繋がった糸にも意味があると云うのならば。
「ハッピーエンドは、女の子の、希望だと、思います」
 せめても寝物語に聞いた『憧れ』を在るべき姿に鎮魂したい――多くを言わぬ木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)の声には静謐と強い決意が篭っていた。

 おおおおおおお……!

 低い怨嗟と風が鳴る。
 天窓から降り注ぐ月光に照らされて美しくもおぞましきサンドリヨンは慟哭する。
 夢に見た――憧れた。煌びやかなダンス・ホールの成れの果てで。朽ちた彼女が踊り出す。
 応えるようにその義姉、継母が現れて……今、辺りを包む緊張感は解放の時を迎えようとしていた。
「皮肉です――」
 戦闘態勢を整え散る仲間達に倣いながら。
 誰にも聞こえない程度の小さな声でキーラ・ケリー(お嬢様の忠実なるメイド・b69000)は呟いた。
 灰に塗れ薄汚れ。幾多の悲哀と絶望をその身に刻み付けたかのような彼女に、キーラはある種の『想い』を禁じ得ない。
(「――サンドリヨンはお嬢様に逢えなかった、もう一人のキーラのような存在なのかもしれませんね……」)

●侮蔑運命サンドリヨン
「未練の大きさなんてわからない――」
 一早く動き出した六桐・匳(青藍荒天・b66454)に応え真夜中のダンスホールに複数の気配が踊り出す。
 素晴らしい速力で間合いを前に出た彼は連携の先頭に立ち、手近な義姉へと踏み込んだ。
「――だからここで終わらせてやるよ。全部、な」
 迷いの無い彼は言葉と共に文字通り一撃を一閃する。
 三日月を描く鋭利なナイフの軌道が闇と濁った空気を切り裂いた――同時に。
「さて、ダンスの相手をしてもらおうか?」
「行くぞ」
 口元に皮肉な笑みを浮かべ嘯いた響介、沙耶、更に後方に小さく跳んだ悠歌がこれに続く。
 旋剣の構えを取る彼は前後衛を分かつスクリーンに。光源を兼ねる彼女は十全な支援のその為に。
 そして連携は三人までには留まらない。
「明るい未来を授ける魔法使いは無理だけど――せめて解放を」
 静かに唇を開いたのは細氷・六華(幻日に輝く欠けた虹色・b46165)。
「例え貴女達から見た六華達が悪役であっても……」
 少女はゆらりと暗闇にその身体を預けて。
「悪役に――徹しましょう」
 動き始めた継母と義姉の二人を絡む茨で縛り上げる。
「……動いたら、ダメですよ?」
「まるで、別の物語、みたいです、ね」
 幼心に記憶に残るそれを思い出し小夜。
 味方が減る程にその苛烈さを増すサンドリヨンに対抗する為にパーティが立てた作戦は彼女の義姉と継母を完全には仕留めきらず二体を残した上で決戦に持ち込むというモノであった。
(「だから、これは――私の、勝負」)
 攻撃の手数を残したまま難敵に臨めば当然不測の事態の確率は大きくなる。
 多くの場合、雑魚から掃討する作戦を取る事が多いのは倒しやすさのみならず確率論の問題である。
 先の言葉こそ僅かに冗句めいてはいたが完全なる支援役を自認する彼女の表情は故に一層引き締まっていた。
「キーラはこの義姉を抑えます。響介さんはあちらの継母をお願いします」
 リフレクトコアを纏うキーラの傍らにはチームを組む響介。
 言われるまでも無く彼女の意図を察した彼は閃いた継母の赤い毒爪を退がっていなしている。
「任せろ」
「いつまでもここに縋りついてんなよ?」
 彼と彼女が『抑え』、この沙耶と匳が撃破する――迅速に敵を選び、多くを言うまでも無く。完璧な役割分担を済ませる。ここまでの動きは経験と集中力の齎した見事なる運びであった。
(「ですが……」)
 正面の義姉の視線を辛うじて受け流しながらキーラはちらりと奥に視線をやる。
 所詮、『運命崩落サンドリヨン』における彼女達は添え物だ。
 何が本題で何が一番危険なのかは――改めて説明するにも及ばない。
「ちっ……!」
「決して油断は出来ません。心してかからねばならないと――そういう事でしょうね」
 前衛で僅かに傷付いた沙耶を美珠の祖霊降臨がフォローする。
 そう、問題はあくまでサンドリヨン。
 暗闇の奥に佇む悲劇のヒロイン――彼女がゆらりと闇に溶ければ、夜はこれから。

●螺旋運命サンドリヨン
 ――見えぬ鐘の音が響く。
 運命を歪め、皮肉に終止符を打つ残酷な音色が響く。
「……魔法は解けた、という訳か」
 その苦痛と脱力は他四人の比較ではない。
 闇の手をもって敵を引き裂くも、小さくなった威力に沙耶は臍を噛む。
 幸先良く義姉の一人を仕留め、猛然と攻撃を加えたパーティではあったのだが……。
 やはりその勢いに水を差したのは今夜の『ヒロイン』だった。
「……何とか、堪えて……」
 必死に赦しを舞い、戦場を支える小夜の肩は激しく上下に揺れていた。
 サンドリヨンの振るう力の効果範囲は必ずしも前衛までには限らない。謂わば今の状態では『フリー』である彼女は存分にその魔性と力を発揮しパーティから余力を削り続けていた。
「ダンス中の余所見は上手くないな。お前の相手は、こっちだろ?」
 撃破するべきは沙耶と匳が相手にする二体。『倒してしまう訳にはいかない』義姉を響介の繰る鎖が縛り締め付ける。向けられた憎々しげな熱い視線に彼は小さく肩を竦め、
「そう。そうでなくちゃ嘘だろう?」
 戦いはいよいよ激しさを増していた。
 現状では積極的に前に出る程ではないサンドリヨンだがそれは最後までではない事は分かっていた。
 義姉が一人倒れるなり力を増した彼女はパーティにこの時点で小さくない脅威を与えているのだから。
「悪いけど、これ以上は」
 時間を掛ける訳にはいかないの。
 悠歌の言葉が力をもってよろめく義姉を貫いた。
 そこへすかさず匳が斬りかかる。
「お前らに構ってる暇ねーんだよ」
 言葉を繋いだ彼は斬り伏せた敵を一瞥もしない。
 それより何より問題は。赤く光ったサンドリヨンのその瞳。
「ダンスの相手が王子様じゃなくてごめんなさいね?」
 続く激戦。
 嘯いた悠歌の頬を、しかし冷たい汗が流れ落ちた。
「これからが本番ですよ」
 敢えて連携の外から回復のサポートと遊撃を同時にこなす美珠が言った。
 勝負はこれから。義姉と継母を抑える響介とキーラには然程余裕は無く。
 メインヒーラーとして戦線を支える小夜にも大きな余力は残っていまい。
「ん――来ますよ」
 未だその切り札には到らずとも。
 自身の不幸を周囲全てに押し付けるかのようなサンドリヨンの『恨み言』は場の空気を変えるには十分だった。
 攻撃は作戦通りに彼女に集まり始め、彼女も又威力を増した攻撃でパーティを追い詰めに掛かる。
 パーティとサンドリヨンその双方が激しく余力を削り合い、鍔迫り合っていた。
「言っただろ……始末つけるって」
 苦しい口調で匳。
「どうあれ――決着はつけさせていただきますから」
 正対する義姉の隙を縫ってキーラが光槍を撃ち出した。
「華々しい物語なのに。何かひとつ狂うだけで、こんなにも」
 白い肌はダメージにより蒼白に。それでも気丈に六華は耐える。目前の敵を縛る。
「……これで……!」
 美珠の水刃が閃くも。傷付きながらもサンドリヨンは止まらない。
 来なかった招待状が暗闇にパーティを虚しく踊らせ、悪趣味な冗談のような馬車が轢く。
 それでも。
「俺が先に倒れるわけにはいかないだろ。この物語は終わらせる……絶対にだ!」
 サンドリヨンに加え継母までもを相手にしながらも気を吐く響介は倒れない。
 片膝を突きながらも役割を失う事は無かった。

 おおおおおおお……!

 その光景にサンドリヨンが見たのは絶望か。それともそれ以外の何かだったのか。
「今宵――」
 姿勢を低く――獣じみた疾風の動きで沙耶が駆けた。
 この上時間を掛ける事は愚かしく、それは戦線の崩壊を呼びかねない。
 それを知るからこそ、彼女はここが勝負である事を解していた。
 そして、二人の少女は交錯――。
 サンドリヨンと共に翻るドレスは無く。光景を無慈悲に見下ろす月は皮肉に煌々と輝いていた。
「――この場で幕を下ろす」
 厳然とした言葉は宣誓。
 辺りを包む闇よりも真深い黒の剣、肉薄した運命は或いは救い。
 躊躇無く、鮮やかに。逃れ得ない彼女を切り裂いた。
 それはそう。
 無責任な魔法使いと残らなかった靴の代わりに。終わりを告げる鐘となる。

 ――運命崩落サンドリヨン。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/09/30
得票数:カッコいい22  せつない2  えっち2 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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